finding of a nation 94話
「あ、あれは……カイルさんっ!、それにレイチェルやヴィンス達もっ!。けどどうして……、皆他の魔法陣のエリアに転移してたはずなのに……」
「話は後だよ、シスシスさんっ!。早くレミィさん達の異常を回復させてあげてっ!」
「……っ!。そ、そうだった……ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね、皆。……気功気付け拳っ!、はっ!」
間一髪窮地から逃れたレミィ達だったが、ただ一人自分の意識を保っていったシッスはカイル達の増援を頼もしく思いながらも違う魔法陣を潜ったメンバーが自分達と同じエリアに姿を現したことに少し戸惑っていた。しかしカイルに促されてハッと気が付いたシッスはすぐさま自分の座席の背もたれを跨ぎ、後ろの席に座っていたゾンビ達を押しのけてレミィ達の背中側に回った。そして皆の背に向けて“気功気付け拳”というその名の通り味方に対して気付けの効果のある掌底を順に放っていった。体の小さいクーリッシュに対しては指先に気を集中させて突くようにして器用に技を放っていた。そしてシッスの喝のこもった掌底を受けたレミィ達は順々に自らの意識を取り戻していった。
「……っ!。あ、あれ……私今まで一体何を……。なんか恋人を失った女の人になってたような気がするんだけど……」
「それはあの魔族達の演奏のイメージに取り込まれてたからだよ、レミィさんっ!。あの演奏は聴いた者の意識を乗っ取っておまけにその間皆の生気を吸い続けてたみたいなのっ!。私は耳栓をしてたからなんとか助かったんだけど……」
「な、なに……っ!。それじゃあさっきまでのは全て幻だったってのかっ!。おのれぇ……魔族共めぇ……。この心の傭兵アクスマンの純真な正義を怨念に染め上げるとは断じて許せんっ!。ならばその怨念の染まった心を全てお前達にぶつけることで浄化し再び正義の心を取り戻してくれるわっ!」
「でも私達の意識を回復させてくれたはともかくよくシスちゃん一人であいつらの演奏を止めることができたね。なんか舞台の上が水浸しになって周りに水たまりができてるけど……、あれシスちゃんがやったの?」
「まさか〜、気功術士の私にあんな大量の水発生させられるはずないでしょ。あれは私達の援護に駆け付けてくれたカイルさんの魔法だよ。ほら、皆あそこを見てっ!」
「えっ……」
シッスに促されてレミィ達もホールの最上段に頼もしく立ち並ぶカイル達の姿を確認した。シッスと同じく違うエリアの転移したはずのカイル達がどうしてこの場にいるのか疑問に思っていたようだが、今はそのようなことを気にしている場合ではなかった。
「ほ、本当にカイル君達だ……。でもどうして皆が私と同じエリアのこの場所に……」
「レミィさんもその話は後っ!。今はあの魔族の三姉妹と周りのモンスター達の迎撃に専念してっ!。さっきの僕の魔法で敵対状態になっちゃっただろうからっ!」
「分かったわっ!。……けど周りのモンスター達は敵対するどころから皆逃げ惑ってパニックになっちゃってるわよ」
当初はルートヴィアナ達と共に襲い掛かってくると予想されていたコンサートを見に来ていた観客モンスター達だったが、いざ戦闘が始めるとまるでコンサート中に災害でも発生したかのようにパニック状態になりレミィ達のことなど見向きもせずホール中を逃げ惑っていた。そしてモンスターの一人がホール側面の扉を開けるとそこから流れ出るように一斉にホールの外に移動し、ものの三十秒程でホールから全てのモンスターがその姿を消した。どうやらモンスターの姿をしていたとはいえ彼等はあくまで観客としての設定で登場していたようだ。
「お、おいおい……、なんか一気にホールの中がスッカラカンになっちまったじゃねぇかっ!。……まぁ、私等としてこれであのボスの間に続く為の鍵を持ってる魔族共をブッた斬りやすくなったけどよ」
「油断は禁物だよ、レイチェルっ!。確かに最初にいたモンスター達はいなくなったけどきっとあの魔族達も自らのリスポーン・ホストのモンスター達を繰り出してくるはず……。それもさっきの奴等に余程協力であいつらを倒さないと何度でも復活する厄介な奴等がね」
観客のモンスター達が一斉にいなくなったことでホールの残された者達の姿はレミィにカイル達のパーティメンバー、そしてこのコンサートの主催者にして奏者であったルートヴィアナ達三姉妹の魔族のみなった。レミィやカイル達にしてみれば一気に相手にする敵の数が減り戦況的に楽になったと思いたいところであったが、カイルの言う通りすぐさま演奏を邪魔されたことを余程頭に来ているのか鬼のような形相でこちらを睨み付けて見上げているルートヴィアナ達が自らのリスポーン・ホストのモンスター達を出現させるのだった。
「おのれぇ……っ!。もう少しであいつらの生気を吸い取れるところに邪魔が入ってぇぇ……っ!。おまけに我々の大事な観客達が皆いなくなってしまったわ……。あのヴァルハラ国のプレイヤー共絶対に許せない……イグナーラとヨーゼリっ!」
「はいっ!、お姉様っ!」
“グオォォォォッ!”
“ガアァァァァッ!”
“ウガァァァァーーッ!”
ルートヴィアナ達の怒りに呼応するように再びホール中に彼女達のリスポーン・ホストのモンスター達が出現した。そのモンスター達の概要はスケルトン・ナイトや闇・骸骨等のスケルトン型のアンデット系モンスター、マッド・ゾンビやゾンビラス等のゾンビ型アンデット系モンスター、グラッジ・シャドウやその上位互換であるグラッジ・ゴーストやグラッジ・ファントム等のゴースト系モンスターが50体程ずつ……、それぞれスケルトン達がルートヴィアナ、ゾンビ達がイグナーラ、ゴースト達がそれぞれのリスポーン・ホストとなっているようだ。より強力で厄介なモンスター達の出現に当然カイル達も迎撃を開始するのだった。
「来たよ、皆っ!。まず何人かのメンバーがレミィさん達と合流しないと……。見たところ同じパーティメンバーのはずだったナギ達の姿も見当たらないし……」
「……っ!。本当だっ!。まさかあいつらに限ってやれちまったってことはないよな、カイルっ!」
「それは分からないよ、ヴィンス。でも危険なダンジョン内でわざわざ別行動を取ることはないだろうし……。とにかくレイチェルと“斬れない”さん、ルミナースさんはレミィさん達と合流してモンスター達を迎撃しながらそれぞれの詳しい情報を交換して来てっ!。残ったメンバーは僕と“れいれい”さんが魔法で、ヴィンスが弓で皆を援護するよ。射程のある攻撃を行うには絶好の位置取りだからね。マパさんと激痛整体師さんは迎撃と回復で僕達の護衛をお願いっ!」
「了解っ!」
レミィ達と合流してモンスターを迎撃すべく皆カイルの指示に従って行動を開始した。マパと言うのは恐らくママのパーマダサいのことだろう。レイチェル、斬れない……錆で、ルミナースの3人が舞台近くでモンスター達に囲まれているレミィ達の援護に向かい、カイルと“れいれい”は魔法で、ヴィンスは弓で視野が広く敵との距離も離れているホールの最上段位置から援護攻撃を行うこととなった。激痛整体師とマパは白兵戦の不得意なカイル達の護衛に付くことになったようだ。恐らくヴィンスは武器を槍に持ち替え槍術士として戦うこともできるだろうが。
“グオォォォォッ!”
「くっ……まださっきの演奏の影響で意識が朦朧としてるけどとにかく今はこいつらを迎撃しないと……皆ぁっ!」
「分かってるぜ、リーダーぁっ!。アックスゥゥー……ブーメランッ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。デビル・アックス・クラッシャーにゃぁぁぁっ!」
シッスの気功気付け拳でなんとか我に返ることができたレミィ達だったが、まだ少し意識が朦朧とした状態で頭痛や目眩等の症状を有していたようだ。しかも舞台に近い席に座っていた為ルートヴィアナ達がリスポーン・ホストのモンスターを出現させると同時にそれらに囲まれた状態となり、アクスマンやデビにゃん達がすぐさま迎撃に当たったが、やはりまだ本調子でない上に敵の数が多い為押し寄せるモンスターの迎撃が追い付かず周りのモンスター達の数はどんどん増えていった。逃げ場のない状態で突破口を開くことも出来ずこのまま押し切られてしまいそうであったのだが……。
“グオォォォォッ!”
「クソ……、やっぱりまだ目眩と頭痛がしてモンスター共の処理が追い付かないぜ。回復魔法でなんとかできないのかよ、シッス、プリプリ」
「うぅ〜……、私もまだ目眩で集中出来なくて魔法が上手く発動できませんわ〜」
「とうぉ〜りゃぁぁーーーっ!。私もちょっとモンスターの相手で手一杯で皆の回復まで手が回らないかも……。アクスマンさんとデビにゃんが不調な今私まで回復に回ったら余計こいつらに押し込まれちゃうよっ!」
「ちっ……なら取り敢えず無理にでも突破口を開いて安全な場所に移動するしかねぇか……。できればカイル達のいるホールの最上段に……」
「その必要はねぇぜ、クスクス笑うマン」
「なに……っ!」
「うおりゃぁぁぁぁっ!」
“グオォォッ……”
周囲の様子も視認しずらくなる程押し寄せるモンスター達に囲まれてしまったレミィ達だったが、そんな時どこからともかく荒々しい女性の声とその者にやられたと思われるモンスターの断末魔が聞こえて来た。その後もモンスターの断末魔は途絶えず鳴り響き、レミィ達のすぐ近くのグラッジ・シャドウが体を縦に真っ二つに両断されたと思うとその割れた体の間からレイチェルが斧を持ったレイチェルが姿を現したのだった。
「お、俺をその名で呼ぶとはやはりお前か……レイチェル。しかも武器が俺と同じ斧に変わって……んんっ!。しかし待てっ!。お前今その斧でグラッジ・シャドウを叩き斬ってなかったか。物理攻撃しかできないお前が何故ゴースト系のモンスターにダメージを……」
「この斧はこのダンジョンのどっかの部屋の壁に飾られた奴を頂戴したんだよ。グラッジ・ディヴァイクスって言ってゴースト系の奴でも悪霊が相手なら物理攻撃でダメージを与えることができるんだ。私等のパーティで斧を使うのは私しかいなかったから皆から譲って貰ったってわけよ。おかげここに来るまでの戦闘がかなり楽だったぜ。あいつら物理に対しての耐久は紙みたいだからな」
「な、なに……っ!。そんなもので俺達脳筋プレイヤーの弱点を克服するとはなんと幸運な奴……」
「そんなことよりキレサビっ!、お前は私と一緒に周りのモンスター共を片付けるぞ。ルミナースさんはレミィ達を回復してやってくれっ!」
「了解した」
「分かりました」
「あとルミナースさんはその後カイルに言われた通りレミィとの情報交換もよろしくな。この中じゃああんたが一番落ち着いて話ができそうだし……」
レイチェルが切り開いた突破口から続いて同じく援護に来た“斬れない……錆で”とルミナースも姿を現した。レイチェルの呼んでいたキレサビというのは恐らく“斬れない……錆で”のことだろう。レイチェルの指示に従ってキレサビはモンスターの掃討、ルミナースはレミィ達の回復に当たった。
「皆さん、すぐ回復させますからなるべく私の周りに集まっていてくださいね……クリアブル・ヒーリングっ!」
“シュワァァァ〜〜”
「うわぁ〜……なにこれぇ〜。まるで天然の水のプールに入ってるみたいで凄く気持ちいい〜。疲れが取れるどころか体中の悪いものが全て浄化されていくようだわ〜」
ルミナースの発動させたのはクリアブル・ヒーリングの魔法は、クリアブルとはナギが最初のキャンプの時に入手したクリアブル草等と同じく澄み切った霊水で全身の形を成したクリアブル・ドラゴンという水中に棲む竜の名に由来したものである。その由来した名の通り自身の周囲に澄み切った水の渦を出現させその範囲内にいる者のHPと疲労度の回復、更には低度の状態異常も緩和、もしくは取り除く効果もある白魔導士の習得出来る優れた魔法だ。更に魔法の水属性とルミナースの所持属性である水属性とか一致し効果を倍増させていたようだ。レイチェルも“さん”付けで呼んでいたが、ルミナースは穏やかながらも大人びた雰囲気を漂わせ、如何にもプリーステスや聖女といった言葉が似合う女性だった。その見た目と言動から感じられる清楚なオーラが自然とレイチェルを“さん”付けで呼ばせてたのだろう。
「う〜ん、おかげでHPが回復するどこか目までスッキリしたわ。ありがとうルミナースさん」
「いえ……、それでカイルさんからレミィさんという方と互いの情報について話し合えと指令を受けているのですが……」
「あっ!、今ルミナースが話してる私がレミィ。ここへは離れ離れになったナギ君達を探してきたの。実はここに来るまでにこんな出来事が……」
レミィ達を回復し終えた後ルミナースはそのままレミィ元に近寄り互いのパーティの情報を交換しながら話し合っていた。他の者達はレイチェル達と共にモンスターの掃討に当たり、押し込まれていた現状を段々と打破して行った。
「おらぁっ!、いくぜぇぇーーっ!、アックス・ブーメランだぁぁっ!。……てりゃぁぁぁぁっ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「はははっ!、ヴァイオレント・ウィンドも捨てがたいが斧で戦うのも結構気持ちいいもんだ。特にこの大勢の敵の中に斧をぶん投げるアックス・ブーメランとかいう技はかなり気に入ったぜっ!。おまけにこの斧のおかげでゴースト共も一緒に蹴散らすことができるしよ」
「な、なに……っ!。アックス・ブーメランは天だくさんのアックス・クラッシャーに代わって俺の十八番となる技……。それを貴様なぞに渡すわけにはいかんぞっ!。大体お前のその技の掛け声の発し方はなんだっ!。今俺が手本を見せやるからよく見ているろ。はあぁぁぁぁっ!、アックスゥゥー……ブーメランッ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「分かったか。アックスゥゥー……はあくまで溜めでブーメランッ!で声を張り上げると共に斧を投げ放つのがこの技の美しい放ち方だ。お前のように“おらぁぁっ!”とか“てやぁぁっ!”とかむやみやたらと叫び散らす者がいると技の品位が落ちる。それに今の俺の撃ち方の描く弧の方がラインも綺麗でモンスター共へのダメージも大きかったはずだ」
「はあっ!、そんなのまだ斧の扱いに慣れてないだけで掛け声なんか関係ねぇじゃんっ!。それにどの職業に就いてどの技を使おうが私の勝手だろ。そんなに自分の十八番にしたいなら私のことなんて一々気に掛けてないで皆が認めるくらいお前が技を使いこなせるようになればいいだけだろ」
「ぐっ……確かにそれはお前の言う通りだ……。いいだろう……。ならば俺は真のアックス・ブーメランの使い手となることを今ここで誓おう。まず手始めにこのモンスター共を全てアックス・ブーメラン出片付けてやる。アックスゥゥー……・ブーメランッ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「にゃぁ……、なんか二人共さっきから凄く楽しいそうに斧をぶん投げてるにゃ……。そんなに使いやすい技ならちょっと僕も使ってみようかにゃ。にゃあぁぁぁぁぁっ!、アックスゥゥー……・ブーメランにゃっ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「おおっ!、今のはまさに俺が手本として見せたアックス・ブーメランの掛け声の発生の仕方っ!。いいぞ、デビ猫。お前ならばこの俺の後に次ぎ2番手のアックス・ブーメランの使い手として名を馳せることも可能だ。なんなら俺の弟子の第一号にしてやってもいいぞ」
「にゃぁっ!。(な、なんだろうにゃ……。何故かこいつには褒められても全然うれしくないにゃ……。何を言うにも微妙に上から目線なのが癪にさわるのかにゃ……)」
「けっ!、なんだなんだぁっ!。デビにゃんはあのクスクス笑うマンの味方なのかよ。……まぁいいや。掛け声を掛けるだけ何が変わるとも思えないけど私も一回それでやってみよ。うおぉぉぉぉっ!、アックスゥゥー……・ブーメランだぜっ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「おおっ!、こりゃ確かに斧を放つタイミングを掛け声がバッチリあってていい感じだぜ。ちょっと熱血アニメっぽくてダサい気もするけどこれなら私もこのやり方を習ってやるか」
傭兵のアクスマン、戦斧士とレイチェルとデビにゃんは皆同じ掛け声でアックス・ブーメランを放ち次々とモンスター達を掃討していった。どうやら三人とも豪くこの技が気に入っていたようだ。そして3人や他の者達がモンスターの迎撃に当たっている間にレミィとルミナースもそれぞれの情報の交換をし終えることができた。
「ふむふむ……じゃあこのホールのどこかにボス間に続く扉があって、その扉を開ける為の鍵をあの三姉妹の魔族が持っているんだね」
「ええ……。そちらもまさかナギさん達がそのようなことになっていようとは……」
「うおぉぉぉぉっ!、アックスゥゥー……・ブーメランだぁっ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「どうだっ!、ルミナースさん。レミィからナギ達がどうしたのか聞けたかっ!」
「ええ……、どうやらナギさん達はローレインという敵の罠に掛かりこのダンジョンのボスの元へ送らてしまったそうです。この場所へはナギさん達を探して偶然訪れたようだったのですか……」
「な、なんだって……っ!、そりゃ大変なこったっ!。カイルぅーっ!、どうやらナギ達は敵の罠でボスのところへ送られちまったみたいだぞぉっ!。半分のパーティでボスに挑むなんていくらなんでも……って待てよ。よく考えてみたらそれならお前等がここに来たのはちょうど良かったんじゃないのか。なぁー、カイルぅーっ!」
「うーんっ!。このままあの魔族達を倒して一気にナギ達のところに向かおうっ!」
「……っ!。なんだとっ!。あいつらを倒せばナギ達のところに行けるってのは本当なのか、レミィっ!」
「うんっ!。ルミナースさんの話ではこの大音楽堂のどこかにボスの間へと通じる扉があって、その鍵をあの魔族達の誰かが持っているみたい。“れいれい”さんって霊術士の人がこのダンジョンの霊から入手した情報だから間違いないだろうってっ!」
ルミナースとの情報交換でレミィ達もこの大音楽堂にボスも間へ続く扉があることと、その扉の鍵をルートヴィアナ達が所持していることを知った。カイル達もナギ達がそのボスの間にいるとの情報を得て、奇しくもカイルとレミィ達の目的は見事に一致することになった。順当にダンジョン攻略を進めていればこの大音楽堂に辿り着くのは自然なことと言えるかもしれないが……。互いの目的と目標のハッキリしたことで皆より意気の上がった状態で三姉妹の魔族のそのモンスター達の掃討に臨めるようになったようだ。
「そうか……ならば尚更こいつらの討伐を急がねば……。いつまでも雑魚モンスターに構っていはいられまい。はあぁぁぁぁっ!、アックスゥゥー……・ブーメランッ!」
“ブウゥゥゥーーンッ!”
“グオォォォッ……”
「くっ……役立たずの雑魚モンスター共がぁ……。あれだけ数の上で優勢なのにもう押し返され始めてしまったわ。かくなる上はこの私自ら奴等を……。はあぁぁぁぁっ……ダークネ……」
「……っ!。お姉さまっ!、危ないっ!」
「……っ!」
“バアァァァァァァァンっ!”
「くっ……今の火炎は“バーン・フレイム”……。さっきの我々の舞台に水をぶちまけた奴か……っ!」
自分達のリスポーン・ホストのモンスター達がレミィ達に押され始めたのを見兼ねてルートヴィアナは自らレミィ達に向けて魔法を放とうとしたのだが、またしてもホール最上段から放たれたカイルの“バーン・フレイム”に阻止されてしまった。バーン・フレイムは直径5メートルを越える巨大な火球を敵に向けて放つ魔法である。イグナーラの言葉に反応してなんとか躱すことができたルートヴィアナだったが、自分の魔法の発動を阻害しただけなく遠距離からの攻撃で上手くリスポーン・ホストのモンスターを処理しているカイル達を厄介そうな目で睨み付けていた。
「ふっ、こうやって射的の的みたいに敵を撃ち抜くも案外楽しいもんだな。俺の矢はゴースト系には聞かないからゾンビと骸骨共を選んで狙わなければならないってのもやりごたえがあるぜ。はあっ!」
“パシューンッ!、パシューンッ!”
“グオォォォッ……”
「くっ……安全な位置からチマチマと気に入らない連中ね。あのまま放置しておくのも厄介だし……、イグナーラっ!。あの上で粋がってる連中はあなたに任せるわっ!。特にあの私達の舞台を台無しにした魔術師のガキにはたっぷりとお返しをしてあげなさいっ!」
「かしこまりました、お姉様。……はっ」
“バッ!”
「ヨーゼリっ!、あなたは私と一緒に下にいる連中を始末するわよっ!。左右から挟み撃ちにするからあなたは向こう側に回りなさいっ!」
「わ、分かりました……、お姉様」
リスポーン・ホストのモンスター達だけに任せていられないと判断してとうとう三姉妹の魔族達もカイルやレミィ達を打倒すべく行動を開始した。ルートヴィアナからの指示を受けたイグナーラは足に魔力を込めて勢いよく飛び立つとまるで舞い散る羽のように大きくドーム状に広がるホールの天井まで舞い上がり、そのまま一気にカイル達のいる最上段に降り立った。ヨーゼリはルートヴィアナと反対側に周りレミィ達を挟み撃ちにするつもりのようだ。それまではホール中に入り混じってカイル、レミィ達に襲い掛かっていたモンスター達だったが、ルートヴィアナ達が行動を開始すると共にそれぞれのリスポーン・ホストに対応する者達に付き従うように移動し始めた。ルートヴィアナにはスケルトン型、イグナーラにはゾンビ型、ヨーゼリにはゴースト型のモンスター達がそれぞれの周囲に集まっていった。
「はあぁぁぁぁっ!、アックスゥゥー……」
「……っ!。危ないっ!、アクスマン君っ!」
「……っ!」
“バァン……バンバァンっ!”
「ふっ……よく私のグラッジ・ボールを躱したわね」
「貴様は……確かピアノを演奏していた三姉妹の魔族の長女ルートヴィアナ。とうとう俺達を直接叩くべく動き出したってわけか……っ!」
「……お姉様だけではありません」
「にゃぁっ!。こっちにはチェロを弾いてた奴が現れたにゃっ!」
「それにどうやらリスポーン・ホストのモンスター達もタイプごとにそれぞれの主人の元へ集まって行ったみたいね。けどその方が私達の方も迎撃の対処がしやすいわ。アクスマン君、斬れない……錆で、デビにゃん、プリプリさん、そして私はスケルトン達を従えてるルートヴィアナを。レイチェル、シスちゃん、ルミナースさん、クーリッシュさんはゴースト達を従えるヨーゼリの方をお願いっ!。ナギ君達のこともあるし一気に両方とも片付けちゃうよっ!」
「了解っ!」
リーダーであるレミィ自身の指示でレミィ達はルートヴィアナ、ヨーゼリのそれぞれの対処に当たった。カイルのパーティメンバーであったレイチェル達も一先ずレミィの指揮下に入ることにしたらしい。三姉妹の長女で一番強力な相手であろうルートヴィアナには自身も含めた5名、ゴースト達を従えるヨーゼリには霊体に対しても有効な攻撃手段のある前衛のレイチェルとシッスを中心にメンバーを配置した。一方イグナーラが向かった先のカイル達はというと……。
“バッ……”
「こんなところでコソコソと調子に乗るのもここまでよ。私達姉妹の舞台を台無しにした罪……たっぷりと償わさせてあげるわ」
「ちっ……、向こうもメンバーを分けて迎撃しに来たか……。ここは一先ず俺も武器を槍に持ち替えた方が良さそうだな。……カイルっ!」
「分かってるっ!。皆一先ず下の敵はレミィさん達に任せて僕達はあのヴァイオリンを持った魔族と周りのゾンビ共の相手に集中するよっ!。ヴィンスは僕と一緒にイグナーラをっ!。マパさんと“れいれい”さんはゾンビ共を片付けながらできれば僕達の援護に回って。……一人で対戦だろうけどHPは任せたよ、激痛整体師さんっ!」
「任せとけっ!。じゃがこの状況だとわし自慢の激痛整体式回復魔法はできそうにないのぅ……」
カイル達も一先ずレミィ達の援護は中断して自分達の目の前に移動して来たイグナーラの迎撃に集中した。ヴィンスも武器を弓から槍に持ち替え前衛としてイグナーラを迎え撃つようだ。いよいよ三姉妹の魔族達の本格的な戦闘を開始したカイル、レミィの量パーティのメンバー達であるが、果たして魔族達を討ち果たしナギ達のいるボスの間へと向かうことができるのだろうか。




