finding of a nation 75話
「……っ!。あれは……ゲイルドリヴルさん達のパーティが来てくれたみたいだよ、皆っ!」
「あっ!、あれはカイル達のじゃけぇ。レイチェルにヴィンスもちゃんとおるよ」
「どうやら皆無事だったみたいね。まぁ、この程度の探索で苦戦するようなメンバーじゃないか。他のパーティ達も皆8人揃って集まって来てるみたいだしね。
早朝から探索を再開して森の中に不気味に佇む洋館を発見したカイル達、そのカイル達からの連絡を受けて続々と他のパーティ達が集まる中3時間程して司令官であるゲイルドリヴル率いる馬子やマイ達が参加しているパーティも到着した。現在の時刻は午前10時を回ったところで大体半分程のパーティが集まったところだった。
「待たせて済まなかったな。君達がこの館を発見したパーティか。……リーダーは確かカイルといったか」
「あっ、はいっ!。僕がこのパーティのリーダーのカイル・コートレットです」
館の場所に到着するとゲイルドリヴルはまずこの館を発見したカイル達のパーティの元へと向かった。恐らく発見時の詳細な情報を聞きに行ったのだろう。
「なるほど……、では特に変わった出来事はなく探索を続けていたらこの館の場所に出たというわけだな。周囲にも単に森が切り開かれてるというだけで気になるような点はなかったと……」
「はい……。この館を発見してからずっと二人ずつに分かれて四方を見張っていましたが何者かが出入りするような様子もありませんでした。窓のガラスも完全に黒に染まっていて外から中の様子を確認する手段もありません」
「そうか……。それは恐らくゲームの仕様上の設定だろうがその様子だと窓からの侵入も不可能である可能性が高いな。まだ分からないが内部への侵入は正面の入り口のみということもあり得る。一先ずもう一度館の周囲から入念にチェックしてみるか」
「はい。僕もそれが一番安全な策だと思います」
「……ところで君達から報告があった時間から察するにかなり早い時間から探索を再開したようだが何か理由があるのか」
「……っ!。(や、やっべぇ〜っ!。私等がこの館を発見して気分が舞い上がっちまってたが功績ポイントを焦ってこんな早くから探索を再開したことがこいつに知られたら一気に評価が落ちちまう……。恐らくこいつはこれからも私等の司令官を務めることになるだろうし……、下手したらあの禿げが言われてたみたいに二度とこういった作戦に呼ばれなくなっちまうかもしれないぜ。どうにかいい言い訳を考えてくれぇ〜〜〜、カイルぅ〜〜っ!)」
「そ、それはパーティのメンバーからもしかしたら目標の相手に発見できる、もしくはしやすいような時間帯があるかもしれないとの意見が出まして……。それならばまずは早朝の探索から始めてみることにしようと僕が指示を出したんです。結果的にこの館を発見するのには意味がなかったようですが……」
「なるほど……、それは確かに一理あるな。しかし早朝から探索を開始した上これまで周囲の警戒をしていたとなれば君達のパーティも大分体力を消費しただろう。館の周囲の探索は他の者達にやらせるから君達は皆が揃うまで設置した拠点で休んでいてくれ」
「りょ、了解しました」
「(ナ、ナイスアドリブだぁ〜、カイルぅ〜。これなら私等の評価も落ちることはない……っていうかむしろ上がったはずだぜぇ〜〜っ!)」
功績ポイントを焦って早朝から探索を再開したことを咎められそうになったレイチェル達のパーティだったが、リーダーのカイルの起点の聞いたアドリブのおかげむしろゲイルドリヴルの評価が上がる形になったようだ。その後ゲイルドリヴルの指示でテントの中で紅茶を飲みながらカイル達は休息を取っていたのだが、それから2時間ほどして任務に参加している全てのパーティが到着し、レミィ率いるナギ達のいるパーティも姿を現した。
「あっ!、あそこにいるのはカイル達だっ!。お〜い、カイルぅ〜、レイチェル〜、ヴィンス〜っ!」
「ナギっ!。それにデビにゃんやナミ達もっ!」
皆が揃ったことでカイル達も再びテントの外に出でゲイルドリヴルから指示が出されるのを待っていたのだが、その姿を確認したナギ達、それにセイナやアイナ達もカイル達の元へ集まって来た。先に集まっていた馬子とマイはというと司令官であるゲイルドリヴルのパーティに参加している立場上中々抜け出すことができない様子だった。
「良かったっ!。どうやら皆無事に集まることができたみたいだね。確かにモンスターは少なかったけど出発前にゲイルドリヴルさんが言ってた罠は沢山あったからちょっと心配してたんだけど……。カイル達は罠に引っ掛からなかったの?」
「ああ、一回レイチェルがモンスターに一人で飛び掛っていって落とし穴に嵌ったけどあとは大丈夫だったよ。“デンジャー・サーチ”の魔法を使って慎重に進めばすぐ気付けるような罠ばっかりだったしね」
「デ、デンジャー・サーチ……。そんな魔法があったなら僕も使えば良かった……」
デンジャー・サーチとは一定範囲内の罠や毒のある草花、その他生物以外でプレイヤーの脅威となるものを探知できる魔法のことである。罠に関してはプレイヤーのINTの値や魔法を発動する技術、そしてその罠に設定されている隠密度によっては探知できないこともあるようだが、この森にある罠は魔法使いの職を経た者であれば楽に探知できる程度のものばかりだったようだ。
「それにしてもこんな館を見つけるなんて大手柄じゃないの、あんた達っ!。この不気味さと厳かさな感じからして間違いなくこの中に私達の目的の相手がいるはずだわっ!。きっとそいつを倒せばヴァルハラ国に押し寄せてるモンスターの大群も消えるはずよっ!」
「う〜ん……、それはまだちょっと分からないけどこれだけ目立つ建物を無視するわけにはいかないよね。ゲイルドリヴルさんもそう判断してまずは全員でこの館を探索することにはなるだろうけど……」
「でも俺もナミの言う通りこの館にモンスター発生の原因があると思うぜ、カイル。どう考えてもこんな森のど真ん中にこんな館があるなんておかしいしよ。これでこの館の探索を終えて何もありませんでした〜じゃあいくらなんでも納得できねぇよ」
「そりゃ僕も何もないなんてことはないと思うけどそれがモンスター発生の原因だって確証はないってこと。まぁ、ナミやヴィンスの言う通りである可能性が高いとは僕も思ってるけどね」
「まぁ、なんにせよ館の中を探索してみないと何も分からないってことだにゃ。……でもなんだか外観が暗くて不気味な館だけどお化けみたいにゃモンスターが出てこなきゃいいのににゃぁ〜」
「げぇっ!、お、お化けぇですってぇ〜……」
「おっ!、なんだナミ。お前もしかしてお化けとか幽霊が苦手なのか。お前にも怖いものがあったんて意外だったな」
「そういえば遺跡の探索の時も私が松明のこと人魂みたいだって言ったら怯えてたもんね。この館から漂う雰囲気からして中はホラーテイストになってそうだし、こりゃ私達のパーティで面白いものが見れるかも〜」
「もうっ!、人が真剣に怖がってるのを面白がって茶化さないでよ、レミィっ!。リーダーなんだからむしろそういう人がいたら注意して貰わないと困るわっ!」
「ご、ごめんだって、ナミちゃん。ちゃんと謝るからそんなに怒らないで〜」
どうやらナミはお化けや幽霊といった類いのものが苦手なようでそのことをレイチェル達に揶揄われていた。レミィに対する怒り方から考えて本気で苦手としているようだが今までのナミの素振りから考えるとかなり意外である。一般的に女性が苦手がしているような昆虫や爬虫類、その他の悍ましく感じるような造形のモンスターとの戦いは問題なくこなせていたが何かお化け等が苦手な理由があるのだろうか。
「う〜む……、しかしお主なら実態がないお化けや幽霊だろうとブッ飛ばしてしまいそうなもんじゃが……。何かそういったものが苦手な理由でもあるのかのぅ」
「それが昔やってたVRMMOで同じようなホラーっぽいダンジョンに入った時があるんだけど……、その時に出て来た幽霊みたいな敵が物理攻撃も魔法攻撃もまるで効かない相手だったの。どうやらダンジョン内の特殊な仕掛けを解かないと倒せない仕組みになってたみたいなんだけど……、その屋敷を探索している間もずっとそのダンジョン内でラップ音が鳴り響いたり勝手に扉が開いたりとかしてマジ怖かったの。結局恐怖に耐えられなくてそのままログアウトしてからもうそのゲームは一度もやってないんだけど……、それ以来お化けだか幽霊だかみたいのが元々少し苦手ではあったんだけど凄いトラウマになっちゃってるのよ。その時私調子に乗って一人でそのダンジョンに挑んでたってのもあるのかもしれないけど……」
「ああ、そのゲームなら僕もやってたかもしれないよ。確かナミのように怖くてトラウマになっちゃったって人からの通報が凄くてそのダンジョンが追加されてたから2日程で削除されちゃったっていう……。内容的にはそこまで恐怖を煽るものじゃなかったかもしれないけど元のゲームが普通のファンタジー要素の強いMMOでホラーって謳い文句をまるで使ってなかったのが悪いってネットでは叩かれてたね。それでその2日間の間にダンジョンをクリアしたプレイヤー達はネットの間で伝説的な扱われ方をされてたみたいだよ」
「へぇ〜、そんなゲームがあったなんて俺は全く知らなかったぜ。流石カイルはMMOに関しては情報通だな。……しかし俺も男とはいえさっきナミが言ったようなダンジョンに入るのは嫌だな……」
「そうだね……。例えホラー要素のようなものがなくても倒し方の分からないモンスターと出会っただけも恐怖を感じることもあるし……。そんなラップ音みたいな恐怖演出まであったら流石に正気でいられなくなっちゃうかも……」
どうやらナミがホラー嫌いとなったのは昔プレイしたことのあるMMOが原因だったようだが、それについてはカイルもヴィンスも、恐らくは他のメンバー達も共感していた。確かにゲームは順調にクリアに向かって進んでいる間は楽しいものだが、途中で行き詰まったような状況におかれると途端に苛立ち、ホラーゲーム等ではナミのように耐え切れない程の今日を感じてしまうことも多々ある。それも含めてゲームの醍醐味ではあるのだろうがいい思い出になる者もいればナミのようにトラウマになってしまう者もいるということだろう。お化けの話題から話が広がりそれぞれのゲーム感について和気藹々(わきあいあい)と言葉を交わしていたナギ達だったが、そんな中セイナはというと一人真剣な表情を浮かべて考え込んでいる様子だった。
「でしょ〜。やっぱり必要以上にプレイヤーを怖がらせるような演出を取り入れるべきじゃないわよね〜。でも皆通報してたっていうなら私もゲームの運営に思いっ切り抗議のメールを送ってやれば良かったわっ!」
「そう言われれば私も今まで運営に文句言いたくなるようなゲームも散々やって来たな。なんならトラウマになった慰謝料もまで請求してやれば良かったのによ」
「い、いや……、あんたじゃあるまいし流石にそこまではしないわよ……、レイチェル」
「でも良かったね、ナミちゃんっ!。そんなトラウマがあるならパーティにナギ君がいて。よしっ!、それじゃあナギ君っ!。この館の探索が終わりまでしっかりナミちゃんを守ってあげること。これはリーダーの私からの命令だからねっ!」
「え、ええっ……!。そんなこと言われても僕もナミ程じゃないにせよ怖いものがヘッチャラってわけじゃ……」
「そうなの。じゃあナギ君もナミちゃんも纏めてこの私が守ってあげるよ。こう見えてもホラーゲームは沢山プレイしてるからね」
「えっ!、シッスって女の子なのにホラー好きなのっ!」
「そうだよ、ナミちゃん。確かこのゲームを始めるちょっと前にもマッド・キラーってゲームをクリアしたかな」
「ええっ!。それって18禁規制どころかVR耐久テストにも合格しないとプレイできない超ホラー級のゲームじゃないかっ!。えー……、確かシスター・シスターさんって言ったけ……。よくそんな恐ろしいゲームをプレイできたね……」
シスシスがマッド・キラーというゲームをプレイしたと聞いてカイルはかなり驚かされていたが、VR耐久テストとは世界中で販売されているVRゲームをプレイするに当たってそれぞれのゲームに規定されている“必要VR耐久ランク値”の資格を得る為のものである。ゲームに関してはそのゲームでプレイヤーの肉体や脳等に与える影響のランク、プレイヤーに関してはVRでのゲームのプレイでどれだけの表現に耐えられるかを表したもので、ランクは上からAからEまであり最低ランクのEは10歳以上、その上のランクのDは年齢が18以上になるだけで全ての者に与えられることになっている。Cランク以上のゲームからプレイする為にそのランクのテストに合格しないといけないわけだが、主に過度にグロテスクな表現や恐怖演出等があるVRゲームにCランク以上が規定されている。Cランク以上のVRゲームはゲーム起動時に本人認証と肉体と精神の健康チェックが必要なためそれらの機能が搭載されたVRDベットでないとゲームをインストールすることはできず、もし何等かの手段でそれらの規定を破ってゲームをプレイした場合懲役5年以上の刑が科せられることになっている。因みにVRDベットを所有している人々の内Cランク以上のテストに合格しているのは約2%しかいない。マッド・キラーにはその必要VR耐久ランク値のBランクの規定がされており、通常の人間ならば過呼吸や不整脈等の症状を起こしてもおかしくはないとVR協会から判断されているゲームである。
「VR耐久テストが必要なゲームなんてプレイしたことがないどころか知ってるタイトルの一つすらないわ……。一体どんな内容のゲームだったの……」
「う〜んと……、確か精肉用の馬鹿デカイ肉切り包丁を持った殺人鬼のいる今は使われていない精肉工場に迷い込んだ弟か妹のゲーム前に選んだ方を助けにいくゲームだったかな。その精肉工場が思いの他広くて探し出すのに苦労しちゃった。最後は丸腰の状態で殺人鬼と対面して、なんとか逃げ回りながら工場の電源を復旧させて精肉用の機械かなんかに殺人鬼を巻き込ませて倒したんだったけな」
「うげぇ……、TVの画面でやるゲームですらそんな内容耐えられないのによくVRでプレイした上にクリアなんてできたわね。私なんてCランクのテストを合格する自信すら……、っていうか受ける勇気すらないわ」
「……まぁ、でもそういうことならナミちゃんの護衛はシスシスさんに任せることにしましょう。二人共前衛職だし二人並んで先頭を任せても問題ないでしょう」
「そ、そんな……。まだお化けが出るって決まったわけじゃないし私だって皆でプレイするのにそんな我儘言ってられな……ってさっきからそんな真剣な面持ちで考え込んでどうしたの、セイナ。まさかあんたに限って私と同じでお化けが怖いなんてことがあるわけ……」
ホラーゲームの話題で盛り上がる中、セイナの真剣な面持ちに気付いたナミが話しを中断して理由を問い質した。ナミの言う通りセイナに限ってお化けが怖いなどということはないと思うのだが……。
「いや……、別にそういうわけではないのだがもしこのゲームで今お前達ような話ていたような……、それもVR耐久テストに通らなければならないような場面に出くわした場合どうすればいいのかと考えていてな。今までのゲームならばそのままプレイを中断しお前達の言っていたように運営に抗議等をすればいいのだろうが……」
「えっ……そ、そんなの考えるまでもなく今言った通りゲームを止めて抗議すればいいじゃない……。私はテストに合格すらしてないのにそんな精神に異常をきたすようなゲームをするのはごめんよ」
「だがこのゲームは我々が今までプレイして来たゲームとは違いリア達電子生命体を元にして作られたゲームだ。ゲームの運営というのも恐らく同じく電子生命体であるARIAということになるだろう。果たして我々人間を大きく超えた存在にそんな抗議を入れてどうにかなるものなのだろうか」
「………」
「それにこのゲームを途中でリタイアするようなことになった場合我々の現実世界の肉体や精神、それに生命としての力そのものへの影響は一体どうなる。実際これまでのプレイで現実世界での我々の存在はとんでもない程の成長を果たした。それだけプラスの影響があるのならばもしこのゲームの運営に歯向かうような真似をすればそれと同等のマイナスの影響があってもおかしくはないのではないか」
「た、確かに言われてみればそんな影響があってもおかしくはないけど……。で、でも大丈夫よっ!。それだけ凄い存在なら逆にちゃんと私達にマイナスの影響がでないような調整もしてくれてるはずでしょ。ゲームを始める前にブリュンヒルデさん、それにARIAや他のNPC達もそんなようなこと言ってた気もするしセイナの気にし過ぎよっ!」
「ああ、それはその通りだが私が言いたいのは別にそういう意味ではない、ナミ。私達は今これまでプレイしたゲームのように我々と同じ対等な人間の行う運営ではなく、我々の存在を大きく超える……、言わば神のような存在の運営の元でこのゲームをプレイしていることが如何に重大、そして危険であるかを考えた方が良いのではないかということだ」
「………」
突然セイナの口から飛びだしたこのゲームに関する重苦しくも重大な内容の言葉を皆享受しきれないといった様子で無言のまま立ち尽くしてしまった。ナギやナミ達だけでなくこのゲームのプレイヤーは皆自分達のこれまでの常識や認識を大きく超える壮大なゲームをプレイできているということに喜びや充実感を感じていることだろうが、そのような壮大かつ未知のゲームをプレイしているということは反対に不安や危機感等も感じなければならないということである。特にその一端となるような内容をデビにゃんから聞かされているナギとナミはセイナ以上にそのことを認識できていなければならなかったのだが、そのことを忘れゲームを楽しむことに夢中になっていたことを二人は心の中で自戒していた。
「(うぅ……そうだわ。私ったらデビにゃんからこのゲームで私達人類に科せられた試練について聞かされたのにすっかり忘れて……。これじゃあ何も知らないセイナの方がこのゲームの存在の大きさと私達がプレイしている重大さを自覚できてるじゃない)」
「(そうだよね……。何も知らないプレイヤー達だってもうこのゲームが普通のゲームとは全然違うくて、その上凄い力を持ってることは認識できてるんだ。セイナさんの言う通り僕もこのゲームをプレイする重大さを改めて自覚しないと……)」
「(ま、まさかセイナの口からそんな言葉が聞けるなんてにゃ……。ゲームの実力もさることながら物事の本質を悟るこの感性といいやっぱりセイナもナギやナミに劣らずの強い生命力と潜在能力を持ったプレイヤーだにゃ。これは早いとこセイナにもあのことを伝えた方が良さそうだにゃ……)」
「ちょっとあんた達……。このゲームの一部である電子生命体の私としては今のセイナの言葉ように感じてくれるのは嬉しいんだけど……。だからってちょっと辛気臭くなり過ぎよ。確かにセイナのように人間のあなた達からしてみればこのゲームの運営を司ってる存在はとてつもなく大きく感じられるかもしれないわ。だけどそのとてつもなく大きな存在に支配されて生きているのは現実の世界のあなた達だって同じでしょ。それこそさっきセイナがいってた神のような存在にね」
「リア……」
「それに電子生命体である私にだってこのゲームの運営、私達の本体とも言える存在がどんなものなのかっていうのはまるで分かっていないよ。もしかしたらあなた達現実世界も含めて管理してる存在かもしれないんだから」
「………」
「常に自分より何か大きな存在に包まれて生きているのは皆一緒。私達電子生命体やあなた達人間、それに動物や虫に森や川もね。時に支配されてるようにも見守らているようにも感じられるでしょうけど、大事なのはそういう何かに支えられて生きてるんだって常に胸に留めておくこと。そうすればナミの言う通りその存在もあなた達にマイナスになるような影響を与えたりしないわ。……ただもしそのことを忘れるようなことがあれば自身の身にどう頑張っても対処できないような酷いことが起こったりするかもね。あなた達だって自分の世界でそういった人達がどうなるか見たことはあるはずよ」
「………」
「そんなに心配しなくても大丈夫。これまで通りあなた達らしい行動を取ってさえいれば誰もあなた達に不幸なことを起こしたりなんてしないわよ。このゲームそのものや自分達を取り巻く全てに感謝して私やマイに優しく接してくれてたみたいにね。……それにあなた達ことだから例えこれから先このゲームにどんなに困難で辛い試練……、例えばシッスの言ってたゲームみたいな場面に遭遇しても本当は逃げ出すつもりなんてないんでしょ」
「リア……、そうねっ!。私ったらちょっとトラウマを思い出したぐらいでらしくなかったわっ!。もしシッスの言ってたゲームの殺人鬼のような奴が現れてもぜぇーったいっ!リア達をおいて逃げ出したりなんてしないんだからっ!」
「ああっ!。逃げ出すどころか私のこのヴァイオレット・ウィンドで叩っ斬ってやるぜっ!。……いい戦斧士の装備がなかったら転職した後もずっと使ってんだけどな」
「そうそうっ!。私なんてさっき話したゲームでは丸腰でその殺人鬼をやっつけちゃったんだからっ!。色んな武器を装備できて超カッコイイ技や魔法の使えるこのゲームなら楽勝だよっ!。ナギやリア達っていう頼もしい仲間達だって一緒なんだからねっ!」
「ふふっ……期待してるわ」
「(にゃ、にゃぁ……。あの皆の落ち込んだ雰囲気を一気に払拭するなんてリアも周囲への影響力も侮れないにゃ。話してる内容も僕自身も心打たれるような素晴らしいものだったしいっそのことセイナだけじゃなくリアにもあのことを……)」
セイナの言葉に自分達がこのゲームをプレイする重大さに気付き重苦しい雰囲気から立ち直れずにいたナギ達だったが、電子生命体であるリアの優しさと励ましの篭った言葉に心を打たれ一気にこれまでのテンションを取り戻した。セイナの生命体としての感性の高さに感心していたデビにゃんであったが、リアに対しても同じように自身の存在の秘密を話すべきなのではと考え始めていたようだ。
「にゃ、にゃぁ……、皆で盛り上がってるところで悪いんだけどセイナにリア……。ちょっと向こうで僕の話を聞いてくれないかにゃ。できればナギとナミも一緒に……」
「(デ、デビにゃん……っ!。もしかして二人にもあのことを……)」
「よし……っ!、それでは全てのパーティが到着したことを確認したので今後の方針を伝えるっ!。皆それぞれのパーティのメンバーのところに戻って整列しろっ!」
「にゃぁっ!」
「むっ……、どうやらゲイルドリヴルから次の指示がなされるようだ。済まんな……デビにゃん。何か私とリアに話があったようだが私も自身の率いるパーティのところに戻らねばならない」
「にゃぁ……」
「私はあなたと同じパーティだからこの後なら話を聞けると思うけど……、セイナと一緒じゃないと駄目なの」
「い、いや……。別にそういうわけじゃないし大した内容の話だからもういいにゃ。また僕の方から声を掛けるから二人共もう気にしないで任務に集中してくれにゃっ!」
「そう……ならいいんだけど……」
セイナとリアにもナギ達と出会った時に話したことを伝えようと決意したデビにゃんだったが、タイミング悪くゲイルドリヴルから集合の指示が出されてしまった。いよいよ館の内部の探索が始まるようだが……、これまでのナギ達の会話はまるで館の中にそれこそ普通の人間ならば逃げ出したくなるような恐怖が待ち受けていることを暗示しているようであった……。




