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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第一章 ゲームの説明……そしてモンスター討伐大会っ!
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finding of a nation 6話

 「うぉ〜りゃぁぁぁぁぁぁぁっ!。……ふぅ〜、これでこの辺りのモンスターも討伐完了ねっ。もうそろそろ全てのモンスターを討伐し終えるんじゃないかしら」

 “ピンポンパンポン〜〜〜〜…”

 「え〜…、こちらブリュンヒルデです」

 「…っ!、ブリュンヒルデちゃんにゃっ!」

 「ほ、本当だ…、このマス内の全プレイヤーに聞こえてるのかなぁ…」


 猫魔族のイベントをこなしたナギ達は森の外に出て再びモンスターの討伐を続けていた。この辺りのモンスターの討伐も終わり一段落ついたなと思っていた頃、マップ全域にアナウンスを知らせる交換が流れ、ブリュンヒルデの声が聞こえてきた。どうやらヴァルハラ国の建設予定地のマス内にいる全てのプレイヤーに聞こえているようだ。


 「ヴァルハラ国建国の為にモンスター討伐の任務をこなしてくれているプレイヤー様、大変ご苦労様でした。討伐開始からゲーム内時間で約5時間…、たった今全てのマス内にいるモンスターの討伐が終了致しました。つきましていよいよ我々の首都となるヴァルハラ城を建築したいと思います。ですがその前にいくつか説明しておかなければならないことがございますので、プレイヤーの皆さんには一度先程のロビールームに集合していただくことになります。1分後には自動で転移が開始されますので皆さん準備をしておいてくださいね」

 “プチッ…”


 ブリュンヒルデからのアナウンスはモンスター討伐の終了を知らせるものだった。ナギ達がこのマス内に移動して約5時間、いよいよゲーム内にヴァルハラ国が建国される時が来たようだ。だがその前に説明しておくことがあるらしく、プレイヤー達は再び最初に集まったロビールームに転移されることになった。恐らく戦闘系の職業以外の説明と希望の選択が行われるのだろうが、今度はナギはちゃんと第3希望まで提出することが出来るのだろうか。期待と不安を胸にナギ達は再びロビールームへと転移されていった。

 


 モンスターの討伐終了からすぐに1分が経ちプレイヤー達は皆ロビールームに転移してきた。前にいた位置とは異なり、先程組んだパーティの仲間の近くに転移してきたようで、近くにはセイナ達の姿があった。


 「あっ、皆〜、久しぶり〜」

 「うむ、どうやら皆無事最後まで生き残れたようだな。途中いくつか全滅したパーティを見かけたから心配していたのだぞ」

 「よく言うわよっ!、パーティを3つに分けようって言い出したのあんたじゃないっ!。しかも結局4つに分かれることになったようだし…、って言うかあんたそんなに心配なら合流しに来なさいよねっ!。マップにはパーティのプレイヤーの位置がちゃんと表示されてたでしょうがっ!」

 「私はパーティの身を案ずるよりも討伐を稼ぐことを優先しただけだ。仮に死亡したとしてもパーティを抜けるまでは経験値は入るようだし終了後にはパーティの順位しだいでボーナスも手に入る。ならば少しでも多くのモンスターを討伐することが私に出来る最大の貢献ではないか」


 どうやらセイナはパーティが4つに分かれてしまっているのを知った上で一人でモンスターの討伐を続けていたようだ。当然ナミは納得できなかったようで、セイナに抗議したが全く反省する様子はなかった。だがナミはイベントの消化などで思ったより討伐数を伸ばせなかったため、実際セイナの討伐数には期待している部分があった。そのためこれ以上セイナの行動を深く追求することは出来なかったようだ。


 「な、なによ…。どうせ自分のレベルを少しでも多く上げたかっただけのくせに…」

 「まぁ落ち着けよナミ。でもお前がナギと合流していてくれて助かったぜ。私達はちょっと野暮用が出来てナギと逸れちまってたんでな。……なぁ、じじぃ…」

 「うっ…、うぉっほんっ!、ところで…、ずっと気になっておったのじゃがナギの隣におるその黒い猫のモンスターはなんじゃ」

 「そんなこと言ってはぐらかしてんじゃねぇっ、じじぃっ!。そんなの魔物使いなんだから仲間したモンスターに決まってるだろうがっ!。序盤のモンスターなんて大して強くねぇんだからそんな事いちいち気にしてんじゃねぇよ」

 「ニャーーーーッ!、ちょっと今の言葉は聞き捨てならないにゃっ!。僕は普通のモンスターとは一味近い最終的にはプレイヤー以上に便利で強いモンスターになるんだにゃっ!」

 「えっ…」

 「も、モンスターが…」

 「喋ったあぁぁぁぁぁっ!」


 ナギのパーティメンバーは仲間モンスターであるデビにゃんを見ても今まで特に何の反応も起こさなかったが、デビにゃんがレイチェルの言葉に反応して喋りだした途端大声を上げて驚きだした。


 「ちょ、ちょっとナギ…。これどうなってるの…、ナギが仲間にしたんでしょ、この猫のモンスター…」

 「うん…。それがこのゲーム魔族に位置するモンスターを仲間にした場合人間の言葉を話せるようになるみたいなんだ…。中には仲間にしなくても人間の言葉を話せる知性の高いモンスターもいるみたいだけど…。名前はデビにゃんって言うんだ。ステータスはまだ低いけど多分かなり便利になる特性を持ってるだろうから仲良くしてあげてね」

 「便利な特性…、それって何なんだ、ナギ」


 カイルがデビにゃんが人間の言葉を話せることについて追及するとナギはデビにゃんの紹介も交えて皆に今回の仲間モンスターについての性質を説明した。するとヴィンスがデビにゃんの特性に興味を持って一体どういう効果があるのか聞いてきた。


 「デビにゃんはデビルキャットっていう猫魔族のモンスターで、その魔族に位置するモンスター達は人間の言葉を話せるだけでなく、プレイヤー達と同じように職業に就けるみたいなんだ。ほら、この端末パネルの画面を見て。デビにゃんのステータスの横に槍術士って書いてあるだろう。横には後2つスロットも付いてるし、多分残りの内政と副業の職にも就けると思うんだ。これから決めると思うだけどデビにゃんの職に就いても考えないとね…」

 「ニャーーーーッ!、いちいちナギに考えて貰わなくても自分の職業ぐらい自分で決めるにゃーーーっ!。それに二つに内もう一つは決めてあるのにゃ。っということで君達、僕はちゃんとプレイヤー達と同じように言葉も話せるし職業にも就けるのにゃ。そのことをちゃんと理解してモンスターにも人権があるつもりで接してほしいにゃ。それじゃあこれからよろしくにゃっ!」

 「よ、よろしくお願いしますっ、デビにゃんちゃんっ!。なんかとっても可愛くて思わず抱きしめたくなっちゃいます」

 「でしょ〜。私も人間の言葉を喋りだしたときは思わず絞め殺しちゃうぐらい抱きしめちゃった」

 「そうか…、私は別に何とも思わないけどな…んっ。どうした、セイナ…」

 「……はっ!、な、何でもないっ!。別に可愛くて抱きしめたいだなんて思ってないから気にしないでくれ」

 「………」


 どうやらデビにゃんは女性陣のプレイヤーには偉く人気だったようだ。レイチェルはそうでもなかったようだが、デビにゃんの特性については感心させられていた。熟練のプレイヤーであればモンスターが職業に就けることがいかに協力であることを理解していたために皆このゲームにおいて魔物使いについての見方を変え始めていた。


 「あっ、見てっ!。あれさっき私達を助けてくれた猫魔族のモンスターじゃないっ!」

 「本当だっ!。じゃあ彼が猫魔族を仲間に引き入れてくれたプレイヤーなのか。よしっ、早速お礼を言いに行こう。お〜い、そこの君〜」

 「えっ…」


 ナギ達がパーティメンバーで会話を楽しんでいると、ナギは他のパーティのプレイヤー達から全体トークで話し掛けられた。他のパーティメンバーもナギが話し掛けれているのを見て全体トークに切り替えた。どうやらナギ達と一緒にいるデビにゃんを見て話し掛けてきたようだが…。


 「やぁ、君。君が伊邪那岐命で、その女の子が伊邪那美命、そっちのデビルキャットがデビにゃんだね」

 「そうだけど…、何で僕達の名前を知ってるの?」


 ナギに話し掛けてきたプレイヤー達はどうやらナギとナミの名前、そして先程仲間にしたばかりデビにゃんの名前まで知っていた。プレイヤーの名前は調べれば分かるがどうやってデビにゃんの名前まで知ることができたのだろうか。


 「実はさっきのモンスター討伐の際終了間際に序盤にして強力なモンスターに遭遇してしまってね。危なくパーティが全滅しそうになったところをそのにいるデビにゃんと同じ猫魔族のモンスター達に助けられたんだよ」

 「そうそう、それでその時の群れのリーダー見たいだったデビルキャットの男の子にあなた達のことを聞いたの。ナギっていうプレイヤーがデビにゃんを仲間してくれたおかげ猫魔族達が私達の国に加わったってね」

 「そ、そうだったのか。じゃあその時にナミのことも聞いたんだね。でも早速猫魔族達が一緒に戦ってくれてたなんて驚きだね、デビにゃん」

 「猫魔族は基本的に凄く働き者の種族なのにゃ。これからは戦闘だけでなく国を強くしていく上でありとあらゆる場面で役に立ってくれるにゃ」

 「それで君達に出会ったらまずお礼を言おうと思っていてね。さっきは助かった、改めてお礼を言わせてもらうよ。ありがとう、ナギ、ナミ、そしてデビにゃん」


 どうやらナギに話し掛けてきたプレイヤー達は先程の討伐の時森の中で発生したイベントで自国の仲間になった猫魔族達に助けられた者達のようだ。それで猫魔族が仲間になるきっかけとなったナギにお礼を言おうと話し掛けてきたらしい。


 「そんな…、デビにゃんが仲間になったのは魔物使いになったナギのおかげです。私までお礼を言われる筋合いはありません」

 「いや、君の猫魔族を仲間に出来るようブリュンヒルデさんに必死に掛け合ってくれたと聞いている。お礼を言うのは当然のことだよ……んっ。」

 「おっ、あれがさっき俺達を助けてくれた猫魔族を仲間した伊邪那岐命だぜ。俺達もお礼を言わないとな。お〜い」

 「あら、本当。さっきは可愛い猫ちゃん達に助けてもらったわ〜ん。ありがとうね、僕」

 「はははっ、どうやら猫魔族に助けられてプレイヤーは僕達だけじゃなかったみたいだね。それじゃあ後ろがつかえてるようだし僕達はこれで失礼するよ。じゃっ…」

 「えっ…あ、ちょ…ってうわっ!」


 先程のプレイヤー達はナギにお礼を言うとすぐに立ち去ってしまった。だが猫魔族に助けられたプレイヤー達はかなりの数がいたようで、気が付けばナギ達の周りは他のプレイヤー達ですっかり人だかりができてしまったいた。猫魔族のこと知らないプレイヤー達はこの人だかりを見て不思議そうな顔をしていたが、ナギとデビにゃんは次々にプレイヤー達に握手を求められ、モンスターの討伐が終わった後だというのに休む暇さえ与えてもらえなかった。


 「にゃ…にゃぁ…、もう駄目にゃ…。お礼を言われてちやほやされるのは嬉しいけどもう体力の限界にゃ…」

 「はぁはぁ…、僕も…。MMOでこんなに沢山のプレイヤー達と話したの初めてだけどもうコリゴリだよ…。やっぱりMMOは少数の仲間で集まって遊ぶのが一番いいね…」

 「そ、そうね…。っていうか何で私まで巻き込まれなきゃいけないのよ…。私は魔物使いじゃないって言ってるのに…」


 猫魔族に助けられた大量のプレイヤー達から話し掛けれて、その度に握手などを求められていたナギ達はすっかり疲れ果ててしまっていた。特にデビにゃんはその可愛らしい姿から女性プレイヤー達から何度も抱きしめられてしまったためすっかり参ってしまっていた。そしてようやくプレイヤー達の波も去って行ったようで、人だかりの海から解放されたナギ達はぐったりと床に伏せてしまっていた。


 「おい、解放されてぐったりしてるところ悪いがまた誰か来たみたいだぞ。今度は一人みたいだけどな…」

 「えっ…」


 すると今度はパーティではなくナギ達の元へ一人のプレイヤーが近づいて来た。女性のようだが肩に鷹のようなモンスターを連れており、どうやらナギと同じ魔物使いのようだった。


 「お疲れのところすまないが君が伊邪那岐命かな。私の名前は鷹狩宗滴たかがりそうてき、君と同じ魔物使いだ」

 「宗滴ってあの朝倉宗滴のこと…。女性なのに男の武将の名前付けてるなんて変わってるわね。鷹狩っていうのそのままあの鷹を飼い馴らしてる鷹狩ってことでいいのよね」

 「ああ、実は現実世界では鷹のブリーダーをやっていてね。鷹狩だけでなく鷹の繁殖や育成もやってるから宗滴という名前にしたんだ。朝倉宗滴という武将は鷹の人工繁殖の世界最古の成功記録を持っていてね。ブリーダー達の間では割と有名なことだからこの名前にしたんだよ」


 ナギ達に話し掛けてきた女性はキャラ名を鷹狩宗滴といい職業はナギと同じ魔物使いのようだ。身長はカイルと同じぐらいでナミよりも高く、鷹狩も女性にしてはかなり背が高い方だった。女性にしては少し堅物な喋り方で、まるで戦国時代の武将のようだった。顔立ちも美少女というよりかは美少年に近く、鼻が高く力強い目をしていた。髪は短かったが、女性らしくきちんとショートヘアに整えられていて、綺麗な湖のように透き通った水色をしていた。装備は茶色いコートを羽織っていて名前の割には西洋風ような鷹狩の格好をしていた。腕には鷹の爪から守るための皮手袋をしており、鷹狩をイメージしてこの格好になったのだろう。当然今鷹が止まってる肩にも皮の肩当がされていた。恐らくいちいち鷹を乗せるのに腕を伸ばすのが煩わしいためこの格好になったのだろう。

 挿絵(By みてみん)

 「へぇ〜…、それじゃあ純粋に同じ魔物使いとして話し掛けてきたんだ。その肩の鷹が鷹狩さんの仲間にしたモンスター?」

 「ああ、ヴェズルフェルニルという種類のモンスターらしく名前はヴェニルにしたんだ。やはり魔物使いを選んでいるプレイヤーは少なくてね。さっき伊邪那岐命という魔物使いの名前が騒がれていたからちょっと興味をそそられて会いにきたんだ」

 「ヴェルズフェブニルって北欧神話に出てくる“風を打ち消すもの”って意味を持つ鷹のことかい?。僕達の国がヴァルハラってことと関係あるのかな…」

 「いや、モンスターのデータを見る限り確かに珍しい種族ではあるようだが高台や山脈の近くならどこにでも出現するようだ。だがこいつと共に北欧神話に出てくるフレースヴェルクという鷹のモンスターは更に出現率の低いモンスターで、我々の国の固有自然遺産であるユグドラシルには稀にそのフレースヴェルクが枝に止まりに来るらしい。できれば仲間にしたいものだな」


 フレースヴェルクと言うのは別名フレズベルクとも呼ばれるヴェルズフェブニルと共に北欧神話に出てくる鷹の姿をした巨人のことで、その名前には“死体を飲みこむもの”という意味がある。ヴェルズフェブニルはユグドラシルの枝に留まる一羽の鷹の眉間の間に止まっており、そのヴェルズフェブニルが止まっている巨大な鷹というのがフレースヴェルクと言われることもあるらしい。


 「うわぁ、何だか色んなモンスターが沢山いて楽しそうだね。今回魔物使いはいつもみたいに不遇職じゃなさそうだからお互い頑張ろうね。そうだっ、折角だから内政職と副業職について一緒に考える。魔物使いだったら何と相性が良かったりするのか一緒に考えようよ」

 「ありがたい申し出だが向こうに仲間待っているのでね。声を掛けたのは本当に一目見ておきたかっただけだから私はこれで失礼するよ。ゲームが始まったら同じ魔物使いとして色々情報交換をしてくれるようお願いするよ。なんせ魔物使いのプレイヤーは数が少ないからね。それじゃあ…」

 「あっ、ちょっと待つにゃ!」

 「えっ…」

 「魔物使いだったら副業は鍛冶屋か錬金術師がお勧めにゃ。魔物使いは魔物から採取できる素材を使って特殊な武具やアイテムを作れるようになるにゃ。これは仲間モンスターになった魔族型のモンスターからしか得られない情報だから感謝するにゃ」

 「…っ!、それって本当なの、デビにゃんっ!」

 「なるほど…、それはありがたい情報だな。では私からも一つ…、ヴェルズフェブニルにはその優れた視力で周囲の2マス以内マップからランダムで情報を得ることが出来る。その能力でヴァルハラ国の首都建設予定地の一番北のマスから北西に更に3マス移動した川沿いのマスのところに何やら遺跡のようなものを発見した。恐らく何か重要なアイテムや情報が眠っているのだろうがもし他のプレイヤーに先駆けて中を発掘できれば大量の功績ポイントを入手できるだろう。ただマス内には森林もある上、このゲームの1マスはかなりの広さのため入り口を探し出すのは一苦労するだろう。興味があるなら行ってみるといい…」


 鷹狩はそう言うと不敵な笑みを浮かべてナギ達の元を去って行った。美しい容姿ではあったがどことなく不気味な雰囲気を放っているプレイヤーであった。マップの北西のマスに遺跡を発見したと言っていたが果たして本当なのだろうか…。


 「やっぱり…、何か情報を隠していたのにゃ…。全く…、こっちが話すのを待ってるなんて食えない奴にゃ…」

 「えっ、どういうことなのっ!、デビにゃんっ!」

 「あいつはナギが人間の言葉を話せるモンスターを仲間にしたと知って話し掛けてきたのにゃ。それで僕のような魔族型のモンスターなら何か貴重な情報を持っているだろうと考え隙あらば聞き出そうとしていたのにゃ。ところがナギの馬鹿丸出しの態度を見てこれは情報は期待できないと思いさっさと退散しようとしたのにゃ。まっ…、こっちが情報を教えればちゃんと情報を返して来たところみるとそこまで悪い奴じゃなさそうだけどにゃ…」

 「へぇ…、デビにゃんって以外と人を見る目があるんだね…って僕の態度のどこか馬鹿丸出しなんだよっ!」

 「全部よ。あんたって周りから見ると馬鹿とまでは言わないけどかなりお人好しそうに見えるわよ。まっ、だからこそ私も話し掛けやすかったんだんけどね。だから長所だと思ってあんまり気にしないでおきなさいよ。それよりほら、ブリュンヒルデさんの説明が始まるみたいよ」

 「ううぅ…ナミまでそんなこと言うなんて…。でも今はブリュンヒルデさんの言葉に集中しないと…」


 鷹狩が仲間の元へと去って行くと舞台の上から再びブリュンヒルデが姿を現した。いよいよヴァルハラ国建国におけるプレイヤー達への説明が始まるようだ。


 「ヴァルハラ国の皆様、先程はモンスターの討伐ご苦労様でした。お疲れだとは思いますがこのままヴァルハラ国建国のための説明を続けていきたいと思います。まずは皆様お手元の端末パネルを開いて現在の時刻をご覧になってください。このゲーム内の時間の経過についてご説明致します」


 ブリュンヒルデに言われ皆端末パネルを開き現実世界の時間を確認した。どうやらロビー内では現実時間と同じ体感感覚で時間が経過するようだ。先程の討伐でナギ達は5時間ほどゲーム内にいたことになるが果たして現実世界ではどれ程の時間が経過したことになっているのだろうか…。


 「うーん…私の今までのVRMMOの経験だと流石にもう0時は回ってるわね。1時にはなってないと思うけど…まっ、0時半ってとこよね。…っで、現在の時間は……っ!。じゅっ…、23時30分ですってぇぇぇぇぇぇっ!」

 “ガヤガヤッ…”


 ナミは現実世界の現在の時刻を見てかなり驚いていた。ナミが今までプレイしてきたVRMMOの経験からするとまず0時は回っているものと考えていたようだが、実際はそれをよりも30分早い23時30分だった。そしてその時刻を見て他のプレイヤー達もざわざわと騒ぎ始めた。


 「お、おい…。俺ちゃんと覚えてないけどゲーム内のマップに転移する時23時は確実に回ってたよな…。ちゃんとした時間が分からないから何とも言えないけど、このゲームの体感時間って現実世界と比べてかなり凝縮されてるんじゃないか…」

 「私ゲーム内に転移する前の時間覚えてるわ。確か23時19分だったと思う…。現実世界のウェブを開いてこのゲームの情報を見てたから間違いないわ」

 「じゃあゲームの内での5時間が現実世界ではたったの10分ってことかよ…。くそっ、一体一日で何日分の時間が経過することになっているんだ。俺が今までやったVRMMOの最高は現実世界の一日で5日間経過しているやつが最高だったぞ…」

 「一か月…。もし本当に10分で5時間経過しているならこっちの世界での一日がゲームの中では一か月ってことになるわ…」

 「い、一か月だとおぉぉぉぉぉぉっ!」


 計算の早いプレイヤーはすでにこのゲームの体感時間についておおよその見当が付いているようだった。先程の討伐でゲーム内で経過した時間は5時間、現実世界で経過した時間は10分、つまりこちらの世界での一日がゲーム内では一か月経過したことになるということである。しかもこれは実際に体感時間として一か月に感じるということである。これは今までのVRMMOでは考えられない体感時間の長さである。


 「もうお気付きの方もいらっしゃると思いますがこのゲームの体感時間は現実世界での一日がおよそ三十日に感じるよう設定されております。そしてゲーム内でも現世界と同じように24時間で一日が経過するようになっており、当然朝と夜もあります。眠気や空腹も感じるでしょうからそれはゲーム内でとってもらって感じません。更に睡眠については睡眠学習システムが働いているにも関わらずゲーム何でも取らなければ現実世界でも睡眠不足に陥ってしまうことになります。空腹についても当然同じです。またゲームからログアウトして睡眠や食事を取ってもらっても構いませんが、その場合は僅かな時間であってもゲーム内ではその30倍もの時間が経過していることになりますのでご注意ください」

 「な、何を言ってるの…。確かに今までのゲームでも体感時間が違うことはあったし、朝も夜もあったけど、実際にゲームの中で眠気なんて感じたことなんてなかったわよ。空腹はまぁ感じたことはあるけど、いくらゲーム内で食事を取っても体力回復やステータス上昇の効果があっただけで実際にお腹満たされたことなんてないわよっ!」

 「これがこのゲームの特徴なのにゃ。さっきも言った通りここは電子現実世界…、ナミ達の住んでる現実世界の肉体にこれぐらいの影響あっても不思議じゃないにゃ。ここで体験したことは今までナミ達が体験してきたヴァーチャル・リアリティ空間とは比べものにならないくらい現実世界に反映されるにゃ」

 「そうだよ、ナミ。さっきデビにゃんと話したこと忘れたの。僕達には重大な使命が課せられているんだよ。これくらいでいちいち驚いてなんかいられないよ」

 「そ、そうだったわね…。ごめんなさい、別にデビにゃんのこと疑っているわけじゃないんだけど…、例え本当の事だって分かってても驚いちゃう内容だからさ…」


 ブリュンヒルデの話を聞いてナギ達はよりデビにゃんの言っていたことが本当なんだと実感し始めた。他のプレイヤー達はブリュンヒルデの口から飛び出してくる言葉に全くついて行けず、もう理解することを諦めてただひたすらブリュンヒルデの説明を聞き流していた。


 「もう何言ってるのか何にも分かんねぇよ…。いいからゲームの説明を始めてくれ…」

 「本当よね…。まぁ今更何言われてもこのゲームから降りる気ないし、別に構わないけどさ…」


 ブリュンヒルデの説明に少し愛想をつかし始めていたプレイヤー達は、次第に愚痴やため息が多くなっていき早くゲームの説明に移ってほしそうだった。プレイヤー達の表情を見てそのことを察したのか、ブリュンヒルデはいよいよ残されている後2つの職業についての説明を始めた。


 「……このことは実際にゲームをプレイして確認していただきましょう。それでは残り2つの職業について説明していきます。では皆さんまずは内政に関してのページを開いてください」


 ブリュンヒルデに言われプレイヤー達は内政に関してのページを開いた。まずは内政職から説明を始めるようだ。このゲームにおいて内政職は非常に重要なものであり、プレイヤー達は選んだ内政職によって自国での内政を行った際に様々な恩恵が受けられる。例えば農耕の職についた状態で農業についての内政を行うと、自国の農民達の技術を大幅に上昇させることが出来る。だが農耕の職に就いた状態で漁業の内政などを行ってもほとんど上昇せず、逆に漁民達の期限を損ねてしまい漁獲量を下げてしまう場合もある。更に農耕の職の中にも更にスキルなどが設定されおり、そのスキルの選択によって米や小麦、野菜などの得意な作物が違う。スキルは成長させたり新たに取得することができ、それによって内政の上昇効果や得意な範囲が広がっていく。


 「……以上が内政についての説明です。一応自分が就いていない分野の職種でも内政を行うことはできますが効果はかなり薄く、場合によってマイナス効果を自国にもたらしてしまう場合もあります。またこの内政職についてはゲームの進行中に私の方から転職要請の募集をすることがあります。主に自国の内政の不足している部分に転職してもらうことになりますが、この場合はプレイヤーの皆さんはリスクなしで転職することができますので、募集があった場合には是非応募してくださいね。勿論以前に就いていた職のスキルなどは失われません。ただこの要請に関しては私の方に制限が掛けられておりますので常に行えるというわけではございません。では次に副業職についての説明をしていきます」


 ブリュンヒルデは続いて副業職についての説明を始めた。副業職とは直接内政とは関係のない職業のことで、個人で仕事をすることも出来るし自国民を指示して大量にアイテムを製造したりできる。例えば錬金術師なら自身で入手した素材や国から支給される素材を使って自分専用のアイテムを作り出すことも出来るし、自国民に自国に在庫のある素材を使いアイテムを大量に作ることも出来る。自国民を使って作り出されたアイテムは自国内のプレイヤーもしくはプレイヤー以外の兵士などに配給することが出来る。その場合は当然自国に貢献したことになり功績ポイントが手に入る。


 「それではまたこの二つの職業についての希望を取りたいと思います。先程と同じように端末パネルにて希望の職業を選択して送信ボタンを押していただくようお願いします。ただし今回の制限時間は10分とさせていただきます。この二つの職業についてはゲーム内での転職が比較的容易なので気軽に選んでもらって構いません。特に内政職に関しては偏りがないように分布しなければならいので希望の職に就けない方が多くなるでしょうが、どの職でもしっかり仕事をこなしていけば特に有利不利はございませんのでご安心ください」


 こうして内政職と副業職の希望の選択時間に入った。内政職に関しては皆あまり関心はないようだったが副業職についてはそれなりに考えていたようだった。やはり自身でアイテムなどが作り出せるのは魅力的なのだろうか。恐らく錬金術師や鍛冶屋などが人気だろう。だがこのゲームは内政により自国から支給されるアイテムの質が大きく変化するため実際には内政職の方が重要だっただろう。果たしてナギ達は何の職業を選ぶのだろうか。


 「う〜ん…僕は内政職は畜産にしようかな〜。実家が牧場を経営してるし僕も実際に手伝ってるからね。副業は何にしようかな〜……あっ!、そういえばさっき言ってた魔物使いは鍛冶屋か錬金術師がいいって本当なの」

 「本当にゃ。鍛冶屋だったら魔物の爪っていう鉤爪や、ドラゴンの尻尾で作ったドラゴンテールって鞭とか作れるにゃ。しかもモンスターから採取できる素材をベースにして作った武器は魔物武器ってカテゴリーになって、魔物使いならどんな種類の武器であってもある程度使いこなせるにゃ。錬金術師ならドラゴンエキスとかスライム爆弾、大きな鳥の羽に乗って空を移動できるイーカロスの羽とか作れるにゃ。因みにモンスターに食べさせる肉の加工は魔物使いの職にさえ就いていれば行えるにゃ」

 「ふ〜ん…じゃあ僕は鍛冶屋にしようかな。デビにゃんは何にするの」

 「僕は副業職は初めっから錬金術師にするって決めてるにゃ。内政職は特にやりたいものはないんだけど魔科学系の魔導器の職に就こうかなと思ってるにゃ。自国の魔導器のレベルが上がれば錬金術に使える施設や設備が増えてより質のいいアイテムが作れるようになるからにゃ」

 「な、なるほど…、デビにゃんって魔族だけあって頭いいんだね。ナミは何にするの」

 「私?、それが全然決まんないのよね〜。戦闘系の職は今までずっと使ってきた武闘家ってすぐ決まったんだけど、私シミュレーションゲームってやったことないから他の二つの職業のことは全然分かんないのよね〜。もう面倒くさいから何も希望出さずに提出することにするわ」

 「そ、そう…」


 どうやらナミはシミュレーションゲームの経験がなく残りの二つの職に就いては全く希望が決まらないようだった。そして考えるのが面倒くさくなったのか先程のナギと同じように何の希望も出さずに出すことにしたようだ。先のことを考えて行動するという戒めはどうなってしまったのだろうか。


 「カイルはもう決まった?」

 「ああ、僕は内政職はデビにゃんと同じ魔科学系の魔法学者にしたよ。自国の魔法の研究度によって魔法の威力が上がったり、使用できる魔法が増えたりするみたいだからね。副業職は付術師にしようかな。魔術師の職だったら多分装備に付けられる付術の効果も上がるだろうし。ナギ達もいい装備が手に入ったら僕が付術を付けてあげるよ」

 「おおっ、それは頼もしいなカイル。その時は是非私の剣…、いや装備全部に付術を施してくれ。主に経験値上昇の効果のやつを頼むっ!」

 「う、うん…、分かったよ…」

 「ほんとあんたって経験値のことしか頭にないのね…。普通は属性を付与してもらったり、攻撃速度を上昇させたりとかしてもらうものでしょ。まっ、私はドロップ率上昇の効果がいいわね。敵がレアアイテムを落とした瞬間ってのが一番討伐してて楽しいのよね。あっ、でもこのゲームだと入手したアイテムはほとんど自国に献上しなきゃいけないんだっけ。まぁいいか、どうせちゃんと功績ポイントにはなるだろうし」

 「………」


 セイナの経験値に対する執着も大概だったかそれに突っ込んだナミも人のことは言えない考えだった。付術というのは武器や防具に魔力を込めることで、特定の属性や武器重量を減らして攻撃速度を上げる効果などを付与する術のことである。武器であれば攻撃性能、防具であれば防御性能を高める効果を付与するのが一般的だが、セイナやナミほどの熟練プレイヤー達の間では武器の性能は自身のプレイ技術で補い、経験値上昇やドロップ率上昇の効果を付けて大量のモンスターを討伐して一気に経験値やアイテムを入手するのが主流だった。


 「……では時間となりましたので希望の選択の方を回収させていただきます。どの職業に就いたか再びゲームのマップ内に転移したときに分かりますのでそれまでお待ちください。こちらの世界の時間で0時ちょうどになると自動的にマップ内に転送されます。その時にはいよいよ我々の首都であるヴァルハラ城をこの目で垣間見ることができます。ヴァルハラ城に着きましたら先程のモンスター討伐の表彰式と内政と副業についてのチュートリアルを行わさせていただきます。それが終わるといよいよプレイヤーの皆さんは自由に行動できるようになりますので楽しみにしておいてくださいね」

 「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!、いよいよ本格的にゲームが始まりそうだな、おいっ!。俺はずっと北に見えるでっかい山脈が気になってたんだ。きっと強力なモンスター達がうじゃうじゃいるはずだぜ。自由になったら真っ先にあそこに行ってやるっ!」

 「もう〜、そんなとこに行っていきなり戦死しちゃったらどうするのよ〜。始めの内は東か西に広がってる草原のモンスターでも狩ってなさいよ。でもそう言えばこのゲームって死亡したらどんなペナルティあるのかしら。さっきの討伐の時は何もペナルティはなかったみたいだけど…」

 「多分それもマップ内に移動したら説明されるんじゃないのかな。それより僕はさっきの討伐の表彰しきってのが気になるね。僕達もかなりの数を討伐したつもりだけど、一体トッププレイヤー達は何体討伐しているんだろうか…。何にせよこれで最初の自国内のプレイヤーによる優劣が決まる分けだからね。出来るだけ上位に食い込んでおきたいよ…」


 いよいよ本格的にゲームが始まると聞いてプレイヤー達は再び興奮して騒ぎだしていた。特にこの後行われる表彰式についてほとんどのプレイヤー達が気になっているようで、やはりこのゲームは他国との争いもそうだが自国内でのプレイヤー達との地位争いも熾烈を極めるものになりそうだ。そして時刻はまもなく0時となりプレイヤー達は再びゲームの世界へと転送されていった。果たしてどのような試練が待ち受けているのだろうか。そしてナギ達の討伐の順位は一体…。様々な思いを胸にプレイヤー達は転送の光に包まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

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