finding of a nation 86話
「駄目だ……、やっぱり僕の魔法も上手く発動できないよ、リア。少しはデビにゃんと繋がった感じはしたんだけど……、この場所というよりはこの僕達を拘束している手錠なんかが魔法の発動を妨害しているように感じられたよ」
「私も同じ感覚を覚えたわ、ナギ。どうやらこの手錠には私達の魔力や肉体の力を制限する効果が込められているみたいね。その効果を打ち消すぐらい魔力を集中することができれば魔法を発動できるかもしれないけど……あまり現実的じゃないわね」
コールの魔法でデビにゃんを呼び出すことに失敗したナギ、そして同じく攻撃魔法を発動させることの出来なかったリアによるとどうやら手足に掛けられた手錠がナギ達の力を制限しているようだ。つまりは手錠から抜け出すことができれば自在に魔法も使えるようになるということだが、デビにゃんが呼び出せなかったナギ達にもうそれらしい術は思い浮かばなかった。
“………”
「はぁ……、それでとうとう完全なお手上げ状態になっちゃったってわけね。……まぁいいわ。偶にはこうして壁に吊るされてボケーっとしてるのもいいもんよ。誰か助けが来るまで気長に待ってましょ」
「ぷっ……、なにそれ。あんたにしては随分可愛いらしいこと言うじゃない。さっきまで“なにこのクソゲー”とか“ログアウトして二度と戻って来ない”とかぼやいてたくせに」
「そうね……。普段の私だったらこんな状況に置かれた時点でとっくにログアウトしてゲームを切っちゃってるわよ。けどここまで余計な気を張り詰めてないって言うか……、凄く気楽な雰囲気で和やかにしてるあなた達を見て私も少しは純粋にゲームを楽しんでみようって思ったの。ほら……、映画なんかでよくあるでしょ。こういう敵に捕らわれた状態から助けに来た仲間と一緒に一気に敵に逆襲するような展開。思い起こせばそう言う映画やアニメのキャラクターに実際になった気分を味わいたくてVRゲームを始めたんじゃないか……ってね」
「あ〜なんかちょっとその気持ち分かるかも〜。私もキャラのレベル上げやアイテムの素材集めなんかでずーっと同じ敵を倒し続けたりして急に虚しさにかられることがよくあるもの。それでガチガチに強化した装備とレベルのキャラであっさりボスなんかを倒せるのはいいんだけどなんだか損した気分になっちゃうのよね。本当はもっとハラハラドキドキするようなスリルのある戦いが味わいたかったのに〜って。でも結局他のプレイヤーやゲームの敵に負けたくないからいざゲームでちょっとでも苦戦すると苛々ばっかりが募っちゃう……。 あなたの言う通り今のこの状況なんてまさに主人公の助けを待つヒロイン気分が味わえる絶好の機会のはずなのにね」
「ふっ……、でも肝心のあなたの主人公はあっちの椅子に一緒になって囚われちゃってるわよ、ナミ。それともあなたの待つ主人公って言うのはあのエックスワイゼットとか言う心の傭兵さんのことなのかしら」
「もうぉ〜、リアまで私とナギのことをそうやって茶化すのはやめてよね〜。そういうのはレイチェルだけで十分よ。それに助けに来る主人公だってあんなエセ正義マン男じゃなくてレミィかシッスにしてよ〜。別に女が女を助ける展開でもいいんだからさ〜」
「私もその子に同感よ。オカマの私から見てもあの自ら主役気取りの激しい傭兵さんはなんだか頼りなく思えるわ。リーダーの刑事さんやホラー好きの武闘家シスターさんの方がよっぽど頼りになりそう」
「ふふっ、そうね。良く考えたら私もあいつに助けられるのだけはごめんだわ。ああいうのに限って助けた後いつまでも恩着せがましく威張り散らしてくるんだから。そういうのは自分から誇らないからこそ格好良く見えるのに」
「ふふふっ、まさかリアまで一緒になってエックスワイゼットの悪口を言うなんて。やっぱり3人共女同士なんだかんだで意見が一致するみたいね。……その内一人はオカマだけど」
ナギがデビにゃんの呼び出しに失敗したことで所謂“詰んだ”と言う状況に陥ってしまったナギ達だったが、柱に磔にされているナミ、リア、バジニールの3人は何故か急に明るい様子なり会話が弾んでいた。見た目の性別や電子生命体であることは関係なく心が女である者同士どこか気が合うところが見つかったのだろうか。そんな3人の様子を反対側に一人ポツンっと椅子に座らされているナギは羨ましそうに見つめていた。
「ちぇっ……、なんだか知らないけど急に3人で楽しそうに話し始めちゃって……。どうせなら僕も皆と一緒にあっちに磔にされてれば良かったのに……。でもよく考えたらどうして僕だけこんな椅子に座らされてるんだろう。こういうのって大体一番初めに酷い目に合わされる布石なんじゃ……。なんだか嫌な予感がしてきたぞ……」
「でもよくよく考えてみたらレミィ達の方は本当に大丈夫なのかしら……。確か二人のメイドの悪霊を倒したところで私達はここに飛ばされてきたのよね。相手があのローレインって奴だけになったとはいえ向こうも私達を除いた4人だけのパーティになっちゃったってことでしょ。デビにゃんを入れれば5人だけど……。まさかもうあいつにやられちゃったなんてことはないわよね……」
「それは大丈夫だと思うわ、ナミ。この状態でも端末パネルは出現させることはできるみたいだからさっき皆のステータス画面を確認してみたんだけど、皆HPは満タンの状態でまだこのダンジョン内にいるようだったしもうさっきの奴等との戦闘は終わったんじゃないかしら。マップは表示できなかったから皆のいる場所とここの場所がどこかは分からなかったけどね」
「そうなんだ……良かった。流石レミィ達はパーティが半分になったぐらいでそう簡単にやられたりはしないわね。あ〜あ〜、さっきは囚われのヒロイン気分が味わえるなんて言っちゃったけど、やっぱり私は助けられるより助ける側の方が良かったな〜。皆がピンチの時に颯爽と現れて敵をぶちのめす方が私の性に合ってるわよね〜」
「あら、私はそうは思わないけど。あなたみたいな気丈な女の子ほどその態度とは裏腹にロマンティックな展開を求めてるものなのよ。意中の男に今みたいな窮地から救われたりしたらそのまま身を委ねて行くところまで行っちゃうんじゃなぁ〜い」
「な、何よ……、確かにロマンチックな展開には憧れるけど私は別にそんな軽い女なんかじゃ……」
「ああ〜、そう言えばミステリー・サークルゴーレムに吹っ飛ばれてナギにお姫様抱っこで受け止めてもらった時もうっとりした表情になって暫く二人で見つめ合ってたわね。あれはやっぱりそういうことだったってわけ。激痛整体師とかいう変な治癒術士の奴が止めに入らなければバジニールの言うようにあのままナ……っ!」
「ふふっ、どうやら私の見立てで間違いないみたいね。でも折角そんないいところまで行ったのに邪魔が入ったなんて残念だわ。あなた達は互いにアプローチするのが苦手みたいだからその場の雰囲気に頼らないといつまで経っても思いが成就しないわよ。今度そういう雰囲気になることがあったら絶対周りの邪魔なんか気にしちゃ駄目。もう互いに離れたくなくなるぐらいに一気に関係を深めちゃいなさい」
「だから私とナギは別にそういうんじゃ……。もうぉ〜、リアが要らないこと言うから余計こいつが調子づいちゃったじゃなぁ〜い。もうこんな話やめてもう一度皆で周りに何かないか確認……」
「しっ!、二人共少し黙ってっ!。……さっきから微かだけど人の足音らしきものが聞こえるわ」
「えっ……」
“コンッ……コンッ……”
「本当だわ……。この中には誰も見当たらないし、音の響きからしても広間の外から聞こえてきてるのかしら」
「それにどうやらこっちに向かって来てくるみたいよ……。ちょうどそっちの壁の向こう側辺りからね。こっちから見た所ここに入る為の扉のようなものはどこにも見当たらないけど……」
女同士でありきたりな会話で盛り上がっていたナミ達だったが、その時リアが何物かの足音が聞こえてくることに気付いた。リアの言葉に反応してナミとバジニールも耳を済まして周囲の音に注意を傾けたのだが、どうやら足音はこの広間の外、それもこちらに向かって近づいてくるように聞こえてくるらしい。音のする方向はちょうど向かい合っているナギとナミ達が互いに同じ方向に斜めに視線を送った先の壁の奥からだったが、こちらへ入ってくる為の扉のようなものは見当たらなかった。そもそもこの広間自体全て壁に覆われているようで、どこを見渡してもこちらからは出入り口となっているようなものは確認できなかった。
“コンッ……コンッ……”
「でも確実に足音はこっちに近づいて来てるよ。この広間の壁沿いで道を曲がるってことなのかな……。もしレミィさん達なら僕達が近くにいることを知らせる為に大声で叫んだりした方がいいんじゃ……」
「いえ……、残念だけどこの足音は一つだからレミィ達であるとは考えづらいわ、ナギ。いくら私達を探す為とはいえダンジョン内での単独行動がどれだけ危険かぐらい皆分かってるはずだしね」
「そ、そっか……。確かにそれはその通りだね……」
「………」
もしや足音の主はレミィ達ではないのかと希望を抱いたナギだったが、リアに足音が一つであることを理由にすぐにその可能性を否定されてしまった。ナミやバジニールもリアの考えに同意だったのか沈黙を保っていたが、内心はナギと同じくレミィ達である期待が薄いことに落胆し不安を抑えるので精一杯の状態だった。そんなナギ達の不安の心音に呼応するように足音はこの場所へと近づいて行き……。
“……コンッ”
「……っ!。あ、足音が止んだ……。どうやらあの壁の向こうで立ち止まったみたいよ……」
「そのようね……。恐らく私達のいるこの広間に入ってくるつもりでしょう。皆こんな状態でもできる限りの警戒は怠らないようにね」
「ええ……、どんな奴か知らないけど私の元に近づいて来たらこの自慢の頭でヘッドバットでもかましてあげるわ。相手の身長が私と同じぐらいだったらの話だけどね……」
「で、でもどう見たってあそこの壁に扉なんてないわよ……。一体どうやってこっちに入っ……」
“ゴゴゴゴゴゴォッ……”
「……っ!、な、何……この音と振動はっ!。……ってああっ!。か、壁が……扉も何もなかったはずのあそこの壁が勝手に開いて行ってるわっ!」
その足音はナギ達のいる広間の壁際まで来て止まった。つまりはその足音の主が向こう側の壁の前で立ち止まったということだが、その後急に広間中が巨大な何かが地面を擦るような地響きと共に激しく揺れ始めた。慌てたナミが足音が止まった壁の方を振り向くと、なんと何も見当たらなかったはずの壁に長方形を模った、更にはその中央に縦に真っ直ぐ伸びた亀裂が入っており、その中央の亀裂から長方形の亀裂に沿って内部の壁がまるで両開きの引き戸のように左右に向かって開き始めていた。広間中に響き渡る地響きはどうやらこの開く壁と周りの壁が擦れることによって生じているようだ。
「ま、眩しい……。やっぱりこっちの部屋は外に比べて大分暗かったみたいね。差し込んでくる光に目が眩んで向こう側の様子が全然見えないわ……」
「ええ……けどさっきの足音の奴の影が見えてきたわ、ナミ。どうやらもうレミィ達でないことは間違いみたいね」
そして壁の扉が開くと共に向こう側の光がこちらの広間に差し込んでいき、全て開き切ると同時にその光の中から足音の主と思われる者が姿を現した。最初は光の中にいた為か黒い影の姿しか見えなかったのだが段々とその光は弱まっていき、とうとうその者の全容が明らかになった。
「………」
「あ、あいつは……っ!」
扉の先とナギ達のいる広間、二つの空間の明度が中和されナギ達の視界が扉の奥まで開けた時、そこには足音の主と思われる一人の男の姿があった。だが当然只の男ではなく、完全に白目を剥いた瞳のない見開いた状態の目、歯と歯茎がむき出しの状態のまま全く閉じる気配のない口、服装こそ襟、袖の整った上品さの感じられる背広を着ていたがその姿は人と似て非なるものとしか言いようがなかった。更には頭部にいくつもの万力のネジの付いた鉢がねのようなものをしており、よく見ると両手の指先の爪が全て剥がれていて焼き爛れたように身が赤く染まっていた。恐らく足の指先の爪も同じ状態となっているのだろう。突如目の前に現れた想像を超える男の姿にナギ達は男に振り向けた顔も視線も動かすこともできず只絶句するしかなかった。
「い、一体何なのよ……あいつは……。完全に化け物の顔してるけど人じゃないわよね……。あの館の長女達みたいに悪霊ってわけでもなさそうだけど……」
「おおっ!、これは失礼デースっ!。私はこれでもあなた方プレイヤーやそこのNPCさんと同じく人として登場しているキャラクターなのですよ。勿論幽霊なんかでもありませーん。わざわざヴァルハラ国からこの館にまでいらした皆さぁーんっ!」
「しゃ、喋った……。まぁ自分で人だって言ってるんだから当たり前か……。って言うか喋るんなら一先ずその歯茎が出るくらい開きっぱなしの口をちゃんと閉じなさいよ。あんた喋る時唇を使わずに歯しか動かしてないじゃない。そんなんで自分のことを人だって言われてもとても信じられないわ」
「おおっ!、それはすみませーんっ!。ですがこれはそういうキャラクターの設定なっていることなので大目に見てくださーい。私もこのゲームに参加して以来ずっと口を閉じる努力をしてきたのですがその苦労が報われることはありませんでした……」
広間に姿を現した男はナミ、恐らくナギ達も心の中で思っていただろうが化け物だと言われながらも自らを人であると称した。だが姿だけでなくその仕草まで異常で、ナミとの会話の最中一度たりとも唇を閉じることなく歯茎までむき出しになった歯を上下に噛み合わせるだけで言葉を発していた。更には白目に見開いた目も一度も瞬きをしておらず、ナミの言う通りとても人と言われて信じられるようなものではなかった。その化け物の男はナミとの会話を終えるとゆっくりと歩き出し広間の中央に捕えられているナギ達の元へ近づいて来た。男はちょうど椅子に捕えられたナギと柱の壁に磔にされたナミ達の中心に来た辺りで立ち止まり、それを見たリアが男に何者であるかを問い質した。
「それで……、急にこの広間に捕えられた私達の前に姿を現したあなたは一体何者なのかしら。そんな形姿をしておいて自分を化け物のじゃなく人間だと言うのなら、せめてあなたの方から自己紹介ぐらいしてもらえないかしら」
「おおっ!、これはまた失礼しました。私はこの館の主、つまりはあなた方から見てこのダンジョンのボスの“拷問紳士”という者でーす。当然ながらあなた達の敵ということになりまーす」
「ご、拷問紳士ですって……。随分と物騒な名前ね。その名前を聞いて今頭の中に悪い予感がずらずらよぎってるけど怖すぎて耐えられないから全部忘れることにするわ……。この館の主ってことはさっきのローレインとかいう悪霊の父親ってことかしら。娘やメイド達は亡くなって悪霊になってるっていうのにあんたは普通に生きてるのね」
「おおっ!、それは違いマースっ!。私がこの館の主になったのは彼女達が亡くなった後の話でーす。ですから私はローレインの父親ではありませーん。彼女の父親、この館の者達が仕えていた本当の主もすでにお亡くなりになっていまーす」
「えっ……、それじゃあ主のいなくなったこの館をあんたが勝手に乗っ取ったってこと。敵キャラクターとはいえ随分悪どい真似するのね。……ところでこの館の主やあの長女とメイド達はどうして亡くなったの。っていうかこの館で他に生きてる人間を見掛けたことがないんだけど……」
「それは当然でーすっ。主や娘達も含めこの館に住んでいた者達はこの私が皆殺しにしてしまったのですから」
「な、なんですってぇぇーーーっ!。この館に住んでた者達を皆殺しにしたって……一体どういうことなのよっ!」
「それは……」
ナギ達の前に現れた気味の悪い姿の男は自らを“拷問紳士”と名乗り、更にはこの館の主で尚且つダンジョンのボスであると公言した。その物騒な名前と先程の拷問器具から脳裏に嫌なイメージしか思い浮かばなかったナミだったが、少しでも情報を得ようとそれらのイメージを振り払って拷問紳士との会話を続けた。するとその会話の途中で拷問紳士はなんと自身の手でこの館に住んでいた者達を全て殺害したと言い放ったのだ。その言葉を聞いて慌てたナミに詳しい事情を問い質され、拷問紳士は自身がこの館の主になるまでの経緯をナギ達に話し始めた。




