finding of a nation 79話
「はあぁぁぁぁっ!」
ゲイルドリヴルはブリュンヒルデから贈られたレビンズ・スピアの矛先を真っ直ぐにパラに向けて凄まじい勢いで突進していった。パラに向かう途中でゲイルドリヴルの闘気と魔力が込められたレビンズ・スピアの矛先からバチバチと雷が走り始めたと思うと、その雷は一瞬にしてゲイルドリヴルの全身を包み込みその肉体と槍と共に巨大な雷光へと姿を変え、まさに稲妻のような凄まじい闘気をバチバチと放ち光のような速さでパラへ迫った。どうやら通常の突きではなく雷光閃槍撃という自身の体を雷光を放つ閃光へと変えまさに光のような速さで一瞬にして敵を貫く魔槍術士の術技のようだ。見ての通り雷属性を有する攻撃で、その属性変換率は100%である。術技である為通常は物理攻撃なのだが、魔槍術士であるゲイルドリヴルは通常の槍による攻撃だけなく魔槍術士特有の術技も自身の魔法攻撃力を用いて放つことができる。当然術技を使用する為のEPとより魔法攻撃へと転換する為に多くのMPを消費することにはなるのだが。
「これでっ……終わりだぁっ!」
「……っ!」
ゲイルドリヴルの雷光閃槍撃のあまりの速さにパラは驚いた様子でまるで反応が追い付いていなかった。リスポーン・ホストであるパラさえ倒してしまえば鷹狩やナイト達を取り囲んでいる悪霊達も消える。このままあっさりと勝負がついてしまうかと思われたのたのだが……。
「はあぁぁぁぁっ……っ!。な、なんだ……っ!」
「ちっ……、いつまで経っても皆が揃わないから気になって来てみれば……。こんな連中に何を手こずっているのかしら、パラ」
「……っ!。ブラマっ!」
「大地よ……、その大いなる地の力でこの地の空間を外界から閉鎖するのだ。……グランド・シャッター」
“バッ!”
「な、なに……っ!」
ゲイルドリヴルの雷光閃槍撃がパラを貫こうとした直前、そのパラの目の前に黒いフードを来た女性がどこからともなく姿を現した。全身を黒に包まれ眉を越えて目の上まで伸び真っ直ぐに揃えられた黒い前髪、クーペやパラ以上に据わった目付きで不気味さ以上に危なさを感じさせ、今までのメイドの格好をした二人より明らかに戦闘を得意としているような風貌であった。その女性が目の前に現れた瞬間パラはブラマと口にしていたがそれが彼女の名前なのだろうか。そのブラマと呼ばれた女性は一瞬にして何かの呪文の詠唱を終えたと思うと自身の目の前、ゲイルドリヴルの進行方向を防ぐ形で地面から岩のように固まった分厚い土砂の壁を出現させた。
「くっ……」
“バアァァーーーンッ!、……ザザーッ!”
「な、なんじゃ……。急にゲイルドリヴルさんの前に土の壁みたいなものが現れて攻撃が弾かれてしもた。それにあの黒いフードの女の人はいつの間にあんなとこに現れたんじゃけぇ」
そのままパラを貫いてしまうと思われたゲイルドリヴルの雷光閃槍撃だったが、直前に現れた黒いフードの女性が出現させたと思われる土砂の壁によって攻撃を防がれてしまった。雷光と化していたゲイルドリヴルはその土砂の壁に打ち当たると同時に元の体に戻り足で地面を擦りながら後方へと弾き返された。だが流石にゲイルドリヴルの攻撃の衝撃も凄まじかったのか、同時にその土砂の壁も完全な砂へと還るように崩れ去ってしまった。フードの女性も自身で口にしていたがこの土砂の壁はグランド・シャッターという土属性の魔法で、その壁で相手の物理攻撃から魔法攻撃まであらゆる攻撃を防ぐことができる。強度は術者のMAGの値や力量に依存するのだが、とりわけ雷属性の攻撃に対して高い強度を発揮するようだ。にも関わらず雷の属性変化率が100%の雷光閃槍撃の攻撃で壁を粉々に破壊できたことから如何にゲイルドリヴルの攻撃の威力が凄まじかったかが窺える。まともに受けていれば確実にこの一撃でパラのHPは0になっていたはずだ。
「これは……、まさか雷属性の攻撃でグランド・シャッターを完全に破壊するなんて驚きだわ。さっきはパラにああ言ったけどこれは侮って掛かってい相手ではなかったみたいね」
「くっ……。どうやら私の攻撃を弾いた魔法がこいつが放ったもののようだな。格好からしても魔術師であるように窺えるがこいつもここの住民の霊が悪霊と化した者なのか……」
「“あ、あれはこの館の傭兵として雇われていたブラマ・アミールという女性の霊ですっ!。確か黒魔導師の階級まで上り詰めた凄腕の魔術師だったはず……。剣術の心得も多少あるみたいでしたので気を付けてくださいっ!”」
どうやらゲイルドリヴルの攻撃を防いだ壁を生み出した女性の霊はブラマ・アミールと言うらしい。相当危険な相手なのかベンはリリスの端末パネルからゲイルドリヴルに聞こえるよう大声を荒げて注意を促していた。黒魔導師の職はプレイヤー側からしても魔術師と祈祷師の職の経験が必要な上級職の一つであるが果たしてその実力はベンのいう程のものなのだろうか。
“グオォォォォッ!”
「はあぁぁぁぁっ!、シバルリーッ・キャリバーァァァーーーっ!」
“ズバァ……ッ!”
“グオォッ!”
「くっ……、やはり物理攻撃では大したダメージは与えられん……。騎士の術技を全力を放ってようやく仰け反らせることができる程度か……。通常の斬撃ではこいつらの影を払ってもすぐまたくっついていしまう」
「私に任せて、ナイトっ!。……はぁっ!」
“キュィィーーン……バッ!”
“グオォォォォッ……”
「ふっ、流石マイの光弾の矢はこいつらによく効く。魔法攻撃である上にこいつらの見かけからして光属性の属性耐性率はかなり低いはずだ。これならば本当にもう俺の出番はなさそうだな」
「はぁっ!、はぁっ!」
“パシュ……ッ!、パシュ……ッ!”
“グオォッ!”
「くっ……。やはり私の矢もまるで効いていないご様子……。矢に付けた麻痺薬の効果もまるで表れていないようですわ。こちらも援護をお願いします、リリスさんっ!」
「は〜い。……いつもは優しい私だけど。言うことを聞かない悪い霊さんにはお仕置きしちゃうわよ。……え〜い、スピリット・パワーっ!」
“ウィ〜ン……バッ!”
“グオォォォォッ……”
一方その場に残されたナイト達はパラのリスポーン・ホストの能力によって出現した黒い影の悪霊モンスターと戦闘を繰り広げていた。この黒い影の物体はグラッジ・シャドウという怨念の影という意味の名前を持つ悪霊モンスターで、クーペやパラ、ブラマとに比べてステータスも低く、自我や知性は持ち合わせていない所謂雑魚モンスターである。だが完全に無効化できないまでも物理攻撃に対しては高い耐性を持っており、ナイトのシバルリー・キャリバーや、不仲の麻痺毒矢の術技により攻撃もほとんどダメージや効果がないようだった。そんな中不仲とナイトはダメージを与えられないながらも前衛としてグラッジ・シャドウを
引き付ける役目に徹し、その間にマイが光の矢、リリスがスピリット・パワーという霊術師の術技で代わってモンスターを撃退していた。皆が使用した魔法と術技に関するデータは下記の通りだ。
・シバルリー・キャリバー……シバルリー、騎士道精神の意味の名を持つ剣士のブレイズ・キャリバーを強化した騎士の術技。あらゆる面でブレイズ・キャリバーより高い性能を誇る技なのだが、消費するEPも高く剣に発生するエネルギー量も増大する為扱いが難しい。STRやDEXの値が低い内は上手く剣を振り抜くことができず場合よってはブレイズ・キャリバーより低い威力しか発揮できないこともある。
・麻痺毒矢……その名の通り鏃に麻痺毒を塗った矢を放つ狩人の術技。相手の麻痺への耐性にもよるが、全長2メートル、人と同じ程度の大きさのモンスターであれば数秒で完全に動きを封じることができる。
・スピリット・パワー……自身と相手のMNDの値の差によってダメージを与えるという特殊な形態を持つ霊術士の術技。物理攻撃力も魔法攻撃力も用いていない為あらゆる敵に普遍的にダメージを与えることができる。対象に向かって意識を集中して自らの精神を力にして放つ技なのだが、相手のMNDの値の方が高った場合や意識の集中が乱れた場合反対に自身がダメージを受けてしまう場合もある。
“グオオォォッ”
「ちっ……、やはりあのパラとか言う奴がリスポーン・ホストになっている為か倒しても次から次へと復活して来やがる。早くゲイルドリヴルがあいつを退けることができなければこちらがジリ貧になってしまうぞ」
「ナイトさんの言う通りですわ。ダメージを与えられずとも狩人の私が弓を使わずに素手で対処できる程度の強さなどで倒されてしまうことはないでしょうが……。万が一ゲイルドリヴルさん達がやられてしまいあの二人の女性の悪霊までもこちらに攻撃して来たら如何に我々といえど一網打尽にされてしまいますわ。ここは他の方々にもゲイルドリヴルさんの援護に行ってもらった方が良いのでは……」
“キュィィーーン……バッ!”
“グオォォォォッ……”
「えっ……、でもそんなことしてこっちは大丈夫なの。確かにこいつら単体は弱っちぃみたいだけど数が多いし……、おまけに物理攻撃がほとんど効かないんでしょ。それなのに私やリリスさんまで向こうに行っちゃったら……」
「いや、確かに不仲の言う通りだ。例え倒せずともこいつら相手に俺達がやられてしまうことはまずない。こいつらの相手は俺と不仲がするからお前達はゲイルドリヴルの元に向かいとっとあの二人の悪霊女を倒して来てくれ。……一応回復役として鷹狩とイヤシンスのどちらかを残して貰えるとありがたい」
「分かった……。では私とマイとリリスはゲイルの援護に向かう。こいつらの相手はお前達に任せたぞ、ナイト、不仲、イヤシンスっ!」
「ああっ!、いいから早く行けっ!」
ナイトと不仲の提案を受け入れ鷹狩、マイ、リリスの3人はゲイルドリヴルと馬子の援護に向かった。残されたナイト達はグラッジ・シャドウを倒せずとも逆に倒されることもないと判断したのだろう。その頃ゲイルドリヴルと馬子はパラとブラマを相手に優勢に戦闘を進めていたようで、すでにナイト達のいたところから廊下のかなり奥へと押し込んで来ていた。
“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”
「はあっ!、はあっ!」
「くっ……」
ゲイルドリヴルは鋭い突きの猛襲で完全にブラマを圧倒していた。ベンはブラマに多少の剣技の心得があると言っていたが、ブラマは魔術師でありながら右手に剣身が後ろに少し後ろに反りかえるように弧を描き、同じく剣身に何かの呪文のような文字が彫刻された短剣を持ちギリギリのところで反応してゲイルドリヴルの突きをその短剣で受け流していた。だが流石にゲイルドリヴルの突きを受け切ることは難しく、ジリジリと交代させられながら段々と体勢を崩されてしまっていた。
“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”
「どうした……先程大きな口を叩いたわりには私の攻撃を防ぐので精一杯のようではないか。このまま反撃もせずに私に突き倒されるのを待つつもりか」
「くっ……、けど如何に魔槍術士とはいえMPが尽きれば魔力を用いた攻撃は繰り出せないはず……。このままあんたのMPが尽きるのを待っていれば自然と私の勝利が決定するのよっ!」
「ふっ、それまで攻撃を受け切れればだがな……はあぁっ!」
“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”
「ぐぅっ!、こ、これは確かにとても私に耐え切れる攻撃ではない……。ならば……っ!」
「……どうするつもりだ」
“カァン……ギィ……バッ!”
「……っ!」
「はっ!」
ゲイルドリヴルの突きの猛襲にとても耐え切れないと判断したブラマは一度短剣で突きの軌道を大きく逸らし、傾いた槍の矛先につられゲイルドリヴルが少しの体勢を崩した僅かな隙に地面を蹴って後方へと飛び大きく距離を取った。だがそれは後退した自身もすぐに次の行動には移れず、その隙再びゲイルドリヴルに間合いを詰められれば状況が変わらないどころがそれ以上に悪くなってしまう。ゲイルドリヴルもそう判断し体勢を整えるや否やすぐさまブラマへと差し迫って行ったのだが……。
「……それで私の間合いから逃れたつもりかっ!。むしろこれは私にとっての勝負を決めるチャンスだっ!。これで勝負を決めてやる……はあぁぁぁぁっ!」
「ちっ……はあぁぁぁぁっ!」
「な、なに……っ!」
むしろこの展開は自身にとって勝負を決めるのに好都合だと更に判断を改めたゲイルドリヴルは初めに見せた雷光閃槍撃にも勝るとも劣らない速さの突きで一瞬にしてブラマへと差し迫った。だがその直前でブラマの持つ短剣に描かれた呪文が赤く光始めたと思うと、魔力を解放するような仕草を取ると同時にブラマの周囲に6つもの火球が出現した。どうやらファイヤーボールの魔法を発動させたようだが、自身の突きが届くまでの僅かな間に一瞬にして十分な威力を保持していると思われる大きさの火球を作りだしたことにゲイルドリヴルは驚きを隠せない様子だった。このまま突きを放ち続ければブラマの放つ火球をもろに受けてしまう。とっさにそう判断したゲイルドリヴルはポーズ・リセットの技術を用いて瞬時に受け身の体勢を取った。
「くらえっ!」
「くっ……」
“バァン……っ!、……バンバァンっ!、……バンバンバァンっ!”
突きを放っている状態から受け身に転ずるのに精一杯であったゲイルドリヴルにブラマの放ったファイヤーボールの6つ火球は全てヒットした。ゲイルドリヴルは槍を前に構え自身の精神を強く保つことでダメージを最小限に抑えることはできたようだが、折角決着のつきそうだった勝負は仕切り直しになってしまった。
「くっ……、魔術に長けているとはいえまさかあの一瞬で6つもの火球を放ってくるとは……。魔法を発動する直前に光を放っていたあの短剣……、あれが奴に何かしらの力を与えたということか……」
「はぁ……はぁ……、その通りよ。この短剣はスカルプト・ダガーと言ってね。剣身に彫られた文字によって装備者に様々な恩恵をもたらしてくれるのよ。私がこの剣に彫ったのは溶岩の意を込められた何処かの文明の象形文字、おかげで私は火と土の属性の魔法を思うままに操れるのよ」
「火と土……。先程私の術技を防ぐほどの壁を一瞬に作り出したのもその剣の力というわけか……。かなりの魔法攻撃力も備えているようだし魔術師にとってはこの上ない武器だな」
「そうよ。おかげであなたの槍撃から抜け出すことも出来たし今度は私の魔法の猛襲をあなたに受けて貰うわ。次からは十分な魔力と詠唱を込めて撃たせてもらうから今みたいに上手く受け切れるとは思わないことね」
「………」
先程のように一気に間合いを詰めて槍撃の連打で押し切りたいゲイルドリヴルだったが、ブラマの詠唱速度を考慮するとこちらの動きに合わせてカウンターで魔法を撃たれてしまう為中々攻撃を仕掛けずらかったようだ。ブラマは魔法の連打で一気にHPを削り切りたいところだが上手く初撃の魔法を躱されるとゲイルドリヴルのスピードでまた一気に間合いを詰められてしまう。ゲイルドリヴル達そのまま暫くの間互いの出方を窺いながら睨み合っていた。




