序章
そこは、戦場だったとても暑い南国で、相手は白い肌に金髪の鬼畜米兵達であった。
米兵の火力は尋常ではなく、仲間は次々と死んでいった。
周りから聞こえる音は、戦車の発砲と着弾音・小銃の銃撃音・手りゅう弾や迫撃砲の着弾音・仲間たちの悲鳴と怒声あらゆる音がひしめき合っていた。
鬼畜米兵を駆逐すべしとはるばるやってきたが、彼は震えていた。
仲間たちで作り上げた土塁の後ろで小銃を抱え震えていた。汗や涙と鼻水や小便で濡らし惨めにガタガタと震えていた。
「貴様!それでも大日本帝国兵士か!御国のために戦わんか!この臆病者!・・・・・・・。」
彼を見つけ、怒声を放ち、叱咤し部隊の隊長を務めている男が、少年に近づいてこようとしていた。
しかし、突如轟音と爆発により、その声は途絶えることになった。
敵軍の迫撃砲による攻撃を受け、着弾地付近にいたため、隊長の男は無残にも足だけがその場に残っていた。
その姿を少年は見て、また震え上がった。
(誰か助けて)
何度も何度も、少年は何度も心の中で祈りました。
誰に願うわけでもなく、誰に助けを乞うたのかも分からず、小銃を抱えるようにしてうずくまり、必死に小さくなっていた。
どれくらい時間がたったであろう。少年は戦場の微妙な変化に気づきました。
不思議と周りの音が静かになってきている気がした。
ついに日本軍の兵士の数が尽きてきたかと思って小さく蹲りながらも、少しだけ顔をあげて、周りを確認した。
日本軍の作成した堀のが続いている中に、自分と同じぐらいの兵士や大人の兵士のもはや動かぬ死体が点在していた。
その中に同じように同年代であろう少年兵が蹲るようにしてじっと息をひそめていた。
だが、彼も変化に気づいたのか顔をあげ、周りを確認しているようだった。
やがて、音はなくなり、最後にパンッと乾いた銃声が一発戦場に響き渡り、辺りは静寂に包まれました。
まるで、それが戦闘の終わりの合図のように・・・・・。
少年は意を決し、一歩一歩と這うようにして堀をよじ登っていった。
一歩ごとに増していく恐怖。もう少しで堀の壁の頂上というところまできた少年は、
(堀から顔を出したと同時に打たれたらどうしよう。)
(まだ死にたくない。)
膨れ上がる死の恐怖にさいなまれながらも、震える両手に何とか力を籠めた。
数々の轟音や銃声にさらされ、耳鳴りも残る中で懸命に何かに導かれるように上り詰めた。
堀の向こうを確認したいが恐怖によって力が入らない。
(恐い・・・・・けど!)
少年は、震える体に鞭を打ち、意を決し恐怖を押し殺し、穴から顔をのぞかせた鼠のように、堀の向こうを確認した。
そこには、辺りを埋め尽くす死体の山、手りゅう弾や迫撃砲の着弾跡、様々な場所に着弾したであろう銃弾の跡。
まさに地獄絵図といった様相であった。
ただ、辺りを見渡している中で、確かに日本兵の死体の数が圧倒的に多い。
多いが、堀によじ登り、辺りの状況を確認している者や敵軍と挟んだ戦場の中でも数名生き残っている者がいた。
皆いったいどういう状況にあるのか完全にわからない。
普通ならば皆殺しにされる状況だったはず。
しかし、米兵の潜伏・攻撃してきた森から米兵は一切出てきてはいない。
少年は、這いつくばりながら、堀を越え、転がり落ちるように堀を降りた。
くらくらする視界の中で、米兵がいたであろう林の中でを確認した。
そこに彼らは確かにいた。
後に、少年は生き残った者達と共にその場を去る時に仲間に聞いたが、誰一人として知らない・見ていないといった。
だが、少年は確かに見たのだ。
大量の米兵の死体の山の上に、数人の自分たちとは違う軍服を着ているが、肩に大日本帝国の日の丸のついた日本兵の姿を・・・・・