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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第七章 VSアイアンメイル・バッッファローっ!
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finding of a nation 50話

 アイアンメイル・バッファローの攻撃パターンの変化によってパーティの崩壊ギリギリまで追い込まれたナミ達、更にはライノレックスを倒した時に見せた超高威力のレーザーまでもがリアに襲い掛かろうとしていた。その技名は“波動ブレス”というそうで、ナミ達が最初に予測した通り威力とチャージ時間を調節できるようだった。リアはもう駄目だと思っていたが、無茶を承知で救出に来たナミのおかげでどうにか命を取り留めることができた。そこへ回復の完了した他のメンバーも集結し、波動ブレスの反動で動きの止まっているアイアンメイル・バッファローも仕留めるべくリアが激励するように指示を出していた。


 「さあっ!、皆っ!。さっきの攻撃の反動であいつの体が攻撃している今がチャンスよ。皆で全力で攻撃して一気に止めを刺してしまいしょう」

 「OK、リアっ!。さっき教えて貰ったバーン・レイ・ナックルで必ずあいつを倒してみせるわっ!」

 「……っ!。おいおい、なんだよナミ、バーン・レイ・ナックルって。名前の感じからしてめちゃくちゃ強そうな技じゃねぇか」

 「へへっ、これは私とリアの友情の証に貰った術技書に記されていた技なの。もう早速使用して習得しちゃった。これで私もセイナやレイチェルにも負けない大技を使えるようになったってわけ」

 「ゆ、友情の証って……。まさかお前等女同士のくせに変な関係になったりしてないだろうな……」

 「そんなわけないでしょっ!。あんたその軽い口をどうにかしないとマジでいつかぶっ飛ばすわよっ!」

 「悪い悪い。それよりあいつをぶっ倒すなら私の存在を忘れてもらっちゃ困るぜ。私もヴァイオレット・ストームであいつをぶった斬りたくてウズウズしてたんだからな」

 「当然でしょ。ここであの大技を使わないでいつ使うって言うのよ。それより行動ポイントの方は大丈夫でしょうね。もし残量が足りなくて技が暴発でもしたら洒落にならないわよ」

 「だ、大丈夫だよ。あと一発撃てるぐらいは残ってるはずだし……」

 「あと一発って……、なんだか危うそうだけどまぁいいわ。セイナの方は当然大丈夫よね。あなたのサンダー・オブシディアンブレードもないとあいつのHPを削り切るのは厳しいわ」

 「うむ、私ならばあと2発は確実に撃てる。最大出力で打ち噛まして必ず今までの借りを返してやる」

 「流石ね。頼もしい限りだわ」

 

 やはりアイアンメイル・バッファローを倒す為に要となるのはセイナのサンダー・オブシディアンブレードとレイチェルのヴァイオレット・ストーム、そして今ナミが習得したバーン・レイ・ナックルのようだ。バーンとは燃える、レイとは光線、ナックルは拳という意味で拳から高熱を帯びた光線を繰り出す技らしい。リアは皆の行動ポイントの残量、特にレイチェルのものを気にしていたようだが、なんとか後一撃ヴァイオレット・ストームを放つ程度は残っているらしい。レイチェルで大丈夫なのだから他のメンバーの残量も大丈夫だとリアは判断したようだ。


 「ちょっと待て貴様等ぁっ!。さっきから横で聞いてりゃなんだっ!。サンダーおじさんにトイレット・ストーンにバナナックルだぁっ!。何でゲームがスタートして数日しか経ってないのにお前等だけそんな強そうな技覚えてんだよっ!」

 「て、天だく……。いくらなんでもその技名の間違え方はわざとらしすぎます。MMOは運の要素も強く出るものですからあまり嫉妬しても仕方ありませんよ。セイナさん達が強力な技を習得していて悔しいのは分かりますが、それならばそんな嫌味を言うより私達もNPCの方々の好感度を上げて良イベントを起こしましょう。先程のナミさんのようにね」

 「ぐっ……」

 「ラスカルさんの言う通りだぞ、天丼頭。そのギトギトの頭だけじゃなくて行動まで見苦しい奴だな。仲間が強力な技を覚えたんなら素直に喜んでやりゃいいじゃねぇか。元々あの牛と戦っていたのはこいつらなんだし今回は花を持たせてやろうぜ」

 「るせぇっ!。てめぇに言われなくても分かってんだよ、オカマ野郎っ!。……ってわけだ。今回はお前達に美味しいところをくれてやるよ。どのみち俺達の攻撃じゃあどう頑張っても仕留めきれないだろうからな。後は頼んだぜ、セイナにポニーテールの嬢ちゃんに金髪ロンゲの姉ちゃん」

 「うむ、任せておけ」

 「そんなことよりさっきからポニーテールポニーテルってうるさいわよ、あんた。私のことはナミって呼んで構わないわ。後でちゃんと自己紹介しないとね」

 「そうですね。私も皆さん方とフレンドになるのを楽しみにしていますよ」

 「……ちょっと、いつまで無駄話をしているつもり。親交を深めるのもいいけど今はあいつを倒すのが先じゃないの」


 天だくは自分を差し置いてナミ達が強力な技を習得していることに嫉妬しているようだった。特にセイナに対しては強くライバル意識を持っているようで、わざと技の名前を言い間違えて悔しさを露わにさせていた。だが奈央子達の注意を受けて今は気持ちを抑え込んだようだ。少し余計な時間を食ってしまっていたナミだったが、ちょうどいいタイミングで吉住が会話を遮ってくれた。


 「吉住さんの言う通りよ。いつあいつが動きだすとも限らないし、一掃された雑魚モンスターもそろそろ沸いて出て来たわ。今すぐにでも攻撃を仕掛けましょう、ララ君」

 「分かりました、シホさん。私は皆さんの技の威力を高める物語を語りましょう」

 「お願いね。ウンディも確かシルフィーさんと協力して特別なサポート魔法が使えるんじゃなかったかしら。最初彼女の姿を見た時そんなことを言ってたでしょう」

 「……そうでしたっ!。シルフィーっ!」

 「OK。あれをやるのね、ウンディ。でも私達の魔法は同時相手へのデバフの効果もあるからなるべくあいつに近づいてからの方がいいわ」

 「了解よ。リアさんもそれで構わないかしら」

 「ええ、もう私の指示を気にする必要はないわ。皆今自分が出せる最大の技で攻撃してちょうだい」

 「最大の技にゃっ!。……う〜ん、僕はやっぱり猫フレイムかにゃ〜。思い切って10連弾ぐらいに挑戦してみるにゃ」

 「私も威力は弱いけど祈祷師の特技で頑張ってみるけぇ。一緒に頑張ろうね、デビにゃん」

 「わしは流石に何もすることはないのぅ……。杖で殴り掛かるわけにはいかんし後ろでくつろいでおるか」

 「はははっ。することがないのは私も同じですよ、お爺さん。ですがもしもの時に備えて気を引き締めて待機しておきましょう」

 「皆やることは決まったみたいだな。……よ〜し、それじゃあ俺が先陣を切ってやる。頼んだぜ、ララっ!」

 「私達は先にあいつの近くに行ってましょう、ウンディ。皆が範囲に入ったらすぐ魔法発動できるようにね」

 「分かったわ」


 どうやらナミ達は皆どのような攻撃を仕掛けるか決まったようだ。そして先陣を買って出た天だくに促されるようにララが物語を読み始め、相手にも効果がある特殊なサポート魔法を使用すると言ったシルフィーとウンディは先行してアイアンメイル・バッファローの元へと向かって行った。


 「通じ合う二人の少女の心……、その友情の証として授けられた灼熱の拳。さあっ!、勇敢なる戦士達よっ!。彼女達に続きタウロスの怪物を討ち果たすのだ。あの少女達の美しき真紅の姿のように戦意を燃え上がらせるのだ」

 「ちょ、ちょっとぉ……。今の物語ってさっきの私とリアのことじゃない。話の内容を自由に考えられるからってこれじゃあ恥ずかしくて逆に戦意が衰えちゃうわよ。ねぇ、リア」

 「そんなことないわ。場の流れに沿った素晴らしい物語よ。語り部の力が最大限に発揮されて私達掛かるバフの効果もより大きなものになっているわ」

 「そ、そうなの……」

 「よっしゃぁぁぁぁぁっ!、準備整ったみたいだし行くぞお前等ぁっ!。必ずあの牛野郎をぶっ倒すぞっ!」

 「おうっ!」


 ララの語った物語は戦いの語り、一定時間の間魔法と特技に設定されている威力を上昇させる効果があるようだ。語り部の差サポートは特技に分類にされ、範囲内の全てのキャラクターに効果があるのが特徴的だ。話を語る際の物語は自分で考えなければならないようだが、その内容が一番効果の度合に影響する。ナミは恥ずかしがっていたようだが、ララの物語は語り部の効果を最大限に引き出しているようで意外にもリアは賞賛の言葉を口にしていた。そしてララのバフの効果を受けたナミ達は戦意を奮い立たせると天だくの先陣の元アイアンメイル・バッファローへと向かって行くのだった。


 「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 「……っ!。皆が来たわよ、ウンディ。もう準備はいい?」

 「ええ、いつでもOKよ」

 「よ〜し、それじゃあ……」


 ナミ達がアイアンメイル・バッファローの元へと向かっている頃、先行していたシルフィーとウンディはすでにサポート魔法の為の魔力を蓄え終えていた。二人は皆が範囲内へと入ろうとしているのを確認すると発動の為の呪文を唱え始めた。二人の詠唱は一字一句話すタイミングのズレもなく、まるで本当に二人で一つの状態になったようだった。シルフィーの体の周囲からは爽やかな感じのする薄緑色のオーラが、ウンディからは透明感あふれる水色のオーラが溢れ出ていた。二つのオーラは渦巻くように交わっていき、まるで水の中に風が吹き荒れている幻想的な空間を作り出していた。

 挿絵(By みてみん)

 “「気は風に乗れば則ち散り、水に界せられば則ち止る。だが水の界にて風が吹けば気は散り止る。それ即ち静動混同の力なり。……風水魔法・竜管貴賤りゅうかんきせんっ!」”


 「お、おお……、すげぇ……。いきなり薄緑色と水色の竜が現れやがった。これがシルフィーの力だってのか、アイナ」

 「わ、私もこんなの知らなかったです。どうやらウンディさんと協力して発動しているようですが……」

 「“気は風に乗れば則ち散り、水に界せられば則ち止る”か……。風水の元となったと言われている郭璞の言葉ね。中国晋の時代の有名な文学者よ。凄い才能と学識を持った人物みたいで色んな逸話が残されているわ。竜管貴賤っていうのも風水で使われている言葉だわ。風水魔法って言ってるぐらいだし私達の世界でも有名な風水をモチーフにしてるみたいね。私もウンディがこんな凄い魔法を隠し持ってるなんて思いもよらなかったわ」


 シホの言う通りシルフィーとウンディの発動させた魔法はナギ達の世界の風水をそのままモチーフにしているようだ。“気は風に乗れば則ち散り、水に界せられば則ち止る”とはそのまま風水の元となった言葉の一部を引用しているようだが、その後の“だが水の界にて風が吹けば気は散り止る。それ即ち静動混同の力なり”はこのゲーム内のオリジナルの言葉のようだ。風水とは地相や物の配置の良し悪しを見極める為の技術であるが、シルフィー達の付け加えた言葉はその良し悪しが混同した状態の空間のことを意味しているのだろう。その空間内では地相や物の配置ではなくその場にいる生物達それぞれに応じて与える影響の良し悪しが決まるということだ。竜管貴賤とは土地の良し悪しを竜に例えたものであり、多くの“気”が集まり、住む人の身分や地位を高くする土地を貴竜きりゅう、“気”が集まることがなく、住む人の身分地位を低下させる土地のことを賤竜せんりゅうと言う。この魔法に於いてはレイチェルの言った薄緑色の竜が正しく賤竜、水色の竜が貴竜ということだろう。そして同じ空間にいながらもナミ達は貴竜の影響を受け全ステータスが上昇し、アイアンメイル・バッファローや他の出現した敵モンスター達は賤竜の影響を受けて全ステータスが減少するというわけだ。貴竜と賤竜は効果を発動し終えると互いに交わるように螺旋を描きながら天へと昇り消えていった。


 「う、うおぉぉぉぉぉぉっ!。こりゃすげぇっ!。いきなり体から力が沸いて出て来たぞっ!。なら早速俺があの牛野郎に一発噛ましてやるぜっ!」

 

 “ダッ……”


 「うおぉぉぉぉぉぉっ!、ジャンピィーーーーング……」


 “……モオッ!”


 「アックスクラッシャァァァァァァァッ!」


 “モオォ〜〜〜〜ンッ!”


 能力の上昇した天だくは早速攻撃を仕掛けていった。勢いに任せて飛び上がるとそのままアイアンメイル・バッファローの顔面目掛けてセイナとの模擬戦の時にも見せたアックスクラッシャーを打ち噛ました。その前にジャンピングと叫んでいたが只飛び上がりながら放っただけで通常のアックスクラッシャーと特に変わりはない。だが落下の勢いを乗せて振り下ろされることで威力は上昇し、顔面を斬り付けたアイアンメイル・バッファローに悲鳴を上げさせていた。


 「次は俺だ。はあぁぁぁぁ……爆裂覇斬ばくれつはざんっ!」


 “バアァァァァァァァンッ!”

 “モモオォォォォォォォォン……っ!”


 続いて攻撃を仕掛けたのは戦士の奈央子。奈央子はアイアンメイル・バッファローの左の側面に周り込みちょうど首筋の辺りを目掛けて飛ぶと、兜と鎧の裂け目に出ている生身の部分に爆裂覇斬という剣技を放った。覇気の篭った斬撃を放ち、相手に当たった瞬間にその覇気を解放して爆発を起こす高威力の技だ。奈央子の体と剣から放たれている覇気はその周囲を真っ白に染め上げ、先程のシルフィーやウンディのオーラのように透明感はなかったがとても力強いものであった。そして奈央子の放った斬撃が当たった瞬間その覇気は強な衝撃波による爆発を引き起こした。天だくと奈央子の強力な技を続けたアイアンメイル・バッファローは完全に怯んでしまっていた。そして天だく、奈央子に続きナミ達が次々と攻撃を仕掛けていくのだった。


 「よ〜し、次は私等じゃよ、デビにゃんっ!。はあぁぁぁぁぁぁ……、祈祷剛弾きとうごうだんっ!」

 「にゃぁぁぁぁっ!、猫フレイム十連弾にゃぁぁぁぁぁっ!。にゃぁっ!、にゃぁっ!、にゃぁっ!、にゃぁっ!、にゃぁっ!、にゃぁっ!、にゃぁぁぁぁぁんっ!。……ぜぇ……ぜぇ……、やっぱり七連弾が限界だったみたいだにゃ……」


 次にデビにゃんと馬子が攻撃を仕掛けていった。馬子の放った祈祷剛弾は通常の祈祷弾より威力の高いエネルギー弾を放つ技である。ただし放てるエネルギー弾の数は1発だけだ。デビにゃんは先程の宣言通り猫フレイムを十連弾で放とうとしたのだが7発が限界だったようだ。天だくや奈央子の攻撃に及ばなかったが結構なダメージを与えられたようだ。


 「次は私達ね、アイナちゃん。それじゃあウンディとシルフィーさん達に習って私達も連携して攻撃をしてみましょうか」

 「えっ……、私達にも風水魔法みたいに連携して放つ魔法があるんですかっ!」

 「連携って言う程じゃないけど同時に放つと威力が上がる魔法があるの。アイナちゃんももう使えるはずよ。ほら、この魔法」

 

 どうやらアイナとシホにも他者と協力して放つ魔法があるようだ。同時に発動することで相互に威力が上がるようだがどんな魔法なのだろうか。シホは端末パネルでデータを送りその魔法の詳細をアイナに見せた。


 「……なるほど。確かに強力そうな魔法ですね。私も是非やってみたいです」

 「OK。じゃあ互いに詠唱を始めしょう」

 「はいっ!」


 アイナとシホは互いにその相互作用がある魔法を唱え始めた。


 「憩いの水際みぎわに集いし水の精霊達よ……。暫しの間その休息を解き我に我に叡智を授けたまえ……」

 「清浄なる大気を守りし風の精霊達よ……。その清らかなる空気の風を僅かばかり我に貸し与えたまえ……」


 魔法の威力にはプレイヤーが唱える呪文の文面も影響する。風属性の精霊魔法を放つ場合は大気、水属性の場合は水辺という言葉が特に相性が良い。シホが発した水際とが水辺という意味で、憩いの水際とは聖書に出てくる言葉である。電子世界とはいえ自分達の世界の情報を元に作られたゲームならば聖書に出てくる言葉はより力を発揮するとシホは考えたのだろう。そして詠唱が完了した二人の両手から二つの強力な魔法が放たれるのであった。


 “「……精霊魔法・ハイドロブラストっ!」

  「……精霊魔法・アネモブラストっ!」 ”


 アイナとシホが放った魔法はアネモブラストとハイドロブラスト。アネモとは風の、ハイドロとは水の、ブラストは撃つという意味で、それぞれ風の力と水の力を相手に向かって撃つという意味だろうか。その技名の意味通り風と水の強力なエネルギー弾がアイアンメイル・バッファローに向かって放たれた。


 “バアァァァァァァァンッ!”

 “モモォ〜〜〜〜ン……”


 シホの言った通り同時放たれたアネモブラストとハイドロブラストの威力は上昇しているようで、魔法でありながらアイアンメイル・バッファローを強く怯ませていた。このブラストいう名の系統の魔法は他に6属性、火のパイロブラスト、雷のエレクトロブラスト、土のランドブラスト、氷のチルブラスト、光のルミナスブラスト、闇のシャドウブラストがあるのだが、精霊術師の職に就いたプレイヤー達はそれぞれ初期に設定されている自身の所持属性のものしか習得出来ない。光と闇のものを習得するには特別な条件を満たす必要がある。


 「やっぱり流石ね、シホさんは。あのアイナって子もかなりの魔法のセンスをしているみたいだわ。……さて、それじゃあ私も皆に負けないよう頑張るとするか……」


 今放たれた強力な二つの魔法攻撃を見た吉住はシホだけでなくアイナの魔法の才能にも驚かされていた。リアルキネステジーシステムの採用されたゲームでは魔法を発動するのは肉体を動かすことと同等に感覚を掴むのが難しいとされていた。近接戦闘と魔法の違いはあれどアイナやシホもセイナやナミに負けないぐらいのプレイ技術を持っているのかもしれない。そんな二人に触発されたのかあまり感情を表に出さない吉住もやる気を露わにして攻撃を仕掛けていった。


 「私は皆にみたいに飛び上がって攻撃するより足を狙って攻撃した方が良さそうね。ならさっきあの赤いポニーテールの子が攻撃してた左の前足を狙うとするか……」


 “モォ……モォ……”


 吉住は先程ナミが真空・正拳突きを放った左前足目掛けて技を繰り出すつもりのようだ。同一個所に攻撃を畳み掛けた方が効果が大きいと判断としたのだろう。また舞踏術士の攻撃を最大限に発揮する為にはなるべく足で地面を踏ん張る必要もあった。すでに相当のダメージを負っていたのかアイアンメイル・バッファローは吉住の攻撃を受ける前から相当苦しそうだった。


 「はあぁぁぁぁぁ……、太虚躯流爆拳たいきょくりゅうばくけんっ!」


 “バアァァァァァァァンッ!”

 “モオォォォォォォォンッ!”

 

 吉住の放った技は太虚躯流爆拳、舞踏術士の得意とする太虚躯拳の特技の一つである。その名の通り太極拳をモチーフにしたものだろう。意味は太虚にあるむくろに拳を放つ、何もない空間にある相手の体に向かって拳を放つということである。何もない空間にある相手の体とは矛盾しているが、恐らく太虚とは空、乃ち大気のことで、大気に闘気を送ることで相手の体の内部を直接攻撃するということだろう。そして太虚躯拳の技は威力が低く設定されている分相手の防御力を無視してダメージを与える効果がある。太虚躯流爆拳とは闘気を送った場所を爆発させる技で、アイアンメイル・バッファローを左前足の内部から当然爆発が起こり悲鳴を上げていた。


 「皆凄い攻撃を繰り出してるわね。あんなに悲鳴を上げてるのを見ると少し可哀想に感じけど……、こっちも容赦するわけにはいかないわ。私の攻撃はこれよ。……ルミナリティ・ソードっ!」


 吉住に続きリアも攻撃を仕掛けていった。これで後はナミ、セイナ、レイチェルの3人を残すのみだ。リアの放ったルミナリティ・ソードは魔力で形成した数十本の光の剣を相手に向かって飛ばす技である。ルミナリティとは発光体という意味で、恐らく宙に浮く光の剣のことを発光体に例えているのだろう。属性は当然光である。


 「さあっ!。これで私達は全力で攻撃でし終わったわ。後は任せたわよ。ナミ、セイナ、レイチェル」

 「おっしゃぁぁぁぁっ!、私の方はもうエネルギーが溜め終わりそうだぜ。必ずあいつに止めを刺してやるからしっかり見ててくれよな、リア」

 「私もあともう少しでいけそうよ。セイナはどう?」

 「私はあと数十秒といったところか……。どうせなら3人で一斉に仕掛けるか」

 「OKっ!。私もちょうどそのぐらいの時間だったわ」

 「私もだぜ。それじゃあ今からカウントダウン始めるからきっかり10秒で放ってくれよ。それじゃあいくぜ……10……」


 どうやらナミ達3人は一斉に攻撃を仕掛けるつもりのようだ。止めを誰に譲るかで揉めるのを避けようとセイナが提案したのだろう。ナミもレイチェルもその提案にのりタイミングを合わせるべく10秒のカウントダウンを始めた。


 「ほほっ、一時は冷やりとさせられたがなんとかなりそうじゃな。あの3人の攻撃を食らって倒せぬモンスターなどおるまい」

 「いえ……、お爺さん。攻撃が決まるまでは油断はできませんよ。今はまだ体が硬直しているようですがいつ動きだすとも限りません」

 「はぁ……、全く最近の若いもんはすぐネガティブな発言をしおる。そういうことを口にすることが余計良くないことを引き起こしておるのだと早く気付かんか」

 

 回復職である為有効な攻撃手段を持っていないボンじぃとラスカルは対照的な気持ちでナミ達のことを見守っていた。ボンじぃは楽観的、ラスカルは悲観的とまではいかないが常に最悪の事態を想定しているようだった。もしもの場合迅速にナミ達のサポートに回れるよう気を引き締める為でもあるのだろう。ゲームをプレイする基本的な心構えとしてラスカルの方が正しいのだが。


 「5……、4……、3……」


 “モオォ……っ!、モオォォ……っ!”


 「……っ!、待てっ!、レイチェルっ!。なにやら奴が動きだしそうだ」

 「えっ……」


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「ぐっ……、ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 レイチェルのカウントダウンが終わろうとしたその時、アイアンメイル・バッファローは少し身震いするような動きを見せたと思うと咆哮と共に凄まじい衝撃波を周囲に向けて放ってきた。先程のショック・ウェーブ程ではなかったがナミ達は衝撃に耐える為動きを止めることを余儀なくされてしまった。


 「ほ、ほれ……。わしの言った通りじゃ。こういう時はもっと楽観的に構えておいた方が良いのにお主が余計な心配をするからじゃぞっ!」

 「今はそんなこと言ってる場合ではありませんよ、お爺さん。早く皆さんのサポートに回らないと……」


 ナミ達からはある程度距離を取っていたボンじぃとラスカルは衝撃波の影響をほとんど受けずに済んだらしい。どんな事態にも反応できるよう意識を集中させていたラスカルはすぐさま皆のサポートに向かうべく走りだした。そしてその光景を見たボンじぃも文句を垂れながらであったが急いでラスカルの後を追いかけて行った。


 「ぐぅ……はぁ……はぁ……。あ、危ねぇ……。今の衝撃波で技が暴発しちまうところだったぜ。だがなんとか溜めてたエネルギーは抑え込めたもののこれじゃあまた一から溜め直しじゃねぇか。行動ポイントも割と消費しちまったし本当にあと一発しか撃てなくなっちまったぞ」


 ヴァイオレット・ストームという高威力の技を放つ為に大規模なエネルギーを溜めていたレイチェルだったが、先程の衝撃波で危うく技が暴発してしまうところだったようだ。なんとかエネルギーを制御して技の発動を解除できたようだが、ヴァイオレット・ストームを放つには再び力を蓄えなければならなくなった。そして同じく大技を放とうとしていたナミとセイナも同じ状態であった。


 「くっ……、私もよ。折角リアに教えて貰った技を披露できると思ったのに……」

 「こちらもだ。だが先程のものに比べると随分緩い衝撃波だったようだ。他の者達も無事耐えしのいでいる。ところで奴はどう……っ!。レイチェルっ!。のんびりぼやいてる場合ではないっ!。もう貴様に向かって動きだそうとしているぞっ!」

 「な、何っ!」


 “モモオォォォォォォォォンっ!”


 衝撃波を放った直後にも関わらずアイアンメイル・バッファローはすぐに動きだしレイチェルへと突進してきた。どうやら先程の攻撃には硬直する程の反動はなかったらしい。そして凄いスピードでレイチェルの元へと突進しているアイアンメイル・バッファローの様子も今までとは大きく変化していた。体は真っ赤に染め上がり、まるで怒りで体が煮えたぎってしまったように表面から赤い湯気のようなオーラがほとばしっていた。


 「な、なんだって私のところに……。それになんだかさっきまでと様子が違うぞ。リア達の攻撃で完全に頭に来ちまったかっ!。……って今そんなことより早く逃げ……っ!。し、しまった……。ヴァイオレット・ストームのエネルギーを完全には解除出来てなかったみたいだ。力が体に逆流して全然動けねぇ……」


 上手くエネルギーを解除できたと思われたレイチェルだったが、どうやら僅かではあるが蓄えていたエネルギーが暴発し体に衝撃を与えていたらしい。その影響で体が硬直し思うように動くことができなかったようだ。だがそうしている間にもアイアンメイル・バッファローは刻一刻とレイチェルの元へと迫って来ていた。


 「なにやってるのよぉぉぉぉっ!、レイチェルゥゥゥっ!。早く逃げないと踏み潰されちゃうわよっ!」

 「そ、そんなこと言ったって動かそうとすると体にすげぇ痛み走って勝手に怯んじまうんだ。もう私のことはいいからお前達は早く態勢を整えて迎え撃つ準備しとけっ!」

 「そ、そんな……」

 「私に任せて、ナミっ!。え〜いっ!、ウィンド・リムーブっ!」

 

 “ヒュイィィィィィィンッ……バッ!”


 「う、うおぉ……。な、なんとか助かったぜ」


 間一髪シルフィーのウィンド・リムーブの魔法でレイチェルを救出することができた。レイチェルはラスカルの前へと飛ばされ再びレリジャス・ヒーリングによる治療を受けていた。


 「痛てててっ……。またあんたの世話になっちまったな。私は信仰なんてしたことねぇけどよろしく頼むぜ」

 「はははっ……。私もこんな職に就いてるのはゲームの中だけですよ。今は何の宗教にも属していません」

 「今はってことは昔は入ってたのかよ」

 「ええ……まぁ……。父の家系が元々そういう団体に属していたので私も成行き上仕方なく……。大学の時にグレてやめちゃったんですけどね。おかげそれからずっと実家からは勘当かんどう中です」

 「ふ〜ん……。あんたも色々あるんだな。……おっと、そんなことより今はあの牛のことだ。また私の方に突っ込んで来るんじゃねぇのか、おい」


 ラスカルとレイチェルは何気ない身の上話をしていた。一方その頃標的であったレイチェルを見失ったアイアンメイル・バッファローは戸惑った様子で辺りの見回しレイチェルのことを探していた。だが少し時間が経つとすぐに諦めて体を反転させ別の標的を探し始めた。辺りには当然ナミ達が散らばっていたのだが、もう誰を標的にするかの基準などなく、一番最初に目に入った吉住に向けて突進して行った。


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「……っ!。今度は私か……。もう攻撃する相手の見境みさかいがなくなっちゃったみたいね。これじゃあもう攻撃を誘導するのは無理か……」

 「くっ……。これはどういうことだ。さっきまでとはまるで行動パターンが違うではないか……。何か分からないのか、リア」

 「待って。今端末パネルで確認してみるから。もしかしたら何か情報が更新されているかもしれないわ」


 アイアンメイル・バッファローの様子がおかしいことに気付いたリアはすぐに端末パネルで情報を確認した。アナライズの魔法を使用せずともプレイヤーに与えられる情報もあるようだ。そして画面には新たに発動したアイアンメイル・バッファローの特殊能力の情報が記載されていた。


 「……あったわ。どうやらファイティング・ブルって特殊能力が発動したみたい。HPが一定の割合まで減少すると自動的に発動してバーサク状態になる、その際一度自分の状態が全てリセットされるって書いてあるわ」

 「なるほど……。それであいつの行動が豹変したってわけね」

 「ファイティング・ブル……。その言葉の意味する通りまさに闘牛って感じね。こっちには闘牛士なんていないけどね」

 「呑気のんきに解説なんてしてる場合ですか、シホさんっ!。俺は吉住さんを守りに行きますよ」

 「俺もだ。あんな牛にこれ以上好き勝手させられるかよ。セイナっ!、お前等はもう一回技を放つ為の力を溜めてやがれ。あいつの動きは必ず俺が止めてやるからよ」

 「あっ……。ちょっと待って、二人共っ!。まだあいつの能力を全部説明してな……行っちゃったわ」


 アイアンメイル・バッファローに発動したファイティング・ブルにはまだ別の効果があるようだったが、天だくと奈央子はリアの説明を聞かずに吉住の元へと向かってしまった。仲間がやられそうになっているのだから当然のことではあるが、ファイティング・ブルの残された効果によっては命取りになるかもしれない。


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「おらぁぁぁぁぁっ!、茹でだこならぬ茹で牛野郎ぉぉぉぉっ!。うちのメンバーに手ぇ出したかったらまず俺達を倒してからにしろぉぉぉぉっ!」

 「その通りだぜっ!。うのパーティじゃあ女性陣は必ず俺が守るって心に誓ってんだよ。ただし凶暴な爆笑女を除いてだがな。とにかくてめぇなんか怖くもなんともねぇからとっとと掛かって来や……っ!」


 “モモオォォォォォォォォンッ!”


 「な、なんだ……。急に体が震えて動かなくなっちまったぞ……。まるで恐怖で体がすくんじまったみたいだ……」

 「お、俺もだ……。オカマ野郎はともかくまさか俺まであいつにビビっちまってるって言うのか……。そんなわけねぇっ!。きっと気のせいに決まってる。ぐおぉぉぉぉ……動けぇぇぇぇ、俺の体ぁぁぁっ!」

 「無理よ、天だく……。これは気のせいなんかじゃないわ。私もさっきから全然体が動かないもの……。恐らくMNDの値が影響しているもので実際の恐怖心とはまた違うものだわ。しかも私達の今のステータスでとても振り切れるものじゃないわ」


 威勢よくアイアンメイル・バッファローの前に立ち塞がった天だくと奈央子だったが、迫り来る相手の方をジッと見た瞬間から体に恐怖による悪寒のようなものが走り動くことができなくなっていた。それは後ろにいた吉住も同じで、どうやら実際に天だく達が感じてる恐怖心ではなく、ゲームに設定されているMNDのステータスに応じて影響を与えるもののようだ。


 「ど、どうしちゃったの皆……。もしかしてあれがさっき言ってたもう一つの効果なの、リア」

 「そうよ。ファイティング・ブルには発動した瞬間自身のMNDの値を3倍以上にまで増大させる効果があるの。このゲームではMNDの値の差によって相手に恐怖心による負荷を与えることができるのよ。最悪の場合恐慌状態になることもあるわ。通常は戦闘に影響が出ることはほとんどないんだけど、恐らく今のあいつのMNDの値は私達の10倍以上……、目を合わしただけで動けなくなるのも仕方ないことよ。どんなに気持ちを奮い立たせても拭い切れるレベルじゃないわ」

 「そ、そんな……。それじゃああいつに近づいただけで何もできなくなっちゃうじゃない……」


 このゲームはMNDの値の差によって周囲の敵対している相手に恐怖心による負荷を掛けることができるらしい。その影響で天だく、奈央子、吉住は体を動かすことができなくなったようだ。恐らくレイチェルが動けなかったのも単に技を解除した反動だけでなくアイアンメイル・バッファローへの恐怖心を感じていたからだろう。通常このMNDの値による影響は相手の値とよっぽどの差がなければ効果を表すことがない。だがファイティング・ブルの効果により上昇したアイアンメイル・バッファローのMNDの値は、今のナミ達では近づいただけで一歩も動けなくなるレベルのもののようだった。


 「くっ……。まさかそんな効果があったとは……。そう言えばあのARIAとかいう監視プログラムもそんなこと言ってたような……。くそっ!。こんなことならもっとちゃんと説明聞いとくんだったぜ」

 「あんな長ったらしい説明まともに聞いてられねぇよ。それよりどうすんだよ、天丼頭っ!。このままじゃああいつに踏み潰されちまうぞっ!」


 “モオォォォォォォォォッ!”

 

 「もうどうしようもないわ……。こうなったら覚悟を決めるしかないわよ、二人とも」

 「そ、そんな……」


 “モオォォォォォォォォッ!”

 “バアァァァァァァァンッ!”


 「ぐおぉぉぉぉぉぉっ!」

 「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」


 すでにアイアンメイル・バッファローの近づき過ぎていた天だく達は最早動くことはままならなかった。アイアンメイル・バッファローは容赦なく天だく達へと突っ込んでいき、巨大な足で踏み潰された天だく達は大きく外側へ弾き飛ばされてしまった。その後地面に叩き付けられ落下のダメージも受けたようだが、ギリギリのところで戦闘不能にはならずに済んだようだ。だが反動で暫く動けない上あと僅かなダメージでも受ければHPは0になってしまうだろう。幸いファイティング・ブルの能力が発動されるとリスポーン・インターバル・アブリビエイションの効果が解除されるのか周囲から雑魚モンスターの姿は消え去っていた。ついでにナギ達の援護に来ていた盗賊の下っ端達も大分前に衝撃波が放たれた時に全滅してしまったのか一人も見当たらなかった。そしてもう自分達に入り込む余地はないと察し援軍に戻ることも諦めてしまっていたのだろう。


 「天君てんくん奈央君なおくん、吉住さんっ!。……くっ、皆やられちゃったわ。どうにかHPは残ってるみたいだけどもう戦闘を続けられる状態じゃないわね。回復魔法を掛けてる暇もないわ」

 「ど、どうしましょう……、マスター……」

 「とにかくあいつがこっち来る前にできるだけ散開するのよ。ナミとセイナになるべく狙いがいかないよう気を付けてね。私達が逃げ回ってる間に二人でなんとかあいつに止めを刺してちょうだい」

 「そ、そんなリア……。止めって言ったってこんな状況でどうやって……」


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「もう話してる時間はないわっ!。とにかく早くバラけてっ!」

 「う、うん……っ!」

 

 天だく達を吹っ飛ばしったアイアンメイル・バッファローはすぐさま向きを変え別のナミ達の方へ向かってきた。ナミ達は一度に全員が動きを止められてしまわないよう急いで別々の方向に散って行ったのだが、この状況から相手に止めを刺すのは不可能に近かった。リアはバーン・レイ・ナックルとサンダー・オブシディアンブレードを持つナミとセイナに最後の望みを託すしかなかった。それは他のメンバーも同様で、まずは馬子が相手の視界に入り、タゲを取ると同時に一目散に逃げ回り始めた。


 「さあっ!、私はこっちじゃけぇっ!。お願いじゃからナミちゃんとセイナのところには行かんといてやっ!」

 

 “モオォォォォォォォォッ!”


 「よ、良かった……。こっちに来てくれたけぇ。後はとにかく逃げ回らんと……」


 “ドドドドドドドドドッ!”


 「……っ!。う、嘘っ!。もう動けんくなってしもたけぇっ!」


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」


 なんとか相手の注意を引くことはできたが馬子はすぐに追いつかれてしまい吹っ飛ばされてしまった。稼げた時間は大体3秒程度だろうか。馬子もなんとか戦闘不能にはならずに済んだようだがダメージと反動でもうまともに動くことはできないようだった……。


 「ま、馬子ぉぉぉぉぉっ!。くっそぉぉぉ〜……次は僕が囮になってやるにゃっ!」


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「にゅわぁぁぁ〜〜〜〜〜〜んっ!」


 続いて囮に出たデビにゃん、そしてその後もリア、シホ、アイナ、ウンディ、シルフィー、サポート職のララまでもが囮になるべく前へと出て行ったがあっという間に全員弾き飛ばさてしまった。だがもう向かう相手がナミかセイナしかいないと思われた時、意外な人物がアイアンメイル・バッファローの前に立ち塞がっていた。


 「こ、これ……っ!。ナミとセイナの元に向かうにはまだちと早いぞっ!。わしがおるのを忘れるでない。このボンじぃ……、こう見えても逃げ回るのは得意でな。わし一人でナミ達の力が溜まるまでの時間を稼いで見せるわっ!」


 “モオォォ〜〜〜〜〜ンっ!”


 「ひやぁぁぁぁぁぁっ!、やはり物凄い迫力じゃわい。こりゃ急いで逃げるに限……っ!。な、なんじゃ……、もう体が動かんくなんてしまったぞい……」


 なんと皆を踏み潰しながら暴れ回っているアイアンメイル・バッファローの前にあのボンじぃが立ちはだかっていた。体を張って囮になっているリア達を見ては流石に見て見ぬ振りはできなかったようだ。だが威勢よく立ちはだかったものの、まだアイアンメイル・バッファローとの距離が50メートル以上あるうちからボンじぃの体は動けなくなってしまっていた。MNDの値は他のプレイヤー達とそう変わりはなかったが、ボンじぃのプレイヤーとしての精神力が低すぎて迫りくるアイアンメイル・バッファローに視線を合わせただけで一歩も動けなるほどの負荷を受けてしまったらしい。


 「し、しまった……。いくらわしでも動けなくては逃げることはできんっ!。ビビることこそがわしのプレイ力を底上げするというのにそれを逆手に取られてしまうとは……」


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「ひえぇぇぇぇぇぇっ!」


 “ドッスゥーーーンッ!”

 “グチャッ!”


 強気な態度でアイアンメイル・バッファローの前に立ち塞がったボンじぃだったが、結局その自慢の逃げ足を披露することなく踏み潰されてしまった。しかもその一撃で戦闘不能に陥ってしまったらしく、弾き飛ばされていたリア達と違いその場で紙切れのようになるまでペシャンコに潰されてしまっていた。一応遺体としてその場に残っていたようだが、紙切れになった体が元に戻ることはなかった。恐らく次にリスポーンできるまでこの状態のままだろう。ボンじぃは自分の哀れな末路を歯が抜け落ちてぐしゃぐしゃになった口で嘆きながら戦闘不能状態のプレイヤー用の空間へと飛ばされて行った。


 「な、なんで……わしだけ……」


 “モオォォォ……”


 ボンじぃがいなくなったことにより当然アイアンメイル・バッファローは次の標的を探し出した。もう囮なれる者はおらず向かうであろう標的はナミとセイナしか残っていなかった。一応レイチェルとラスカルが残っていたのだが、まだラスカルが回復魔法を掛けている最中でその余裕はなかった。ラスカルとしてはヴァイオレット・ストームという大技を持つレイチェルをなんとか動ける状態にしておきたかったのだろう。だがこの状況ではもうレイチェルの回復は諦めて囮に出た方が良かったかもしれない。


 「ちょ、ちょっとぉ……。これでもう狙われる相手は私達しかいないじゃない……。まだ技を放つの十分なエネルギーは溜まってないって言うのに……」


 “モォッ!、……モオォォォォォォォォッ!”


 「や、やっぱり私の方に向かって来た……。こうなったら私も囮になってセイナの一撃に懸けるしかないわ。セイナぁぁぁぁっ!。後は頼んだわよぉぉぉぉっ!」

 「ナ、ナミ……。くっ、この状況では仕方がないか……。だが果たして私の技だけで奴を仕留めきれるのか……」


 辺りを見回してナミの姿を発見したアイアンメイル・バッファローはすぐさま突撃していった。バーサク状態に陥ることでほとんどの理性を失っており、最早突進するしか行動パターンが残されていないらしい。標的となったナミはまだバーン・レイ・ナックルを放つ為のエネルギーが溜まっておらず、もう自分が技を放つを無理だと判断し最後に残されたセイナの攻撃に懸けることにした。溜めていたエネルギーを全て解除し、少しでも時間を稼ぐ為猛スピードでセイナのいない方向へと走り出した。


 「くっそぉぉぉぉぉぉ!、こうなったら武闘家のAGLの高さを見せてやるわぁぁぁぁぁっ!」


 “モオォォォォォォォォッ!”


 「うおぉぉぉぉぉ……っ!。う、嘘っ!。もう動けなくなっちゃったのっ!。全力で走ってたのにこんなに早く追いつかれるなんて……」


 武闘家の能力を全力で出し切って疾走していたナミだったが、巨体である為歩幅の大きいアイアンメイル・バッファローから到底逃げ切れるわけもなかった。多少他のメンバーより時間は稼げたようだったが、すぐに追いつかれMNDの値の差による恐怖心で足が止まってしまった。それどころか振り返ることもできず、背後から近づいてくる巨大な足音を聞きながらナミはVRMMOをプレイする中で初めてと言える恐怖を感じていた。


 「うぅ……。背中を向けたまま自分を踏み潰す為の足音を聞くことしかできないなんて……。MNDの値とか関係なくマジで怖いわ。もう早く踏み潰してよ……」


 “ドドドドドドドドドッ”

 “モオォォォォォォォォッ!”


 「くぅ……ナギ……」


 “ヒュイィィィィィィンッ……、パアァンッ!”

 “ドドドドッ……ピタッ……”


 「えっ……」

 「動きが止まったっ!。ナミっ!、何故かは分からないがお前に接触する直前で急に奴が立ち止まったぞっ!」


 背後から迫りくるアイアンメイル・バッファローの足音に今までにない恐怖を感じたナミは目を瞑って踏み潰されるのを待っていた。だがナミが死を覚悟してこの場にいないナギの名前を口ずさんだ直後、突然勢いよく突進していたアイアンメイル・バッファローがピタリと足を止めた。そのことに気付いたセイナがすぐにナミに知らせていたが、一体何が起きたのだろうか。


 「ほ、本当だ……ってあれ?。もう体が自由に動く……。もう狙いも私から外れたってことっ!。一体何が起きたの、セイナ」

 「分からん……。突然赤い矢のようなものが飛んできて、それがこいつに当たったと思ったら動きが止まったのだ」

 「矢……。それってもしかして……」

 「ええ……、今のはマイのプロバケイション・アロー……。矢の命中した相手に挑発効果を掛ける技よ」

 「……っ!、リアぁっ!。無事だったのねっ!」


 突然の出来事に驚きナミとセイナが話ていると後ろからリアが姿を現した。だが右手で左肘を抑えて少し前屈みの状態でかなりのダメージを負っている様子だった。恐らく地面に叩き付けられた時に打撲の異常状態を与えられてしまったのだろう。幸い骨折状態になっている箇所はないようだ。


 「……っ!。見ての通りもう体はボロボロだけどね。自分で回復魔法を掛け続けてはいるんだけど……、HPはともかくこれだけの体の損傷を治療するのにはかなりの時間を要するわ」

 「そう……。でもなんにせよ戦闘不能になってなくて良かった。……あっ、そうだっ!。今マイの矢がどうって言ってたわよね。……いたっ!。あれは正しくマイの姿だわっ!。ナギと塵童、それからあの天丼頭の残りの仲間の人達もいるみたい」


 リアが言うにはアイアンメイル・バッファローの動きが止まったのはマイの矢の効果らしい。それを聞いたナミが遠視で辺りを見回すと、1キロ程離れた所にマイ、そしてナギと、塵童、それに爆裂少女と聖君少女の姿が確認できた。


 「よ、良かった。なんとかあいつの動きが止まったみたいだね。けど一体どんな矢を放ったの、マイさん?」

 「今放ったのはプロバケイション・アロー……。命中した相手の注意をこちらに引き付ける効果の篭った矢よ」

 「ええっ!。そ、それってもしかして……」


 ナギ達はトライワイズ・ドラゴンを倒した後急いで元の場所へと戻って来ていた。本当はナミ達と合流する予定であったが、縦横無人に暴れ回るアイアンメイル・バッファローの姿を見てマイが一度立ち止まって遠視で確認し、ナミが踏み潰されようとしているところに急いで今の矢の放ったようだ。アイアンメイル・バッファローの動きが止まったのを見て安心してホッ一息をついていたナギだが、マイに矢の効果を聞かされると一転して驚きの声を上げた。そしてそれはリアから効果を聞かされていたナミも同じだった。


 「どうやらあのドラワイズ・ソルジャーって奴はもう倒しちゃったみたいね。途中から全然確認する暇もなかったけど、流石はナ……ってちょっと待ってっ!。今マイの放った矢には挑発効果があるって言ったわよね。それじゃあもしかし……っ!」


 “モオォォォォォォォォッ!”

 “ドドドドドドドドドッ!”


 「や、やっぱり……っ!」


 ナミがリアの言っていた矢の効果に気付くと同時にアイアンメイル・バッファローは急に大きな雄叫びを上げた。そして矢が飛んできた方向に体を振り向けたと思うと再び凄いスピードで草原を駆け抜けて行った。アイアンメイル・バッファローが向かっている方向には当然ナギ達がいる。矢の効果を考えるに恐らくマイを狙っているのだろう。


 「くっ……、不味いっ!」


 “バッ……、ダダダダダダッ!”


 「あっ、セイナっ!。くそっ……、私もとにかく行くしかないか。待ってて、マイっ!」

 

 “ダダダダダダッ……”


 「マイ……、危なくなったら私達を置いて逃げろって言ってあったのに……。こんな無茶な真似して一体どういうつもりよ。このままじゃああなた本当に……」


 セイナがすぐアイアンメイル・バッファローを追い始めるとナミもそれに続いた。二人ともマイが狙われていることに気付いた為か相当焦った様子だった。


 「お、おい……。こりゃマジでヤバいぜ。ラスカルさんっ!、もう回復はいいっ!。私もあいつらの後を追うぜっ!」

 「あっ、レイチェルさんっ!。……行ってしまいましたか。どうやらブリュンヒルデさんの言っていた通りあのマイさんというNPCを死なせるわけにはいなかいようですね。ですがこの状況で果たして守り切れるのでしょうか……」


 ナミとセイナに続きレイチェルまでもその後を追って行った。アイアンメイル・バッファローの動きが止まりホッとしたのも束の間ナミ達は自分達が最も恐れていた事態へと突入してしまったようだ。もしマイがやられて戦闘不能になってしまえば二度とこのゲームでリスポーンすることができなくなってしまう。恐らく蘇生も受け付けることができないのであろう。リアは懸命にアイアンメイル・バッファローの後を追うナミ達を見つめながらマイの無事を祈っていた……。


 「あわわわわわ……。やっぱりこっちに向かって来ちゃったよっ!。僕達はともかくマイさんは絶対死ぬわけにいかないっていうのに……」

 「全くだぜ……。なんでこんな無茶真似しやがった。リアには危なくなったら逃げるよう言われてたはずだろ」

 「ごめんなさい……。リアや皆に言われていたことは重々承知してたつもりよ。でも今私があいつを引き付ければまだあいつを倒せるんじゃないかって。セイナとレイチェルの必殺技があれば十分チャンスはあるでしょ」

 「そ、そんなっ!。僕達を狙ってくるのならともかくマイさんが囮になっちゃったら駄目じゃないかっ!」

 「ああ……。これじゃあもうあいつの気を俺達に逸らすことは不可能だぜ」

 「確かその方はNPCで、一度でも死亡してしまえば二度とゲームに登場することができなくなるんですよね。私達もブリュンヒルデさんから聞いています。こうなったらあいつがここに来るまで倒してしまうしか方法はありませんね」

 「ええっ!。そんなの絶対無理だよっ!」

 「いや、聖の言う通りだ。絶対無理でもやるしかねぇぞ」

 「幸いナミ達もこっちに向かってるしな。俺達さえ上手くあいつの動きを止められればそのまま倒せるかもしれねぇ。……よしっ!。それじゃあ行くぞ」

 「あっ!。ちょっと待ってよ、皆っ!。……行っちゃった」

 

 塵童、爆裂少女、聖君少女の3人はマイを守るにはもうここに来るまでにあいつを倒すしかないと腹を括り、迫りくるアイアンメイル・バッファローへと自ら向かって行った。ナギはあまりに急激な事態の変化に動揺してしまい皆に続くことができなかった。一応どうせ相手から向かって来るのならマイの傍を離れない方がいいと考えたこともあったのかもしれない。


 「リア……。あなたの言うこと聞けなくて本当にごめん……。頭では逃げるべきだって分かってたつもりだったけど、皆が全滅しそうになってる光景を見たら気持ちが抑えきれなくなっちゃったの。私ったらもうあなたの親友失格ね……。もう私は死んでもいいからせめてこいつだけは倒してっ!。でないと私本当にナギ達のことを……」


 ナギの後ろではマイがアイアンメイル・バッファローへと向かう塵童達、そしてその向こうにいるリアのことを儚げな表情で見つめていた。瞳の中はまるで揺らめく水面のように潤いでいるにも関わらず涙は一滴も零れず瞬き一つしていなかった。ナギ達の勝利を願う気持ちと自分の取った行動への後悔、そして想像したくもない最悪の結果への不安が入り混じってその表情を作り出していたようだ。マイは自分の心の中にある微かな希望の光を消さないよう必死に祈り続けていた……。


 「


 



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