finding of a nation 56話
“ヒューーン……”
「あわわわわっ……。て、天だくさんこのままじゃあ本当に地面に激突しちゃうよ。討伐隊のリーダーが戦闘不能になっちゃったらちょっとまずいんじゃないかなぁ……」
「本当よ……。セイナもどっかに吹っ飛ばされちゃったし……、余裕で倒せるどころか私の方が完全にピンチになっちゃってるじゃないっ!。昨日アイアンメイル・バッファローを倒せたからってちょっと調子に乗りすぎてたわね……」
「……っで、どうするのにゃ。今の僕達にはあいつを助けられる技なんて……」
セイナを連れたレイチェル達が向かって来ている頃、ナギ達はミステリー・サークルゴーレムから落下中の天だくを前に何もできずにいた。天だくはミステリー・サークルゴーレムに攻撃を仕掛けた反動でまだ体が痺れてしまっている。とても着地の体勢など取れずこのままでは確実に戦闘不能になってしまうところだった。
「私に任せてくださいっ!」
「……っ!。あ、あれは……」
「水の精霊のウンディじゃないっ!。今日もシホさんが召喚してくれてたのね」
だがその時サークル・ゴーレムの集団の中から急に小さな青い物体が上空へと飛び出て来た。よく見ると水の精霊であるウンディーネのようだ。恐らくシホが召喚したウンディだろう。ウンディは水の円盤に乗って落下中の天だくの元へと舞い上がって行った。
「くっ……、私はシルフィーと違ってそこまで飛行能力は高くないからこの辺りが限界ね。でも向こうから落下して来てくれてるだから私が必要以上に上にいく必要はないわ」
「頼んだわよ〜、ウンディ〜っ!。昨日から天君が迷惑ばかり掛けてごめんなさいね〜っ!」
ウンディとシルフィーは同じ精霊であったがその飛行能力には差があるようだった。円盤に乗って移動するウンディは翼を持つシルフィーのようにあまり自由に空を飛び回るような真似はできない。只空中でも足をついた状態でいられる為体勢を制御する能力は高い。他の属性の精霊達にもそれぞれ特徴的な個性が設定されているのだろう。
“ヒューーン……”
「そろそろね……、はあっ!。バブル・キャプチャーっ!」
“ヒューーーー……プワンッ!”
ウンディは昨日もアイアンメイル・バッファローとの戦闘中にガルダスウィング対して使用したバブル・キャプチャーを発動した。昨日はシホとの連携で中に閉じ込めた敵を爆散させていたが、今はセイナとの戦いの時にウィザードラゴンラプターが見せたように水泡で天だくを保護する為に使用したようだ。ウンディの作り出した水泡は表面の膜をプルッと震わせながら落下して来た天だくを包み込んだ。
「ふぅ……。後はこのまま皆のいる安全な場所まで運んでっと……」
「……っ!。危ないっ!、ウンディっ!」
「えっ……」
“ゴオォレェェェッ!”
「ぐっ……、ぐぅぅぅぅっ!。こ、これは土属性魔法のロック・ブラストだわ……」
無事天だくを保護したウンディだったが、それを見たサークルゴーレム達がウンディと天だくを包んでいる水泡に向かって魔法を放ってきた。片手を敵に向けて小さな土属性のエネルギーの塊を放つ低級魔法であるが、地上にいたサークルゴーレム達が一斉に放ってきていた為ウンディ達に何発もの土の弾が襲い掛かってきた。ウンディはなんとかバブル・キャプチャーの水泡を制御しながら魔法の弾丸を躱そうとしたが、体の小さいウンディはともかく水泡の膜はすぐにでも破られてしまいそうであった。
「うっ……、このままじゃあ天だくを包んだ水泡が……それに私もいつまでも躱し切れな……っ!。きゃあぁぁぁぁぁっ!」
「ウ、ウンディ……っ!。このままじゃあまずいわ。早くあのサークルゴーレム達を片付けに行くわよ、ナギっ!」
「うんっ!。行くよ、デビにゃんっ!」
「了解にゃっ!」
「気を付けてね、ナギ、ナミちゃん、それにデビにゃん。私とマイちゃんが後ろから矢で援護するから」
「それに私の信仰魔法であなた方に特殊な加護を施しておきましょう。例によってあなた方のMPも消費してしまいますが、この加護を受けている間HPの最大値が上昇し自動回復速度も早くなります。……レリジャス・プロテクションッ!」
「ありがとう、レミィ、ラスカルさん。それじゃあ行くわよ〜」
サークルゴーレム達の攻撃を受けているウンディを見てナギ達はすぐに救出に乗り出した。シホのパーティメンバー達も救出に向かおうとしていたのだが、サークルゴーレム達を突破するのに時間が掛かっているようだ。しかも先程のミステリー・サークルゴーレムの攻撃でパーティの要であるセイナが離脱している。一方ナギ達は怒涛の攻撃でサークルゴーレム達の群れの中を強引に突き進んでいた。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!。アースフロー・ビローイングッ!」
「邪魔なのよ、あんた達っ!。ていっ!、たあっ!、とおっ!。はあぁぁぁぁっ……、気功掌底波っ!」
“ゴレェェェェ……ッ!”
ナギは昨日大活躍したアースフロー・ビローイング、昨日のような凄まじいものではなく通常の威力のものだったが目の前にいるサークルゴーレム達を泥の中に埋もれさせていった。ナミは拳と足技のコンボでサークルゴーレム達の硬い体を粉砕していた。止めに使っていた気功掌底波は両手のひらで掌底を繰り出し、敵に当たった瞬間に溜めていた闘気をエネルギー波に変えて放出する技なのだが、そのエネルギー波でサークルゴーレムの重い体を宙へとと舞い上がらせてそのまま上空で相手の体をバラバラに粉砕してしまっていた。だが、それでも耐久力の高いサークルゴーレムが相手では倒し切れない場合も多く、その場合は土砂に埋もれたところやナミの攻撃で怯んだところをレミィとマイが弓とボウガンの矢で止めを刺してくれていたようだ。吉住とアクスマンもナギ達に協力して二人と運ばれてきた天だくを回復させる為のラスカルと激痛整体師を懸命に護衛していた。
「にゃあっ!、にゃあっ!。……ふぅ〜、さっかから僕ナギとナミが弱らしてくれた敵しか倒せてないにゃ。得意の真空突きの風を起こしてもこいつら全然吹っ飛ばないし、バーサクミートを食べてないにしてもちょっとステータスが貧弱過ぎるにゃ。せめて僕もナギやナミみたいに新しい武器がほしいにゃぁ……」
どうやらデビにゃんの攻撃ではサークルゴーレムはビクともしなかったようだ。相性の差もあっただろうがデビにゃんは自身のステータスの低さを改めて嘆いていた。魔族型として様々な便利な能力に恵まれている分仕方のないことではあるのだが……。そうこうしている内にナギ達はウンディと天だくを包んだ水泡がある真下の位置まで来ていた。ロックブラストを放っているサークルゴーレム達も粗方処理しウンディ達が降りてくる場所も確保できていたようだ。
「てぇりゃぁぁぁぁぁぁっ!。……よしっ!、これで魔法を放ってるゴーレム達も大分減ったわね。もう大丈夫よ、ウンディ。早くこっちに降りて来てぇ〜〜」
「ありがとうっ!。今行くからちょっと待ってて……」
「………。それにしてもこの大きいゴーレムさっきからちっとも動かないね。体が大きすぎる分一つの動作に余計時間が掛かるようになってるのかな」
「そうだにゃ。むしろこんなに大きな奴に動き回られたらあっという間に踏み潰されちゃうにゃ。でもこういう奴に限って動かない状態から強力な技を……ってにゃぁっ!。ナ、ナギ……っ!、あれを見てくれにゃっ!」
「えっ……。どうしたの、デビにゃ……ってああっ!。あいつの顔の模様がまた光ってるっ!」
「本当だわ。しかも今度光ってるのはあの大きい真ん丸の模様よ。さっきとどう違うのかしら」
ナギ達が上を見上げてウンディと天だくが降りてくるのを待っていると、その遥か上のミステリー・サークルゴーレムの顔の部分が再び光を放ち始めていた。更に遠視で確認したナミによると先程セイナを吹き飛ばした光線を放った時とはまた違う模様だったようだ。その光はまるで力を蓄えていくようにどんどん輝きを増していった。
“ゴレェェェ……”
「ど、どうなるんだにゃ……」
“ピキィーーーーン……、ドドドドドドドドドッ!”
「にゃ、にゃんにゃあれはっ!」
ミステリー・サークルゴーレムの顔の模様からは先程と同じように光線が放たれた。だが今度は先程は直径の大きさが段違いのものであった。セイナに放たれたのは直径2メートル程度、この光線は5メートル以上はあっただろうか。更に放たれた場所はナギ達のところではなく、レイチェル達雑魚処理担当のメンバーがいるサークルの外側の辺りで、ミステリー・サークルゴーレムの顔と共に横に移動しながら広範囲に渡って大爆発を巻き起こしていた。
“ドドドドドドドドドッ……”
「な、なんだ……っ!。う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「な、なにあれ……。段々こっちに近づいて来てる……っ!。だけど震動に足が取られてまともに逃げられな……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その範囲内にいたプレイヤー達は皆悲鳴を上げながら次々と戦闘不能になっていった。一応敵のサークルゴーレムも巻き込んでいたがどちらにせよすぐに復活してしまう。恐らく30人以上のプレイヤー達がやられてしまった。周囲にいた無事なプレイヤー達がすぐさま救助に向かっていたが、例え蘇生を受けたとしてもその者達は皆ステータスが減少した状態になってしまうので相当な戦力ダウンになってしまろうだろう。陣形を立て直すのにも時間が掛かる。これだけの被害を巻き起こしながら不思議なことにストーンサークルを象る石達はまるで無傷であった。
「ひやぁ〜〜〜っ!。なんなんだ、今のはよ……。さっき私達のいたところがあっという間に焼け野原にされちまったぜ」
「ど、どうしましょう……。私達も救援に向かった方が良いのでしょうか……」
「いや、それより奴をどうにかしなければまたあのレーザーのようなものを発射されてしまう。幸い奴の行動の間隔はかなり広いようだ。次が発射されるまでにはまだ時間があるだろう。今はナギ達のところに向かうことを優先するぞ」
「(それにあれだけの爆風でもストーンサークルの石は全く壊れていない……。やっぱりこのゴーレム達とあの石には深い関係があるんだ……)」
「分かった。それじゃあ急ごうぜ、皆」
背後からの爆風を聞いて、セイナやレイチェル達は咄嗟に後ろを振り返りその凄まじい爆発を見て暫く呆然と立ち尽くしてしまっていた。それはまさに先程までレイチェル達が戦闘をしていた場所で、セイナを送り届ける為に移動しなければ自分達も爆発に巻き込まれてしまっているところだった。被害を受けた討伐隊のメンバー達の救援に行くかどうか迷っていたようだが、今はミステリー・サークルゴーレムを倒すことを優先すべきだと判断した。まだ蘇生魔法を使えるプレイヤーが少ない今、リヴァイブ・ストーンで懸命に戦闘不能から蘇生しているプレイヤー達を背にセイナ達は急いでナギ達のところへと向かって行った。
「なによ……あれ……。一撃で皆やられちゃったじゃない……」
「本当だ……。昨日のアイアンメイル・バッファローの技と同じぐらいの破壊力だよ……。あんなの何発も打たれたらあっという間に全滅させられちゃうよ……」
「にゃあ……。動きがトロイからって油断しすぎてたにゃ……」
ミステリー・サークルゴーレムの攻撃に呆然とさせられているのはナギ達も同じだった。昨日戦ったアイアンメイル・バッファローの波動ブレスを思い出しボスクラスの敵との戦いの厳しさを改めて実感し直していたようだ。
「ちょっとあんた達っ!。何ボケっとしているの。まだサークルゴーレム達は復活し続けているのよ」
「えっ……」
“ゴォ〜〜レェェェッ!”
「はあぁぁぁぁぁ……、パイロブレイド・スラッシュっ!」
“ズバァァァァァァンッ!”
“ゴレェ〜〜〜……ッ!”
「……リアっ!」
衝撃のあまり戦闘から意識が遠のいているナギ達の不意を突いて再びサークルゴーレム達が攻撃を仕掛けてきた。敵への対応が遅れてしまったナギ達だったか、そこへリアが駆け付けて来て一体のサークルゴーレムを両断してしまった。ナギ達の意識も戦闘の方へ戻ったようだ。
「今はあの天丼頭の救出が優先でしょ。私達がこいつらの相手をしてる間に早く安全な場所に連れて行きなさい」
「私達……?」
「うおぉりゃぁぁぁぁぁっ!」
「奈央子さんっ!」
「とりゃぁぁぁぁぁっ!。踵落撃っ!」
「ヴェニルッ!、イーグル・スパイラルッ!」
“ヴェニィィィッ!”
「爆裂少女さんっ!、それに鷹狩さんにヴェニルっ!。皆来てくれたんだね」
「すまんな、お前等。うちの馬鹿が迷惑ばかり掛けて。こんな奴でも一応リーダーだから早く回復してやってくれ」
リアに続いて奈央子達も駆け付けて来た。爆裂少女が使用していた踵落撃とは文字通り踵落としのことだ。彼らがサークルゴーレム達の相手を引き受けてくれ間にナギ達は急いで天だくをラスカルと激痛整体師の元へ連れて行った。
「……こりゃ駄目だ。HPは回復できたが気を完全に失っとるわい。この気絶の状態異常は今のわし等ではどうしようもないのぅ」
「そうですね……。ステータス画面のデータを見るに後5分は目を覚ますことはないようです。この窮地にリーダーからの指示がないのはまずいですね。このままでは討伐隊全体の崩壊に繋がってしまいます……」
どうやら天だくは強い気絶状態になってしまっていたようだ。白目を向いて口から泡を吹いた状態で地面に寝かされれていた。攻撃の反動の衝撃よりむしろ足を滑らせて落下してしまったショックが大きかったのだろう。50メートルもの高度の上落ちる瞬間に身体が麻痺してしまっていのだから仕方のないことである。そしてラスカルの言う通り天だくからの指示がないことで討伐隊のプレイヤー達に動揺が広まっていた。
「ど、どういうことなの……。こんなに大勢のプレイヤー達が戦闘不能になっているっていうのに天だくさんからの指示が全くないなんて……。私達はこのまま蘇生に集中し続けてればいいの……。それともあいつを倒す為に中央に進軍すべきなの……。もう……、一体どうすればいいのよ……」
「全くだぜ……。正直もう撤退した方がいいんじゃないかって思ってるぐらいなのに……。普段の天だくさんならこんな時は迅速に決断を出してくれるはずだ……。まさかもうあいつにやられちゃったんじゃ……」
「そ、そうかも……。さっきあの美城聖南もこの辺りまでやられて吹っ飛ばされて来たっていうし……、もしかしてもうあいつの相手をしてるメンバー全員全滅させられたんじゃないのかぁっ!」
「そ、そんな……。あの大きいのを倒さないとこの小さいゴーレム達は延々と復活し続けるんでしょ。それじゃあ私達はずっと不毛な戦いをしているだけじゃない……」
「そ、そうだ……。やっぱりもう逃げた方がいいんだ……わあぁぁぁぁぁぁっ!」
天だく不在の影響は先程セイナが吹っ飛ばされたときよりも遥かに大きかった。動揺は蘇生活動をしているプレイヤー達にじわじわと広がって行きある峠を境に一気に爆発しだした。皆勝手にナギや天だく達の全滅を想像し、慌ててその場から逃げ出す者が数多くいた。端末パネルでデータを見れば残りのHPの状況ぐらいは確認できるのだが……。
「やはり混乱は避けられなかったようですね……。見る見る内に戦線が崩壊していきます。早く手を打たないと取り返しがつかなくなりますよ」
「そんなこと言われても一体どうすれば……。ここにいる人達は皆天だくさんを慕って集まって来た人だし、僕達はあんまり余計なこと言わない方がいいよね」
「そうね……。リーダーを決める時も皆こいつを支持してたし……、下手したらもっと混乱させちゃうことになるかもしれないわ」
「せめてセイナさんが戻って来てくれれば……」
「お〜い。ナギ〜、ナミ〜、デビにゃ〜ん」
「……っ!。レイチェルっ!。それにカイル達もっ!。そしてまさかあれは……」
「セイナっ!。皆が連れて戻って来てくれたのねっ!」
気絶から目覚めない天だくに頭を抱えていたナギ達のところに、今レイチェル達がセイナを連れて駆け付けて来た。天だくの代わりにこの収拾できるセイナが戻って来たことは当然嬉しいことであったが、ナギは昨日共に戦ったメンバー達が揃ったことが何より心強かった。ただできれば塵童もこの場にいて欲しかったと密かに心に抱いてようだ。
「暫く戦線を留守にして済まなかったな。かなりのダメージを負ってしまっていたのだがレイチェル達のおかげで今はこの通りピンピンした状態だ。……っで、あれから状況はどうなっているのだ」
「それなんだけど……、実は天だくさんが……」
「むっ……、これは完全に気を失っているではないか。なるほど、それで天だくからの指示がなく隊の混乱の収拾がつかなくなってしまったというわけか」
「岩の上からあれだけ息巻いてたくせに全くだらしねぇな。おまけに蟹みたいに泡吹いてやがるしよ」
「あの高さから落下したんですから仕方無いですよ、レイチェルさん。それよりこの状況を一体どうしましょう。見たところナギさん達もかなり苦戦しているというか、結局サークルゴーレム達の相手ばかりさせられていて相手の親玉に全く有効打を与えられていません。これはもう撤退を考えた方がいいんじゃ……」
「待ってっ!。その前に皆に話しておきたいことがあるんだ」
「えっ……、どうしたの、カイル」
「実はさっきこのストーン・サークルの石が……」
セイナを連れて駆け付けて来たはいいが、ミステリー・サークルゴーレムを倒すどころか自分達と同じくサークルゴーレムの相手ばかりをしているナギ達の状況を見てアイナまでもが撤退を示唆し始めてしまったいた。確かにこの状況を見れば今のナギ達に勝ち目はない。だがその時カイルがセイナと天だくが攻撃した時にストーン・サークルの石に入ったヒビのことを話し出した。カイルの話を聞いたナギ達はその現象に非常に関心を持ち皆でその謎について考え始めた。
「それは確かに気になる現象ね。でもそれじゃああいつを倒せばこのストーン・サークルも皆崩壊しちゃうってこと?。それじゃあここ占拠する意味がなくなっちゃわない?」
「いや……、確かにそうなる可能性もあるけど、僕は逆にこのストーン・サークルを攻撃したらどうかと考えてるんだ」
「……っ!、そうかっ!。あいつを攻撃して石にヒビが入ったなら、石を攻撃してあいつにダメージを与えられる可能性もあるってことだな。流石カイルっ!。頭いいぜ」
「そうだよっ!。石が相手だったら動くこともないし誰でも簡単に壊せるし、きっとそれがあのゴーレムの攻略法だよっ!」
「ええ。これはナギ君のお友達が有用な情報を持って来てくれましたね。石を壊しただけであいつを倒せるかどうかは分かりませんんが、何かしらの変化はありそうです。恐らくまず石を破壊することがダメージを与える為の前提条件になっているのではないでしょうか」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。やっぱりナギの親友だけあって頼りになるにゃぁぁぁぁぁっ!」
「うん……、それで破壊された石については時間が経てばまた自動で元に戻ると思うんだ。だから早く皆に石を壊して回るよう指示を……」
「それならセイナさんが適任だよっ!。セイナさんの指示ならきっと皆も納得して聞いてくれるだろうし、僕達も今から石を壊して回ればすぐ皆が行動を真似てくれるはずだよ」
「よっしゃっ!。じゃあセイナ……」
「うむっ。今すぐ端末パネルで拡声器をオンにして……」
「ちょっと待ちなさってっ!、あなた達っ!」
「えっ……」
カイルの話を考察したナギ達は逆にこちらから石を壊せばミステリー・サークルゴーレムに何かしらの影響を与えられるのではないかと判断したようだ。そして皆に指示を広げる為に自分達も石の破壊を開始しようとしたのだが、その時不意にあの不仲が現れて話掛けてきた。この切羽詰まっている状況で一体何の用なのだろうか。
「お話は聞かせていただきましたわ。どうやらその天丼頭さんが目を覚まさずにお困りのご様子……。ならば皆に指示を出すのはこの私に任せていただきましょう。セイナではとてもリーダーの変わりなど務まりませんわ」
「えーっと……。それじゃあ僕とデビにゃんとナミはこのままレイチェル達が来た方向の石を壊しに行くね。カイルとヴィンスは東、馬子さんとアイナは南、レイチェルとボンじぃは北をお願い。セイナさんはここで天だくさんに代わって司令塔になってあげて。レミィさんやマイさん達は残ってリア達の援護をしていてくれる?」
「OKよ。なんだかナギが私達のリーダーみたいになちゃったね」
「えっ……。ご、ごめん……っ!。自分からレミィさんに指示を出してくれる頼んだのに出しゃばったこと言って……。昨日会ったばっかりだけど気心知れたメンバーが集まって来たからつい……」
「いいよ。なんかナギって皆から慕われてるみたいでリーダーに向いてるみたいだし。私もナギみたいなプレイヤーは協力し甲斐があって好きだなぁ」
「ちょっとっ!。なにが“好きだなぁ”ですのっ!。リーダーとして慕うならそんな冴えない男性より私……」
“キィーーーン……”
「よしっ……。皆、こちらはセイナ・ミ・キャッスルだ。厳しい状況に逃げ出したくなる気持ちはまだ諦めずに戦ってくれ。実はこの状況を打破する為の秘策をあるプレイヤーのおかげで得ることができた。皆これから言う指示をよく聞いて迅速に行動を起こしてくれ」
「なっ、何勝手に指示を出してくださってますのっ!。天丼頭さんの代わりに指揮を取るのはこの私だと……」
「それじゃあ僕達も早く石を破壊しよう。行くよ、ナミ、デビにゃんっ!」
「了解っ!。やっぱりナギから指示を受けるのは一番しっくりくるわ」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。石が相手なら僕でも十分活躍できるにゃっ!」
「な、なんですの……。先程から私のことを完全に無視して……」
ナギ達は不仲のことを完全に無視してストーンサークルの破壊を開始した。ナギにして珍しく冷たい対応だったがそれだけ状況が切羽詰まっていたということだろう。セイナの指示も上手くいったようで皆四方に散らばったナギ達に続くようにサークルゴーレムの相手をしながら周囲の石を壊し始めた。
「い、今のは確かに聖南さんの声だ。なんかやられたって噂が流れてたけどやっぱり無事だったんだねっ!」
「当然だぜ。それより石を壊せってどういうことだ……。まさか本当に石を攻撃しろってことか……」
「うおぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
“ズバァァァァァァンッ!”
「お、おおぉ……。あの金髪の女マジで思いっ切り石を叩き割りやがった……。よ、よしっ、俺達もあの人達に続くぞ」
「おおぉーーっ!」
「へへっ……、どうやら上手くいったみたいだな」
レイチェルは皆に目立つようわざと派手に叫びながら剛破斬で石を叩き割っていた。まぁ、声が大きいのは元からであったがその作戦は上手くいき、皆レイチェルの勢いに乗せられたおかげで躊躇がなく石に攻撃を仕掛けることができたようだ。動かない相手を攻撃するというのは例え相手が生物でなくても気が引けることである。
「キイィィィィィッ!。なんですの、皆セイナの指示などに従って……。討伐大会で私が1位になったことをもう忘れてしまったのかしら。それにあの赤い髪の青年と少女達も私のことを完全に無視してなんて失礼な人達ですのっ!」
「ちょっとあなたっ!。いつまでもグチグチ言ってないで私達はリア達の援護をするわよ。多分石を壊すだけじゃああいつを倒すことはできないだろうし、その後は私達で止めを刺さないといけないんだからね」
「そうですわっ!。ここであの巨大なゴーレムの止めを華麗に決めれば皆さんにこの私とことがヴァルハラ国ナンバー1プレイヤーであることを改めて知らしめることができますわ。そうすればセイナなどの指示に従うこともないでしょう」
「……な、なんかよく分んないけどやる気が出たのならいいわ。あなたも私と同じ弓術士でしょ。それなら私は反対側で皆の援護をするわね」
「同じ弓術士……。あら、あなたは先程からあの派手な光の矢を飛ばしていた方ではないですか。ちょっとあれはどういうことですの。昨日ゲームが始まったばかりだというのにどうしてあのような技を使えるなんておかしくなくて。もしかして不正なチートプログラムでも使用しているのではないですの」
「ち、違うわよっ!。私はNPC、つまりはゲームの中のキャラクターだから最初からレベルが高い状態でスタートしているの。あの矢は魔弓術士の職に転職すれば使えるようになるわよ」
「なっ……、あなたNPCでしたのっ!。それにしては少し目立ち過ぎではなくて。いとも簡単にあんな矢を放たれていては同じ弓術士でもプレイヤーである私の立場がありませんわ」
「えっ……、ご、ごめんなさい……。でも一応序盤はプレイヤー達の見本になるように予めある程度能力の高いNPCが配置されるようになってるの。最終的にはあなた達プレイヤーの方が能力値は高くなるはずだからあんまり気にしないで」
「ふんっ、それは当然ですわ。プレイヤーよりNPCの方が強いゲーム等なんて欠陥商品ですの。それではなるべく私を引き立てるプレイを心掛けてくださいまし」
「わ、分かったわ……。それじゃあ私は向こうに行くね。……なによ、あいつ。同じプレイヤーでもナギ達とは豪い違いだわ。これはちょっとリアがプレイヤーを毛嫌いしてた気持ちも分かるかも……」
どうやら不仲は魔弓を使い光の矢を放っているマイが自分より目立っていることが気に食わなかったらしい。確かに魔弓術士であるマイの放つ矢はただ弓術士である不仲をより断然派手で性能もいい。今の段階では何も意識せずとも自然と他の弓術士達より人気を引いてしまう。だが自分の力を最大限発揮して討伐に貢献しているマイからしてみれば不仲の言い分は完全な言いがかりである。心の中では当然不満を感じていたが、今は戦闘に集中する為事を荒立てないようななるべく穏便な言葉を返してリア達の援護に向かって行った。
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!、必殺真空突きにゃぁぁぁぁぁぁっ!」
“グシャァーーーーンッ!”
一方ナギ達も順調に石を破壊していた。今もデビにゃんが得意の真空突きで粉砕された石の破片が辺りに飛び散っていた。石が相手とはいえ一撃で破壊できたことにデビにゃんは喜んでいたようだ。
「よーしっ!、この程度の硬さの石なら僕でも一撃で破壊できるにゃ。でもこれで本当にあいつに何かしらの影響……ってにゃっ!。あ、あれはどうしたんだにゃ……」
“ゴ、ゴレレェ……”
「な、なんか何もされてないのにあのサークルゴーレムが苦しみ始めたにゃ。一体どういうことなんだにゃ……」
“ピキッ……バキバキバキバキバキッ!、……グッッシャァーーーーンッ!”
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!、サークルゴーレムの体が勝手に砕けて死んじゃったにゃっ!。もしかしてこれが石を壊した影響なのにゃ……」
なんとデビにゃんが石を破壊した直後に近くにいたサークルゴーレムが苦しみだしたと思うとそのまま勢いよく砕け散ってしまった。サークルゴーレムの残骸はそのまま消滅してしまったのだが、どうやらこの現象はデビにゃんの予想通りストーンサークルの石を破壊した影響のようだ。その証拠にこの現象はこのストーン・サークル全域で起こっていた。
「な、なんだ……。こいつ急に苦しみだしたと思ったら勝手に砕け散りやがって……」
「きっとこれが聖南さんの言ってた攻略法よっ!。きっとこの石一つとサークルゴーレム1体の命とリンクしてるんだわ。つまりこの石を全部破壊すればもう小さいゴーレム達は復活しなくなるってことなのよっ!」
「そういうことかっ!。こいつらさえいなくなれば後はあのデカブツを集中攻撃で倒せばいいだけだ。それならまだ十分勝機はあるぜ」
「ああ、聖南さん達なら必ずぶっ倒してくれるぜ。ところで我らが天だくさんは一体どうなったんだ……」
やはりこのストーン・サークルの石を破壊するごとにサークルゴーレム達も破壊されていくことは間違いないようだった。しかも同時にミステリー・サークルゴーレムのリスポーン・ホストの能力を無効化する条件も満たすようで、破壊されたゴーレム達は二度と復活することはなかった。石を破壊するぐらいならどの職業に就いているプレイヤーでもできるはずだ。これでサークルゴーレム達はすぐに無力……。
「とおぅりゃぁぁぁ〜〜〜じゃっ!」
“バキッ”
「あ、あれ……、石を壊すはずが反対にわしの杖が折れてしもうたぞ……。ま、まぁすぐに元に戻るはずじゃが一応折れた先を拾っておこ……っ!」
“グキィィィッ!”
「う、うぅ……。全力で杖など振ったから腰を痛めてしもうた……。こりゃ暫く動けそうにないのぅ。それにしてもあんな石の一つも破壊できんとはなんと情けない……。今度セイナにゲームの中での体の動かし方を訓練してもらおうかのぅ……」
「……一体何やってんだ。全くあのジジィはよ……。いいから放っておいて私は石の破壊を続行するか」
誰でも破壊できると思われたがどうやらボンじぃには無理だったようだ。ゲームの中では年齢による肉体の差はないというのになんとも情けないことである。一緒に北の方向に来ていたレイチェルも最早呆れ果てて注意すらする気配もなかった。なんせよ石を次々と破壊されミステリー・サークルゴーレムの周りでリア達が相手をしていたサークルゴーレム達もどんどん砕け散っていった。
“グシャァァァ……”
「……こいつも勝手に砕けて死んでくれたわ。どうやら皆が石を破壊してくれたおかげみたいね」
「おっしゃぁぁぁぁぁっ!。後はこのデカブツをぶっ倒すだけだな。行くぜっ!、爆笑女っ!」
「ああっ!。天丼頭が起きない内に倒して後で悔しがらせてやるぜ」
「あっ!、ちょっと待ってください、二人ともっ!。まだ簡単にそのゴーレムを倒せると決まったわけでは……」
どうやら討伐隊の皆が全ての破壊をし終わったようで、今リアの目の前で最後のサークルゴーレムが砕け散ったところだった。サークルゴーレムがいなくなったことでアンチ奈央子と爆裂少女は早速ミステリー・サークルゴーレムへと攻撃を仕掛けにいったのだが……。
「へっ!、俺は別にセイナや天丼頭みたいにわざわざ顔まで上って行ったりはしないぜ。こういう奴は大抵足を攻撃してればいんだよ。はあぁぁぁぁぁぁっ!、……旋風破斬っ!」
“ズバァァァァァァンッ!”
「よしっ!。やっぱり手応えバッチリだっ!。どうやらあの馬鹿気た防御力はもうないみたいだぜ。まぁ、セイナと天丼頭の攻撃が弱すぎて跳ね返されただけかもしれねぇけどな」
アンチ奈央子の放った技は旋風破斬。体を回転させると共に大剣を振り回し、まるで竜巻のような斬撃を放ちながら宙に舞い上がっていった。更に空中へと舞い上がった後は落下の勢いと共に思いっ切り剣を振り下ろして相手の足を斬り付けた。竜巻の斬撃で周囲の敵を薙ぎ払いながら最後に剛破斬のように強い斬撃を放つ強力な技だ。そして体が巨大過ぎたため特に相手の反応はなかったが、アンチ奈央子の剣を握った手にはダメージを与えた手応えがしっかりと伝わっていたようだ。斬り付けられた箇所にも斬撃の後のエフェクトがくっきりと刻み込まれていた。
「私はこっちの足を攻撃だっ!。こんなトロイ奴には思いっ切り気持ち良く真空正拳突きをおみまいしてやるぜ。はあぁぁぁ……」
“ゴレェ……”
「……っ!。待って爆ちゃんっ!。なんだかそのゴーレムの様子がおかしいわ。奈央君も早くそいつから離れてっ!」
「えっ……、どういうことですかシホさん」
「……っ!。シホの言う通りだぜ。なんか急にこいつの足……いやっ!、天辺の頭まで熱を帯びたみたいに赤色に染まり出しやがった。こりゃなんか大技が来るぞ。早く離れるぞオカマ野郎っ!」
「お、おうっ……」
「私達もなるべく距離を取って攻撃に備えましょう。ウンディ、悪いんだけどまた天君のことをお願い」
「分かりました。マスターもお気を付けください」
続いて爆裂少女が真空正拳突きで攻撃を仕掛けようとしたのだが、その時突如としてミステリー・サークルゴーレムの全身が熱せられたように赤く染まり始めた。何かの攻撃の前兆と判断したアンチ奈央子と爆裂少女は即座にその場を離れ、周りにいたセイナやリア達も距離を取って防御の態勢を取っていた。
「くっ……、これもストーン・サークルを破壊した影響かしら。どうやらこっちにメリットばかりがあるわけではなかったみたいね」
リアの言う通りストーン・サークルの石を全て破壊したことがこの現象を引き起こすトリガーとなっていたようだ。恐らく防御力が大幅にダウンする代わりに他の攻撃面の能力が強化されるのだろう。言うなれば戦闘形体に移行したというところか。そしてその攻撃力の凄まじさを見せつけるようにミステリー・サークルゴーレムの最大の技、サークル・オブ・ラースが放たれるのだった。
“ゴオォォォ……”
「……っ!。来るぞ、皆の者っ!。早く衝撃に備えるのだっ!。この攻撃の範囲は恐らく相当広いぞ」
「くっ……、急がないと天だくが……。よしっ……、バブルキャプチャーッ!」
“プワンッ……”
「後は私も衝撃に備えなきゃ……。リプル・シールドッ!」
“……レレレレレレレェェェェェェッ!”
“ヒュイィーーーーーン……、ドッカァァァァァァンッ!”
この攻撃はかなりの広範囲だと察知したセイナは討伐隊全員に防御の体勢を取るよう指示を出した。皆セイナの指示に即座に反応し、ナギ達も何事かと思いながらセイナの指示に従い腰を低くして足を踏ん張り攻撃の衝撃に備えていた。ウンディはというとセイナの指示を受けて急いで天だくを再びバブルキャプチャーの水泡の中に包み込んでいた。自身はリプル・シールド、波紋の盾という意味の魔法を発動させ、目の前に水面に何か物が落ちた時に起きる何重にも広がった波の形をした盾を作り出した。そして天だくの前に自分と一緒に守りの体勢に入ったのだが、ちょうどその直後にミステリー・サークルゴーレムの巻き舌の叫び声と共に凄まじい爆風が巻き起こった。
「な、なんだ……、急に生暖かい風が……っ!。う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐぅ……、私の盾じゃあこの衝撃は防ぎ切れないわ……、て、天だく……きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
“……パァンッ!”
「……あっ?」
ミステリー・サークルゴーレムの放ったサークル・オブ・ラースは、最初にストーン・サークル何に少し熱を帯びた風が広がり、次の瞬間自身の体を中心に爆発を引き起こしたと思うと一気に凄まじい爆風の衝撃がサークル全域へと迸った。どうやら範囲は壊れてしまったがこのストーン・サークルがあった範囲とシンクロしているようだ。その破壊力は凄まじく、更にこの爆風の威力はミステリー・サークルゴーレムとの距離に関係なく衝撃とダメージを与えているようだった。討伐隊のメンバー達は皆その爆風の衝撃に吹き飛ばされてしまい、多くの者達が戦闘不能の状態へと追いやられてしまった。ウンディも爆風を防ぎ切れず天だくを包んだ水泡と共に吹き飛ばされてしまったのだが、その時爆風の衝撃で水泡が割れると同時に天だくが目を覚ましていた。いきなり爆風の中に放り出されて困惑していた天だくだったが、自身と共に宙へと吹き飛ばされているウンディを見るとすぐさま行動を起こした。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ウ、ウンディ……、くそっ!」
“バッ……っ!”
天だくは急いでウンディの小さな体を手で掴むとそのまま体の中に抱え込んだ。そしてなんとか空中で体勢を整えてそのまま地面に着した。どうやら二人とも無事のようだ。
「大丈夫か、ウンディ」
「て、天だく……。うん、大丈夫よ、どうやら目が覚めたみたいね」
「ああ、ところでこれは一体どういう状況なんだ」
「それは……」
ウンディは天だくに気絶している間の経緯を話し始めた。一方他の主要メンバー達もなんとか爆風の衝撃を耐えしのぎ態勢を持ち直そうとしていた。ナギ達と共に石の破壊に向かったレイチェル達、一応ボンじぃも無事だったようだ。だが天だくに集められた主要メンバーは全員無事だったものの、周囲のサークルゴーレムの処理を担当していたメンバー達は7割以上が戦闘不能になってしまい、すでに全体に行き残っているプレイヤーは50人を切ってしまっていた。
「……はっ!、なんじゃったんじゃ今のは……。なんとも凄まじい爆発が起きたようであったが……」
「痛てててててっ……。全くだぜ、私も大剣を地面に突き立てて踏ん張ってたのにそれごと吹っ飛ばされてしまった。それにしてもよくあの爆風で無事だったな、爺さん」
「ほほっ、わしが一体どれだけの時代を乗り越えてきたと思うとるんじゃ。時代の流れに乗るように風に身を任せればダメージなどほとんどないわい。お主みたいな粗暴な輩に直接叩き斬られたら別じゃがの」
「一体どういう理屈だよ……。まぁ、無事だったんならそれでいいか。それよりナギ達はどうなったんだ。周りは戦闘不能で倒れてる奴らばっかりだけどよ……」
どうやらレイチェルとボンじぃは被害を最小限に抑えられたようだ。二人はナギ達の心配をしながら取り敢えずミステリー・サークルゴーレムとセイナ達のいる中央へと向かって行った。
「くぅ〜……なんなの今の。もの凄い爆発だったわね。大丈夫、ナギ、デビにゃん」
「な、なんとか……。昨日アイアンメイル・バッファローを倒したおかげでレベルとステータスが上がってるのが幸いしたよ」
「僕も体が小さいおかげで叩き付けられた衝撃が少なくて助かったにゃ。でも周りのプレイヤー達は……、皆やられちゃったみたいだにゃ……」
「昨日の僕達はいくらなんでも上手く行き過ぎてたからね。他の人達はまだ十分にレベルを上げられてなかったんだよ。カイルやレイチェル、それにセイナさん達は大丈夫なのかな……」
レイチェル達と同じくナギ達も爆風を耐えしのぎ起き上がっていた。ナギやレイチェル達が無事だったのにはアイアンメイル・バッファローを倒して入手した経験値によるレベルとステータスの上昇が大きく影響したらしい。特にナギはマイのイベントのおかげでそこから更に総合レベルが10も上昇している。レベルと基礎ステータスだけならセイナより上のはずだ。
「……どうやら大丈夫みたいよ。皆起き上がって体勢を立て直してる……。天だくも目が覚めたみたいね。もう皆を蘇生させるよりも早く私達も戻ってあいつへの攻撃に参加した方がいいんじゃない」
「うん……、でもちょっと待って。もしかしたら何かあいつの情報が更新されてないか確認してみるから」
「そうね。あいつの近くにいるセイナ達はそんなの見てる暇ないでしょ……っ!。でもなるべく早くした方が良さそうよ。あいつがまた何か攻撃を仕掛けはじめてきたわ」
ナミが遠視で確認すると中央には爆風から起き上がっているセイナ達の姿があった。気絶から覚めてウンディと話ている天だくの姿も確認できたようだ。だが当然ミステリー・サークルゴーレムも健在ですぐにでも援護に向かいたかったが、ナギの提案で今の内に端末パネルの最新のデータを確認することになった。一度アナライズの魔法を掛ければ相手の状態が変化してもある程度の情報は更新してくれるようだ。場合によってはもう一度魔法を掛けなおさなければならない場合もある。
「えーっと何々……っ!。防御力のステータスの横に防御力の大幅減少の表示が付いてるっ!。これならあいつにもダメージを与えられそうだね。でもその代わり攻撃力のステータスもかなり上昇してるみたいだ……」
「な〜にっ!。攻撃なんて当たらなければへっちゃらよ。それより攻撃が効くようになったのなら早く倒しちゃいましょうよ。またあんな大技を使われたらたまったもんじゃないわ」
「待って……。次の魔物に関する説明のページにも更新があるみたい。えーっと……、ミステリー・サークルゴーレムはストーン・サークルのような神秘の力が宿った場所にのみ生息、そしてその地形の範囲から決して外にでることないモンスターで……」
「そんなのもう分かってるわよ。更新があるなら一気に下まで読み進めちゃったらっ!」
「分かったよ。……またその特殊な地形と密接な関係があることが多く、その関係の謎を解き明かさなければ特殊な防御壁が働き一切のダメージを与えることができない。謎を解明した後はダメージを与えられるようになるが、HPはかなり高くまたほとんど動くことがなかった行動パターンが攻撃的なものに一変する。そのままHPを削り切ることでも倒せるが、頭の天辺に付いているコアを破壊をすれば行動が停止しそのまま砕け散っ……っ!」
「ちょっとぉっ!。それって頭のあの青い奴のことよね。それを壊せばそれだけでこいつを倒せるってことぉっ!」
「にゃぁぁぁぁぁっ!。流石ナギにゃぁぁぁぁっ!。どんな時でも情報確認を怠らないMMOプレイヤーの鏡なのにゃっ!」
「よしっ!。それじゃあ早くこのことをセイナさんや天だくさんに伝えに行こうっ!。二人ならまた勢いよく上まで上って行ってくれるよっ!」
「そうね。どうせなら私も挑戦してみようっと。セイナならともかくあの天丼頭に貢献度のトップを取られたら嫌だからね」
「にゃぁぁぁぁぁっ!。そうだったにゃぁぁぁぁっ!。こうなったら僕も上って行ってナギの代わりに破壊してやるにゃぁぁぁぁっ!。貢献度ナンバーワンは僕のご主人様のナギしかいないのにゃぁぁぁぁっ!」
「で、デビにゃんにはちょっと難しいと思うけど……」
こうして貴重な情報を得たナギ達をそのことを知らせるべくセイナや天だくのところに向かって行った。なんと頭に就いている青い宝石なようなものを壊せばミステリー・サークルゴーレムを倒せるということだが果たしてナギ達は破壊できるのだろうか。セイナや天だくならばまた相手の体を伝って上って行くだろうがミステリー・サークルゴーレムの行動パターンは攻撃性の激しいものに変わってしまっている。貢献度ナンバーワンの座に輝くのは一体誰なのだろうか……。




