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3 平野さんは うなだれる

 時は少し遡り、一昨日の放課後のことだった。

 その日は生徒会と各委員長が話し合いを行う日だった。アキラは保険委員長で、生徒会長である平野さんと同じ会議に出席した。会議は今後の予定を確認する程度ですぐ終わったのだが、生徒会は他に仕事が残っていた。その時の流れでアキラは平野さんの手伝いをしたのだった。

 ポスターを掲示板に貼りながら、平野さんはアキラに笑いかける。

「ごめんね、クロっち」

「いいよ。平野さんは生徒会長で大変なんだよね」

「うう。労ってくれてありがとう。本当私なんて生徒会長なんて柄じゃないのに」

 肩を落とし、平野は頭を掲示板にぶつけてうなだれた。その状態から横に手を出し、アキラはその手に持っていた別のポスターを渡す。

「でも、選ばれたってことはみんな期待してるってことなんじゃないかな」

 平野さんは頭を起こし、再びポスターを貼り始める。


「はは。それなら、期待してくれてる分、権力寄越せーって思っちゃうな。結局やることは雑用しかしてないんだから」

「そうなんだ?」

「そう、事務作業ばっかり。権力を持って教師達と戦うだとか校則を変えるだとか、出来るわけないよ。毎年そんなことが起きてたら、学校がめちゃくちゃになっちゃう」

 そんな生徒会が存在していたら、とアキラは想像してみる。確かに愉快だろうけどハチャメチャになりそうだ。今のこの学校は平穏そのもので、解決すべき問題も特に思い当たらないから、これで丁度良いのだろうとも思う。

「確かにね」

「あーでも、マナが生徒会長だったら、そんなことが出来そうかも」

 平野さんは楽しげに言う。星宮さんのことをマナと呼び捨てにするのは、一番近しい平野さんくらいじゃないかな、とアキラはぼんやり考えた。

「カリスマ性っていうの? マナにはそういうのがあると思うんだよね」

「わかる気がする」


「まー、でもマナはちょっと疎いところあるから、実際やるとしたら大変なことになるかも」

「そうなんだ?」

 星宮さんが生徒会長だったら、と妄想してみると、何故だか王冠をとマントをまとった星宮さんが浮かんだ。全てを受け止め、率いる彼女の姿が鮮明に描かれる。

「星宮さんなら何でも優しく受け流して、成し遂げそうなイメージがあるな」

 アキラの言葉に平野さんは苦笑する。

「実際、うまく成し遂げはするんだろうね。でも障害を優しく受け流しすぎて、結局後ろに残してしまう感じがするんだ」

 先ほど浮かんだ王様のイメージを再び思い返してみる。城の上に堂々と立つ彼女の後ろに控える臣下達は、貴族や騎士達ではなく、農民や動物達ばかりだった。なるほど確かに、とイメージとの一致を果たしてアキラは頷いた。

「マナは、…・・・羨ましいことに何十人にも告白されてきてたんだけど、毎回、ごめんなさい、の一言で済ましてきたらしいんだよ」

「うん」

「でもさ、ただ理由もつけずに断ってちゃ、みんな諦めきれないでしょ。それがマナのいいところでもあるんだけど、悪いとこでもあると思うんだ」

 流石いつも近くにいるだけあって、星宮さんのことをよく見ているらしい。アキラにはそういう発想は浮かばなかった。その言葉の後に「……私のほうにも回ってこないし」と小さい声が聞こえたような気がしたけれど、気のせいだろう。

「マナにとっては、それでいいらしいんだよね。ただ受け流す。でも時にはきれいに諦めさせることが大事だと思うんだ」

 よし、とその掲示板にポスターを貼り終え、次の掲示板に足を運ぶ。


「あれ、でも恋人いますって断ってるんじゃなかったっけ?」

 歩きながら、噂できいていたことを平野さんに聞いてみる。

「ああ、それね。私がそう言いなさいって、言ったの」

「え?」

「だって半端な希望持たせるほうが、酷だと思わない?」

 振り返って、後ろにいるアキラに苦笑する。前に向き直り、またも小さな声で「そして私も彼氏を・・・・・・」と呟いた。

「あ、この話内緒にしといてね。でないとまた、男子がマナに群がってしまうから」

「う、うん」

「まあクロっちなら平気だよね」





「なるほど、ねえ。平野からの情報か。よく手に入れた」

「なでなでするな。汗臭い」

「汗臭いはやめて。傷つくから」

 木村はアキラの頭に置こうとした手を、そのまま自身の胸に持っていく。だが心の傷は浅かったのか、再びその手はアキラの頭の上に向かう。

「アキラじゃなきゃ仕入れられなかったな。でかした」

 脱力していた腕を上げて、強めに木村の手を弾く。

「確かにケイのような筋肉にしか興味ない男だったら、無理だったろうね」

 悪態をついてから、顔を上げて木村の顔と向かい合う。

「別にケイのために話したわけじゃない。それに、まだ星宮さんのこと想ってるの?」

 木村はその言葉をどう解釈したのか、ニンマリと勝ち誇ったような笑みでアキラを見下ろした。

「何々、ヤキモチ?」

 馬鹿にしてますよと顔面全てで表現している状態のまま、木村は続けた。

「大丈夫だって。もし星宮さんと恋人同士になったって、親友のアキラに寂しい気持ちはさせないって」

「うん。キモチ悪いからやめてくれる?」

「う。こういうときの眼光するどいよなあ、アキラ」

 また胸に手をやり、傷ついたような仕草を見せる。


「本題に戻すよ」

「本題って、何だっけ」

「星宮さんに、恋人がいないって話」

「そうだったそうだった。それで?」

「どうしていないんだと思う?」

「どうしてって」

「星村さんは非の打ち所が無い人だと思うよ。何でも出来て、だからと言って、とっつきにくいってことはなくて。みんなに好かれるだろうなあってのは理解できる」

 自身を面食いだと自覚しているアキラでも、初対面ですぐに可愛いなと思った。可愛すぎず、人と距離を感じさせない笑顔がいつも振舞われていることを思い返す。

「彼女は彼氏いそうだけど、いないんだよ。そこには何か、理由があると思わない?」


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