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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第一章 ゲームの説明……そしてモンスター討伐大会っ!
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finding of a nation 4話

 「うわぁぁぁぁぁぁっ、食べられちゃうよ〜〜っ!。ど、どこかに他のパーティはいないの…」


 レイチェル達と逸れてデノンザウルスに追われていたナギは、他のプレイヤーのパーティを探してマップ中を走り回っていた。もう5キロ以上は走っているだろうがプレイヤーは見つからず、モンスターばかりに遭遇してすでに追いかけて来ているモンスターの数は数十体にも上っていた。そして散々走り回ったナギはそろそろ体力の限界がきているであろうことを悟っていた。魔物使いの体力の値、乃ちVITの値はそれ程高くはない。むしろ他の職と比べると低すぎるほうだ。恐らくあと2、3キロも走れば限界が来て全く動けなくなってしまうだろう。そうなれば後はモンスター達の餌になるだけだ。ナギはそうなる前に何か対策を打たなければと必死にない頭を巡らせていた。


 「くっそーー、このままじゃもうすぐ力尽きちゃうよ…。敏捷の値はかなり高いみたいだから追いつかれないけど、こう周囲にモンスターばっかりいたんじゃ振り切ることも出来ないよ。早く何とかしなきゃ…。そうだっ!。さっきレイチェルの貰ったの肉をバーサクミートにしてばら撒けばいいんだ。よ〜し…」


 ナギは打開策を思いついたのかアイテム袋から大量肉を抱えて取り出した。そして何とか走りながら魔力を込めてバーサクミートにすると、モンスター達が追ってきている方向にばら撒きながら逃げていった。


 「よしっ、これであいつらは肉を食べて勝手に同士討ちを始めるはず…。後はこの場から離れるだけだ」

 “ガオォォォォォォォっ……ガオっ?”


 必死にナギのことを追いかけていたモンスター達だったが、辺りバーサクミートがばら撒かれているのを見るとナギのことはほったらかして夢中になって肉を食べ始めた。ナギのばら撒いた肉は30個以上あり、恐らく追いかけて来ているモンスター達の半分近くはバーサクミートを食べてしまっただろう。全てを同士討ちさせるには十分な量だ。そしてモンスター達はナギの困惑通り同士討ちを始めた。知性の高いモンスターなら警戒して食べないことも多いのだが、この辺りにいるモンスターは皆猛獣型で知性はあまり高くないようだった。猛獣型でも知性の高い種族もいるが、特に人間の姿をした魔族型のモンスターは知性が高く、肉を食べさせるのが難しいようだ。100体近くのモンスター体が互いに争い合う光景はまさに地獄絵図だった…。


 「ひえぇ…、僕あんなに沢山のモンスターに追われてたのか…。とても序盤の光景だとは思えないな。でも今のでこの辺りもモンスターは一掃できたぞ。他の所に移動してまたモンスターと出会っても嫌だからこの辺りで待機してようっと。はぁ〜、早く討伐終わらないかな〜。そしたら城が出来てふっかふかのベッドで休めるだろうに…」


 バーサクミートでモンスター達を同士討ちにさせたナギは、走り回ることでこの辺りモンスターはほとんどあの同士討ちをしている集団に集められた思い、変に動き回らない方いいと判断してこの辺りで最初の討伐が終わるのを待つことにした。討伐が終わればこのマップに最初の本城が建てられ、建物の中でゆっくり休むことができる。だが先程走り回ったことで体力を消耗してしまったナギは待ちきれず草原の草をベットにして眠ってしまいそうになるのだった。


 「ふわぁ〜…、もうこの辺りも安全だろうし少しぐらい寝てもいいよね。それにしても夢の中で寝ることができるなんて本当に最近のVRMMOは進化してるな〜。このゲームはエレクトロ・ヴァーチャル・ワールドらしいけど…」


 ナギは夢の中でゲームがプレイできる上眠ることも出来る最新のゲーム技術に感心させられていた。この世界の最新のVRMMOは実際に睡眠を取ることで体力を回復することができる。っというかゲーム内の時間で48時間以上睡眠を取らなければ徐々に体力が減り続けるというかなり現実に近い感覚になっている。当然ゲームの中の体感時間と実際現実で経過している時間は違う。ゲームによって感覚の設定は様々だが最も凝縮されたものでゲーム世界の一週間が現実世界では一日というものがある。このゲームは一体どういった体感時間に設定されているのだろうか。そしてナギが睡魔に負けて眠ってしまいそうになった時、ナギの頭上の茂みの方から何か黒い物体が近づいてくるのだった…。


 “ガサガサッ!”

 「う、うん…、な、なんだぁ…」

 「ニャアァァァァーーーっ!」

 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 どうやら謎の黒い物体はナギに飛び掛って行ったようだ。果たしてその正体は一体…。



 ナギがデノンザウルス達を同士討ちさせている頃、ナギの元に向かっていたナミはマップ画面からナギの周りにモンスターの反応が消えたのを見て安心していた。


 「あれ…、いつの間にかナギの周りからモンスターの反応が消えてる。一体何があったんだろう。まぁいいや、それなら今の内に合流しちゃいましょう」


 ナギの周りからモンスターの反応は消えたが相変わらず一人でいることに変わりはなかったため、ナミはそのままナギの元へ向かって行った。だがマップを見ているとナギの後方から何か近づいてる反応があった。


 「んんっ…、何だろう、ナギに向かって何かかなり小さい反応が近づいてきてるわ。またモンスターかしら。……でもまぁいくら魔物使いでもモンスターの一匹ぐらいなら何とかなるか…」


 ナミはナギに近づいている反応は恐らくモンスターだと思ったが、流石に一匹なら大丈夫だろうと特に気に留めることはなかった。だがナギにとってその反応の存在はかなり重要なものになるのだった。

 

  

 ナギの周りからモンスターの反応が消え、安心してナギの元へ向かっていたナミだったが途中で奇妙なことに気付いた。先程ナギの元に向かっていたモンスターの反応がまだ残っていたのだ。しかもナギ共々その場所から移動していない。プレイヤーに敵対行動しないモンスターだったのだろうか。ナギとそのモンスターもダメージを負っている形式は端末には表示されていなかった。


 「どういう事なのかしら…。もしかして魔物使いの能力でモンスターを仲間にしたとか。でも反応は敵のマークになってるし…。まっ、行ってみれば分かるか」


 反応のことが気になったがナミはナギの元まで行って確かめるほうが早いと思い少しスピードを上げて向かって行った。すると程無くして何かと向かい合っているナギの姿が見えてきた。何やらモンスターと対峙しているようだ。


 「あっ、いた、ナギだ。……なんだろう、何かと向かい合って対峙してるみたいだけど、小さくて相手の姿が良く見えないわね」


 ナギの対峙しているモンスターはナギよりも一回り以上小さい小型のモンスターのようで、ナギの姿が確認できたところからでは小さすぎて姿が良く見えなかった。ナミは更にナギの元へ近づいて行くとそのモンスターの姿が確認できた。どうやら二足歩行の猫型のモンスターだったようだ。黒と白の入り混じった現実世界でよく見かける斑猫のような模様で、手足と口元以外はほとんど黒い毛に覆われていた。背中に小さな羽が生えており、猫の悪魔と言ったような姿だった。


 「偉く小っさいモンスターね。あんなのに何手こずっているんだか…。しゃあない、私がささっと片付けてやるか…」


 小さい猫型のモンスターを確認したナミは一気に止めを刺してやろうとナギのいるほうへ突っ込んでいた。だがナギは別にそのモンスターを倒したいわけではなかったようだ。


 「ナギーーーっ!、何そんな小さい奴に手こずってんのよーーっ!。今私がやっつけてやるからそこをどきなさーーいっ!」

 「…っ!、ナ、ナミ…。ち、違うんだっ、こいつは僕達に敵意はないみたいなんだ。だからちょっと待ってっ!」

 「へっ?」


 猫型のモンスターを倒そうと突っ込んでいったナミだが、突然ナギがそのモンスターを庇うように前に立ち塞がったので、慌てて地面で足を擦りながら減速するとナギの目の前でピタリと止まってしまった。当然ナミはナギに理由を問いただした。


 「どうしたのよ…、敵のモンスターを庇うなんて…。まさか、あんたそいつを仲間にするつもりなのっ!」

 「い、いや、結果的にはそうなるんだけど…、どうやら向こうの方から僕に仲間にしてほしいみたいなんだ…。ほら…」

 「えっ…」


 ナギに言われてナミはそのモンスターの方を見てみた。するとその猫型のモンスターは何やら奇妙なジェスチャーをして必死に何かを訴えていた。


 「ニャッニャッ…、ニャッニャッ…」

 “シュッシュッ…、シュッシュッ…”


 その猫のモンスターはボクシングのようなポーズを取って何やら左右に移動しながら交互にジャブのようなものを放っていた。どうやら自分に攻撃しろと言っているらしい。


 「なにそれ…。私達に攻撃しろって言ってんの…」

 ナミも理解できているようで猫のモンスターは更にジェスチャーを続けた。


 「にゅっわ〜〜〜〜ん………ニャッ…」

 “バタッ”


 今度はくるくるとバランスの悪い姿勢で回りながら倒れこんでしまった。どうやら自分に攻撃を仕掛けて倒せと言っているようだ。だが倒してほしいのならば特にナギが庇う必要もなかったのだが…。


 「ニャッニャッ…、ニャッニャッ…」

 “ムシャムシャ…、ムシャムシャ…”


 続いて猫は起き上がって何やら餌を頬張る仕草を見せ始めた。どうやら食べ物を要求しているようだが、一体何が目的なのだろうか。


 「ニャン………ニャニャンっ!」


 すると猫は次にナギの方まで歩いて行き、ナギの手を両手掴むと何やら握手をするように手を上下に揺らした。そしてその後ナギの右手を左手で握ったまま両手を上に広げ、万歳をしている格好を取った。ナギもつられて両手を上に広げ、猫と一緒に両手を上げ下げして何度も万歳のポーズを行った。どうやらナミにはこのジェスチャーの意味が伝わったようだったが…。


 「なるほど…。つまりまずジャブみたいな弱い攻撃で自分を弱らせて、倒せるギリギリのところまで体力を削った後モンスターを仲間にするための肉を与えて自分を仲間にしろってことね…。全く…変わった猫ね…。でもそれならさっさと仲間にしてあげればいいじゃない。ずっと向かい合ったままで一体何をやってたの」

 「い、いやそれが…」


 マップ上でナギがその猫型のモンスターと遭遇して恐らく15分以上は経っていた。ナミに何をしていたのか聞かれたナギは、何故今まで猫型のモンスターを仲間に出来なかったのか説明した。その説明は何とも情けないもので、理由を聞いたナミは呆れ果てて肩をガクッと落としてしまっていた。


 「倒しちゃうのが怖くて攻撃できなかった〜〜〜っ!。…たっく本当に情けない性格してんのね〜…。倒したら倒しちゃったでいいじゃない。さっさと攻撃しちゃいなさいよ」

 「で、でももし倒しちゃったらこの場から消滅しちゃうんじゃないのっ!。ほら、よくゲームにはあるじゃない、一度倒してしまったら二度と出てこないモンスターとかキャラクター。もしこの猫がすっごいレアキャラで、ここで倒しちゃったらもう二度と仲間に出来なかったらどうするのっ!」


 どうやらナギはダメージを与えすぎてモンスターを倒してしまうことを恐れていたらしい。倒せば当然仲間には出来ず、その場から消滅してしまう。ナギはそれでもし倒してしまった場合二度と出てこなくなってしまうのではないかと心配していたようだ。オフライン専用RPGならよくあることかもしれないが、MMOではあまりそういうことはなく、ほとんどの場合何らかの救済処置が用意されているはずだ。だがこのモンスターとの遭遇率が極めて低いものだったりするとナギの間違いも強ち間違いではないかもしれない。


 「なるほど…、確かに珍しいモンスターみたいだし、それはそれで勿体ない気もするわね…。よしっ、それじゃあ私に任せといてっ!」

 「えっ…」

 「ニャッ!」

 「……せ〜のっ!」

 「にゅわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ナミは自分に任せるように言うとなんと猫のモンスターを遥か上空に蹴り飛ばしてしまった。いきなりの攻撃に猫は驚いて悲鳴を上げていたが、あっという間に上空へと上がって見えなくなってしまった。


 「ちょ、ちょっとナミっ!。何やってるんだよ、見えなくなっちゃったじゃないか。それにあんな高さから落ちてきたら間違いなく即死しちゃうじゃないかっ!」

 「いいからいいから、黙って見てなさい」


 ナギは驚いて慌てふためいていたがナミは余裕の表情で落ち着いて上空を見上げていた。すると遥か上空まで飛ばされた猫がそのまま悲鳴を上げながら真下へと落下してきた。


 「にゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 「おっ、来た来た」

 「う、うわっ!、何とか受け止めないと絶対死んじゃうよっ!。えーっとこの辺に落ちてくるのかな、それともこの辺かな…」


 ナギは何とか受け止めようと必死に辺りの落下点を探し回っていた。だがナギはスポーツの才能がなく全く落下点を予測できないでいた。野球でも初心者の内はフライが落ち来るところが予測できず、全く違うところで捕球しようとしてしまうことがよくある。ゲームの中といってもこの辺りは現実世界の感性に影響されるようだ。


 「……よしっ、ちゃんと戻って来たわね」


 必死に落下点を探して走り回っているナギを余所にナミは猫を蹴り上げたその場から全く動いていなかった。そして猫はナミの予測通り蹴り上げられた元の場所へと落ちてくるのだった。


 “パスッ…”

 「はいっ、ナイスキャッチと…」

 「へっ…」


 猫のモンスターが落ちてくるとナミはいとも簡単に猫の首根っこを掴んで受け止めてしまった。どうやら蹴り上げる時に風の向きと強さを計算して自分の元に戻ってくるよう蹴り合えていたようだ。猫は恐怖のあまり気絶してしまっているようだったが、果たして仲間に出来るのだろうか。


 「さっ、早く肉を食わせなさいよ。気絶しちゃってるけど無理やり押し込めば何とかなるでしょう」

 「う、うん…。でも凄いね…、体力ゲージがちょうど赤色になって瀕死の状態になってる。そこまで力の加減がコントロールできるんだね…」


 ナギはナミの攻撃力を正確にコントロールする技術に驚かされていた。リアルキネステジーシステムが導入されているVRMMOでは、現実世界と同じように自身の最大攻撃力ままでなら自由にダメージをコントロールすることができる。一世代前のMMOではキャラのステータスや装備の数値によって決まった乱数の間のダメージしか出せず、129〜156のダメージとなっていた場合その数値の間からランダムに決まったダメージしか当てられなかった。だがリアルキネステジーシステムが導入されたことにより乱数の幅が0から自身の最大攻撃力までとなり、最大ダメージが239だった場合乱数の幅が0〜239となり、しかも乱数と言ったがプレイヤーの感覚によりある程度ダメージを調整することができる。当然優れた運動感覚による高度なプレイ技術が必要で、大抵のプレイヤーは調整どころか自身の攻撃力の半分以下のダメージにすら調整することは出来ない。だがナミの程の熟練したプレイヤーならば状況によるが、今のように何の邪魔の状況ならば1ダメージ単位で調整することができる。


 「まっ、私に掛かればこれぐらい朝飯前よ。それよりほら、さっさと肉を食べさせなさいよ。ちょっとモンスターが仲間になるとどうなるか興味あるのよね。もしかして凄っごい特別な能力があったりして」


 大抵のMMOではモンスターを仲間した場合そのモンスター限定のアビリティやスキルなどがあるが、果たしてこのモンスターはどうなのだろうか。実際多くのMMOではモンスターのアビリティなどは珍しいものが多いが大して強くないことがほとんどだった。そのためああは言っているがナミもそれ程期待していなかったようだ。それでもモンスターを仲間にする時というのはレア度の高い宝箱を開けるのと同じで、プレイヤーにとっては新鮮な感覚だったのかもしれない。


 「う、うん…、じゃあ口に突っ込んでみるね…。……えいっ!」


 ナミにせかされるとナギは思い切ってモンスターを仲間にするための魔力込めたフレンドミートを猫の口に突っ込んだ。肉の鮮度と旨味、加工の技術が高いほど効果が高く、モンスターの体力が減っているほど仲間になる確率が高い。ただ魔力を込めただけの肉でも序盤のモンスターなら仲間に出来るはずだが…。


 「……ニヤッ!、ニャアァァァァァァッ!。にゃ、にゃんにゃ…この不味い肉は…」

 「えっ…」

 「こんなにゃので仲間になれなんて馬鹿にしてるのかにゃ……ってああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!。人間の言葉を喋れてるにゃあっ!

。どうやら仲間になれたみたいだにゃっ!」

 「ね、猫が……猫が喋ったあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 にゃんと………。なんとナギがフレンドミートを猫の口に突っ込むと、いきなり叫びだして咽るように肉吐き出しながら人間の言葉を喋りだした。どうやら吐き出したといっても少しは胃の中へと入っていったようで、仲間にすることには成功したようだ。ナギ達は偉く驚いていたが人間の言葉を喋りだしたのは恐らくモンスターを仲間にした際のゲームの設定だろう。かなり珍しい趣向ではあるが…。

 挿絵(By みてみん)

 「もうっ…そんなに驚かないでほしいのにゃ…。それよりまずは自己紹介をするにゃ。僕は猫魔族型モンスターのデビルキャットにゃ。デビルと言っても全然凶悪でないし性格もかなり温厚なので安心するにゃ。名前はご主人様に決めて貰えるまでデビルキャットのままなので、後でちゃんとした名前を考えてほしいにゃ」

 「う、うん…、分かったよ…。僕は伊邪那岐命、ナギって呼んでいいよ。職業は魔物使いで、一応僕が仲間にしたことになるのかな…。初めて仲間したモンスターだし長い間よろしく頼むよ。…はい、次はナミの番ね。……ナミ?」


 デビルキャットが自己紹介してきたのでナギは自分も自己紹介をして返した。名前を決めてくれと言われ何にしようか考えていたが、取りあえず先にナミにも自己紹介をしてもらうことにした。だがナミは驚きのあまり放心しているか反応がなかった。


 「どうしたの、ナミ。早くナミも自己紹介してあげなよ」

 「か…」

 「ええ?」

 「可っ愛い〜〜〜〜っ、この猫ちゃんっ!。さっきまでは只の不気味な猫のお化けだと思ってたけど、喋ってるところを見ると超可愛いわ。なぇ、ナギ。この子の名前私に付けさせてよっ!」


 ナミは突然動き出すとデビルキャットを持ち上げて抱きしめてしまった。かなりきつく抱きしめているようでデビルキャットは少し苦しそうだった。どうやらナミはデビルキャットが話している姿を見てすっかり気に入ってしまったらしい。ナギにニックネームを自分に決めさせてほしいとまで言いだすほどだった。良くアニメのマスコットキャラなのが人気なのは可愛いからではなく人の言葉を喋るからなのかもしれない。


 「にゃ、にゃぁ…、苦しいのにゃぁ……」

 「いいけど、さっきからその猫苦しそうだよ。それに自分から仲間して来てって言ったからには何か理由があると思うんだ。だからそれをまず聞きたいんだけど…」

 「あっ…ごめん。私ったらつい興奮しちゃって…。はい、ごめんね〜。今下ろしてあげるからね〜」


 ナミはナギに言われてデビルキャットが息苦しそうにしているのに気付き、抱きしめている腕を緩めて地面に下ろした。するとナギの言う通り何か伝えたい事でもあったのか奇妙なことを口にし始めるのだった。


 「にゃ…にゃぁ…まぁいいのにゃ。それよりさっきご主人様の言った通りどうしても伝えないといけないことがあるのにゃ」

 「ナギでいいよ。でも伝えたい事って何?。何か特殊なイベントでも発生したのかなぁ」


 ナギはデビルキャットに伝えたいことがあると聞いてゲーム内で何か特殊なイベントが発生したのかと思った。特定の条件を満たすと発生するクエストやイベントはMMOには付き物で、デビルキャットを仲間にすることが何かのイベントの発生条件になっていてもおかしくはなかった。だがデビルキャットの口から発せられる言葉はナギ達が予測もしえない事柄なのだった。


 「じゃあナギ、ナギはこのゲームについてどれだけのことを知ってるにゃ?」

 「えっ…知ってるって聞かれても今日始めたばっかりだし、確か建国シミュレーションバトル型MMORPGっていう建国シミュレーションとMMORPGが一緒になったゲームことぐらいしか…」

 「もしかしてブリュンヒルデさんが言ってたエレクトロ・リアリティ・ワールドのこと言ってるんじゃないの。ネットワーク上に電子によって作られた現実に存在する世界ってやつ」


 デビルキャットはゲームが始まる前にブリュンヒルデが言っていたエレクトロ・リアリティ・ワールドについて何か言いたいことがあるそうだ。だがそのことが何故ゲーム内のキャラの口から出てくるのだろうか。ゲーム自体のシステムや設定がゲーム中のイベントやクエストに関係するとは到底思えなかった。更にナギ達は自立型AIが組み込まれているとはいえデビルキャットの行動や話し方がとてもゲームのNPCキャラクターだとは思えなかった。まるで本当に意思を持っているようで、ナギ達はブリュンヒルデが言っていたことが今更本当なのではと考え始めていた。


 「そうっ!。そのエレクトロ・リアリティ・ワールドについてどうしてもナギに伝えたいことがあるのにゃっ!。でもどうせだからナミにも話を聞いてほしいのにゃっ!」

 「あれ、私の名前言ったっけ?。さっき肉を食べる前に私とナギの会話聞いてたからかな。まぁ、一応自己紹介しておくか。私は伊邪那美命、今呼んだ通りナミって呼んで。っで、私にも聞いてほしいことって何?」

 「実は…」


 デビルキャットは急に真剣な表情になって口を開き始めた。その表情を見てナギ達も息を呑んでデビルキャットの話に聞き入っていたのだが、その驚くべき話に度肝を抜かれてしまうのであった。


 「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!。このゲームの中が電子現実世界って言うのが本当で、君を含めてこのゲームの中に登場するNPCキャラクターやモンスターが全部この世界に住む電子生命体だってぇぇぇぇぇっ!」

 「そうにゃっ、正確にはこのゲームに使われているエネルギー源が電子生命体そのもので、それによって作られているこのゲームそのものも電子生命体なのにゃっ!」

 「そういえば東京の地下施設にデータをダウンロードしたとか何とか言ってたわね…。ってことは私達今その電子生命体の体の内部にいるってことになるの…っ!」


 デビルキャットが言うにはこの世界そのものが電子生命体であるらしい。このゲームの製作者はゲームを作る前にネットワーク上にその電子生命体が存在していることを発見し、独自の技術で自らの施設にダウンロード、いうなれば捕獲に成功したらしい。その生命体の一部を利用し、データを書き換えることでこのエレクトロ・リアリティ・ワールドを作り出したようだ。そしてそこから更にプログラミングを施してゲームとしてプレイ出来るように設定したらしい。この世界に存在するキャラクターやモンスターもその電子生命体から作られたため、同じく電子生命体であり、実際に生命エネルギーも持っているが、プログラム自体はゲームの製作者によって組まれているため、他のVRMMOと同じように限定的な行動しか取れないらしい。だがその行動の範囲や、思考の広さは他のゲームと比べものにならないほど高い。ゲーム中の空間のグラフィックもほとんど現実世界と変わり映えしないし、何より雰囲気や感覚が現実世界そのものだった。息を吸う感覚、そしてもの触る感覚などはとても今までのヴァーチャル空間とは思えないものだった。物凄い技術がこのゲームに使われていることは実際にプレイしたナギ達が一番よく実感していた。


 「でもあんたは偉く自由に行動出来るようプログラムされてるのね。その話もするよう製作者の人にプログラムされてたってこと?」

 「それは違うにゃ。確かにこの世界のほとんどのNPCは電子生命体とはいえゲームの製作者によってプログラムされたものにゃ。製作者によって設定された以外の行動は取れず、自我も全く持ち合わせていないにゃ。でも僕はこのゲームを作っている電子生命体の一部が、自らをゲーム内のモンスターとして誕生されたものにゃ。なので僕にはその電子生命体の意思の一部が自我となって組み込まれているのにゃ」

 「つまりその電子生命体が僕達に伝えたいことがあって、わざわざデビルキャットになって魔物使いの僕に仲間にしてもらいに来たってこと。でもそれって凄く面倒くさいことしてるような…」

 「そ、それには深い事情があって…」


 なんとこのデビルキャットにはゲームに使われている電子生命体の意思の一部が組み込まれているらしい。それでその意思がゲーム内のプレイヤーであるナギに話があってデビルキャットとなって会いに来たらしいが、そのような手間の掛かる手順を取ったことには事情があって、どうやらナギにのみこの話をしたかったらしく、ナギが魔物使いになったことでそのチャンスが一番多そうだったのがこのデビルキャットの姿だったらしい。しかも魔物使いとモンスターの関係と言うことでナギと親密になりやすく、他のゲームの設定などに与える影響が一番小さく済みそうだったらしい。当初はナギだけに話をする予定だったが急遽ナミにも一緒に話すことにしたらしい。


 「なるほどね…。っで伝えたいことって何なの?」

 「実は…、このゲーム…いや、この世界を作るためにエネルギーとして使われた電子生命体の本体が物凄く怒ってるのにゃ…」

 「えっ!。それって僕達に対して怒ってるてことっ!。それじゃあ早くこのゲームからログアウトして出てった方がいいんじゃ…」

 「そうね…。多分勝手にゲームにさせられたことで怒ってるってことよね。ちょっと信じられないけど、それなら早くこのゲームの製作者に連絡して元に戻してもらったほうが…」

 「いや、それは違うにゃ。別にゲームに作り変えられたことは怒ってないのにゃっ!」

 「えっ…」


 デビルキャットにゲームに使われた電子生命体が怒っていると聞いて、ナギ達はてっきりこのゲームに作り変えられたことを怒っているのだと思ったが、どうやら違うようだった。一体何に対して怒っているのだろうか…。


 「じゃあ何に怒ってるの?。もしかして僕だけゲームの才能ないから今すぐやめろとか…」

 「違うにゃ…。問題なのはゲームの優勝国に与えられる景品にゃ…」

 「景品って…、このゲームの優勝国のプレイヤーは自由にこのゲームにログインできますってやつ。そうか…、今の話が本当ならつまりは自分自身を景品されてるってことだもんね…。それじゃあそのルールをやめさせるように製作者に言えばいいのね。でも…、このゲームの製作者ってどこにいるんだろう…」

 「いや、それも違うにゃ。生命体の本体は優勝者はブリュンヒルデちゃん以外は認めないって言ってるにゃ。それでもしブリュンヒルデちゃんの国以外が優勝でもしたら…」

 「優勝でもしたら…」

 「地球上の全人類を抹消するって言ってるのにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 「なんだってぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 「なんですってぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 デビルキャットはナギ達にとんでもないことを言いだした。このゲームの勝利者がナギ達の所属しているヴァルハラ国の女王、ブリュンヒルデでなければ全人類を抹消するというのだ。


 「ちょっとそれどういうことよっ!。いくら何でもそれで全人類を抹消するって酷過ぎるんじゃないのっ!。なんで優勝者がブリュンヒルデさんじゃないだけでそんなことするのよっ!」

 「そ、そうだよっ!。それに全人類の抹殺ってどうやってそんな事するんだよっ!」

 「このゲームの本体の電子生命体は、この世界の全てのコンピュータを繋いだネットワーク上に存在しているのにゃ。このゲームに使われている生命エネルギーは8兆オルゴンほどだけど、実はネットワーク上にはまだそれ以上のエネルギーを持った電子生命体の本体が存在しているのにゃ…。本気を出せば全世界のネットワークに偽の情報を流して世界規模の戦争を起こしたり、そんなことしなくても核兵器の発射スイッチを直接操作することも出来るのにゃ…」


 どうやらこのゲームに使われている電子生命体というのはそれで全てではなく、あくまで本体の一部であるらしい。このゲームの製作者はゲームに必要なその一部だけをダウンロードすることに成功したらしい。そしてその生命体の本体はまだネットワーク上に残っていて、その気になれば核兵器の発射スイッチも自由に操作できるらしい。全てをコンピューターで制御しているこの世界にとって、コンピューターネットワーク上に存在して全てのコンピューターアクセスできるこの生命体はまさに天敵と言っていいのかもしれない。


 「でもだからって全人類を抹消する権利なんてその生命体にあるって言うのっ!。確かに勝手にゲームにして変なルール決めたのは私達人間かもしれないけどいくら何でもそんなの納得できないわっ!」

 「このゲームに使われている生命エネルギー量は8兆オルゴン程だけれども、ネットワーク上に存在している本体の総生命エネルギー量は地球全て…、いや、この銀河系に匹敵するエネルギー量を持っているのにゃ…。つまり君達人間にとって神をも超える存在で、気分次第で一つの種族ぐらいなら平気で消滅させてしまうのにゃ…。実際に僕達の本体に消滅させられた種族は地球上だけでも100種類ぐらいはいるのにゃ。そのほとんどは人間に近い種族で、高度な技術を持っている分電子生命体の怒りに触れてしまうことがとても多いのにゃ…」


 どうやらその電子生命体というのは神をも超える存在のようで、自らの意志で一つや二つの種族なら全滅させるぐらいの力と権限を持っているようだ。近年の研究の成果で地球や宇宙にも意思のようなものが存在しており、地震などの災害や天変地異は地球の意思で発生しているのではないかとの報告が相次いでいる。地球だけではなく電気や熱、風などにも意思は存在しており、持っている生命エネルギー量が多いほど意思が強いのではないかと考えられている。そしてその意思の強さこそがこの世界の決定権になっており、人間より遥かに多い生命エネルギー量を持つ地球や宇宙には、その意思によって人類を抹消する権利があると主張するものも出てきており、今まで人類が行ってきた環境破壊などについて急速に見直しが行われている。因みに総人類の生命エネルギー量は約1000億オルゴンで、一応地球上に住む物質生命体としては最大の数値である。なので地球上の全生命体についての決定権は人類ということになるが、その分自分達の上位意思であるの地球や、今回のゲームに使われている生命体の怒りに触れることが多いらしく、今まで何度も人型の知的生命体については抹消が繰り返されているらしい。それだけ地球のトップを任せる生命体には責任が生じるということであろうが。実際に人間の社会に置いても企業のトップや政治家を務める人物への責任の追及は厳しく、少しでも社会に悪影響を与えたものは問答無用で切り捨てられている。


 「今回の試みは電子世界の生命体達と君達人間を繋ぐ重大の試練でもあるのにゃ。その試練を乗り切れば人類は皆電子世界と物質世界、君達のいう現実世界を自由に行き来出来るようになるのにゃ。生命エネルギー量も爆発的に上がって、一人当たり200オルゴン辺りのエネルギーは持つことが可能になるのにゃ。つまりこれは人類にとって全滅を賭けることになるほどハイリターンのある試練なのにゃ。乗り越えれば人類は電子世界と物質世界において不動ともいえる地位を手にすることができるのにゃ。でもそれをブリュンヒルデちゃん以外の国王…、一応人間の中では出来た人間達のようだけどもそんな奴らにこの第一の試練を任せているようではいきなり失格なのにゃ。よって第一の試練はブリュンヒルデちゃんを優勝させることに変更なのにゃっ!」


 デビルキャットが言うにはこのゲームの世界が作られたのは電子生命体による人類を電子世界に迎え入れるための試練だというのだ。もしそれが本当ならば人類の滅亡が懸っていても不思議ではないが、果たしてナギ達は受け入れられるのだろうか…。


 「なるほどね…。事情は大体分かったわ…。だったらその試練、喜んで受けてやろうじゃないっ!」

 「えっ、ええぇぇぇぇぇぇぇっ!、な、なに言ってるんだよ、ナミっ!。人類の滅亡が懸ってるんだよ。それをこんなゲームみたいなやり方で決めるなんておかしいよ。もっと別の方法で出来ないか考え直してもらおうよ…」

 「それが出来ないのにゃ…。今この世界は空前の大VRMMOブームで人々の電子世界へ関心が最高点に達しているのにゃ。この試練は人類の電子世界への意識が高まったことにより受けられるようになったのにゃ。今回を逃すと多分もう二度とこの機会は廻ってこないのにゃ…」

 「べ、別にいいじゃないかっ!。そんな試練受けられなくたってっ!。確かに魅力的なことが一杯あるみたいだけど人類の滅亡なんてとても懸けられないよっ!」

 「ナギ…。それは一番してはいけない考え方にゃ…。もしかしたら学校とかで習ったことあるかもしれないけど、この世界の生命体は皆進化し続けなければ存在することが出来ないのにゃ。一度進化が止まってしまうと後はずるずると衰退の一途を辿り、最終的には地球や電子生命体が手を下さずとも勝手に滅亡してしまうのにゃ…」


 ナギの考え方は人間としては最もなことだったが、地球や宇宙、電子世界から見れば一番してはいけない考え方だった。デビルキャットの言う通りこの世界の生命体は常に進化し続けなければ滅亡してしまう。次にまだチャンスがあれば話は別だが、その保証はなく、デビルキャットの言う通り今回が最初で最後のチャンスだとすれば当然試練を受けなければ進化が止まったと判断され、自ら破滅へと向かって行くだろう。


 「今回の機会を逃すと世界中の人間達は電子世界に移行するためのチャンスがなくなったことを悟り、徐々に気力、精神力、そして体力、最終的には生命力を自ら捨て去って行くのにゃ。その先に待っているのは間違いなく破滅で、一応他の地球上の生命体の力によって助けられることもあるけれども、人類は地球の頂点の地位を追われ、君達の世界の映画によくある“何とかの惑星”とかみたいにその生命体に支配されて生きることになるにゃ。まぁ、映画みたいに酷いことはされないと思うけど、今まで人類が培ってきた技術、文化、そして精神、何よりその優れた知能を全て失って、まるで野生の獣のようになってしまうのにゃ」

 「そ、そんな…。でも滅亡するよりはその方がいいんじゃ…」

 「ナギ…。君はそれでいいのにゃ?。そんな僅かばかりの生存の可能性、それも人類としての地位を全て失ってまで生きる…、そんなの死んでるのと一緒にゃっ!。だったら無限の可能性が広がる電子世界へとその全てを懸けた方がいいとは思わないのにゃっ!。君がここまで培ってきた経験はここでそんな弱気な選択をするためだったにゃっ!」

 「デビにゃんの言う通りよ、ナギっ!」

 「(で、デビにゃん…っ!)」


 ナギは人類がこの試練を受けることに反対していたようだったが、ナミはかなり肯定的な意見のようだった。というより女性は皆疑り深い男性に比べ直感で行動することが多い。もしかしたらこの試練を受けるという決定をもう覆すことは出来ないということを本能で悟っていたのかもしれない。そしてデビルキャットの名前だがいつの間にか“デビにゃん”と変わってしまっていた…。


 「きっと私達がどんなに反対しても結果は変わらないわ…。多分もう人類の総意思としてこの試練に挑戦することが決まってるんだと思う。私達はその名誉ある代表に選ばれたんだからもっとシャキッとしなさいっ!」

 「で、でも…」

 「覚悟を決めるにゃ、ナギっ!。物質世界で生まれた生命体なんて幾度となく滅んでるにゃ。実はさっき言った100種類以上の種族もこの試練に挑戦して絶滅してるにゃ。未だかつてこの試練を乗り切った物質生命体はいないけど、折角にチャンスを棒に振って自ら自滅していった生命体もいないのにゃっ!。ナギは人類をそんな不名誉な生命体として一生この世界に記録を残してしまうつもりなのにゃ…」

 「わ、分かったよっ!。やるよ、やればいいんでしょ、やればっ!」

 「その活きにゃっ!」


 デビにゃんとナミに押し切られてしまいナギも結局この試練を受けることに同意したようだ。元々ナギに拒否する権利はなく、人類の滅亡を避けるためにはブリュンヒルデを優勝させるしかなかったのだが、デビにゃんはナギに協力してほしかったため必死にナギを説得していたようだ。


 「そうと決まれば早速このことをブリュンヒルデさんに連絡して、なんとしても勝ち残れるようヴァルハラ国の皆にも号令を掛けてもらおうよ。人類の滅亡が懸ってると知れば嫌でも皆やる気になるだろうし」

 「それは駄目にゃっ!。実はわざわざこんな姿になったのはこのことをナギだけに話したかったからなのにゃ。予定が変わってナミにも聞いてもらうことになったけど、元々ナギ以外には少数のプレイヤーにしか話すつもりはなかったのにゃ」

 「…っ!、どうしてなの?」


 今の聞いた話をブリュンヒルデにも伝えようとしたナギだったが、デビにゃんに今の話はブリュンヒルデだけでなく他のプレイヤーにも話さないよう言われてしまった。元々デビにゃんはナギにのみこの話を伝えるつもりだったようだ。


 「この情報は本来プレイヤーが知ってはいけない情報なのにゃ。人によってはこの情報を知ることによってその後の行動が大きく変わってしまうのにゃ。ブリュンヒルデちゃんの場合このことを知ってしまうと事の重大さに気付いて、逆に緊張のあまり本来の力を発揮できなくなって、それではブリュンヒルデちゃんもこのゲームの優勝者としては相応しくなくなってしまうのにゃ」

 「そ、そうなの…。じゃあこのことが誰にも話しちゃいけないんだね」

 「でもそれじゃあ何で私達には話したのよ」

 「二人はこの情報知ってもほとんど影響を受けず、それどころか二人が真実を知ることでブリュンヒルデちゃんの国が勝利する可能性が上昇するとても珍しい存在なのにゃ。普通の人はこの真実を知ってしまうとその重圧に押しつぶされて本来の実力の半分も出せなくなってしまうのにゃ。そして焦って自分達の国不利になる行動ばっかりとってしまうのにゃ。当然他国のプレイヤーに知られても駄目で、その場合はいくら人類が滅亡すると分かってても欲が出てどうしても自分の国を勝たせようとしてしまうのにゃ」


 デビにゃんがナギ達にこのことを話したのは二人がこの情報を知っても特に悪い影響を受けず、逆に人類にとってプラスになる行動を取ることができるかららしい。普通のプレイヤー達はその重圧に耐えきれず緊張から自国に不利になる行動を取ってしまうらしい。特に女王であるブリュンヒルデがその情報を知ってしまえば精神に掛かる負担は通常のプレイヤーとは比べ物にならないだろう。二人にとってこのことは肯定的に受け取るべきことなのだろうか。


 「つまり私達の精神力がとても強いからその情報を知っても平気ってことね。何だか選ばれし勇者にでもなったみたい。一緒に頑張ろうね、ナギ」

 「何だか僕は逆に鈍感で責任感が薄いって言われてる気がするけど…。でも知ってしまったからには全力で頑張るよ。実際このゲーム自体凄く面白そうだからやる気は有り余ってるし」

 「うぅ…二人ともありがとうにゃ。二人を信用して思い切って話して良かったにゃ。実は僕はその電子生命体の人類の応援する意思が具現化して作られたモンスターなのにゃ。僕も人類が電子世界の仲間入りできるようにナギの仲間モンスターとして全力で尽くしていくからよろしくにゃっ!」

 「よ〜しっ、じゃあまずはこのマップのモンスターの討伐をさっさと終わらして、私達の最初の城となるヴァルハラ城をこの見晴らしいのいい高台に建ててあげましょうっ!」

 「オッケーっ!。何だか僕もやる気出てきたよ。さっきまでは仲間モンスターがいなかったから何も出来なかったけど、今はデビにゃんがいるもんね。期待してるからね、デビにゃんっ!」


 デビにゃんからとんでもない事実を聞かされたにも関わらずその表情はやる気に満ちていた。果たしてナギ達は無事ブリュンヒルデを優勝させることができるのだろうか。そして仲間になったデビにゃんの実力は…。ナギ達はデビにゃんと共に意気揚々とマップ上のモンスターの討伐に戻って行ったのだった。

 

 

 

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