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11話

 フィーザーたちにとっては、まったく意図してのものではなかったし、偶然が重なってしまった結果でもある。しかし、二人を巻き込んでしまったことは事実だったので、話さないわけにはいかなかった。

 翌日、午前の授業が終わると、弁当を取り出したフィーザーとフィーナのところへセレスティアがつかつかと弁当を手に歩み寄ってきた。


「ここだと良くないんでしょう? 食堂へ行きましょう」


 話の秘匿性を何となくかぎ取っていたセレスティアは、こうして狭い教室に集まるよりは、広い食堂に集まる方が良いだろうと考えていた。食堂の方がざわめきは大きいし、下手に遮音フィールドを張ろうものなら、生徒だけではなく、先生にも何かあるのかもしれないと探られてしまうかもしれない。本題を知られなければ問題ないともいえるが、少しでも後期の目を向けられることは避けたかった。

 もっとも、興味を惹かれない、というのは無理な話だったのだが。

 フィーザーとフィーナ、セレスティアの三人は連れ立って食堂へ向かう。

 顔立ちも、性格も、成績も良く、同級生以外からも人気の高いフィーザーと、幼馴染がいることで誰も声を掛けたりはしないが、間違いなく美少女に分類されるであろうセレスティア、そして、時季外れの美少女転入生として時の人であるフィーナが揃って行動していれば、人目を引くなという方が無理であった。

 声を掛けてくるような勇気のある輩はいなかったし、ぞろぞろと後ろについて来られることもなかった。皆、遠巻きに見ながらも、近づくことは躊躇われるのか、距離を置きつつ、食堂へ向かっていたりする。

 食堂へ着くと、セレスティアはさっと辺りを見回して、目的の人物を発見した。


「待った?」


「いや、俺も今来たところだから」


 セレスティアは先に来ていたレドの隣へと腰を下ろし、フィーザーとフィーナはその正面に座った。

 まさかフィーザーが説明を妹に丸投げするはずもなく、フローラの姿はここにはない。おそらく、教室かどこかでさっそくできた友人と語り合っている頃だろう。入学早々の大事な時期に上級生に囲まれてしまっていては友達もでき辛いだろうという配慮でもある。もっとも、フローラに限ってはそのような心配は無用だったのだろうが。


「ディオスは‥‥‥まだ来てないみたいだね」


 待っていてはいつになるか分からないし、休み時間も無限にあるわけではない。


「で、昨日の件の説明をしてもらいましょうか」


 弁当を開き、手を合わせるなり、セレスティアはさっそく本題を切り出した。そのために集まったのだし、フィーザーとしても回りくどいことをするつもりはなかった。

 フィーザーは昨日の、もっと言えばフィーナと出会った日のことまで遡って、知っていること、覚えていることは委細漏らさず話をした。

 出会った時の状況、そのときの会話、教会へ向かった時に遭遇した人物、一言一句まで漏れなく覚えているということは残念ながらなかったが―—ディオスならば可能だっただろう―—、それなりに覚えていることを話すには結構な時間を要した。


「にわかには信じられない話ね」


 セレスティアの意見は至極真っ当である。しかし、昨日の自身の体験を否定することは出来ない。フィーナを狙ったらしい輩と遭遇し、戦闘行為にまで発展したのは紛れもない事実であった。

 

「フィーナさんに聞きたいのだけれど、あなた自身には何か襲われる、狙われる心当たりはあるのかしら?」


 セレスティアの紫の瞳に正面から見つめられて、フィーナは、いいえ、と申し訳なさそうに首を横に振った。


「‥‥‥私が知っているのは、‥‥‥私は『鍵』なのだと、彼らは言っていました」


「『鍵』ねえ‥‥‥」


 普通に考えれば、人間が鍵というのは理解しがたい。もちろん、認証コードには生体識別も必要な場合があるが、おそらくこの場合は違うだろうと何となく理解していた。


「‥‥‥彼らが、何を持って私を『鍵』だと言っているのか、私には分かりません。私の事なのに何もわからず、フィーザーにも、皆さんにもご迷惑を‥‥‥」


 フィーナの目は伏せられ、声は今にも消え入ってしまいそうだった。

 

「警吏への連絡を断った理由は?」


 フィーナの様子を心配してか、追及しながらもセレスティアの声は幾分か和らいでいて優しそうな響をしていた。


「‥‥‥彼らの間者がどこにいるとも分かりませんでしたから。‥‥‥フィーザーに頼ってしまったことは本当に申し訳なく思っていますが、信頼出来るという色をしていましたから」


「色って?」


 フローラ達は首を傾げながら、フィーザーの事をじっと見つめる。


「いえ、外見の事ではなく、その、何と言えばいいのか‥‥‥。瞳を見ると、何となく分かるのです」


「じゃあ、私は?」


 フローラが、ずいと身を乗りだす。


「フローラは‥‥‥。今のあなたに初対面だったのならば信頼は出来なかったでしょう。欲望を感じます」


 はっきりと告げたフィーナは、ショックを受けてへこんでいるフローラをよそに、レドへ、そしてセレスティアと視線を交わす。


「えっと」


「セレスでいいわ。友達は皆そう呼ぶから」


「分かりました。そうですね、セレスからは‥‥‥フィーザーと似たような、おそらく心配しているようなものを感じています」

 

 フィーザーの瞳をちらりと覗いたフィーナは、なぜか少し目を見開き、ほんのりとわずかに頬を染めながら、すぐに顔を逸らした。その行動の真意が理解できなかったフィーザーとレドは首を傾げ、頭には疑問符が浮かんでいるようだった。


「今の、よくわからないんだけど、その感情? のようなものを読み取る力が、えっと、あなたを探している人たちが欲している力なの?」


 セレスティアの疑問に、フィーナは力なく首を振った。


「ごめんなさい。そうよね、分からないって言っていたものね‥‥‥。話は変わるけど、学院の授業の方はどうなの? 教育機関に通っていたこともないんでしょう?」


「今のところ特に問題は‥‥‥。あっ、えっと、あの端末? というものの使い方がよく分からなくて‥‥‥」


 教室のデスクには授業用の端末が設置されていて、教師が説明に使う教室前方の大型スクリーンの内容を手元で確認できるようになっている。

 ここのところはフィーザーが教えながら使用していたのだが、慣れるまでにはいくらか時間を要するだろう。

 フィーザーは別に教えることを苦にしてはいなかったのだが、フィーナはどこか恐縮している様子でもあった。

 もちろん規格が違うため練習になるのかどうかは分からないが、慣れることは可能だろう。

 フィーナとの連絡が取れるようになるのは便利だし、フィーザー個人としても嬉しいことでもあった。

 そういえば昨日はそれどころじゃなくて買い忘れていたなあ、とフィーザーは手を打った。


「それじゃあ、今日の放課後は一緒に通信端末を買いに行こうか。それほど時間はかからないだろうから、放課後でもきっと間に合うし」


 フィーナは口元を綻ばせると、嬉しそうに頷いた。さらっとデートに誘うね、お兄ちゃん、という言葉は努めて聞こえなかったことにした。


「それからね」


 フィーザーははっきりとフィーナを正面から見つめた。


「迷惑だなんて考えたり、思ったりする必要はないんだ。僕は好きで関わっているんだよ」


「お兄ちゃん、もう告白なんて早すぎるんじゃない?」


 フローラにじとっとした目を向けられて、自分の台詞を思い返したフィーザーは慌てて手を振った。


「告白とかそういう事じゃないよ。僕はただ―—」


 フィーナの事を思ってと言おうとしたのだが、フィーザーの声は予鈴によってかき消された。



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