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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十二章 探索開始……北の森の恐怖の館
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finding of a nation 87話

「……祈祷弾っ!」


 “バァンッ……バンバァンッ!”


 「きゃあぁぁぁーーーっ!」

 「今だよ、“れいれい”さんっ!。あの女の人の悪霊が怯んでる隙に早く霊術士の魔法をっ!」

 「了解よ、カイルさんっ!。この館に縛られし悪霊を……、その怨念を鎮め我の意志に従いたまえっ!。……スピリット・ドミネーションっ!」

 「がっ……あ、頭が痛い……、心が苦しい……。いやぁぁぁーーーっ!」


 ナギやゲイルドリヴル、他のパーティがダンジョン内で様々なイベントに遭遇している中、同じくダンジョン攻略に参加していたカイル達のパーティも順調に館内部の探索を進めていた。カイル達もすでにこの館の住民の悪霊達と接触しており、今も“ミーレイン・ホーリースピリット”というこの館の次女の悪霊にカイルが祈祷弾を放ち、“れいれい”という霊術士の女性プレイヤーがスピリット・ドミネーションの魔法で相手の霊の掌握を試みているところだった。霊術士言ってもすでに魔術師との職と組み合わせた心霊術師という上級職に就いており、例え相手が自我を持った霊であっても魔法が成功する確率はかなり高いものであったようだ。


 「うっ……うぅ……っ!。あ、あれ……私は今まで一体何を……。確か地下室であの男に殺されて……、その後成仏できずに霊体のままずっと館の中を彷徨っていたはずなのにそれ以降の記憶がな……っ!。あ、あなた達は……っ!」

 「ふぅ……、どうやら上手くいったみたいよ、カイルさん。これだけ自我の強い霊を掌握するのは流石に大変だったわ。でもこれで彼女はこれから私達の指示に従ってくれるはずよ」

 

 どうやら“れいれい”のスピリット・ドミネーションの魔法は上手くミーレイン・ホーリースピリットの霊を掌握できたようだ。この館の当主の次女であったミーレインは、ナギ達の元に現れたローレインと同じく高貴な雰囲気の漂う白銀のドレスを着ており、西洋の貴族らしく頭の天辺で丁寧に束ねられた所謂お団子ヘアと言われる髪型をしていた。“れいれい”はボブショート程の長さの紫色の髪で、同じ霊術士でも西洋のイメージの強いリリスとは違いこちらは中華風の髪の紫より少し青に近い色のチャイナドレスを着ていた。誠実且つしっかり者のイメージでこちらもおおらか天然プレイヤーのリリスとは正反対のイメージだった。その他のカイルのパーティはヴィンスにレイチェル、ミステリー・サークルゴーレムの討伐で一緒だった激痛整体師、スラッと腰まで伸びた金髪に少し露出が多いが清楚なイメージのローブを着た女性の白魔導士プレイヤーのルミナース、寡黙な雰囲気の青髪剣士の男性プレイヤーの“斬れない……錆で”、腹部の露出した黒のタンクトップに薄青の短パンを履いたダンサー志望の女子高生プレイヤー“ママのパーマダサい”の8人だった。それぞれの職業のレベルは下記の通りだ。



 ・カイル  現在の職業 祈祷師 総合レベル・170(魔術師・101 祈祷師・69)

 ・ヴィンス  現在の職業 弓術士 総合レベル・172(槍術士・102 弓術士・70)

 ・レイチェル  現在の職業 戦斧士 総合レベル・179(戦士・105 戦斧士・74)

 ・れいれい  現在の職業 心霊術士 総合レベル・197(心霊術士・16 霊術士・101 魔術師・80) 

 ・ルミナース  現在の職業 白魔導士 総合レベル・208(白魔導士・25 治癒術士・103 精霊術士・80)

 ・激痛整体師  現在の職業 武闘家 総合レベル・162(治癒術士108 武闘家・54)

 ・斬れない……錆で  現在の職業 魔術師 総合レベル・171(剣士・100 魔術師・71)

 ・ママのパーマダサい 現在の職業 魔術師 総合レベル・176(舞踏術士・103 魔術師・73)


 

 「ご苦労様、れいれいさん。霊術士どころかその上級職の心霊術士に就いてる人が僕達のパーティにいてくれてとても助かったよ。……それじゃあこの女の人の霊にこのダンジョンについて色々聞いていこうか」


 カイル達は掌握したミーレインの霊にこの館のダンジョンについての質問を始めた。カイル達もセイナ達が発見したものと同じような内容が書かれた日記を手に入れており、この館に招かれた医者を名乗る男によって館の住民だった者達全てが惨殺されたという情報を手に入れていた。その情報を元にこの館の住民の霊を掌握して更なる情報を引き出すべきだとカイルは判断したようだ。


 「皆さん方の仰る通り私を含めこの館の者達はその医者を名乗る男によって無残にも惨殺されてしまいました……。その男は医者であるどころかとんでもない狂気に満ちた悪魔のような存在だったのです……」

 「とんでもない狂気……。それって一体どういうものなの、ローレインさん」

 「……そうですね。皆さんにその男の恐ろしさを良くして貰う為にもまずは私がその男から受けたむごたらしい体験からお話しましょう」

 「む、惨たらしい体験……。それは思い出すのも辛いことでしょうけど……、このダンジョンを攻略する為にも是が非でも聞かせてもらいたいわ」

 「はい……。それでは私が最初にその男から悲惨な体験への誘いを受けたところからお話しましょう……」


 スピリット・ドミネーションの魔法を掛けた本人の方が話しやすかったのか、ミーレインの霊との会話は“れいれい”が主導になって行われていた。リリスは強制的に霊を服従させるこの魔法の使用を嫌っていたが、魔法を掛ける瞬間こそ相手の霊が苦しんでいたもののその後のこちらの対応によっては普通に親しみを込めて接することも可能なようだ。“れいれい”に促されたミーレインはまずはこの館で自身に起きた出来事から話し始めた。


 「健康診断……でございますか、お父様」

 「そうだ。実はトーチャー先生が世話になってるお礼にこの館の者全員の診断をしたいと申し出てくれてな。折角だから受けることにしたんだ。診察は先生にお貸ししている地下室で行われるから、お前の診察時間である夜の9時になったらそちらに出向くようにしろ」


 まだ医者を名乗る男による殺人劇が行われる前、生前のミーレインは父親のいる当主の間に呼び出されていた。父親の名前は“サニール・ホーリースピリット”と言い、常に相手の内面を見透かしてるような鋭い眼光を放ちながらも同時に穏やかさも感じられる水面のように潤った瞳、綺麗に整えられ長く伸びた無精髭ぶしょうひげ、肩幅のある筋肉質の体格で非常に漢らしさを感じさせる風貌の男性だった。髪型は前髪を額が見えるように左右に分けて肩まで伸びたロングヘア、服装は当然高貴さ溢れるカフスに金箔で装飾の施された真紅のコートに光沢のある高級な革素材を用いた薄い茶色のベストを着ていた。どうやらトーチャー、恐らくクーペの日記やミーレインの話にあった医者を名乗る男のことだろうが、その者の診察を受けるようサニールから勧められているところだったようだ。


 「は、はぁ……、ですがそんな夜中にしかも地下室でですか……。それにお医者様の診察というのは大抵食事を取る前の午前中に行われるものでは……」

 「ははっ、先生はそんな古臭い様式を取る時代遅れの医者ではない。魔法を用いた最先端の医学で我々の身体を診てくれるのだからお前も遠慮せず夕食を食べてから診察してもらえ。心配せずとも昨日私と母さんも既に先生に診てもらったが何の問題もなったぞ。勿論身体の健康状態の方もな。地下室というのは確かに不気味だったが……、それも先生の意向ならば従わざるを得まい」

 「……分かりました。では先生今晩9時に出向かせて頂くとお伝えください」

 「うむっ。まぁ、健康であるに越してあるが偶にはこうして医者に診てもらわないとな。なんぜどんな強靭な身体の持ち主も内蔵だけは鍛えようがないからな〜、はははっ」

 「………」


 あまり気乗りのしない様子のミーレインであったが、父親であるサニールの顔を立てる為にトーチャーの診察を受けることにした。サニールとその妻である女性も診察を受けたと言っていたが、何も問題がなかったのはまずはこの館内で権威の高い者の信頼を得る為のトーチャーの策なのだろう。ミーレインの診察は夜の9時に行われているということで、その日の夕食を終えた夜の8時半頃になってミーレインはトーチャーの待つ地下室へと向かって行った。その後の自身の身にどのような恐ろしいことが起こるとも知らずに……。因みに恐らく本名ではないだろうが男の名乗るトーチャーとは拷問を意味している……。


 「こんばんは……、トーチャー先生。先生に診察の予約を入れて頂いていたミーレインです。約束の時間になりましたのでこちらに参りました」

 「おおっ!、これはよくいらしてくださいました、ミーレイン。さっ、遠慮せずまずはこちらの席に掛けてください」

 「はい……それでは失礼致します」

 

 “ゴゴゴゴゴゴォ……”


 地下室へと赴いたミーレインをトーチャーは優しく迎え入れ診察用の椅子と思われるものに座らせた。トーチャーの風貌は正しく広間に捕えられたナギ達の元に現れたあの“拷問紳士”の姿そのものであったが、頭部にあのような鉢がねはしておらず、指先の爪も剥がれてはいなかった。服装も背広ではなく白衣に身を包んでおり、医者として違和感が感じられるような格好はしていなかったようだ。だが白目を剥いた目と唇の開かない歯と歯茎が剥き出しになった口は相変わらずで、ミーレインや他の者達が不気味さを感じるには十分すぎるものでもあった。ただ当主であるサニールの人を見た目の風貌で判断しない立派な精神が仇となって皆異論を口にすることができなかったのだろう。またトーチャーが待ち受けていたこの地下室もナギ達の捕えられていた広間と全く同じ空間で、インターホンのようなものでミーレインが来訪を伝えるとあの地響きとともに壁の隠し扉のようなものが開き始めた。また当然通常の人間が見て驚くような悍ましい拷問器具の数々は置かれておらず、30メートルを超える高さの天井にいくつも設置された白熱灯によってまるで部屋全体が真っ白になる程の明るさで照らしていた。


 「はい……はい……。ふむぅ、どうやら心音の方は問題ないようですね。次は瞳孔のチェックをしてみましょう。……ちょっと目の方を失礼しますよ」

 「はい……」


 ミーレインを診察用の椅子に座らせた後トーチャーはまず首から下げた聴診器を身体に当て心音、その他の身体の内部から発せられる音のチェックをした。その後はペンライトの光を当てて瞳孔のチェック、脈拍や血圧、血糖値の測定、口を開かせて扁桃腺の確認なの現実の世界でも基本となるような健康診断を済ませていった。そしていよいよサニールの話していた最先端の医学による診断を行うといい、ミーレインに診察台の上に横になる促してきたのだが……。


 「さあ……、ではこちらのベッドに横になって楽にしてください、ミーレイン。これから私の魔法を用いた最先端の医学による診察を行って行きマース」

 「は、はい……よいしょっと……」


 トーチャーに促されるままミーレインは診察台に横になってしまった。ここまで通常の診断が行われたことでミーレインの警戒心も緩み少し安心してしまっていたようだ。だがミーレインが診察台に横になった直後、その安心を裏切るような恐ろしい行為がトーチャーによって行われるのであった。


 「さて……、それでは少し部屋の明るさを調整して来ますので待っていて下さい。少しの間視界が暗くなるかもしれませんがご心配なさらずに……」

 「は、はぁ……」

 「では一度明かりを落としますよ……」


 “ピッ……”


 そういうとトーチャーはミーレインを診察台に残して明かりの電源のある場所へと向かって行った。そしてトーチャーが電源を落とすともに部屋中の明かりが全て消え、ミーレインの視界は文字通り真っ暗な状態になってしまった。突然視界が暗闇に包まれたことに戸惑うミーレインだったが、事前に注意を受けていたこともあり特に疑問は抱かずに診察台に横になったまま視界が戻るのを待っていた。だがいつまで経っても暗闇の状態から明るさが調整される気配がなく、流石に疑問に思ったのかミーレインは診察台から起き上がろうとしたのだが……。


 「ト、トーチャー先生……。一体いつまでこの状態のまま……。これだけ真っ暗だと流石に私も怖くな……」


 “バッ!”


 「きゃっ!。な、なに……っ!、急に体が勝手にベットに引き寄せられてこんな体勢に……。それにまるでベットに張り付けられてるみたいで体が動かせない……。これは一体どういう……」


 “カチッ!”


 「……っ!、い、今の音は……っ!」


 暗闇の中診察台から起き上がろうとしたミーレインだったが、何故か急に診察台のマットに吸い寄せられ両手両足を開き大の字を描いて体を張りつけにされてしまった。そこからまるで金縛りにあったように体を動かすことができず、ミーレインは必死に全身に力を込めてもがいていたのだが突如両手足の首の辺りで何かが組み合わさったような金属音が聞こえていた。そしてその音がした直後から段々と部屋の明るさが戻っていき、慌てたミーレインが自分の体を確認するとそこには目を疑いたくなるような光景が広がっていた。


 「こ、これは……、私の手足に手錠が掛けられて……、体にもベルトが何重にも巻かれてる……。い、一体どういうことなの……。それにトーチャー先生はどこに……」

 「おおっ!、私ならここにいますよ、ミーレイン。一体何をそんなに怯えているのですか?」

 「そ、それはだって私の体がいきなりこんな……。それによく見ると私の横になっている診察台の様子もすっかり変わっていて……、まるで鉄の上に寝ているように背中が冷たく感じられます……。部屋の中もまだ薄暗いまま何やら重苦しい雰囲気が漂ってとても明かりが消える前に居たのと同じ場所とは思えませんわ……」

 「おおっ!、それは当然デースっ!。私の魔法で全く別の空間へ移転させたのですから。あなたが横になっているその台も診察台なのではありませーん」

 「べ、別の空間……。では一体ここはどのような場所だと言うのですか……トーチャー先生。これも先生の最先端医学を行う為のものなのでしょうか……」

 「おおっ!、それは違いマースっ!。ここは最先端医学等と言う下らないものではなく、恐怖と絶望、そして安堵と官能の入り混じった芸術とも言える“拷問”を行う為の拷問部屋でーす。あなたが横になっているのも診察台ではなくこれからその芸術のモデルになって頂くための拷問台でーすっ!」

 「ええっ!。け、健康診断に来たはずなのにいきなりご、拷問なんて……。何故そのようなことをするのですか、トーチャー先生っ!」

 「ノーッ!。私は医者等ではなくトーチャーと言う名前も本名ではありませーん。私の本当の名は拷問紳士……、相手に最高の責苦と官能を与え情報を引き出す拷問のエキスパートでーすっ!」

 「な、なんですって……っ!」


 ミーレインの拘束に成功したからとうとうトーチャーはその本性を現し、ナギ達にも名乗った自身の本名である拷問紳士の名を明らかにした。更にはいつの間にか服装も白衣から背広に変わっており、頭部にはあの異様にネジに巻かれた鉢がねも装着していた。指の爪も全て剥がれ爛れた身が露わになっており、その姿は完全にナギ達の前に現れた者と同じものになっていた。また広間の明るさも何とか地上付近の視界は開けているものの、横になったミーレインの見上げている天井はまるで底なしの暗闇のように先が見えず以前に比べると大分薄暗いものになっていた。両手足に手錠が掛けられミーレインが拘束されているベッドも冷たい鉄の板に変わっており、まさに拷問紳士に捕えたナギ達と同じと言える状況がこの場に再現されていた。すでにミーレインが亡くなっていることを考えると再現されたと言えるのはナギ達の方かもしれないが……。

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