私の親友
久しぶりの投稿
『綺麗な髪だね』
私の髪を、そう褒めてくれたのは誰だっただろう。
親同士の離婚で私自身の心が荒れていたあの頃。何気ない言葉で私を救ってくれたのは誰だっただろう……。
「……ら。まゆら!」
「んっ……」
親友の声に呼ばれ、ゆっくりと顔を上げる。
外から射し込む夕日に照らされ、教室は真っ赤になっていた。
「まゆら。もう授業終わったよ」
「……おはよう」
親友の溜め息を聞きながら、教室の前にある時計を見ると、もう4時を回っていた。最後の授業が3時10分に終わるから、もう授業が終わって1時間以上寝てたのか。
「ほら、帰るよ」
手を引かれ、教室を出る。校内からは吹奏楽部。外からは運動部の掛け声が聞こえる。
季節は梅雨あけの夏。地味にジメジメした感じ。そして、高校生生活最後のこの季節。
「進路とか決めた?」
「うーん……とりあえず、テキトーに受けてみる」
「天才の余裕ってやつか……」
靴を履き、外に出る。
夏とはいえ、梅雨あけだからと思ってブレザーで来たのは間違ってたかもしれない。
「再来週の期末受けたら、夏休みかー。まゆらは予定とかある?」
「家でゴロゴロ」
「んじゃ、私と遊ぶかー」
「家で寝てたい……」
そう言うと、私の親友は頬を膨らませ文句を言う。
「まーゆーらー」
私の肩を持ち、揺らすのはやめてほしい……気持ち悪くなる。
「はぁ……もう!しょうがない。まゆらの家で遊ぶか」
「それなら、いいよ」
これも結局、毎年のこと。毎年、私が駄々をこねて最終的に遊ぶ場所は私の家。
ちょっとは悪いと思うけど、夏はなるべく家から出たくない。クーラーという文明の利器の恩恵を受けながら、ひたすら惰眠を貪りたい。
「まゆらは彼氏とか作らないのー?」
話題がコロコロと変わる親友の話。最初の頃は、忙しい子だとか思ってた時期もあったけど、今はそれが心地良い。
それに、私自身が話をするのが苦手だからとても有難い。
「彼氏かぁ……私の彼氏は布団かなぁー」
「そうだね……あんたにぴったりだ」
「だよねー」
呆れられてる自覚はあるけど、彼氏とか言われてもピンと来ないし。誰かを好きになったこともないし。そもそも好きとは何なのか。
「好きって何なのかなー」
「うーむ。ずっと一緒にいたいとか、一緒にいると楽しい幸せとか?」
「そっかー。なら、私の好きな人は今一緒にいる人だねー」
「いやいや!同性はノーカンでしょ!」
難しい。同性はノーカンなのか。
「なら、ユウタかなー」
「え……まゆら、好きな男子いるの?」
「あのねー。おっきくてー、白くてー」
ユウタ。毛がモフモフしてて気持ちいんだよね。ただ、夏は逆にウザいけど。冬は最高の枕に早変わり。
「家に帰ると、ご飯ご飯ってね言うんだよー」
「……それ、まゆらの家にいる、あの大きな犬のこと?」
「そうだよー。一緒にいると楽しいのー」
こいつはもう手遅れだ──と親友の呟きを聞き流し笑って誤魔化す。
別に彼氏が欲しいとは思わない。今、この瞬間が続くならこのままでいい。今、この瞬間が本当に幸せだから。
「私は、今のままでいいんだよー」
「いきなりどうした」
「ふっふー。テストとか受験とか、色々めんどくさいけど、1人じゃないからー」
今日は驚くほど真っ赤な夕方。だから、きっと、私の赤い顔もバレてない。
昔からずっと一緒にいてくれた、私の親友。私の命よりも大切な私の親友。
「ねぇねぇ!」
「うん?どうした?」
「私の髪、綺麗でしょ!」
私の突然の質問に、吹き出す私の親友。
それでも答えてくれる。あの日と同じように。
「綺麗な髪だね」
「……ありがとう。ゆうか──」
「……ゆうか」
「なに?まゆら」
まゆらが目を覚まさず、寝たきりになってから2ヶ月。たまにうわ言で私の名前を呼ぶこと以外、全く反応を示さない。
私の1番の親友。昔からずっと一緒にいる大切な親友。
「ねぇまゆら……そろそろ起きようよ。いつまでも寝てたら大学生生活が終わっちゃうよ」
まゆらと私は同じ大学に進学した。私は頑張ってその大学に入り、まゆらは私に合わせるかのように同じ大学に。
別にそれに対してまゆらを悪く思うことは全くない。私はまゆらが好きだから。本当に大事な友達。
「楽しそうな顔しやがって……何の夢を見てるのやら」
まゆらに、おやすみ──と残し病室をあとにした。
「ねぇ、ゆうか」
「なに」
ゆうかが勉強している隣で、私は妙案を思い付き、さっそく伝える。
「私!ゆうかと同じ大学に行く!」
「……バカなの?」
バカでいい。
いつまでもゆうかと一緒なら──
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