finding of a nation 55話
“ザッ……”
「……よし、僕達の配置場所はここだ。近くで見ると小さいゴーレム達もかなりの数がいるね」
サークルゴーレム達の討伐に乗り出したナギ達はまずはストーン・サークルを囲むようにしてそれぞれの配置に就いていた。これまで通り茂みの中にジッと息を潜め、天だくから攻撃開始の合図がでるのを待っていた。
「本当だわ。まず天だくに呼ばれなかったレイチェル達があいつらに仕掛けてくれるんだったわよね。それで数が減ったところに天だくの合図で私達があのでっかいゴーレムに突っ込んで行くと……」
「だね。でもやっぱり数だけなら僕達より遥かに多いね。こっちも100人以上いるっていのうにそれでも不安になってくるよ。そういえばこの討伐に参加してないプレイヤー達はどうしてるんだろう。例えばゲイルドリヴルさんとかがいればもっと心強かったのに……」
「ゲイルドリヴルってあの討伐大会で個人賞の3位に入ってた人?。それならブリュンヒルデさんが直々に出した依頼の方に行ってたよ。確か北の森の制圧とかだったかなぁ。っていうかほとんどのプレイヤーはそっちに参加してるみたいだったけどね。5000人ぐらいはいたんじゃないのかなぁ」
どうやらブリュンヒルデからの依頼の募集が早速掲示板に張り出されていたようだ。国のトップからの依頼となれば当然功績ポイントの取得量も多く、上手くいけばブリュンヒルデからの注目を得ることもできる。逆にブリュンヒルデからすればこうして依頼を出すことによってプレイヤー達に自分の方針に沿った行動を取らせることができるということだろう。当面の方針は木材を確保するための森の制圧と、農業と建築の内政強化のようだ。
「ご、5000人って凄いなぁ……。でもブリュンヒルデさんの依頼ってことは国の方針ってことだもんね。功績ポイントも取得しやすそうだし、そりゃ皆そっちを優先するよね」
「まぁ、そんなに数ばかり気にする必要はないわい。ここに来るまでの戦いぶりを見る限りこっちの奴らには筋金入りの実力者が揃っとる。わし等は量より質で勝負ってことよ」
「その通りだ。それより俺達のパーティの指揮はどうする。やはりここは俺が引き受けるべきか……」
「えっ……。悪いけど私はあんただけはないと思うわ。体格はデカいけどどことなく頼りない感じがするのよね」
「なっ、なに……っ!」
「私もナミの意見に同意よ。無愛想なくせに気取った態度取っててとても話ずらいわ。それならラスカルさんの方がいいんじゃないかしら」
「僕もちょっとあんたは話掛けづらいと思ってたところにゃ。真面目なのもいいけど少しは愛想良くした方がいいにゃよ」
「そ、そんな……」
自らこのパーティの指揮を買って出ようとしたアクスマンだったがナミとマイから辛い言葉を投げつけられてしまった。確かにマイの言う通り天だくに比べるとかなり口数が少なくコミュニケーションが取り辛いのかもしれない。
「がはははははっ!。今時の女にはそんな仏頂面したままじゃあモテないぞ、若いの。もっと気さくに微笑み掛けてやらんと誰も近づいて来んわい。なぁ、ラスカルさん」
「ええ、まぁ……。ですが私もどちらかと言えばリーダーという柄じゃないですね。吉住さんも勿論嫌でしょうし……」
「そうね。私もできれば自分の動きに集中したいし……。レミィさんはどう?」
「私?、いいよ、別に引き受けても。いつも現場を指揮してるから人を纏めるには慣れてるし」
「へぇ〜、女性なのに現場を指揮って凄いわね。営業?、それとも工場とかで働いてるとか」
「違うよ。私が行ってるのは事件現場。今日はひき逃げの現場に行ってたかな。犯人が自首して来てすぐ解決しちゃったけどね」
「えっ……、それじゃあレミィの仕事って……」
「……んん?。勿論刑事よ」
「でぃえぇぇぇぇぇっ!、やっぱりぃぃぃぃぃっ!」
レミィの仕事を聞いたナギ達は一斉に驚きの声を上げていた。刑事と聞かされれば当然のことだがそれが女性とあっては尚更である。やはりこの時代でも女性刑事というのは珍しいもののようだ。
「ど、どうしたの皆。そんなに大声出して」
「どうしたって刑事なんて聞かされたら誰でも驚くわよっ!。しかも女刑事なんてドラマの中だけの話だと思ってたわ」
「まぁ、確かに数は少ないかもね。それで、私が指揮をとっても本当にいいの?」
「勿論っ!。それなら誰も文句ないよ。ねぇ皆っ!」
「ああっ!」
「ええっ!」
「お、俺もこの場は納得しておくぜ。(この討伐が終わったら笑顔の練習でもしとくかな……)」
刑事ということもあって皆レミィが指揮を取ることに異存はなかった。アクスマンは本当は自分が指揮を取りたかったようだが刑事が相手をあっては引き下がるしかなかったようだ。
「よーしっ!。それじゃあ皆今は攻撃を仕掛けるタイミングに遅れないように集中して。もう雑魚を片付けてくれるメンバーが動きだしたみたいよ」
「……っ!、本当だ。カイルもレイチェルも他の人達も頑張ってぇ〜〜〜」
ナギ達の指揮がレミィに決まった頃、最初に雑魚の掃討を務める残りのメンバー達の攻撃が始まった。百人近くのプレイヤーが一斉に攻撃を仕掛ける様子はなかなかに壮絶な光景であった。
「おっしゃぁぁぁぁぁぁっ!。私が主要メンバーじゃないってのはちょっと気に入らねぇが、ゲーム始めの肩慣らしに一丁暴れてやるかぁっ!。(後で隙を見て私もあのデカブツへの攻撃に参戦してやろうっと)」
「気合入っとるのぅ、レイチェルの奴。さて……、これだけ人数がおるなら多少サボっても問題なかろう。わしは皆の後ろの方でのんびり見学……」
「ちょっと何やっとるんじゃけん、ボンじぃっ!。いくら回復役じゃいうてももう少し前に行かんと魔法も届かんじゃろ。ほら、私が先導したるけぇ早よ皆のとこ行くよ」
「ま、馬子……。しょうがない。こうなったらわしも少しは働くとするか。むさ苦しい筋肉質の男共は避けてなるべく美人で可愛い子ちゃんを回復してあげようっと♪」
当然のその中にはカイルやレイチェル達の姿があった。レイチェルはいつも通り意気揚々とモンスターの群れの中へと突っ込んでいたが、昨日はナギ達と別行動していたカイルとヴィンスも覇気の篭った攻撃でどんどんモンスター達を蹴散らしていっていた。
「はあっ!。よしっ、今だカイルっ!」
「OKっ!。アクアバレットッ!」
“バアァァンッ!”
“ウゴォ……”
カイルとヴィンスの連携は昨日より更に磨きの掛かったものになっていて、今もヴィンスのハードスラストで敵が体勢を崩したところにカイルが水属性魔法のアクアバレットを叩き込んで粉砕したところだった。カイルは普段使い慣れていた火属性の魔法から自身の属性である水属性へと切り替えていたらしい。ヴィンスの槍により牽制からのカイルの魔法を叩き込むこの連携は非常に効果的で、ほとんどの敵をこの一連の動きで仕留めることができていた。またヴィンスの相手の動きを崩す槍捌きは見事なもので、カイル以外の魔術師や弓術士達も次々と攻撃を叩き込んで敵を仕留めていっていた。
「あの槍術士の人……、結構できるわね。おかげで私も敵を射止めやすいわ」
「ああ、自分の職の役割を分かってるいいプレイヤーじゃねぇか」
そんなヴィンス達が次々とサークルゴーレム達を蹴散らしていく中、いよいよナギ達主要メンバーにも天だくから攻撃開始の合図がなされようとしていた。ナギ達の相手は敵の中央にいるミステリー・サークルゴーレム。レイチェル達が切り開いてくれた道を一気に駆け抜け四方を囲み瞬時に戦闘態勢を整える作戦だろう。
「そろそろね……っ!。OK、今合図が来た。皆行くよっ!」
「おおっ!」
「先頭はナミちゃん、次に私とナギ君、それにその猫ちゃんも」
「僕の名前はデビにゃんにゃっ!」
「了解、デビにゃん。その後ろをラスカルさんと激痛整体師さん。アクスマンが護衛に就いてあげて」
「よっしゃっ!」
「最後にマイちゃん、一応吉住さんに護衛に就いてもらうけど安全だと判断したらナミちゃんの援護に向かってあげて」
「了解よ」
「よしっ……。それじゃあGOっ!」
レミィの指示でナギ達も進軍を開始した。最初にナミが一気に前へと駆け抜けて行き、最適な位置の場所を確保すると皆そこに先程指示を受けた陣形を展開した。他の三方からも天だくやセイナ達も進軍して来て、作戦通りスムーズに戦闘態勢を整えることができた。レイチェル達の活躍でサークルゴーレム達の数も大分減っていたようだ。だがそれでもやはりリスポーン・ホストの能力にサークルゴーレム達は次から次へと復活して来ていた。特にナギ達と戦闘に入ってからは自分の身を守る為自身のすぐ側の周囲に重点的に復活させていたようだ。これではナギ達もある程度はサークルゴーレム達の相手をしなければならない。
「くっ……。やはりこの小さい方のゴーレム達は無限に沸いて出るようだな。いくぞ、ヴェニルッ!。イーグル・スパイラルッ!」
“ヴェニィーーーッ!”
沸いて出るサークルゴーレム達に早速鷹狩が攻撃を仕掛けていった。鷹狩の合図と共に突き出された右手に乗っていたヴェニルがまるで弾が撃ち出されるようにに敵に向けて飛び立った。その勢いは凄まじく、嘴を真っ直ぐ敵に突き向け更にはドリルのように体を回転させて一直線に何体もの敵を貫いた。主人である鷹狩とヴェニルの両方のステータスとプレイングが影響するこのイーグル・スパイラルという技は、物理属性の攻撃でありながら決して敵や一部の障害物に遮られることはない。今も20メートルもの距離を飛び抜けながら5体ものサークルゴーレム達を貫いていた。
“ゴ、ゴレェ……”
「やるじゃねぇか、鷹狩さん。よしっ、止めは俺が刺してやるぜ。はあぁぁぁぁ……、地裂斬っ!」
“ゴレェェェェェ……っ!”
凄まじいポテンシャルを披露した鷹狩とヴェニルのイーグル・スパイラルだったが流石に一撃では倒し切れなかったようだ。そこへ今度はアンチ奈央子が攻撃を仕掛けっていった。地裂斬と叫ばれながらその技は、大剣が振り下ろされた地点からこれまた一直線に地面にが割れたようなエフェクトが入り、そこからエネルギーが噴出させ足元から敵を浮き上がられるようにしてダメージを与えていた。重量が重い敵に対して程威力が上がり、逆に重量が軽い敵に対しては威力が下がる代わりに大きく上空に吹き飛ばせるらしい。また地面から5メートル以上離れている敵に対しては効果はないようだ。イーグル・スパイラルとこの攻撃を受けたサークルゴーレム達が体が崩れ去るようにその場から消滅していった。
「よっしゃっ!。今日も技のキレは抜群だぜ」
「おい、奈央子っ!。そんな雑魚倒して何喜んでんだ。私達の相手はあの馬鹿デカイ方なんだぞ」
「大丈夫だよ、爆笑女。そのデカイ図体のせいであいつ超動きがトロイみたいじゃねぇか。見ろ、足一歩動かすのにあんなに手間取ってやがるぜ」
“ゴオォォォ……”
アンチ奈央子の言う通りミステリー・サークルゴーレムは右足を一歩前に踏み出すことにさえかなりの時間を要していた。今もようやく足を上げ切ったところだったが、その足を地面に踏み下ろした瞬間ナギ達にとって予想外の出来事が起こった。
“ゴレッ!”
“ドッスゥーーーンッ!、……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!”
「……っ!。な、何……この地響きは……。もしかしてあいつが足を振り下ろしたからか!。これじゃあバランスが取れなくて立ってるのがやっとだぜ……」
「くっ……、鈍い動きに油断して不意を突かれたか。ヴェニルッ!、お前は空を飛んでいるから震動の影響は受けていないはずだ。今は私のことは放っておいてこの場から離れろっ!」
ライノレックスやアイアンメイル・バッファローのショックスタンプように、特殊な技を使用したわけではないにも関わらずミステリー・サークルゴーレムの足が振り下ろされただけで周囲には凄まじい震動が巻き起こしていた。不用意に近づき過ぎていたアンチ奈央子と鷹狩は見事にその震動に足を取られてしまい身動きが取れなかった。飛行能力を持っていれば回避できるのか鷹狩の仲間モンスターであるヴェニルは震動の影響を受けていないようだ。
「もうぉ〜、昨日からこればっかじゃないっ!。調子に乗って突っ込み過ぎるんじゃなかったわ」
「大丈夫っ!、ナミ……ってああっ!。周りのサークルゴーレム達は普通に動けてるっ!。危ないっ!、ナミっ!」
「えっ……」
“ゴォーレェェェッ!”
「任せて、ナミちゃんっ!」
“シュッ……、シュシュシュシュシュシュッ!”
“ゴレェ〜ン……”
皆が陣形を展開する場所を確保する為に敵陣深くまで突っ込んでいたナミもアンチ奈央子達と同じく震動に巻き込まれていた。ミステリー・サークルゴーレムの取り巻きであるサークルゴーレム達は震動の影響を受けないらしく、ドシドシと思い足取りでナミへと襲い掛かって来た。そのまま攻撃を受けてしまうと思われたナミだったが、寸前にレミィが右手のボウガンから素早く矢を撃ち出し一瞬にしてサークルゴーレムを倒してしまった。まず一発目の矢を的確に肩の関節部分に放ち、その後その一発目の矢が命中した箇所と全く箇所に6発分の矢を撃ち込んでいた。弱点である間接部分を狙ったことと、同じ個所に連続して矢を命中させたことでクリティカルダメージが発生し瞬時に敵を倒すことができたのだろう。どちらも並もプレイ技術でできる芸当ではない。
「凄いよレミィさんっ!。あんなに的確に同じ場所を攻撃するなんて……、きっとあそこが弱点だったんだねっ!」
「まね、これでも一応刑事だし射撃は結構得意なんだよ。ゴーレムの弱点なんて大概のゲームでありがちだしね」
「感心してる場合じゃないにゃ、ナギっ!。ナミの周りにはまだ沢山サークルゴーレム達が迫って行ってるにゃっ!」
“ゴォーレェェェッ!”
「くっ……やられるっ!」
“シュイィィィィィン、シュイィィィィィン……、パアァンッ、パアァンッ!”
「……マイっ!」
続いてナミに迫って来たサークルゴーレムはマイが魔弓の矢で仕留めてくれた。だがサークルゴーレムは物理、魔法防御力共にに高かった為にいつものように一撃とはいかず、2発の矢を続けて放っていた。事前のデータを見て大体のダメージ計算は済ませていたようだ。だがそれでも全てのサークルゴーレム達を処理しきることはできず、ナミへの攻撃を防ぎ切ることはできなさそうだった。
“ゴレェェェッ!”
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「ナ、ナミッ!」
やはりレミィのボウガンとマイの弓だけでだ敵を処理しきることはできず、他の者達も助けに向かいたかったが近接戦闘タイプのプレイヤーでは自身も震動に巻き込まれてしまう為近づくことができなかった。そしてついに一体のサークルゴーレムの攻撃がナミに炸裂してしまった。低い唸り声と共に突撃してきたサークルゴーレムのストーン・タックルに直撃したナミは遥か上空へと弾き飛ばされてた。そしてそのまま体勢を整えることができず地面に激突しようとしていた。
「くっ……、間に合って……」
「ぐぅ……」
“ヒュゥ〜〜〜ン……、バスッ!”
「う、うぅ……っ!。ナ、ナギっ!」
「ふぅ〜、なんとか間に合った。大丈夫、ナミ」
あのまま地面に叩き付けられると思われたナミだったが、寸でのところでナギが落下地点まで行きがっちりとナミの体を受け止めた。腕の中に抱き抱えられながら優しい言葉を投げ掛けられたナミは少し照れくさそうだった。二人はそのまま少しの間何とも言えない表情を浮かべて見つめ合っていた……。
「あ、ありがとうね……、ナギ。私の為にわざわざ駆け付けて来てくれて……」
「そ、そんな……。僕達は同じ国の仲間なんだから当然だよ……」
「(……っ!。こ、これは二人にしては珍しく良い雰囲気だにゃ。ナギにナミ、このまま一気に引っ付いちゃうのにゃっ!)」
「………」
「おらぁっ!、若造共っ!。今はいちゃついとる場合ではないぞ。わしがさっきのダメージを回復するから早くそのポニーテールの嬢ちゃんをこっちによこすんじゃっ!」
「えっ……っちょっ!、痛たたたたっ!。い、いきなり何すんのよ、このおっさんっ!」
「いいから我慢するんじゃっ!。ほらっ!、今度はそこに横になれ」
良い雰囲気のままナギに抱き抱えられていたナミだったが、激痛整体師にいきなり引っ張り降ろされると前に立たされて肩を揉まれ始めてしまった。相当力を入れられてるのかかなり痛そうな様子だったか、そこから更に地面に寝かされると今度は背中を掌で押し込まれ始めた。もしや整体マッサージでもしているつもりなのだろうか……。
「痛ったぁぁぁぁぁぁっ!。ちょっとさっきから一体何やってのよっ!。これこそ今やってる場合じゃないじゃないっ!」
「何言ってんだ。これはれっきとしたキュア・マッサージの魔法だよ。俺はこういうやり方をした方が魔法の効果が上がるんだ。それじゃあ最後に足の裏のツボを押してっと……」
“ギュッ!”
「痛っ!。……くぅ〜、ボンじぃといいこの国の治癒術師はこんな変態ばっかなのぉ〜」
「(せ、折角の良い雰囲気台無しだにゃ……)」
「(うわぁ……。私は絶対あんな魔法受けたくないよ。こうなったら意地でも敵の攻撃を食らわないようにしなくっちゃ)」
どうやら激痛整体師はマッサージをしながらキュア・マッサージの魔法を掛けていたようだ。治癒術師の回復魔法は直接体に触れることで効果が上がるというがマッサージの場合はどうなのだろうか。ナミの様子を見るに確かに効果はより高いものになっているようだが……。
「うぅ……。でも一応体力は全快してるみたいね。体もピンピンしてるしボンじぃの魔法より断然効果は高いみたいだけど、なんだか戦う気力が抜けちゃったみたいだわ」
「それがいいんじゃよ。余計な感情が抜けてより戦闘に集中できるようになるわい。他の者達もダメージを負ったらわしが回復してやるから遠慮なく攻めていけぇっ!」
「う、うん……」
「いやはや……、あれは見事なマッサージでしたね。これは是非現実の世界でも彼の診療所に出向いてみたいものです」
「ああ、あれこそ男の整体だぜ」
「(こ、こいつらちょっとおかしんじゃないかにゃ。僕だったら絶対あんなごついおっさんの凄まじいマッサージなんて受けたくないにゃ。ブリュンヒルデちゃんみたいなら美人さんならともかく……。やっぱりこれからは男もエステの時代だにゃ)」
サークルゴーレムからの不意の攻撃を受けたナミだったがナギと激痛整体師のおかげでなんとか難を逃れることができた。震動に巻き込まれていた奈央子達他のメンバーもどうにか無事だったようだ。ミステリー・サークルゴーレムにより引き起こされた震動もすでに収まっていた。
「おらぁぁぁぁっ!、お前等ぁぁぁぁっ!。何戦闘中にマッサージなんかしてやがるんだぁっ!。遊んでないでしっかり戦えっ!」
「何よっ!。今はれっきとした回復魔法なのよっ!。ちょっと痛かったけど……。大体あんたや他の皆だって震動に巻き込まれて何もできてなかったじゃないっ!」
「……っ!。そうでもないみたいよ、ナミ。あれを見て」
「えっ……っ!、セイナっ!」
激痛整体師のマッサージを見た天だくは何事かとナギ達に怒鳴ってきた。流石に回復魔法を使用するのにマッサージをするとまでは思わなかったようだ。そのことでナミと天だくが言い争っている中、吉住が上を見上げて何かを見つけたような声を上げた。ナミも反応して顔を上に向けてみるとそこにはとんでもないスピードでミステリー・サークルゴーレムの体を駆け上がっていくセイナの姿があった。
“ダダダダダダッ……”
「凄っご〜いっ!。まるで忍者みたいにあいつの体を伝って上って行ってるわ。ちょっとした表面のデコボコに足を掛けてるのかしら」
震動に巻き込まれていたのはセイナも同じだったのだが、それから解放されるや否やすぐさま行動を起こしていたようだ。まず地面を蹴って一気に上へ飛び上がり、その勢いのままほとんど垂直な角度を相手の体を伝って駆け上がっていた。その走り方は地面を駆ける時とまるで変わりがないようだった。
「くっそぉ〜〜〜っ!、あいつ一人で出しゃばりやがってぇぇぇ……。こうなったら俺も行くしかねぇっ!」
「……っ!。ま、待って、天だくさんっ!」
“バババババババッ……”
聖の制止を振り切り、天だくもセイナに負けじと後を追って行った。装備していたグレートアックスを一旦アイテム欄へとしまい、ロッククライミングの要領で壁を這う様にしてミステリー・サークルゴーレムの体をよじ登って行った。だがそのスピードはとても炉ロッククライミングとは思えずセイナに対しても負けないほどであった。
「あ、あいつも凄いけどなんだか品がないわね。あれじゃあまるでゴキブリじゃない。それにセイナならもう敵の天辺に着いちゃいそうよ」
天だくのスピードも凄まじいものではあったがとてもセイナには追いつけないようだった。セイナはすでに敵の胸の辺りまで来ていて、そこから再び凹凸部分を蹴ると一気に相手の顔の真上まで飛び上がった。すでに剣を振りかぶっておりこのまま相手の顔面を斬り付けるつもりのようだ。
「はあぁぁぁぁぁっ!。ブレイズッ……、キャリバァァァァッ!」
「でたぁぁぁぁっ!。セイナの十八番のブレイズ・キャリバーにゃっ!。(こりゃ貢献度勝負はセイナで決まりみたいだにゃ。僕的にはナギに勝手欲しかったんでけどにゃ……。まぁ、あの天だくやあの不仲って奴よりが勝つよりはマシにゃ)」
セイナは空中で凄い覇気の篭った叫び声と共に自身の十八番であるブレイズ・キャリバーの特技を放った。相手の顔面とは言わず50メートルもの巨体を下まで真っ二つにしてしまうつもりのようだ。周りの者達もこれで決まったと思っていたようだが、やはりそう上手く勝負が決するはずもなかった。
“ガキィィィィィンッ!”
「な、何っ!」
「セ、セイナのブレイズ・キャリバーが……」
「弾かれちゃった……」
勢いよく相手の脳天目掛けて振り下ろされたセイナのブレイズ・キャリバーだったが、ミステリー・サークルゴーレムの丸い頭の端に部分を斬り付けると見事に弾かれてしまった。相手の防御力がそれほどまでに高いということなのだろうか。セイナはそのままミステリー・サークルゴーレムの顔の前から落下しようとしていたのだが……。
“ピカァーーーンッ!”
「くっ……、な、なんだ……」
“ピィィィーーーーーンッ!”
「なっ……ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
斬撃を弾かれ落下しようとするセイナの前に目の前にあるミステリー・サークルゴーレムの顔の模様が光出した。光出したのはセイナから見て左下にある俗にいうキラキラマークの模様だった。突然目の前を照らされ戸惑っていたセイナだったが、次の瞬間その光が光線へと変わってセイナに発射された。不意を突かれた上空中では躱すことも出来ず、セイナはなんとか剣を構えて防御の体勢を取ったもののそのまま光線に直撃し遥か遠くへと吹き飛ばされてしまった。
「セ、セイナさぁーーーーんっ!」
「今は彼女の心配してる場合じゃないよ、ナギ。ほら、小さいゴーレム達がまた沢山湧いてきた」
“ゴレェェェッ!”
「ほ、本当だ……。いくらなんでも復活するのが早すぎだよ。これじゃあ昨日の盗賊達の復活間隔とほとんど変わらないじゃないか。(もしかして何か秘密があるんじゃ……。それにいくら防御力が高いって言ってもセイナさんの攻撃があんなにあっさり弾かれるなんておかしいよ)」
セイナのことを心配していたナギだったがどうやらそんな余裕はないようだった。すでに先程倒したばかりのサークルゴレーム達が次々と復活して来てきていて周りを完全に囲まれてしまっていた。事前のデータから見ても早く過ぎる復活時間で、セイナの攻撃が弾かれたことも合わせてナギは何か他に特殊な効果があるのではないかと疑い始めていた。一方その頃周辺で雑魚処理を担当していたレイチェル達他のメンバー達もサークルゴーレムの予想外の復活の速さに苦戦を強いられていた。
「うぉりゃぁぁぁぁぁっ!。全力斬りだぁぁぁぁぁっ!」
“ゴ、ゴレェェェ……ッ!”
「はぁ……はぁ……。マジで全力で叩き斬ってやっと一撃かよ。あと何回これを繰り返せばいいんだ……」
レイチェルは剛破斬の特技を放ちサークルゴーレム達を一撃で粉砕していた。レイチェルは全力斬りと叫んでいたがその言葉の意味通り本当に渾身の力を込めて剣を振るっていたようだ。だが次々と湧いて出るサークルゴーレム達を相手にしては流石に体力も続かず息切れを起こし、EPも削られ何より行動ポイントをどんどん消費してしまっていた。行動ポイントの消費を抑えることはレイチェルにとって最大の課題となりそうだ。
「大丈夫なんけぇ、レイチェルっ!。私が回復したるけぇちょっと後ろで休んだら」
「大丈夫だぜ、馬子。カイルやヴィンスにアイナも頑張ってんだ。私だけ後ろで休んでるわけにはいかねぇよ。だからHPにだけ注意しておいてくれ」
“ヒュイィィィィィィン……バアァァァンッ!”
“ゴレェェェ……ッ!”
「ナイスだカイルっ!。段々水魔法にも慣れてきたみたいだな」
「うん……だけどこれだけ数が多いとキリがないよ。いくらなんでもこの復活速度はおかし……んん?」
“ピキッ……”
「(な、なんだ……。今急にこのストーン・サークルの石の一つにヒビが入ったぞ。一体何が起こったんだ……)」
「……っ!。見て下さい、皆さんっ!。戦場の奥の方からこちらに何かが飛んできています。あれは一体何なのでしょうか……」
カイルとヴィンスも得意の連携でサークルゴーレム達を倒していたのだが、その時カイルの近くのストーン・サークルの石に小さなヒビが入った。特に周囲から何かを受けたわけではなかった為カイルは不思議に思っていたようだ。そして更にアイナも戦場の中央からこちらに飛来して来ている物体を発見していたのだった。
“ヒューーン……”
「本当じゃっ!。まさかあの敵の技ではないじゃろうな。だとしたら早く逃げ……」
「だあぁぁぁぁっ!。いつもいつもはなっから逃げ腰になってんじゃねぇよ、爺ぃっ!。アイナ、まずは遠視であれがなんなのか確認してくれ」
「分かりました、ちょっと待っててください。あれは……っ!、セ、セイナさんですっ!」
「なにぃぃぃぃぃぃっ!」
なんとアイナが見つけた物体は先程ミステリー・サークルゴーレムの攻撃で吹き飛ばされたセイナだった。空中で飛ばされたとはいえここまで飛んでくるとはかなりの威力だったようだ。流石のセイナも体勢を整えられておらずこのままでは地面に叩き付けられるところだった。
「ま、まずいです……。どうにかなりませんか、シルフィー……」
「任せて、アイナ。セイナは貴重な戦力だもの。こんなところで簡単に脱落させたりしないわ」
飛来してくるセイナを見たアイナはシルフィーに助けを求めた。どうやらこの討伐が始まってすぐに召喚しておいたようだ。シルフィー可愛らしい羽を羽ばたかせながらセイナの元へと向かって行った。
「セイナァァ〜〜〜、大丈夫ぅぅ〜〜」
「うぅ……、シルフィーか。なんとか体力は残っているがこの高さから落ちては例え体勢を整えたとしても無事では済まんだろう」
「大丈夫、私に任せて。もう少し地面近づいてから魔法を発動させるからセイナは力を抜いててっ!」
「分かった……」
どうやらシルフィーには策があるようで落下するセイナに付き添って地面へと降下していった。仮に戦闘不能になったとしてもリヴァイブ・ストーンを使用すれば復活することはできるが当然ある程度のペナルティはある。蘇生してから一定時間の間のステータスの低下と、行動ポイントの残量から最大値の20%の分の値が差し引かれてしまう。
“ヒュゥゥーーーン……”
「……よしっ!、今よっ!。草原に吹く清らかなる風達よ……。その優しさの柔らかさでセイナの体を包んであげてっ!。ウィンド・パッケージッ!」
“ヒュオォォォォォンッ!、……フワァ〜〜ン”
「お、おおっ……。これはまるで風の包み紙のようだ……」
シルフィーが魔法を唱えると急にセイナの周りに渦巻くように強い風が吹き始めた。その風はセイナの体に纏わりついていくと共に段々緩やかなものへと変わっていき、最終的にはまるで風の繭のようにセイナを優しく包み込んだ。どうやらウィンド・パッケージという魔法のようだが、魔法を発動させたシルフィーが両手をその繭に向かってかざすとゆっくりと地面に向かって降ろされていった。
“フワァ〜……”
「よいしょっと……、この辺でいいかしらね。……ふぅ〜」
“パッ……、ザザッ……”
そして完全に地面へと降り立ったところで魔法が解除され、セイナは仰向けに寝かされた状態で草原の草の上へと降ろされた。落下の衝撃ダメージは完全に防ぐことができたようだ。その様子見てレイチェル達が急いでセイナとシルフィーの元へ駆け付けて来た。
「うぉ〜〜〜い、セイナァァ〜〜〜。大丈夫かぁ〜〜〜〜」
「よくやってくれました〜、シルフィ〜。流石は風の精霊さんで〜す。とても美しい見事な魔法でした〜〜」
「そんことないわ〜〜、アイナ〜〜。それより早くセイナを看てあげて〜〜〜……ってああっ!。まだちゃんと横になってないと駄目だって、セイナっ!」
「分かりました。ボンじぃさん。出番ですよ」
「よしっ!、任せておくのじゃっ!」
落下の衝撃波は防ぐことはできたもののミステリー・サークルゴーレムの攻撃を受けたセイナのダメージはかなりのものだったようだ。まだ体にも相当な痛みが走っているらしく、体を震わせながら無理に起きようとしているところをシルフィーに止められてしまっていた。その様子を見たボンじぃがすぐさま回復魔法を掛け始めた。
「まぁ、回復といえば治癒術師だよな。ただしまたセクハラめいたことしたらすぐさま通報して最初の討伐の時みたく思いっ切り叩っ斬るから覚悟しとけ」
「わ、分かっとるわいっ!。わしをいつまでもエロ爺い扱いするでない。ではいくぞ……はあっ!、キュア・マッサージじゃっ!」
レイチェルの監視もありボンじぃは余計なセクハラ行為等せずしっかりキュア・マッサージの魔法を掛け始めた。ヴァルハラ国のエースプレイヤーであるセイナには早く復帰してもらわねばと判断し田のだろう。少しはMMOプレイヤーとしての自覚も出て来たようだ。
「くっ……、済まんな、ボンじぃ……」
「なぁに。気にすることないわい。それよりお主程の者がここまで痛めつけられるとは……、やはりあの馬鹿デカイゴーレムもアイアンメイル・バッファローに負けないぐらいの強敵なのかのぅ……」
「全くじゃけんっ!。一体何があったんじゃけぇ、セイナ」
「ああ……、勢いよく相手の顔面に斬り掛かったまでは良かったのだが、叩き斬るどころか逆に弾かれてしまったのだ。そしてその後に手痛い反撃を受けてのこの有様というわけだ……。全くシルフィーにも助けられたな。礼をいうぞ」
「(相手に斬り掛かったっ!。セイナさんが飛ばされて来たのがついさっきだということを考えるとあのストーン・サークルにヒビが入ったタイミングと重なるんじゃ……)」
「お礼なんていらなわいわよ。でもまさかセイナの攻撃を弾き返すなんて……。あんな奴本当に倒せるのかしら……」
セイナ以外にも天だくや不仲等実力を兼ねそろえていたメンバーはいたのだが、自分達にとってはヴァルハラ国随一のプレイヤーであるセイナの攻撃が効かなかった上にここまでの反撃を受けていたことはレイチェル達にとってかなりショックな出来事だったようだ。更に地面に横たわってるセイナの姿に他のプレイヤー達も気付き始め、この周辺の討伐隊にもどんどん動揺が広がってしまっていた。
「お、おい……。あれって美城聖南じゃないのか……。確か天だくさん達と一緒にあの馬鹿デカイゴーレムの相手をしてるはずだよな……」
「本当だ……。それにどうして地面に倒れ込んでいるんだ……。もしかしてあいつにやられてここまで吹き飛ばされてきたっていうのかっ!」
「うっそぉぉ〜〜〜っ!。あの聖南でそんな有様じゃあ私達じゃ到底歯が立たないわよ。もう早く撤退した方がいいんじゃ……」
周辺のプレイヤー達には動揺のあまり動きが鈍くなってしまう者や、セイナのことが気になって戦闘に集中できなくなってしまう者、更には戦意を喪失して逃げ出そうとしてしまう者までいた。ここままではこの討伐隊自体の崩壊に繋がってしまうだろう。
「ま、まずいんじゃないけぇ……、これは……。確かに腕利きのメンバーじゃいうてもセイナ達以外は私等とそない変わらん実力じゃし、そのセイナがやられたとなったら皆動揺としてまともに戦えんくなるよ。中には逃げ出してる人もいるみたいじゃし……」
「ちっ……。しゃあねぇなぁ……。おらぁぁぁぁぁぁっ!、お前等ぁぁぁぁっ!。余計な心配してないでさっさと戦闘に集中しろぉぉぉぉっ!。セイナのことなら大丈夫だぁっ!。私等がちゃんと回復して前線へ送り届けてやるからよ。だからお前等はしっかりこの雑魚ゴーレム共を討伐しろ」
「……っ!。な、なんだ……あいつは……。いきなりデカイ声で偉そうなこと言いやがって……」
「でもあの人って昨日聖南さんと一緒にアイアンメイル・バッファローを倒したっていうレイチェルさんじゃない……。ほら、他にいる人達も皆そのメンバーだった人よっ!」
「本当だ……。レイチェルに馬子にアイナ、それにボンじぃまでいるぜ。そういえば天だくさんに呼ばれたメンバーも中にも何人かいたな。聖南さんとパーティを組む程の人達がああいってるんだ。今はこの雑魚共をさっさと片付けようぜっ!」
「おおっ!」
どうやらここに集まったプレイヤー達にもナギ達がアイアンメイル・バッファローを倒したという噂は広まっており、そのパーティメンバーであったレイチェル達の姿を見たことで少しは不安が解消されたようだった。とはいえその一員でもあったセイナがやられたことには変わりはなく、この討伐においてプレイヤー側が不利であることは否めなかった。
「ふっ……。流石だな、レイチェル……。たった一声で皆の戦意を取り戻すとは。だがミステリー・サークルゴーレムと戦っているナギ達のことも心配だ。私の後を追って天だくが奴に攻撃を仕掛けようとしていたが、果たして私と同じ目に合っていなければよいのだが……」
「な、なんだってっ!。……アイナっ!、今すぐ天だくがどうしているか遠視で確認してくれ。それでもしまだ攻撃を仕掛けていないようならその仕掛けるタイミングを僕に教えて欲しいんだっ!」
「えっ……、わ、分かりました」
「な、なんだ……。一体どうしたんだよ、カイル」
セイナに続き天だくもミステリー・サークルゴーレムへの攻撃を仕掛けようしていると聞いて、カイルは何故かアイナに遠視ですぐさまその様子を確認するよう言い出した。カイルの強い口調にアイナやヴィンス達も少し戸惑っていたようだ。その頃天だくはというと、自分の前に弾き飛ばされたセイナのことなど構いもせずも自分も攻撃を仕掛けようと意気揚々とミステリー・サークルゴーレムの体を駆け上っていた。そしてミステリー・サークルゴーレムの首の周りにある凹凸の形をした首輪の部分に立つと相手の横顔目掛けて思いっ切り斧を振り回そうとしていた。
「ふぅ〜、ようやくここまで上りきったぜぇ……。ってわけで待たせたな。言っとくが俺の攻撃はセイナみたいにやわじゃないぜ」
“ゴォ〜レ〜?”
「おらぁぁぁぁぁぁっ!、全力アックススイングだぁぁぁぁぁっ!。食らいやがれぇぇぇぇぇっ!」
“ガッキィィィーーーーーンッ!”
「ぐぅっ……」
天だくの放った技はサイクロン・アックススイングの基本の型であるアックススイングだった。こちらは事前に回転等せずそのまま斧を横に向けて振る技だが、その言葉の通り全力に放たれたその斧はミステリー・サークルゴーレムの横顔に当たった瞬間大きな金属音の響きと共にピタリと止まってしまった。同時に天だくの今日に引き攣ったように強張ったものに変わり、その斧を振り終った体勢のまま固まってしまっていた。
“ジ〜〜〜ン……、プルプルプルプルプルッ!”
「う、うぅ……、顔にヒビを入れるどころかまるでコンクリートの壁を叩いたときみてぇに体にすげぇ震動が帰って来やがった……。全身が震えてまともに体を動かせねぇ……あっ……」
“ツルッ……、ヒューーーン……”
「て、天だくさぁーーーんっ!。ど、どうしようナミ。天だくさんもセイナさんと同じであの高さから落っこちて来ちゃってるよっ!」
「もうぉ〜〜〜っ!。セイナはともかくあいつはそのセイナが吹っ飛ばされた様子を見てたはずでしょうっ!。それなのにあんなに威勢よく攻撃を仕掛けるなんて馬鹿なんじゃないのっ!」
どうやら天だくはセイナと違い弾き返されこそしなかったものの、代わりに体に物凄い衝撃が返ってきてしまったようだ。その衝撃は震動となって天だくの体に伝わり、まるでエンジンをかけっぱなしの車のようにプルプルと震えてしまっていた。そしてそのままバランスを崩し地面へと落下していってしまったのだった……。
「あっ……、今天だくさんが相手の顔に斧を振りましたっ!。どうやら直撃したみたいですが何故かそのまま天だくの動きが止まってしまっていますっ!」
「ありがとう、アイナ。よしっ……、これで僕の考えが正しければどこかの石にまたヒビが……」
“ピキッ……”
「……っ!。今度はあの石にヒビが入ったっ!。僕達の近くの石に反応してくれて助かったよっ!」
「……っ?。だからさっきから一体何のことを言ってるんだ、カイル……」
天だくの攻撃した様子を遠視で確認していたアイナはすぐにそのことをカイルに知らせた。するとカイルは周囲のストーン・サークルを見渡し、再び勝手にヒビの入った石を発見した。どうやらこのことを確認する為にアイナに遠視を頼んだようだ。そしてそれと同時にセイナの体力も無事回復したようだった。
「ふぅ〜……、もういいぞ、ボンじぃ。まだ全快とまではいかないがすぐに前線に戻らねば。後は向こうの回復職の者に頼むとしよう」
「よ〜しっ!。それじゃあ私が前線に送り届けてやるぜ、セイナ。私が道を切り開くからしっかり後ろをついて来なっ!」
「僕も一緒に行くよ、レイチェルっ!。ナギや天だくさん達に伝えなきゃいけないことがあるんだ」
「カイルが行くなら俺も行くぜ。なるべく体力を温存した状態でセイナを前線に送ってやりたいからな」
「それならもう全員一緒に行っちまおうぜ。それでそのまま前線の連中に合流しちまおう」
「えっ……。でもそんな勝手なことして大丈夫なんですか……」
「構やぁしねぇよ、そんなこと。私等がセイナのHPを回復して届けてやるんだ。そのまま戦闘に加わっちまっても誰も文句は言わねぇよ」
「よしっ……。ならば急ぐぞ、お前達……っと言いたいところだが他にパーティを組んでいた連中はどうなったのだ」
「この混戦でとっくにはぐれちまったよ。元々即席のパーティだったから戦っている内に自然と私等で集まっちまったんだ。向こうも好きな奴らと適当に連携して戦ってるだろう」
「そうか……」
「ならもう行こうセイナさんっ!。早くあのミステリー・サークルゴーレムをなんとかしないと僕達は劣勢のままだっ!」
「うむっ!。ならば改めて行くぞ、お前達っ!」
「おおっ!」
こうしてセイナはレイチェル達を引き連れてナギ達の待つ最前線の戦場へと戻って行った。だがミステリー・サークルゴーレムにまるで攻撃が効かなかった事実は変わらない。戻ったとしても特に打つ手はないだろう。カイルが気付いたナギや天だく達に伝えたいことというのが鍵を握っているようだが果たして無事ミステリー・サークルゴーレムを倒すことができるのだろうか……。




