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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十二章 探索開始……北の森の恐怖の館
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finding of a nation 93話

 「皆さん……、本日は第444回グラッジ・クラシック・コンサートへようこそお出で下さいました。私がこのコンサートの主催者である3人の奏者の中の一人、ルートヴィアナです。本日も怨念のこもった禍々しい演奏を皆さんにお聴き頂けたらと思っておりますので、是非最後までごゆるりと憂鬱に苛まれて行ってください」


 “パチパチパチパチッ……”


 ルナーラから案内された席に着き、他の観客のモンスター達と共にコンサートの開演を待つレミィ達の前にとうとうこのエリアを管轄する三姉妹の魔族の一人、それも長女であるルートヴィアナが舞台の上に姿を現した。魔族と言っても見掛けはほとんどレミィ達プレイヤーや人として登場しているキャラクター達と変わりなく、黒に近い紺色のドレスを着た女性の姿をしていた。そのドレスは足を完全に覆い隠すように腰の辺りから円錐状にフリルの着いた脚部の丈が床に着くまで伸びていて、腕の袖部分も手を半分隠す程伸びており、ナギ達の世界の楽器の奏者に比べるとかなり演奏しにくいと思えるような格好だった。大抵演奏の邪魔にならないように袖部分のない薄い布生地のドレスを着ている者が多いのだが。少しつり上がってきつい印象を受けたが青く輝く美しい瞳と掘りの深いパッチリと見開いた目、横から見てあまり先に丸みのない高く伸びた鼻、凹凸のない綺麗なラインを描いた小顔の輪郭、頭から足まで垂直に線を描けるような長身と端麗と言える程の容姿を誇る女性で、ボブ程度の長さの濃い紫色の髪を逆立てるようにウェーブを描いた髪型をしていた。先程レミィ達が戦ったローレイン以上の高貴さを感じさせていたが、レミィ達はその整った容姿と上品な挨拶に少し敵意を削がれてしまっていたようだ。


 「うおっ……、魔族と言う割りには大分綺麗な女が出て来たな、おい。男としていくら敵であったとしてもあれだけの美女に斧を振るのは気が引けるぜ……」

 「本当……女の私でもちょっとウットリしちゃうぐらいだよ……」

 「にゃぁぁぁっ!、シッスにエックスワイゼットぉぉーーっ!。二人共何馬鹿なこと言ってんのにゃぁぁーーっ!。僕達はナギ達の居場所を知る為にも早くあいつをやっつけないといけないのにゃよぉぉーーっ!」

 「デビにゃんの言う通りだよっ!。どんなに人間に近い姿をしていてもあいつは魔族なんだから。華麗な様子は全部私達を惑わす為の罠……、仮に醜い姿やか弱い女の子の姿をしていたとしても今度は私達を不快にさせて近付けにくくしたり哀れみを感じさせて攻撃するのを戸惑わせる……、魔族って言うのはそういう連中なんだから」

 「お、おお……っ!。流石リーダーだけあって説得力のあること言うぜ……。おかげでこれからどんな奴が現れようと容赦なく叩き斬る覚悟が決まった」

 「私もっ!。やっぱり刑事さんは相手の見掛けに囚われたりはしないね」

 「そりゃそんなんで目の前にいる犯人に気付かなかったりましてや誤認逮捕なんてしちゃったら目も当てられないからね。けどなんだかんだで犯罪者になっちゃうような人は不潔でだらしない格好の人が多いから皆天だく君みたいにならないよう気を付けるんだよ」

 「ぐっ……。(そこで天だくさんの名前が出てくる辺り女子からのやはり人気はなさそうだな……ってちょっと待てよ。っということはもしかして天だくさんを尊敬してやまないこの俺も同じく女子からの人気が……)」

 「あっ!、そんなことより皆、残りの姉妹の二人も舞台に上がって来たみたいよ。……でもそれ以外の奏者の人の姿は見当たらないわね。もしかして三人だけで演奏するつもりなのかしら」


 最初に姿を現した三姉妹魔族の一人であるルートヴィアナの姿を見てそれぞれ感想を浮かべているレミィ達の前に、続いて残りの姉妹の二人であるイグナーラとヨーゼリが姿を現した。二人共服装の格好はルートヴィアナとほぼ変わらず、イグナーラが深緑を更に濃くしたような、ヨーゼリが少し暗みのある黄土色とドレスの主な色合いのみが違っていた。イグナーラは顎が広くエラの張った四角顔の強面の女性、3人の中で体格も一番大きく、あまり女性らしさを感じない角刈りの髪型をしていた。ヨーゼリは少し垂れ下がった潤んだ目に小柄な体形で先程レミィが言っていたか弱い女の子と言った感じの女性で髪の色は薄めの黄色、オールバックで少しパーマの掛かったミディアム風の髪型をしていた。3人以外に舞台に上がる者は見当たらず、レミィはホールとその舞台の広さに割りに奏者と思える者の姿が少ないことを意外に思っていた。


 「そうだね……レミィさん。私もあくまでその3人が目立つ旋律を演奏するだけで後ろにもっと伴奏みたいなのをする人が一杯いると思ってた。こんなに広い会場なのに奏者があれだけだとなんだか物足りなく感じちゃうよ」

 「シスさん達がイメージしているのは所謂オーケストラのことですね。クラシックと言ってもその演奏の仕方には色々あって、後から舞台に上がった二人がヴァイオリンとチェロを持っていて、舞台の上にピアノが置かれていますからこれから演奏されるのは恐らくピアノ三重奏曲の楽曲なのではないでしょうか。確かにこんな広いホールで演奏されることは珍しいですけど……」

 「へぇ〜、プリプリさんって結構音楽の知識あるんだぁ〜。確かに歌謡曲なんかよりクラシックやオペラみたいのを聴いてるイメージがあるもんね。そう言うのが好きな人って歌詞より楽器の音で曲のイメージや込められたメッセージを掴むのが得意なのかな」

 「う〜ん……確かに文章の意味を理解するのはあまり得意ではありませんけど……、それは歌謡曲を聴いているシスさん達も同じなのではないでしょうか。歌声も人によっては楽器の音と同じように感じる人もいますし……」

 「はははっ……当たり。私も歌詞を口ずさむのは好きだけど意味を考えたことなんて一度もなかったわ。やっぱり音楽はリズムとメロディを楽しむものよね」

 「はいっ♪。ジャズなんかを聴いてると自然と体が踊り出してしまいますもの〜。音楽の趣味は違っても私とシスさんは同じ感性を持っているようですわね、ふふっ」

 

 プリプリによるとどうやらこれから始まるコンサートはピアノ三重奏曲という形式の楽曲らしい。ピアノ三重奏曲とはピアノ、ヴァイオリン、チェロの三重奏による複数の楽章から成る楽曲のことである。場合によっては楽器の編成が変わることもあるようだが、舞台の上に配置された巨大なピアノと後から現れた二人の持つ楽器から見て通常の編成のピアノ三重奏曲が演奏されると思って間違いないだろう。プリプリの説明でレミィ達がこれから行われる演奏について多少の理解が深まったところでいよいよルートヴィアナ達魔族三姉妹による演奏が開始されようとしていた。


 「いよいよ演奏が始まるね……。一体どんな曲を演奏するんだろう」

 「けっ!、どんな曲だろうと敵の演奏を真面目に聞くなんて馬鹿げてるぜ、シッス。俺達は一々曲の感想なんて考えずにあいつらの演奏の隙を突いて攻撃を仕掛けるタイミングを窺うことに集中してればいいんだ」

 「アクスマン君の言う通り。どんなにいい演奏でもそれに魅入られて攻撃のタイミングを逃すなんて馬鹿らしいからね。なんなら耳栓でも付けといて、シスちゃん」

 「分かった……、ちょうどまだヴァルハラ城開拓されてない区画の川で泳いで遊んだ時に友達のアクアキャットに貰った耳栓があるから付けとくことにする。私って結構他のことに気を取られやすい性格してるから……」

 「こ、このゲームには耳栓なんて物もあったのか……」

 「うん。この耳栓はアロマタタビの樹を加工してできた者で寝る時に使っても睡眠促進と癒し効果のある優れものなんだよ、アクスマンさん」

 「ア、アロママタタビの耳栓っ!。それは是非とも僕も手に入れたいにゃ……。この任務が無事終わったらもう一度猫魔族の居住区を回ってみようかにゃ」


 レミィから注意受けシッスは演奏が始まる前にちょうどアイテムとして持っていた耳栓をすることにした。どうやら相当遮音効果も高いようだが敵のものであるとはいえ折角の演奏を聴かずにいるとは少し残念な気もする。そしてシッスが耳栓をした直後、ルートヴィアナの曲題の宣告と共に演奏が開始された。



 「さて……それでは我々の演奏するピアノ三重奏曲、“怨念の邂逅かいこう”是非最後までご高聴こうちょうになって帰ってください。まずは第一楽章……“怨念を持つ者”……」


 “デュラァァァッ……デュラララララァァァーーッ!”


 「ぐっ……こ、これは……っ!」


 いよいよルートヴィアナ達三姉妹の演奏が開始されたわけだが、その一番初めの楽曲の演奏で聞こえて来たのはレミィ達も思わず耳を塞ぎたくなる誰かの悲鳴とも思えるような酷く弦が擦れるヴァイオリンの音だった。元々ヴァイオリンの音色を人の悲鳴に近いように感じる者もいるのだろうが、これはそう言った比ではなく明らかに弓を強く弾き過ぎることで弦ではなくヴァイオリンそのものを擦る音のようだった。だがイグナーラの手元を見ると決してそのようなことはなく、動作だけ見ると華麗にヴァイオリンを弾いているように思えるものだった。よく聴いてみると音色の方も弦がはち切れるのでないかと思える程甲高く乱れた者だったが、音の線自体は非常に力強くしっかりとしていてこれは演奏技術によってわざとこのような音色を奏でているようだった。第一楽章の題名は怨念を持つ者ということであったが、これはその者の怨念の強さと醜悪さを現しているのだろうか。ルートヴィアナのピアノとヨーゼリのチェロの音は控えめであくまでイグナーラのヴァイオリンの音色を活かす楽章のようだ。その音色の悍ましさにレミィ達は耳を塞ぐどころか顔をうずめ込むように背中を丸め身を屈めてしまっていた。


 「だ、大丈夫……レミィさん、皆。私は耳栓してるから分からないけどそんなに酷い演奏なの……」

 「大丈夫……シスちゃん。酷いって言うかなんだか本当に怨念がこもってるみたいな悍ましい音色なんだけど……。流石にこんなのいつまでも聞いてられないから次に曲調が変わったら攻撃を仕掛けるよ……」

 「だ、駄目だ……。耳栓してるからレミィさん達の声も聞こえない……。でも怖いから外すのはちょっと止めとこうっと……。皆が攻撃を仕掛けるのを見てからそれに続いても大丈夫だよね」


 耳栓をしていたシッスはその悍ましい音色の演奏を聴かずに済んでいたようだが、身を屈めて体を震わしているレミィ達の様子を見てルートヴィアナ達の演奏がどのようなものか容易に予想できたようだ。演奏に耐え兼ねたレミィは次に曲調が変わった瞬間に皆に攻撃を出すつもりのようだが、約5分程で第一楽章の怨念を持つ者の演奏が終わった。


 「はぁ……はぁ……。ようやくあの悍ましい音色から解放されたぜ。魔族だからって耳障りな曲聴かせやがってよ……」

 「全くです……。折角この世界のクラシックの曲がどのようなものかと楽しみにしてたのですが私非常に残念ですわ……。まるで悪魔が作曲したかと思えるような恐ろしい曲でした……」

 「まぁ、この館自体ホラー要素満載のダンジョンなんだから当然と言えばそうかもしれないけどね……。次は少しはまともな曲を演奏してくれるといいんだけど……。皆どんな雰囲気の曲でも必ず次の演奏が終わる前に攻撃の指示を出すから準備を怠らないようにね」

 「了解っ!」

 「りょ、了解……っ!。(うぅ……、レミィさんがなんて言ってるかまるで分かんないけど皆の雰囲気的にこう言ってれば大丈夫だよね。多分内容はあの魔族達の攻撃を仕掛けるタイミングのことだろうし……。もしかして次の曲の間に攻撃の指示を出すつもりなのかな……)」


 「では続いて第二楽章……“怨念の回想”……」


 “リュラァ〜……リュラララララァ〜っ♪”


 続いての演奏される楽章の曲は怨念の回想という題名だった。回想というだけあって先程までの悍ましい曲調と音色とは違い、思わず思い出に耽ってしまうような穏やかな曲調と優しい音色で演奏が始まった。どうやらこの曲はヨーゼリの弾くチェロの音色が主旋律を奏でているようだ。ルートヴィアナのピアノはゆっくりとしたテンポを刻むように、イグナーラのヴァイオリンは先程より大分控え目であったがヨーゼリのチェロの裏の旋律でこれから迫りくる怨念の影を現すような暗い音色を奏でていた。先程までと違い普通の癒し系の音楽のような曲調にホッとするレミィ達であったが、今度はその癒しの雰囲気に呑まれこの楽曲の表現する回想のイメージに取り込まれようとした。


 「な、なに……、なんか急に頭の中に男の人の姿のイメージが思い浮かんで……まるでその人を眺める女性の感情ようなものも沸き上がってくる……」

 「ほ、本当だぜ……、どうやら俺はあの男に恋する乙女になって……ああ、ルイスっ!、どこに行くのっ!、待ってっ!」

 「にゃぁぁぁ〜〜っ!、そんなに早く走ったら追いつけないにゃ〜。こういう展開って普通男女の立場が逆じゃないのかにゃぁ〜〜」

 

 どうやら続いて演奏されたこの怨念の回想という楽章には聴く者をその曲の奏でる回想のイメージに取り込む魔力が込められていたようだ。レミィの頭には男性のイメージが思い浮かび、同時に自身にその男性の恋人と思われる女性の感情が沸き始めていたようだ。アクスマンとデビにゃんは完全に回想の中の女性が自身であると完全に錯覚してしまう程取り込まれてしまい、今は海辺ではなく野原を走る男性を追い掛ける女性になりきってしまっていた。デビにゃんの言う通り普通恋人同士のこういう展開の場合男女の立場が逆であるが……。他の者達も同じように回想のイメージに取り込まれてしまい完全に自身を見失ってしまっていた。


 「は〜いっ♪。今日も美味しいプリンが沢山出来たからた〜んと召し上がってね〜、ルイス〜っ♪」

 「えっ……いつも俺に冷たい吐息を吹き掛けてくれてありがとうって。おかげでこの蒸し暑い中でも冷凍庫の中にいるみたいに涼しげに感じられる……もうっ!、私は別にそんなつもりじゃ……。たた人の耳たぶに息を吹きかけるのが好きなだけで……」

 「(ど、どうしたんだろう……皆。なんか嬉しそうにはしゃいだりかと思ったら急に切なげな表情を浮かべたり……。そんなに感情豊かにさせてくれる曲ってことなのかな……)」


 ルートヴィアナ達の演奏による回想の効果は精霊であるクーリッシュにまで及んでいた。耳栓をしていたことでシッスだけはその影響を受けず平常を保っており、声は聞こえずとも極端に変化する皆の表情や態度を疑問に感じていたのだが、レミィ達がルートヴィアナ達の演奏の魔力に取り込まれようとしていることまでは気が付くことができずレミィ達の意識はそのまま回想に出てくる女性のものに乗っ取られていくしかなかった。そして皆の意識と感情が女性のものに支配されたところで急にルートヴィアナ達の演奏の曲調が激しいものに変化したかと思うと、これまで恋人と過ごす楽しげな時間の回想に穏やかな表情を浮かべていたレミィ達が突如大声で悲鳴を上げ態度が悲愴に満ちたものへと一変するのだった。


 「……っ!、きゃぁぁぁぁぁぁっ!、ル、ルイスゥゥゥーーーっ!。どうしてこんなことに……ああぁぁーーーっ!」

 「ああ血が……血が止まらないにゃぁぁぁーーっ!。このままじゃあルイスが死んでしまうにゃぁぁぁーーーっ!」

 「ど、どうにか止血を……っ!。いやぁぁぁーーーっ!、ルイスゥゥゥーーーっ!。私をおいて逝かないでーーーっ!」

 「うおぉぉぉぉっ!、一体誰がこんなことを……。絶対に許さねぇ……。必ず俺がルイスの仇を取ってやるわぁぁぁーーっ!」

 「ただ命を奪うだけじゃ済まさない……。私の吐息で頭だけを残して氷漬けにしてゆっくりと自分の体が壊死していく感覚を味合わせてあげる……。そして最後は意識がある状態でハンマーで氷を叩き割って体ごと粉々に粉砕してあげるわ……」


 どうやら回想の中で恋人と思われる男性が何者かに殺害されてしまったらしい。当然恋人の女性の人格となっているレミィ達には恋人の男性を失った悲しみと犯人への憎しみの感情が沸き上がっていた。この楽章の題名である“怨念の回想”とはどうやらレミィ達の人格が入れ替わっている女性が怨念を抱くに至った経緯の回想を表現したもののようだ。そしてこの演奏には聴く者をただ回想のイメージに取り込むだけではなく、女性の感情に支配され絶望と憎悪にその身を焼かれるレミィ達に更に恐ろしい影響を与えるのだった。


 「ちょ、ちょっとどうしたの皆……っ!。急に取り乱したみたいに突然立ち上がって叫んでるみたいに大きく口を開けたり顔を埋めて泣き出したりして……。いくら演奏のイメージに刺激されたとはいえちょっとおかし……っ!。もしかして……っ!」


 “デュラァァァッ……デュラララララァァァーーッ!”


 「ぐっ……あ、頭が痛い……、それに変な男のイメージまで浮かんで……。やっぱりこの演奏には聴く者をそのイメージに取り込む魔力が込められているんだ……。それで急にレミィさん達の様子が……。早く耳栓をつけ直さないと私まで……」


 一度耳栓を外して皆の様子を確認しようとしたシッスだったが、すぐルートヴィアナ達の演奏の魔力に気が付いてつけ直した。だがこれまで演奏を聴き続けたレミィ達にすでに自分達の意識は残されておらず、虚ろな表情を浮かべたまま怨念の言葉を呟き続けるだけの状態になってしまっていた。


 「レミィさん、皆っ!、しっかりしてぇっ!。皆この演奏の魔力に取り込まれてるんだよっ!。早く意識を取り戻さないとどうなるか……」

 「殺す……絶対見つけ出して殺す……血の果てまでも探し出して殺す……」

 「駄目だ……皆もう完全に自分の意識を失ってる……。こうなったら私一人であいつらの演奏を止め……ええっ!」


 “シュワァァ……”


 「こ、これは何……。レミィさん達の体から青白いオーラのようなものが吹き上がって……。それにあの演奏してる3人の魔族に流れていってる……っ!。まさか……っ!」


 虚ろな状態となって怨念の言葉を呟き続けるレミィ達だったが、その身に起きた現象はそれだけでなく何やら体中から青白いオーラのようなものが頭上に向けて立ち上り、そのまま部隊の上にルートヴィアナ達の元へと流れて行っていた。これはレミィ達の身に只事でない異変が起きていると察したレミィは慌てて端末パネルを開き皆のステータス画面を確認した。


 「や、やっぱりHPのゲージがちょっとずつだけど減少して行っている……。きっとこの演奏に虜にしたものの生気を吸い取る効果まであるんだ……。私の気功術なら皆の目を覚まさせることができるかもしれないけどまずはこの演奏を止めないことには……。くっ……けど私一人で3人の魔族とこの会場のモンスター達を相手にするなんて……」


 シッスが端末パネルの画面を確認するとなんとレミィ達のHPゲージが徐々に減少してしまっていた。どうやらこれも演奏による魔力の効果によるもののようだ。気功術士であるシッスならば皆をこの状態から目覚めさせることも可能であったかもしれないが、演奏が続いてる状態のままでは厳しく仮に目を覚ましたしてもすぐまた演奏の魔力に取り込まれてしまう可能性もあった。一番確実な方法はルートヴィアナ達の演奏を止めることだが、自分一人で3人の魔族を相手にできるのかシッスは判断に迷っていた。だがこうしている間にもレミィ達のHPはどんどん減っていき……。


 「だ、駄目だ……。このHPの減り具合からして回復してても間に合わない……。こうなったら覚悟を決めてやってやるわっ!。この私にクリアできないホラーゲームはないっ!。てやぁ……」

 「……ウォータ・マス・インベイジョンッ!」

 「えっ……」


 “ゴオォォォォッ!”


 想定以上の速さで減少するレミィ達のHPゲージを見てもう回復は間に合わないと判断したシッスは一人で3人の魔族に挑む覚悟を決めた。だがそんなシッスが決死の覚悟で前の座席の背もたれに足を乗せ舞台へと飛び上がろうとした時、突如背後から何者かの叫び声と共に大量の水が押し寄せる津波のような重苦しく重厚な低音が鳴り響いて来た。慌てたシッスがホールの最上段を見上げると、そこには開かれた扉か差し込む光によって浮かび上がった8人の影姿と、そこから放り投げられたように巨大な水塊が舞台に向かって上空を移動する凄まじい光景が目に入って来た。当然その水塊は舞台の上で演奏しているルートヴィアナ達へと襲い掛かり……。


 “ゴオォォォォッ!”


 「……っ!。イグナーラっ!、ヨーゼリっ!」

 「……っ!」


 “バッ!”

 “バシャァァァァァーーンッ!”


 間一髪舞台の上空から襲い来る水塊に気付いたルートヴィアナの言葉に反応してイグナーラとヨーゼリも瞬時に演奏を中断して舞台の外へと飛び去った。その後その巨大水塊は舞台の上に叩き付けるように落とされ、巨大な水飛沫と衝撃と共に砕け散った。ルートヴィアナのピアノこそ無事であったが、舞台の上は大量の水で水浸しとなり舞台の縁から流れ落ちた大量の水がそのままホールの中央に巨大な水たまりを作り出していた。


 「す、凄い……。今のはどう見ても水属性の魔法だけど一体誰……あ、あれは……っ!」

 「………」

 

 水塊が舞台に叩き付けられルートヴィアナ達の演奏が止まったのを見届けたシッスが再びホールの最上段を見上げると、そこには今の水塊を放ったと思われる、魔術師の武器と思われる杖をこちらに向けて立つカイル、そしてその周囲にはカイルのパーティメンバーであるレイチェル、ヴィンス、れいれい、ルミナース、激痛整体師、斬れない……錆で、ママのパーマダサいの7人の姿もあった。どうやらミーレインからこの大音楽堂の情報を聞いたカイル達が駆け付けて来てくれたようだ。ルートヴィアナ達の演奏に取り込まれていたレミィ達にとってはまさに間一髪のところを救われることになったわけだが、果たしてこのコンサートの終幕はどのようなものになってしまうのだろうか……。

 

 

 




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