finding of a nation 91話
「ぐっ……ぐわぁぁぁぁーーーっ!。……はぁ……はぁ……」
「おお……、まさか発動する魔法を“オーバーロード・スパーク”、MAGとCONの値を300の出力に設定した雷撃を受けても情報を一切引き出せないとは……。何も話さずとも私に情報が漏れると知ってからのあなたの精神力の強さには驚かされまーす」
ゲイルドリヴル、カイル、セイナ達、そしてこのダンジョンに突入した他のメンバー達も恐らく同じようにボスの情報を入手して進軍を開始したであろう頃、ナギはまだ拷問紳士から電気椅子による雷撃の拷問を受け続けていた。すでにナギが受けた雷撃は今のオーバーロード・スパークで5回目、それも段々と出力上げて浴びせられているようだが、拷問紳士の話しぶりから察するとどうやら最初のライトニングによる雷撃以来なんとナギは一つも情報を漏らしていはいないようだ。拷問のエキスパートを称する拷問紳士自身も驚かされる程であったが、それだけナギの自分達の国の情報を守ろうとする意志が強かったということなのだろうか。だが拷問紳士の方も決して拷問の手を緩めくことはなく、再び次の雷撃を行う為電気椅子の出力を設定していた。
「さて……では次は発動させる魔法を“フラッシオーバー”、MAGとCONの値を350の出力にして雷撃を……」
「ちょ……これでナギが雷撃を受けるのは何回目だと思ってんのぉっ!。もういい加減諦めてナギを解放して今度は私を拷問しなさいよっ!」
「ナ、ナミ……」
「おおっ!、仲間の代わりに拷問を受けることを買って出るとはなんとも涙ぐましい友情でーす。ですが拷問のエキスパートに掛けてそのような無粋な前をすることは断じてできませーん」
「はあっ!、元からそんな残酷なことしておいて何が無粋な真似よっ!。あんたにそんな情があるような言葉口にする資格があると思ってんのっ!」
「おおっ!、ではこれまで一つも情報も漏らさずに頑張っているナギ君の努力とその思いは一体どうなるのです。彼は単に私に自分達の国を情報を知られたいだけでなく、自分が情報を吐き終わったら次はあなた達が拷問に掛けられてしまうと思って必死に私の拷問に耐え抜いているのですよ」
「えっ……」
「………」
再び拷問紳士がナギに雷撃を浴びせようとするのを見たナミは、怒りを露わにして苦情を言うだけでなく、なんと自らナギに代わって拷問を受けると買って出た。この状況でいずれは自分達も拷問に掛けられることを覚悟はしていただろうが、それでも自ら引き受けると口にするのは並大抵の勇気ではできない。これまでナギが雷撃を浴びて悲鳴を上げている間、隣に囚われているリアとバジニールはその光景に目を背けて黙っていることしかできなかったが、ナミだけは決してナギから視線を逸らさずその瞳に悲しみと怒りの混じった感情を煮えたぎらせていたのだ。だがそんな思いとは裏腹にナギが必死に拷問に耐える真の意味を拷問紳士から聞かされると、ナミはその瞳に湧き出た怒りをそっと鎮め戸惑いの表情を浮かべるしかなかった。
「わ、私達を拷問に掛けたくないからって……、それは本当なの……ナギ」
「………」
「あいつの言う通りよ……ナミ。ナギの性格からして自分はともかく私達まで同じ目に合わせたくないって思いはあって不思議ではないわ。多分あなたが同じ立場であったとしても同じことを思うでしょう」
「そ、そりゃ誰だって自分と親しい人に酷い目にあってもらいたいなんて思わないでしょうけど……、それと同時にできれば誰かに変わって貰いたいとも思うでしょ。でも……」
「あの子の場合前者の思いが強すぎてどこまでも……場合によっては自分の限界を超えてまで我慢しちゃうってことね。そしてそれは今日初めてパーティを組んだ私に対しても同じ……。自分と親しくないから酷い目にあっても構わないなんてとても思える子じゃないでしょうからね」
「くっ……、ナギぃぃーーっ!。多分あんたのことでしょうから今リアやバジニールが言ったのと同じようなこと考えてるんでしょうけど、もし限界を感じたら自分から私達に代わって貰う言うのよぉーーっ!。それにヴァルハラ国の情報だって別にそいつに知られたって構わないんだからねぇーっ!。ちょっとぐらい他の国に情報が漏れたぐらいで私達が負けるって決まるわけじゃないんだからぁーーっ!。それにそいつだって自分から情報を得るには相応の見返りが必要だって言ってたでしょーーーっ!」
「い、嫌だぁっ!」
「えっ……」
リアとバジニールからナギが心に感じているであろう思いを聞かされ、更に強い思いでナギに拷問を代わって貰うよう呼びかけるナミだったが、ナギから返って来たのはそれ以上に強い思いの込められた拒絶の言葉だった。仲間思いを通り越して強情であるようにも感じられるナギの返答にナミ達は思わず言葉を失っていたのだが……。
「ちょ……何ムキになって意地張ったこと言ってんのよぉーーっ!。あんたの私達を思う気持ちは嬉しいけど……、こっちだってあんたが拷問に掛けられてるのを黙って見させられるは辛いんだからねぇーーーっ!」
「ち、違うよっ!。皆をこんな目に合わせたくないって気持ちがあるのは本当だけど、それ以上にこんな拷問なんかに僕は負けたくないんだっ!」
「なっ……!、それこそ何子供みたいなこと言ってんのよぉーーっ!。そんな下らない理由だったらさっさと根を上げて私に変わりなさーいっ!」
「嫌だぁっ!。ナミはちょっとぐらい情報が漏れても平気だって言ったけどそれでも僕達のヴァルハラ国が少しでも不利になっちゃうことは否めないじゃないかぁーーっ!。僕にはこのゲームに絶対負けられない理由があるんだから死んでもこんな拷問なんかで情報を漏らしたりなんかしないぞぉーーーっ!」
「ぐっ……。(そ、そうだったわ……。私もナギもデビにゃんからあのことを聞かされてるんだから死んでも負けるわけにはいかない理由があることを知ってる……。そりゃこの程度の拷問で根を上げるわけにはいかないわよね……)」
「な、なんだ……、意外にもただ負けず嫌いなだけだったみたいね。それでもやせ我慢してあいつの拷問を受け続けていい理由にはならないけど……」
「それに皆だって勝つためにゲームをプレイしてるんだから僕のことよりヴァルハラ国の情報が漏れることの方を気にしてよっ!。もし僕がどんなに我慢しても皆があっさり情報を吐いちゃったら意味ないんだからねぇーーーっ!」
「なっ……なんですってぇーーーっ!。こっちが心配してあげてるのにその言い草はなにぃーーっ!。あんたに言われなくたってれぐらいちゃんと分かってるわよぉーーーっ!。私だってどんな酷い拷問を受けたって絶対に情報を吐いたりしないんだからぁっ!。あんたの方こそそれだけ偉そうなこと言っといて少しでも情報が漏らすようなことがあったら只じゃ置かないわよぉーーっ!」
なんと意外にもナギが必要以上に自分が拷問を受けることに拘る理由は単にゲームに負けない為に情報を漏らしたくないだけで、ナミ達を庇うどころか自分と同じように拷問を受けても決して情報を漏らさないよう忠告していた。これには自分達を思い遣るどころかむしろ信頼していないように感じられ、激怒したナミは先程までの態度と打って変わってナギと同じようなことを大声で言い返していた。
「リア、バジニールっ!。こうなったらあんた達もぜぇーったいっ!あんな奴の拷問に負けて情報を吐いたりしたら駄目だからねっ!。ナギの奴を見返す為にも今の内から拷問に耐える為のイメージトレーニングをしておきましょうっ!」
「私もナギやあなたに言われるまでもなくさっきからずっとそうしてるわよ……。私は初めからこの世界でどんな目に合わされても受け入れる覚悟はできてるし、ゲームに登場するNPCである以上あなた達のように文句を言うこともできないんだからね」
「な、なんかさっきまでとまるで話の趣旨が変わってると思うんだけど……、まぁいいわ。あの子の言う通り私達プレイヤーの目的はゲームに勝利することだからね。その信念を誰より強く持ってるからこそ私もあの子の影響を受けてあなた達やNPC達と馴れ親しむことが重要だと感じ始めたのかもしれないわ。ゲームだけでなくともこれまでの人生で道徳的なことなんて散々言われてきたはずなのにね」
ナギの言葉に叱咤されてたナミ、リア、バジニールの3人のこの状況に対する雰囲気はまるで違うものになっていった。今まで3人とも中々自分や仲間達が拷問を受けることに納得がいかなかったようだが、ナギの言葉でその覚悟が決まるどころむしろ何としても情報を漏らさずに耐え抜いてやろうという意気のあるものへと変わっていた。これもナギのゲームに対する思いの強さの影響なのだろうか。
「おおっ!、どうやら当初の話と若干内容が食い違っているようですが、皆さんにナギ君の覚悟の程を理解して頂くことができたようですね。そして皆さん先程が自分が拷問を受けることを気にしているようですが……、私にはナギ君以外を拷問に掛ける気は一切ありませんので安心してくだーいっ!」
「な、なんですって……っ!。それは一体どういうことよ……」
「先程も申しましたがこのナギ君の心意気に水を差すのはあまりにも無粋……。ナギ君も自身で心配していた通り例えナギ君が私の拷問に耐え切り全ての情報を死守したしても、続いて拷問を受けたあなた達があっさり吐露してしまえばその努力は全て水の泡となってしまうのでーす」
「だから私達だって絶対あんたなんかの拷問に負けるつもりはないって言ってるでしょうっ!。ナギだけそんな酷い目に合わされるなんて余計納得できないわ。ちゃんと私達全員を拷問しなさいよっ!」
「ちょ……確かにあの子には悪いけど何もこっちからそんなこと言わなくたって……」
「ほほっ……、ですがあなた達だってどんなに必死になって自分が耐えたとしてもですよ、他の誰かが例え僅かでも自分より多く情報を漏らしてしまったらその者を悪く思わざるを得ないでしょう。それならば誰か一人を代表として拷問し、その者が最後まで私の拷問に耐え切れば引き出す情報はそれで全てとする私なりの配慮のつもりだったのですが……、やはり全員拷問されることをお望みなのでしょうか。それともナギ君ではその代表として不服であると……。この中で最も強い意志と強靭な精神を持っているのは彼だと思っていたのですが……」
「うっ……そ、それは……」
なんと拷問紳士には初めからナギ以外を拷問する気はなかったと言う。つまりはナギを拷問を受ける代表としてそれ以外の者から情報を引き出すことはないということだが、ナミ達はナギがその代表であることに不服があるのかと問われ返答に困っていた。拷問紳士の提案は当然ナギ達プレイヤー側にとってはあり難く、ナミ達も口では強気なことを言いながらも拷問紳士の拷問に耐え切れるのはナギしかいないと思っていたのだが……。
「くっ……でもそんなナギ一人に全てを背負わせるような真似……」
「私はそれで構わないわ……。残念だけどとてもあの子以上に拷問に耐え切る自信なんてないし……。あいつの言う通りあっさり情報を吐いてあの子の頑張りを無駄にするようなことはしたくない……っ!」
「バ、バジニール……っ!。そりゃ私だって忍耐力や精神力の強さならこの中でナギが一番だとは思ってるけど……ねぇ、リアはあいつの話をどう思う……リア?」
「………」
「おおっ!、これは私と同じNPCのリアさーん。あなたは横の二人と同じ意見ではないのですか。やはりNPCとしてプレイヤーをそこまで信用できないとお思いなのでしょうか」
「……っ!。リ、リア……っ!」
「いえ……この中で一番ナギが拷問に耐え切る強い精神を持ってるのはその二人……そしてあなたとも同意見よ、拷問紳士さん」
「ほほっ……、では先程から何故私のことをそんな不服そうな目で睨み付けているのですか」
「さっきから私達にとって虫のいいことを言ってばかりだと思ってね……。もし本当に私達から情報を引き出したいのなら精神力の強いことの分かってるナギ以外の誰かを拷問した方が手っ取り早いじゃない。例えば自分が弱音を吐いてるバジニールとかね……」
「ぐっ……。(この子ったらNPCの癖に全くプレイヤー対して容赦ないわ……。まぁ、確かにこの中だったら私が一番簡単に口を割りそうだけど……。だけどそれはあの子達のこのゲームへの思いが異常過ぎるだけであってむしろ一番人間としてまともな感覚を持ってるのは私だと思うんだけど……)」
「それなのにさっきからナギの覚悟に敬意を表してだとか思いに水を差すのは無粋だとか……、やってることの残酷さとは裏腹に私達に配慮するようなことばかり言って最初にこの館の住民達を拷問した時の話と随分印象が違うじゃないの……。それに仮にナギが拷問に耐え切ったとしてその後本当に私を拷問しない保証なんてどこにあるのかしら……」
「リ、リア……っ!」
リアの鋭い指摘にナミもハッとしたような表情を浮かべて再び拷問紳士に視線を向けた。確かに拷問紳士の発言はその風貌とミーレインの回想の話と大分印象がかけ離れてはいるが……。果たして彼は本当のことを口にしているのだろうか。
「おおっ!、それに関しては私を信用してくれとしか言いようがありませーん。ナギ君のみを拷問する理由も私と同じNPCであるあなたなら自ずと気が付くはず……。そしてあなたも彼が私の拷問に耐える一番の精神力を持っていることに同意しているならそろそろ拷問の方を再開させて頂きたいのですが……」
「くっ……」
「心配しないでここは僕に任せて、リアっ!。確かにリアの言う通り拷問紳士さんの言うことが信用できる保証なんてないけど……、それでも僕が拷問の耐えている間は他の皆が助けに来るまでの時間を稼ぐことができるはずだよっ!。もし仮に僕の後にリア達も拷問されることになっても皆で順番に耐えてできる限りの時間を稼ごうよっ!」
「ナギ……分かったわ。確かにあなたの言う通り今の私達にはそれくらいしか手段は残されていない……。屈辱だけど今はそいつの言葉が本当である可能性に縋るしかないわ……」
「私もあんたの忍耐力を信じて任せることにするわ、ナギ。もしそいつの言うことが嘘だったとしても私もあんたと同じで死んでも情報を吐き出す気なんてないし、皆が助けに来てくれた後それこそギッタギッタのボッコボッコにしてあげましょう」
「はぁ……、私やあなたやナミちゃんみたいに拷問に耐える自信なんてないからできたら私の番は一番最後にしてちょうだい……。他のメンバーが助けに来てくれる可能性を考えるとそれが情報を守るのに一番いい手段でしょうからね。自分で言ってて本当情けなくなるのが嫌だけど……」
やはり皆拷問紳士の言葉を信用することはできなかったが、それでもそれが本当である可能性に縋るしかなくナギだけが拷問に掛けられることを受け入れるしかなかった。勿論ナギからの呼び掛けにあった通り万が一自分達が拷問に掛けられることになっても最後まで耐え切る覚悟はできていたが、それでもナギ以上に情報を守り切る自身はなかった。
「ほほっ、では皆さんの同意が得られたところで拷問の方を再開していきましょうか。先程申した通り発動させる魔法を“フラッシオーバー”、MAGとCONの値を350の出力にして雷撃を流させて頂きますよ……」
“ピッ……”
“バリバリバリィィッ!”
「ぐっ……ぐあぁぁぁぁーーーっ!」
「くっ……ナギぃぃぃーーーっ!」
ナギ……、そしてナミ達の同意を得……、そうせざるを得なかったのだが拷問紳士はナギの拷問を再開した。電圧がある限界をこえると、電極間に火花が観察される現象、火花放電を意味する雷撃と同時に発生する火花の熱によるダメージ与える“フラッシオーバー”という更に強力な魔法の出力の雷撃を受けたナギはこれまで以上にその苦痛を感じさせる悲鳴を上げていた。つい先程ナギが拷問を受けることを了承したばかりであったが、やはりとてもナギの苦しむ姿を見ていられないのかナミは再び大声でナギの名を叫び、リアとバジニールも顔を俯けて目を背けてしまっていた。それでも他のメンバーが助けに来ることを信じて拷問の苦痛とその様子をただ見せつけられる悲しみと屈辱、それぞれに襲い掛かる負の圧力に必死に耐えていたのだが、そんな様子を見ながら拷問紳士は心の中で更にナギ達に対し意味深な言葉を投げ掛けるのだった。
「(ほほっ、果たして皆さんはこの自分達の中で最も信頼できる仲間が拷問に掛けられる姿をどれだけ見続けることができますかね。万が一この光景に耐え兼ねてログアウトでもしようものならあなた達はその罪悪感負けた影響を一身に受けて二度とゲームにログインできなくなってしまうのでーす。もしかしたら現実世界でもそのトラウマを抱き続け自ら命を絶ってしまうこともあるでしょう。特にバジニールとか言う頭の禿げたお方……、あなたから感じられる生命エネルギーは他の者達に比べ著しく衰弱しておりとてもナギ君達と行動を共にする程の人物とは思えませーん。多少は回復の兆しが見えてはいますがこのゲームをプレイするに相応しくないお方は早々に脱落して頂きまーす。真に拷問を受けているのはナギ君でなくあなた達の方なのですよ……ふふっ)」




