finding of a nation 74話
一方その頃森の中に突入した他のパーティ達もナギ達と同じように仕掛けれた罠に遭遇し、これ以上の進軍は危険と判断し日が暮れる前に夜を明かす為の拠点を設置しようとしていた。ゲイルドリヴル率いるパーティも同じで、今は拠点を設置する前に鷹狩の仲間モンスターであるヴェニルに上空から周囲の様子を偵察させていたところだったのだが……。
“ヴェニッ、ヴェニッ!”
「くっ……、やはり森の中からでは木が邪魔になって我々のいる位置から少し離れると姿を視認できなくなってしまう……。同じく飛行能力のある敵に襲われるかもしれないしこれ以上ヴェニルに空からの偵察をさせるのは危険か……」
「そうだな。拠点を張る場所も決定したことだしもうヴェニルを下げてもらって構わないぞ。鷹狩……っ!。あれは……っ!」
“キシャァァァーーーーっ!”
“ヴェ、ヴェニィーーっ!”
「危ないっ!」
「危ないですわっ!」
“キシャァァ……”
ゲイルドリヴルと鷹狩が上空にいるヴェニルことを心配し始めた束の間、ヴェニルの背後から大型の竜のような分厚く硬い翼を持った鷲型のモンスターが襲い掛かって来た。やはり鷹狩の言う通り森の中からでは上空の周囲の様子を確認できず、モンスターの接近にゲイルドリヴル達も気付けずにヴェニルは完全に隙を突かれた状態で襲われてしまったようだ。このまま鷲型のモンスターの攻撃を受けてしまうかに思われたのだが、間一髪上空への攻撃手段を持つ不仲とマイがそれぞれの矢でそのモンスターを撃ち抜いたのであった。
「ふぅ〜……危なかった。やはりこの視界の悪い地上からヴェニルの援護を行うのは困難だな。もういいっ!、これ以上の偵察は危険だから戻ってこいっ!、ヴェニルっ!」
“ヴェニッ!”
「すまなかったな……、二人共。おかげで間一髪のところでヴェニルが助かった。しかしあの一瞬でよくモンスターを撃ち抜くことができたな。この森の中からではモンスターが視認できてからほんの数秒しか間がなかったというのに」
「えっ……まぁ、これぐらいは当然よ。一応私はこれでも弓術士のエキスパートとして登場してるNPCなわけだし……。でもその……、ふ、不仲さんも私と同等の速さで反応できるなんて大した腕前だわ。きっと今までのゲームでもずっと弓術士でプレイして来たんでしょうね」
「え、ええ……まぁ、そうですわね。なるべく視野の広い位置に配置して援護を任される弓術士にとって目を使った索敵と瞬時に反応できる反射神経は必須と言っていいものですから……。それに上空の敵に素早く対応できる能力を持つのも我々弓術士ぐらいですし……」
「そうそう。いくら森の中にいるからって皆の為に懸命に偵察を頑張ってくれてるヴェニルに敵の攻撃を受けさせでもしたらそれこそ弓術士として申し訳が立たないわ。……でもよく考えたら二人して空の警戒を行うのも効率が悪いわよね。もし良かったら二人で地上と上空の警戒の役割を分けてみる……?」
「そ、そうですわね……。それなら上空の警戒はなるべく私が行うことにいたしますわ。あなたの放つ光弾は光属性を持ち、また魔法属性の攻撃も豊富なようですから地上の敵に対してはあなたの方が有効な攻撃手段を持っているようですから……」
「分かったわ。……でもまたよく考えたらこんな森の中にいるんじゃあもうあんまり上空の様子を気にする必要はなさそうだけどね……」
「そ、そうですわね……」
「………」
出発前にゲイルドリヴルに言われたことを気にしてか不仲とマイはなんとか互いに打ち解けようとしていたようだが、自分の感情を抑え過ぎたその二人のやり取りは周りから見ると少し不気味に思えるものだった。それでも不仲に関しては一人落胆していた様子からは立ち直り、マイも自らプレイヤーに寄り添うような態度を見せ、ゲイルドリヴルに忠告されたことに関してはかなり改善されてきている様子だった。依然堅物とした表情を浮かべながらもゲイルドリヴルは心の中で二人の成長を嬉しく思い、暖かな心で二人のやり取りを見守っていた。
「ふんっ♪、ふんっ♪、ふんっ♪、ふ〜んっ♪。え〜っと……、お醤油はこんなもんでいいかなぁ〜」
場面はナギ達戻って約4時間が過ぎ、時刻は午後の7時を回り辺りも暗くなった頃ナギ達は拠点となるテントを張って焚き火をたき、今は夕食の準備をしているところだった。何やら楽しそうにシスシスがフライパンを振っていたが今日は炒め物なのだろうか。そして呼びづらかったのかナミのシスシスへの呼び名がシッスに変わっていた。
「ふぅ〜……はいっ!、これで具材は全部切り終ったわよ。後はお願いね、シッスっ!」
どうやらナミは具材を切る係だったようだ。その具材の内容はというとまずモンスターから取れた肉、それからこの森の中で取れたと思われるキノコ、アシタバや山芋、それからデビにゃんの大好物であるマタタビなどの色んな種類の山菜が含まれていた。どうあら今夜の主食は肉とキノコと山菜炒めのようだ。あとはリアがこれまた山菜を使ったお吸い物、プリプリが木の実や果物を作ったデザートを調理をしており、ナギとデビにゃんは食卓の用意、アクスマンは一人黙々と薪割りをしていた。そんな中バジニールはというと一人皆の外れた場所の切株に腰掛け何やら思い詰めたような表情を浮かべていた。どうやら先程のナギ達との一件について考え込んでいるようであったが、そんなところへパーティのリーダーであるレミィが優しい笑みを浮かべて近づいて来た。
「どうしたの、バジニールさん。こんなところに一人で座り込んで……。皆せっせと今夜の夕食の準備をしてくれてるよ」
「ああ……私はいいわ。準備を手伝わないことを怒りに来たのなら私は夕食はいらない。いいから少し一人にしておいて……」
「そうはいかないよ。ちゃんと食事を取ってエネルギーを補給しておかないと明日からの任務に支障をきたすかもしれないでしょ。このゲームには空腹の概念だってあるんだからリーダーとしてそれは許しませんっ!」
「だったら後で食事だけこっちに持って来て……。悪いけど今は何もする気が起きないのよ」
「……さっきのナギ君達との罠との一件のことで悩んでるの。もし私で良かったら相談に乗ろうか?」
「ふんっ……、あんたみたいなお気楽者に相談してどうなるっていうのよ」
「ああっ!、そんなこと言ってっ!。私はこれでも現実の世界じゃあ刑事の仕事をやってるんだよ。犯人を説得したり、逮捕した後も相談に乗ってあげたりしてるんだから。……まぁ、その前の取り調べで結構酷い言っちゃったりもするんだけど」
「ふっ……、それじゃあまるで私のことを犯罪者だとでも言いたいみたいね」
「そ、そんなことないよっ!。勿論実際に犯罪に手を染めちゃった人とバジニールさんは違うけど、大抵の人は自分の悩みを誰にも相談しなかったりもしくはできなかったりして罪を犯しちゃうものなんだよ。だからバジニールさんもそうならないうちに私に相談してみてっ!」
「つまりは私のことを犯罪者予備軍だって言いたいわけね……。まぁ、いいわ。折角現役の、それも女刑事さんが話しを聞いてくれるって言うんだからお言葉に甘えて相談して見ましょうか」
最初は乗り気でなかったようだが、リディの親しむのある言葉を聞いている内に気が和んできたのかバジニールは少しずつ自身の悩みを打ち明け始めた。どうやら自分のことを犯罪者予備軍のような扱いをされたことが逆にレミィの正直さを感じさせ自身も正直に話してみる気になったようだ。最初は自身の性別と心の中に沸き起こる感情の違いが認識できるようになった中学生の時、それからVRでのオンラインゲームに嵌まり始めた経緯等を話し始め最終的には自分の本質を見失いそうになっていることをレミィに打ち明けた。
「う〜ん……。つまりはさっきナギ君達を罠から助けたり、現実世界でも他人と合わせるのは生きていく為に仕方無くやってることで、心の中はずっと一人で生きて来て自分のその生き方が一番好きだって思ってたのに本当はそうじゃなかったんじゃないかって思い始めたってこと?」
「そうよ。刑事さんっていうだけあって物分かりがいいわね。別に今でも信じられるのは己だけ、自分は一人が好きでこれからもそう生きていこうと思ってるはずなんだけど……、さっきあの子の言葉や昨日あのリアってNPCの子にこの国に集められたプレイヤーの本質は他の存在への思い遣りと調和だとか言われたことを思い出して、もしかしたら自分は生き抜く為ってことを言い訳にしてるだけで本当の自分の本質はリアって子の言った通りなんじゃないかって考え始めちゃってね。だってもし本当に一人で生きていくの好きで自分だけが大事って思ってるならあの子達を罠から助けたりなんてしないし、あのアイテムだって何の躊躇もなく頂いてたはずでしょ。だったら今まで自分だと思ってた自分はなんだったんだって頭の中で思考が止まらなくなっちゃったのよ」
「なる程ね〜。確かに思ってる自分と行動に違いを感じて悩んじゃうことって誰にでもあるんもんね〜。……でもそこまで自分で考えられてるなら大丈夫っ!。悩みの内容も健全なものだし私に相談なんかしなくてもバジニールさんなら答えを見つけられるよ」
「あら……、自分から相談に乗るって言い出したくせに豪く適当な返答ね。せめてアドバイスの一つぐらいしていったらどうなのかしら」
「えっ、そうだなぁ〜……、それじゃあ私から一つだけ。別にバジニールさんの言う自分の本質がリアちゃんの言ってる通りだとしても、バジニールさんのこれまでの生き方がそれを否定することにはならないんじゃない。それに自分の本質なんて実際に分かってる人なんてほとんどいないんだから、そんなのその時その時に“あっ!、自分の本質はやっぱりこうだったんだっ!”って思い直せばいいだけだと思うよ。実際私だってそんな感じで生きてるし」
「自分の本質を分かってる人なんていない……。これまでの生き方が私の本質を否定しているとは限らない……か」
「うん。……ってあっ!。あとそうだ。バジニールさんに大事なこと忘れてたわ」
「……?」
「はい、これ。ナギ君から預かった敏捷の実と、ナミちゃんから預かったヴァイタル・リリースの魔術札。二人から私からバジニールさんに渡してくれるよう頼まれてたんだ」
「あの子達が……」
「そう。それに二人共バジニールさんに悪いことしちゃったって謝ってたよ。バジニールさんにはバジニールさんの考えや生き方があるのに自分達のそれを押し付けるようなこと言ってごめんって。だけど助けてもらったことに本当に感謝してることと、バジニールさんだけじゃなくてヴァルハラ国のプレイヤー皆にリアちゃん達NPCと仲良くしてほしいって本気で思ってるってことは分かって欲しいってね」
「そう……。そんなこと言ってたのね……、あの子達……」
「だからちゃんとこのアイテムを受け取ってあげて。当然私もバジニールさんがナギ君達程リアちゃん達NPCのことをよく思ってないことは知ってるけど、さっきも言った通り別に皆と仲良くしたからってバジニールさんの本質も生き方も否定することにはならないんだから。ナギ君達もこう言ってるんだしバジニールさんはバジニールさんで今まで通り“生き抜く為に”皆と連携を取ってればいいの」
「レミィ……ふっ!、やっぱり流石は刑事さんね。あなたに相談したおかげで少しは気分がスッキリしたわ」
「……っ!。それじゃあナギ君達のアイテムも……」
「ええ、ありがたく頂戴させて頂くわ。折角人助けをしたんだからしっかり礼は頂いとかないとね。それに食事だけ貰うのも悪いしやっぱり何か用事を手伝いに行こうかしら」
「そうだね。それじゃあもう料理はできそうだしナギ君達の食卓の用意を手伝いに行こうっ!」
こうして落ち込んでいたバジニールだったがレミィのおかげで気力を取り戻し用事を手伝いにナギ達の元へ向かって行った。その後ナギ達はシスシスの調理した山菜炒め、リアの山菜のお吸い物、プリプリの森の木の実と果物を使ったプリン・アラモードを平らげ、アクスマンの割った薪で沸かした風呂に入り床に就いた。風呂は当然テントによって男女に分けられていたが、協議の結果やはりバジニールはナギ達共に男湯の方に入ることになったようだ。そして一夜が明け任務二日目の朝を部隊の皆が迎えたのだが、まだ森の中は薄暗く視界が悪い早朝の6時を回ったところだというのに早速探索を再開してるパーティがあった……。
「ふわぁ〜……、やっぱりこんな早起きなんてするもんじゃなかったな。さっきからあくびが止まらねぇし日がちゃんと出てねぇから肌寒いしよ」
「何言ってるんだよ……レイチェル。レイチェルが先に目標の敵を見つけた方が貰える功績が増えるって昨日言い出して聞かなかったらこんなに早く探索を再開させたっていうのに……。その本人がそんな調子じゃあパーティの皆に指示を出した僕の面子が立たないじゃないか」
「悪い悪い、カイル。どうも私は現実世界でもゲームの世界でも朝起きるのは苦手みたいでな。……他の皆もすまねぇな。私の我儘でこんな早起きさせちまって……」
「別に構わないわよ、レイチェルさん。私だってこれからのことを考えてなるべく功績ポイントを多く貰っておきたいし、それに早朝の森の中って日差しの差し加減がちょうど良くて凄く幻想的な雰囲気で歩いてて退屈しないわ。むしろこういう皆がまだ探索を再開してない時間こそ目的の敵が……ってあら?。あそこからちょっと差し込んでる日の光が強くなってるわね……。樹木の少ないひらけた空間にでもなってるのかしら」
「本当だ……ってかその奥に何か建物の壁みたいなものが見えるぞ。もしかしてあそこに目的の敵がいるんじゃねぇのか。ちょっと行ってみようぜっ!」
「あっ!、ちょっとレイチェルっ!。一人で突出したら危ないよっ!」
「まぁ、いいじゃないか、カイル。俺も気になるしレイチェルについて行ってみることにするよ。お前達も早く追いかけて来いよ」
「ヴィンスまで……。まぁ、そんなに距離があるわけじゃないし構わないか。それじゃあ皆レイチェル達のあとについてあの開けた場所まで行くよー」
「了解っ!、リーダーっ!」
こんな早朝から探索を再開していたのはどうやらカイルがリーダーを務めるパーティだったらしい。慎重な性格なカイルがこのような指示を出すとは考えにくいがどうやらレイチェルの提案だったようだ。他のメンバーもなるべく功績ポイントが欲しかったのかレイチェルに賛同する意見が多くカイルも反対できなかったのだろう。そしてどうやら目標である可能性のあるものを発見したようだがレイチェル達の走って行った先にあるものとは……。
「いぇ〜いっ!、私がイッチば〜んっ!。……ってなんだこりゃぁぁ〜〜〜っ!」
「どうした、レイチェル。そんなに声を上げて驚いてってこりゃ……。ヴァルハラ国の城の半分くらいありそうな馬鹿デカイ館じゃないか……。一体どうして森の中にこんなものがあるんだ……」
レイチェル達の出た先にあったのはなんと紺色の煉瓦造りのホラー映画に出て来そうな不気味な雰囲気漂う洋館だった。ヴィンスはヴァルハラ国の城の半分程と言っていたが、実際にはそこまでの大きさはなかったにせよ現実世界では考えられない、このゲームにおいても相当な規模の大きさの館であることは間違いなかった。果たしてこの館の中にナギ達の目標としているものがいるのだろうか……。
 




