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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第八章 ログアウト……帰って来た現実世界
56/144

finding of a nation 53話

 “ギュッ……、ジャーー……、ギュッ……、ジャーー……”


 「……ふぅ〜、これでやっと50頭目終了っと……。残りはあと10頭ぐらいか……」


 愛流達が牧場の仕事を開始して約5時間、乳牛の搾乳を任された愛流はあと少しで全ての牛達の乳を絞り終えようとしていた。一頭当たりに掛けていた時間は5、6分程度といったところだろうか。20年程前から多くの酪農家達が搾乳機を導入し始め、今ではそれが一般となっていたがこの天川牧場では未だに手搾りで作業をしていたようだ。一度はこの牧場も搾乳機を導入したようだが、原点回帰というか最近では再び手搾りの作業に戻っている酪農家も多いらしい。人機一体、文字通り人と機械が一体になるという意味であるが、全てを機械に任せるのではなく、自然や動物を直接触れ合う機会の多い作業は人の手でやるというのがこの時代の人とテクノロジーが共存する為の新たな考え方らしい。愛流達はその思想の先駆者といったところだろう。


 「よしっ……。それじゃあ早く次の牛達のところにいくか……。この牛乳缶は台車において空の牛乳缶を用意してっと……。昼食までには終わらせないと母さんに怒られちゃうからね。」


 “ほほっ……。愛流や、お主もそうじゃがこの牧場の者達はいつも働き者じゃのぅ。乳搾りの腕も大したもんじゃ。おかげで乳頭が痛くなるどころか乳がスッキリして毎日快適じゃわい”


 「へへっ、それは当然だよ。この牧場の動物達には僕達と家の商品を消費してくれてる人達の生活をそれ以上に支えて貰ってるんだから。乳搾りぐらいちゃんとできて当然……ってええっ!。い、今の声、一体どこから聞こえてきたのっ!」


 愛流が満杯になった牛乳缶を台車へと運ぼうとした時背後から突如見知らぬ者の声が聞こえてきた。慌てて後ろを振り返った愛流だったがそこには今乳を搾り終えたばかりの一頭の乳牛の姿しかなかった。


 「あ、あれ……、やっぱり誰もいない……。こんな幻聴が聞こえてくるなんてまさか本当にゲームのやり過ぎなんじゃ……」


 “何を言っておるんじゃ、愛流。今話掛けたのはわしじゃよ。ほら、今もお主の目の前におるじゃろう”


 「ええっ!、それじゃあもしかして……」


 “そう、今お主が乳を搾り終えた牛がわしじゃ。何があったが知らんが見違えるように成長したのぅ。お主の体の奥深くからとてつもない生命エネルギーを感じるぞ。そのおかげでわしらの言葉が分かるようになったのじゃろう”


 「そ、そんな……。まさかこれがブリュンヒルデさんやデビにゃんが言ってた“finding of a nation”をプレイした影響なの……。たった一日で動物の声が聞こえるようになるて、一体どれだけ生命エネルギーが上がったんだろう……」


 “う〜む……。わしの感覚では他の牧場の者達と比べてざっと5倍程といったところかのぅ。お主ら人間は少し自然から距離を置き過ぎたため感じ取れぬようじゃが……、一体どんな修行をすれば一日でそんなに成長出来るんじゃ”


 「ご、5倍だってっ!。確か通常の人達の生命エネルギーが10オルゴンだったから、今の僕の生命エネルギーは50オルゴンもあるってことぉっ!。デビにゃんは試練をクリアすれば平均200オルゴンって言ってたけど……、この調子じゃあそんなのあっという間に超えちゃうよっ!」


 なんと愛流に喋り掛けてきた声の主は目の前にいるその乳牛だった。どうやら愛流にも今朝10メートル以上の鳥居に飛び乗っていた美羽と同じように“finding of a nation”をプレイした影響が出ているようだ。只愛流場合肉体的な変化はなく、動物の話し声を聞くことができるというなんとも奇怪なものであった。魔物使いの職に就いていたこととレイコの牧場で仕事が影響しているのだろうか。


 “まぁ、その話は置いといて……、愛流や。折角の機会なんでお主に言っておきたいことがあるんじゃが、聞いてくれるかのぅ”


 「い、いいよ……。なんかまだ不思議な感じがするけど、一体どんな話?」


 “ふむぅ……、実はちと早いが別れの言葉を言っておこうと思ってのぅ……。麗子さんなら気付いておると思うがわしが乳を出せるのも今年一杯が限界じゃろう。もう子を産む体力も残っておらんのでな……”


 「えっ……、それじゃあ……」

 「は〜い、愛流。なにボーっと突っ立ってんの。早く次の牛のところに行ってあげなさい」

 「か、母さん……」


 愛流が牛と話ていると今度は横の方から麗子が話し掛けてきた。手にはブラシを握っており、どうやら牛舎の中にいる牛達をブラッシングして回っているようだ。因みにこの牧場の牛舎はフリーバーン牛舎で、牛を繋いでないどころかスペースを区切る柵すらない。つまりは牛舎の中を牛達が自由に歩き回っているということだが、愛流達は牛達に色のついた首かけをしてどの作業を終えたか確認していたようだ。その首かけを見るに麗子のブラッシングの作業は今愛流と話ている牛で最後のようだった。当然その首かけは全ての作業が終わった後残らず回収していた。


 「今日は母さんはブラッシングの作業をしてたんだね。……そんなことより母さん、この乳牛が乳が搾れるのってやっぱり今年が限界なのかなぁ……」

 「多分ね……。でも驚きだわ。愛流がそこまで牛の状態を分かってあげられるようになっていたなんて。この子も心の中で喜んでるわ、きっと」

 「……でもそれじゃあやっぱりと殺しちゃうことになるんだよね。それで相談があるんだけど……、この牛をと殺場に連れて行く時僕も付いて行っていい?」

 

 “(……っ!。愛流……、お主まさかわしのことを思って……いや。これは愛流自身が自らの成長の為に選んだ選択じゃ。わしと会話したことで牧場の仕事により責任を感じるようになったか……)”


 その牛が自身で言っていた通りもう乳牛としての寿命が間近となっているようだ。通常の自然界に暮らす牛達の寿命は大体20年程であるが、乳牛として飼われている牛達は体力の衰えによりその役目が果たせなくなった時処分されてしまう。大体6、7年、どんなに長くても10年程で乳を絞ることができなくなってしまうらしい。その酪農家が自らの飼育している家畜を処分することをと殺、その処理を行う場所をと殺場と言う。今話を交わした牛がと殺されると知り、愛流は今までその現場に行くことを避けていたのだがとうとう自ら赴く覚悟が決まったようだ。牧場で働く者として自らの飼育している動物達がどのような末路を辿るのか知ることはとても大事なことである。


 「いいけど……。前まであんなに嫌がってたのにどうしたの、突然。母さんとしては牧場の後継ぎとして自覚が出てきたようで嬉しいんだけど、後で後悔しないようにね。実際にと殺すること見なくても、自分達の飼育していた動物達が死んでいく雰囲気に飲まれて牧場の仕事を続けられなくなった人だっているんだから」

 「大丈夫だよ。もうちゃんと覚悟はできてるから。それに立派な牧場主になる為に母さんに言われていた通り、と殺場の仕事もなるべく早く経験しておこうと思うんだ」

 「……っ!。待って……、いくらなんでもそれは話が急すぎるわ。酪農協会への手続きも必要だし、なによりあなたが経験するには早すぎる。あなたの牧場の仕事ぶりを見て時期が来たと判断したら私の方から声を掛けるから、今は与えられた仕事に専念しなさい」


 なんと愛流はと殺場に付いて行くだけでなく自らその仕事を経験させるよう麗子に頼んできた。と殺場の仕事は酪農家ではなく専門の業者が行っているのだが、牧場で働いている者ならば申請を出すことにより一定の期間仕事を経験させて貰えるらしい。より精神の熟練した酪農家を育てる為に全国の酪農協会が実施している政策らしい。逆にと殺場で働いている者が牧場の仕事を経験することもできる。牧場主として成長するには重要な制度だが愛流の申し出は麗子に受け入れてもらえなかった。やはりまだ早すぎるということだろうか。恐らくその判断は正しく今はと殺場に赴くだけでも十分な心の成長に繋がるだろう。


 「……分かったよ。いきなり無茶なこと言ってごめんね……」

 「謝ることないわ。あなたのその覚悟が分かっただけでも母さんは十分よ。さっ、それじゃあ早くこの仕事を終わらせてお昼にしましょう。他の皆はもう自分の仕事を終わらてるかもよ」

 「うん……。僕はもうちょっと時間が掛かりそうだから先に行ってて。……よいしょっと」


 “ちょっと待つんじゃ、愛流”

 

 「えっ……」


 申し出を断られた愛流が再び牛乳缶を手に立ち去ろうとした時、もう一度後ろからあの乳牛が話し掛けてきて愛流は後ろを振り返った。何かまだ話したいことがあるのだろうか。愛流の振り向いた先には動物達の声を聞くことができない麗子もいたのだが、声を掛けてもいないのに自分の方を振り向かれたことに少し驚いた表情を浮かべていた。


 「うん?、どうしたの、愛流。いきなりこっちを振り返って……」

 「い、いや……。別に母さんに反応したわけじゃ……」


 “愛流や、最後にわしのアドバイスも聞いておいておくれ。わしは愛流の働きぶりには十分感謝しておるが、若い牛達には傲慢でこの牧場の者達にすら不満を持つ者もおる。声聞くことができるようになったことで思わぬような酷い言葉を聞くこともあろうが、気にせず自分の仕事に誇りを持つのじゃ。さすれば動物達も自然とお主を牧場主として認めていってくれるじゃろう”


 「分かったよっ!。僕の為に色々ありがとう。きっと動物達に相応しい牧場主になってみせるから、僕も含めてこれからも人間達をよろしくねっ!。それじゃあ、また明日っ!」


 “ダダダダダダッ……”


 「あ、あの子ったら急に何言ってるのかしら……。私に話掛けてるようには思えなかったし、もしかしてこの牛に……」


 “モオォ〜〜〜〜”


 「まさかね……」


 流石に麗子には牛の話し声は聞こえるはずもなく、突然独り言を言い出した愛流を見てきょとんとしてしまっていた。なんとなく隣にいる牛に話掛けている感じはしていたようだが、それにしては内容が少し深みを帯びていた。また変な勘違いをされなければいいのだが……。恐らくこの牧場の中で一番高齢であると思われる牛から激励の言葉を受けた愛流は意気揚々と次の牛のところに向かって行った。






 “ガラガラガラ……”


 「ふぃ〜……、やっと終わった〜。皆お疲れ〜」


 残りの十頭の搾乳も済ませた愛流は昼の休憩を取るべく事務所へと来ていた。お疲れの挨拶をしながら扉を開けて入って行くと、そこには残りの牧場のメンバーがすでに勢揃いしていた。どこはへ行っているのか登の姿がなかったが、恐らく午前の仕事を終えたのは愛流が最後だろう。皆待合用に設置されたソファーに座り、テレビを見ながら昼食が来るのを待っていた。


 「お疲れ〜、愛流。今日は豪く時間が掛かってたじゃねぇか。もう12時20分だぞ」

 「ちょっと色々牛達と話してら時間を食っちゃって……。でもまだ昼食も運ばれて来てないみたいだしギリギリセーフってところかな」

 「ほぅ、ちゃんと仕事をする時は動物達に語り掛ける癖も付いてきたようだな。言葉は通じなくとも愛流の思いはしっかり伝わっているはずだ。多少時間は掛かってもいいから動物達への思いやりを忘れず仕事を続けなさい」

 「分かったよ、父さん。(そ、そうだった……。皆には動物の声は聞こえないんだったよね。危ない危ない……)」


 “ガラガラガラ……”


 「お疲れ様で〜す、皆さ〜ん。昼食をお持ちしました。今日は炒り卵とトマトのサンドイッチで〜す。温めたカフェオレもポッドにいれてお持ちしましたので、冷たいのとお好きな方をどうぞ〜」


 愛流が事務所に入ってすぐ今度は家事をしていた翡翠が昼食を持って入ってきた。どうやら今日の昼食はサンドイッチのようだ。かなり大量に作ったのか両手にサンドイッチを一杯に敷き詰められた大きなバスケットを下げていた。運ぶを手伝っていたのか隣にはカフェオレの入っていると思われるポッドを持った登の姿もあった。


 「ありがと〜、翡翠ちゃん、それに登るさんも。二人とも重かったでしょう。さっ、早くテーブルにおいてちょうだい」


 サンドイッチをテーブルに置き、皆の分のコップを用意して天川牧場の昼食が始まった。愛流達はいつも家ではなく牧場の事務所の方で昼食を取っていたようだ。昼休憩は大体1時30分まで、開始時間はそれぞれ午前の仕事を終えからで、大体12時頃には皆事務所に集まって来ていた。昼食取った後は基本的に自由だが、皆大抵そのままテーブルを囲ってテレビで昼番組を見ていたようだ。


 「はい……以上で今のニュースを終わります。CMの後は今夜放送予定のスペシャルドラマの情報を、生中継の特別イベントを通してお伝えしますで是非チャンネルを変えずにそのままお待ちください。それはCMへ移ります……」


 どうやら愛流達は昼のワイドショーを見ていたようで、これから今夜初公開の2時間ドラマの特集を始めるらしい。生中継と言っていたが主演の俳優でも出演するのだろうか。


 「今夜放送ってあれじゃないか……。ほら、あの美城聖南ちゃん主演のドラマ……」

 「(……っ!。セ、セイナさんだって……)」

 「ああ、さっき愛流の写真に乗ってたあなたが大ファンだって言う女優さんね。確か陸上をテーマにしたとか言ってたやつだったかしら」

 「そうだよそれそれ。くぅ〜、こりゃちゃんと録画しておかないとな〜。聖南ちゃんの陸上着姿を拝める絶好の機会だぞ〜。この後もその姿で出て来てくれたりなんかして……」

 「あなた……」

 「い、いや……。冗談だよ、母さん。私はあくまで美城聖南の演技力に引かれてファンになったんだ。それに私がそんな厭らしい目でドラマを見ているわけないじゃないか」

 「本当かしらね……。まぁ、いいわ。人の趣味にどうこう言うのは好きじゃないし。それよりほら、もうCMも終わったみたいよ。折角の特集なんだからちゃんと見ておいたら」

 「あ、ああ……」


 そのドラマの主演はなんとあのセイナだったようだ。当然MMOプレイヤーではなく女優の美城聖南として出演しているのだが、一体どんな内容のドラマなのだろうか。少し長めのCMの後その気にある特集が始まった。


 「……はい。それではお待たせ致しました。特別イベントの会場である新東京国際陸上競技場の方に中継を繋いでいただきましょう。アナウンサーの木村さ〜ん、こちらの声が聞こえますか〜」

 「は〜い、聞こえていま〜すっ!。私は今今夜初公開となるスペシャルドラマ、“男子に挑む女子高生陸上少女〜肉体のハンデを覆せっ!”〜の特別イベント会場である、新東京国際陸上競技場の方に来ております。このドラマはタイトルの通り一人の女子高生が男女混合の陸上競技に挑戦していく青春ドラマで、今世界中で議論となっている問題を取り上げたものです」

 

 CMが終わるとすぐにイベントの会場の中継へと切り替わった。どうやら陸上をテーマにしたドラマということで陸上競技場を会場にしているようだ。流石に観客席には誰もいなかったが、グランドの方にはイベントを見に来たと思われる一般人が何人か映っていた。ドラマのタイトルは“男子に挑む女子高生陸上少女〜肉体のハンデを覆せっ!”っということで、どうやら女性の陸上選手の男性との混合参加の問題について世間の人々訴える為のものらしい。この時代の各陸上種目の記録は最高、平均共に段々と男子と女子の差が縮まってきており、一部の女性の陸上選手からより高みを目指す為に男性と一緒に競技に出たいとの要望が増えていたのだ。現在過去の大会で一定以上の記録を残した選手にのみ参加の資格を与える方向で協議が進んでいるようだ。因みにドラマの中では当然聖南は主人公である陸上部の女子高生として出演している。


 「それではこのイベント最大の目玉、男女大激突っ!、激走100メートル勝負の方へ移って行きましょう。……ではこの競技に参加する二名の選手を紹介します。まずはこのドラマの主演、スーパー陸上少女風切速子かざきりはやこを演じる美城聖南さんで〜すっ!」


 “パチパチパチパチパチパチィ〜〜〜ッ!”

 挿絵(By みてみん)

 「うおぉぉぉぉぉぉっ!。聖南ぁぁぁぁぁっ!。陸上着姿も超似合ってるぜぇぇぇぇっ!。って言うか露出が激しすげてこれじゃあ鼻血が止まら……ぶほっ!」

 「せ、聖南ちゃん……。ユニフォーム姿もなんて美しい……。まるで陸上界の華だ……」

 「ちょっとあなた。それじゃあ本当の陸上選手の人達に失礼でしょ。彼女はあくまで陸上選手を演じてるだけなんだから」

 「それで……、相手は一体誰なんだ……」


 とうとうこのドラマ主演である聖南がテレビの画面に登場した。やはり特別イベントというのだから主演の女優が来なくては話にならないだろう。そしてまさかの晴夫の期待通り聖南は紫の陸上のユニフォームを着て100メートル用のトラックのレーンに立っていた。聖南の陸上着姿に会場の人々は勿論テレビの前の晴夫までがどよめきだっていた。陸上のユニフォームは中々に露出が激しいから仕方のないことだろう。そしていよいよ聖南の相手が発表されようとしていた。


 「では続いて男性の方の選手を紹介しま〜す。16歳で世界陸上にデビューしてから15年……。これまで自身の打ち立てた世界記録を3度も塗り変えて来た陸上界の重鎮、マッハルト・マクレーン選手ですっ!」”

 「マ、マッハルト・マクレーンだってぇぇぇぇぇっ!。現在31歳になるっていうに昨年の世界陸上でも100メートルの世界記録を塗り替えたとんでもない選手じゃないかっ!。そんな人がセイナさんの相手なの……」


 なんと聖南の相手の選手とは現世界記録保持者、それも昨年打ち立てたばかりのマッハルト・マクレーンだった。ジャマイカ出身の選手で、黒人らしい恵まれた体格と長脚、そして黒人独特のイカしたスキンヘッドで見るからに走るのが早そうだった。今年打ち立てたという記録は9秒41、8秒台という新たな目標に向けて世界記録は少しずつ縮まって来ていた。そんな凄い選手の登場に愛流達はテレビの前で大声で驚いていた。会場の人々に至っては拍手よりも驚きの方が先にきてしまいかなり静まり返った登場となってしまっていた。


 「う……うおぉぉ……。マジでマッハルトが来てるのかよ。よくこんなイベントの出演を了承してくれたな。やっぱり今話題の女子の男子への混合参加の問題をテーマにしたドラマだからか。なんにせよこりゃ我らが美城聖南でも勝つのは不可能だぜ……」


 “パチパチパチパチッ……”


 「う〜ん、予想を遥かに上をいく選手の登場に会場の人達も呆然としてしまっているのでしょうか。先程よりも拍手の勢いが大分弱いように感じられます。それでは競技開始前に二人の選手にインタビューしていきましょう。ではまず美城聖南さんから。このドラマの撮影に当たっての感想と、女子の男子競技への混合参加の問題についての意見をお聞かせください」


 突然の世界的有名な選手の登場に会場が静まり返る中二人の競技の参加者へのインタビューが開始された。まずは聖南からのようで、アナウンサーの女性がコツコツと近づいて行った。


 「え〜、それでは聖南さん。お話をお聞かせいただけるでしょうか」

 「うむっ。このドラマの撮影は都内の高校を借りて行ったのだが、陸上着だけでなく久々に制服を着る機会ができて精神的に若返らせてもらった。また主人公の風切速子という少女の陸上に懸ける熱い思いには非常に共感することができた。やはり何事も本気も取り組むことが大事だろう。私も日々VRMMOをプレイしているのだが、この主人公に負けないぐらい真剣な気持ちでプレイしているのでもしゲームの中で出会うことがあったらよろしく頼む。そう意味では男女の混合競技には大賛成だ。VRMMOの中では性別どころか年齢による隔たりもないからな。昨日も60を越える老人プレイヤーと一緒にパーティを組んだところだ」

 「はい、ありがとうございました。……なんとこのドラマでは聖南さんの陸上着姿だけなく高校の制服姿まで拝めるようです。ファンの皆様にとってはそれだけで見る価値があるのではないでしょうか。でもちゃんとドラマの内容についても色々考えてくださいね。そしてVRMMO、全国のプレイヤー達がヴァーチャル・リアリティ空間という仮想世界に意識のみで集まってプレイするという最先端技術を駆使したゲームを聖南さんもプレイしているとのことですが、現実と瓜二つの世界を作り出すとは最近のゲームは本当に凄いですね。ゲームの中では性別、年齢に関係なく皆同等の条件でプレイすることができるようです。皆さん興味のある方は是非聖南さんと制限のない青春を楽しんでくださいっ!」


 “パチパチパチパチパチパチィーーーッ!”

 

 「うおぉぉぉぉっ!。流石聖南だ〜、いいこと言うぜ〜。ところで今なんてMMOをプレイしてるんだ。それが分からないと聖南と一緒に青春じゃないかぁぁぁぁぁっ!」


 聖南のインタビューは会場の人々には大盛況だったようだ。聖南の制服姿が見られることと、ゲームの中でよろしくという言葉が余程嬉しかったのだろうか。続いてマッハルトのインタビューが始まった。


 「では続いてマッハルト選手、昨年3度目の自身の世界記録を塗り変えた感想と、聖南さんと同じく女子の男子競技への混合参加の問題についての意見をお聞かせください。……あっ、マッハルト選手は何故か日本語がペラペラなので皆さん心配せずにご覧になってくださいね。それではお願いします……」

 「ヘイっ!。ニッポンの皆さんコンニチワっ!。私がマッハルト・マクレーンでえすっ!。今日は我々陸上選手にとって非常に重要な問題をテーマにしたこのドラマのイベントがあると聞いてジャマイカから飛んできました。このようなドラマを作ってくれた日本の監督とスタッフさん達には陸上界を代表して感謝を申し上げまあす。記録を塗り替えたことへの感想は特にありません。一人の陸上選手として高みを目指しているだけです。男女の混合競技については私もその綺麗で可愛らしい女性と同じで大賛成でえす。女子の陸上の記録も段々縮まって来ているし、いつの日か男子のタイムを超える女性選手が登場することを楽しみにしていまあす」

 「……ありがとうございました。それでは早速競技の方に移っていただきましょう。ルールは簡単、二人で100メートル走をしてタイムの速かったの方の勝利でーす。当然女性である聖南さんにはハンデが与えられます」

 「ちょっと待て。これは女性の選手達の男性と対等に勝負がしたいという気持ちを表したドラマなのだぞ。ハンデなど貰っては彼女達に失礼だ。私も対等の条件で勝負させて貰う」

 「な、何言ってんだ、聖南は……。女優としての精神は凄ぇがそれはいくらなんでも……」

 「えっ……、ですがそれでは……」

 

 なんと聖南はマッハルトとの100メートル勝負にハンデなしで挑むと言い出した。あまりの衝撃の発言に会場、そして進行を務めていたアナウンサーまでが動揺を隠せずにいた。確かに聖南の女優としての精神は立派だがこれでは差がありすぎて勝負にならないのではないだろうか……。


 「オオッ、いいではありませんかぁっ!。陸上競技は勝ち負けを競うのではなく常に己の肉体の限界に挑む為のものでえす。私も正々堂々対等な条件で彼女と勝負しましょう。きっとその方がより互いにいいタイムが出せるはずでえす」

 「な、なるほど……。ですが主催者の方の許可も取らずに私の方でそのような決定をするわけにいきません。今イベントの本部の方に判断を仰いで参りますのでもう少々お待ち下さい」

 「おっと、それともう一つ私からも条件がありまぁす。ヘイッ、聖南ぁっ!」

 「んん?。どうしたのだ、マッハルトとやら」

 「私あなたの可憐な容姿……、そして女優としての素晴らしいスピリットに一目ぼれしてしまいました。もしこの勝負に私が勝ったら日本を案内していただけませんか。勿論二人きりでデートという形で……」

 「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!。あの野郎正々堂々とか言っといてデートの約束を条件に出しやがったぞぉっ!。格好つけたこと言ってる割になんてセコイ野郎なんだ……」

 「うむっ、私は別に構わないぞ。そちらが勝ったらどこでも私が案内してやろう。お代も全部私が出してやる」

 「お、おい聖南ぁぁぁぁぁぁっ!。俺達に無断で何勝手な約束してんだぁぁぁぁぁっ!。相手は現役の正解記録保持者なんだぞぉぉぉぉぉぉっ!」


 聖南の申し出にどよめいて会場だったが、マッハルトの口から更に驚くべき条件が提示された。それはこの勝負の勝敗に聖南とのデート権を賭けるというもので、ほぼ全員が聖南のファンであった観客からは一斉にブーイングの嵐が巻き起こった。だがそんなブーイングも虚しく聖南はあっさりとマッハルトの提案を受け入れてしまった。会場のファン達はもはや本部の許可が下りないことを只々祈るしかなかった。


 「えー……大変お待たせいたしました。たった今本部の意向を示した紙が手元に届きました。本部の決定はというと……」

 「頼む……。こんな馬鹿気た条件許可しない本部であってくれ……」

 「……っ!。二人の対等な条件での勝負は許可、デートの約束については二人で勝手に決めてくれとのことでーすっ!」

 「な、なんだと……。それじゃあやっぱり……」

 「ヘイッ!、決まりですね、聖南。先程の言葉通りデートの約束を賭けて勝負でえす。今更断ることなんてできま……」

 「ちょっと待てやぁっ!」

 「……っ!。な、なんだ……あのトンガリ頭は……。髪の毛があんなに真っ直ぐ逆立つなんて、ありゃ相当ワックスで固めてやがるな……」


 どうやら本部の決定は結果的に二人の意向を了承するものとなり、聖南とマッハルトは対等な条件で100メートル勝負をすることとなった。デートの約束については特に口出しするつもりはないようだ。だがそんな時会場の観客の中から一人の男が大きな声を出して改めて勝負の約束を交わそうとする二人の間に割り込んできた。会場の者達からはトンガリ頭と言われていたが、オレンジ色の髪の毛が全て針のように真っ直ぐ逆立っていて、まるでバンドでもやっているかのような見事なパンクヘアスタイルだった。年齢は高校から大学1、2年生といったところか。口調から察するにどうやら関西人のようだが……。


 「な、なんですか、彼は……。彼のこのイベントの出演者なんですか、アナウンサーさん?」

 「い、いえ……。私はそのような話聞いておりませんが……」

 「おいっ!、そこのはげちゃびんのおっさんっ!。100メートルの世界記録保持者かなんかしらんけど俺らの前でちょっと調子乗りすぎなんとちゃうか。聖南はんはワイらMMOプレイヤーの女神的な存在なんやぞ。せやのに何勝手にデートの約束なんか取り付けてくれてんねんっ!」

 「そ、そうだっ!。そいつの言う通りだぜ。あんた陸上の問題について日本人に関心を持って貰う為にここへ来たんじゃねぇのかよ。それにかこつけて聖南を口説こうなんて絶対に許せねぇ。正直見損なったぜっ!」

 「そうだそうだっ!。聖南とデートがしたかったらVRMMOで俺らに勝ってからにしな。聖南に相応しい相手は俺達MMOプレイヤーの頂点に君臨する奴だって決まってるんだよっ!」

 「全くだぜ……。なんなら俺と100メートル勝負しな。勿論ゲームの中だけどな。言っとくが俺はミステリアス・ファンタジアってVRMMOの陸上大会で100メートル走トップに輝いた男だぜ。タイムはなんと2秒03……。このゲームのキャラの性能じゃあいくらAGLにポイントを全振りしてもこのタイムは出せないぜ。しかもあんたが口説こうとしている美城聖南とも剣士の職として斬り合ったこともある凄腕プレイヤーだっ!」

 「くっくっくっ、いきなり何を言い出すかと思えば……。そんなの全部仮想の世界の話でしょ。現実の世界で通用しなければ何の意味もありませーん。日本にはゲームの中でしか粋がれないヘタレ男児しかいないのですか」

 「な、なんだと……」


 少年の勢いに乗じて会場にいたファン達は一斉にマッハルトに対して不満を露わにした。だがどんなに息巻いても所詮はゲームの中の話、マッハルトには軽く受け流されてしまいその上ヘタレ男児だと馬鹿にされてしまった。確かにゲームの技術は格段に進歩していたが、この時代においても世界的な評価を受けているゲームのトッププレイヤーは少ない。メディアへの露出も少なくゲームの中での実績など認めてもらえないことが多かった。


 「それに聖南は今更約束を覆すような女性ではありませーん。あなた方は蚊帳の外で勝負を見学していてくださーい」

 「うむっ、その通りだぞ、お前達。一度受けた勝負を逃げるような真似はしたくない。心配せずとも私は負けないから安心して見ているのだ」

 「ふっ……、そういうことでえす。(ですが聖南……。まさか本気で私に勝つつもりでいるとは驚きでえす。残念ですが陸上の世界はそんな奇跡が起きる程あまくはありませーん。あなたとのデート……、楽しみにさせてもらいますよ)」

 「ちっ……。だったらワイも勝負に参加したるっ!。そしてワイがあんたに勝ったら仮に聖南はんより速かってもデートの約束はなしや。どや、これでもワイらのことをヘタレ男児や言うたりせへんやろなぁ」

 「へっ……。ユーも勝負に参加するというのですかぁっ!。オーッ!、イエスッ!。イッツァ、ワンダフルッ!。それでこそニッポン男児でえす。まさにサムライ・スピリットね」

 「な、何言ってんだ……、あいつ……。あんな変な奴が世界記録保持者に勝てるわけないじゃねぇかっ!」

 「でも聖南が勝負を受けると言っている以上今はあいつに賭けるしかねぇぜ……。一応それなりに足には自身があるんだろう。なんとなく速そうな感じがするし……」

 「よっしゃぁっ!。マックスハゲだかなんだか知らんが、こうなったらこのなにわの韋駄天と恐れられた鳥天狗京典とりてんぐきょうすけの恐ろしさをとくと教えてやるさかい覚悟しとけや」

 「と、鳥天狗だって……」

 

 やはり聖南は勝負からもデートの約束からも引き下がるつもりはないようだ。だがその様子を見てなんとそのトンガリ頭の少年が自分も勝負に参加させろと言い出した。どうやら自分が勝つことで聖南とマッハルトのデートを阻止するつもりらしい。その少年は鳥天狗京典という名で、自身のことをなにわの韋駄天と称していた。足に自信があるのだろうが、到底マッハルトに勝てるとは思えなかった。だが会場のファン達に他に成す術はなく、もうその鳥天狗京典の勝利を願うしかなかったようだ。一方テレビでこの様子をを見ていた愛流達はその騒然とした状態に困惑してしまっていた。


 「鳥天狗と言えば母さん、関西の有名な家系の名だったよなぁ……」

 「ええ……、確か天狗の血を引く数少ない末裔だとか……。当然その人達は普通の人間でしょうけども。そんな家の子が聖南さんのファンなんて驚きね」

 「けっ……、なんにせよ私はあのトンガリ頭を応援するぜ。あの禿げ頭、確かに世界記録保持者だからって調子に乗りすぎだ。女相手に対等な条件でしかも賭け事なんてするなっての」

 「本当っ!。しかもあの会場の人達って皆お兄ちゃんと同じVRMMOプレイヤーなんでしょ。だったらお兄ちゃんの好で私も応援してあげちゃう。お兄ちゃんも当然あの人の味方だよねっ!」

 「う、うん……まぁね。(それにしてもあの人のあの自信……。もしかして昨日僕と同じあのゲームをプレイしたんじゃ……。っていうかセイナさんに至っては僕と一緒にアイアンメイル・バッファローを討伐したんじゃないか……。それなら僕と同じように体にとんでもない変化が起こっていてもおかしくはない。もしかしてこの勝負大変なことになっちゃうんじゃないのかなぁ……」


 会場の皆は当然聖南の敗北を予期していたが愛流は違った。聖南は昨日一日“finding of a nation”をプレイしてしかも愛流と一緒にアイアンメイル・バッファローを倒している。恐らく十数メートルの鳥居に飛び乗った美羽と動物の声を聞くことができた愛流と同程度の変化がその身に起こっているはずだ。更に前衛職である剣士の職についていたことを考えると美羽以上に肉体が強化され世界記録等軽く塗り変えてしまってもおかしくはない。そして愛流の予想では飛び入りの挑戦者である鳥天狗京典も“finding of a naton”のプレイヤーではないかということだったが……。


 「OKっ!、キョウスケっ!。ならユーも早くこっちに来てレーンに並ぶね。ところでスパイクとユニフォームは大丈夫ね?」

 「ああ、こんなこともあろうかとスパイクはきっちり持って来たし、ユニフォームは半袖半パンなら問題ないやろ。……ところでワイの方からも聖南はんにお願いがあるんやけど……」

 「んん?、君も私に何か賭けて欲しいのか。ならば遠慮せず早く言うがいい」

 「あっ……、あのその……。た、大したことじゃないんやけど、も、もしワイが1着になったら一緒にしょ、食事でもどうかなて……。ほ、ほら……、マッハルトさんだけ褒美があるのもなんかあれやさかい……」

 「なにぃぃぃぃぃぃっ!。さり気なく自分も調子のいい要求してんじゃねぇぞごらぁぁぁぁぁ。それじゃあお前もあの禿げと何ら変わりねぇだろうがっ!」

 「ドアホッ!。不甲斐ないあんた等を代表してワイが聖南はんを救たろうとしとるんやないかい。これぐらいのご褒美あっても当然やろっ!」

 「私は一行に構わないぞ。ちょうど昼飯時で小腹も空いてきたところだ。君が勝ったらこの近くにある美味しいとんかつ屋の定食をご馳走してやろう。黒豚とカヤの実から絞った高級油を使った超一流のお店だぞ」

 「おおっ、ほら衣がサクッと揚がって美味そ……ってひ、昼飯ぃぃっ!。ワ、ワイはビルの最上階なんかにある高級レストランで夜景を見ながらムードのあるディナーを楽しみにしとったのに……」

 「わはははははっ!。てめぇなんざ聖南から見たらまだガキってことだよ。精々MMOプレイヤーの大先輩である聖南様に美味しいとんかつをご馳走になりながらプレイの手解きでも教わるんだな」

 「ぐっ……、お、おのれらぁ……っ!」


 こうして鳥天狗も聖南と昼食の約束を賭けて勝負に臨むことになった。こちらも陸上をやっているのか手慣れたように素早くスパイクを履き、この時期には少し暑そうに見える長袖と長裾ながずそのジャージを脱ぎ捨てた。中は白地の半袖のシャツと短パン、少し茶色の土汚れのようなものが付いていてが、今朝陸上の練習でもしてきたのだろうか……。


 「あ、あの……。そろそろ競技の方を始めても構わないでしょうか……」

 「……っ!。あ、ああ、えろうすんまへん。今レーンに着くさかいちょっと待っといてな。(まぁええわ。例え昼飯でも聖南はんと食事ができることに変わりはあらへんし、この勝負ワイの勝利はほぼ約束されたもんやしな。今日朝起きるまでプレイしとったあのゲーム……、そうっ!。“finding of a nation”のおかげでなっ!」

 「イッチニッ、サンシッ、イッチニッ、サンシッ……っ!。ヘイッ、キョウスケ。ユーは準備運動はしなくていいのですか?。途中で足がっても知りませよ」

 「せやな。スポーツ選手にとって準備運動程大切なもんはあらへん。ワイもしっかり身体をほぐしとかんと……。(それにしても驚いたで……。今朝早く大学のグラウンドでまさかと思ってタイムを測ったらなんと8秒23……。セルフジャッジやったから正確ではないかもしらんけどマジであのゲームでの経験が反映されてるみたいやな。これでマックスハゲにはまず負けることはあらへん。問題は聖南はんやけど……、廃人MMOプレイヤーとして名高い彼女やったらワイと同じゲームをプレイしとる可能性は十分ある。まぁ、やとしても所詮は女性、パワーアップしたワイには勝てんはずや)」

 「それでは、男女大激突っ!、激走100メートル勝負を開始したいと思いま〜す。皆さん位置について……」


 “グッ……”


 やはり鳥天狗も愛流達と同じく“finding of a nation”をプレイしていたようだ。だが聖南がプレイしているかどうかを知らなかったところを見るとどうやらヴァルハラ国のプレイヤーではないらしい。今朝測ったタイムは8秒23ということで、この時点ですでに人間離れしているが果たして聖南の肉体はどれ程強化されているのだろうか。そしていよいよ勝負開始の宣言がなされ、3人はそれぞれのレーンにスタートの体勢に入っていった。3人の体勢は皆同じくクラウチングスタート、静けさに包まれなる会場の中合図の発砲がなるのを緊張した面持ちで待っていた。


 「よ〜い……」


 “パアァンッ!”


 「よっしゃーーーっ!、スタートはバッチリやっ!。こらもろたでっ!」

 「ふっ……、何を馬鹿な。聖南とのデートの切符を手にするのはこの私でーす。スタートのタイミングならば私も負けてはいませーんっ!」

 「アホぬかせっ!。スタートが同じなら端からワイの勝ちは決ま……ってなにぃぃぃぃぃぃっ!」

 「……っ!。オオォーマイガァッ!」


 “ダダダダダダッ!”


 発砲の合図と共に3人の勝負の競走が切って落とされた。鳥天狗、マッハルトと共に最高のスタートを切れたようで二人とも会心の表情でスタートラインを飛び出していったのが、それも束の間、一瞬にして前方へと飛び出していった少女の姿に一気に驚愕の表情へと塗り変えられてしまったのだった。


 「えっ……、ちょ、ちょっと待て。一体何がどうなって……」


 “ピッ……”

 “ザザァーーーーッ……”


 「ゴ……、ゴォ〜〜〜〜ルッ!。聖南選手今ゴールです。タ、タイムの方は……、さ、3秒03っ!。な、なによこれ……。一体何がどうなっているってのよっ!。もう訳が分かんないわ……」


 スタート同時に前に飛び出した少女は当然聖南だった。長い黒髪をなびかせあっという間に100メートルのトラックを駆け抜けて行った。しかもその姿勢は胸を前に張った通常の陸上選手の走り方ではなく、腕こそ前後に振っていたものの体は地面に水平になるくらい前屈みで、まるで獲物を狙う狩猟動物のようだった。更にゴールの直後はゴールラインを駆け抜けるのではなく、体を横に右足を前に突き出して地面を擦るように勢いを殺して止まっていた。その姿はまさにそう……、ゲームの中でいかなる強襲や状況の変化にも対応できるよう心掛けている剣士の戦い方そのものであった。そして電光掲示板に表示された聖南のタイムは3秒03、高性能の測定器を使用している為まず間違いないだろう。何より未だに遥か後方を走っている鳥天狗の姿がそのタイムの正しさを物語っていた。


 「そ、そんなアホな……。やっぱり聖南はんもあのゲームをプレイしとったんか……。せやけどたった一日のプレイでワイとこれまでの差を……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 「ワット、イズ、ディス……。一体何がどうなっているのですか……。しかし世界記録保持者としていかなる状況でも最後まで走り抜かなければなりません。せめてこの少年には勝……っ!」

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!、ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 「オォ〜、ノォ〜〜〜〜ッ!。こんなことがあっていいのですかぁっ!」

 「ええぇぇぇぇぇぇっ!、こ、今度はあのトンガリ頭のガキまで……。俺達夢の中にでもいるんじゃねぇのか……」


 なんと聖南に続いて鳥天狗にも驚くべきことが起こっていた。二人の現在の走行距離は30メートル……。二人ともほぼ平行に並んでいる状態だったが突如として鳥天狗がマッハルトをグングン引き離し始めた。まさかの展開に会場のファン、そしてアナウンサーも動揺を隠せなかったようだ。

 

 「うおぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 “ピッ……”


 「ゴ、ゴ〜〜〜ルッ!。続いて鳥天狗選手ゴールです。タイムは……、7秒78っ!。こ、これもとんでもないタイムですっ!。ですがそれでも先程の聖南選手とは5秒近くの差があります……」

 「オオォォォォォォォッ!、イッツァ、ディザスタァァァァァッ!。ジャパニーズアスリートイズデンジャラスモンスターッ!」

 

 “ピッ……”


 「そしてマッハルト選手のタイムは……9秒38っ!。これは凄いっ!。非公式ですが自身の世界記録を更に乗り越えるタイムでーすっ!。……あくまで前の二人がいなかったらの話ですけど……」


 続いてゴールした鳥天狗のタイムは7秒78。今朝の測定では8秒と言っていたがどうやら聖南への対抗心で更にタイムが伸びたようだ。だが聖南と比べるとタイムのみを意識した走り方で、ゴール後も力が抜けるように失速しとても戦場で通用する動きではなかった。そしてマッハルトはと言うとこれまた最後の意地を見せて自己記録こそ更新したものの聖南達には到底及ばないタイムだった。あまりのショックにゴールした瞬間に英語で嘆くような言葉を叫んでしまっていた。


 「はっきり言って前代未聞の展開に私の頭も全く追いついておりませんが、ここは仕事に集中して選手の皆様に走り終えた感想を聞きに行きま……ってんん?。な、なんですか……ええっ!。ここでもう中継を終わるっ!。……えー皆さん、私も残念ですがどうやらここでお別れのようです。それではスタジオの方に画面を戻しますので、引き続きワイドショーをお楽しみください。それではまた……」


 “パッ……”


 「……は、はい。どうやら会場の本部もあまりに衝撃の出来事に混乱しているようです。こちらのイベントのその後につきましてまた続報が入り次第お伝えしたいと思います。では引き続きニュースの方をお楽しみください……」


 本来なら勝負後のインタビューがあるはずだったのだが突如画面が元のワイドショーのスタジオへと切り替わった。聖南と鳥天狗の常軌を逸したタイムにイベントの本部がこれ以上放送を続けるべきではないと判断したのだろう。牧場の事務所で視聴していた愛流達もあまりに衝撃の光景に唖然としてしまっていた。勿論他の視聴者達も同じで、今頃テレビ局には問い合わせの電話が殺到しているだろう。


 「ちょ、ちょっとあなた……。今のって一体どうなってるの……。あれもドラマの宣伝の為の演出なの?」

 「た、多分そうだろう……。恐らく映像を合成して聖南ちゃんやあの少年だけ早送りで映してたんじゃないのか。最近の映像技術の発達ぶりは凄いからな」

 「で、でも私にはとても合成には思えなかった。途中で画面が切り替わった様子もなかったし、生中継っていうのも本当ように見えたよ」

 「そ、そうですね……。確かに映像に手を加えられたようには見えませんでした。もしかしたら中継が切り替わった瞬間から用意していた映像に切り替わっていたのかもしれません。スタジオの人と会話していた最初に中継を移した時だけでしたから」

 「かあぁ〜〜〜〜、私には全く訳分かんねぇよっ!。だけどあの聖南って奴の走り方は凄かったよな。まるでアニメや漫画に出てくるキャラクターみてぇだった。ありゃ如何にも戦闘してる感じの走り方だったぜ」

 「そ、そうだな……。確か聖南って人はVRゲームをやってる言ってたけど、もしかしてそのゲームの中での癖が出てるんじゃないのかな。昨日一緒にプレイした時はどんな走り方だったんだ、愛流」

 「えっ……」


 どうやら麗子達はあれが本当の映像であるとは信じられなかったようで、皆で必死に映像を加工した方法を話し合っていた。だがそんな中不意に登が聖南の走り方とVRゲームの関係について問いただしてきた。今の現象の原因を知っている愛流に取っては最も嫌な質問だろう。当然本当のことを答えるわけにはいかなかった。


 「そう言えば登君の言う通りね。愛流っ!、もしかしてあなたのやっているVRゲームっていうのと関係があるんじゃないでしょうねっ!。いいから正直に答えなさいっ!」

 「そ、そんな……。確かに聖南さんの走り方はあんなだったけど、それとあのタイムは全く関係ないよ。ゲームをやったからってあんなスピードに走れるようになるわけないじゃないか。きっと皆の言う通りどうにかして映像を加工してあるんだよ。なんだったら今度一緒にプレイした時に聖南さんに聞いといてあげるから、早く仕事に戻ろう」

 「ま、まぁ、それもそうよね。あんなに風に人が走れるなんてあるわけないものね。あっ、それよりいっけな〜い。もう一時半を3分も過ぎてるわ。さぁ皆、愛流の言う通り早く午後の仕事に取り掛かるのよ。一日でも仕事をサボれば動物達からの信頼が一気に薄れちゃんだからね」

 

 “「は〜い〜」”


 「(ふぅ……、なんとか助かったぞ。けどいきなりこんなテレビの前で知れ渡って大丈夫なのかなぁ。公にあのゲームの秘密なんて知られたら一発でプレイ禁止にされちゃうよ。これ以上騒ぎが大きくならないといいんだけど……)」


 登の質問にヒヤリとした愛流だったがなんとかこの場は誤魔化すことに成功したようだ。だがあの映像を見たのは愛流達だけではない。恐らくネット上の動画投稿サイトには一瞬にして今の映像が広がってしまうだろう。初日からゲームの秘密が知れ渡れば確かにゲーム協会、更には政府も黙っていまい。果たして愛流達は無事ゲームを続けることができるのだろうか。一方中継が中断されたドラマのイベント会場はというと……。


 「ふぅ〜、何故か知らんがまるでゲームの中と同じような感覚で走ることができた。これまで感じたことない程体に力がみなぎっているぞ。……さて、どうやら勝負は私の勝ちのようだな。2着はトンガリ頭の君か。私に負けたとはいえ世界記録保持者に勝つとは大したものではないか。よしっ……、特別に約束通り私が昼飯をご馳走してやろう。服を着替えたらすぐ行くから競技場の入り口で待って……」

 「ふざけたこと言っとんちゃうぞぉっ!、この糞アマがぁぁぁっ!」

 「……っ!。どうしたのだ、急に大声を出して……。それに糞アマとはいくらなんでも口が悪すぎるぞ……」

 「くっ……、どこまでも人を馬鹿にしくさりやがってぇ……。あんたも気付いとるはずやぞ、ワイもあんたと同じあのゲームをプレイヤーやちゅうことをなぁっ!」

 「……ああ、……確かにその通りだ」

 「あんたはどうかは知らんけどワイが自分の国のプレイヤーを検索してもあんたの使つこうとるキャラクター名、“セイナ・ミ・キャッスル”はヒットせんかった。更に美城聖南程のプレイヤーなら最初の討伐の時に上位に食い込んであっという間に存在が知れ渡っとるはずや。せやけどワイの国の表彰式にはそんな名前一切出てこんかったし、噂も何一つ聞こえてこんかった……」

 「………」

 「つまりあんたはあのゲームをプレイしてはいてもワイと同じ国に所属しとるってことはないわけや。だったら話は早い。これからゲームの優勝を目指して戦わなあかん相手から飯なんか奢ってもらえるかいっ!。しかもワイの目の前であんなとんでもないタイムを出しやがった敵国の超エースプレイヤーからはなぁっ!」

 「……なるほど、それは確かに貴様の言う通りだな。だが敵対としているのはあくまでゲームの中での話。それに私の知っているプレイヤーは例え敵といえども一緒に楽しくゲームをプレイする為の同志ととらえていた。ならば食事ぐらい一緒に取っても問題ないはずだ。貴様程のプレイヤーならばうっかり情報を漏らすこともあるまい」

 「はんっ……、何が楽しくプレイする為の同志や。そんな甘ちゃんの言うことを真に受けるたぁ美城聖南も噂程じゃあらへんな」

 「何……」

 「ハッキリ言うとくでっ!。あのゲームの優勝を掴むのはワイらの国やっ!。決して他国の奴らにに譲るつもりはない。ワイの国にはあんたを超えるプレイヤー達なんぞぎょーさんおる。勿論ワイもその一人になる予定や。それでもまだその甘ちゃんと同じこと言うようやったらあんたらにもう勝ち目はないわ。早いとこ降伏してワイ等の国の糧にでもなっときっ!」

 「……なんだとっ!。戦わずして諦める等我々の国プレイヤーは誰一人として認めはしない。私のことはともかく、他の仲間のことを悪く言うのならばゲームの中など関係ない、この場で貴様を斬り伏せるぞっ!」


 “ビリビリビリビリビリィィィィィィッ!”


 「(お、おおぉ……、いかづちでぇす……。二人の闘志が雷となって中央でぶつかり合っていまぁす……。こんな凄まじいオーラは今まで感じたことはありませーん。聖南……、あなた達MMOプレイヤーとは一体何者なのですか……)」


 100メートル勝負を終えた聖南と鳥天狗だったが、先程までとは態度が一転、互いに凄まじい闘志をぶつけ合いながら睨み合っていた。快晴だというのに会場は薄暗い雰囲気に包まれまるで雷雲の中にでもいるような重苦しい空気に支配されてしまっていた。聖南はまるで剣先を相手に向けているかのように右手を前に突き出し、眼力と共に剣気を飛ばすように相手を威圧していた。


 「………」

 「………。(な、なんちゅう闘気や……。見える、ワイには見えるで……。聖南の手元から伸びる銀色光輝く剣身が……。こりゃ本間にこの場で斬り伏せられてしまうかもしれへんな……)」

 「……ふっ」

 「な、なんやっ!、一体何の真似やっ!。途中で剣を下ろしやがって……、まだワイのことを馬鹿にしとるんか……」

 「け、剣……。一体何を言っているですか、彼は……」

 「別に馬鹿にしているわけではない。我々の勝負はあくまでゲームの中でケリを着けるもの。ここで変な騒ぎを起こして他のプレイヤー達に迷惑を掛けては申し訳がない」

 「……確かにな。ワイもこれで失格にでもなってしもたらMMO界の恥さらしや。勝負にも大差で負けてもたし、今日のところは黙って退散するが……ええかっ!。今度ゲームの中でうたら1ミリも容赦せぇへんでっ!。ワイも修行を積んでもっともっと腕を磨くさかい覚悟しときや。……じゃあな」


 そういうと鳥天狗は黙って会場を去って行ってしまった。強がってはいたが実際は聖南のタイムに凄まじいまでのゲームの力量の差を感じ心の中は震え上がってしまっていただろう。現実での身体能力の上昇度はそのままゲーム内の実力を表してるはずだからだ。とはいえ鳥天狗のタイムも大したものである。恐らくMMOプレイヤーとしては中堅より少し上のクラス……、レイチェルとナミの間ぐらいの実力は持ち合わせているだろう。


 「……ヘイ、聖南」

 「……っ!。どうしたのだ、マッハルト」

 「先程走り見事でした。そして今キョウスケと共に見せた凄まじい闘志も……。あれほどの闘志を持つ者は我々スポーツ選手の中にも存在しませぇん……。あなた方MMOプレイヤーを馬鹿にするような発言をしたことをどうか許してくださぁい……」

 「何を言う。貴様の方こそ世界記録保持者に恥じぬ見事な走りだった。このタイムの差は我々がプレイしているゲームの影響だ。気にすることはない」

 「いえ……、私は慢心していました。正直ゲーム等只の子供と陰湿な人間達の遊びでスポーツには遠く及ばない存在と見下していたのでーす。えすが今日ハッキリ分かりました。これから世界を動かす……、そして導いていくような人物はあなた達MMOプレイヤーの中にいると……。決してスポーツ選手としての誇りを失ったわけではありませんが、できればあなた達のようにMMOプレイヤーを目指していたかったと……、そう心の奥底に思っている自分がいるのでぇす」

 「マッハルト……」

 「ですが私の選んだ道は陸上競技選手。余計な未練は早く捨ててあなた達に負けないようスポーツを通して社会に貢献していくつもりでーす。あなたもたまには今日のように外でスポーツを楽しんでくださーい。では私もこれで……」

 「うむっ、お互い誇りを忘れず自分の役割をしっかり果たしていこう。さらばだ。(……それにしても先程から妙な視線を感じる。やはり私のことを偵察に来た姑息なプレイヤー達がまだいるようだな。鳥天狗は本当に私のファンとして来ていたようだが……)」


 こうしてマッハルトも会場を後にして行った。MMOプレイヤーとスポーツ選手の間に友情が芽生えた瞬間であったが、会場の中にはその光景を観客に紛れて密かに観察している者達がいた。まるで獲物を狙うハンターのように……。


 「(ふっ……、あれが芸能廃人プレイヤーの美城聖南か……。予想以上のポテンシャルだ。こりゃ相手にするにはかなり骨を折りそうだ)」

 「(だがこれで美城聖南……、それから鳥天狗とかいう奴がどこかの国に所属していることが分かった。まさかと思ってイベントを見に来てみたが、収穫の方も予想以上だったようだ。これは来て正解だったな)」

 「(なんだ……。折角面白いものが見られると思ったのにどっちも大したことないじゃん。俺なら間違いなくもう2秒台で走れるね。他に偵察に来ている奴も大したことなさそうだし、こりゃ早く帰って昼寝でもするか)」


 どうやら会場に紛れ込んでいたのは聖南達と同じく“finding of a nation”のプレイヤー達らしい。皆聖南ならばゲームをプレイしている可能性は高いと踏んで偵察に来ていたようだ。聖南もその存在には気付いていたようだが、そんなことはまるで気にしないかのように全力で走ったらしい。それともあれでまだ余力を残していたのだろうか……。なんにせよこれで聖南、そして鳥天狗がどこか国所属しているプレイヤーだということは他のプレイヤー達に知れ渡ってしまっただろう。鳥天狗も帰りの電車の中で自分の行動を少し反省するかのように考え込んでいた。


 “ガタンッゴトンッ、ガタンッゴトンッ”


 「(はぁ……。聖南はんの為とはいえこれでワイがあのゲームのプレイヤーやってことは他の奴らに完全に知られてしもたで……。こりゃ今日ログインしたらあいつらにこっぴどくどやされるなぁ……。おまけに格好つけたせいで昼飯もパァになってしもたし……。

はあぁ〜〜〜……)」

  

 “ガタンッゴトンッ、ガタンッゴトンッ”


 「(それにしても聖南はんのあの凄まじい走りは一体どういうことや……。いくらプレイに差があるいうてもありゃちょっとおかしないか……いやっ!。そんなことよりあのゲームの特性がここまでのものやったということの方が重要やっ!。もしこのゲームで優勝してあの世界の一つを自分等のもんにできたら……)」


 “ガタンッゴトンッ、ガタンッゴトンッ”


 「そしたら間違いなく最強の人類になれるやんけぇぇぇぇぇっ!。よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!、こうなったら絶対ワイの国を優勝に導いたるでぇっ!。世界を手にするのはアメリカでもロシアでも、もう日本でもない、このなにわの世界大統領っ!、鳥天狗京……って、あれ……」

 

 “ジィー……”


 「あ、あの……、今のはそのつい出来心で……。本気で世界を手に入れようなんてこれっぽっちも……」

 「君ぃ……、そんなことはどうでもいいから電車の中では静かにしてよ」

 「そうよっ!。おかげで赤ん坊がビックリして泣き出しちゃったじゃないっ!。おーよしよし……」

 「オギャァァーーーッ!」

 「お、おう……、そらぁえろうすんません……。ほら僕ぅ〜、良い子だから泣き止んでね〜。でないとこの頭の針でチクチクしちゃうぞ〜……えいっ!」

 「アフゥッ♪、キャッ、キャッ♪」


 鳥天狗京典、性別、男、年齢、恐らく大学1、2年生、意外にも子供のあやし方は上手かった。電車で家へと帰宅した彼は夜には再び“finding of a nation”の世界にログインするのだろう。勿論愛流達も……。昼にプレイしている者達もいるだろうが、こうして皆様々な思いを胸に“finding of a nation”二日目のプレイに臨んでいくのだった……。




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