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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第二章 ヴァルハラ国建国っ!、そして初めての内政っ!
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finding of a nation 7話

 内政職と副業職の選択も終わりプレイヤー達は再びfinding of a nation のマップの世界へと転移してきた。するとそこにはナギ達の所属する国、ヴァルハラ国の首都になるヴァルハラ城が高台からの景色を背に聳え立っていた。どうやら崖際に城を造りそのから北に向かって城下町を広げていくようだ。南側を崖に面することで城の防御はかなり厚そうだった。


 「うっわぁ〜〜〜〜〜っ!、これが僕達の最初の城となるヴァルハラ城かぁ…。すっごい大きなお城だなぁ。今までプレイしてきたどのMMOより大きいよ」


 ナギ達の前に現れたヴァルハラ城は現実世界では考えられないぐらいの大きさで、高さは200メートル、総面積は20平方キロメートルを超えなんと江戸城の10倍もの広さがある。しかもそれはあくまで内郭のみ大きさで、外郭はヴァルハラ城の建設予定地であった4マス分の大きさということになる。因みにこのゲームの1マスは150平方キロメートルほどで、ヴァルハラ城建設予定であった4マスすべて合わせると東京23区と同じくらいの面積がある。城の中央には王のいる宮殿のような塔が聳え立っており、その塔だけで高さは50メートル以上はあった。当然王のいる宮殿が最上階の階層であり、その宮殿の頂点がこの城の頂点でもあった。残りの高さの150メートルは50メートルごとの大きな階層に分かれており、つまりはこのヴァルハラ城は4段階の階層で建造されていることになる。一番下の階層が一番広く、その上に一回りづつ小さいブロックを積み上げているような作りになっていた。一層ごとの屋上にテラスが広がっており、特に王の宮殿の前のテラスからの景色は絶景でだろうとプレイヤーの皆が思っていた。プレイヤー達は城の前の広場にいたのだが、その広場も数万人のプレイヤーがいてもまだ余裕があるくらい広かった。


 「本当…。でも何だか物々しいっていうか、凄い威圧感みたいなものが漂っていて気の休まるって感じのお城じゃないわね…。やっぱりヴァルハラって言うだけあって毎日のように戦いに明け暮れてる兵士達の城って感じ。首都そのものが前線基地なんじゃないかって思えてくるわ。立地も背面は崖に面してるし、これならいつ敵に攻め込まれても安心ね」


 ナミはヴァルハラ城の大きさに圧倒され、同時に少し物々しい雰囲気を感じていた。ヴァルハラ城の造形はとても美しく整ったものであったが、少し色の濃い石材で造られていたのか全体に暗い色合いで包まれていた。城の中には王の宮殿以外にもいくつもの塔が聳え立っており、そのどれもが敵の侵入を察知するための見張り塔のようにナミには見えていた。このヴァルハラ城はプレイヤー達の体を休める居城あると同時に要塞であったのかもしれない。


 「まぁできれば首都には攻め込まれない方がいいと思うだんけど…。あっ、それより見てみて。城の向こうの崖から何か出てくるよ。これもまた凄い大きいものみたいだけど…」


 ナギ達がヴァルハラ城に凄さに圧倒され呆然としているなか、カイルはヴァルハラ城の背後の崖のの方からこれもまたとてつもなく大きなものが伸びてきているのを発見した。そのヴァルハラ城にも迫ろうという大きさの物体はまさに、ナギ達の所属するヴァルハラ国限定の固有自然遺産、世界樹ユグドラシルであった。神話の世界では世界そのものを体現する巨大な木であり、北欧神話に登場する9つの世界を全て内包することから世界樹と呼ばれていたのだが、ゲームでもその設定が反映されていたのかその幹の大きさはヴァルハラ城の面積の半分以上あった。高さはヴァルハラ城とは比べ物にならず雲のを突き抜けてまるで宇宙にまで伸びているようでその頂点は地上からでは全く確認できない高さにあった。流石にユグドラシルの中に城を建てて国を作ることは出来ないだろうが、その幹の面積の広さと高さは圧巻だった。プレイヤー達はその光景を見て心底このゲームのスケールの大きさを実感していた。


 「うっわ〜…、あれがユグドラシルかぁ…。何だかさっきからこの世界のスケールの大きさに圧倒されてばっかりだな〜。もしかして現実世界の地球より広いんじゃないの。この世界…」

 「流石にそれはないんじゃないの…。でも日本よりは確実に大きいわよね。アジア大陸ぐらいあるのかしら。あっ、そう言えばユグドラシルの根元にはミーミルの泉も配置されてるんじゃないの。確かあんたの建国計画だと滝壺と一緒になってたわよね。後でヴァルハラ城のテラスから高台の下を覗いてみましょう」

 「へぇ〜、このヴァルハラ国の建国計画はナギが考えたのにゃっ!。すっごい良く出来た建国計画で僕びっくりしちゃったにゃ。ところで皆は後二つの職業は何になったにゃ。僕は希望通り魔導器と錬金術師になれていたにゃよ」

 「あっ、そう言えばまだ確認してなかった。えーっと…一体どうなったのかな」

 デビにゃんに言われナギ達は内政職と副業職について確認していなかったことに気付き、慌てて端末パネルを開き自分達の職業を確認した。

 「……あっ、僕もちゃんと希望通りの職に就けてるよ。ほら、畜産と鍛冶屋。畜産はともかく鍛冶屋はデビにゃんの言ってたことがあるから無事なれてよかったな〜。多分他のプレイヤー達にも人気だっただろうし…」

 「僕も希望通りちゃんと魔法学者と付術師になれたよ、ナギ。っというわけでナギの装備にもちゃんと付術を付与して上げるから僕が素材を集めてきたら武器とか防具作ってね。お金を取るなんて言い出さないでよ」

 「そ、そんなこと言わないよ…。でもこのゲーム自分が就いていない職業の仕事は他のプレイヤーに頼まないといけないみたいだから、いつもみたいに仲間内だけで遊んでるわけにはいかなそうだね。ナミは結構ソロでMMOをプレイしていたみたいだけどやっぱり他のプレイヤーに頼み事するのとかは得意だったのかな。そういえばナミの職業は何になったんだっけ」

 「まだ見てないわよ。私戦闘系以外の職業なんて何でも良かったし。ちょっと待ってて、今確認するから…」


 どうやらナギ、カイル、そしてデビにゃんは内政職も副業職も自分の希望した職に就けたようだ。特にナギとデビにゃんは他のプレイヤーからも人気がありそうであったため幸運だっただろう。カイルが付術師になれたのも幸いだった。付術は場合によってはかなり強力な効果が付与されるため、知り合いに一人いるだけでも大変便利になるだろう。ナミは何も希望を出さなかったようだが果たしてどのような職に就いているのだろうか。ナミは戦闘職以外はあまり興味がなさそうだったが…。


 「えーっと…何々…げえっ!。鉱業と宝玉師だって…、宝玉師はともかく鉱業って鉱山とかに潜って鉄とか石炭とか発掘するやつよね。も〜、か弱い乙女であるこの私にそんな男臭い仕事やらせるっていうのっ!」

 「(全然か弱くないと思うんだけど…、それに鉱山の作業員って何だかナミに似合ってそう。かなり男っぽい性格してるし…)」

 「にゃっ!、このゲームの設定的に石炭はないと思うにゃ。でも鉱業と宝玉師って案外相性いいかもにゃっ!。鉱業のスキルは何になってるにゃ、ナミ」

 「えっ、ああ…えーっとスキルは……金属の分類の…、鉄だって…、もう最悪…」

 「にゃ〜…確かにそれは残念だけど頑張って玉石のスキルを取れば宝玉師との相性はばっちりにゃ。玉石のスキルを取れば鉱山から一杯宝石を取れるようになるにゃ。しかも採取できた宝石のいくつかは国に納品せずに自分の物にすることに出来るにゃ。宝玉師ならそれを特別な魔力の篭った綺麗な宝玉に加工できるにゃっ!」

 「そうなのっ!、それってすっごく私に似合ってるじゃないっ!。綺麗な宝玉作れたらナギにプレゼントしてあげるね」

 「う、うん…。(なんだか急に女の子らしくなったな…)」

 「あっ、二人とも。ブリュンヒルデさんが城の一番上のテラスに出てきたよ。まずは表彰式をするって言ってたけど、一体どのパーティが優勝したのかな…」


 カイルが城の最上階のテラスの方を指さすとそこにはブリュンヒルデの姿があった。周りには恐らくNPCではあろうがブリュンヒルデの仕事をサポートするために何人かの文官と兵士が配置されていた。一段目と2段目のテラスには表彰台のような物が設置されており、上位入賞者はそこに転送されるようだ。


 「皆様、職業の確認はお済になったでしょうか。それではいよいよ先程のモンスター討伐の表彰式を始めていきたいと思います。まずは個人賞の発表からしていきたいと思いますが、上位3名の方は発表と同時にこちらの表彰台の方に転送されますので心構えをしておいてくださいね。ではまず個人討伐数3位の方から発表していきたいと思います。ヴァルハラ国建国モンスター討伐イベント、個人討伐数第3位に輝いたのは……、ゲイルドリヴルさんですっ!」

 「うおぉ………」

 挿絵(By みてみん)

 ブリュンヒルデの発表と共に表彰台へと転送されたのはゲイルドリヴルというキャラ名の女性プレイヤーだった。人形のように整った顔立ちをしているにも関わらず、どことなく男性のような凛々しさを併せ持つ美しい女性だった。その美しさはブリュンヒルデにも匹敵するもので、特にスタイルに関しては逸脱していて、180センチ近くある身長、バスト、ウエスト、ヒップでしっかり引き締まった体型、そして長く真っ直ぐ伸びた美脚、全体像も美しく纏まっていて広場にいるプレイヤー達、特に男性プレイヤーを魅了してしまっていた。怪しい雰囲気のする紫色の髪を腰の辺りまで伸ばしており、ブリュンヒルデような神々しさとは違い少し悪魔じみているというか近寄りがたく話し掛けずらいオーラを醸し出していた。職業は槍術士のようで、装備は他の槍術士と同じく、自身の髪の毛より少し濃い紫色の分厚いボディスーツを着ていて、肩や手首、足や膝などの要所だけに鎧の一部を装着しているようだった。どうやらこの世界の人々にとって槍兵とはかなりスピーディに動くイメージがあったようで、槍術士のプレイヤー達は皆剣士のような重苦しい鎧は装着していなかった。実際には顔も覆い隠すような兜を被り、全身を重装甲の鎧で纏って更には盾まで装備して重量戦をすることの方が多かったであろうが、このゲームの世界では敵の攻撃を躱しながら華麗な槍捌きでどんどん敵を薙ぎ払って行くイメージの方が強かったようだ。


 「これまたすげぇ美人なプレイヤーだな…。本当に日本人かよって感じの顔立ちだぜ。まっ、最近の日本は海外から移住してくる人が大量に増えて二人に1人は外国人のハーフだって言われてるらしいが…」

 「本当…。ブリュンヒルデさんといいあの人といい女性からしてみれば羨ましい限りだわ。でもそう言えばゲイルドリヴルって北欧神話に出てくるブリュンヒルデさんと同じワルキューレの名前じゃなかったかしら…」

 「ええ…、確か“槍を投げるもの”って意味の名前のワルキューレだったと思うわ。槍術士ってことから多分ヴァルハラ国のイメージに合わせたって言うより槍を扱うのが好きであの名前にしてるんでしょうね。名前を決める時はまだ私達の所属する国は発表されてなかったしね」


 ゲイルドリヴルの美しさに魅了され口数が少なくなってしまっているプレイヤー達だったが、続いて発表されるゲイルドリヴルの討伐数を聞いて更に度肝を抜かされることになるのだった。果たして一体何体のモンスターを討伐していたのだろうか…。


 「見事モンスター討伐数第3位に入賞されたゲイルドリヴルさんですが、果たしてその討伐数は何体だったのでしょうか。きっとモンスター達もその美しい姿に魅惑されて動くことが出来なかったのでしょう。ではゲイルドリヴルさんの討伐数を発表したいと思います。その討伐数は何と……872体でございまずっ!」

 「なにいぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 ゲイルドリヴルの討伐数を聞いてプレイヤー達は大声を出して一斉に驚いた。どうやらほとんどのプレイヤー達はトップのプレイヤーで恐らく500体ほどであろうと予測していたため、3位の時点でその予測を大きく上回っていることに度肝抜かされてしまったようだ。それにしてもブリュンヒルデがすでに女王というより表彰式を盛り上げる司会者のようになってしまっている。テレビに出ているのは見たことはないが番組のMCなどに向いているのかもしれない。その神々しい姿から出演者やゲストの人々に舐められずにスムーズに番組を進行させられるだろう。


 「は、872体って…、俺なんてたったの78体で100体にも到達してないんだぞ。しかも攻撃一辺倒の斧術士であるにも関わらずにだ。一体どうやったらそんなに討伐できるんだよ。まさかモンスター達が本当にあいつの容姿に魅了でもされてたってのか…」

 「そんな事あるわけないでしょ。それはあんたの討伐数が低すぎるのよ。弓術師の私でさえ129体も討伐で来たんだから。でも確かに872体って恐ろしい数字よね…。一位のプレイヤーでも500体ぐらいだと思ってたのに…」


 ゲイルドリヴルの討伐数にほとんどのプレイヤーが驚かされており、ナギ達のパーティメンバーで同じく槍術士であったヴィンスも同じように驚かされていた。


 「くっ…、マジでそんなに討伐したのかよ…。俺なんて107体で100体を超えるのがやっとだったのに…。同じ槍術士として情けなくなっちまうぜ…」

 「何言ってるんだよ、ヴィンスっ!。ヴィンスは僕達を守るために前衛の仕事に徹してくれてたからだろ。止めを僕に譲ってくれてたのもあるし、少なくとも200体には届いてはずだよ」

 「ほ、本当です…。討伐数は少ないかもしれませんがヴィンスさんは私達の為に一生懸命に戦ってくれました。ヴィンスさんがいなかったら精霊術士の私なんてあっという間に戦死してしまってますっ!」

 「お前達…」

 「へっ、何が一生懸命に戦ってくれましただよ。あんた程度の槍術士じゃあゲイルドリヴルさんには遠く及ばないね。なんてたってゲイルドリヴルさんは私達を全員守りながらあの討伐数を叩きだしんだからな」

 「……何っ!」


 カイル達がゲイルドリヴルの討伐数を聞いて落ち込んでいるヴィンスを元気付けようとしていると、隣から意地の悪そうな女の子のプレイヤーが急に話し掛けてきた。口振りからするとゲイルドリヴルのパーティメンバーだったようだがもしかしたら彼女の戦いぶりを見ていたのだろうか。だがカイルはその少女のヴィンスに対する失礼な発言の方が引っかかり、その少女の挑発に乗ってしまうように突っかかって行ってしまった。


 「ちょっと君っ!。今のはあまりに失礼な発言じゃないかっ!。確かにゲイルドリヴルさんの討伐数は凄いかもしれないけど、君にヴィンスのことを馬鹿にする権利があるのかいっ!」

 「待てカイル…。そのことはもういいんだ…。討伐数が少ないのは俺の実力不足のせい、これ以上駄々を捏ねても余計惨めになるだけだ。それより君、口振りからするとゲイルドリヴルと同じパーティメンバーだったようだが彼女の戦いぶりを見ていたのかい…」

 「ああ…、とんでもない戦いぶりだったぜ…。物凄いスピードと槍捌きでモンスター達を討伐していって私達他のパーティメンバーにモンスターの一匹すらも近づけさせなかったんだ。しかも私達の討伐数のことも考えてくれてたのか何体かのモンスターは体力がギリギリのところで残してくれていて、おかげで私達のパーティは全員討伐数が200体超えだぜ。こりゃ団体賞のトップもいただきだな」

 「………」


 やはりカイル達に話し掛けてきた女性プレイヤーはゲイルドリヴルのパーティメンバーだったようで、その戦いぶりを聞いたカイル達は再び言葉を失い沈黙してしまっていた。ゲイルドリヴルは他のパーティメンバーの経験値のことも考えてモンスターの何体かの止めを譲っていたようだが意外と律儀なプレイヤーなのだろうか。


 「…っ!、何だかカイル達の方が騒がしいけど何かあったのかな。他のプレイヤーと少し言い争いになってるみたいだけど…」

 「ほっときなさいよ。別にMMOの世界じゃ珍しいことじゃないでしょ。プレイヤーキルだって禁止されてるし、争いが激しくなったら止めにいけばいいわ」

 「そうだね……んっ!、どうしたのセイナさん。なんかさっきから嬉しそうな顔してるけど」

 「ふふふっ…んっ、いや、872体だったら私の方が勝ってるから2位以上は確定したと思い喜んでいただけだ。この調子なら1位も夢ではないぞ」

 「えっ…」

 「それでは一度ゲイルドリヴルさんには一度退場していただき続いて第2位のプレイヤーに登場していただきましょう。横にある椅子にでも掛けて待っていてくださいね。なお3位に入賞されたゲイルドリヴルさんには経験値と功績ポイントのボーナスと、装備した者の攻撃速度上昇させ武器に風属性の魔力を付与する東風の腕輪を贈呈したします。ヴァルハラ国の特性と合わせてゲイルドリヴルさんの華麗な槍捌きが更に強化されますね。是非私も一度拝見させていただきたです。それでは討伐数第2位の方を発表したいと思います。モンスター討伐数第2位にランクインしたプレイヤーは……」


 ナギ達がセイナから咄嗟にでた言葉に驚いているとブリュンヒルデから第2位の受賞者が発表されようとした。だがナギはそんなこと気にせずにセイナに今の発言の真意を問いただそうとした。


 「ちょ、ちょっとセイナさん今の言葉どういうことっ!。もしかして本当にゲイルドリヴルさんより討伐数多かったのっ!」

 「ああっ、ちゃんと数えてたわけじゃないしもう端末パネルで確認も出来ないから確実というわけではないが、確か四桁は…っ!」

 「第2位にランクインしたのは…、セイナ・ミ・キャッスルさんですっ!」

 「あっ…」


 セイナがナギの質問に答えようとしたその時、ブリュンヒルデから第2位の受賞者の名が発表されそれと同時にセイナはナギ達の前から姿を消し、なんと城のテラスにある表彰台の方に転移させられていた。どうやら2位にランクインしていたのはセイナのようだったが果たして討伐数は何体だったのだろうか。


 「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!、流石美城聖南だぜっ!。芸能界1の廃人MMOプレイヤーの称号は伊達じゃねぇ。しかもよく見るとやっぱり可愛い…。ブリュンヒルデさんやゲイルドリヴルさんも美人だったけどあの美しさと可愛らしさを兼ねそろえた美城聖南には遠く及ばねぇぜっ!」

 「セイナぁぁぁぁぁぁぁっ!。好きだぁぁぁぁぁぁぁっ!、結婚してくれぇぇぇぇぇぇっ!」

 「全く…、何熱くなってるんだか…。これだから男って嫌なのよね」


 セイナが表彰台の所に立つと広場にいる男性プレイヤー達が大声で騒ぎ始めた。セイナは現実世界では有名女優ということもあったが、数少ない芸能人の廃人プレイヤーであったためにMMOプレイヤーの中ではかなり親しまれた存在だったようだ。今まではゲームの進行に関わるため気持ちを抑えて出来る限りセイナに話し掛けたり握手を求めたりなどは我慢していたのだが、いざセイナが表彰台に立つと箍が外れてしまったのかまるでアイドルのライブの会場のように騒ぎ出してしまった。芸能人のMMOプレイヤーは他にもいたのだがその名声や人気を利用して、ファンからゲーム内のアイテムやお金を徴収したり、自分より遥かにレベルの高いパーティに入れてもらい一気に大量の経験値を取得したりしてまともプレイするプレイヤーが少なかったため一般のプレイヤー達からは敬遠されていた。そういったこともあって結局ほとんどの芸能人プレイヤーはゲームなどまともにプレイせずに飽きてしまったようで、セイナはそういった中で廃人プレイヤーとまで言われるようになった唯一のプレイヤーである。セイナは現実世界の芸能人であると同時にネットの世界でもアイドル的存在になっていたのだった。


 「うわぁ…、やっぱりセイナさんの人気は凄いね。今まで皆騒がなかったのはゲームの進行を妨げたくなかったからなのかな。流石MMOプレイヤーはマナーが高い」

 「そうね…。私もこんなに人気があるなんて知らなかったわ。前のゲームでも全然芸能人であることを笠に着ないで全部自分の力でプレイしてたからね。そういうところがこの人気に繋がったのかしら。それにしてもやっぱりセイナは凄いわね。まさか本当に2位になっちゃうなんて…。調子に乗って討伐数の勝負なんて仕掛けるんじゃなかったわ」

 「ええ〜、でもナミもかなりの数を討伐してたでしょ〜。僕と行動してる間だけでも200体以上は討伐してたよ。…っていうか2位に入賞したっていうのにあんまり嬉しくなさそうだね、セイナさん」

 「あれはむしろ不満って感じの顔ね。どうせ自分が1位だとでも思ってたんでしょ。こういうところが廃人プレイヤーの嫌なところよね。もっと素直に喜べばいいのに…」

 「くぅ…、どうして私が1位でないのだ…はっ!。もしかして途中でナギにバーサクミートを貰って経験値の入手を優先したのがまずかったのか。くっそぉ…、経験値など要らなかったからもっと弱いモンスターを大量に討伐しておけば良かった…」


 セイナは2位に入賞したにも関わらずこの結果には不満だったようだ。どうやらゲイルドリヴルの討伐数を聞いて自分が1位だと確信していたようだが更に上がいたようだった。そしてブリュンヒルデの口からセイナの討伐数が発表された。


 「セイナさんは凄腕の剣士プレイヤーのようで、モンスターの討伐数においては2位ですが実は現在のレベルでは1位の方を上回っております。恐らく経験値の多く入手できる強力なモンスターを多く討伐していたのでしょうね。そんなセイナさんの討伐数は…、なんと4桁に乗って1439体で〜すっ!」

 「ええぇぇぇぇぇぇっ!」


 なんとセイナの討伐数は1439体だった。ゲイルドリヴルを遥かに超える討伐数に広場内のプレイヤー達はまたも驚かされていた。一体どうやったらそんなに討伐できるのであろうか。しかも1位のプレイヤーは更にその上をいっているのであり、プレイ技術によってここまで差が出るは皆初めての経験だった。


 「では見事2位に輝きましたセイナさんには賞品として序盤では中々手に入らない電気石を素材にして作られたショールブレイドと、剣技系のスキルの威力上昇の効果の付与されたミスリルガントレットを贈呈させていただきます。当然経験値と功績ポイントのボーナスも送らせていただきますので確認の方をよろしくお願い致します。ではセイナさんもそちらの席に着いてお待ちください」


 セイナも用意された席に着きいよいよ1位のプレイヤーが発表される時がやってきた。プレイヤー達は緊張した面持ちになり息を呑んでブリュンヒルデの口から発表されるのを待ち望んでいた。ブリュンヒルデもそんなプレイヤー達の雰囲気を感じ取ったのか今までのような軽い感じではなく、発表の前に少し深く息を溜めてより重大さをアピールして1位のプレイヤーを発表した。


 「ではいよいよ第1位に輝いたプレイヤーを発表したいと思います。記念すべき第1位に輝いたのは…、不仲奈央子ふなかなおこさんですっ!」

 「げえぇっ!」

 「何だとっ!」


 1位のプレイヤーが発表されたというのに広場にいるプレイヤー達は皆嫌そうな表情を浮かべて驚いた。テラスにいるセイナもその名前に聞き覚えがあったようで偉く驚いていたが、同じくかなり嫌そうな顔を浮かべていた。そんな中登場した不仲奈央子とは一体何者なのだろうか。表彰台に現れたとは普通の20代後半の女性のようだったが…。


 「ど、どうしたのかな…皆…。別に普通の女の人に見えるんだけど…」

 「そうね…。でも確かあの名前なら私とセイナがやってMMOでも見たことあるわよ。あの表情からするとセイナも知ってるみたいだけど、一体何者なのかしら。前のMMOではセイナと並んでランキングのトップ10には常に入っていたけど…」


 ナギ達はどうやら不仲奈央子というプレイヤーについて特に知っていることはなく、周りのプレイヤー達が何故驚いているのか分からなかったようだ。そしてその不仲奈央子というプレイヤーは表彰台の上に立つと何やら急に喋りだし、いきなり自身についての自己紹介を始めるのだった。


 「おーほっほっほっほっ!、私が今回名誉あるモンスター討伐数第1位に輝きました不仲奈央子でございます。皆様以後お見知りおきの方をお願いいたしますわ。おーほっほっほっほっ!」

 「な、なんだ…」


 不仲奈央子というプレイヤーはいきなり高笑いをして自ら討伐数に1位に輝いたことをアピールしてきた。他のプレイヤー達は謙遜して誰も言葉を発しなかったもののこの不仲というプレイヤーは一応敬語ではあったがまるで遠慮のない喋り方で広場中のプレイヤー達に聞こえるように大きな声で次々と自身のことについて話し出した。


 「さて…、私がこのヴァルハラ国に所属したからには必ずこの国を優勝国にしてして差し上げます。なので皆様この国のブリュンヒルデ様に次ぐナンバー2のプレイヤーには是非私を推してくださいませ。間違ってもあそこにいるセイナとかいうお色気馬鹿などを信用してはいけませんよ。おーほっほっほっほっ!」

 「なにぃ〜〜〜っ!。一体私のどこがお色気馬鹿だというのだ、奈央子っ!」

 「どこって…、その皆を惑わす幼気な少女を装った顔と、食べ過ぎで太っただけでできた豊満な胸の脂肪と、嫌らしくも突き出した腐った桃のようなお尻のことをお色気と言っているのですわ。そして馬鹿というのは体に養分を取られ過ぎて空っぽになってしまった脳みそのことを言っているのですわ。お分かりいただきましたか」

 「ぐぬぬぅ……」


 不仲はセイナのことを貶すように言っていたが実はセイナは顔だけではなくスタイルもかなりのものだったようだ。ブリュンヒルデやゲイルドリヴルには及ばなかったが胸一番大きかったようだ。日本人の男性には少しふくよかさのあるスタイルの方が好まれていたのかもしれない。


 「うわぁ…あの二人凄く仲が悪いみたいだけど一体どうしたのかなぁ…」

 「本当にゃ…。でもどっちかっていうとあの奈央子っていう奴高飛車な女の方が突っかかっていってる気がするにゃ…」

 「でもセイナも割とあいつのこと毛嫌いしてそうよ。ほら、すっごい表情であいつの方睨んでる。一体どういう関係なのかしら…」

 「何だ…、お前達美城聖南と不仲奈央子のことを知らんのか…」

 「えっ…」


 ナギ達はセイナと不仲の関係について不思議に思い思案していると、隣の40代ぐらいと思われる男性プレイヤーが話し掛けてきた。どうやらセイナと不仲について知っているようだが。


 「あの二人は同じ芸能事務所に所属している女優仲間なんだよ。不仲奈央子ってのも芸名も兼ねた本名らしいぜ。最も今売れに売れている美城聖南に対して不仲奈央子の方はもうすぐ30歳になるにも関わらず未だヒット作に恵まれない無名の女優でな。ドラマでもほとんど脇役としてしか出てねぇんだよ。だが不仲の奴は小学生の頃からMMOをやっている飛び切りの廃人プレイヤーでな。現実世界では売れないもののネットの世界では芸能廃人プレイヤーとしてかなり有名だったんだよ。本人としてはそのネットの世界での知名度を生かして現実世界でも女優としての地位を築きたかったようなんだが、ちょうどその時に同じく芸能人MMOプレイヤーである美城聖南が登場してな。一気に芸能廃人プレイヤーとしての地位を奪われちまったんだよ」

 「なるほど…、それで不仲さんはセイナさんのこと目の敵にしてるのか…。でもなんでセイナさんもあんなに不仲さんのこと嫌ってるの?」

 「それが不仲の奴セイナに自分の考えていた理想の地位を奪われちまったのがよっぽど悔しかったみたいでな。セイナと同じMMOをプレイしては嫌がらせばっかりしていたんだよ。プレイヤーキル…、いわゆるPKが許させているゲームでは平気でセイナを何度もキルしたり、PKが許されていないゲームではセイナの後をつけ回してアイテムドロップを横取りしたり、討伐対象になっているモンスターをセイナが来る前に全滅させたり、挙句の果てにはゲームの掲示板内にセイナの悪口を書きまくったりしててな。何度か通報されてBANされたこともあったんだが、そのせいでネット内での評判は一気に悪くなってな。今までネット世界で不仲のファンを公言していたプレイヤーも徐々にいなくなって、今は完全に嫌われ者になってるってわけだ。現実世界では無名、ネットの世界では嫌われ者、両方の世界でちやほやされてるセイナを見て嫉妬しちまうのも無理ねぇかな…。まっ、そういったこともあって今ああいう風に互いにいがみ合う関係になっちまったてわけさ」」

 「ふ〜ん…、僕も不仲奈央子なんて現実世界で聞いたことないや。そう言えばブリュンヒルデさんやセイナさん程じゃないけど不仲さんも綺麗な顔してるもんね。それに言われてみればドラマとかでチラッと見たことある顔かな」

 「本当。別に女優て言われても違和感ないルックスはしてるわよね。ただ性格の悪さは見た目からも漂って来てるけど…」


 どうやら不仲はセイナと同じ芸能事務所に所有している言うなればセイナの女優仲間のようで、不仲奈央子というキャラ名もそのまま芸名であり本名でもあったようだ。ブリュンヒルデやセイナには及ばなかったが、確かに女優というだけあって綺麗に整った容姿をしていた。身長はセイナより少し低かったが、足が長くゲイルドリヴルに負けないぐらいの美脚であった。髪の毛はセイナと同じく綺麗な黒髪をしていて、長さもセイナと同じく腰の辺りまで伸びていた。非常に目力のあるパッチリした瞳をしていたが、ナミの言う通りかなり目尻が吊り上がっていて少し意地悪そうに見える顔をしていた。職業は弓術士のようで弓と矢を背に抱えていた。装備は身の肌蹴た皮の鎧を装着しており、狩人のような姿をしていた。


 「おーほっほっほっほっ!、返す言葉もないようですわね。まっ、この順位の結果を見れば自ずと分かるというもの。あらかた討伐数よりも経験値の高いモンスターを優先して狩っていたんでしょう。あら、でもその経験値は全てその胸の脂肪の養分に使われてしまったようですわね。これでは馬鹿と言われも仕方ありませんわよね。おーほっほっほっほっ!」

 「うぬぬぅ〜…、くっそぉ…。欲を出してナギにあんなにバーサクミートを貰うのではなかった…」


 セイナは言い返したかったが、実際不仲の言う通りだったため何も反論できずただ口を噤ませてぐっと耐えて不仲の方を睨みつけていた。それに不仲の言うことを肯定するわけではなかったが、セイナは少し天然なところがあり、あまり頭を働かせるのは得意ではなかったため口喧嘩では悪知恵の良く働く不仲には勝てないだろうから口を噤んでいて正解だったかもしれない。


 「あ、あの〜…、不仲さん…。そろそろ討伐数の方を発表したいと思うのですが…、よろしいでしょうか…」

 「ああっ!、申し訳ありませんブリュンヒルデ様。私としたことがついこのような贅肉の塊のようなムチムチした女に気を囚われしまって…。どうお気になさらずに私の討伐数を皆様とこのお色気馬鹿にお披露目して差し上げてください。そうすればどちらが芸能人プレイヤーとしての格が上かはっきり致しますでしょう」

 「不仲さん…。どうやらセイナさんとは知己のようですのであまり咎めはしませんが、他のプレイヤーの名誉を気付けるような発言は控えてくださいね。あなたには及びませんでしたがセイナさんの討伐数は大変立派なものです。私にとってはどちらもこれからこのゲームを戦っていく上で貴重なプレイヤーなのですからあまり敬遠し合わないようお願いいたします」

 「は、はい…。これは大変申し訳ございませんでしたっ!。私としたことがブリュンヒルデ様の前でこのようなお見苦しい姿をお見せしてしまって…」


 不仲はブリュンヒルデに注意されると急にしおらしくなった。流石にこのゲームをプレイしていく上で国のトップの印象を悪くするのは不味いと思ったのだろうか。これだけのプレイヤーの前でこれ程の悪態をついているのだからもう不味かったと思うが…。


 「分かってくれればいいのです。では不仲さんの討伐数を発表致しますね。見事モンスター討伐ランキング第1位に輝きました不仲奈央子さんの討伐数は…、1762体でーーーすっ!」

 「………」


 不仲の討伐数はセイナを更に数段上回る数字だったがプレイヤー達は微妙な表情を浮かべて沈黙してしまっていた。普通ならば声を上げて驚くところだったが皆不仲が1位であることを受け入れない様子だった。


 「くぅ〜…、私の討伐数を300体も上回っている。まさか不仲のプレイスキルがここまで上達しているとは…。悔しいが今回は私の負けのようだな…」

 「おーほっほっほっほっ!、素直な態度で大変よろしいですわ。やはり芸能界一のMMOプレイヤーは私で決まりのようですわね。今回は一応同じ国のプレイヤー同士のようですので変に争いは致しませんが、あまり私の邪魔にならないようにお願いしたしますわ。間違っても私より目立とうだなんて思わないでくださいね」


 セイナも不仲のことは嫌っているようだが他のプレイヤー達のように敬遠しているわけではないようだった。普通あんな態度を取られたら口を聞くのも嫌になるだろうが、セイナは悔しがりつつも素直に負けを認めて決して不仲のことを無視はしなかった。やはり同じ芸能事務所に所有している女優仲間だからろうか。


 「はぁ…やっぱり1位だけあってとんでもない数字だなぁ。今は嫌われてるみたいだけど過去に凄いMMOプレイヤーだったってことは本当みたいだね。セイナさんもちゃんとライバルとして認めているみたいだし…」

 「本当ね…。私途中で脱線しないでモンスター討伐に集中してれば1位なれるかもなんて思ってたけど、仮にナギを助けにいったりデビにゃんのイベントをこなしたりしてなくても多分3位にも入れなかったと思うわ…。はぁ…、やっぱりまだまだ廃人級のプレイヤーには勝てないわね…」

 「何言ってるのよ、あんた達っ!、他の二人は知らないけどあの不仲って奴は全然大したことないわよっ!」

 「そうそう、私達あいつと同じパーティだったんだけど、本当にとんでもない奴なのよっ!」

 「えっ…、一体何があったの…」


 ナギ達が不仲の討伐数を聞いて驚いていると今度は隣から二人組の女の子のプレイヤーが話し掛けてきた。どうやら不仲と同じパーティだったようで、その時に不仲に酷い行動を取られたようでその様子をナギ達に話してきた。不仲のことを知らずに好意的な感情を抱こうとしていたナギ達に忠告したかったようだ。


 「あいつ…、最初のメンバー同士の自己紹介の時からいきなり仕切りだしてさ。始めは効率いい隊列とかモンスターの狩り方とか教えてくれてて頼りになるなぁとか思ってたんだけど、いざモンスターの討伐が始めると私達にモンスターを弱らせるだけ弱らせて全部自分で止めを刺しちゃうのよ」

 「途中で違和感は感じてたんだけど、皆いつの間にかあいつのペースに飲み込まれて、言われるがままにモンスターの体力をギリギリまで削ったり、あいつが倒しやすいようにモンスターを一か所に集めたりさせられてたのよ。おかげで私達のパーティの討伐数皆30体にも達してないのよ」

 「えぇーーーっ!、それっていくら何でも酷すぎるんじゃあ…。経験値も全然入手できなかったんじゃないの」

 「うーん…まぁ一応経験値の何割かは他のパーティメンバーにも入るみたいだったからレベル的には他のプレイヤー達より高くなっちゃったみたい。実際あいつがいなかったらパーティ全体で500体も倒せなかっただろうから…。それもあるから皆あいつに何も文句言えなかったのよねぇ…」


 どうやら不仲はパーティメンバーにモンスターの体力を削らせて自分は背後から弓矢で止めを刺していたようだ。つまりはパーティ尾討伐数を独占していたわけだが、廃人プレイヤーだけあってパーティの隊列の組み方やモンスターとの戦い方は上手かったようで、一応パーティ全体の討伐数を上げることには貢献したようだった。不仲のパーティメンバー達がいいように扱われながらも文句が言えなかったのもそのためだったようだ。やはり性格に何はあるがMMOのプレイ技術はかなり高いようだ。


 「それでは見事1位に輝いた不仲さんにはこちら…、黄金のブレスレットを差し上げまーーすっ!。なんとこのブレスレットには自身の行動ポイントを10%上昇させる効果があるのです。皆さんにはまだ行動ポイントについての説明はしていませんが、非常に重要なステータスであるため1位の方に相応しい商品であることは間違いありません。皆さんもゲームが始まったら行動ポイントについてはよく調べておいてくださいね。一応この後に控えている内政チュートリアルの後にきちんとした説明もありますが…」

 「心配なさらなくても私ほどのプレイヤーなら行動ポイントという名前を聞いただけで大抵の予測はつきますわ。恐らくマップの移動や内政などこのゲームでの行動全般を行うためのポイントでしょうが、それが上昇するということはこのゲームをプレイする上でありとあらゆる場面で有利になれるということ。まさに私に相応しいブレスレットですわ」

 「え、ええ…、ただ中には名前を聞いただけではよく理解できないプレイヤーもいらっしゃるでしょうし、他にも細かい要素などもございますので後の説明もちゃんと聞いてくださいね…。では個人賞の上位3名に入賞した方は最後にもう一度表彰台に立ってください。ではこれで一度退場していただきますで、広場のプレイヤーの皆様は最後に盛大な拍手をお願いいたしま〜す」

 “パチパチパチパチッ…”


 ブリュンヒルデに促されプレイヤー達は皆申し訳程度の拍手はしたが、とても盛大といえるものではなく、ブリュンヒルデも顔を斜めにして困った表情を浮かべていた。理由は当然1位のプレイヤーに納得できなかったからだが、当の本人は全く気にする様子もなく表彰台の上で高笑いを続けていた。


 「おーほっほっほっほっ!、皆様盛大な拍手ありがとうございま〜すっ!。この不仲、ヴァルハラ国の為に一心不乱に働かせていただきますので、皆様も何卒私へのサポートの方を怠らないようにお願い致します。おーほっほっほっほっ!」


 こうして個人受賞者の発表が終わり、続いて受賞パーティの発表が始まった。時間の関係で1位のパーティ以外は口頭で読み上げるだけのようだが、賞品は3位以内に入賞したパーティメンバー全員に送られるようだった。


 「では続いてパーティ賞の発表に移りたいと思います。時間の関係上1位以外のパーティの方々は口頭での発表のみになりますがご容赦ください。パーティの発表は受賞パーティのパーティナンバーを発表した後、メンバーの方をアイウエオ順に8人全て発表していきたいと思います。皆さん端末パネルで自分達のパーティナンバーを確認しておいてくださいね。ではまず第3位に入賞したパーティの方々から…、パーティナンバー1258番、アリーナ・ジョーさん203体、いながっきーさん216体、カルロスキングさん224体、ゲイルドリヴルさん872体、田中政義さん202体、ナス・キライさん234体、バーチャルメロディーさん214体、ロールケーキさん235体、合計討伐数2400体っ!。以上の方々には賞品として序盤の回復薬詰め合わせが20セットずつお送りさせていただきます。ピンチになったら惜しみなく使っていってくださいね」

 「やっぱり個人賞で上位に入っていたプレイヤーのいるパーティが入賞していたか…。この分だと残り2つのパーティもあの二人のいるパーティで決まりかな。どちらもこの時点で一人で3位のチームの半分以上は討伐していることになるんだからな…」


 3位に入賞したのは個人成績で第3位にランクインしたゲイルドリヴルのいるパーティだった。さっきナギ達に声を掛けてきたプレイヤー達の言う通りパーティメンバーの全員の討伐数が200体を超えてより、ゲイルドリヴルの戦闘能力の高さだけでなく統率能力の高さまで伺える結果となった。このゲームにおいてゲイルドリヴルのようなプレイヤーこそが貴重な戦力となってくれるだろう。ブリュンヒルデは発表と同時にゲイルドリヴルこそがこの国の中核を担うプレイヤーの一人になるであろうことを確信していた。


 「続いて第2位……、パーティナンバー2038番、アイナ・マーストリヒトさん68体、伊邪那岐命さん178体っ!」

 「あっ!、僕の名前が呼ばれたっ!。やったね、僕達2位にランクインしたよっ!」

 「まぁセイナがあれだけ倒してくれたからね。当の本人はまた悔しがってるみたいだけど…」

 「くっそぉぉぉぉぉぉっ!、先程に続いてまた2位にではないかっ!。やはり経験値の多さになど目がくらむのではなかった」

 「なんか僕達申し訳ないね…」

 「ええ…」


 どうやらナギ達のパーティは2位にランクインしたようだ。先程の個人賞に引き続き2位に甘んじてしまったセイナは声を震わせて心底ナギにバーサクミートを貰ったことを後悔していた。それを見たナギ達は自分達の討伐数がセイナに比べて遥かに少ないことを申し訳なく感じていた。そしてナギ達のパーティメンバーの討伐数が次々と発表されていった。


 「伊邪那美命さん547体、ヴィンス・スノーレスさん107体、カイル・コートレットさん237体、セイナ・ミ・キャッスルさん1439体、ボンじぃさん0体、レイナルド・チェルシーさん23体、合計討伐数2599体っ!」

 「…っ!、ちょっとぉっ!。今何だかとんでもない数字が飛び出してきたけど…、0体に23体って一体どういうことよっ!。まさかずっと二人でデートでもしてたって言うんじゃないでしょうねっ!」

 「おおっ、流石ナミちゃん。察しが言いのぉ〜。ほれ、わしは歳の差もあるしこのような関係いかんといったんじゃが、レイチェルの奴がどうしても…っ痛っ!。な、何するんじゃっ!」

 「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ、このくそじじぃっ!。ナミもあんまりふざけたこと言ってるとブッ飛ばすぞっ!」

 「ご、ごめん…」


 ナミはレイチェルに凄まれると怖かったのか尻すぼみしてしまって謝ってしまった。レイチェルの凄み方はかなり威圧感があり、やはり現実世界でも不良の経験があるようだった。喧嘩も強かったのだろうか。


 「まぁ…全然討伐出来てなかったのは本当だから構わねぇけどよ。あれ…、そういや私確か討伐数は22体で終わったはずなのに気が付いたら23体になってたみたいだな…。あっ、もしかして討伐が終了するギリギリにじじぃをぶった斬った時にカウントされてたのか。はははっ、こりゃいいや。じじぃの奴モンスターと同列に扱われてやがるぜっ!」

 「な、なんじゃとぉぉぉぉぉっ!。たくっ…、あと少しで逃げ切れそうなところを遠慮なくぶった斬ってくれおって…。おまけにモンスターと同列にまで扱うとは…。ちっとは年寄りを労わらんか」

 「えっ…、ボンじぃレイチェルにプレイヤーキルされちゃったのっ!。っていうかプレイヤーキルが認められるなんて一体レイチェルと何があったのよ」

 「ほほっ…、まぁ色々あっての…」


 どうやらボンじぃはナギと別れた後ずっとレイチェルから逃げ回っていたようだが討伐が終了するギリギリのところでレイチェルに捕まってしまい、自慢の大剣で頭から真っ二つにされてしまったようだ。しかもなぜかボンじぃをプレイヤーキルした分がレイチェルの討伐数にカウントされていたようで、ボンじぃはかなりショックを受けていた。


 「以上2位にランクインされたパーティの方々にはBランク以上の魔力が込められた魔術札を各自に5枚ずつランダムに送らせていただきます。魔術札というのは副業として札術師を選択したプレイヤーが製造できる魔力が込められたカードのことで、その札を使うことにカードの絵柄に込めらえた魔法を瞬時に発動させることができます。当然一度使えばカードは消失してしまい、威力も通常の魔術に比べるとかなり低いですが、詠唱時間が全く要らないことと魔術系の職業以外の人も魔法が使えるようになることから非常に重宝されるであろうアイテムのことであります。Bランクというのは序盤では中々作り出せる札術師の方もいらっしゃらないので、ここぞという時にお使いください」


 ナギ達のパーティに送られた賞品は魔術札というのは、使用すれば瞬時に魔法を発動できるが一度使うとアイテムを消費してしまういわゆる消費型のアイテムであった。札術師であれば自身で作り出すことが出来るようだが、序盤からランクの高いアイテムをと繰り出すことは難しく、Bランクというのは序盤ではかなり強力な部類に入る魔術札だろう。果たしてどんな効果の付いたカードをナギ達は配られたのだろうか…。


 「うわぁ〜…、僕こういうの中々使えないで取っといちゃうタイプだよ…。消費型のアイテムって使うタイミングが難しいよね。しっかり状況を見極めて使わないと貴重なアイテムが無駄になっちゃうかもしれないし…」

 「何っ、だったらそのアイテム全部私に頂戴よ。いるわよね〜、意味もなく消費アイテムとかお金をずっと貯めこんでいるプレイヤー。いっつも思うんだけど使うつもりがないなら全部譲ってくれたらいいのに。私なんてアイテムなんて手に入ったらすぐ使っちゃうけどな〜。まぁそれで大事な時に回復アイテムがなくて死亡しちゃったりするんだけどね…」

 「うん…何だ、ナミはこのアイテムがもっと欲しかったのか。だったら私のやつ全部やってもいいぞ。私は消費アイテムは回復アイテムしか持ち歩かんからな」

 「い、いいわよ…別に、冗談で言っただけだから。それよりあんた達どんな効果の魔術札貰ったの。私もちょっと見てみようっと」


 ナギ達は端末パネルを開いて自分達の貰った魔術札にどんな効果が込められているのか確認した。魔術札には主に攻撃魔法が込められていることが多いが…。


 「えーっと…何々…。フリージング・レイ、威力比率38%。この氷属性の魔法は、土属性、陸タイプだけでなく、水属性、海・川タイプの対象に対しても威力が上昇する…だって。何だか凄そうな魔法だね。他のも序盤のものとは思えないくらい高性能な魔法ばっかりだよ」

 「そうね。威力比率っていうのが多分通常の状態で魔法を詠唱して放っときに対する威力の比率なんだろうけど…、やっぱりどれも50%以下ばっかりね。つまり詠唱が要らない分本来の威力の半分も出ないってことか…ってあれ…っ!。あーーーーっ!、私の貰った奴に一つだけ威力比率が78%のやつがある〜っ!。ラッキ〜、やっぱり私のリアルラックは伊達じゃないわね」

 「ええ〜〜〜っ、いいないいなっ!。ねぇ、早くどんな魔法なのか教えてよ」

 「慌てない慌てない…。えーっと…まず魔法名が…、ヘブンズ・サン・ピアー…天への光柱って意味かな。威力比率は78%ね。っで、肝心の効果が…、光属性と天の魂質を併せ持った強力な魔法で、ほとんどの属性、タイプ、魂質に対して威力が上昇する、更に柱の中心にいる対象を5秒間硬直させる…だって。なにこれっ!、マジで超強い魔法みたいじゃないっ!。もう私にはMMOの幸運の女神がついてるって言っていいわね。強いモンスターと出会ったら早速使っちゃおうっと」

 「だ、駄目だよ…。ちゃんと重要なイベントとかで対決するモンスターとかの為に取っておかないと…。そんな凄い魔術札そう簡単には手に入らないよ…」

 「うるさいわねっ!。私は早く格好いい魔法を使ってみたいの。普段武闘家ばっかりしか使ってないからこうやって魔法を使えるなんて何だか新鮮な気分だわ〜」


 どうやらナミは相当強力な魔術札を手に入れたようで、ナギは出来るだけ取っておくように助言していたがナミはすぐに使いたくて仕方ないようだった。ヘブンズ・サン・ピアーというのは魔術と聖象を極めた魔術師だけが終盤以降に使える魔法で、この魔術札はBランクどころかSランクに該当するものだった。聖象せいしょうとは聖術師や祈祷師などが祈りによって聖なる現象を引き起こす聖属性魔法のことである。魔術によって引き起こされた魔法と違い、聖属性には属性と言われながら属性の概念がなく、魔法耐性が存在しないため威力が軽減されることがないが、相手の弱点を突くことも出来ない。唯一アンデット系モンスターにのみ相手のモンスターランクに応じて即死判定が入る。ヘンブズ・サン・ピアーのように魔術と聖象が合わさった魔法のことを聖魔象術せいましょうじゅつと言い、相手の魔法耐性が0より高い場合のみその値を無視し、0より低くその魔法の属性が弱点となっている場合のみ魔法耐性の値をダメージに反映する。当然アンデット系モンスターへの即死判定もある。タイプというのは対象が主に活動している地形のことで、鳥ならば空、魚ならば川や海タイプに属している。プレイヤー達は全員陸タイプである。魂質というのは対象の性格や習性、もの価値観など、言うなればその名の通り魂の質を表したものである。これは同じ種類のモンスターであってもバラバラで、魂質によって同じ種族であって微妙に行動パターンが変化する。プレイヤー達の魂質はそれぞれの性格や価値観によって設定されているようで、今はまだ確認する手段はないようだ。ナミの考えを否定するわけではないが、このヘブンズ・サンピアーは終盤まで取っておいた方がいいアイテムだろう。因みに魔法と魔術の違いについてだが、魔法とは魔術によって引き起こされた力がもたらした現象のことを言い、魔術とはそれまでに行う儀式や呪文などの過程のことを指す。因みに聖象についても同じことが言え、実際に引き起こされた聖なる現象は魔法ということになる。つまりは聖象と言ってもそれはあくまで祈りによって聖なる力を引き出す過程のことを指すようだ。


 「にゃぁ…、やっぱり流石に僕の分の賞品はないみたいだなにゃぁ…。僕も皆見たいに魔術札で魔法使ってみたいにゃぁ…」

 「あっ…そうか…。デビにゃんは正式なプレイヤーじゃないから流石に魔術札までは貰えないのか…」

 「そうみたいにゃ…。まぁナギを通して経験値と功績ポイントのボーナスは大分入ってきてるみたいなんだけどにゃ…」

 どうやらナギの仲間モンスターであるデビにゃんには、経験値と功績ポイントはナギに入った何割かが取得されるようだが、流石に賞品である魔術札までは配布されていなかったようだ。デビにゃんは残念そうに自らの端末パネルを眺めていた。どうやら魔族型のモンスターは端末パネルも開けるようだ。

 「だったらはいっ、僕の貰った魔術札の中からデビにゃんに好きなのあげるよ」

 「にゃっ…」

 「あっ、だったら私も。さっきの超レアなやつは駄目だけど、それ以外からだったらどれでも好きなの取っていいわよ」

 「おおっ、だったら私は全部デビにゃんにあげてもいいぞ。さっきも言った通り私は攻撃型の消費アイテムはほとんど使うことがないからな」

 「い、いや…流石に全部は貰えないにゃ…。でも気を遣ってくれてありがとうなのにゃ…。それじゃあ皆から一枚ずつ貰うことにするにゃ」

 「ま、待ってください。私も…、私からも一枚貰ってください。デビにゃんちゃんはこれから私達の大事な仲間なんですから」


 賞品を貰うことが出来ず落ち込んでいるデビにゃんを見て、ナギ達が自分達の貰った魔術札の中から一枚ずつ渡そうとしていると、アイナも急いで駆け寄って来て自分の魔術札も受けって貰えるよう言ってきた。どうやらデビにゃんのことを単なるモンスターとしてではなく、同じ国に所属する…、いや、一緒にゲームをプレイする仲間として認めているようだった。デビにゃんはナギの仲間になって正解だったのかもしれない。


 「ア、アイナまで…。ありがとうにゃぁ…。僕ナギ達の仲間になんて本当に良かったにゃぁ」

 「これでちょうど皆4枚ずつになったわね。これからも皆でアイテム分かったりしながら色んなことで協力してヴァルハラ国の為に頑張っていきましょ」

 「任せてくれにゃっ!。この恩に報いるためにも何としてもヴァルハラ国を優勝に導いて見せるにゃっ!」

 「おぉーーーーーっ!」

 “ワイワイ…”


 ナギ達4人が一枚ずつ魔術札を渡したことでデビにゃんを含めた5人の枚数がちょうど4枚ずつになった。アイテムを分け合うことでお互いの絆が深まったナギ達はデビにゃんとともにヴァルハラ国を優勝に導くことを誓った。デビにゃんはすっかりプレイヤー達と溶け込んでいたようだが、モンスターとの絆を深めると信頼度の上昇によって強化されたりするのだろうか。よくモンスター育成型のゲームならばモンスターのなつき度によって行動が変化したりするが…。だがこのゲームにおいて信頼度を上げるというのは非常に難しい行為なのかもしれない。このゲームのモンスター達は現実世界の動物以上に高度な感情AIが搭載されている。デビにゃんに至っては実際にこのゲームの生命体の意思まで宿っているのだというのだから、本気でモンスターのこと好きにならないと信頼度を上げることは難しいかもしれない。


 「なんだ…、偉く楽しそうだな、あいつら」

 「そうじゃな…。全く…、モンスターばかり可愛がっておらんで少しは年寄りも労わらんかい」

 「…でも不思議だな。MMOプレイヤーっていうのは長くやっていればいるほど性格が擦れてしまって、個性的になれるのはいいが逆に尖った雰囲気が出て取っ付きにくいことが多いんだが、ナギには全く嫌みがない。まるでついさっきMMO始めたばっかりって雰囲気のプレイヤーだぜ。おかげでこっちも取っ付きやすくて助かるんだが…」

 「ああ…、長年ナギと一緒にMMOをプレイしてるけど、ナギの奴はちっともMMOに慣れないっていうか、変に物覚えが悪いみたいで、どのMMOやっても始めは初心者みたいにオドオドしてるのさ。いちいちチャットを打つときでも未だに緊張してるみたいだし、なんていうか初心を忘れない精神っていうのを持ってるんじゃないのかな。僕も一緒にプレイしてるおかげでMMOにほとんどを飽きを感じなんだよ」


 カイル達は長年MMOやって時間だけならすでに廃人と言われても仕方ないにも関わらず、まるでMMOを始めたばかりのようにワイワイとはしゃいでるナギ達を見て少し感心させられていた。普通どんなゲームでも長年やっていればプレイに慣れてくる分最初のワクワク感やドキドキ感は失われてしまう。なのにナギ達はすでにMMOプレイヤーとして常連と言っていい技術や知識を持っているにも関わらず、その知識や腕に溺れることなく常に初心者のつもりでゲームをプレイしているようだった。


 「ではいよいよ見事1位に輝いたパーティを発表したいと思います。なんと第1位に輝いたパーティのプレイヤー達は誰一人として討伐数が500体を超えていません。パーティ全員で強力して戦ったのでしょう」

 「へぇ…、じゃあやっぱり不仲さんのパーティはランクイン出来なかったのか…」

 「まぁさっきの人の話だと不仲さん以外は全員30体未満だって言ってたからね。全員合わせても2000体にも届いてないんじゃないかしら。不仲さんが1700体も倒してるにも関わらず…」


 どうやら1位のプレイヤー達は個人でランクインするほどの突出したプレイヤーはいなかったが、それぞれがナミに匹敵するぐらい熟練されたプレイヤーだったらしく、余程洗練されたプレイヤーの集まりだったようだ。俗に言う固定パーティのようなもので、今回だけでなく他のMMOでもよく一緒にプレイしてるメンバーの集まりだったのだろうか。


 「くぅ〜…、なんていうこと…。個人では1位に輝いたこの私がいるパーティが3位以内にもランクインしてないなんて、これでは総合的に見るとセイナに劣ってるように見えますわ。全く…、相変わらずパーティメンバーには恵まれませんようですわね…。あぁ…、私といったらなんて幸の薄い女なのでしょう。まさに薄幸の美少女というやつですわ」

 「よく言うわよ…。幸が薄いのはあんたなんかとパーティを組むことになった私達の方だっての…」


 不仲のパーティは他のメンバーの討伐数が著しく少なく、やはり上位には入り込めなかったようだ。もし自分の討伐数に執着せずパーティ全員で協力していれば不仲の実力ならば他のメンバーの力も十分に引き出し、より上位に食い込むことができたであろうに。不仲はこの結果に不満だったようだが自業自得であることは間違いない。


 「見事ヴァルハラ国建国モンスター討伐大会にランクインしたのは…、パーティナンバー0258番の、こちららの方々で〜す。1位に入賞したパーティの方々は壇上の方に上がっていただきますので皆様盛大な拍手で迎えてあげてくださ〜い」

 “パチパチパチパチッ…”


 1位のパーティはどうやら壇上に上がってから紹介されるようだ。ブリュンヒルデの発表と共に1位のパーティメンバーのプレイヤー達が壇上の上へと転送されたが、そのプレイヤー達は皆かなりの廃人プレイヤー達だったようで、この程度のこと当然だと言ったような顔で誰一人として喜びの表情を浮かべずかなり不愛想な態度で他のプレイヤー達の前に現れた。


 「何なのっ、あのふてぶてしい態度はっ!。こっちは精一杯音を立てて拍手してあげてるんだからもうちょっと喜んだ顔しなさいよ。典型的な廃人MMOプレイヤーね。これだからゲーム中毒者は嫌なのよ。少しは社交性ってのを磨けっての」


 ナミは壇上に登場した1位のパーティのプレイヤー達の態度を見て不快に思っていたようだ。この世界でも家に引きこもってMMOばかりやっている廃人プレイヤーは多いらしく、最も睡眠学習システムが搭載されてからはプレイ時間という意味ではほとんどのプレイヤーが廃人と呼べてしまうが、やはり仕事もせずに、言うなれば24時間ずっと眠ったままでプレイしているプレイヤー達もいた。この世界ではそう言ったプレイヤー達のことを廃人プレイヤーと呼び、現実世界で人会っていない分ゲーム内でも社交性は低く態度やマナーの悪いプレイヤーが多かった。だがゲーム内のアバターを現実世界と同じ姿に統一するようになってからはVRMMOの世界で社交性を磨き、現実世界でも社会復帰するプレイヤーも多くいたようだ。まさに睡眠学習システムの成果というわけだろう。


 「では1位に入賞したパーティの方々の紹介をしていきましょう。では一人目…、キャラネーム、アンチ不仲奈央子さん。職業は戦士、討伐数437体です」

 「なっ、なんですってぇぇぇぇぇぇっ!。……なんて失礼なキャラ名なのかしら。これは後で通報させていただきますわ。まっ、私の華麗な実力に嫉妬してしまうのは仕方のないことですけど」

 「二人目、シーホース・ラピッズヒューマンさん。職業は精霊術士、討伐数は347体です。三人目、聖君少女せいくんしょうじょさん、職業は聖術士、討伐数428体です。四人目、大神官ラスカルさん、職業は信仰者、討伐数は278体です。五人目、天丼、汁だくで…さん、職業は戦斧士、討伐数は456体です。六人目、爆裂少女さん、職業は武闘家、討伐数は498体です。七人目、ブルドーザー吉住さん、職業は舞踏術士、討伐数は312体です。八人目、ララララ〜イ↑・ララララ〜イ↓さん、職業は語り手、討伐数は212体です。パーティ合計討伐数は…、なんと2968体で〜すっ!」

 「……なんか流石1位ともなると凄いキャラ名の人ばっかりだね。どうやったらあんな個性的な名前思いつくんだろう…」

 「そうね…。なんか真面目につけてるこっちが恥ずかしくなってくるわ…。まぁ、MMOの上位に入ってくるプレイヤーなんて変態ばっかりだからね。私やセイナみたいにある程度まともな感性の持ったプレイヤーは少ないわよ」

 「そうだね…。容姿もなんか独特の雰囲気出てるし…。あの天丼って人頭ぼさぼさだけどちゃんとお風呂に入ってるのかなぁ。あっ、でもあのブルドーザー吉住って人名前の割に物凄い美人なお姉さんだよ。何であんなごつそうな名前にしてるんだろう。それに爆裂少女さんと聖君少女さん…、多分姉妹なんだろうけどどっちも可愛らしい女の子でそっくりだね。もしかして双子だったりするのかなぁ」


 1位に入賞したプレイヤー達は皆ナギ達にしてみれば変わった名前で、容姿も独自の雰囲気を醸し出していてナミの言う通り何人かは本当に変態と思われても仕方のない格好をしていた。俗に言うオタクと思われる集団だったが、中には美人な女性や可愛らしい女の子の姉妹がいた。最近は女性のオタクも増えているらしいが、あんな美人や可愛い女性と出会えるなら男性は皆オタクになってもおかしくないだろう。


 「…たくっ、誰一人個人賞で入賞できてないなんて情けねぇなぁ…。しかも女の私がこの中で一番トップなんて本当私達のパーティの男性陣は不甲斐ないぜ。これだと弱い奴が固定パーティ組んでオナニー無双してるみたいじゃねぇか」

 「爆姉、それはちょっと言い過ぎだよ。皆が頑張ってくれたから一人一人は入賞できなくても総合で1位になれたんじゃない。ちゃんとお礼を言わないと…」

 「うぅ…、やっぱり聖ちゃんは優しいなぁ。この爆馬鹿女とは偉い違いだ。とても双子だとは思えないぜ」

 「うるせぇっ!、気安く家の妹に話し掛けんな、天丼頭っ!。お前いい加減風呂に入る習慣付けろよな。本当に頭に天ぷら乗っけて天汁ぶっかけられてるみたいで髪の毛がぼさぼさで粘ついてるじゃねぇか。ゲームの中ってことで臭いはしないから何とか我慢できるものの、絶対現実世界のお前とは会いたくないぜ」


 1位のパーティメンバーはやはり全員知り合いのようでいつも一緒にMMOをプレイしている固定パーティのようだった。このゲームは事前に抽選があったのだが運よく皆当選したようだ。皆かなり腕に自身のあるプレイヤー達で、特に今話していた爆裂少女と聖君少女は、美少女姉妹MMOプレイヤーとして有名になるほどの実力の持ち主だった。現在中学生の双子の姉妹なのだが、姉の方が爆裂少女で、少し男勝りな性格をしている。オレンジ色の髪を肩に掛からない程度に伸ばしていて、前髪の左右の辺りだけ後ろ髪と同じぐらいまで伸ばしていた。どちらかというとボーイッシュな雰囲気の容姿だった。妹の方は聖君少女で、姉の爆裂少女と違い非常に女の子らしくしおらしい性格をしていた。髪の色は姉と同じオレンジ色で、こちらは髪を背中の半分以上まで伸ばしていた。左右の前髪を耳の後ろへと回していて、俗に言う耳かけヘアのような髪型にしていた。聖君少女はあまり見かけない両耳を出す形のようだったが、髪型次第でこうも変わるのか双子の姉とは対照的に非常におしとやかな雰囲気の容姿になっていた。


 「あの女の子の姉妹の二人…、多分私とセイナが前にやってたMMOにもいたわ。いっつも姉妹で並んでランキングの上位に入ってたから結構知ってる人もいるはずよ。姉に遠慮してるのかランキングではいつも妹の方が順位が一つ下だったわね。他の人達もトップ100ぐらいには常に入ってたかな。何人かはパーティも組んだことあるわ。普段はほとんど8人で固定してるみたいだけどね」

 「うむ、私もあの8人なら全員知っているぞ。かなり腕の立つプレイヤーばかりだからな。負けたのは悔しいが彼らが同じ国に所属してくれるならありがたい」


 どうやら1位のプレイヤー達もナミやセイナと同じMMOをプレイしていたようで、前のMMOでも常に上位にランクインしていたらしい。セイナは当然としてナミも良くトップ100にはランクインしていたので向こうも名前ぐらいは知っているのではないのだろうか。


 「では見事1位に輝いたプレイヤーの方々にはCランク以上に該当する装飾品をランダムに一つずつ贈呈いたします。当然すでに付術も付与されているのでどんな効果が付いているのか楽しみにしてくださいね。それでは皆様、最後にもう一度盛大な拍手でお見送りして下さいませ」

 “パチパチパチパチッ…”

 「それでは以上を持ちましてヴァルハラ国建国モンスター討伐大会の表彰式を終了したいと思います。上位に入賞出来なかったプレイヤーの方々も、ヴァルハラ国建国のために尽力を尽くしていただき大変感謝しております。また経験値と功績ポイントについては討伐数に応じて入賞者ほどではありませんがボーナスが入りますので、後で自身の討伐数とポイントが振り込まれているかを確認しておいてくださいね。それではいよいよ内政に関しての説明に入っていきま〜す」

 「だって、ちょっと今確認してみようっと…ってうわっ!、最下位の人で32464位だって。勿論断トツでボンじぃだけど僕達の国だけで3万人以上のプレイヤーが参加してたのか」

 「本当ね…。えーっと私は何位だったのかなぁ…。547体だから…この辺ね。……128位か。残念、やっぱり100位以内には入れなかったか。でも熟練プレイヤーでもほとんどが500体から600体で打ち止めみたいね。600体以上からのプレイヤーですでに20位以内…、700体以上で8以内か…。いかに上位3人の討伐数がとんでもない数字か思い知らされるわね」


 プレイヤー達にとって衝撃の結果が次々に発表された表彰式であったが、何とかトラブルが起きることなく無事終了した。特に不仲が表彰台に登場したときには乱闘騒ぎにまでなるかと思われたが、ヴァルハラ国のプレイヤー達は皆入賞したプレイヤー達に対しても、自身が入賞していなかったことに対しても表立って文句を言うことはなかった。心の中で多少の不満はあるだろうが、ここにいるプレイヤー達は皆モラルやマナーが高いようだ。そしていよいよこの建国シミュレーションゲームにとって最も重要な要素である内政についての説明が始まるのだった。

 

 


 

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