表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第一章 ゲームの説明……そしてモンスター討伐大会っ!
5/144

finding of a nation 3話

 希望の職業を決めて、いよいよfinding of a nation のゲームのマップへと転移していったプレイヤー達、気が付くと皆自分を含む8人とパーティと共に、まるで海のように広がった大草原の中にいた。空は真っ青に晴れていて、気持ちのいい風が草花を波のように揺らせていた。北の方には高く連なった山脈が見え、山の下の方には森林が広がっているようだが、上部の方にはほとんど木は生えていないようだった。高台の上ということで崖になっている方を見たプレイヤーもいたようだが、1マスの大きさがかなり広いらしく本当に崖際の辺りに転移したプレイヤーしか高台であるということを確認出来なかった。ナギ達は建築予定地の崖に面しているマスに転移してきたようで、何千メートルも有りそうな崖の上から低地に広がった陸地の様子を見ていた。低地の西側には大きな川が流れており、同じく何千メートルもの高さから流れ落ちている滝の凄まじい水飛沫が確認できた。


 「ひえぇ〜…、こんな高さから落ちたらひとたまりもないよ。ゲームの中でも当然即死の判定だろうね…。そういえば死んだ時ってどんなペナルティーがあるんだろう」

 「知らないわよっ。それよりあんたが変なこと言うから落ちた時のこと想像して怖くなっちゃったじゃないっ」


 ナギとナミは二人で崖の下を見てその高さに驚愕していた。だが他のパーティのメンバーはそのようなことではしゃいだりせず、少し離れたところで冷静に自分の職業についての確認をしていた。


 「お〜い〜、ナギ〜、ナミ〜。いい加減自己紹介を始めるから遊んでないでこっちに来てくれよ〜」

 「はいは〜い、今行くわよ」


 ナギとナミはカイルに呼ばれ、他のパーティメンバーの所に走って行った。どうやら自己紹介をするらしく、他のメンバーはどんな自己紹介をしようか考えてた。そのメンバーの中には先程見かけた有名女優美城聖南のプレイヤーキャラクター、セイナ・ミ・キャッスルの姿もあった。


 「ごめん、つい浮かれて舞い上がっちゃった。あっ…僕まだ職業の確認してなかったや…」

 「も〜…じゃあナギの自己紹介は最後ね。早く確認しといてくれよ。えーっと…、それじゃあ誰から自己紹介始めようか…」

 「私から行こう、MMO歴は長いからこういう場には慣れている」

 「はい、それじゃあセイナさんからナギを飛ばして時計回りで。……じゃあどうぞ」


 ナギがまだ職業の確認が出来ていなかったので、自己紹介を最後に回してセイナから始めることになった。セイナはMMOをプレイする時は基本一人らしく、野良パーティに入ることが多かったためこういう自己紹介の場は慣れているようだ。


 「私の名はセイナ・ミ・キャッスル。職業は剣士だ。まずは騎士に転職できるよう目指していきたいと思っている」


 セイナの自己紹介は女優としての演技力なのかそれとも素の喋り方なのか、本当にゲームに中に出てくる真面目な騎士ような口調で話していた。職業は剣士のようで、銀色に光輝く鎧に包まれていた。そこまで重量な鎧ではないようだが、下には更に分厚いローブのような物を着ていた。因みにこのゲームの装備のグラフィックは、コンピュータがプレイヤーの脳のイメージを受信してその人物が最も気に入るグラフィックになる。勿論性能はそのままだ。だが性能のいい武器ほどプレイヤーのイメージも刺激されるらしく、高性能な装備ほど豪華なグラフィックになるようだ。グラフィックの変更はあくまで防具のみで、武器やアクセサリーはゲーム内で設定されたままのグラフィックになる。プレイヤーの背丈によって多少は変化するようだが。


 「おっ、次は私か。私はレイナルド・チェルシーってんだ。みんなはレイチェルって呼ぶよ。職業は戦士だ。よろしくな」


 続いて自己紹介したのは戦士のレイチェル、長く伸びた髪を金髪に染めていて、少しヤンキーっぽい風貌だった。性格も気が荒そうで、気の弱いナギには少し苦手そうだった。装備は剣士であるセイナと違い、少し身が肌蹴はだけている薄めの皮の鎧だった。武器は大剣を装備していたので攻撃力は高そうだったが、盾は装備出来ないようで少し防御力が低めだった。


 「次は私ね。私の名前は伊邪那美命、呼びにくいからナミって呼ばれてるわ。職業は武闘家よ。……前はファイヴ・クロニクルってゲームをやってたわ。多分…、セイナさんもやってたと思うだけど…」

 「ああ、確かにやっていた。伊邪那美命って言う名前も見たことがある。確かその時も武闘家系の職業を選んで、ゴッドハンドまで登り詰めていたな。パーティも一度組んだことある気がする」

 「覚えててくれたんだっ、…っというわけで今回もゴッドハンド目指して頑張ろうと思うからよろしくね」


 どうやらセイナもナミのことを覚えていたようだ。セイナも上位のプレイヤーだったのだが、ナミもそれなりに上級のプレイヤーだったようだ。ゴッドハンドというのは武闘家系の最高ランクの職業で、このゲームでも最も高ランクな武闘家の職業として存在しているようだ。装備は白いノースリーブに緑のミニスカート元気の良い女子高生のような服装で、っというかここに来る前とほとんど同じ服装だったのだが…。かなり薄着ではあったがそれは見かけだけで防御力はそれなりにあったようだ。そして次はナギの番だったが一つ飛ばしてカイルの自己紹介が始まった。ナギは一応職業の確認は出来たようだったが端末パネルを見て表情が固まってしまっていた。


 「え〜…次はナギを飛ばして僕の番か。僕はカイル・コートレット。職業は魔術師で、いつもMMOをプレイする時はそこのナギと一緒にプレイしているよ」

 「カイルに伊邪那岐命…、君達前にThe online of three kingdam って三国志を題材にしたVRMMOをやってなかったかい。このゲームみたいに内政要素はなかったけど、大勢で戦場を戦う戦略シミュレーション型の対戦ゲーム。大分前だったけど多分カイルとは大分仲良かった気がするんだけど…」

 「…っ!。もしかして君ヴィンスかいっ。5年も前だったからすっかり顔を忘れちゃってたよ。あの時はお互い三国志が好きでよくチャットで熱く語り合ってたなぁ」


 カイルの職業は魔術師で、それらしくローブを羽織っていた。かなりボロボロのローブで、まるで布を纏っているようだった。どうやらパーティメンバーの一人はナギとカイルのことを知っているようだった。特にカイルとは仲が良かったようで、そのゲームの題材である三国志の話でよく盛り上がっていたらしい。ナギは三国志はあまり興味がなく、そのゲームをやっている時はあまりログインしていなかったためカイルはよくパーティメンバーのヴィンスという男性とプレイしていたようだ。そして次はそのヴィンスの自己紹介の番だった。


 「俺の名前はヴィンス、職業は槍術師だ。今カイルと話していたが三国志が大好きで、その影響で職業を選んだんだ。三国志には槍の名手が沢山出てくるからな。この国は槍に関する特性や職業が強いみたいだし、まずは二槍術士を目指してみようと思ってる。よろしくな」


 ヴィンスは年齢が30前後に見える男性で、中年のおっさんと言うよりは中年のお兄さんといった感じだった。身長は180センチ前後、整った顔立ちをしていて俗にイケメンと言われるような容姿をしていた。黒髪のオールバックで、後ろに逆立った髪型をしていた。動きやすさを重視しているのか体に密着したボディースーツのような物を着ていた。あくまで見た目が動きやすそうというだけだが、槍術士の装備は元々身軽な性能のようだ。面倒見が良さそうで、恐らく近所の子供達から慕われていただろう。そのルックスの良さと落ち着いた性格から憧れの的にもなっているかもしれない。


 「次は私ですね。私はアイナ・マーストリヒトといいます。職業は精霊術師を選択しました。攻撃と回復の魔法を両方使えるみたいなのでよろしくお願いします」

 「精霊術師か…、序盤は結構強力な職業みたいだけど、終盤はかなり運の要素が強いんじゃないか。私も説明書見てみたけど召喚できる強力な精霊と契約するにはマップを探索しないといけないみたいじゃないか。しかも完全にランダムで、固有精霊は複数の召喚士と契約できないから他の奴と取り合いになるんじゃないか」

 「はい…、でも可愛い精霊さんも一杯いたから契約出来たらいいなと思って…。一応基本精霊はスキルが上がれば誰でも召喚できるようになるみたいですし…」


 アイナはかなり背の小さい女の子で、年齢は高校生ぐらいのようだ。可愛らしいピンク色の髪をしていて、短かったが頭の上の方で小さめのツインテールにしていた。精霊術師らしく白っぽい聖潔なローブを着ていた。精霊術師とは精霊の力を借りて魔法を使用する職業で、召喚士まで転職できれば精霊を直接召喚することも出来る。だがレイチェルの言った通り強力な精霊はゲーム内で出会わなければ契約できず、出会える可能性はかなり低い。しかも契約できるのは精霊一体につき一人の召喚士のみで、自分で直接出会わなければ契約するのは難しいだろう。そういう意味では不遇な職業かもしれないが、序盤は攻撃と回復の両方の魔法が使えるためかなり強力な職業のようだ。ただ派生が召喚士系統しかないので選んでいるプレイヤーは少ないだろう。


 「次ははワシじゃな。ワシの名前はボンじぃじゃ。そのままボンじぃと呼んでくれ。盆栽が好きでこの名前を付けたのじゃ。皆のように長ったらしい苗字などはないわい。職業は治癒術師じゃ。よろしくのぅ」

 「ちょっと待って…、まさかとは思ってたけどあんたその姿の通り本当にお爺さんなのぉっ!。一体いくつなのよ…」

 「67歳じゃが何をそんなに驚いておる。最近のVRMMOは凄くてのぉ。プレイしても老体にまるで負担が掛からんのじゃ。ワシは自然が大好きでのぉ。VRMMOの中に広がる大自然を見るのが好きなんじゃ。この草原のようにのぉ」

 「……元気のいい爺さんね…」


 ボンじぃはその外見通り本当に老人のようで、年齢は67歳のようだ。最近は高齢者でもVRMMOやっている者も多く、身体への負担が少ないことから老後の楽しみにしている者も多いらしい。ほとんどがほのぼのしたゆっくりプレイできるもので、こういう本格的なMMOをやってる者は少なかっただろうが…。身長は167センチほどで、少し背骨が曲がってしまっていた。容姿は老人らしく真っ白な白髪を綺麗に整えてオールバックにしていた。口元は口が見えなくなるぐらいふさふさに髭を生やしていた。当然髭も白髪だが。メガネは掛けていないようでこの年になっても視力は衰えていないようだ。治癒術師ということでカイルのような質素なローブを着ていた。


 「はい、じゃあ最後にナギ。もう職業の確認は終わった?」

 「う、うん…。僕はナギ、キャラ名は伊邪那岐命だよ。そっちのナミとは偶然このゲームで出会ったんだ。職業は…魔物使いみたい…」

 「………」

 ナギの職業を聞いて他のパーティメンバーは口を閉ざしてしまった。ナギ自身もこのことを予測していたようで申し訳なさそうな顔をしていた。

 「……何でまた魔物使いなんて選んだんだ…。どのゲームでも不遇職として有名で、仲間したモンスターがほとんど命令を聞かずに敵に突撃していくことで他のメンバーから敬遠されてる職だろ。よっぽどの物好きでないと選ばないと思うんだが…」


 レイチェルの言う通りこの世界のMMOでは全般的に魔物使いは不遇職と言われ、他のプレイヤー達から敬遠されていた。スタータスも低いうえに折角仲間にしたモンスターの操作が難しく、ほとんどのプレイヤーはモンスターのAIに勝手な行動をさせてしまって他のパーティメンバーに迷惑を掛けてしまっていた。上手いプレイヤーなら魔物の力を上手く引き出して、貴重な戦力となるのだが、そのようなプレイヤーはほとんどいなかった。精霊術師によって召喚される精霊もAIによる自動操作であるが、こちらはAIがモンスターに比べて遥かに高性能で、命令を出さなくてプレイヤーにとって有効な行動を取ってくれる。また精霊術師自体のステータスやスキルも強力であったため、魔物使いとは天と地ほどの差があった。


 「実は何も希望を出さないまま回収されちゃったんだ…。それで多分皆が選ばなかった職業に回されて……はぁ〜、どうしよう〜…魔物使いなんて今までどのMMOでもやったことないよ〜…」

 「馬鹿ね〜、何でもいいから第1希望だけでも書いておけば良かったのに。そうすれば魔物使いよりはマシな職業に就けてたんじゃない。私も第1希望しか書かなかったし」


 ナミも第1希望すら書いておらず、一歩間違えばナギのようになっていたのだが、ナミはそんなことあるはずないと高を括っていたようで、第1希望しか書いていなかった自分を棚に上げてナギのことを馬鹿にしていた。


 「ぬおぉぉぉぉぉぉっ!。何で俺の職業は剣士じゃないんだぁぁぁっ!よりによって語り部なんて俺には全く似合わない職業じゃないか〜。格好つけて第1希望だけとかにするんじゃなかったぁぁぁぁっ!」


 すると数百メートル離れたところから他のパーティの声が聞こえてきた。それはまさに一歩間違えばナミもなっていたかもしれない内容で、ナミは若干背筋に悪寒が走り体を震わせていた。


 「………わ、私はあいつとは違うから大丈夫で当然よ…。なんてたって武闘家とは十年近い間柄だからね。あいつとは職業に対する愛情が違うのよ」

 「くはぁぁぁぁぁぁんっ!。MMO初めて今まで25年…、ずっと寝食を共にしてきたのにここに来て裏切るなんてあんまりだぁぁぁぁっ!。現実世界では去年嫁さんと離婚しちまったし…、もう死にたい…」

 「………」


 悲痛に泣き叫ぶおっさんの声とその内容を聞いてナギ達移動は皆沈黙して凍り付ていた…。ナミはこれからは自分も調子に乗らずちゃんと先のことを考えて行動しようと自分を戒めていた。


 「な、なんか元気のいいおじさんみたいだね…。それにしてもあの声で語り部なんて…、逆にステータス下がっちゃいそう…」

 「全くだぜ…。あれで吟遊詩人にまでなられた日にはそれだけでステータスが下がっちまいそうだ…」


 語り部とは物語を読むことでパーティのステータスを上昇させる職業である。どうやら剣士の抽選に落ちてしまい語り部となったプレイヤーは40歳以上のおっさんのようで、ナギはそのおっさんの低く野太い声で物語を語られるシーンを想像して気分が悪くなってしまっていた。レイチェルもそれに同意していたようで、何とか吟遊詩人など目指さずに他の職に転職してくれることを願っていた。


 「よ、よし…。それじゃあパーティの隊列とか決めたいんだけど…、誰かそういうの指示できる人いる?。いたら取りあえずこの場はこのパーティのリーダーになってほしいんだけど…」

 「それならセイナさんがいいんじゃない。この前のゲームで一緒のパーティになった時、凄い的確な指示出してたわよ。野良パーティとは思えない連携の良さだったわ」


 自己紹介も終わりパーティのリーダーを決めるようだったが、カイルが誰にやってもらうか悩んでいるとナミがセイナをリーダーに推してきた。他のメンバーも同じことを思っていたのかナミが口を開くと一斉に同意した。


 「…分かった。なら私がやろう」

 「じゃあ早速だけどパーティの隊列を決めてほしいんだ。時間もあとちょっとしかないしね」


 周りにモンスターが出現するまで後5分を切っていた。少し焦っていたカイルはセイナに早く隊列を決めて貰えるよう頼んだのだが、セイナから驚くべき指示が帰って来た。


 「うむ…、恐らくこのパーティ全体の討伐数においてもボーナスがあるだろうから、それを稼ぐためにもパーティを3つに分けるのはどうだろうか」

 「3・3・2で分けるってこと…、でも回復役が2人しかいないし、2人組の人達がきつくならない」

 「いや、私は一人で十分だ。序盤の敵ならば攻撃にあたることもないだろう。残り7人で4・3に分かれてくれ」

 「なんですってぇぇぇぇっ!」

 「なんだってぇぇぇぇっ!」

 「なんじゃとぉぉぉぉっ!」


 セイナの提案を聞いてパーティメンバーの一同は声を上げて驚いた。なんとセイナは自分は一人で戦い、残りのメンバーでパーティに別れるよう指示してきたのだ。いくら序盤とはいえ危険なことだとは思うが…。


 「ちょっとぉ、それっていくらなんでも自分勝手すぎないっ!。もしあんたが一人で行動して死亡でもしたらどうするのよ。私達大迷惑じゃないっ!」

 「大丈夫だ。君ほどのプレイヤーなら知ってると思うが、ほとんどのMMOは序盤の敵ならばヒーラーの打撃攻撃でも簡単に倒せる。熟練したプレイヤーなら序盤は経験値の為にパーティは組むことはあっても、いちいち連携を組むことなどほとんどない」

 「な、何よっ…そんなの分かってるわよ…。いいわっ、だったら私も一人で戦う。あんた達は六人で戦いなさいね。絶対あいつより沢山討伐してやるんだからっ!」

 「え、ええぇ…、ちょ、ちょっとナミ、なにムキになってるんだよぅ…」


 セイナの自分勝手な指示に反抗したナミだったが、セイナに正論で返されてしまった。確かに大抵のMMOは序盤はソロでも楽にクリア出来るように作られている。だがこのゲームがそのように作られているとは限らず、建国シミュレーションということを考えると通常のMMOとはバランスが違う可能性も十分にあった。だがナミはセイナの強気な態度に勝手に挑発されてしまい、自分も一人で戦うと言い出してしまうのであった。


 「うむ…決まりだな。これで3組できたわけだ。討伐もスムーズに進み、経験値も効率よく入手できるだろう」

 「ちょ、ちょっと待ってよ。勝手にそんな事決めないでよ。このゲームはプレイヤーの連携が重要なゲームみたいだから序盤から強力なモンスターが出てくるかもしれないよ」

 「あんたは黙ってて、これは女の譲れない戦いなんだからっ!」


 どうやらセイナよりもナミの方が頑固になってしまっていたようで、ナギは言い出したセイナではなく挑発に乗ったナミに一蹴されてしまった。


 「そ、そんな…もうっ、僕は魔物使いなんだよっ。出来るだけ多くの前衛に守ってもらわないとモンスターを仲間にする前に死んじゃう……って、んんっ?。……げえぇっ!、後10秒で周囲にモンスターが出現するだってっ!。や、やばい…二人共どうか考え直して…」

 「もう遅いよ、ナギ。それより周囲に出てくるモンスターに備えよう」

 「う、うん…」


 結局ナミ達を説得できず1・1・6に分かれて戦うことになるのだった。カイルがカウントを数えながら皆は周囲に出てくるモンスターに備えて身構えていた。


 「4…3…2………来るよっ!」

 「はっ!」

 「はあっ!」

 「えっ…」

 挿絵(By みてみん)

 カイルのカウントが終わりモンスターが出現すると同時にセイナとナミは互いに左右に飛び、左飛んだセイナは目の前にいる二足歩行の恐竜型のモンスターを両手持ちの剣で真っ二つにすると、そのままナギ達の左側に現れた2体の凶暴なサイのようなモンスターを流れるように両断してしまった。そしてすぐさま少し離れたところにいるモンスターの集団へと突っ込み、今のでレベルが上がり覚えた薙ぎ払いのスキルで左側のモンスターを一掃してしまった。

 一方右側に飛んだナミはゴブリン型のモンスターの顔をぶん殴って倒してしまうと、続いてオーク型のモンスターを蹴り飛ばし横いたもう一体のオークごと吹っ飛ばして倒してしまった。そしてナミもモンスターの集団の中へと飛び込むと回し蹴りを放って周囲のモンスターを回し蹴りで吹っ飛ばして一掃してしまった。二人のレベルの上昇は凄まじく、同じパーティメンバーのナギ達にもボーナス経験値が大量に入っていた。


 「す、すっげ〜…、もう見えなくなっちまったぞ、おい。モンスターもほとんどいなくなっちまった…」

 「ほ、本当です。でもあの二人のおかげで沢山経験値が入ってきていますよ。ほら、もうレベルが1つ上がっています」

 「ほ、本当だ…。じゃああいつらはもうレベルいくつまで上がってるんだろう…」


 この世界のVRMMOのアクションはリアルキネステジーシステム(現実運動感覚システム)が取り込まれており、ゲーム内の行動をまるで現実世界と同じような運動感覚でプレイすることができる。当然能力値は現実世界のものは関係なくゲーム内の能力値に設定された状態で、現実世界の感覚で動くことになる。この感覚を掴むのがかなり難しく、いくらゲーム内では現実世界の何倍もの能力に設定されていると言っても、ほとんどのプレイヤーは現実世界の感覚にとらわれてなかなかゲームのキャラの能力を生かすことが出来ない。例えゲーム内では100メートルを5秒以内で走る能力を持っていても最初の内は現実世界のスピードと同じ速さでしか走れないだろう。剣でモンスターを叩き斬ろうとしても剣を持ち上げることすら出来ない場合もある。慣れればすぐに通常のゲームのようなアクションは出来るようになるのだが、セイナやナミのようなプレイ技術を身に着けるのは至難の技だろう。つまりこの世界のゲームはキャラのステータスだけでなくリアルキネステジーシステムによるプレイ技術もかなり重要になってくるということだ。スキルや魔法の発動についても同じで、発動する感覚を練習で覚えなければ、ゲーム内で習得したとしてもなかなか使いこなすことは出来ないだろう。今ナミやセイナが使った薙ぎ払いや回し蹴り、そしてファイヤーボールやライトニングなどの基本魔法はVRMMO協会によって使用の感覚が統一されており、熟練したプレイヤーなら新しいゲームを始めてもすぐに使いこなすことができるだろう。更にこのゲームにはタクティカルアクションボーナスも採用されており、ゲーム内で高度な動きをして敵を倒すと経験値にボーナスが入る。ナギ達のレベルが一瞬にして上がったのもシステムとナミやセイナのプレイ技術のおかげだろう。このプレイ技術のことをリアルキネステジーを英語で略してRK力と呼ばれている。因みにこのRK力を測定する企画などもあり、そこでセイナは93RK、ナミは89RKと測定されている。ネットの中の匿名掲示板に書き込まれているだけでVRMMOプレイヤー達が主観で適当に決めただけらしいが…。


 「でも何だかんだで序盤のモンスターは楽勝みたいだな。どうだ、俺達もここからさらに二手に分かれてみないか。ちょうど回復役も二人いるみたいだし。一気に他のプレイヤーを突き放してやろうぜ」

 「おっ、いいねぇ〜。私も今のあいつらを見て少しやる気になってたところさ。一人は流石に無理でも三人いれば何とかなるだろう。久々に大暴れしてやるか」

 「ちょ、ちょっと何言ってるんだよ二人共…。いくら何でも油断しすぎなんじゃないの…」


 なんとヴィンスがこちらも更にパーティを分けようと言い出した。レイチェルもそれに賛成し、ナギが必死に反対していたが全く聞き入れてもらえなかった。


 「よしっ、じゃあカイル。久しぶりに一緒にプレイしようぜ。前の時は三国志だったからお前は弓兵だったけどな」

 「OK。また僕が後ろから魔法でサポートするよ。……それでできれば回復魔法が使えるアイナかボンじぃに着いてきてほしいんだけど…」

 「わしゃ女子と一緒の方がええ。男の治癒など真っ平御免じゃ」

 「よし、じゃあアイナに付いてきてもらおうぜ。セイナとナミは東と西に別れていったから、俺達は北東に行こうぜ。南は崖になってるしな。いくぞっ、カイル、アイナ」

 「ああ」

 「えっ…あ、はい……今行きます…」


 アイナは他にパーティを組みたい者がいたようなのか少し残念そうな表情でヴィンス達に付いて行った。


 「ちょっと待てよっ。それじゃあ私はこの爺さんと魔物使いのガキと一緒かよ……ってもう行っちまいやがった。仕方ない、私達も行くか…。マップも広いみたいだし私達は北に真っ直ぐでもいいだろ。出会うこともないだろうし」

 「うむ、よろしくのぅ」

 「よ、よろしく…」

 「………はあぁ……」


 レイチェルは残ったボンじぃとナギの姿を見て大きくため息をついて北の方へ向かって行った。明らかにパーティバランスがおかしかったが、序盤の敵ならば何とかなるだろう。ナギ達が更にパーティを分かれて北と北東に向かって行った頃、セイナとナミはどんどんモンスターを討伐していき、すでに他のパーティが転移してきた場所のモンスターまで倒していた。


 「はっ!、はあっ!、はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 セイナは覇気の篭った声で叫びながら斬撃を放ち、次々にモンスターをなぎ倒して行っていた。その勢いは留まることを知らず、すでに100体近く討伐して、セイナのレベルは7まで上昇していた。しかも当初の言葉通り一度もダメージを受けていないようだった。


 「はあぁぁっ!。……今のでちょうど100体目か、レベルも8に上がったようだな。思ったより早く上がっている。やはりあのナミという少女もかなりの実力を持っているようだな。頼もしい限りだ」


 この辺りのモンスターも全滅させるとセイナは少し止まって自分の討伐数とレベルを確認していた。レベルの上昇が思ったより早いことからナミもかなりのモンスターを討伐していて、それでボーナス経験値が入っているのだろうと予測したようだ。そして確認が終わるとすぐに端末パネルをしまい次なるモンスターのいる場所を目指してさっさと駆け抜けていってしまった。この辺りに転移してきていたプレイヤー達はセイナのその圧倒的な実力に言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。


 「……一人でこの辺のモンスター全部やっつけちまったぞ、おい。おかげで俺達全然経験値入らなかったじゃねーか…」

 「す、凄過ぎて文句の言う気も起きないよ…。あれが超上級プレイヤーの動きか、僕もあんな風に格好良く動けたらな〜…」

 「何ボケっと突っ立てんるんだよっ、俺達も早くモンスターのいる場所に移動しないとこのままじゃレベル1のままだぞ。なんとか3ぐらいまでは上げようぜ」


 セイナのレベルが8に上がったころナミもやっとレベルが7になったところだった。ナミもかなりの数のモンスターを倒していたのだがセイナには及ばず討伐数は78体だった。剣士と違い武闘家は範囲攻撃が少なく、まとめて敵を倒すことが出来ないためこの差がついてしまったのかもしれない。


 「はあっ!、せいっ!、たあぁぁぁぁぁぁっ!。……ふぅ〜、今ので80体ぐらいかな。やっぱり武闘家だと一人で討伐数を稼ぐのは難しいわね……んんっ?」


 行く手に立ち塞がるモンスターを片っ端からぶっ飛ばして進んでいるナミだったが、暫く行くとプレイヤーキャラの3倍ぐらいの大きさの黄色い鱗のドラゴンに苦戦しているパーティの姿が目に入って来た。ドラゴンは地上に下りてきており、対峙しているパーティのプレイヤー達の何人かは瀕死の状態だった。


 「あれは…ドラゴン…。序盤であんなモンスターが出てくるなんて…不味いわね…」


 ドラゴンの姿を見たナミは急いでそのパーティの所に向かって行った。パーティの前衛役の剣士の男性が勇敢にドラゴンに立ち向かっていたが、すでに体力は半分を切っており、これ以上はドラゴンの攻撃は防ぎきれそうになかった。


 「……くっ、くそ…。なんで序盤にドラゴンなんて強力なモンスターが出てくるんだ…。さっきまでは楽勝な雑魚モンスターばっかりだったのに…」

 「ジョエル…、もういいわ。それよりドラゴンがいることを他のプレイヤー達に知らせないと…。私達のことは放っておいて他のパーティの所まで逃げて。他のプレイヤー達と協力すればこいつも倒せるはずよ」


 ドラゴンに立ち向かっている剣士はジョエルというそうで、後ろから恋人と思われる魔術師の女性が必死に逃げるよう訴えていた。どうやら他のパーティメンバー達はもうほとんど動けないらしく、唯一走って移動できそうなジョエルだけでも逃がそうとしていたようだ。それにドラゴンのような凶悪なモンスターがいることも他のプレイヤー達に伝えないと他にも犠牲者を出してしまうかもしれなかった。


 “グウォォォォォォォォォンっ!”

 「くっ…、ここまでか…」


 これで止めを刺すつもりなのか満身創痍のジョエル達を前にドラゴンは口大きく開き、中から火球を吐き出そうとしていた。ジョエルは自らの死を悟り、諦めて恋人のリサと目を瞑って抱き合っていた。だがその時突然威勢のいい少女の声が聞こえてきたのだった。


 「とうぉ〜りゃぁぁぁぁぁぁぁ………っ!」

 その少女はまさしくナミで、声に気付きジョエルが目を開けるとちょうどドラゴンの顔の横から飛び蹴りを食らわしているところだった。ドラゴンは自ら吐き出そうした火球が口の中で爆発してそのまま倒れこんでしまった。


 「今の内よっ、ここから離れてっ!」

 「あ、ああ…」


 ナミ言われジョエル達がその場から離れると、ドラゴンがむせて咳を吐きながら再び立ち上がって来た。自分を蹴り飛ばした相手を確認しようと周りを見渡していたが、見つからないようで目と首をキョロキョロさせていた。


 「こっちよ、こっち」


 声を掛けられてドラゴンが下を向くとそこには肘を曲げたまま拳を下げて力を溜めているナミの姿があった。ドラゴンはナミの姿を確認するとすぐさま爪でナミを引き裂こうと腕に振るってきたが、ナミはそのままドラゴンの顎に向かって飛び爪を躱した。


 「いっくわよ〜…飛翔拳っ!」

 「ギャオォォォォォン……」


 ナミはそのまま飛び上がった勢いでドラゴンの顎に向けて腕を突き上げて拳を放った。拳はドラゴンの顎に直撃し、ドラゴンは悲鳴と共に倒れ体力尽きたのかその場から消滅してしまった。どうやら今のは飛翔拳という技のようで、大きく飛び上がってアッパーを放つ技のようだ。大抵のモンスターは顎が弱点だが、ドラゴン系は特に弱いらしくナミの一撃はかなりのダメージを叩きだしたようだ。


 「ふぅ〜…こんな序盤にドラゴンが出てくるなんて…。この辺りのモンスターは皆こんな強かったの?」

 「いや、もしそうだったら今頃全滅させられてるよ。どうやら北に見える山の方から飛んできたみたいなんだけど…、たまたまこっちの方に飛んできただけみたいだ」

 「ふ〜ん…、ドラゴンにしては弱かったから強いに奴に追われて来たのかな…。あっ、でも倒したおかげで一気にレベル8まで上がったわ。でもこんな奴がいるかもしれないんじゃ一度ナギ達の所に戻った方がいいか…。それじゃあね」

 「あ、うん…、おかげで助かったよ。ありがとう」


 ナミはジョエル達に別れを言うとすぐさま自分の来た方向を戻って行った。どうやらさっきのドラゴンを見てナギ達のことが心配になったようだ。


 「……なんかあっさり行っちゃったわね」

 「ああ…それにしても凄い実力のプレイヤーだった…。同じ国にいてくれて良かったよ」



 ナミがナギ達の所に戻り始めた頃ナギ達と別れたヴィンス、カイル、アイナは上手く連携して順調にモンスターを討伐していた。

ヴィンスが槍でモンスターを牽制し、怯んだところにカイルが魔法を叩きこむ、アイナは多様な精霊魔法で攻撃したりモンスターの動きを止めたりしながら回復役も兼任していた。


 「今だっ、カイルっ!」

 「よしっ、……フレイムっ!」


 今もヴィンスが槍で敵を怯ませたところにカイルがファイヤーボールと違い一つの大きな火球を放つフレイムの魔法で人の形をした植物型のモンスターを倒したところだった。


 「やりましたぁーーっ!。……でもさっきからあまり私の出番はないですね…」

 「まだ序盤だからね…。精霊魔法の多様性が活きてくるのは色んな能力や技を持ったモンスターが増えてくる中盤以降だから。序盤はやっぱり攻撃一辺倒の職業が活躍しやすいかな」

 「だな…、今もカイルの討伐数が10、俺が6、アイナが2で集中的に攻撃魔法を放っているカイルが一番だもんな。この調子で頼むぜ」


 カイル達は3人でそれぞれの特徴を活かして戦っていた。ワイワイと会話を楽しみながらまさに理想的なMMOのプレイの仕方といった感じだった。だがそれでもセイナやナミの討伐数には3人合わせてもまるで届いていなかった。


 「それにしても3人合わせてまだ討伐数が20にも満たないのか…。セイナとナミの討伐数には遠く及ばないな。全く…一体どうやったらこの短時間に100体近くも討伐できるんだよ…」

 「でもそのおかげ私達凄くレベルあがってますよ。ヴィンスさんなんてもうすぐ5になりそうじゃないですか。槍捌きが上手でボーナスも一杯入ってるみたいですし」

 「本当だよ。上手いことモンスターの急所を突いて怯ませてくれるおかげで、僕も魔法を当てやすいよ。討伐数も僕より少ないけど経験値はヴィンスの方が入ってるみたいだしね」


 どうやらナミ達が大量にモンスターを討伐してくれいてるおかげカイル達もレベルかなり上昇しているようだった。特にヴィンスはその槍捌きの上手さでタクティカルボーナスもかなり貰っているらしく、3人の中で一番レベルが高った。カイルは討伐数が一番多かったが、魔法は威力が高くモンスターに止めが刺しやすい分タクティカルボーナスは得にくいようだ。魔法でボーナスを得ようと思ったら移動詠唱や転換詠唱などのプレイ技術が必要となる。移動詠唱とはそのまま動きながら詠唱を継続する技術のことで、ク転換詠唱は詠唱破棄せずに瞬時に他の魔法の詠唱に切り替えることで転換後の魔法の詠唱時間を短くする技術のことである。どちらも上位アビリティーに位置しており、まずはレベル上げてアビリティーを取得してからでないと使用することは出来ない。また高度なプレイ技術も要求されるためRK力の高いプレイヤーでないと使用することは出来ないだろう。


 「よしっ、じゃあそろそろ次の場所に移動するか…。それにしても大分移動したにも関わらず他に遭遇したパーティは2組だけ。

どうやらマップの1マスがかなり広大に設定されているみたいだな。一体どれくらいの広さがあるんだ…」


 カイル達はかなりマップを移動したがほとんど他のプレイヤーに出会っていなかったようだ。そのことからこのゲームのマップがかなり広いことは想定できたが、実際にどれくらいの面積があるのかは全く見当もつかなかった。もしかしたらこの世界の広さは現実世界の地球と同じくらいあるんじゃないか…、そうプレイヤー達思わせるくらいこのマップの1マスは広かった。

 


 一方カイル達と別れて北に向かったナギ、レイチェル、ボンじぃの三人は、ほとんど連携など取らずレイチェルが勢いよく一人でモンスターを倒して行っていた。ナミやセイナ程ではなかったがレイチェルの腕も中々で、すでに20体以上のモンスターを討伐していた。


 「おらおらーっ、ビビってないでかかてっこいやーー、モンスター共っ!。来ないならこっちから行くぜ〜」


 レイチェルは楽しそうに自分の体ぐらい大剣でモンスターを一撃で倒しながらどんどんマップを北上していった。ナギとボンじぃは全く戦闘に参加せずレイチェルがモンスターを薙ぎ払った後をゆっくり会話しながら歩いていた。


 「よっしゃぁっ!、今ので22体目。今日はなかなか調子がいいな」

 「うわぁ〜…、凄いね〜レイチェル…。ほとんどのモンスターを一撃で倒しちゃってるよ」

 「職業が戦士だからのぅ〜、見てみぃ、あの大きな剣を。初期の前衛系の職業の中だったら一番攻撃力高いんじゃないかのぅ」


 戦士は剣士に比べ盾を装備できず、防御力も低かったがその分剣士より大型の剣を装備できたため攻撃力がかなり高かった。他の前衛系の職業が盾になって仲間のプレイヤーを守るに対し、戦士はまさに矛となってモンスターを蹴散らすことによって守っている感じだった。通常はパーティの回復役の出番が多くなり、常に詠唱に追われる状態になることもあるのだが、今はレイチェルが敵の攻撃を食らう前に全て一撃で仕留めてしまっているためボンじぃも一度も回復魔法を使っていなかった。


 「ボンじぃさんはいつも治癒術師を選んでMMOをプレイしているの?」

 「ほほっ、気を使わんでもボンじぃと呼び捨てで構わんぞ。ワシは元々ゲームの中に自然の景色が見たくてこういったVRMMOをプレイしとったんじゃが、ゲームの中とはいえモンスターを痛めつけるのは性に合わんでのぅ。それで攻撃に参加しなくてよい治癒術師にしたんじゃ、他にもいいこともあるしのぅ」

 「いいこと…?」

 「おら、てめぇらっ!。のんびり話してばかりいないでちっとは戦闘に参加しろよ。あんまりサボってると通報するぞ」


 ナギとボンじぃがのんびり話していると流石にレイチェルが後ろを振り向いて文句を言って来た。だが戦闘に参加すると言ってもレイチェルが一人でモンスターを薙ぎ倒してしまってるため二人はやることがなかった。


 「そうは言ってもわしは治癒術師じゃ。誰もダメージを負っておらんならやることはないわい」

 「僕もモンスター仲間にして戦わせたいけどレイチェルが全部一発で倒しちゃうじゃないか〜。それじゃあどう頑張っても仲間にしようがないよ〜」

 「……まぁそうだな…」


 ナギとボンじぃの言葉にレイチェル納得させられたが二人にも何か役割はないか考えていた。レイチェルはこのまま自分一人でモンスターを倒し続けても良かったのだがこのゲームは他のプレイヤーとの交流が大切と言われていたことを思い出し、何とかナギ達と協力して戦う方法はないかと真剣に考えていた。


 「ちっ…、ボンじぃはともかくナギだったら何かサポート出来るだろうが。魔物使い何だったら魔物の気をそらしたり、嫌がらせて怯ませたりできるんじゃねぇか」

 「えっ…、まぁそういえばそうかな…」

 「じゃあこっちに来て一緒に戦えよ。魔物使いだって少しは役に立つってとこ見せてもらわないとな」

 「……分かったよ。じゃあボンじぃ、ちょっと言ってくるね」

 「ほほっ、気を付けての」


 ナギはボンじぃに別れを言うと大分前まで進んでいたレイチェルの所まで走って行った。ナギがレイチェルに追いつくとちょうど良く50メートルほど離れたところにプレイヤーの5倍程の大きさの恐竜型のモンスターがいた。ティラノサウルスのような格好をしており、序盤にしてはなかなか手強そうな相手だった。


 「よっし…ちょうど良くモンスターが現れやがってぜ。まずはあいつを二人でやっつけようぜ。ところでナギ、魔物使いはどんな事できそうなんだ」

 「ええっと…、何か肉系のアイテムに魔力を込めて色んな効果の付いた肉をモンスターに食べさせられるみたい。そのまま投げて気をそらせることも出来るけど、食べると毒状態にしたり、一時的に能力を低下させたり出来るみたい」

 「よっしゃっ、じゃあアイテム欄からさっきモンスターを倒して入手した魔物の肉を渡……何だこれ…、ほとんどのアイテムが納品ってマークが付いていて選択できないぞ。肉は大丈夫だけど…」


 レイチェルは端末パネルからアイテム欄を開き、先程倒したモンスターから入手した肉のアイテムをいくつかナギに渡した。だがアイテム欄を確認した時多くのアイテムに納品というマークが付けられており、レイチェルは選択できなかった。どうやらこれがこのゲームのルールで、入手したアイテムのほとんどは一先ず自分達の国に納品しなければならないらしい。そして国のトップ、ヴァルハラならブリュンヒルデによって国の発展に使われたり武器などの加工してそれぞれのプレイヤー達に振り分けられて支給されるようだ。


 「なるほど…、これも建国シミュレーションのルールってわけか…。どうやら骨とか牙とか素材になりそうな奴は全部選択できないみたいだな。まっ、肉は大丈夫みたいだからいくつか渡しておくよ。それじゃあ私はあいつをやっつけに行くから適当に効果付けてあいつに食べさせてやってくれ。頼んだぜ」


 レイチェルはナギにいくつか肉のアイテムを渡すと自分は恐竜型のモンスターに向かって行った。ナギは後ろで端末パネルの説明を読みながらどの効果を付けて肉を投げるか考えていた。


 「う〜ん…やっぱり毒が無難かなぁ、でも睡眠も強そうだしな〜…うんっ!、何々、この効果が付いた肉をモンスターが食べると凶暴化して自我を失ってしまい混乱状態になります…だって。よし、混乱して自滅させてやるか。そしたらレイチェルも魔物使いについて少しは見直すだろう。よ〜し…」


 どうやらナギはどの効果を付与する決まったようで、腰に下げたアイテム袋に手を突っ込み先程レイチェルに貰った肉を取り出した。このゲームの中のプレイヤーは皆自分のイメージ作り出したデザインの小さなアイテム袋を持っている。入手したアイテムはそこから自由に取り出すことができ、手を入れて出したいアイテムをイメージすることでそのアイテムが出てくる。当然収納に制限はあるが、肉のように小サイズで効果の低いアイテムならほぼ無限に入れておくことができる。


 「よっしゃ〜、思いっきり不味くした肉を食わしてやれ、ナギっ!」


 レイチェルはナギが肉を取り出したのを見て意気揚々とモンスター向かって走っていた。どうやらようやく仲間との連帯が実感できて嬉しかったようだ。だがこれから投げるナギの肉にはとんでもない効果が付与されていたのだった。


 「はあぁぁ…よしっ、これで効果が付与されたはずだぞ。いっけぇぇぇぇっ、バーサクミートぉぉぉぉっ!」

 「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 ナギが投げた肉の名前を聞いてレイチェルは慌てて立ち止まり、大声でナギに肉の効果について問いただした。


 「ナギィっ!。てめぇ、それ自分の仲間したモンスターに食わせる肉じゃねぇのか。敵に食わせてどうすんだよっ!」

 「えっ…、そ、そうだったっけな…。えーっと…なになに、……混乱状態になります、味方のモンスターに食べさせれば混乱状態になりますが能力が大幅に上昇し周囲のモンスターを蹴散らしてくれます、敵のモンスターに食べさせた場合も周囲のモンスターを攻撃してくれますが、周囲にモンスターがいなければ近くのプレイヤーに攻撃を仕掛けてきます。出来るだけ離れたところに避難してご使用ください…。大丈夫だよ〜、食べたら勝手に周囲のモンスターを攻撃してくれるって、もしいなかったらプレイヤーに攻撃してくるみたいだけど」


 どうやらナギが投げた肉はモンスターを混乱させ同士討ちさせる効果があるようだ。肉を食べたモンスターは凶暴化してしまい、攻撃力と防御力が大幅に上昇するようだ。周囲にモンスターがいれば一掃してくれるが、もし視界にプレイヤーしかいなければ問答無用で襲ってくる。そして今ナギ達の周りに他のモンスターは全くいなかった。


 「……っで、今周囲にモンスターはいるのかよ…」

 「えっ……」


 ナギがそのことに気付いたときにはすでに遅く、恐竜型のモンスター、名前はデノンザウルスというようで、大口を開けてナギの投げた肉が飛んでくるのを待ち受けていた。そして肉が口の中へと入るとゴクリと一口で飲み込んでしまった。というかナギの投げた肉はデノンザウルスの口より一回り以上小さかった。


 「お、おい…、食べちまったぞ…不味いんじゃないのか…」

 「う、うん…」

 “グルゥゥゥゥゥ……っ!”


 ナギの投げた肉を食べたデノンザウルスは少し苦しそうにうねり声を上げると、急に目が真っ赤になり、全身が蠢くように大きくなっていった。背中から尻尾に掛けて太く頑丈な棘のような背びれが突き出して、凶暴化どころか別の種族に変化してしまったようだった。


 「な、何だ…いくら何でも凶暴化しすぎなんじゃないのか。あんなの今のレベルじゃ歯が立たないぞ…」

 “ギャオォォォォォンっ!”

 「ひえぇぇぇぇぇぇっ!、やっぱりこっちに向かって来やがったっ!」


 凶暴化したデノンザウルスはレイチェルの姿を確認すると物凄い勢いで突っ込んできた。口元を下げて頭を突き出しており、どうやら頭突きをぶちかますつもりのようだ。レイチェルは大剣を前に突き立てて攻撃を防ごうとしたが、そんな事お構いなしにデノンザウルスは突っ込んで行き、大剣ごとレイチェルをナギのいる辺りまで吹っ飛ばしてしまった。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!。……痛って〜、今ので半分近く体力を持ってかれちまった。おいボンじぃっ!。てめぇの出番だぞ。さっさと回復しや…がれ……ってあぁぁぁぁっ!。あのじじぃ私達を置いてもうあんな所まで逃げてやがるっ!」


 デノンザウルスに吹っ飛ばされて大きなダメージを負ったレイチェルは、治癒術師のボンじぃに回復を頼もうとしたが、なんとボンじぃはもう小さくて見えなくなるぐらいの所まで逃げてしまっていた。恐らくナギがバーサクミートを投げ放った時から逃げ始めていたのだろう。爺さんだけあって危険を察知する能力は高いようだ。


 「たくっ、とんでもない爺さんだぜ。まぁ、あいつは初めから地雷プレイヤーだと思ってたから驚かねぇけど…。こっちの地雷プレイヤーには随分驚かされちまったなぁ…。なぁ…、おい…」

 「えっ…、あ、ああ…今はそんな事言ってる場合じゃないよっ!。早く逃げないとまたあいつが突っ込んでくる…ってああーーーーーっ!、もうこっちに向かって来てるぅぅぅぅぅっ!」


 レイチェルに突っ込まれそうになったナギは上手く誤魔化そうとしたが結局今はそれどころではなく誤魔化す意味は全くなかった。デノンザウルスは再びナギ達に向かって猛スピードに向かって来ていて、今度は大口を開いてナギ達を噛み砕いてしまうつもりのようだった。


 「うわわわわわわっ!。どうしよう〜、もう今から逃げたって間に合わないよう。このゲームって死んだらどうなるのかな。結構厳しいペナルティとかあるのかな…」

 「知らねぇよ、んなもんっ!。それよりお前責任取って囮になってあいつの気を引き付けろ。その間に私は逃げるっ!」

 「はあっ!、嫌だよ、そんなのっ!。そっちこそ前衛なんだから仲間を守って囮なってよっ。さっきまであんなに威勢よくモンスターに突っ込んでいってたじゃないかっ!」

 「あんな奴に突っ込んでいけるわきゃあないだろっ!。いいからさっさと囮なれって……っ!、ひえぇぇぇぇっ!。もう間に合わねぇ…」


 レイチェルはナギに突っ込んで行けと無茶を言われて、デノンザウルスを指さしながら大声でそんな事できるかと喚いていた。だが気付くとデノンザウルスはもうすぐそばまで走ってきており、もうどう頑張って逃げても間に合わない距離まで来ていた。デノンザウルスの大口開けた表情は物凄い迫力で、ヴァーチャル・リアリティ…、このゲームはエレクトロ・リアリティ空間と言うだけあって、その恐怖は現実で感じられる以上に本物だった。


 「ひやぁぁぁぁぁぁぁっ、もうダメだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ナギとレイチェルは恐怖のあまり涙を流しながら互いに抱き合っていた。二人の涙は現実世界では考えられない量でまるで噴水のように両目から左右に吹きだしていた。これもゲームの演出なのだろうか。だが二人が諦めかけたその時後ろから少女の勇ましい声が聞こえてくるのだった。


 「はあぁぁぁぁぁぁぁっ…」

 「えっ…、な、なんだぁっ!」


 ナギとレイチェルが後ろに振り返ると、背後から凄いスピードで走って来た少女はナギ達の手前まで来ると凄い高さでジャンプして、悠遊とナギ達の頭を飛び越えて前方から迫って来ているデノンザウルスへと向かって行った。その少女は剣を両手で持っていて、光り輝く銀色の鎧を着ていた。綺麗な黒髪をなびかせて宙を舞うその姿は、まさしくセイナだった。


 「セ、セイナさんっ!」

 「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ…、ブレイズっ…キャリバーぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ナギ達を飛び越えていったセイナはそのままデノンザウルスの上空の辺りまで飛び、大声で剣技の技名を叫びデノンザウルスの頭に向かって斬りかかって行った。ブレイズ・キャリバーと叫ばれたその剣技はセイナの剣に篭った闘気を銀色に光り輝かせ、物凄いエネルギーを纏ってデノンザウルスの頭ごと全身を両断してしまった。その剣圧は凄まじくデノンザウルスの尻尾の先まで切り裂いた後も数十メールほど草原を切り開いてしまっていた。全身を真っ二つされたデノンザウルスはそのまま消滅してしまった。


 「ふぅ…、レベルが11になって覚えた大技を早速使ってみたが、やはり今のスキルレベルでは体に掛かる負担が大きいな…。EPをほとんど使いきってしまうだけでなく、一時的にSTRがダウンしてしまうようだ。むっ…、だがさっきの敵を倒したことでさっきレベルが上がったばっかりなのにもう12になっているぞ…。一体どういうことだ…」

 「お〜い、セイナ〜」

 「セイナさ〜ん〜、ありがとう〜、おかげで助かったよ〜」


 セイナはデノンザウルスを倒した後端末パネルを開いて自らのステータスを確認していた。どうやら先程放った大技にはペナルティがあるようで、それがどういったものか確認していたらしい。ブレイズ・キャリバーはスキルレベルが低いうちはEPを大量に消費し、使用後にSTRに減少補正が掛かってしまうようだ。スキルレベルが上がればEPの消費も改善され、使用後の補正もなくなるようだ。因みEPとはエナジーポイント、つまりは気力のことで、剣士や武闘家などの物理技を使う時に多く消費する。魔法使う時はMP、マジックポイントを消費する。

 自分のステータスを確認していたセイナは、先程11に上がったばかりのレベルがもう12に上がっていることに気が付いた。どういうことか不思議に思っていると、先程飛び越えたナギとレイチェルがセイナの名を呼びながら駆け寄って来た。


 「おおっ、お前達か。どうやら先程の魔物と戦っていたようだが、一体どこから現れたんだ。序盤の割にはかなり強力なモンスターだようだが…、経験値も一杯貰えたし」

 「あ、ああ…、それは…」


 セイナは先程の凶暴化したデノンザウルスのことについて問いただした。どうやら序盤であのような強力なモンスターが出てきたことが気になっていたようだ。主に経験値についてのことのようだが…。

 セイナにデノンザウルスについて聞かれたナギ達はデノンザウルスが凶暴化するに至った経緯を説明した。セイナは興味津々な表情でナギ達の話を聞いていた。セイナの表情を見てナギ達は妙な不安を感じていた…。


 「なるほど…、それは興味深い話だな。………よしっ」

 「えっ…」


 ナギの話を聞いたセイナは自信のアイテム袋の中から、両手に抱えきれないぐらいの今まで討伐したモンスターの大量の肉を取り出し、ナギの前に差し出した。どうやらナギ達の妙な不安は当たったようだ…。


 「あ、あの、セイナさん…。これは一体どういう…」

 「さっ、私の肉も全部さっきバーサクミートにしてくれ。モンスターに食わせまくって沢山経験値を稼いでくる」


 なんとセイナは取り出した肉を全てバーサクミートしてくれるようナギに頼んだ。ナギはなんとなく察してはいたがその肉量に度肝を抜かれていた。一体何体のモンスターに食べさせるつもりなのだろうか…。


 「い、いや…。実は魔力込めた肉はちゃんと加工してからでないと術者の手を離れると数分の内に付与された効果を失ってしまうみたいなんだ。まだ国も建ってないから加工場なんてどこにもないし、僕の今の魔力だと効果を維持するのは十分ぐらいが限界だと思うんだけど…」

 「それでいいっ。十分の内にモンスターに食べさせまくるからとにかく全部の肉に効果を付与してくれっ!」

 「う、うん…、分かったよ…」


 ナギはセイナの強引な態度に押し切られてしまい泣く泣く全ての肉をバーサクミートに変えてしまった。これからこのマップが先程のようなモンスターに溢れかえると思うと、ナギは他のプレイヤー達への罪悪感で心が引き裂かれそうだった。肉が全てバーサクミートに変わるとセイナは嬉しそうな表情で他にモンスターがいそうな場所へと走って行った。


 「行っちまったぞ、おい…。もし他のプレイヤーに死亡者が出たらお前のせいだぞ…。ちゃんと責任とれよ…」

 「だ、だって…。セイナさんのあの嬉しそうな表情を見たら断れないよ…。でもセイナさんなら凶暴化したモンスターも全部倒しちゃうんじゃないのかな。もうレベル12って言ってたし…」

 「ふむぅ…、全くとんでもないプレイヤーがいたもんじゃわい」

 「…って爺さんっ!、いつ戻って来たんだよっ!」


 ナギ達は嬉しそうに大量のバーサクミートを抱えて走って行くセイナを不安そうな表情で見送っていた。確かに危険な行為ではあるが経験値を稼ぐという意味では効率が良かったのかもしれない。だが他のMMOと違い他のプレイヤーに掛かる迷惑は多大なものとなるだろう。そしてナギ達の隣には先程逃げていったボンじぃの姿があった。


 「このくそじじぃっ!。さっきはよくも私達を置いて逃げてくれやがったなっ!。今すぐその腐った性根を引き抜いてやるから覚悟しやがれっ!」

 「ぬ、ぬおっ…、怖い怖い…。ナギや、ちょっと助けてくれ…」

 「や、やめなよレイチェル。ボンじぃはお爺さんなんだからあんなモンスター見たら逃げ出すのも無理ないよ。それより今はさっきのダメージを回復してもらおう」


 レイチェルはボンじぃの姿を見るや否や頭から殴りかかろうとした。このゲームは自国のプレイヤーへの攻撃は禁止されていたため、殴られた所でダメージも痛みも無いだろうが、レイチェルの怒った表情に焦ったボンじぃはナギの後ろに隠れて助けを求めてきた。ナギは今は回復を優先するように言ってレイチェルを説得した。


 「ちっ…、分かったよ。じゃあじじぃ、さっさと回復しやがれっ!。ちゃんと体力が全快するまで回復させるんだぞ」

 「よしっ、任せておけ。それでは……ちょいと失礼するぞい。あっ……“サワサワ…”」

 「ひぃっ!。てめぇっ、一体どこ触ってやがる。尻触りながら回復魔法掛ける術師がどこにいるんだよっ!」


 なんとボンじぃは回復魔法を掛けると言ってレイチェルのお尻をすりすりと触り出した。当然にレイチェルは怒ってボンじぃの頭をぶん殴ったのだがゲームの設定のせいでまるで痛みを感じていなかった。


 「なんじゃ知らんのか。大抵のVRMMOは体の一部を触りながら回復魔法を掛けると効果が上昇するんじゃぞ。何だったら胸の方がええかの」

 「そんなこたぁ言われなくても知ってるよ…。私が言ってるのは何でわざわざ尻なのかってことと、直接触らなくても手を近づけるだけで効果があるだろうがっ…。こぉんのセクハラじじぃ…、今すぐぶった斬ってやるっ!」


 適当なことを言ってしらばっくれているボンじぃにレイチェルは怒りが爆発し自らの大剣に手を掛けた。だがボンじぃはゲームの設定でPKプレイヤーキルが禁止されているをいいことにまるで恐れてはいなかった。


 「そんな剣構えても無駄じゃあ。わしとお前は自国の味方プレイヤー、おまけに今はパーティまで組んでおる。どんなに斬られてもわしは痛くはないし死ぬこともないも〜ん」

 「……ふっ、てめぇは知らねぇらしいが最新のVRMMOでは自立型AIによる完全監視システムが取り込まれているんだよ。つまり今あったことをそいつに通報すれば瞬時にペナルティが発動するんだよ…。見てやがれっ!」

 「えっ…そ、そんなの……あるの?」

 「う、うん…、っていうか大分前のMMOからあると思うけど…」


 レイチェルは自身の端末パネルを開くと今のボンじぃとのトラブルをゲームの監視システムに報告した。するとすぐさまレイチェルの端末パネルに返事が帰って来て、同時にボンじぃの端末パネルの自動的に開かれ先程の通報によるペナルティが表示された。


 「何々…、他のプレイヤーからあなたの違法行為についての報告がありました。調査したところゲーム内時間で1分56秒前に刑法174条の公然わいせつ罪に当たる行為が確認されました。ゲーム内での行為なので実際に刑罰が科せられるわけではありませんが、わいせつ行為を行った相手のプレイヤーの要望により、一度そのプレイヤーの攻撃による死亡が確認できるまで、相手のプレイヤーにあなたに対する一時的なPK行為が認められます。今回はこのような処置になりましたが、場合よって永久的なこのゲームへのログイン禁止、また他のMMOへの一定期間のログイン禁止の罰則が与えられる場合がございますので他のプレイヤーに対する迷惑行為は控えていただくようにお願いします…、じゃとぉ…」

 「“ニヤァ…”」


 ボンじぃは端末に送られてきた内容を読み上げ終わると恐る恐るレイチェルの顔の方を見上げた。するとレイチェルは不気味な表情で微笑み、突き立てていた大剣を肩に担いでゆっくりボンじぃの方へと歩いて来た…。


 「い、いや…、今のはつい出来心で…その…。前のゲームで女子に同じことをした時には喜んでくれていたんじゃあ…。だからお前さんも喜んでくれるじゃろうとわしはお前のことを思って……」

 「訳の分からねぇ言い訳してんじゃねぇぇぇぇぇっ!。どこのMMOにてめぇみたいなセクハラじじぃに尻触られて喜ぶプレイヤーがいるってんだよっ!。いいから観念してたたっ斬られやがれっ!」

 「そ、そんな…わしはこう見えても女子にはモテるんじゃ……、お、お前さんだってもうちょっと触らしても貰えればわしの魅力に……ってひえぇぇぇぇぇっ!」


 レイチェルはボンじぃの言い訳など聞く耳持たず思いっ切り大剣を振りかざしてボンじぃに斬りかかった。ボンじぃは寸での所で斬撃を躱したが、その剣圧で遠くの方まで吹っ飛ばされてしまった。だがこれは幸いとボンじぃは爺さんとは思えないスピードで草原を突っ走て逃げていくのだった。当然レイチェルも追いかけていったがどうやら治癒術師の敏捷は割と高く設定されているようで見る見る差は開いて行った。だが通報を受けたプレイヤーは常にマップに表示されてしまうため体力の値のことを考えると逃げ切るのは難しいだろう。そしてナギは一人その場に取り残されてしまうのであった…。


 「ちょ、ちょっと皆〜…。どうしよう、もう500メートルも向こうまで行っちゃてるよ。何とかして追いつかないと…ってうわあっ!」


 ナギが二人の後を追おうとすると前方の方から再びデノンザウルスがやって来た。そしてナギの姿を確認すると猛スピードで突進してきた。ナギは当然全速力で逃げ出したがレイチェル達とは完全にはぐれてしまうのであった…。


 「うわあぁぁぁぁぁぁっ!、誰か助けてえぇぇぇぇぇっ!」


 ナギは他のプレイヤー達と出会えることを願ってただひたすら真っ直ぐ逃げていた。だが当然前方にもモンスターがいるわけで逃げ回っているだけではいずれモンスター達に囲まれてしまうことになる。果たしてナギは無事逃げ切れるのであろうか…。一方その頃ナミはナギ達を探していたようだが見つからず、マップに位置が表示されていることに気付いてナギの方に向かっていた。


 「何であいつらもパーティ分かれてしまってるのよ。全く…、自信過剰なプレイヤーが多いんだから。私も含めてだけど。えーっと、どうやらヴィンス、カイル、アイナの3人と、レイチェル、ナギ、ボンじぃの3人に分かれたみたいね。……どっちのパーティが心配かは一目瞭然だわ……って早速ナギの奴一人でモンスターに追われてるじゃないっ!。もうっ、本当に頼りないだからっ!」


 ナミはマップでナギが一人でモンスターに追われていることを確認すると急いでナギの元へと向かって行った。果たしてナミは間に合うのだろうか。ナギの運命は一体…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自己紹介のレイナルド。チェルシーの。や語り部に嘆くおっさんをみた時のナギ達移動の移動などの誤字や消し忘れたと思われるク転換詠唱など挿絵を描く前にやることがあると思います 人様の作品に言うこと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ