finding of a nation 85話
「う、う〜ん……」
ローレインの合わせ鏡の仕掛けに掛かったナギ、ナミ、リア、バジニールの4人、一体広間からどこに転移させられたのかとレミィ達は今も必死に4人ことを探していたが、その内の一人であるナギが今冷たい暗闇の中で目を覚まそうとしていた。どうやら合わせ鏡の仕掛けによって転移させられると同時に意識を失ってしまっていたようだ。そして鏡の光に包まれてから再び視界を取り戻したナギが転移されていた場所は……。
「……っ!。あ、あれ……ここは一体どこだ……。確か広間で女の人の悪霊達と戦ってた途中で鏡の光に包まれて……。それにナミやレミィさん達は一体どこに……っ!。あ、あれは……」
意識を取り戻したナギは必死に意識を失う前のことを思い出し自分の身に起きたことを把握しようとした。だが一先ず行動を共にしていたナミやレミィ達を探そうと顔を上げた瞬間、ナギの目の前には思わず目を疑いたくなるショッキングな光景が広がっていた。
「ナミっ!、リアッ!、バジニールさんっ!。……くそっ!。皆僕と同じように意識を失……っ!」
“ガチャッ!”
「な、なんだぁぁぁっ!、これはぁっ!」
意識を取り戻し顔を上げたナギの目に飛び込んできたのはなんとこの空間の壁、いや、恐らくはこの間を支える柱の一つに磔にされたナミ、リア、バジニールの姿であった。3人は大の字になるように両手両足を柱の壁に備え付けられた手錠に掛けられており、意識を失っているせいか首を地面に向けて垂らした状態で磔にされていた。そしてそんな3人の姿を見てすぐさま駆け付けようとしたナギであったが、その瞬間感じた痛みと共に自身の両手両足も動かすことのできないことに気付き、慌てて自身の様子を確認するとなんとナミ達と同じように両手足に手錠を掛けられて何かの椅子に座らされている状態であったのだった。更にはベルトによって自身の体まで後ろの背もたれに縛りつけられており、そのナギの姿はさながら電気椅子に座らされて死刑が執行されるの待つ囚人のように思えた。
「く、くそ……っ!。これじゃあ僕も身動きが取れない……。ナミィィィっ!、リアァァァっ!、バジニールさぁーんっ!」
自身も身動きが封じられていることに気付いたナギは何とか手錠を振り解こうともがきながらナミ達の名を叫んだ。だがそのような抵抗も虚しくナギの両手足に掛けられた手錠はビクともせず意識を失い磔にされているナミ達を前にどうすることもできなかった。ただナギの必死の叫び声のみは届いたようで、皆耳をピクリと反応させ目を覚まそうとしていた。
「う、うんっ……なんか今ナギの声が聞こえたような……っ!。こ、ここは一体どこ……ってナギっ!。あんたそんなとこに座って一体何してんの?」
「何呑気なこと言ってるんだよっ!。僕もナミもリアもバジニールさんも手足に手錠を掛けられて拘束されているんだよっ!。
いいから周りを見てみなよっ!」
「て、手錠に拘束ですって……、ナギったら一体何を言……っ!、……って嘘っ!。本当に手に手錠が掛けられてる……それに足も……。おまけにナギと違って私達は壁に磔にされてるじゃないっ!。リアっ!、バジニールっ!、あんた達も早く目を覚ましなさいっ!」
「う、うぅ……。な、なによ……、うるさいわね……。寝起きにそんなデカイ声出されたら頭に響……うん?」
“ガチャガチャっ”
「……何よこれぇっ!。私の体が壁に磔にされてるじゃないっ!。一体これはどういうことなのよっ!」
「知らないわよっ!。私だって目が覚めた時にはここに磔にされてたんだからっ!。それよりリアっ!、早くあなたも目を覚ましてっ!。こういう時一番頼りになるのはあなたなんだからっ!」
「う、う〜ん……なによ……ナミ……。そんなに大きい声出して起こさなくても私は自分で……っ!」
“ガチャガチャっ”
「な、なに……っ!、起きようとしても手足が動かせ……っ!。ちょ、ちょっと何よこれぇぇっ!」
ナギの声に反応したナミに続いてバジニール、そしてリアも目を覚ましたのだが、皆自身の置かれている状況に気付くや否や同じように驚きの声を上げていた。突然見知らぬ場所に手足を拘束された状態で放り出されたのだから当然のことではあるが、一体ナギ達の身に何が起きたというのだろうか。
「一番頼りになるね……。その割には完全に私と同じ反応してたみたいだけど……」
「うぅ……そりゃいきなりこんな状況に置かれたら誰だってそうなるでしょうけど……。今はリアだけが頼りなのよ〜。お願いだから早くいつもみたいに冷静になってどうしてこんなことになってるのか説明して〜」
「そ、そんなこと言われたって私にも何がどうなってるのか分からない……。とにかく一番初めに目を覚ました人の話を聞かせてちょうだい」
「一番初めって言うと……ナギのことね。ナギ〜、リアがあなたが目を覚ました時の話を聞かせてほしいって〜っ!」
「えっ……、でも僕が目を覚ましたのだって皆のちょっと前ってだけだし……。その時には僕ももうこの状態になってたから皆と同じようなことしか言えないと思うんだけど……」
どうにか4人全員目を覚ますことがナギ達、取り敢えずリアは最初に目を覚ましたナギの話を聞いてみることにしたのだが、ナミやリア達と同じく目を覚ましたら突然この状態に置かれていたこと以外何も分からなった。一先ず自分達のいる場所の様子だけでも確認すべく4人はそれぞれの周囲を見渡していたのだが……。
「どうやら部屋の造りからしてここは地下室のような場所のようね。壁や床に使われている煉瓦から察するに館内部のどこかであることは間違いないようだけど……、さっきまで敷かれて鮮やかな赤色のカーペット、それに絵画や壁掛けなんかのアンティークが全然見当たらなくてまるで人の住む温かみというものが感じられないわ。地下室でなくとも物置か倉庫か……、とにかく普段の生活ではあまり使われていない場所のようね」
「そうね……だけど私にはまるで牢獄と言っていい程の重苦しい雰囲気が感じられるわ。物置や倉庫にしてはこれだけ物が置かれてないってのも不自然だし……それにほら、ちょっとあそこの柱の隅に置かれている物を見てちょうだい」
「あれは……、柱の壁に剣や斧……それに鞭なんかの武器が掛けられているわね。その側面の壁に置かれているのは……所謂ギロチンという奴かしら……」
「それだけじゃないわ……、あの天井から吊り下げられているのは恐らく振り子用の斧、その下の台に置かれているのは多分頭蓋骨を砕く為のメットに爪剥ぎ機……、あの有名な鉄の処女……、アイアンメイデンの形をした人形まである……。あれ全部処刑や拷問に使う為の道具よ……」
「な、なんですって……っ!」
バジニールに促されてナギ達が視線を向けた先には、一般の人の感性からするととても悍ましさを感じるような恐ろしい道具の数々が置かれていた。それはまさに中世の時代に使用されていた処刑・拷問器具そのもので、2本の柱の間に吊るされた刃を勢いよく落下させうつ伏せに寝かされた罪人の首を刎ねるギロチン、頭部に被せたメットのネジをしめ頭部を圧迫し激痛を与える頭蓋骨粉砕機、罪人を人形の中の空洞に閉じ込め、その扉の内側に付けられた無数の棘で閉じ込められた者を串刺しにする鉄の処女、見るだけで身の毛もよだつ悍ましい光景が思い浮かぶようなものばかりだった。当然それ見たナギ達……、中でもナミは驚きの声を
上げると共に一際怯えた表情を浮かべていた。
「ちょ、ちょっと待って……っ!。まさか今から私達あの道具を使って拷問されて処刑されるわけじゃないわよね……。いくらゲームでもそんなの耐えられないわよ……私……。きっとこの場の雰囲気を助長する為に置いてあるだけよね……」
「分からないわ……ナミ。私もこのゲームの電子生命体として必要以上にあなた達を苦しめるようなことはないと思いたいけど……、実際にどれ程ことが起こるかはまるで想像がつかないわ。このゲームに登場するNPCは全員ARIAによって管理されているけど、それぞれに与えられている権限はそのNPCに宿っている電子生命体の力によってまるで違うものになってるのよ。このダンジョンの主に私達を拷問するような権限が与えられている可能性は否定できないわ……」
「そ、そんな……」
「ふざけないでっ!、NPCの分際で何が拷問よっ!。この子達の言葉に少しは感心して私もあなた達NPC、そしてゲーム自体を敬う心を持とうと思ったところだったけど、そんな人の尊厳を無視するようなゲームにこれ以上付き合うつもりはないわっ!。もし本当に私に対してそんなことをしようものならあなた達をおいて遠慮なくこのゲームからログアウトさせてもらうわよ。そして二度とこんな糞みたいなゲームの世界に戻ってくることはないっ!」
「………」
やはりあからさまに置かれた拷問器具を見てナミやバジニールには嫌なイメージが思い浮かんだようだ。リアも二人のイメージを完全に否定することができず、二人の取り見出しようは酷くなる一方なのだったが……。
「ま、まぁそんなにカリカリしてないで少しは落ち着こうよ〜、皆〜。まだ実際に拷問されると決まったわけじゃないし……、それに仮にもし本当に拷問されるようなことがあっても僕達が想像してるような酷いものじゃないかもしれないよ。ここはゲームの中なんだからちゃんと僕達に悪影響のないように調整されてるはずだよ〜。僕達の肉体や精神だって現実世界のものよりずっと強く設定されてるわけだし」
「それは確かにそうかもしれないけど……、それでも拷問なんて演出私達の倫理観からしたらとても容認できるものじゃないわ。そもそもいきなりこんな手足を磔にされた状態にされてること自体クソゲーでしょ。他の4人、あの猫ちゃんも入れれば5人だけどどこにいるのか見当もつかないし……、一体ここからどうやってこの現状を打破しろって言うのよっ!」
「そ、それは分かんないけど……。とにかくクソゲーだとかログアウトするだとか決める前にやれるだけのことはやってみようよっ!。もしかしたらどこかに手錠を解く為の仕掛けなんかあるかもしれないし……」
「だけど……」
「ナギの言う通りね。このゲームの一部である私としても現状を打破する為の手段が用意されていると信じたいわ。取り敢えず皆でもう一度周囲を隈なく見渡して分かった情報をまとめておきましょう。この空間の構造をキチンと把握しておくだけでもいざという時に適切な行動を取れるはずよ。……例えばレミィ達が助けに来た時とかね」
「……っ!。レミィ……そうだわっ!。レミィだけじゃなくてこの館の探索にはゲイルドリヴルさんやセイナ、レイチェルやヴィンス達だって参加してるだから。全ての転移先は合流できる可能性があるって最初に確認してあるしきっと誰かがこの場所を見つけてくれるはずよっ!。皆の足手纏いにならない為にもナギやリアの言う通り今の私達でもできる限りのことはしておきましょう」
「ふっ……、全くあなた達のお人好しさには付き合い切れないわね……。でも私もMMOプレイヤーの端くれ……、あなた達の言う通り何の抗いもせず根を上げるわけにはいかないわっ!」
ナギとリアの言葉にナミとバジニールは僅かずつではあるが希望、そしてMMOプレイヤーとしての闘志を取り戻し始めていた。特にレミィやゲイルドリヴルやセイナ、共にこのダンジョンの攻略に臨んでいる仲間達の存在を思い出したのが大きかったらしい。彼らがこの場所に現れる保証はどこにもなかったが、ナギ達は皆のことを信じて再び周囲の様子を隈なく確認し始めた。
「こっちから見たこの部屋の奥行きは大体80メートル前後……、横幅はその倍くらいあるかしら。大分薄暗いけどどうにか部屋の四隅まで見渡せる程度の明るさは保持してくれてるみたいね。私達が磔にされてるのと同じぐらいの大きさが左右に1本ずつ立っているのが見えるわ。……そっちからの様子はどう、ナギ」
「う〜ん……、こっちから見ても大体奥の壁まで80メートルぐらいって感じかな〜。それでそっちの奥にもリア達が磔にされてるのと同じ柱が左右に2本ずつ分かれて立ってるよ。リア達のはちょうど部屋の真ん中に一本だけ立ってるみたいだけど……」
「そう……、それじゃあ大体この空間の面積は大体150メートル四方、天井まで高さは……流石に暗闇で見渡せないけど最低でも20〜30メートルはあるってところかしら。……とても部屋と呼べる広さじゃないみたいね」
「それどころかここに飛ばされる前に私達が戦ってた大広間より広いわよ、リア。こういう広い空間ってゲームだと大体ボスと戦うような場所だけど……」
「確かにここだとボス、それにリスポーン・ホストの能力で出てくるモンスターと戦うのにちょうどいい広さね。だけど肝心のそのボスの姿は見当たらないわよ。この場所に囚われた私達を誰かが助けに来た瞬間同時に出てくるってことなのかしら……」
「分からないわ……。あなた達の言う通りかもしれないし単に捕えた私達を閉じ込めおくだけの場所なのかもしれない。……それに残念だけどもう他に分かることもなさそうね」
「……っ!、なによ……っ!。それじゃあ結局この状況からどうしようもないってことに変わりないじゃないっ!。……こうなったらこんな手錠自力で破ってやるわっ!。……ふんぬぅぅぅっ!」
“ガチャガチャ……”
「無駄よ、バジニール。私もさっきから必死にもがいてるけどビクともしないわ。それにこの手錠に囚われている間は魔法を使うこともできないみたいだし外から他の誰かに壊してもらうしか……そうだわっ!」
互いに向かい合う形囚われたナギとナミ、リア、バジニールの3人、4人はそれぞれの視界の映る範囲を言葉で共有してこの空間全体の構造を把握しようとした。それによってリアに纏められた情報によるとこの空間の面積は150メートル四方、天井までの高さは最低でも20メートル以上はあるようで、これはもう部屋というより広間と呼べる程の空間の広さだった。先程ナギ達の話ていた拷問器具の他にはパラパラと分厚い本が立てられてた本棚がいくつかあったのだが、ナギ達の求める手錠を解く為の仕掛けのようなものは何も見当たらなかった。再び途方に暮れるナギ達だったが、そんな中リアが何かに気付いたように声を上げた。
「ナギ、確か魔物使いのあなたには仲間モンスターを自身の元へ呼び出す魔法が使えたはずよね。私の攻撃魔法は発動できなかったけど、もしかしたらあなたの魔法ならデビにゃんをこの場に呼び出すことができるかもしれないわ」
「……っ!、そっかっ!。デビにゃんさえここに来てくれれば外からの攻撃でこの手錠を壊すことができるはずだわ。早速やってみて、ナギっ!」
「う、うん……分かったよ。……コールっ!」
リアとナミに促されてナギはデビにゃんをこの場に呼び出す為“コール”の魔法を発動させようとした。確かに拘束されいない状態のデビにゃんさえこの場に呼び出すことができればナギ達の手錠を壊して外すことも可能だろうか果たしてそう上手くいくのだろうか……。
“ピッ……”
「にゃぁ……っ!」
「……?。どうしたの、デビにゃん、急に立ち止まって……」
「い、いや……、今微かにナギに“コール”の魔法で呼び出された感覚がしたんだけど……、なんか途中で掻き消されちゃったみたいなのにゃ、レミィ。多分ナギが魔法を発動させたのは間違いないはずなんだけど……、もしかしたら魔法の効果が遮断されるような場所にナギ達は転移させられたのかもしれないにゃ……」
「そっか……それは残念だね。でも魔法を発動させようとしたってことは少なくともまだナギ君達は無事な状態でこのダンジョンの中にいるってことだよ。端末パネルのステータス画面もHPのゲージは満タンのままだし、きっとまだボスと戦ってるわけじゃないんだよ」
「そりゃそうだ。いきなりパーティを4人に分断された上ボスと戦わされたとあっちゃナギ達も納得いかないだろうぜ。当然今あいつらを必死になって探してる俺達もな」
「でもナギ君達とここのボスとの戦闘がいつ始まるとも限らないよ、アクスマンさん。できるだけ早く私達もナギ君達と合流して戦いに加勢しないと……」
「シスちゃんの言う通りっ!。次は予定通りこの大音楽堂って所に行くよ。……あっ!、もし今みたいにナギ君から“コール”魔法で呼び出されて上手くいきそうな時は遠慮しないでナギ君の所に行っちゃっていいからね、デビにゃん。私達のことは心配しないでナギ君達と一緒にここのボスをブッ飛ばしちゃってっ!」
「にゃっ……。ありがとうにゃ……レミィ……」
ナギの“コール”の魔法はデビにゃんに届きはしたもののやはりリアの攻撃魔法と同じく上手く効果を発動させることができなかったようだ。ナギからの呼び出しに応えることができなかったことを残念に思いながらも、少しでもナギ達の置かれている状況が分かったことをバネにしてレミィ達は再びダンジョンの探索を再開した。




