finding of a nation 61話
“ウィ〜ン……パッ!”
「さっ……、転移が完了したようですわね。では早速遺跡の探索を始めていきましょう」
魔法陣を潜り抜けたナギ達は無事遺跡のダンジョン内部へと侵入することができたようだ。やはり川の底にあった為かダンジョン内部も完全に浸水してしまっていた。周りは遺跡に使われていたものと同じく黄金のレンガの壁で囲われていて、先程の空間とは完全に遮断された場所のようだった。貧島や賢機達と共に転移してきた不仲も早速遺跡の探索を開始しようとしていた。
「うわぁ……、やっぱりダンジョンの中まで水浸しみたいね。こりゃアプカルルの魔法が解けたら一瞬で溺死しちゃうわ。その前に水圧でペシャンコにされちゃうかも。……ところで、どうして私があなたと同じパーティなのかしら。てっきりあなたには嫌われているものと思ってたんだけど……」
どうやら不仲のパーティにはマイも組み込まれていたようだ。不仲とは弓術士の職同士で被ってしまうが何故同じパーティなのだろうか。しかもミステリー・サークルゴーレムの討伐時には不仲はマイのことをかなり敵視していたはずだが……。
「あら、私は特定のプレイヤーを嫌うような偏見に満ちた感性は持ち合わせておりませんわ。NPCであるあなたをプレイヤーと同等に扱わなければならないのもこのゲームの特性を考えれば仕方のないこと……。ですがMMOプレイヤーとしての上下関係はきっちりとつけておかなければ後でややこしいことになりますわ」
「……?。どういう意味よ、それ」
「あなたと私との間には弓術士としてれっきとした力の差があることをお見せしてあげると言っているのですわ。固有NPC兵士として多少は優遇されているようですけども、私の華麗な実力を目の当たりにすればその目立ちたがりの性分も少しは大人しくなることでしょう」
「な、なによっ!。これは魔弓術士の職業の特性で好きで目立ってるわけじゃないってこの前も言ったでしょうっ!。……いいわ、そこまで言うなら受けて立ってやろうじゃない。逆に私の実力を見せつけてあんたのその捻じ曲がった根性を叩き直してあげるわよっ!」
不仲がマイを自らのパーティに組み込んだのは自分の実力を見せつける為だったようだ。とはいえマイのレベルとステータスは不仲より遥かに上……。いくら不仲でも無謀な挑戦だろう。
「あ、あのぅ……。取り込み中のところ恐れ入りますが、どうして俺までこのパーティにいるんでしょうか……」
「あら、あなたは私のアンチさんではございませんか。あなたは私の貢献度勝負での勝利に最も力を貸してくれたお方。この不仲直々のパーティに組み込むのは当然のことですわ。心配なさらず共アンチの一人や二人……いえ、数百人程度は受け入れる度量は持ち合わせおりますの」
「は、はぁ……。(ま、まずい……。この俺としたことが完全にこいつのペースに巻き込まれている。何故か俺まで敬語で話すようになっちまってるし……。この俺の凄まじい奴への憎しみはどうしてしまったんだ。なんとかこのアウェーなムードに取り込まれずに再び燃え上がってくれ……)」
なんと不仲のパーティにはアンチ奈央子まで組み込まれているようだった。マイ以上に意外な編成だが本人が一番違和感を感じているだろう。そのせいもあって若干緊張してしまっているのか、いつもの勢いのある口調とは打って変わって非常に弱弱しい敬語の言葉遣いになってしまっていた。名前に現れている不仲への強い憎しみも華麗に受け流されてしまいアンチ奈央子はこの上ない屈辱を感じたままダンジョンの奥へと進んで行った。
“コツコツコツッ……”
「……やっぱり遺跡の中だけあって雰囲気も重苦しいわね。水は透き通ってるみたいだけど周りは完全に壁に囲まれてて先の方は真っ暗だわ。って言うか水の中なのになんで松明が灯ってるのかしら……」
その頃同じく別の場所からダンジョンへと転移したナミ達もゆっくりと細い通路を進んでいた。不仲達の場所と同じく周りの景色はレンガの壁だけで天上の端の方に何故か水中でも火が灯っている松明が設置されているだけだった。更に何度も反響して不気味に響き渡るナミ達の足音が遺跡の雰囲気を更に醸し出していた。
「ゲームの中だしそんなこと気にしなくていいんじゃない、ナミちゃん。なんか松明の火も青っぽいし、もしかして人魂を代わりに灯してるんじゃないの〜」
「こ、怖いこと言わないでよ、レミィ……。ただでさえ薄暗くてその松明の火だけが頼りなんだから」
「はははっ、ごめんごめん。でも確かに思ったより暗いね〜。いきなりモンスターに襲われたらちょっとビックリしちゃうかも」
「がははははっ!。何も心配するな、嬢ちゃん達。どんなモンスターが現れてもこのハンマンが自慢のハンマーでペシャンコにしてやるからよ。安心して俺の後ろに付いて来なっ!」
「なによ。天丼頭と同じでこいつも暑苦しいおっさんプレイヤーね。こういうのに限っていざって時頼りにならなかったりするんだから……。誰か明かりを灯せる魔法を使える人はいないの〜」
光の届かないダンジョンの内部は先程までと同じ水の中とはいえまるで深海のように薄暗く、レミィの言っていた人魂のような青白い松明の火だけが頼りだった。その松明の火は決して消えることのないようだったが、プレイヤーの近くにあるものしか光を灯さなかった。進むにつれて次の松明に火が灯っていくようだが、これでは数メートル先の様子暗闇で何も確認できないだろう。耐えかねたナミが他の者達に明かりを要求していたのだが……。
「それならば私に任せてください。信仰魔法には照明を作り出す魔法があります。……天より我らを見守りし輝かしき星々達よ。我が信仰に応じ、我らの元に僅かばかりの星団を生み出したまえ……。星の信仰、スタラー・フェイスッ!」
“キラキラキラ……パアァ〜〜〜ンッ!”
「うっわぁ〜……綺麗……。私達の周りに沢山の小さな星達が煌めき始めたわ。これがターシャさんの魔法なのね」
ターシャの唱えた魔法はスタラー・フェイス。スタラーは星の、この場合のフェイスは信仰を意味する。つまりは星の信仰ということだが、その信仰に答えるかのようにナミ達の周りの一面に突然無数の星達が輝き始めた。大体自分達の周囲半径15メートル程に小さな星団が作り出されたようだ。おかげで周囲の視界はハッキリし、ダンジョンのかなり先の様子まで見渡せるようになった。
「これならある程度安心して進めそうですね。敵の不意打ちを食らうこともほぼなさそうです。それにしてもこんなロマンチックな魔法が使えるなんて……。私も信仰者に転職しようかなぁ」
「そうね……。こんな星屑の中を恋人と二人っきりで進めたら最高よね。きっとゲームの中だってこと忘れちゃうわ」
聖君少女とロザヴィもターシャの魔法をゲーム性とは違う意味で気に入っているようだった。ダンジョンの中を泳いでいる色鮮やかな小さい魚達の鱗が星の光に照らされていて、まるでイルミネーションの施された深海の中にいるように神秘的な景色を作り出していた。これは女心をくすぐられるのも無理はない。
「もうっ、ロザヴィったら。いくらなんでもそんな悠長なことしてたらモンスターにやられちゃうわよ。大切な恋人が目の前で引き裂かれちゃったりしたらどうするの」
「がははははっ!。心配しなくても俺が相手だったらそんなモンスター返り討ちにしてやるよ。一緒に星屑に囲まれての探索と行こうぜ」
「あんたが相手だったら折角のロマンチックな雰囲気が台無しになっちゃうから意味ないでしょっ!、全く……。でもこんな神秘的な世界にいるとなんだかBGMも欲しくなるわね。オルゴールの優しい音色なんか流れると最高なんだけどなぁ……」
「オルゴールは無理ですがバイオリンでよろしければ私が何か演奏しましょうか。奏楽士の武器はそのまま楽器にもなるんです」
「本当っ♪。それじゃあお願いしようかしら」
「分かりました。では……」
“ギュイィンッ……リュラリュラリュラ〜♪”
そう言うとオーケスは自身の奏楽士としての武器でもあるバイオリンで曲を弾き始めた。最初に少し強い音を奏でるとその後はナミの要望通り優しくて少し儚げに感じるような音色へと変わっていき、この星団の中にピッタリの雰囲気の曲が流れ始めた。まるで宇宙まで届く位置に作られた展望レストランの中にいるような感覚だった。宇宙旅行が実現した日には必ず宇宙を眺めながら食事の出来るレストランが作られることだろう。
「う〜ん、心が安らぐ素晴らしい音色ね。今までは普通のJ−POPばっかりだったけどこれからはクラシックの曲も聞いてみようかな」
「がははははっ!。歌声がなくても曲ってのは心に響くもんなんだな。まぁ、俺的には銀河を宇宙船で旅するみてぇにもっと勇ましい音楽が良かったんだがなっ!」
「はいはい……。分かったからもう折角のムードを壊さないでよね」
オーケスの演奏にナミとハンマンも大満足のようだった。だが皆で和気あいあいとダンジョンを進むナミ達を余所に、パーティの前衛を務める天だくは独りポツンっと先頭の方を歩いていた。そして前衛としての務めを真面目に果たしている自分を無視して後ろでチャラチャラしているナミ達に大変ご立腹の様子のだった。
「おいっ!、お前等ぁっ!。いつまでも遊び気分でいないでせめて陣形ぐらいちゃんと組めっ!。特にナミとハンマンは俺と同じ前衛だろうが。いきなり敵に襲われたらどうするんだよ。さっさとどっちか一人が前に出てもう一人は後ろに回れっ!」
「あ〜怒られちゃった。それじゃあ私が前に行くわ。後ろはよろしくねハンマンさん」
「あっ……ちょっと……」
“ダダダダダダッ……”
「行っちまった……。こっちは男だってのに随分威勢のいい嬢ちゃんだな」
ターシャの星屑の魔法とオーケスの演奏を楽しんでいたナミだったが、天だくに注意されて自分も先頭の方へ出ていった。ハンマンは陣形の背後の護衛に就いたようだ。天だくの横にナミ……、っというか女性プレイヤーが並ぶとかなりの違和感があった。
「なんかずっと同じ通路ばっかだな……。これじゃあまるで進んでる気がしねぇぜ」
「本当ね……。一体どこまで続いてるのかしら。そんなに狭いわけじゃないけど流石にこの一本道だとモンスターが出てきたら戦い辛いかも……ってんんっ!、ちょっと待って。前方の方から何かが近づいてくる感じがするわ。大体今の距離は150メートル……、結構なスピードでこっちに向かって来てるわね」
「150メートルってお前……、そんなに離れてるのに敵の位置が分かるのかよ」
「ちょっとした水の流れの変化でね。武闘家だからか五感がより鋭敏になってるのよ。それに空気中より水中の方がより振動の変化が感じやすいみたい。今は少しだけど水がこっちに押し流されてる感じかしら」
「……っ!。なるほど……、今になって俺にも感じ取れたぜ。もう80メートルぐらい近くまで来てないか」
「段々スピードを上げて来てるみたいね。向こうももうこっちの存在を嗅ぎ付けて……っ!。もう話してる時間はないわ。皆、今すぐ戦闘の準備をしてっ!」
どうやらナミが前方から何かが近づいていることに気が付いたようだ。武闘家の能力を活かして水の流れの変化を感じ取った言っていたが、これもナミがリアルキネステジーシステムを使いこなしている証拠だろう。職業が違いからナミより反応が遅かったがそのすぐ後に天だくもその存在に気が付いたようだ。そしてターシャのスタラー・フェイスの星屑の向こう……、暗闇から薄っすらと星の光に照らされるようにその正体を現した。
“ゴゴゴゴゴゴォッ……”
「あ、あれは……」
「さ、鮫よっ!。しかも只の鮫じゃなくて人食い鮫のホオジロザメじゃないのっ!」
「し、しかも2匹いますよっ!。大丈夫なんですか、ナミさんっ!、天君っ!」
「分かんないわ、聖ちゃん……。でもここはゲームの中なんだもの。例え人食い鮫でも他のモンスターと変わりはないはずよ」
「それにしてもなんで川の中なのに鮫なんているのかな……」
星屑の向こうの暗がりからまるで水が蠢いているような音と共に姿を現したのはなんと人食い鮫として有名な2頭のホオジロザメだった。勿論ゲームの中のモンスターとして登場したのだが、その姿はナギ達の世界に住むホオジロザメとまるっきり同じ姿であった。レミィも不思議がっていたがこのホオジロザメを見る限りこのダンジョンは遺跡のあった川とは完全に分断されているようだ。現れた鮫の体長は4メートル前後……、平均的なホオジロザメの大きさだったがこのゲームの中ではどうなのだろうか。2頭のホオジロザメはナミ達の姿を捉えると更に加速し、あっという間に星屑の中を駆け抜けナミと天だくの元へと迫った来た。
「来るわよっ!。あんたは右の奴を対処して。私は左の奴を待ち受けるから」
「よっしゃっ!。人食い鮫だろうがなんだろうがここはゲームの中だ。この俺の斧で口から真っ二つに斬り裂いてやるっ!」
「あわわわわわっ……。いきなりとんでもないモンスターが現れちゃったよ。私達も後ろから援護しないと……」
「私はアナライズの魔法を掛けておくわ。まだ未知の場所のモンスターだしきちんと分析しておかないとね」
襲い掛かるホオジロザメ達を前にナミ達はすぐさま臨戦態勢に入った。ナミと天だくはそれぞれ2体のホオジロザメを正面から迎え撃ちに行った。レミィはボウガンで援護の準備を、ロザヴィはアナライズの魔法を唱えようとしていた。聖君少女とターシャは回復の用意をし、オーケスは相手の動きを鈍らせるモンスターの嫌がる音を奏で始めた。ナミ達と同じハンマンはレミィの横でいつでも全税のフォローに回れるよう構えていたようだ。そんなナミ達に対し二体のホオジロザメはギザギザの鋭い歯の生えた口を大きく開いて襲い掛かった。
「おらぁぁぁぁぁぁっ!。掛かって来やがれこのサメ野郎っ!。言っとくがゲームの中じゃあそう易々と人を食うことなんてできないぜっ!」
“ゴゴゴゴゴゴォッ……グワッ!”
「今だっ!。うおぉぉぉぉぉぉっ!、必殺っ!。ランバージャック・スラッシャーッ!」
“ギュイィーーーンッ!”
迫りくるホオジロザメを前にした天だくが斧を斜め上に振りかぶると、その大斧の刃先の研がれて色の薄くなっている部分が突如として凄まじい機械音を上げて回転し始めた。刃の形状もギザギザのものに変化しているようで、まるでチェーンソーのようだった。ランバージャック・スラッシャーと叫ばれていたが、どうやら刃を強化してより切れ味の増したアックス・スイングのような技のようだ。ランバージャックとは木こり、スラッシャーとは切る人、一応ホラー映画という意味でも使われることもあるようだが、近代の木こりはチェーンソーを利用することが多いことと、チェーンソーを持って襲い掛かってくる有名なホラー映画を意識して付けられたのかもしれない。天だくのその斬撃は見事な体重移動と共に大きく開けたホオジロザメの口目掛けて放たれた。
「うりゃぁぁぁぁぁぁっ!。このまま上と下に身体を分断してやるぜっ!。見事な鮫のおろしの完成……何っ!」
“ガッキィィィーーーーーンッ!”
「ぐわぁっ!。俺の攻撃が弾かれちまっただと……」
このままホオジロザメの体を口から切り裂いてしまうかと思われた天だくのランバージャック・スラッシャーだったが、見事に相手の開かれた口の口角部にヒットしたにも関わらず弾かれてしまった。天だくはその反動を受けて少しよろけてしまい、斧の刃の回転も解除されていまっていた。とはいえ弾かれていたのは相手のホオジロザメも同じで、5メートル程後方に飛ばされた後天だくと同じく体勢を崩していまいダンジョンの床を転げて横たわっていた。一方にナミに襲い掛かって行ったもう一頭のホオジロザメはというと……。
“ゴオォォォォォ……グワッ!”
「うっ!。……ぬぅぉぉぉぉぉぉぉぉっ!、あんたなんかに食べられてたまるもんですかぁぁぁぁぁぁっ!」
ナミに向かった方のホオジロザメは、ナミの身体を一飲みにしようと一気に襲い掛かって来た。ナミはなんとかかぶりつかれる前に相手の上顎と下顎を両手で抑えて受け止めていたのだが、相手の力に押されズルズルと体を後退させられてしまっていた。口を抑えている両手か、地面を踏ん張っている足、そのどちらかの力だ抜けてしまえば最後、ナミはホオジロザメの鋭利な歯にズタズタに引き裂かれてしまうだろう。
「ナミちゃんっ!。このままじゃナミちゃんが食べられちゃう……、私も早く援護しなきゃっ!。あいつの喉の奥に当たるようよ〜く狙いを付けて……えいっ!」
“ピシュゥーーーーーンッ!”
ホオジロザメの推進力と顎の力に押し負けそうになっているナミを見てレミィはすぐさまボウガンの矢を放った。しかも只の矢ではなくスマッシュ・ボルトという特技の高い威力と強い衝撃力を備えたものだった。ただし連射は利かず矢も一発しか発射されない。レミィの装備している小型のものとは相性の悪い技のようだが、相手の頑強そうな体と力強さを見てこの技を選んだのだろう。手の甲に装着するものではなく、両手持ちのもっと大型のものならば更に威力が上昇する。
“ズバァーーーーンッ!”
“グオォ……”
「……やったっ!、ようやく解放されたっ!。危うく食べられちゃうところだったわよ……。ありがとう、レミィ」
「へへっ、どういたしまして」
レミィのスマッシュ・ボルトはナミの脇腹の横を通り抜け見事にホオジロザメの喉奥へと直撃した。人間でも動物でも当然喉の内部を攻撃されれば相当な激痛と苦しみに襲われる。ゲームの中のモンスターでもやはりかなり弱点の部位になっているようで、矢を受けたホオジロザメは怯んだように体を捩らせながら後退していった。おかげナミも解放されたようだ。
「よっしゃぁぁぁぁぁっ!、止めは俺がさしてやるぜっ!。ふんぬぅぅぅぅっ……スマッシュ・スイングッ!」
“バコォーーーーンッ!”
相手をよろけさせた隙に今度はハンマンが威勢よく槌で追撃を仕掛けていった。ハンマンの職業は戦槌士で、装備している武器はスレッジハンマーと呼ばれる両手持ちの種類の槌だった。槌と言えば先端の片側が釘を撃つ為の平面で、もう片方は釘抜き用になっているネイルハンマー等他の用途になっているものが親しみがあるが、このスレッジハンマーはかなり大型で両側の面とも平らなものが多い。また元々施錠されたドアを無理やりこじ開ける等破城槌の代わり等にも使われるもので、なんとなくではあるがナギ達の世界でも道具という武器に近い印象がある。因みにハンマンが装備してる武器の名称はアイアン・スレッジハンマーで、戦槌士の初期装備となっているようだ。そしてホオジロザメに向けて放ったスマッシュ・スイングという技は野球のバットのスイングのように横に振って武器を相手に叩き付ける技で、正面から直撃を受けたホオジロザメを更に数メートル後ろに吹っ飛ばしていた。
「よっしゃっ!。見事にジャストミートだぜ。このまま一気に2匹とも仕留め……」
「ちょっと待って、皆っ!。今アナライズでこいつらのデータを見てみたんだけどどっちもレベルが300を超えてるわ。HPのゲージも全然減ってないっ!」
「な、なんですってぇぇぇぇぇぇっ!」
なんとかホオジロサメ達の攻撃を押し返し、優勢に立ったことで士気の上がっていたナミ達だったが、アナライズの分析結果を見たロザヴィから衝撃の言葉が聞こえてきた。なんとこのホオジロザメ達のレベルはどちらもレベルが300を超えており、ステータスも段違いで今の攻撃でもHPのゲージが1割にも届かない程度しか減っていないと言うのだ。衝撃の事実を前に驚きを隠せないナミ達だったが、天だくは先程の攻撃でなんとなく敵の力量を感じ取っていたようだ。
「やっぱりか……。どうりで俺の完璧な攻撃が弾かれるわけだぜ。普通なら確実に一撃コースの攻撃だったからな」
「ちょっとっ!。何呑気に感心してんのよっ!。レベルが300を超えてまだHPゲージが1割も減ってないって……。それってこいつらがあのアイアンメイル・バッファローやミステリー・サークルゴーレムと同じぐらいの強さを持ってるってことでしょ。そいつらに比べると身体も大きくないし、一応このダンジョンの雑魚モンスターなんでしょうけど今回はこっちに8人しかいないのよ。おまけに通路も狭くて逃げ場もないしこれって相当ヤバい状況なんじゃないのぉっ!」
「わ、分かってるよ……。どうやらこの遺跡は今の俺達のレベルでどうこう……」
「……っ!。天君っ、危ないっ!」
「えっ……」
“グオォォォォッ!”
「ぐはぁ……っ!」
「て、天丼頭ぁぁぁぁぁぁっ!」
今の段階ではこのホオジロザメ達と圧倒的な力の差があることを知ってナミ達は慌てふためいた。その隙を付いてか、天だくに弾き飛ばされていた方のホオジロザメが早くも体勢を立て直し再び天だくへと大口を開けて襲い掛かって来た。ロザヴィから聞かされたデータのことで頭が一杯になっていた天だくは咄嗟の反応が出来ず脇腹から体を横にしてガッツリと噛みつかれてしまった。鎧の上からであったにも関わらず歯が中の肉体まで貫通して、天だくの腹部からは大量の血が流れ、苦しそうな表情で口からも吐血してしまっていた。そしてホオジロザメは天だくを咥えたままナミ達の中を突っ切って行き、魔法陣がある入り口の方へと泳いで行ってしまった。
「くっ……。このまま私達から引き離すつもりだわ。急いで追いかけないと天丼頭が……」
「……っ!、ナミさんっ!。今度はハンマンが吹っ飛ばした鮫が……」
「なんですってっ!」
“グオォォォォッ!”
「このクソ野郎がぁぁぁぁぁぁっ!。……ぐぅっ!、……ぬおぉぉぉぉぉぉっ!」
天だくに襲い掛かった鮫に続き、ハンマンに吹っ飛ばされていたホオジロザメも再びナミ達にかぶりつこうと突っ込んできた。今度はハンマンがすぐさま反応し、相手の向けてスラッシュ・ハンマーを突き出して攻撃を防ごうとした。しかしホオジロザメはそんなことに構いもせず、上顎と下顎でハンマーのそれぞれハンマーの両面に近づきそのまま力づくで押し切ろうとしてきた。ハンマンはホオジロザメの凄まじい力にジワジワと押し込まれ、更に咥えられているスラッシュ・ハンマーの頭部にヒビが入り始め今にも砕けてしまいそうになっていた。
「ハ、ハンマンさんっ!。このままじゃあ天だく君に続いてハンマンさんまで……」
「任せて、レミィっ!。こいつら確かにレベルやステータスは高いけどAIの頭脳はそんなに大したことないみたい。ハンマンのハンマーに夢中で横側ががら空きよっ!。……せ〜のっ!、真空正拳突きぃぃぃぃぃっ!」
“ズバァァァァァァンッ!”
“グッ!、……グゴゴゴゴゴッ!”
このホオジロザメ達は確かにレベルは高かったがNPCとしてのランクは通常のモンスター達とほぼ同じで、設定されている行動パターンはそれ程知能が高くはないようだった。その為ハンマンのハンマーを噛み砕くの夢中で側面の方に回ってくるナミに全く気付かなかった。当然ナミはその隙を逃さず全力で攻撃を仕掛けた。横腹にナミの真空・正拳突きを思いっ切り受けたホオジロザメはそのまま水の中であるにも関わらず、まるで陸に打ち上げらたようにのた打ち回りながら悶え苦しんでいた。
「いくらHPは減らなくてもこの衝撃の痛みには耐え切れなかったようね。さっ!、今の内に早く天だくの後を追いましょう」
「OK、ナミちゃんっ!。この大ピンチに全く動じないなんて……。やっぱり旦那さんのいる女性はいざって時に頼りになるね」
「もうっ!。レミィまでレイチェル達に毒されて変なこと言い出すんだから。馬鹿言っていないでさっさと行くわよっ!」
もう一匹のホオジロザメの動きが止まっている間にナミ達は天だくを咥えたまま離れていったホオジロザメの後を追って行った。噛み付かれた時の天だくの出血量の様子からそう長くは持たない。すでに出血の状態異常にもなってしまっているだろう。その状態では見る見るうちにHPが減少していきあっと言う間に戦闘不能に陥ってしまう。リヴァイブ・ストーンがあるとはいえ死体の側になければ蘇生することはできない。ホオジロザメの邪魔のある中で蘇生を行うのも至難の技でナミ達はなんとか天だくが戦闘不能になる前に追い付こうと必死に水のダンジョンの中を走って行った。果たして天だくは無事助かるのだろうか……。
 




