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31話

「ごめん、待たせた」


「いや、俺達も今ついたところだ」


 モールのフードコートで休憩をとろうとしていたところで、メルクーアから進展があったという連絡を受けたフィーザー達が聖パピリア教会へ向かうと、すでにディオスとメルルは到着していた。

 ディオスが振り向くのとほぼ同時にメルルも振り返り、頭を下げる。


「‥‥‥フローラさんはいらしてないんですね」


 今日はデートに2人で出かけていたからフローラは一緒じゃないんだ、と説明したところで、メルルはフィーナの方を見て意味深に微笑んだ。


「良かったですね」


 フィーナは照れたような表情で俯く。


「休日のこのような時間帯にお呼びだししてしまい申し訳ありません」


 迎えに出てきたエリスが深く頭を下げる。


「頼んでいたのはこちらですし、感謝こそすれ、謝られることはないですよ」


 フィーザーがそう答えたところで、急いで来たことが窺えるレドとセレスティア、それからフローラが同時に顔を見せた。フローラは息を切らして膝に手をついていたが、レドとセレスティアはそんなことはなかった。


「フローラ大丈夫?」


「大丈夫、セレスティアさんとレドさんが早すぎるだけだよ‥‥‥」


 フローラは大きく深呼吸をしながら、駆け寄ろうとしたフィーザーを手で静止すると、立ち止まっていたレドとセレスティアに並んでゆっくりと歩き始めた。


「それで話というのは?」


 代表してフィーザーが尋ねると、こちらです、とエリスに礼拝堂へと案内された。



 聖パピリア様の像の前ではシスター・メルクーアが祈りを捧げるように、手を組んで、静かに目を瞑ていた。どうやら人払いをしているようで、礼拝堂の中には他のシスターの姿は見受けられない。


「ようこそお越しくださいました」


 白と紺の修道服を乱さずに振り向いたメルクーアに促されるまま、フィーザー達は聖パピリア様に祈りを捧げてから、礼拝堂の席に腰を下ろした。

 

「こうして無事皆さんとお話しできる機会を得られたことを聖パピリア様に感謝いたします」


 エリスが礼拝堂の扉を閉めたのを確認すると、メルクーアは神妙な口調で話し始めた。


「本日、皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。先日、私共にお任せいただいた件に関してです」


 メルクーアの視線がフィーナを捉える。フィーナは身じろぎ一つせずに、真っ直ぐにメルクーアの視線を受け止めていた。


「すでに皆様も情報をお集めになられていることでしょうが、その子、フィーナさんに関するお話です」


 メルクーアの語る話のほとんどはすでにフィーザー達は追手から聞き出していた情報だった。しかし、この聖パピリア教会が襲撃されたというようなニュースは全く報じられておらず、つまりは彼らと接触せずに、あるいは彼らの手を潜り抜け、退けていたのかもしれないが、大事にせずに撃退していたということである。


「そして肝心の『鍵』に関する内容ですが、大陸の方には『ミルファディア』という地に関する、そう、伝説のようなものが語り継がれていました」


 メルクーアの語った内容は、まさにおとぎ話とでも言うべきものだった。

 曰く、その地に至ったものは神のごとき力を手に出来る。

 曰く、あらゆる英知が集結している。

 曰く、全て見通す力が備わる。

 眉唾物の伝説がこれでもかというほどに並べられる。


「それを本当に信じているのか‥‥‥」


 ディオスが辛うじて呟くことが出来る程度で、残りは言葉を失っていた。


「私たちが信じる神は聖パピリア様だけですから、彼らの、或いは誰かが目指すその紙の力とやらの存在を私たちこの教会に所属する者は信じておりません。しかし、彼らがそれを疑っていないということは事実なようです」


「私が‥‥‥人柱‥‥‥」


 呟くフィーナの硬く握り込まれた拳にフィーザーが手を重ねる。

 見上げるフィーナに、フィーザーは精一杯優しく微笑みかける。


「大丈夫。少なくとも、ここにいる皆はフィーナの味方だから」


 そう言って頷くのを見ても、フィーナの顔はそこまで晴れたわけではなかった。


「‥‥‥一つ、よろしいですか、シスター・メルクーア」


 顎に指をかけていたセレスティアの顔が上がる。


「何でしょうか?」


「鍵、というからには、仮に土地、場所だと仮定して、その『ミルファディア』と呼ばれる地に入るには、その『鍵』を開けなくては入れないんですよね?」


「確証はありませんが、おそらくそうでしょう」


 それが何か、と告げるメルクーアに、そしてこの場の全員に告げるようにセレスティアは話を続ける。


「あまりこういうことは言いたくないのですが‥‥‥」


 セレスティアはレドに一瞬だけ視線を移す。


「鍵を開ける方法は何も一つだけではないですよね? 彼らが無法者ならば、例えば、扉や鍵そのものを壊してしまって、強引にこじ開けるといった方法もとることが出来るのでは?」


 何で俺の方を見ながら話すんだよ、などという茶々は、レドからも入れられたりはしなかった。

 無法者と言ったセレスティアの言葉には怒りなどといった感情が込められていた。


「その可能性も、ないわけではないと思います。しかし、彼らがフィーナさんにこだわるのには、やはり、そこに意味があるからなのではないかと」


「それって‥‥‥」


 フィーザーが口を開きかけたところで、外からとても大きな音が聞こえてきた。

 礼拝堂は別に防音などの設備が整えられているわけではないが、少なくともフィーザー達は話を外に漏らさぬように、遮音フィールドを展開していた。それにも関わらず聞こえてきたということは、よほどの事なのだろう。


「何事です」


 メルクーアが礼拝堂の入口へと先陣を切る中、フィーザー達は顔を見合わせていた。


「フィーナとフローラ、それにメルルさんは後ろに下がっていて」


「セレスは3人の事を頼む」


 ディオスが先陣を切って駈け出していき、フィーザーとレドはその後を追いかける。

 セレスティアは3人を残していくわけにもいかず、また、メルルたちが出て行ってしまわないように残るしかなかった。


「大丈夫よ。教会の人たちを、それからレド達を信じて待ちましょう」


 前回の事があるとはいえ、今回いるのは兄だけではない。フローラはフィーナの手を離したりはしなかった。


「フィーナ。大丈夫。お兄ちゃんたちはフィーナを信じてないわけじゃないって知っているでしょう」


「はい‥‥‥。大丈夫です。フィーザーを、皆さんを信じています」


 フィーナは小さく微笑んだ。


 

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