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6 星宮さんは 現れる

 入り組んだ見知らぬ道ばかりを何度も曲がっていたのでアキラは今自分がどこにいるか分からなくなっていた。経過時間的には遠く来たような気もするが、歩く早さと曲がりの多さから学校からあまり離れていないような気もしていた。

「長い」

 彼女はゆっくりと楽しげに歩き続けている。時間は気にならないのか、焦る様子は微塵もない。アキラはポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認する。校門を出てから一時間近くは経過していた。

「星宮さんの家はどこにあるんだ」

 誰も聞いてくれない愚痴を疲れた顔で呟いた。


「私の家?」

 ふいにアキラの背後から澄んだ声が聞こえる。唐突な声に驚いてアキラは振り返ろうとしたが、足がもたついて尻餅をついてしまった。

「いたっ」

「ごめん、大丈夫?」

 反射的に出てしまったアキラの声に、声の主は心配そうに顔を覗きこむ。

「大丈夫です大丈夫」

 アキラは顔上げて心配してくれた人に笑顔を返そうと顔を見て、目を見開いた。


「星宮さん!」

「うん! 星宮さんです!」

 星宮さんはアキラの声につられたのか大声で返した。アキラは尻についた土汚れを払いながら立ち上がる。

「どうしてここに?」

 さっきまで自分の前にいたはずなのに、という言葉をぐっと飲み込む。

「え? だってここは私の帰り道だもん。ここにいるって変かな?」

「あ、そうなんだ。はは」

 アキラは曖昧に返事を返した。時計を取り出すくらいしか目を離していないのに、その間に背後に回っていたことを聞きたかったのだが、これ以上聞くと怪しまれてしまう。墓穴を掘らない限りは大丈夫だろう。


「じゃあ私も質問なんだけど、あなたはどうしてここに?」

 星宮さんは人差し指を顎に当て、小首を傾げる可愛らしい仕草で訊ねる。

「それはね、うん、ここ最近散歩が趣味なんだ。僕体力ないから、体力つけようと思って」

「そうなんだ。頑張ってね」

 彼女は両拳を振って楽しげに微笑んだ。

 咄嗟にしてはいい嘘がつけたなとアキラは安堵する。

「あ、ありがとう」

「なんだ、てっきり私に用があると思っちゃってた。がっかり。じゃあ、お散歩楽しんでね! また明日!」

「うん。また明日」


 お互いに手を振り合って、別れる。これ以降の尾行は危険だ。

 尾行はばれていたかもしれないが、企みはまだばれていないのでまだ挽回の予知はある。

 今日は諦めて、後日に再挑戦するしかない。

 携帯電話の地図アプリを開き、アプリを頼りに自宅へ向かって疲れた足を動かす。


――てっきり私に用があると思っちゃってた。


 先程の彼女の言葉から妄想される、ありうる未来がアキラの頭の中でちらつく。

「ないから。それはないから」

 初恋の時と同じ痛い目を見るぞ、と心の中で強く念じてみても、ちらつく妄想が消えはしなかった。


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