finding of a nation 57話
“ゴレェェェェッ!”
「……っ!。また攻撃が来るわ。どうやら完全に行動パターンが変わっているようね。ストーン・サークルを破壊されて怒ってるって感じかしら」
「あれは怒ってるなんてもんじゃないわよ、リアっ!。体の色は元に戻ったけど顔の紋章は余計真っ赤になってるじゃない。きっとサークル内のエネルギーの循環が狂って暴走しちゃったのよ。ゴーレムは感情がなくて生き物っていうより機械に近い存在だし」
端末パネルで確認したデータを伝えようとナギ達が向かっている頃、中央ではなんとかサークル・オブ・ラースを耐え切ったセイナやリア達に再びミステリー・サークルゴーレムが攻撃を仕掛けようとしていた。ラースとは怒りの感情を意味する言葉だが、マイの言う通りミステリー・サークルゴーレムからは感じられるのは感情というより無機質な脅威といった感じだった。車のブレーキが効かなくなった時や冷たい冷凍庫に閉じ込められた時、使っているパソコンが急にウイルスに感染した時等言葉や感情を交わすことに何の意味も感じられない時のようだろう。暴走したミステリー・サークルゴーレムと対峙しているこの状況を例えると原子力発電所がメルトダウンでも起こした時のようだろうか。ただ自身の知恵と力で冷静に対処するしかない。
「今度はあの馬鹿デカイ腕を振り下ろしてくるつもりよ。また衝撃も馬鹿にならないでしょうから皆なるべく遠くに逃げて躱してっ!」
「へっ……、躱してるだけじゃあいつを倒すことなんてできないぜ。隙を見て今度こそ真空正拳突きをお見舞いしてやる」
“ゴォ〜〜レェェェッ!”
“ズドォォォーーーーーンッ!”
ミステリー・サークルゴーレムは今度は右手の拳を30メートルもの高さから思いっ切り振り下ろしてきた。それでもかなりの高さだが体の間接が不安定な為あまり腕を振り上げることはできなかったらしい。これは端末パネルのデータにも表示されていたゴーレム・ストライクという技だ。拳というには歪な形をしていたが衝撃も威力もかなりのものようだ。
“ビュオォォォーーーン”
「くっ……、こんなに離れてたのに凄い風が吹いてきた。あんなのまともに食らったら絶対即死しちゃ……っ!。ば、爆姉ぇっ!」
「食らえぇぇぇぇぇぇっ!。真空正拳突……」
「……っ!。まずいぞ爆裂っ!。今度は左手の拳を振り下ろすつもりだっ!」
「な、何……っ!」
“ゴォ〜〜レェェェッ!”
“ズドォォォーーーーーンッ!”
一撃目のゴレーム・ストライクは皆無事躱すことができたのだが、続いてすぐに左手の拳による二撃目が振り下ろされてきた。セイナ達は距離を取っていた為特に攻撃の範囲内にいたわけではなかったが、相手の振り下ろされた右手に攻撃を仕掛けようとしていた爆裂少女は直接攻撃は食らわなくても衝撃によって引き起こされる震動の範囲内には入ってしまっていた。セイナの声に気付いた時にはもう遅く、爆裂少女はそのまま震動に足を取られてミステリー・サークルゴーレムの右手と左手の拳の間で身動きが取れなくなってしまった。
「くそっ……、またいいところで攻撃を遮られちまった。まさか左手まで使ってくるなんて……」
「……っ!。早く逃げて爆姉ぇっ!。今度はまた右手の拳が……っ!」
「えっ……」
“ゴォ〜〜レェェェッ!”
“ズドォォォーーーーーンッ!”
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ば、爆姉ぇぇぇぇぇっ!」
身動きが取れない爆裂少女に対して今度はまた右手の拳が振り下ろされてきた。先程とは考えられない程の積極的な攻撃にまるで反応出来ず爆裂少女はそのまま右手のゴーレム・ストライクの直撃を受けてしまった。爆裂少女はそのまま弾き飛ばされ妹の聖君少女の悲鳴が鳴り響く宙を飛んで行った。辛うじてHPは残っているかに思われたものの落下の衝撃に耐え切れずそのまま地面を転がされながら戦闘不能に追いやられてしまった。
「爆姉ぇっ!、爆姉ぇっ!。……もうHPが0になっちゃてる。待ってて、今私の蘇生魔法で生き返らせてあげるから」
「なるべく早くね、聖ちゃんっ!。周りは私が見ててあげるから」
「って言っても今はもうあのデカブツしかいないですけどね、シホさん。あいつの攻撃さっきから範囲が広すぎていくら見てても対応しきれるか分かりませんよ。……たくっ、こんな時に天丼頭はまだ気絶して……ってあっ!。あいつももう目が覚めてるじゃねぇか。自分だけあんな場所までは離れやがって……。てかウンディと何話してやがんだ」
どうやら聖術師である聖君少女はもう蘇生魔法を習得しているらしい。昨日のアイアンメイル・バッファロー討伐でレベルが上昇していたのもあるが、回復魔法が少ない分蘇生魔法は元々治癒術師や他の職業より早く習得出来るらしい。聖君少女が爆裂少女を蘇生させる為の魔力を溜めている頃、サークル・オブ・ラースで少し遠くに飛ばされていた為ゴーレム・ストライクの範囲外にいた天だくはまだウンディから状況の説明を受けていた。ウンディはなるべく簡潔に説明しようとしていたのだが天だくの物分かりが悪く少し時間を食ってしまっていたようだ。
「え、えっと……、だからナギ達がまず指示で皆で石を壊し回って……」
「ああんっ!。なんであいつら勝手に指示出してんだっ!。まず俺に話を通すのが先だろ」
「それはあんたが気絶しちゃってたからでしょ。あんたの代わりに皆の混乱を収めてくれたんだから感謝ぐらいしなさいよ。そんなことより説明してるんだから一々口答えしてないでちゃんと聞いてよねっ!。とにかくナギ達がこのストーン・サークルの石とあいつに密接な関係があることに気付いてくれて、それで石を全部壊したら小さいゴーレムがいなくなった代わりにあいつが暴走してああなっちゃってわけ。一応防御力も下がってダメージも与えられるようになったみたいだけど……。分かったらあんたもさっさと皆に援護に向かいなさいっ!」
「わ、分かった……。分かったからそんなに怒んなんて……。まぁ、なんにせよあいつに攻撃を通るようにしたのはナイスだ。今すぐ俺が止めを……んん?」
「お〜い、天だくさ〜んっ!」
「あれは……ナギ達じゃねぇかっ!」
天だくが聞き癖のなさをウンディに怒られていると後ろから駆け付けてくるナギ達の姿が見えた。天だくが目覚めているのを見て一直線に向かって来たようだ。一方その頃聖君少女は爆裂少女を蘇生されるための魔力を溜め終えたところだった。
“ゴレェェェ……”
「は、早くしろ、聖……。あいつまた何か技を放つ素振りを見せ始めたぞ。動きを止めようにもいくら攻撃してもビクともしねぇからな。一体どうやって倒せばいいんだ。あんな奴……」
「分かってる。今魔力が溜まったからちょっと待ってて……」
どうやらミステリー・サークルゴーレムが再び攻撃を仕掛けようとしているようだ。防御力が下がったと言ってもその巨大な体はいくら強力な攻撃を与えたところで仰け反ることはない。それどころか逆に先程のサークル・オブ・ラースのような反撃を受けてしまう為セイナ達は相手に近づくことすらできなかった。
「天上にて我らを見守りし生死を司る存在よ……。我が聖なる祈りに生命を呼び起こす力を与えたまへ……、リザレクションッ!」
“パアァン……”
「う、う〜ん……はっ!。い、生き返ってる。ありがとうな、聖。でもこのゲーム戦闘不能から戻った感覚がマジで死んでたみたいで気持ち悪いな。なんだか吐きそうだぜ……」
聖君少女が発動した蘇生魔法はRPGでは馴染みの知れたリザレクションだった。他のゲームでも回復系の職に就いたことあるものならまず使用したことのある魔法だろう。蘇生受けたデメリットによる衰弱の影響を受けて爆裂少女は少し体調が優れないようだった。
「そんな文句言ってちゃ駄目よ。聖ちゃんあなたのこと凄っごく心配してたんだから」
「悪い悪い。今までのゲームとまるで感覚が違うから戸惑っちまって」
「おいおいお前等ぁっ!。そんな悠長な会話してる場合じゃないぜ。あいつ今度は両腕をこっちに向けて来やがったぞ……」
「何っ!」
“ゴレェェェェッ!”
「……っ!。腕から何か撃ち出されてくるぞっ!」
“ヒューンッ!、ヒューンッ!、ヒューンッ!”
爆裂少女が生き返ったのも束の間、セイナ達に向けられたミステリー・サークルゴーレムの指も掌もない円柱のままの腕の先に蓄えられたエネルギーが無数の光の弾丸になって降り注いできた。ラスター・レインといその技はその名の通りまるで光の雨のようであった。
“バババババババッ!”
「あわわわわわっ!。こんなのとても避けられないよ。誰かなんとかしてぇ〜」
「私の近くにに来てくてください、レミィさん。他の皆さんも早く。他の今結界の魔法を発動させますから。……レリジャス・バリアッ!」
「助かる〜、ラスカルさん。さっ、吉住さんやアクスマン君達も早くっ!」
ラスカルの使用したレリジャス・バリアは自身の周りの小範囲に丸型の障壁を発生させる魔法だ。ただし攻撃を防げぐことはできるが相手の侵入を防ぐことはできない。バリアの中から攻撃を受ければ当然ダメージを受けてしまう。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!、ブレイズ・スラァァァァシッ!」
「爆姉ぇっ!、奈央ちゃんっ!、シホさんっ!。私も結界を発動させるから近くにきて。……セイクリッド・バリアッ!」
「とにかく光弾を撃ち落し続けるわよ、マイッ!。……フレイムスラッシュッ!」
「ええっ!。……ディフュージョン・アローッ!」
レミィ達はラスカルの結界魔法の中へと入り降り注ぐ光弾を防いで貰っていた。そして他の者達も自らの技を駆使して必死にラスターレインの雨の中を切り抜けようとしていた。ラスカルのように結界魔法を放つ者、そして剣技や弓術や魔法で光弾を撃ち落す者等如何に敵の攻撃が強力といえど簡単に弱音を吐くようなプレイヤーはここには集まっていなかった。特に渾身の力を込めて放たれたセイナのブレイズ・スラッシュは凄まじく、自身の頭上を完全に覆い隠すような太く分厚い斬撃で、ラスター・レインを放っている相手の腕に直撃するまで光弾を撃墜し続けていた。またマイの放っていたディフュージョン・アローは拡散する矢という意味で、マイの指先から放たれた光の矢が無数に分裂して大量の光弾を撃ち落していた。因みにディフュージョン・アローは魔弓術士の特技で、魔弓術士の装備する弓矢には必ず100%分の属性変換率が設定されている。ディフュージョン・アローにはその属性変換率がそのまま適用されるようだ。また特技である為攻撃側には物理攻撃力のステータスが適応されるが、攻撃を受ける側は魔法防御力を適応してダメージが算出される。下記が現在マイが装備している武器のデータだ。光属性の変換率を持ち、ブライト・フラッシュボウという輝く閃光の弓矢という意味の序盤では中々手に入らない貴重な武器だ。
※ブライト・フラッシュボウの性能
武器名 ブライト・フラッシュボウ 武器ランクC 品質 82%
物理攻撃力 186 対応ステータス STR45% DEX50% MAG50%
魔法攻撃力 74 対応ステータス INT50% MAG50% MND12%
属性 光(属性変換率100%)
重量 7キログラム
なんとかラスターレインの中を耐えしのいでいたセイナ達であったが防戦一方であることに変わりはなかった。一方ナギ達と合流した天だくは端末パネルで得た情報を聞かされたところだった。
「なるほど……。つまりあの頭についてるでけぇ宝石みたいなのをぶち壊せばいいわけだな」
「うん……。ダメージを与えられるようになったと言ってもHPはとんでもなく高いみたいだし、今の僕達のステータスじゃあそれ以外に方法はないと思う」
「そうね。とてもあいつを倒すまであの攻撃を耐えられないだろうし……。見て、今もセイナ達が物凄い攻撃を受けてるわよ。早くなんとかしないと皆やられちゃうわ」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!。そういうことなら早速俺が止めを刺して来てやるぜっ!。お前等はここで待機してな」
“ダダダダダダッ!”
「あっ!、ちょっと待ちなさいよあんたっ!。自分だけ貢献度を独り占めしようなんて汚いわよっ!。私も行くっ!」
「にゃぁぁぁぁぁっ!、僕も行くにゃぁぁぁぁっ!」
「えっ……ちょっと二人とも……」
“ダダダダダダッ!”
「み、皆行っちゃった……。どうしよう……、取り敢えず僕も追いかけるしかないか。待ってよ〜、ナミ〜、デビにゃ〜ん、天だくさ〜んっ!」
ナギの説明を受けた天だくは威勢よくミステリー・サークルゴーレムに向かって行った。ナミとデビにゃんもすぐさまその後を追って行ってしまい、仕方無くナギも付いて行くしかなかったようだ。そして天だく達が向かい始めた頃ようやくセイナ達を襲っていたラスター・レインが降り止もうとしていた。
“バババババババッ……ババッ……バッ……”
「ふぅ〜、ようやく止んだみたいだね。ありがとう、ラスカルさん」
「ええ、おかげで助かりました。やはり天だくさんと固定パーティを組んでらっしゃるだけはありますね。俺もいつか天だくさんの固定パーティに……」
「はははははっ、それならば是非代わってあげたいところですがあの変わり者の集団、勿論私も含めてですが、その相手をあなたのような真面目プレイヤーにさせるわけにはいきませんからね。それに固定パーティなら憧れている人物より自分と気の合う者達を探したほうがいいですよ」
「そ、そうっすね……。真の仲間は自分自身の手で探し出せないと天だくさんのようにはなれないっす」
「ちょっと、今の変わり者集団って私も含まれてるわよね。否定はできないけど天だくや奈央子と同じように思われるのはなんか嫌だわ。それに一応私はあの中ではマシな方だと思ってたんだけど……」
「それは皆そう思ってますよ。一番の変わり者の天だくなんてまるで自覚がないじゃないですか。まぁ、MMOというのは変わり者の人物とプレイした方がなんだかんだで楽しいですがね」
「おいおいラスカルさん。今はそんなこと言ってる場合じゃないぞ。攻撃が止んだ内に何か手を考えんと……ってんん?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!、どけどけどけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「な、なんじゃ……っ!」
「あ、あれは天だくさん……。あの凄まじい闘志は間違いないっ!。あいつを倒す手段が閃いたんだ。くぅぅぅぅっ!、やっぱり天だくさんは凄げぇぜっ!」
「ほ、本当にそうなのかなぁ……。ただやけくそに突っ込んできてるように見えるけど……」
ラスター・レインから解放されたレミィ達が一息ついていると、後から大声を上げて突っ込んで来る天だくの姿が見えた。その威勢のいい姿をアクスマンは頼もしく感じていたが、逆にレミィは少し不安を覚えていたようだ。天だくはそのままレミィ達の間を割って駆け抜けて行ってしまった。
“ダダダダダダッ……”
「い、行っちゃった……。どう考えても一人でどうにかできる相手じゃないのに……」
「さ、流石に変わり者と言っても今の行動は頂けませんね……。いくら天だくにしても無茶が過ぎます……」
「もしかしてさっきの気絶で頭に異常をきしちゃったんじゃないかしら。このゲームだとそういう設定までありそうだし……」
「何言ってるんですかっ!、ラスカルさんっ!、吉住さんっ!。天だくさんに限ってそんなことあるわけないですよ。俺達はここで天だくがあいつをぶっ倒す勇姿を見守ってましょうっ!」
「まぁ、見守るのは別に構わないけどあいつを倒せるとは思え……んん?」
「ちょっとぉ〜〜〜っ!。皆どいてどいてどいてぇぇぇぇっ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!、早く行かないと天だくに先を越されちゃうにゃぁぁぁぁっ!」
「ナ、ナミ……、それにデビにゃん……。一体どうし……」
“ダダダダダダッ……”
「あ、あの二人も行っちゃったよ……」
「本当……。天だくだけならともかくナミやデビにゃんまでどうして……。まさか本当に何か勝算があるのかしら……」
「うぉ〜〜〜いっ!、皆ぁ〜〜〜〜っ!」
「……ナギっ!」
天だくが通り過ぎた思ったら続いてナミとデビにゃん、更にその後ろからナギがやって来た。レミィ達はミステリー・サークルゴーレムに一直線に向かって行くナミ達を見て不思議に思っていた。ナギはレミィ達だけでなくセイナ達も聞こえるような大きな声で何かを叫びながら近づいて来たようだが……。
「実はあいつを倒す方法が分かったんだぁ〜〜〜〜っ!。頭の上に付いてる宝石を壊せばあいつを一撃で倒せるはずだよぉ〜〜〜〜っ!。更新された端末パネルのデータに書いてあったんだぁ〜〜〜っ!」
「……っ!。なっ、何ぃぃぃぃぃぃっ!」
“バッ……”
「セ、セイナ……っ!」
ナギは端末パネルでみたデータのことを大声で叫んだ。皆その内容を聞いて驚きの声を上げていたのだが、セイナだけはその叫びを聞くや否や何の反応も見せずにすぐさま天だく達の後を追ってミステリー・サークルゴーレムへと向かって行った。
「……っ!、本当だわっ!。ナギの言う通り端末パネルのデータが更新されてる。ナギの言ってることは本当よ」
「くっ……、そういうことだったのか……。またあの馬鹿が勝手に無茶してるだけだと思ったぜ……」
「きぃぃぃぃぃっ!。まさかそんな攻略法があったとは……。私もこうしてはいられませんわっ!。あなたには手柄は渡しませんわよ、セイナっ!」
“バッ……”
「あっ、あの野郎っ!。俺はてめぇにこそ手柄は渡せねぇっ!。意地でも阻止してやるぜっ!」
“バッ……”
「あっ……、ちょっと奈央君っ!。あいつを倒すならちゃんと協力……行っちゃったわ……。あの子不仲さんとの間に何かあったみたいだけど大丈夫かしら……」
「あいつも天丼頭と負けず劣らずの馬鹿だからな。マジで互いに足引っ張り合うつもりかもしれねぇな」
「そんな……。仲間同士で本気で争うなんてよくないよ。こんなことになるなら貢献度勝負なんて反対しておけばよかった……」
セイナに続き不仲とアンチ奈央子もミステリー・サークルゴーレムへと向かって行ってしまった。皆貢献度勝負に勝ちたい気持ちが強いようだが、やはり速攻で勝負を決めるべきだと判断したのが本当の理由だろう。ただアンチ奈央子に限っては本気で不仲の邪魔をするつもりのようだったが……。
「おっしゃぁぁぁぁぁっ!、俺が一番乗りだぁぁぁぁっ!。今度こそお前を俺の斧で叩き割ってやるぜっ!」
“ダッ……”
ミステリー・サークルゴーレムの足元へと辿り着いた天だくは再び相手の体を伝って天辺へと上り始めた。今度はゴキブリのように這うのではなく武器を構えたまま凹凸に足を掛けて飛び跳ねながら華麗に駆け上がって行った。
「もうっ!。あいつに先を越されちゃったわっ!。私達も急がないと……」
「にゃぁ……にゃぁ……。でも良く考えたら僕にあんな風にあいつの駆け上がることなんてできるのかにゃぁ……」
「大丈夫よ、私が連れて行ってあげるから……えいっ!」
“バッ……”
「にゃ……にゃぁっ!」
「それじゃあ一気に駆け上がるからあんまり暴れないでよ……せいっ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!」
続いてナミがデビにゃんを右手の脇に抱えて10メートル程真っ直ぐ上に飛ぶとそのまま一気に駆け上がっていった。物凄いスピードでどんどん高い高度まで連れて行かれてデビにゃんは悲鳴を上げてしまっていた。そしてセイナ、不仲、アンチ奈央子もその後すぐに天だくとナミ達の後を追ってミステリー・サークルゴーレムの体を上っていくのであった。
“ダダダッ……”
「な、なんだ……。セイナの奴あのゴーレムの体を上って行ってるのかよ。しかも今度はナミ達まで……」
「本当じゃ……。そこまでして顔を狙いたいもんなんかのぅ。まぁダメージの効率は良さそうじゃが……」
“ダダダッ……”
「……っ!。おい、カイルっ!。あいつらもう相手の体を上って行ってるぞ。もう端末パネルのデータを見てるんじゃないのか」
「本当っ!。なら良かった。でも上手くあいつの宝石を破壊できるんだろうか……」
「セイナ達ならきっと大丈夫だぜ。俺達はここで経緯を見守ってよう」
ナミ達がミステリー・サークルゴーレムの体へ上り始めた頃、ナギ達と同じく石の破壊に向かっていたレイチェルとカイル達も中央へと駆け付けて来た。どうやらカイルもナギと同じく端末パネルのデータを見て攻略法に気付いていたようだ。馬子とアイナは少し遅れてリア達のところに合流していた。
「リアさんっ!、マイさんっ!」
「あら、馬子にアイナ、それにシルフィーじゃない。無事で良かったわ。あなた達が石を壊しくれたおかげでサークル・ゴーレム達は全滅してくれたわ」
「私等も急にゴーレム達の体が崩れ始めて驚いてたんじゃよ。ところで……、セイナちゃんやナミちゃん達は一体何してるん?。なんか物凄い勢いであいつの体を上ってるみたいじゃけど……」
馬子に聞かれてリアはナギ達から聞いた端末パネルのデータのことを話した。馬子達はデータを確認していなかったようだが、余裕があれば常に端末パネルを開いてみる癖をつけた方がいいかもしれない。
「そ、そうだったんじゃけぇ……。でもそれなら私等にも勝算がかなり出て来たけんっ!。もう周りのプレイヤー達は皆やられてしもたけぇ、セイナちゃん達が最後の希望じゃね」
「セイナさん達ならきっとなんとかしてくれますっ!。……でもあんなに高いところだと援護のしようがありませんね」
「そうね……。私の矢も頭の天辺じゃあ狙いにくいし……。さっき腕を振り下ろした時みたいに頭を下げてくれればいいんだけど」
「私達はここで見守っているしかないのでしょうか……」
「ちょっとアイナっ!。さっきからあなたにとって最大のパートナの存在を忘れてなぁいっ!」
「えっ……、あっ!。もしかしてシルフィー、あなたならあの高さにも援護に行けるんですか。宙に浮いてると言っても空の適正率はそんなに高くないはずじゃあ……」
「大丈夫よっ!。空の適正率が適応される高度200メートルからだから。空の適正率なんて私もアイナ達と同じで0%よ。本気を出せば80メートルぐらいの高さまでなら飛べるけどね。あんまり風の精霊を見くびっちゃいけないわよ」
「すいません。じゃあお願いできますか、シルフィー」
「任せといてっ!。なるべくセイナかナミを勝たせるようにするわっ!。それじゃあ行ってくるわね」
「あっ……、皆ヴァルハラ国の仲間であることは変わりないんですから変なえこひいきはしな……ってもう行っちゃいました……」
「まぁ、いいんじゃない。私もあの不仲って人だけには貢献度勝負に勝ってほしくないって思ってたところだから」
「あら、流石のマイもあいつは受け付けなかったかしら。意地の悪いプレイヤーの鏡みたいな奴よね。少しはナギやナミ達を見習ってほしいわ」
シルフィーはアイナからナミ達の援護に向かう指示を受けた。飛行能力を持っているシルフィーは相手の体を伝って行く必要はなく、宙を舞って直接ナミ達の元へと飛び立って行った。どうやらナミとセイナとデビにゃんを優先して援護をするつもりのようだ。やはり不仲はプレイヤー達からだけでなくリア達NPCからも不評であった……。
「……っ!。そんなことより二人共っ!。またあいつが何か攻撃を仕掛けてきそうじゃよっ!」
“ゴレェェェ……”
「どうやらまたさっきの光の散弾を降らすつもりのようね……。皆武器を構えてっ!。意地でも全弾撃ち落とすわよっ!」
「了解っ!」
“ゴレェェェェッ!”
“バババババババッ……”
自分の体を駆け上がってくるセイナ達を無視してミステリー・サークルゴーレムは再び地上にいるリア達に向けてラスター・レインを放ってきた。リア達は今度はナギやレイチェル達も一緒になって光弾を撃ち落していった。
「きぃぃぃぃぃぃっ!。お待ちなさいセイナァァァァァッ!。このゴーレムの止めを刺すのはこの私ですわぁぁぁぁっ!」
「てめぇこそ待ちやがれっ!、この性悪女っ!。俺はてめぇに従ってパーティに入るなんざ絶対にゴメンなんだよっ!」
一方リア達に噂されていた不仲はと言うと天だく達の後を追って皆に負けないスピードでミステリー・サークルゴーレムの体を駆け上がっていた。そのすぐ後ろには不仲を追うアンチ奈央子の姿があったのだが、性格が悪いとはいえ討伐大会で1位に輝いた不仲にはなかなか追いつけずにいた。
「ちっ……、流石にそう簡単には追いつけないか……。かと言って天だくやセイナ達が止めを刺してくれるのに期待するのも癪だし。……よしっ!、こうなったらあの手でいくかっ!」
“ダッ……”
「へへっ……。確か敵に巻き込むように放てば仲間のプレイヤーに対しても同等の効果があるんだったよな……。だったらこれで吹き飛ばしてやるぜっ!。うぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!、大風起斬っ!」
このままでは不仲に追いつけないと判断したアンチ奈央子は他の手段に出たようだ。勢いよく駆け上がっていた状態から相手の体に足が張り付いているように動きを止め、そのまま大剣を後ろに振りかぶった。そしてそのまま不仲に向けて全力で大風起斬を放つのだった。
「くっ……・。流石の私でもこの差は追いつけな……っ!」
“ビュオォォォォォン”
「……ってなんですのっ!。この風……っ!。あ〜れぇ〜〜〜〜〜〜っ!」
アンチの奈央子の放った大風起斬は不仲を上空へと吹き飛ばした。大風起斬の範囲は広く、当然今の状態ではミステリー・サークルゴーレムの体も巻き込んでおり、その為同じ国のプレイヤーである不仲にも技の影響を与えることができたようだ。不仲はそのまま真っ直ぐに上に向かって舞い上がって行った。
「はははははっ!、どんなもんだっ!。そのまま地面に落下して戦闘不能になっちまえっ!。日頃の行いが悪いてめぇの自業自得だぜ。ただこれで俺の恨みが晴れたと思……んん?」
不仲を吹き飛ばすことに成功して高笑いしていたアンチ奈央子だったが、よく考えると自分が今高度20メートル以上の高さで立ち止まっていることに気が付いた。しかもただ立ち止まっているのではなく足が付いているのは地上でなくミステリー・サークルゴーレムの体で、体は完全に地面に対して横向きになってしまっていた。そして技を放つ為にすでに上に駆け上がる勢いは完全に殺されてしまっていた為、アンチ奈央子の体はそのまま重力に従い下に向かうしかなかったのだった……。
「ヤ、ヤバい……っ!。なんとかもう一度に上に向かってダッシュ……、うおぉりゃぁぁぁぁぁぁっ……ってやっぱり駄目だぁぁぁぁぁっ!。うわぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!」
“ダダダダダダッ……”
アンチ奈央子は先程とは逆にミステリー・サークルゴーレムの体を物凄い速さで下って行った。下っていると言っても重力に引かれて落下していく体に追い付く為、嫌でも足を動かさなければならない状態だった。少しでも足がもつれでもしたらそのまま転げ落ちていってしまうだろう。一方上空へと舞い上がっていく不仲はセイナ、続いてナミとデビにゃんのいる高さも飛び越そうとしていた。当然大風起斬の風に煽られて完全に体勢を崩した状態だったが……。
“ダダダッ……”
「ああぁぁぁぁっ!、このままじゃあ天丼頭に先を越されちゃうっ!。こうなったらデビにゃんを上までぶん投げて……」
「にゃぁぁぁぁっ!、無茶はやめてくれにゃぁぁぁぁぁっ!。第一上に辿り着いても僕の力で破壊できるかど……ってんんっ!。ナミ、下から何か飛んできてるにゃよ」
「えっ……。まさかもう飛行能力を持ってるプレイヤーが……」
「あぁ〜〜〜れぇぇ〜〜〜〜っ!」
「な、何……っ!」
“バッ……”
「あっ……」
「にゃぁっ!」
デビにゃんを抱えて駆け上がっていたナミの後ろからアンチ奈央子の大風起斬を受けた不仲勢いよく吹き飛ばされてきた。ナミからしてみれば誰だか確認する暇もなかったが、ナミを飛び越える寸前に不仲の体少しナミの体にかすってしまいその拍子にデビにゃんを抱えていた腕を放してしまった。当然デビにゃんはそのまま空中に放り出されてしまった……。
「にゃっ……にゃぁっ!、にゃぁっ!。……にゃぁぁぁぁっ!、助けてくれにゃぁぁぁぁっ!」
「待っててっ!、デビにゃんっ!。今助けに行くわっ!。……えいっ!」
デビにゃんは体をバタつかせて必死に重力に逆らおうとしたのだが、すぐにとてもそんなことを不可能だと悟り諦めの叫びを上げていた。それを見たナミはすぐさまデビにゃんを助けようとミステリー・サークルゴーレムの体を蹴って自分も空中へと飛び出して行ったのだが……。
「にゃぁぁぁぁっ……ってああっ!。そう言えば僕には翼が付いていたんだにゃ。これぐらいの高さならなんとか無事地上に降りられるまでは……」
「えっ……」
「にゃぁ?」
“「………」”
そのまま地上に落下してしまうと思ったデビにゃんだったが自分に翼が付いていることを今思い出したようだった。デビにゃんはすぐに翼を羽ばたかせて無事空中に浮いた状態になることができたのだが、すでにデビにゃんを助ける為に飛び出してきたナミはミステリー・サークルゴーレムの体が完全に足が離れてしまっていた。その直後に目が合った二人はなんとも言えない表情で沈黙したまま見つめ合っていた。
「ちょっとぉぉぉぉぉっ!。何今更そんなこと言ってるのよぉぉぉぉっ!。もう私も飛び出しちゃったじゃなぁぁぁぁいっ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。そんなこと言われても僕も忘れてたんだにゃぁぁぁぁぁっ!」
“バッ……”
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ナミはそのまま飛びついて再びデビにゃんを腕に抱え込んでしまった。デビにゃんは放っておいても大丈夫だったのだが、咄嗟の出来事で判断が追い付かなかったらしい。二人は涙を浮かべて顔を地面に向けて悲鳴を上げながら落下していった。
“ヒュゥゥゥゥゥゥン……”
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!、落ちるぅぅぅ〜〜〜っ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!、ナミだったらなんとか着地してくれにゃぁぁぁぁっ!」
“ダダダダダダッ……”
「むっ……、あれはナミとデビにゃん。どうやら下に落ちているようだがナミならこの程度の高さ余裕で着地できるだろう。悪いが私はこのまま天だくを追わせてもらうぞ。できれば私達の中から貢献度勝負の勝者を出したいのでな」
セイナは自分の前を走っていたナミ達が落ちてくるの視認できたが助けには乗り出さなかった。いくらセイナでもこの高さで体勢を崩してしまえばもう上に駆け上がることは難しいだろう。一度地面に着地して最初から上り始めるしかない。そうなれば確実に天だくには追いつけなくなってしまう。セイナは出来れば自分やナミ達の中から貢献度勝負の勝利者を出しかったようだ。この状況では自分がミステリー・サークルゴーレムの止めを刺すしかないと判断したのだろう。
「確かに着地はできるけどそれじゃあ天丼頭には追いつけなくなっちゃうでしょうっ!。……って言ってももうどうしようもないし……。これじゃあセイナに任せるしか……んん?」
「ちょっとナミィィィッ!。何情けないこと言ってんのっ!。言っとくけど私は天丼頭のパーティに入って指示に従うなんて絶対嫌だからねぇっ!」
「シ、シルフィーっ!」
「にゃぁっ!」
地面に向けて真っ逆さまに落下しているナミ達の前に突如シルフィーの姿が現れた。シルフィーも皆と同じくセイナやナミ達に貢献度勝負に勝って欲しかったようで、ナミに対して厳しい口調で喝を入れていた。
「私のウィンド・リムーブで一気に上まで運んであげるから、セイナと一緒になんとしても天丼頭をより先にこいつを倒しちゃいなさいっ!」
「……っ!、OKっ!。逆に私達パーティに入れてこき使ってあげましょう」
「よ〜しっ!。それじゃあいくわよ〜〜〜……ウィンド・リムーブッ!」
“ビュオォォォォォンッ!”
「ひやぁ〜〜、気持ちいい〜〜〜っ!。このまま一気に天だくを追い抜いてあげましょう」
「にゃぁぁぁぁっ!。でもちょっと間に合いそうにないにゃぁぁぁぁぁっ!」
ナミ達はシルフィーのウィンド・リムーブに乗って勢いよく天辺へと舞い上がって行った。だがその時すでに天だくはミステリー・サークルゴーレムの首元の辺りまで来ており、そこから一気に相手の頭上まで飛び上がろうとしていた。
「よしっ……ここまで来れば後は一気に……たあっ!」
天だくは相手の体を蹴って勢いよく飛び上がった。そしてそのまま相手の頭上に付いている核を視認できる高さまでミステリー・サークルゴーレムの顔の前を舞い上がって行った。
「くっ……、これは完全に先を越されてしまったか……。ならばこちらも一か八かの賭けだっ!。はあぁぁぁぁぁっ……」
天だくが一気に飛び上がったのを見たセイナはこのままでは確実に追いつけないと判断し、何か策を放つ為の力を蓄え始めた。セイナの体に輝く銀色のオーラが纏わり付いていき、ミステリー・サークルゴーレムの天辺目掛けて駆け上がっていく勢いのままにその技は放たれた。
「はあぁぁぁぁぁっ!、ブレイズ・ストラァァァァァァイクッ!」
“ギュイィィィィィィンッ!”
なんとセイナが放った技は天だくとの模擬戦の時やウィザードラゴンラプターとの戦いの時に見せたブレイズ・ストライクだった。突進と共に敵を貫いて行くこの技は自身のスピードを更に加速させてくれる。セイナは技を放つタイミングとミステリー・サークルゴーレムの体を蹴るタイミングをピッタリと合わせ、もう足を完全に相手の体から放し凄まじい勢いで宙を舞い上がって行った。そして一気にミステリー・サークルゴーレムの頭上近くにいる天だくへと追い付いて行った。
「よっしゃっ!、ついにあいつの核を確認できたぜ。待ってな、今すぐぶっ壊して……何っ!」
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「セ、セイナ……っ!。もう追い付いて来やがったのか……、くそっ!」
ブレイズ・ストライクを放ったセイナは一気にミステリー・サークルゴーレムの頭上を飛び越え、ちょうど相手の核を破壊する為の攻撃体勢に入っていた天だくの横に並んだ。セイナもすぐにこれまた天だくとの模擬戦の時に見せたポーズリセットを発動し、技を解除して空中に止まるとすかさず天だくとほぼ同時に技を放てるまでの体勢に入った。
「くっ……、まさかあそこから一気に飛び上がってくるとは……。もうあれこれ考えてる暇はねぇっ!。この技で俺が先にあの核を破壊してやるぜっ!。はあぁぁぁぁぁっ……」
「私もナギ達を代表して負けるわけにいかんっ!。この技に全ての命運を賭ける……いくぞっ!」
“「アックスッ……ハァァァーーールッ!」
「スローイング・ブレェェーーイズッ!」”
“ギュイィィィィィィンッ!”
二人の技は完全に同時に放たれた。どうやら両者の技とも自分の武器を相手に向かって投げつける技らしい。天だくの放ったのはアックス・ハァール、ハァールとは強く投げつけるという意味で、その名の通り縦に回転しながら力強い勢いで核となる宝石へと向かって行った。今天だくが装備しているのは両手持ちの通常の大斧だが、トマホークやマチェット等投斧用の斧を装備していると威力が上がるようだ。対するセイナが放ったはスローイング・ブレイズ、ブレイズシリーズでお馴染みの技であるが、ブレイズの意味する通り銀色に光輝く闘気を纏った剣を剣先真っ直ぐ核に向けて投げ付けていった。両者の技とも凄まじい勢いで核へと向かって行っていたが、そのスピードは全くの同じだった。そして敵のコアに直撃するタイミングまで完全に同時であったのだが……。
“ガッキィィィーーーーーンッ!”
「……っ!。今のはどっちが先に当たったんだっ!。この場合先に当たった方が貢献度は高いはずだろ」
「それは分からんが核に直撃したのは事実のようだ。見ろ、核となっている宝石にヒビが入っていっている。どうやらこのまま無事破壊できそうだ」
“ピキッ……ピキピキピキピキッ……”
両者の特技により放たれたセイナと剣と天だくの斧は見事にミステリー・サークルゴーレムの核である宝石に突き刺さっていた。宝石には直撃した個所から徐々に亀裂が入っていきこのまま砕け散ってしまうように思えたのだが……。
“バリッ……バリバリバリバリバリィィッ……バリッ……カアァーーーンッ!”
「な、何っ!」
亀裂がどんどんと広がっていきあと少しで砕け散るという直前、急に宝石に刺さっていたセイナの剣と天だくの斧が弾き飛ばされてしまった。どうやら完全に破壊するには威力が足りなかったようだ。
「ち、ちくしょーーーっ!。あと少しってとこで弾かれちまったじゃねぇかっ!。こうなったらもう一撃くれてやるっ!」
「無理だ、天だくっ!。我々は武器は弾かれてあいつの頭の上だ。いくら装備していると言ってもこちらの手元に戻ってくるにはそれなりの時間が掛かる。それに我々自身もいつまでも宙に浮いていられるわけでは……っ!」
“ゴレェェェ……”
「……っ!。不味いっ!。奴の紋章がまた光り出したっ!。さっきの光線が来るぞっ!」
「な、なんだって……っ!」
“ゴレェェェェッ!”
“「ぐっ……ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!」”
なんとかもう一度攻撃を仕掛けようと考えた天だくだったが、先程の技で武器を手放してしまいまだ手元には戻って来ていなかった。このゲームの中では武器が手元から離れてしまった場合1分間経過すれば自動で装備者の元に戻ってくるのだが、すでにセイナ達が空中で止まっていられる時間はなかった。更にミステリー・サークルゴーレムがこちらに顔あげ、今度は顔に描かれた5つの正方形の紋章から直方体の形をした無数の光線を放ってきた。武器を持たないセイナ達はなんとか腕を前面で交差させて防御の体勢を取っていたが流石に耐えきれずそのまま光線の群れに囲まれて吹き飛ばされていってしまった。
「……っ!。セ、セイナさんと天だくさんがやられちゃったっ!。このままじゃあ僕達やられちゃうよ」
“バババババババッ!”
「ええっ!。あの二人がやられたんならもう私達の中にあいつの体を駆け上ってるいける人なんて……ってあれ?、そう言えばナミちゃんとデビにゃんは……っ!。あれを見て、ナギっ!。今度はナミちゃんとデビにゃんが……」
「えっ……」
ナギ達は地上でミステリー・サークルゴーレムのラスター・レインを必死に耐えしのいでいたのだが、相手の攻撃を受けて吹き飛ばされたセイナと天だくを見て流石にもう駄目かと諦め掛けてしまっていた。だがそんな時レミィがセイナ達が吹き飛ばされた後にミステリー・サークルゴーレムの顔の前を舞い上がって行く人影を確認した。それはまさにシルフィーのウィンド・リムーブで運ばれてきたナミとデビにゃんであった。
“ギュイィィィィィィンッ!”
「OKっ!。タイミングよくもうビームも撃ち終わったみたいね。セイナ達には悪いけど私達に当たらなくて良かったわ。それじゃあいくわよ、デビにゃんっ!」
「了解にゃぁっ!」
どうやらナギ達が辿り着いた時にはすでにミステリー・サークルゴーレムの光線は止んでおりセイナ達のように吹き飛ばさずに済んだようだ。そして相手の頭上を飛び越えたナミとデビにゃんはすぐさま二人で連携して核に攻撃を仕掛けるのだった。
「でえぇぇぇぇぇいっ!。私とデビにゃんのコンビネーション技……必殺っ!、真空・デビにゃんシュゥーーーートッ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
“ヒュイィィィィィィンッ!”
ナミとデビにゃんが二人で放った技は真空・デビにゃんシュート。勿論二人が勝手に命名しただけで実際はナミに投げ槍の要領で投げ放たれたデビにゃんが同時に真空突きを放っただけだ。だが武闘家であるナミの強肩の勢いを得たデビにゃんの真空突きは確実に威力が上昇していた。これならば相手の核も確実に破壊できるかに思われたのだが……。
「いっけぇぇぇぇぇっ!。デビにゃぁぁぁぁぁぁんっ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。貢献度ナンバーワンの座は僕がナギにプレゼントするにゃぁぁぁぁぁっ!」
“ヒューーーン……”
「……っ!。あ、あれは何……」
「にゃぁ?」
「あ〜〜〜れ〜〜〜〜っ!」
凄まじい勢いで相手の核に向かっているデビにゃんだったが、ナミ達の更に上空からミステリー・サークルゴーレムの頭上へと何かが落下して来ていた。何やら叫び声が聞こえてきたがどうやらプレイヤーのようだ。
「ちょっ……、あれってあの不仲奈央子じゃないっ!。なんであんなところにいる……はっ!。もしかしてデビにゃんを倒した時私にぶつかったのって……」
「にゃぁぁぁぁぁっ!。そんなことより僕の射線の前に落ちてくるにゃぁぁぁぁっ!」
「……っ!。っていうかあのままじゃああいつもあの宝石に向かって落ちてきてるんじゃあ……。まさかあいつがぶつかって壊れちゃったりはしないわよね……」
なんと上空から落下して来たのはアンチ奈央子に吹き飛ばされはずの不仲だった。どうやら上空まで舞い上がった後そのまま頭から落下して来ていたようだ。ナミの見立てでは落下地点はちょうどミステリー・サークルゴーレムの核がある位置のようだったが……。
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。そんなの嫌にゃぁぁぁぁぁっ!。そうなる前になんとか僕の攻撃が届いてくれにゃぁぁぁっ!」
デビにゃんの突きと空中から落下してくる不仲が核へと届くタイミングはまさに同時と言っていいぐらいギリギリの勝負だった。デビにゃんはなんとか自分の攻撃が先に届いてくれるように願いながら突き進んでいったのだが……。
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!」
「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜っ!」
“ガッキィィィ〜〜〜〜ンッ……バリッ、バリバリバリッ……パアァンッ!”
「……っ!。やったぁぁぁぁぁぁっ!。宝石が割れたわっ!。でも今のはどっちが早かったのかしら……」
“……っ!、ゴォォォレェェェ〜〜〜〜ッ!”
デビにゃんの突きが届いた瞬間と不仲の頭が核に激突した瞬間はもう目視では分からない程微妙な差であった。だがミステリー・サークルゴーレムの核は粉々に破壊され、それと共にミステリー・サークルゴーレムの体も段々と砕けていった。ミステリー・サークルゴーレムの顔の前を飛んでいたナミ、それに頭の上にいたデビにゃんと不仲はその崩壊に巻き込まれて行ってしまった。
“ビキッ……ビキビキッ……ビキビキビキビキビキッ!”
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。どっちが先に当たったのか気になるけど今はそれどころじゃないにゃぁぁぁぁぁっ!」
「大丈夫なの〜〜〜、デビにゃぁ〜〜〜〜んっ!。……って私ももう浮いていられないわ。なんとか下で無事にあいまししょ……きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
“ガラガラガラガラガラッ!”
「ナ、ナミ……。ちょっとあんた早く起き上がるにゃ。少しでも体勢を整えてとかないと落下ダメージで死んでしまうにゃ。まぁ、そうなっても下で待ってるナギ達が復活させてくれるだろうけどにゃ」
「あぁ……れぇ……。目の前でお星さまが回っておりますわぁ……」
「こ、これは駄目にゃ……。しょうがない。少しでも僕が抱えといてやるにゃ」
ナミはそのままミステリー・サークルゴーレムの瓦礫と共に落下していってしまい、デビにゃんは肩に不仲を抱えてなんとか瓦礫の一つに足を踏ん張って地上へと落下していった。
「見てリアッ!。ミステリー・サークルゴーレムの体が崩れていくわっ!」
「ええ。さっきの様子から見てナミとデビにゃんが核を破壊してくれたようね。セイナと天丼頭もよくやってくれたわ。吹き飛ばされたとはいえ二人のことだから大丈夫でしょう。今は落ちてくるナミ達のところに行ってあげましょう」
「そうね。誰かさんは瓦礫が崩れ落ちるのを待ちきれないみたいだし」
「ナミィィィっ!、デビにゃぁぁぁぁんっ!。大丈夫なのぉぉぉぉっ!。今迎えに行くから待っててっ!」
「ちょっとナギっ!。今近づくと危ないよ。これはゲームで実際に二人は死んだりしないんだから瓦礫が崩れ落ちるまで待ってようよっ!」
地上ではラスター・レインから解放された皆が瓦礫となって崩れ落ちるミステリー・サークルゴーレムの様子を見守っていた。そんな中ナギは待ちきれず自ら瓦礫の中へと突き進もうとしていたのだが、後ろからレミィが両腕を抑えて必死に踏み止まらせていた。そして瓦礫が全て崩れ落ち、ミステリー・サークルゴーレムが戦闘不能になったことで消滅した瓦礫の中からナミ達の姿が出て来た。どうやら若干のダメージは受けている者の皆なんとか無事戦闘不能にはならずにすんだようだ。ナミ達の姿を確認したナギ達はすぐさま3人の元へ駆け付けていった。
“ダダダダダダッ!”
「ナミィィィっ!、デビにゃぁぁぁぁんっ!。無事あいつの核を破壊してくれたんだね〜〜〜っ!。それで二人とも大丈夫なの〜〜〜っ!」
「痛てててててっ……あっ!、ナギ〜っ!、皆〜っ!。やったわよ、私達〜っ!。結構ヒヤヒヤだったけどね〜〜」
「にゃぁ〜〜〜っ!。僕ももうくたくたにゃ〜。後で上手い飯でも食べさせてくれにゃ〜〜」
“ダダッ……”
「ははっ、勿論だよ。昨日のアイアンメイル・バッファローの肉ならまだ沢山残ってる……ってんん?。そこにいるのは不仲さんじゃないか。気を失ってるみたいだけど不仲さんも一緒にあいつの核を破壊してくれたの?」
「……っ!。そ、そうだったわ……デビにゃんっ!」
「にゃぁっ!。早く端末パネルを開いて確認してみるにゃっ!」
「よしっ……お願いっ!。どうか私達の攻撃の方が先に当たってましたように……」
無事ミステリー・サークルゴーレムを倒して地上でナギ達と合流したナミとデビにゃんだったが、和やかに話していたのも束の間急に慌ただしい表情になって急いで端末パネルで何かのデータを確認し始めた。どうやらかなり重要なことのようだったが……。
「えーっと……ミステリー・サークルゴーレム討伐の貢献度はと……っ!。1位・貢献度21%、不仲奈央子……ちょっとこれどういうことよぉっ!」
「えっ……」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。やっぱり僕達の攻撃よりあいつの頭が激突したのが早かったのにゃぁぁぁぁっ!」
ナミ達が確認したのはこの討伐の貢献度を示すデータで、なんと1位はナギ達の横で気絶して寝そべっている不仲奈央子であった。どうやらミステリー・サークルゴーレムの核が破壊されたのは不仲の頭が激突した時のようで、ナミとデビにゃんは攻撃はあと一歩遅かったようだ。やはり相手に止めを刺したことが原因でこのような結果になったのだろう。続いて2位は13.2%でナギ、3位は12.5%でカイルだった。二人ともミステリー・サークルゴーレムの秘密に逸早く気付いたことが評価されたようだ。だがいくら2位にでも貢献度勝負に勝ったことにならず、その勝者である不仲は今意識を取り戻して目覚めようとしていた……。
「……あれ……、ここは一体どこですの……。確か私はあの憎っくきアンチのせいで飛ばされて……っ!。それで貢献度勝負はどうなりましたのっ!。まさかセイナが勝ったなんてことは……」
「………」
不仲は目覚めるや否や真っ先に貢献度のことを問いただしていたが誰も答えようとはしなかった。どうやら誰もその現実を受け入れたくなかったらしい。だが端末パネルのデータを見ればすぐに不仲にも結果を知られてしまう。ナギ達はこれからのことを真剣に悩みながら目の前に慌てふためいている不仲の姿をジッと眺めていた……。




