finding of a nation 59話
“チュンチュン……”
「にゃっ……、にゃっ……、にゃぁっ!。……ふにゃぁ〜、今日もいい朝だにゃぁ〜」
ナギ達がヴァルハラ国に帰って来て早4日、その間内政の仕事をしたり自由に街を見て回ったりとのんびりした時間を過ごしていたのだが、いよいよ例の遺跡へと向かう5日目の朝を迎えていた。今もデビにゃんが小鳥達のさえずりに耳をピクピクさせながら目を覚ましたところだった。
「おはよう、デビにゃん。今日もいい天気みたいだね」
「にゃっ!。遺跡に行くには絶好の冒険日和にゃ。それにしてもナギはいつも朝が早いにゃね。この5日間一度もナギより早く起きれなかったにゃ」
「現実世界での牧場の仕事は朝が早いからね。それがゲームの中にも影響してるんだと思う。それより朝ご飯はもうできてるよ。早く一緒に食べよう」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。いつもいつも待ってるんだったら起こすか先に食べちゃってくれにゃぁぁぁぁっ!。ご主人様にそんな気を遣わせたら仲間モンスターとしての僕のメンツが立たなくなっちゃうにゃっ!」
「ごめんごめん。デビにゃんの気持ちよさそうな寝顔を見たらなかなか起こせなくて。それにどっちかって言うと僕の方が早く起きすぎなところもあるからね」
「まぁ、いいにゃ。今度から僕がナギに負けないように早起きできるようになればすべて解決にゃ。おっ、そんなことより今日の朝ご飯は鮭の塩焼きとみそ汁だにゃ。和食になってるだけでなくなんだか昨日までより豪華な朝食になってる気がするにゃ」
「今日は大事な冒険に出る日だから朝からしっかり栄養を取っとかないとね。それじゃあ食べよう」
「いただきまぁ〜すにゃっ!」
昨日までの朝食はパンのトーストばかりだったが、今日はナギが奮発して鮭の塩焼きに大根の味噌汁、卵焼きにご飯と日本の伝統的な和の朝食を用意していた。牧場で家事も手伝うこともあったのかナギはある程度の自炊ならできるようだ。こうしてナギとデビにゃんの今日の遺跡の探索に向けてのいつもより少し豪華な朝の食事が始まった。
「“ムシャムシャ……ゴクッ”。それにしても今日貰えるお給料のことが楽しみだね。確か7時になったらこのヴァルハラ城内で端末パネルを操作して受け取ることができるんだっけ」
「そうにゃ。僕達は昨日皆で功績ポイントを利用して昇給を済ませておいたから、最初の20万の時より多く貰えるにゃ」
「そうだったね。確かデビにゃんも貰えるんだよね」
「僕は仲間モンスターだから初期状態では0円のままにゃ。だけど魔族型である僕はナギ達と同じように昇給の手続きができるようになってるから、なんとか3万円は貰えるようにできたにゃ」
「3万円か……。僕が30万円だからちょうど僕の1割分の額だね」
「にゃっ!。これからはナギにお小遣いを貰わなくても必要な物は自分で揃えることができるにゃっ!」
すでにナギとデビにゃんはナミやセイナ達と一緒のにすでに昇給の手続きは済ませているようだ。ナギは30万、デビにゃんは3万円貰えるそうだが一体どんな買い物に使用するのだろうか。
「あと結局ガドスさんのところに行ってもいい武器は見つからなかったね、デビにゃん」
「にゃ……、どんなにいい武器でも皆値段が高くて今のお給料じゃとても買えないものばかりなのにゃ」
「……そうだっ!。確かアイアンメイル・バッファローとドラワイズ・ソルジャーを討伐して手に入った宝箱を開けた時ドラワイズ族のバルディッシュってあったじゃない。確かデビにゃんが欲しいって言って皆も要らなかったみたいで譲ってもらってたけど……、そう言えばあの武器はどうしちゃったの」
「あれは斧槍術士に転職しないと装備できないのにゃ。槍術士と戦斧士のレベルを上げれば転職できるから僕も目指してみようと思って貰っておいたのにゃ。バルディッシュはハルバードなんかの斧槍系統の武器が性能が良い分より上位の職に転職しないと装備できないようになってるのにゃ」
「そうか……。じゃあ暫くは今のままで我慢だね。そう言えば僕は次は何の職業を目指そうかなぁ」
昨日のプレイでアイアンメイル・バッファローとドラワイズ・ソルジャーから手に入れたアイテムは帰りに集落に立ち寄った時に分配し終えていたらしい。デビにゃんは今行ったドラワイズ族のバルディッシュ、他には天だくがバッファロー・アイアンメイルという装備品を抽選で獲得していた。どちらも高い性能を誇る装備品だが二人の職業ではまだ装備できなかったらしい。他は消費アイテムや素材アイテム、納品用のアイテムばかりだったようで皆で山分けしたようだ。
「……あ〜、美味しかった。それじゃあ皆との待ち合わせ場所に行こうか、デビにゃん」
「にゃっ!。ナギのおかげで朝からガッツリ養分を捕球できたにゃ。遺跡では大活躍してみせるから期待しててくれにゃっ!」
楽しい会話をしながらも朝食も終わりナギ達はナミ達と待ち合わせ場所に向かうべく部屋を出て行った。二人共しっかりと朝食を完食しており朝の養分補給も完璧のようだった。
「……あっ!。ナギく〜ん、こっちこっちっ!」
「馬子さん。それにセイナさんにボンじぃ、そしてリアにマイさんも。……他の皆はまだみたいだね」
ナギ達が集合場所である城の正面口に行くと、一杯に解放された大きな扉の隅の方から馬子が声が掛けてきた。どうやらナギより先に来ていたのはセイナ、馬子、ボンじぃ、リア、マイの5人ようだ。それから間もなくしてナミ達も到着し、給料を受け取ることができる10分前である6時50分には全員揃っていた。
「7時まであともうすぐね。なんだかアイテムを売ったりしてお金を作るよりこうやってお給料で貰う方がワクワクするわ」
「お前はまだバイトしかしたことねぇからだよ。就職して給料明細見た日にはため息しか出なくなるぞ」
「それはあんたの会社が安月給だからでしょっ!。私はちゃんと働きに応じた分の給料を払ってくれるところに就職するわよ。それにバイトだってちゃんと給料明細は貰えますっ!」
「はいはい。精々学生の内だけ夢見てな」
「これ、レイチェルっ!。あんまり若い者の純粋な心を踏みにじるでない。いいか、ナミ。例え給料が安くても一生懸命働いておれば必ずお金とは違う形で幸運が巡ってくるはずじゃ。逆に給料が高くても肝心の仕事を怠けておれば不意の事故やギャンブルなどで手痛い出費をすることになるから気を付けるのじゃぞ」
「歳食っただけのエロ爺ぃが偉そうなこと言ったところで何の説得力もねぇっての。ところで皆一体いくらに昇給ってあっ!。今ちょうど7時になったぜっ!」
ナミやレイチェル達が他愛無い会話をしている間に時刻は給料の振り込まれる7時になっていた。レイチェルに言われる前から構えていたヴィンスが早速端末パネルを開いて確認したようだ。
「おおっ!。マジで振り込まれてるぜ。昨日手続した通りの金額だ。現実の給料より多いってのがちょっと悲しいけどな……」
「へぇ〜、ヴィンスはいくら貰えるように手続きしたの」
「35万だよ。カイルはどうなんだ」
「僕は25万円。なるべく功績ポイントは温存した方がいいと思って」
「かぁ〜、なんだよお前等そんなしけた額に手続きして。私なんてありったけの功績ポイント使ってもう50万も貰えるようにしたんだぜ。これで好きなだけ飲みに行けるな」
「ちょっとっ!。折角功績ポイントを大量に消費して得たお金をそんな無駄なことに使うつもり。まぁ、自分の功績ポイントをどう使おうとあなたの勝手だけど、少しは頭を使って有効的に消費していかないと後で泣くことになるわよ」
「わ、分かってるよ、リア。飲みに行くのは偶にだよ偶に。他はちゃんとゲームに役立つことに使うって」
「あんたは最初のお金もゲーセンで使い果たしちゃったものね。ちゃんと買い物の時にリアに借りたお金も返しとくのよ」
どうやらナギ達の給料は無事振り込まれていたようだ。皆の受け取った額はナギが30万、デビにゃんが3万、ナミが30万、カイルが25万、セイナが20万、レイチェルが50万、ヴィンスが35万、馬子が40万、アイナが25万、ボンじぃが30万、リアが40万、マイが35万円だった。セイナの金額は初期と同じだったがどうやら昇給の手続きはしなかったようだ。今はまだ金は必要でないということなのだろうか。気になったマイが早速そのことを問いただしていた。
「あれ、セイナは昇給手続きしなかったの。この中だったら一番功績ポイントを稼いでただろうに勿体ないわね」
「うむ。今はまだ大きな金を所持していても意味は薄いと思ってな。それに他にも功績ポイントを消費しなければならない場面もあるだろうし、まずは一度転職を経験してみてから昇給しても遅くはないだろう」
「確かにそうね。活躍して功績ポイントを貯める為には職業が一番影響して来そうだものね。セイナはもう強い武器持ってるし、お金がなくたって今は大丈夫かもね」
「だけどナミ。序盤でプレイヤー達が一杯購入したのが原因か消費アイテムの値段が大分上がってたよ。特にリヴァイブ・ストーンは3倍以上の値段釣りあがってたみたい。必要な消費アイテムを買い揃えるのにも結構なお金が掛かるかも」
「それは本当か、ナギ。消費アイテムは自身だけでなく周りの仲間達にも使用する最も重要なアイテムだ。それを買い揃えられないというのはMMOプレイヤーとしては大きな失態だ。これは判断を誤ったか……」
「セイナさんならプレイスキルで補えるから大丈夫ですよ。アイテムなんて持ってなくてもセイナは物凄く強いです。それに確かお給料と一緒に消費アイテムもいくつか支給されるのではなかったでしょうか」
「ちょっと待って。今確認してみるよ……」
どうやらセイナはまず職業の転職に功績ポイントをつぎ込むつもりらしい。セイナの実力ならば持ち金が少なくてもほぼ問題ないだろうが、ナギの話ではリヴァイブ・ストーンを筆頭に在庫の消費が激しく消費アイテムの価格が大幅に値上げされているらしい。買い揃えるにはかなりの金額を要する上、更に多くの店で売り切れてしまっている可能性もある。支給品でどうにかならないかとカイルが端末パネルで確認していたのだが……。
「……駄目だ。やっぱり支給品の数もかなり少ないよ。それにリヴァイブ・ストーンに至っては一人につき一つずつしか支給されていない。この前攻略したストーン・サークルはまだ活用段階に入ってないみたいだね」
「本当じゃ。“序盤で資源が不足している為規定通りの支給品が用意できなくないことを深くお詫び致します”っとメッセージも来とる。こりゃこの国の内政が安定するまではアイテムを節約して頑張るしかないのぅ」
「爺さんの言う通りだな。ところで確か功績ポイントを使って貰えるアイテムもあるって言ってなかったか、リア。もし武器や防具、もしくはその素材になるアイテムがあるなら俺も交換しておきたいんだが……」
「ええ。端末パネルから専用のマーケットにアクセスできるわよ。その場ですぐ交換できるのもあるけど、武器やその素材なんかはまず予約しておいて、抽選に当たれば後で貰えるわ。応募期間は月の初めの一週間だから気を付けてね」
「そうか。なら早速見て予約しておくかな……」
功績ポイントには他にプレイヤーや住民からヴァルハラ国に納品されたアイテムとの交換にも使用できる。ヴァイブル・エキスやリヴァイブ・ストーン等の消費アイテムの場合はその場で受け取ることができるようだが、貴重なアイテムについては抽選は事前に抽選が行われる。ヴィンスを初めナギ達も早速何か自分の欲しいアイテムはないかマーケットを検索し始めていた。
「う〜ん……。何か良いもの何かな〜、デビにゃん」
「う〜んとにゃ〜……あっ!、これなんかどうにゃ。パヒューズ・シープの羊革。確か魔物使い用のグローブや長靴なんかの素材になるはずにゃ。パヒューズって言うのは浸み込むって意味で、この素材でできた防具にエンチャントを施した時その効果が通常より高くなるのにゃ」
「なるほど、じゃあ折角だし応募しとこうかな……ってこのリストに乗ってるアイテムに交換に必要な功績ポイントってどれも馬鹿高いね。しかも在庫の数が20個しかないってことは抽選に当たる確率も相当低いんじゃない。これってもし抽選に外れても功績ポイントは返ってくるよね」
「当然よ。ただし抽選が終わるまでその分の功績ポイントは利用できなくなるから注意して。他の皆も欲しい物があれば応募しておけばいいけど、どれも倍率が高いからあんまり期待しない方がいいわよ。抽選がないアイテムも今は物資の不足で割高になってるからやめといたほうがいいわ」
ナギはデビにゃんに進められたパヒューズ・シープの羊革、ヴィンスとデビにゃんはガドスの店で見たブラックウィンド・スピアの素材にある黒風石の抽選に応募していた。どれも在庫が少なくプレイヤー同士で取り合いになってしまうようだ。
「……さて。マーケットも一通り見終わって欲しいものへの応募も済ませたし、これからどうしましょうか。確か不仲達との集合時間は正午だったわよね」
「そうだったね……あっ!、それじゃあ皆でレイコさん家に行ってみない。折角お給料も入ったことだしお世話になったお礼にどこかのお店でお昼御飯でもご馳走してあげようよ」
「おっ!、それはいい考えだぜナギ。ついでにヴァルデパもちょっと見て回ろうぜ。9時にはあの辺りの店は全部開いてるはずだからな」
「はぁ……、また母さんのところに行くの。あなた達は別に良いだろうけど私はまたグチグチ説教くさいことを言われるから嫌なのよね。まぁ、一応買い物は回って見ようと思ってたけど……」
「ならいいじゃない、リア。レイコさんとハールンさんはこの世界では私達にとってもお母さんとお父さんみたいなものだもの。家族水入らずで買い物と食事といきましょう」
「ナ、ナミちゃん……。その言い方はちょっと恥ずかしいけぇ……。間違っても本人達の前で“お母さん”なんて言わんといてよ」
こうしてナギ達は不仲達と合流する前にレイコの家に向かうことになった。すでにナギ達とってレイコとハールンはこの世界での母親と父親のような存在だったようだ。初めて貰った給料、実際は2回目ではあるがそのお金で今まで世話になった恩返しがしたかったのだろう。レイコの家に着いたナギ達は暫く家の中で会話を楽しんだ後レイコとハールンを連れてヴァルデパへと向かって行った。
「……あ〜、美味しかった。こんなに美味しいパスタをご馳走様、皆っ!」
「ああ、久しぶりの外食だったから余計美味しく感じたよ。わざわざを声を掛けに来てくれてありがとう」
レイコとハールンを連れてヴァルデパでの買い物を済ませたナギ達はセイナのおススメのイタリアンのお店に来ていた。最初のヴァルデパの買い物の時に片っ端から飲食店を食べ回っている時に見つけたのだろう。今もミートソースパスタを食べ終えたレイコが満足そうな表情を浮かべているところだった。
「レイコさんの食べてたパスタの麺ってあの横に薄く伸ばしたやつですよね。モチモチした食感でソースも良く絡むやつ。私もそっちの面にすればよかったなぁ〜」
「イタリア語でタリアテッレって言うのよ、ナミちゃん。最初の注文の時に選べたんだけど、あなた達イタリア語の名称なんて分からなかったわよね。ごめんなさい、ちゃんと教えてあげれば良かったわ。」
「パスタにも色々あるからね。ところで君達あれからまた活躍したみたいじゃないか。アイアンメイル・バッファローに続きミステリー・サークルゴーレムを討伐したってことで私達NPC達の間でも君達の噂で持ち切りだよ」
「そうそう。おかげであなた達を家に迎えた私達も鼻が高いわ。この調子だと私とハールンもまだまだ出世できそうね。……ところで、ナギ達はこれからどうするの。あなた達のことだからすでに次に目的は決まってるんでしょ」
「それが今度は北西に遺跡があるっていう情報が入って……」
ナギはレイコにこれから向かう遺跡のことについて話した。アイアンメイル・バッファロー、ミステリー・サークルゴーレムの討伐に続き、ナギ達が遺跡の情報まで仕入れていることにレイコは大変驚かされていた。
「凄いじゃないっ!、遺跡の探索なんてっ!。きっと物凄い財宝が一杯眠ってるわよ。探索に成功すれば功績ポイントも今までの倍、いえそれ以上のポイントが貰えることは間違いないわ」
「……でも、母さん。遺跡には強力なモンスターも多く潜んでいると聞くし、例えこの近くにあると言っても中のモンスター達はまだまだナギ達の手に負えないレベルなんじゃないかな。父さんは少し心配だよ、リア」
「大丈夫よ、父さん。ちゃんと緊急脱出用のアイテムも買ってあるし、もし死亡したって暫く経てばリスポーンできるんだから。それにここいるメンバー以外にも心強い仲間達がいるしね。……中にはちょっと気に食わない奴もいるけど」
「そうよ、あなた。ナギ達の世界ではこういうゲームは何度も全滅を繰り返して攻略をしていくものなのよ。確かに死亡時のペナルティは痛いけど、だからって消極的なプレイになってたら勝てるゲームも勝てなくなるわ。母さんは応援してるから恐れず自信を持って攻略にあたりなさい。ただし細心の注意は払うのよ」
「分かってるよ、レイコさん。……あっ、そうだ。頼もしい仲間って言えば僕も他に連れて来たい人達がいるんだった。ちょっとこれから連れに行って来ていい?。集合場所にはそのまま直接行くよ」
「数が多いに越したことはないから別にいいとは思うけど、あんまり勝手に人数増やすとあの不仲のことだから功績ポイントの分配が減るとか言って怒りだすかもよ。それじゃあ私達もそろそろ集合場所に向かいましょうか」
「OK、リア。それじゃあナギ、また北西の城門の前でね」
「うん。とびっきりの仲間達を連れてくるから楽しみにしててね。レイコさん達も今日は僕達に付き合ってくれてありがとう」
「お礼を言うのは私達の方よ。あなた達のような素敵なプレイヤーに出会えて本当に良かったわ。遺跡の探索、頑張ってねっ!」
「ああ。だけど皆あまり無理はしないようにね」
レイコ達との食事を済ましたナギはナミ達と別れて別のプレイヤー達を呼びに行くこととなった。そろそろ正午になるということでナミ達も不仲達との集合場所へと向かい、レイコ達ともここで別れることとなった。遺跡へと向かうナギ達にレイコとハールンは暖かい激励の言葉を投げかけてくれていた。
「……遅いわね〜、ナギ。連れてくるプレイヤーって言うのは大体予測はついてるんだけど……。本当にそいつナギに付いて来てくれるのかしら。ねぇ、デビにゃん?」
「大丈夫にゃ、ナミ。ちゃんとメリノって人と一緒に説得するって言ってたし、今はその人のパーティに入ってるみたいだからあいつもそう無下に断れないはずにゃ」
「メリノって……レイコさんの牧場でよく一緒に働いとる?。魔術師の職に就いて小柄な体格の童顔の男の子じゃよね」
「そうにゃ……ってあっ!、噂をすれば早速来たにゃ。どうやら他にも何人かいるみたいだけど皆知らな……ってにゃぁぁぁぁぁぁっ!。あ、あいつはあの時の……」
「何?、どうしたの、デビにゃん?。……ってあっ!。なんだ、やっぱり連れてくるプレイヤーって塵童のことだったのね。でも他は皆知らない顔ね。メリノって言うのがあの小柄な子かしら」
北西の城門の前で不仲達と共に皆が集まるのを待っているナミ達のところにナギが例のプレイヤー達を連れてやって来た。内一人についてはナミ達も大体予想で来ていたようだが、他のメンバーの顔触れはメリノ以外は皆知らない顔触れだった。だがデビにゃんにはもう一人顔見知りのプレイヤーがいたようで、その人物を見た瞬間から驚きの声を上げあまりの衝撃に顎が外れるくらい口を開けたまま身体が硬直してしまっていた。一体どのようなプレイヤーなのだろうか……。
「皆〜、話してたプレイヤー達を連れてきたよ〜。皆この顔を見てビックリしたでしょっ!」
「ビックリってお前……。お前が塵童を連れてくるつもりだったことぐらい皆分かってたよ。お前今日ログインした時からずっと塵童のこと気にしてただろうが」
「ほ、本当、レイチェル……。皆僕が塵童さんを連れてくるって分かってたの……。じゃあこれはどうっ!。ここにいるメリノ達は皆塵童さんが一人で声を掛けて集めたんだよ。昨日の塵童さんからは考えられないでしょっ!」
「ええっ!。一人で声を掛けて集めったって……、中には女の人までいるじゃないっ!。あんたが他のプレイヤーに自分から声を掛けるなんてまだ信じられないわ……」
「悪かったな、信じられないくらい無愛想で。本当か来たくなかったんだが……、ナギとメリノってどうしても言われてちゃあな。それに他の奴らも遺跡に行くって聞いたら目の色変えやがってよ」
「遺跡っていえば現実でもゲームでもお宝の宝庫だからね。そこの男の子がメリノだよね。僕はカイル・コートレット。これからよろしくね」
「はい。僕はメリノ・オーストラリアンって言います。あんまり戦闘は得意じゃないのだけれど……、一生懸命頑張るのでよろしくお願いしますっ!」
「俺はウェイン。職業は剣士だ。こっちのライノとノックと街を歩いてるところを突然塵童に声掛けられてさ。こいつめちゃくちゃ怖い顔つきしてたから間違いなく絡まれたんだと思ったよ。っで、試しにパーティを組んでみたら超凄腕のプレイヤーでビックリッ!。今じゃすっかり超頼れるフレンドの一人さ」
「私はリリス・リリアントよ〜。職業は霊術士。ちょっとドジだけど皆よろしくね〜」
メリノを始め塵童の連れてきたメンバー達は順に自己紹介をしていった。剣士のウェイン、魔術師のメリノ等様々な職業の者達が集まっていたが回復をこなせるものが一人しかいなかった。恐らく何も考えずに声を掛けて回ったのだろう。そしてその中にはデビにゃんと因縁のあるあのリリスの姿もあった。
「ふ〜ん……。なんかちょっとあれっぽいのも混じってるけどまとなパーティになってるじゃん。一人だけど一応回復役もいるしな。……ってんん?。どうしたんだよ、デビにゃん。さっきから口開けっ放しで間抜け面して。そんなに塵童が自分でパーティを集めてたことに驚かされてたのか」
「にゃぁっ!。ち、違うにゃっ……。やい、塵童っ!。どうしてそんな奴まで僕達のパーティに連れて来てるのにゃっ!。にゃぁ、ナギ。あのリリスって奴はとんでもない地雷プレイヤーなのにゃ。だから絶対このまま遺跡になんて同行させちゃ駄目にゃ。きっと遺跡の中で自分で罠を発動させまくって僕達まで巻き込むつもりなのにゃっ!」
やはりデビにゃんが見て驚いた人物は霊術士のリリス・リリアントだった。デビにゃんはまだあの時のことがトラウマになっているのかナギ達の前でリリスを指差してパーティに入れないよう罵倒していた。だがそんなデビにゃんの態度にリリスはまるで動じていないようだった。
「えっ……、リリスさんが……ってああ。もしかして最初に内政の仕事の時にデビにゃんが酷い目に合わされたプレイヤーってリリスさんのことだったの」
「ふふふっ。お久しぶりね、可愛い黒猫さん♪。あの時は私のドジで迷惑掛けてごめんないね。でもきっと遺跡では皆の役に立ってあの時の失態を挽回して見せるからそんなに怒らないで」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。そんなの信じられないにゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょっとデビにゃんっ!。本人は謝ってるんだからそんな酷いこと言っちゃ駄目だよ。ごめんね、リリスさん。デビにゃんはああ言ってるけど皆リリスさんのことは歓迎してるから気にしないで。一緒に行動してればデビにゃんとも自然に打ち解けられるはずだよ」
「にゃぁ……。ナギはあいつの本性を知らないからそんなこと言えるのにゃ……」
デビにゃんは不服そうだったがリリスもパーティに同行することになった。ナギ達からしてみれば自分達から声を掛けておいて今更断ることなどできなかったのだろう。それに塵童達のパーティでは特に問題なく行動出来ているようだった。
「さて、他の皆はもう来て……ってあれ。塵童さん達以外にも知らない顔の人達が何人かいるよ。あの人達は昨日の討伐の時には参加してなかったよね」
「ああ、あの人達は……」
「私や天くん、それに他の人達が連れて来たのよ。あなたと同じようにね、ナギ君」
「シホさんっ!」
ナギが城門の前にいる皆の方を見渡すとそこには塵童達以外にもミステリー・サークルゴーレムの討伐には参加していなかったプレイヤーが数十人程いた。どうやら天だくやシホ達も新たなメンバーを連れて来たようだ。塵童達と合わせると全部で40人程度だろうが。遺跡への探索隊の人数となると80人近くにまで達していた。
「やっぱり他の皆も知り合いを連れて来てたんだね。全部で80人くらいにはなったのかな」
「不仲さんも流石に前の人数のままじゃあ厳しいと思ってたみたいで喜んでくれてたわ。でもできれば100人以上は集めたかったみたいよ。昨日解散したメンバーもそのまま連れてくれば良かったって嘆いてたわ」
「へぇ〜、なんだかんだでMMOプレイヤーとしてまともな感性を持っているみたいね。まぁ、一応討伐大会でもセイナを抜いてトップに輝いてたものね。でも確かにもう少し人数が欲しかったわ」
「そうね……ってあら。噂をすればこっちに誰か近づいてくるわよ。あれも誰かが声を掛けたプレイヤーじゃないかしら」
「えっ……っ!、あ、あれは……」
「ア、アメリーじゃけんっ!」
ナギ達が探索隊の人数について話ていると今度は後ろからあのアメリーが走って近づいて来た。アメリーもここの誰かに遺跡に探索隊に誘われたのだろうか。
「お〜い、ナギさ〜んっ!」
「ア、アメリーっ!。どうしたの、こんなところに……。君も誰かにこのパーティに誘われたの」
「違いますよ。ナギさん達が遺跡に行くと聞いて飛んできたんです。是非私も連れて行ってくださいっ!。……牧場では失礼な態度を取って申し訳ありませんでした。馬子さんも遺跡でその時のお詫びをさせてくださいっ!」
「わ、私は別に構わんのじゃけど……。あんたからそんな殊勝な言葉が聞けるとは思とらんかったけぇ」
「なんだか知らないけど凄く健気な子じゃない。勿論喜んで歓迎するわ。私はナミ、よろしくね」
「はいっ!。他の皆さんもどうかよろしくお願いしますっ!」
「(……どうもあのアメリーがこんな素直な態度取るとは思えないなぁ。もしかして裏で何か企んでるんじゃぁ……)」
「(おーほほほほほほっ!。まさかアイアンメイル・バッファローとミステリー・サークルゴーレムを討伐したメンバーの中にナギさんがいるとは思いもよらなかったわ。しかもここにいるプレイヤー達は皆凄腕の人ばかり……。ここはお人好しのナギさんを利用して散々媚びを売るチャンスっ!。この人達との人脈ができれば功績ポイントも稼ぎ放題間違いないわっ!)」
「は〜い。どうやら皆様揃ったようですわね。集まった人数は80人……。ちょうど10パーティ分ですわね。ですがまだそこまで意識して組み合わせを考える必要はないでしょう。皆様目的のエリアに着くまでお好きなご友人方とパーティを組んでくださいませ。それでは出発いたしますわっ!」
「おおぉぉぉ〜〜〜っ!」
こうしてナギ達は不仲の指示ものと遺跡があるという北西の川沿いのエリアへ向かって行った。集まったメンバーは今来たアメリーを入れてちょうど80人、ミステリー・サークルゴーレムの討伐時より少ない人数だが果たして無事遺跡の探索を成功させることができるのだろうか……。ナギ達は遺跡に眠る財宝と潜んでいるであろう脅威に挑めることに期待と好奇心を膨らませながら草原を進んで行った。




