finding of a nation 80話
「はあぁぁぁぁっ!、……祈祷弾っ!」
“バァンッ!、……バンバァンッ!”
「くっ……」
ゲイルドリヴルがブラマと戦っている頃、そこから少し手前に戻った辺りで馬子もパラとの戦闘を繰り広げていた。馬子は得意の祈祷弾で攻め立てていたのだが、それに対して何故かパラは消極的な戦い方を取り攻撃を避けることに専念しているようであった。
「ふっ……、どうやら私の祈祷弾がゴースト系の敵に効果が抜群だってことはあんたも分かっとるみたいじゃね。良く考えたらここは祈祷師の職を経験しとる私にとって打って付けのダンジョンじゃったわ。他にもゴースト系相手に効果覿面な術技は沢山あるけぇ覚悟しんさいねっ!」
どうやら祈祷師の職で修得できる術技は物理攻撃でありながらゴースト系、特にパラのような悪霊と化した相手に抜群の効果を発揮する特性を持っているらしい。その為パラは少しでも馬子の攻撃を受けることが許されず回避に徹していたようだ。
「くっ……さっきから調子に乗ってぇ……っ!。こうなればゴースト系モンスターのとっておきの技を見せてあげるわ……」
「何がとっておきじゃけぇ。そんなこけおどしにビビる私じゃないよ。それならこっちもとっておきの技を見せちゃるけんね。……祈祷光波っ!」
「ふっ……」
“スッ……”
「えっ……」
防戦一方のパラの様子を見て調子に乗ったのか馬子は攻撃力の更に高い祈祷光波を繰り出し一気に勝負を決めようとした。馬子の祈りによって錫杖の先端から放たれた光がパラへと襲い掛かったのだが、光が届く寸前のところでパラは影のようにその場から姿を消してしまうのであった。
「き、消えてしもたけぇっ!。ゴースト系のモンスターじゃったら別に不思議なことじゃないけど……、状況が不利と思って逃げてしもたんかなぁ……」
「ふっ……、誰が貴様のような小娘から逃げるか」
「えっ……」
“バッ!”
「い、いきなり後ろから……くっ!」
姿を消したことで馬子の祈祷光波から逃れたパラだったが、馬子が周囲を見渡す間もなく突如背後から姿を現した。恐らく姿を消してから5秒も経過していない。不意を突かれた馬子は慌てて後ろを振り向きざまにパラに向かって錫杖を振ったのだが……。
“スッ……”
「ああっ!」
「ふっ、調子に乗ってたせいでもうゴースト系モンスターの特性を忘れちゃってたみたいね。近付きさえすればあなたの得意な御祈り技も使えないでしょう」
「そ、そんな……。いくらゴースト系モンスターじゃからってこんな一瞬で背後を取られるなんてインチキじゃけぇっ!」
「これがゴースト系モンスターのとっておきの技……、瞬時に姿を消してまた瞬時に姿を現すダブル・シャドウ・リバースよ。普通だったら姿を消すのにも現すのにも10秒以上掛かるところをほんの一瞬で終わらせてくれるわ。……その代わりMPもEPも大量に消費してしまうけどね」
「くっ……そ、そんな技があったなんて……」
「さぁっ!、さっきまでのお返しに私の怨念を直接あなたに送ってあげるわっ!」
“バッ!”
「……っ!。ぐっ……ぐあぁぁぁぁっ……」
一瞬の内に馬子の背後へと移動したパラは物理攻撃が通じずたじろぐ馬子の首を両手で掴み絞め始めた。そしてもがき苦しむ馬子に対して更に両手に自身の怨念の力を込め始めたと思うと……。
「はあぁぁぁぁっ……グラッジ・テレパシーっ!」
「ぐっ……ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
パラはグラッジ・テレパシーによる怨念の魔力を首を絞めている両手から直接馬子へと送り込んだ。普通は遠距離から念波のようなものを放ち攻撃する技などだが、直接体に怨念を送り込まれたことにより馬子へのダメージは爆発的に増加していた。それは一瞬で馬子のHPゲージを赤色にしてしまう程の威力で、このまま馬子は力尽きてしまうかと思われたのだが……。
「うっ……うぅ……」
「ふっ……、どうやらもうそろそろ力尽きてしまいそうね。それならば最後にあなたの生気を頂いて少しでも私の空腹を和らげる糧になって貰いましょう。それにしても生身の人間の生気なんて久しぶりだわ……ふふっ」
「うぅ……」
「はあぁぁぁぁっ!、スピリット・ドレ……っ!」
「馬子ぉぉーーっ!。……はあぁっ!」
“シュイィィィィィィン……バアァンッ!”
「ぐはぁぁぁぁぁっ!」
段々と体の力が抜け始めている馬子を見て、そろそろ頃合いとでも判断したかのようにパラはスピリット・ドレインという技を放ち首を絞めている両手から馬子の生気を奪おうとした。だがその時間一髪こちらに援軍に向かっていた鷹狩達が駆けつけ、パラに首を絞められている馬子を見たマイが瞬時に光弾の矢を放ちパラの背中に直撃させた。先程の自分とは反対に背後からの一撃を受けたパラは相当なダメージと衝撃に耐え切れず馬子の首を絞めていた両手を放してしまい、苦しみから解放された馬子はすんでのところで薄れ掛けていた意識を取り戻した。そしてマイの光弾の矢を受けた衝撃で動けずにいるパラに向かって先程までの恨みを晴らすかのように……。
「はぁ……はぁ……。よ、よくも人様の首を息ができんくなるまで締めてくれたね。ゲームの中とはいえ本気で窒息死するんじゃないかと思うたわ。あんたみたいな達の悪い悪霊はこの大技で二度と人間の世界に顔を出したくないと思うくらい吹っ飛ばしたるわっ!」
「ぐっ……ふ、吹っ飛ばすだと……」
「悪を払うは淨らかお転婆馬子娘……馬子の祈りで悪霊退散っ!、必殺祈祷・祓魔爆散っ!」
“キュィィーーン……”
「ぐぅっ……な、なんだ……。急に体の奥から力が溢れ出て……しかもこれは私のものでは……」
“バアァァァァァァァンッ!”
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」
馬子が祈祷を始めるとともにパラの霊体の内部から何か光のようなものが溢れ出て来た。その光はどんどん広がっていきやがてパラの霊体以上に膨れ上がったと思うと、そのパラの霊体ごと爆発し散り散りになって煌めきながら館の闇の中へと消えていった。どうやら祈祷師特有の霊体の敵に対してのみ有効な祓魔爆散という術技らしい。相手の霊体の中心に意識を集中して自身の祈りの力を注ぎ込み、内部から爆発を起こし粉々にする何ともえげつない技のようだ。一先ずパラを退けたことでナイト達の元にいるグラッジ・シャドウ達も消え去ったはずだが……。
「ぐっ……はぁ……はぁ……。なんとかあいつは倒せたけど力を使い過ぎたけぇ」
「大丈夫か、馬子っ!。今回復魔法を掛けてやるから少し待っていろ」
「た、鷹狩さん……。それにマイにリリスも……。さっきはマイのおかげで命拾いしたよ。……けどどうして皆こっちに来てくれたん?。それにナイトや不仲さん達は……」
「それならもう大丈夫なはずよ。皆があんな影みたいなモンスターにやられるわけないし、それにリスポーン・ホストのこいつを倒したことでもうそいつらも消え去っただろうから」
「あっ……そ、そうじゃったね。それなら私はもう大丈夫じゃけぇ早くこの先にいるゲイルドリヴルさんのところに向かってあげて。自分で治癒もできるしすぐナイト達も駆け付けて来てくれるじゃろうから」
「そうだな……、では悪いが我々は先に行かせてもらうぞ、馬子。こう言ってはなんだが今は私もゲイルのことが心配だ」
「うん……、鷹狩さんのおかげでもう大分回復できたしすぐ私も追いつくから心配せんといて」
「分かった……。では行くぞ、お前達っ!」
「了解よっ!」
「かしこまりました〜」
馬子と合流できた鷹狩達であったが、ダメージを負っている馬子自身からの提案も受けてこの場に残してこの先でブラマと戦闘を繰り広げているであろうゲイルドリヴルの援護に向かった。皆ゲイルドリヴルの実力は承知の上だったとはいえパラ相手に苦戦を強いられていた馬子の姿を見て胸に不安がよぎり始めたのだろう。援護に向かう為走る鷹狩達の足はこれまで以上に忙しく歩数を進めていた。
“バァンッ!、……バンバァンッ!”
「ちっ……、こう続けて火球を撃たれ続けては攻撃に転ずる隙がない……」
ブラマとの戦闘を再開したゲイルドリヴルだったが、次々と放たれて来るファイヤーボールの火球を避け続けるしかない状態で悔しくも相手に主導権を握られてしまったようであった。ブラマの放つ一つ一つの火球の大きさもそしてその質量も先程ゲイルドリヴルが受けたものより増大しており、一撃食らうだけで体勢を崩されそのまま複数の火球を続けて受けることなり大量のHPが削られてしまう程の威力を誇っていた。魔術師の比較的早い段階で修得できる基本的な魔法ではあるが、修練を積めば下手に大量の魔力を消費する魔法より余程使い勝手が良く相手与えるダメージの効率も良い。
「ははははははっ!、今度はそっちが防戦一方になってしまったわね。いつまで私の魔法を躱し続けられるかしら」
「ふっ……、それこそ貴様のMPが尽きるまで永遠に避け続けてやるさ。私の槍を防ぐのに手一杯だったお前と違いこの程度の火球を躱す程度私には造作のないことだ」
「……言ってくれるわね。これでも私は黒魔導師の称号まで上り詰めた熟練の魔術師……。この程度の魔法なら小一時間は撃ち続けられるぐらい魔力を制御する術を持ち合わせているのよ。それまで攻撃を避け続けるあなたの体力が持つとはとても思えないけどね……はぁっ!」
“バァンッ!、……バンバァンッ!”
「くっ……、小一時間か……。避け続けようと思えば可能だが流石にそれだけの時間を食うわけにはいかないな。こうなれば一か八かあいつの火球を受けるのを覚悟で攻撃に転じるし……っ!」
“ダダダダダダッ”
「援護に来たぞっ!、ゲイルっ!」
「……っ!。鷹狩……それに他の者達もっ!」
撃ち止むことのないブラマのファイヤーボールにゲイルドリヴルは肉を切らせて骨を切る覚悟で攻撃に転じようと考えていたのだが、その行動に移る前に背後から援護に駆け付けた鷹狩達の足音と声が聞こえて来た。思い掛けない援軍に驚くゲイルドリヴルだったが、鷹狩達の姿を見たブラマは違う意味でそれ以上に驚きを隠せない様子だった。
「そ、そんな……あいつらがここに駆け付けて来たってことは……。この短時間でもうパラの奴を倒してしまったっていうのっ!。私にはあいつのように仲間を呼ぶ為のリスポーン・ホストの能力は持ってないしこのままじゃ……」
「ふっ……どうやらこれで勝負の大勢は決まったようだな。如何に魔法を撃ち続けることができると言っても貴様一人で複数の相手はできまい」
「くっ……」
鷹狩達が援護に駆け付けたことでブラマとの勝負の形勢は一気にゲイルドリヴル達の優位となった。それどころか一人で複数の相手をしなければならなくなったブラマは自身の敗北の運命を察しまだ動揺から立ち直れない様子だった。そんなブラマに向かって援護に来たマイは容赦なく光弾の矢を撃ち放った。
“シュイィィーーン……シュイィィーーン……”
「……っ!。くっ……」
“バッ……バッ……”
なんとか正気を取り戻しマイの矢を躱したブラマだったが、すでにこれまで撃ち続けていたファイヤーボールを放つ気力もなく完全に無防備になった状態で後退させられてしまった。その隙をゲイルドリヴルが見逃すわけもなく……。
“バッ……!”
「……っ!」
「……これで終わりだな。……はあっ!」
“グサッ!”
「ぐぅっ……!」
ゲイルドリヴルはまだブラマが後退させられている状態であるにも関わらずブラマの目の前に向かって飛び、共に宙を移動しながら槍を持った右手に力と魔力を込めたと思うと全力で突きを放ちブラマの左腹部の辺りを貫いた。そしてこれもゲイルドリヴルの魔力の力なのかブラマを槍で貫いた瞬間僅かな間中に浮いた状態で二人の体が制止し、槍の矛先の刺さったブラマの左腹部の辺りから銀に近い水色の魔力が輝き始めた。
“キラキラキラ……”
「ぐっ……こ、これは……。もしや私の苦手な氷属性の魔力……。まさかこれまでの僅かな戦闘の間に私の所持属性が土であることを突き止めたというの……」
「ああ……、最初に貴様の作り出した土の壁と衝突した時にな。槍の矛先から伝わった魔力の強さからすぐに貴様の持っている属性が土であることが分かった」
「うっ……」
「止めだ……、はあぁぁぁぁぁっ!。……氷華爆槍撃っ!」
“パアァーーーンッ!”
「ぐっ……ぐはぁぁぁぁぁぁっ!」
氷華爆槍撃と叫ばれたゲイルドリヴルのその技はブラマの左腹部から刺さった矛先から一気に魔力を解放すると、そこ中心に一瞬にして美しく煌めく華の形をした氷の結晶を作り出した。どうやら敵に刺さった槍の矛先から魔力を送り込み内部から全身を凍結させる程の氷の魔力の爆発を発生させる技らしい。霊体であるにも関わらず美しく咲いた氷の華と共に凍り付いたブラマの体は、ゲイルドリヴルが槍の矛先を抜いた瞬間またその華と共に砕け散りその場から消滅した。
「……どうにかこの場は奴を退けることができたようだな。だがベンの言う通りリスポーン能力を保持しているのならばまたこのダンジョンエリア内で復活を果たして来るはず……。何か食い止める手段はないものか……」
“ダダダダダダッ”
「無事かっ!、ゲイルっ!」
「鷹狩……、どうやらお前の判断で皆私の援護に駆け付けてくれたようだな」
「いや……、私もそう考えていたのは確かだが最初に口に出したのは不仲だ。その後ナイトや他の者達の同意の元ナイトと不仲、イヤシンスに影のモンスターの相手を任せて我々はお前と馬子の援護に向かったというわけだ。すでに途中で馬子とは合流しあのパラとかいうメイドの悪霊も退けてある。恐らく馬子もナイト達と合流し我々に追い付いてくる頃のはずだ」
「そうか……。それは皆に礼を言わねばならないな。指揮官である私が一人で突出してしまったにも関わらずお前達の臨機応変な対応をおかげでこの場を乗り切ることができた。正直なところ最初は不安に感じていたがお前達パーティを組めたことを頼もしく思う」
「ふっ、何をらしくないことを言っている、ゲイル。そんなことより今後の我々の行動についてだが……、何やらベンがまだ話したいことがあるようだったぞ」
「なに……」
「“あっ……はいっ!。戦闘でお疲れのところ申し訳ありません。実は皆さんに是非ともこのダンジョンのエリア内に隠されたアイテムで取得して頂きたい物があったのです。それでまずはそちらの場所に案内させて頂きたいと思ったのですが……”」
「アイテムか……。それはこのダンジョンの攻略に役立つ物なのか」
「“はい……実は私の願いである部分も大きいのですが……。ダンジョン攻略を目指すあなた方にとっても非常に有用なアイテムであるはずですっ!”」
「そうか……。ならばそのアイテムの取得を優先して行動してもよいのだが……、今後のことについては馬子やナイト達と合流してから決めよう。それから改めてそのアイテムについて詳細な情報を教えてくれ」
「“分かりました”」
ベンからダンジョン攻略に有用なアイテムがあるという情報を受けたゲイルドリヴルだが、一先ず馬子達が合流してくるのを待つことにした。それからもう間もなくして馬子達もゲイルドリヴル達の元へと追い付いてきたのだが、皆これまでの戦闘で疲労が蓄積していたのか近くにあった部屋を一室確保して休息を取ることになった。皆各自持参したお菓子やおにぎり、弁当等食事を取りながら今度のパーティの方針について話し合っていた。




