finding of a nation 70話
いつもfinding of a nationをご愛読頂き誠にありがとうございます。実はちょっとした謝罪があるんですけどプロフィールのtwitterのリンク先に自分のアカウントではなくtwitterのurlをそのまま貼ってしまっていました。もしリンクをクリックして御自身のtwitterに飛んだ方がいたらこんなつまらないミスをした僕を笑ってください。それではこれからもfinding of a nationをよろしくお願いします。
「……いよいよ任務が開始される時が来たわね。なんかブリュンヒルデさんから直々に任命されたからか滅茶苦茶緊張してるわ、私。これまではライノレックスの時もアイアンメイル・バッファローの時ももしかしたらやれちゃうかもってスリルはあったけどもっと楽な気持ちで戦えてたのに……」
「へぇ〜、ナミ。お前でもそんなナイーブになることがあるんだな。まぁ、気丈なだけの女なんて全く男にモテないし、ちょっと脆い部分があった方がナギだって喜ぶんじゃねぇか」
「そういうあんたは随分気楽そうね……、レイチェル。この任務にはこれからのヴァルハラ国の発展の命運に関わってきそうなのに……。もし私達がこの任務を果たすことが出来なかったら他のプレイヤー達はずっとこのモンスターの大群の対処に追い遣られることになるのよ……」
「私はお前と違って一応社会人だからな。一度社会に出たらどんなに難しい仕事でも上司に命令されたら嫌でもやるしかない。やれるだけやってもし出来なかったらその時は“出来ませんでした”って会社の皆に謝るしかないんだよ」
「そうよね……。私も今年で大学卒業だし……、いつまでも学生気分でいられないことは分かってるんだけどなかなかあんたみたいに割り切れないのよね……。就活の時なんて今以上に緊張してて面接の時なんて言ったかも覚えてないし……」
「私も就活の時はそんなだったよ。皆社会に出て離れしていけば色んなことが起きても段々動じなくなってくんだ。セイナなんか子供頃からずっと芸能界にいるからいつも堂々してるだろう」
「た、確かに……、何事も経験が大事ってことか……。こんなことなら学生の内にバイトぐらいしとけば良かった……」
「はぁ〜、今そんなことを気にし始めてもどうしようもないだろう。いいからさっさと会議室へ行こうぜ。もうナギや他の皆も集まってるだろうからな」
ブリュンヒルデが“nations magic ”を発動させから約1か月と半が経過し、現在のゲーム内の時刻は10月25日の午前8時30分、現実世界の時間は5月9日の大体20時15分頃といったところであった。ナギ達は経験値取得の為のモンスターの討伐を中断して再びブリュンヒルデが訪れている本陣へと戻って来ており、今は以前集まった場所と同じ会議室でブリュンヒルデにより作戦の説明が始まるのを待っていた。
「……どうやら全員揃ったようですね。ではこの作戦の総指揮を担当するゲイルより作戦の詳細を説明して貰います」
「はっ……!」
"ガヤガヤ……"
「やっぱりあのゲイルドリヴルが総指揮を取るんだってよ……。まぁ、元々この陣を仕切ってたのがあいつなんだから当然と言えば当然だが……」
「ちっ……!、単にゲームの腕だけなら俺も負けていないはずなのに……。ブリュンヒルデさんのお気に入りかなんだか知らないが司令官きどりでいい気なもんだぜ。あんな人に媚び売るのだけが得意な奴にこんな重大な作戦の指揮を任せて本当に大丈夫なのかよ……」
「しっ!、あんまり物騒なことほざいてるとこの前の禿げのオカマみたいにブリュンヒルデさんのお怒りを買っちまうぜ。それにどうせ俺達は他の奴等に指示を出すなんて面倒くさいこと苦手だろ。討伐大会で3位に入ったあいつなら歯向かう奴も少ないだろうし、面倒なことを引き受けてくれたと思って大目に見てやろうぞ」
どうやら今回の作戦の指揮はゲイルドリヴルが務めるようだ。元々のこの陣の司令官である為当然のことではあるが、中には彼女の下で働くことに不満を抱いている者もいるようだ。
「では私の方から作戦の説明に入らせてもらう。まずは端末パネルに送ってある作戦の詳細の1ページ目を開いてくれ」
"ピッ……"
ゲイルドリヴルに言われプレイヤー達は皆端末パネルを開いた。するとまず最初のページにはいくつかの赤い印と矢印が描かれた作戦区域の大まかな地図が記載されていた。少し頭の回るプレイヤーはこのページを見ただけですでにある程度作戦の概要は掴めているようであった。
「これは……、ちょうど僕達が陣を張って戦線を維持しているラインから北の森に掛けての地図か……。この赤い点が最初の各パーティの開始地点、矢印が探索に向かうべき方向を示してるんだろうけど……、どうやらいくつかのパーティずつに分かれて違う陣から作戦を開始するみたいだね」
「おおっ!、カイルっ!。一目見てそこまで把握するなんて流石だね。……えーっと、ってことは同時にこの赤い点の数が僕達のパーティの数を表してるってことだよね。点の中に振ってある一番大きい数字は……30っ!。一つのパーティの人数は8人ずつだからこの作戦に参加してるプレイヤーや固有NPC兵士は全部で240人ってことだね。……最初会議室に入った時は凄い数の人が集められてると思ったけど、一つの国には3万を超えるプレイヤーが参加しているんだから数字にすると大分少ない人数のように思えるね」
ナギの言う通り240人という参加者はこの国の総プレイヤー数の100分の1にも満たない。更にフィールドの広大さも含めるとこの任務を果たすには心許ない数字に思えてくる。各パーティ違う地点から作戦を開始するようだが、一体そのパーティの編成はどうなっているのだろうか。
「このページを見れば大体の作戦の概要は分かるだろうが、作戦の内容はモンスター討伐の為に敷いた防衛ラインのそれぞれの拠点から各パーティ真っ直ぐに北上して進軍し、森林内の自分達の探索エリアとなっている範囲からモンスターの大量発生となっている原因を突き止めるというものだ。実は作戦の実施前に一度森林の中に偵察隊を送り込んである。その者達の報告によると確かに森林内からモンスターが出現しこちらに押し寄せて来ているとはいうものの、それはあくまで森林の外に近い付近の辺りからだけということで森林の奥に入ってさえしまえばほとんどモンスターの姿は見かけないとのことらしい」
「……っ!、なんだ。それならこんな任務あっという間に終わらせられそうじゃない。確かリスポーン・ホストっていったけ。きっとその能力を持った奴がこっちにモンスターを寄越しすぎて肝心の自分の住処をガラ空きにしちゃったのね。とっととそいつを見つけ出してコテンパンにしてやるわ。今のを聞いてちょっと緊張がほぐれてきたかな」
「ゆ、油断は禁物だよ……ナミ。確かにヴァルハラ国にモンスターを送り込むことに力を注ぎ過ぎたせいで森林内のモンスターが減っちゃったっていうのは合点がいくけど……、もしそうだとしてもあれだけ大量のモンスターを出現させることのできる敵ってことは間違いないんだからそう簡単に倒せるとは思えないよ……」
「大丈夫よ、ナギ。そういう周りのモンスターを操る能力が凄い奴に限って本体は大したことなかったりするんだから。上手く見つ
だしさえすればきっと倒せるわ。なんたって今回はゲイルドリヴルさんや他にも凄腕のプレイヤー達が作戦に参加してるんだから。この前みたいな気に食わない奴も中にはいるけどね」
「そ、そうだといいけど……」
ゲイルドリヴルから偵察隊の報告を聞いてナミは少し安堵したのか先程の緊張がほぐれていつもの調子に戻っていた。他のプレイヤー達も張り詰めていた空気の中少しは肩の荷を下ろすことができたようだ。だが続く偵察隊からの報告でゲイルドリヴルが気になる内容を口に出し始めるのだった。
「今の情報を聞いて皆多少は任務の遂行が楽になったと思いだろうが、実は偵察隊からも報告は他にもある。……それも場合によっては当初の想定より任務の難易度が各段と跳ね上がるとも取れるないようだ」
「……っ!。戦うモンスターの数が減ったっていうのに最初の想定より任務が難しくなるですって……っ!一体どんな内容の報告があったっていうのよっ!」
「……偵察隊から報告にはモンスターの減少だけでなく、森林内に多くの罠が設置されていたとある。それも陥穽やトラバサミのようなものだけでなく、爆発物を用いた高度なブービートラップのようなものまで設置されていたという報告だ」
「陥穽……それって一体何のこと……。それにブービートラップって映画なんかでよく名前は聞くけど実際どう凄いのかまるで分からないわ」
「陥穽っていうのは落とし穴のことだよ、ナミ。ブービートラップっていうのは落とし穴も含めた敵の進行を防ぐ為に警戒線を張って仕掛ける罠のこと。ほら、よく映画やゲームなんかで敵に追い詰められた主人公が逃げる前に爆発物にワイヤーをつけて周りの壁や気に貼ったりしてるだろう」
「ふ〜ん……。でもそれと普通の罠とどう違うの、カイル。それにどれだけ罠が沢山設置されていようとモンスターより脅威になるとは思えないんだけど……」
「警戒線を敷いて罠を張ってるってことは明らかに僕達のようなプレイヤーが侵攻してくることを意識してるってことでしょ。つまり今回の敵は僕達プレイヤーやリア達人間のNPCと同等の知能を備えてるってことだよ。そもそもヴァルハラ国に向けて大量のモンスターを侵攻させるなんてこともある程度の知能がないとできないことだしね」
「カイルの言う通りよ。このゲームでは特定のダンジョン以外で罠が自動生成されることなんてないし、ブービートラップなんてものを敷いている以上間違いなく魔族に属している魔物が相手だわ。私達と同じく人間の種族として登場している存在がこんなことするなんて考えにくし……。それ程の知能を備えた相手と視界悪い森の中、それも敵の情報が何もない状態で戦うなんて非常に危険なことよ」
「うぅ……リアとカイルにそう言われると説得力あるわね。これは折角ほぐれた緊張を今度はいい意味で張り直さないと……」
ナミも納得していたがリアとカイルの言う通り人間並の知性を持った相手、それも視界も悪く大量の罠まで設置された森の中でまずは敵を見つけ出すことから始めなければならないとは確かにゲイルドリヴルの言う通り当初の想定より任務の難易度が跳ね上がった可能性がある。モンスターが侵攻して来ていることからも敵がヴァルハラ国を意識していることは明らかなことであったが、この報告を聞く限り恐らく敵もナギ達がモンスターの発生を止める為に森林に侵攻してくることを想定しているに違いない。一体敵はどのような手段でナギ達を迎え撃つつもりなのだろうか……。
「ふっ……、どうやら今の報告を聞いて皆緩んだ気を引き締め直したようだな。この任務は今後のヴァルハラ国の発展に大きく関わる。偵察隊からの報告以外にも森林の中に何が待ち受けているか分からん。今後はその引き締めた気を再び緩めることなく任務にあたってくれ」
「………」
「ふっ……」
続けて聞かされたゲイルドリヴルの報告を聞いてプレイヤー達はこの任務の難易度と重要度について改めて認識し直したようだ。皆の表情がより真剣なものになったのを見た為か、ゲイルドリヴルはその厳かな表情に少しの笑みを浮かべて説明を続けた。
「さて……、次のページには各パーティの編成と先程の地図の印に対応するその番号が記載してある。ここに集まったメンバーの全員は無理だろうが、せめて自分の参加するパーティメンバーの職業とステータスぐらいは把握しておいてくれ。因み各パーティ蘭の一番先頭に名の書かれている者はそのパーティの指揮を取って貰うから心して掛かってくれ」
「ええっ!、ってことは俺がパーティのリーダーを務めなかならないってことかっ!。俺のパーティメンバーの名前を見るに知ってる奴は一人もいないっていうのに……」
「俺なんてあの天丼頭がリーダーを務めるパーティのメンバーなんだぞ……。討伐大会での成績は凄かったしあのミステリー・サークルを倒した部隊の指揮を取ってたっていうから実力的には問題ないんだろうがなんていうかその……、同じ人間として受け入れ難い部分があるよな……」
次のページには今回の作戦でのパーティ編成の内容が記載されていた。各パーティの指揮を取る人物はすでにゲイルドリヴル、ブリュンヒルデやカムネス達によって選定されているようであった。一体ナギ達の所属パーティのリーダーとメンバーはどのようになっているのだろうか。
※ナギのパーティメンバー
☆・レミィ 現在の職業・弓術士 総合レベル・167(機工術士・102 弓術士・65)
・ナギ(伊邪那岐命) 現在の職業 魔術師 総合レベル・178(魔物使い・103 魔術師・70 弓術士・5)
・ナミ(伊邪那美命) 現在の職業 魔術師 総合レベル・177(武闘家・106 魔術師・71)
・リア 現在の職業 魔法剣士 総合レベル・348(魔法剣士が62 剣士が152 魔術師102 治癒術師が32)
・バジニール 現在の職業 格闘士 総合レベル・187(格闘士・5 武闘家・102 軽業師・80)
・シスター×シスター 現在の職業 気功術士 総合レベル・202(気功術士・2 武闘家・100 治癒術士・100)
・プリプリプリンセス 現在の職業 精霊術士 総合レベル・157(治癒術士・108 精霊術士・49)
・アクスマン 現在の職業 傭兵 総合レベル・186(傭兵・2 戦斧士・104 弓術士・80)
「えーっと、僕の所属するパーティのメンバーは……あっ!、リーダーはあのレミィさんだ。それにナミとリアとも一緒のパーティみたいだね」
「そうねっ!。同じ魔術師の職業だから別々のパーティにされちゃうもんだと思ってたから嬉しいっ!」
「へっ!、やっぱりもうお前等はブリュンヒルデさんも公認の夫婦になってるみたいだな。その調子でヴァルハラ国名物のおしどり夫婦にでもなってくれよ」
「なっ、何がおしどり夫婦よ……っ!。……でもよく考えたらレイチェルの言うようにブリュンヒルデさんにもそういう風に見られてる可能性もあるのよね。二人してこんな名前だしいつも一緒に行動してるし……」
「それは違うわ、ナミ。ブリュンヒルデさんはカップルでプレイしてるプレイヤー同士を意識してパーティを編成するような真似はしない。あなた達二人を一緒のパーティに組むことで職業のバランスを維持する以上の成果をもたらすと判断したんでしょうね。それだけブリュンヒルデさんから見てもあなた達の息がピッタリ合ってるように見えてるのよ。この前のアイアンメイル・バッファローとの戦いであなたへの好感度の上昇してる私も一緒のパーティに組み込まれてるしね」
「な、なる程……。でも相性の良いプレイヤーやNPC達と組ませてもらえるのは嬉しいけどそれじゃああんまりフォローになってないわよ〜、リア〜」
「ま、まぁパーティの編成はブリュンヒルデさん達が決めることだし僕達がどうこう言うことじゃないよ……。それより他のパーティの人達も見てみよう」
いつも通りレイチェルに自分との仲を揶揄われているナミを見てナギはなんとか話題を逸らそうと他のパーティの一覧に皆の目を向けさせた。どうやらこのページから各プレイヤーのステータスの詳細ページにまで飛べるようで、皆先程までの会話は忘れて注目度の高いプレイヤーや自分のパーティメンバーの詳細な情報に目を釘付けにされてしまっていた。
「うわぁ〜、こうしてプレイヤーの一覧を見ていくともう上級職に転職してる人が沢山いるね。僕達のパーティにも確か何人かいたような……」
「あぁ、確かアクスマンとシスター×シスターって人、……それにあのバジニールって奴も格闘士になってるみたいだわ。っていうかなんで私達のパーティにあのオカマ禿げがいるのよっ!。私はともかくとして前の会議にあんな態度を取ってたリアと一緒にするなんて一体どういうつもりよっ!。ブリュンヒルデさんは相性の良いプレイヤー同士を見極めて選んでくれてるんじゃなかったのっ!」
「………」
ナミの言う通りナギ達のいるパーティにあのバジニールが組み込まれているのは明らかに不自然であった。ナギやナミ達プレイヤーはともかくあれだけ毛嫌いしていたNPCであるリアとはまともに連携が取れるとはとても思えない。一体ブリュンヒルデはどういうつもりでこのパーティを編成したのだろうが。だが声を荒げて不満を露わにしているナミに対し当の本人であるリアは何かを悟ったかのようにジッと自分のパーティ編成の画面を見つめていた。
「ま、まぁまぁ、ナミ。確かに前の会議での態度はあんまりだったけど上級職になってるプレイヤーがパーティにいてくれるのは頼もしいじゃないか。前にリアも言ってたけど、ゲームのプレイヤーとしての自覚はちゃんとあるみたいじゃないか。ブリュンヒルデさんにも最後には謝罪してたしきっと任務の間はヴァルハラ国にマイナスになるような行動は避けてくれるはずだよ」
「う〜ん……、まぁ同じパーティに入っちゃった以上仲違いしてても仕方無いっていうのは向こうも分かってるはずだけど……」
「そうそう。それより僕らの中で上級職に転職できたのは結局セイナさんだけだったね。経験値取得に費やせた時間はあまり変わらないはずなのにやっぱりプレイングの違いなのかなぁ……」
「そりゃ一人であんだけバッタバッタと魔物をぶった斬ってれば嫌でもレベルが上がっちゃうわよ。でもセイナには及ばないかもしれないけど私達もブリュンヒルデさんの魔法のおかげでこの短期間で一気にレベルを上げることができたじゃない。この任務が終わった頃にはきっと私達も上級職に転職できるようになってるわよ」
「そうだね……。その時はまた皆でヴァルハラ国の庁舎に転職しに行こうっ!」
どうやらブリュンヒルデによる“intensive”の“nations magic”のおかげでナギ達の総合レベルは目標としていた150を大きく上回る程の経験値を取得できたようだ。ナギとナミ、リア以外のメンバーの現在の職業と総合レベルはというと……。
※ナギ達以外のメンバーのステータス
・セイナ 現在の職業 騎士 総合レベル・227(騎士・21 剣士・106 槍術士・100)
・カイル 現在の職業 祈祷師 総合レベル・170(魔術師・101 祈祷師・69)
・レイチェル 現在の職業 戦斧士 総合レベル・179(戦士・105 戦斧士・74)
・ヴィンス 現在の職業 弓術士 総合レベル・172(槍術士・102 弓術士・70)
・アイナ 現在の職業 治癒術士 総合レベル・173(精霊術士・103 治癒術士・70)
・ボンじぃ 現在の職業 信仰者 総合レベル・169(治癒術士・100 信仰者・69)
・馬子 現在の職業 霊媒師 総合レベル・174(祈祷師・105 霊媒師・69)
・マイ 現在の職業 魔弓術士 総合レベル・339(魔弓術士・56 弓術士・148 魔術師・92 信仰者・43)
「う〜んっと、他に気になるプレイヤーは……そうだっ!。折角だからゲイルドリヴルさんのステータスを確認しておこう。なんたってこの作戦の司令官なんだしね」
「確かにそれは気になるわね。あいつの詳細ページを開いて司令官に相応しい実力を持っているかどうかじっくり見せて貰いましょう」
一通り他のプレイヤーの情報を見終えたナギ達は最後にこの作戦の司令官であるゲイルドリヴルのステータス画面を開いてみた。ナギ達はゲイルドリヴルとは最初の討伐大会以降一度も行動を共にしたことはなかったのだが一体ナギ達と比べてどれだけステータスを成長させることができているのだろうか。
※ゲイルドリヴルのステータス画面
「うわぁ〜、やっぱりゲイルドリヴルさんは凄いよっ!。セイナさんと同じようにもう上級職に就いてるし、おまけに総合レベルは全プレイヤーの中で一番高い243だよっ!」
「ふむぅ……。私もかなり頑張ってモンスターを討伐したつもりだったがまさか20近くものレベルの差をつけられていようとは……。やはりブリュンヒルデさんに司令官を任されていることが影響しているのだろうか、リア」
「その通りよ、セイナ。私達に経験値が入るのは何もモンスターを倒した時だけじゃないわ。このゲーム内の全ての行動において自国に貢献したみなされれば例え僅かであっても経験値が入る仕組みになっているのよ。そしてこれだけの部隊を指揮取ってるゲイルドリヴルのヴァルハラ国の貢献度はとてつもなく大きい……。恐らく何もせずともゲームにログインしているだけで自動的に経験値が振り込まれているはずだわ」
「確かにゲイルドリヴルさんが指揮を取ってくれているおかげで思ってる以上にこの防衛ラインの戦線の維持がスムーズにいってるもんね。ちゃんと部隊の交代のスケジュールから食事や寝床の用意までゲイルドリヴルさんちゃんと全部取り決めてくれるおかげだよ」
「まぁ、よく考えたらそれもモンスターと戦うのと同等以上に労力のいることよね。そういうことならブリュンヒルデさんに媚びてるだの指揮官ぶって偉そうにしてるだの不満ばっかり言ってちゃ駄目よね。私達が不自由なくモンスター達と戦えてるのはゲイルドリヴルの働きが大きいってことを認識して感謝するようにしないと……。それにしてもこうやって写真で見るとこの人もブリュンヒルデさんに負けず劣らずの美人よね。ああやって皆の前に立って顔を強張らせてると分かんないもんだけど……」
「そうじゃね……。なんだかんだであの二人は私等女性からしたら憧れの的じゃよ。ブリュンヒルデさんの出迎えの時に騒いどった子の気持ちも分かる気がしてきたわ。あ〜あ〜、一度いいから現実の世界でもお目に掛かりたいもんじゃけぇ」
「そりゃ男の俺達からしたらもっとお目に掛かりた……ってさっきから端末パネルをピッピ、ピッピッ操作して一体何のページを探してんだ、ボンじぃ」
「うん?。ああ、折角の機会じゃから可愛い女子のプレイヤー達のプロフィールを見て片っ端からフレンド依頼を送っとるんじゃよ、ヴィンス。しかしさっきからARIAの奴めっ!。わしのフレンド依頼を承認せぬとか抜かしおって誰にもメッセージを送ることができんっ!。どこの誰にフレンド依頼を送ろうとわしの自由……っておっ!。ついに誰かから返事が来おったぞ。えーどれどれ……っ!。“これ以上卑猥な目的の為のメッセージ機能の乱用は容認できません。次にそれに該当するメッセージを送信しようとした場合あなたのメッセージ機能を一定期間の間全て停止させていただきます”じゃとぉーーっ!。くっそぉーーーっ!、ARIAの奴めっ!。どこまでも純情な爺心を痛めつけおって。そのような脅しにくっするわしではないぞぉっ!。こうなったら最後に100人の女子に一斉にメッセージを送ってやるっ!。てやぁーーーっ!」
「……なに一人でコントやってんだ」
その後ボンじぃのメッセージ機能が停止させられてしまったことは言うまでもない……。そして他のプレイヤー達も自身のパーティメンバーのステータスの確認が終わった頃を見計らってゲイルドリヴルの作戦の説明が再開された。っといってももうほとんど説明する内容は残ってなかったようだ。
「……よしっ!、私からの説明は以上だ。それでは皆が任務が就く前にブリュンヒルデ様が激励の言葉をくださる。……ではブリュンヒル様」
「ええ。丁寧かつ迅速な説明をありがとう、ゲイル。そしてこの作戦が立案できたのもこれまでこの前線の部隊の指揮を取ってくれたあなたの多大なる貢献があったからそ。ヴァルハラ国の者を代表して改めて感謝の言葉をのべさせていただきます、ゲイル」
「それは……私ような一プレイヤーには勿体なきお言葉……」
「……では皆さん。先程ゲイルも説明の時に申していた通りこの作戦は今度のヴァルハラ国の行く末に大きく関わる重大なものです。ここに集められた程のプレイヤーならば皆理解できているでしょうが、このままモンスターの侵攻に対処し続ければ当然北の森林から得られる資材は確保できず、他のエリアの探索にも人員を回せない為国力の増強、そして国の拡張計画や防衛線の構築等他の国々に対する戦略面でも大きく後れを取ることになります。ですからなんとしてもこの一度目の編成した部隊でこの任務を見事完遂して頂きたいのです」
「………」
「選りすぐりのプレイヤーを集めたとはいえゲームの序盤でこのような重大な任務を任されて不安に感じている方もいらっしゃるでしょう。ですが私皆さんならばこの任務を完遂できると確信しております」
「……っ!」
「その根拠の一つに現在の皆さんの戦闘職における総合レベルの高さがあります。ここにいる皆さんの現在の平均レベルはなんと172……。これは当初の目標であった150を大きく上回る数字です。レベルを上昇させる程度のことがどれ程凄いのかと疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この短期間にこれだけの経験値を取得しようと思えば並大抵のプレイ技術では達成できません。つまり現在の皆さん方のレベルがそのままこのゲームにおけるプレイ技術に直結しているということです」
「………」
「ですから不安や緊張……、その他もろもろの負の感情や思考に囚われず自分の力に自信を持って任務に臨んでください。女王としての役職の立場上私自らが皆さんと共に任務に参加することはできませんが、ここに集められた皆さんがこの任務を遂行する為の最高のメンバーだということを忘れずにいることを心から願って私はここで皆さん方の帰還を待ちたいと思います。……私からは以上です、ゲイル」
「はっ!。……では皆の者は会議が解散し次第自分達のパーティの配置場所に移動しろ。その地点にはすでに小規模ではあるが拠点と護衛の部隊を配置してある。任務の開始は明日の朝午前9時だ。……言うまでもないだろうが任務の標的と思われるものを発見しても決して功を焦って自分達の部隊だけで対処しようと思わないように。まずは安全な距離を確保して私に連絡しろ。……では解散っ!」
こうして任務の為の作戦会議は終了した。ブリュンヒルデの演説……、そしてゲイルドリヴルの力強い指令の言葉に集まったプレイヤー達の任務へのやる気や意識は俄然として高いものになっていた。これなら皆最高のパフォーマンスを発揮して任務に臨むことができるだろう。会議の解散後プレイヤー達はそれぞれの配置された拠点に行き設置されたテントで明日の任務に備えてゆっくりと、そして出限りの集中力を高めながら休息を取っていた。




