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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第七章 VSアイアンメイル・バッッファローっ!
47/144

finding of a nation 44話

 猛牛型モンスター、アイアンメイル・バッファローの分析を終えたナギ達は、早速討伐を開始すべくそのモンスターの後を追っていた。まだそんなに距離は離れていなかったのか、500メートル進んだだけですぐ再び視界に捉えることができた。リアの指示で再びナミが遠視で様子を確認していた。


 「……今は止まって草を食べてるわ。いくら凶暴でもやっぱり草食動物みたいね。仕掛けるなら絶好のタイミングだと思うけど、どうする、リア?」

 「勿論仕掛けるわ。まず最初の配置を決めるから皆端末パネルでマップを開いてちょうだい。盗賊のお頭さんは後で向こうにいる部下にも説明しといてね」

 

 現在ナギ達はアイアンメイル・バッファローから2キロ程離れた場所にいた。皆端末パネルのマップで自分達とアイアンメイル・バッファローの現在位置を確認し、自らの配置場所を間違えないようリアの指示を聞いていた。あまり大勢で行動すると敵に気付かれやすいと判断したのか、盗賊の下っ端達はもう少し離れた場所で待機していたようだ。

 

 「まず塵童、マイ、盗賊の頭を除いたメンバーはある程度の距離……、大体300メートルぐらいの位置まで気付かれないよう接近しないといけないわ。セイナとシルフィーは東側から、ナミが西側から、デビにゃんが南側から、私は北側から仕掛けるわ。ボンじぃはセイナの後ろ50メートルの位置を維持しつつセイナとシルフィーを徹底的にサポート。レイチェルはボンじぃの護衛をしつつ周囲の雑魚モンスターの相手をしてちょうだい」

 「OKだ。私は行動ポイントをかなり消費しちまってるからな。でも雑魚が相手ならある程度は温存できる。それで隙ができればあの牛野郎にヴァイオレット・ストームを叩き込んでやるぜ」

 「ええ。ただしセイナが危ないと感じた時はすぐにフォローに回ってちょうだい。あなたにはいわゆるサブタンクの役目もやって貰うわ」


 レイチェルはボンじぃの護衛をこなしながら、同時にパーティのサブタンクとしての役目も受け持つようだった。MMOにおいてタンクとは敵の引き付け役、敵の攻撃を真正面から受け持つ前衛職のことである。簡単に言うと囮と言うわけだが、敵の注意を自身に引き付けることで他のプレイヤーに攻撃の手がいかないようにする役割のことである。そうすることにより、他の近接アタッカーは敵にダメージを与えることに集中できる。またヒーラーも回復をする相手をタンクのプレイヤーに絞れるため、効率よくゲームをプレイすることができるようになる。サブタンクとはそのまま予備のタンクという意味で、メインのタンク一人では敵の攻撃を受けきれない場合に、敵の攻撃を二分する為にもう一人のタンクとしてメインタンクのサポートに入ったり、メインタンクが死亡してしまい、蘇生が完了がするまで代わりに敵の攻撃を引き付ける役割のことをいう。ナギ達の場合セイナがメインタンク、レイチェルがサブタンクというわけだ。


 「馬子には南西側、ナミとデビにゃんのサポートをしつつ雑魚モンスターの処理、アイナには私とセイナ達の間、北東の位置でなるべく広範囲に渡るサポートをお願いするわ。ナギはとても戦闘に適したステータスじゃないから……、少し離れた場所でサポートい徹していてちょうだい。上手くモンスターミートを食べさせて敵モンスターにデバフを掛けまくってくれると助かるわ」

 

 デバフとは対象となった相手にステータス減少や状態異常等のデメリットを与える効果のことを意味する。反対に対象のステータスを上昇させたり、バリアを張る等メリットを与える効果のことをデバフという。魔物使いであるナギはモンスターミートを敵モンスターに食べさせることにより様々なデバフを掛けることができるのだ。当然味方モンスターにバフを掛けることもできる。


 「任せといて。……でも加工したモンスターミートも残り少ないし、それだけじゃああまり役に立てないから僕も戦闘に参加するよ。実はさっき集落でコルンから凄い武器を貰ったんだ。これがあれば僕も一端いっぱしには戦えるはずだよ」

 「そうにゃっ!。もうナギは戦闘でも僕達に負けないぐらい活躍できるのにゃっ!。きっと皆ビックリするはずにゃっ!」

 「そう……。だったらナギにはアイナの護衛を頼もうかしら。アイナがサポートに集中できるようどんどん雑魚モンスターを倒していってちょうだい」

 「うん、分かったよ。よろしくね、アイナ」

 「は、はい。(やった……、ナギさんに護衛してもらえるなんてラッキーです……。でもリアさんにはナギさんのことは考えないように言われてるし……。それにそんなことに現を抜かしてないで戦闘に集中するようにしないと……)」

 

 ナギに護衛に就いてもらうことになりアイナは喜んでいた。ここまで来る途中にリアに言われたこともあり、少し複雑な気持ちもあるようだったが……。デビにゃんの言う通りアース・カルティベイションを装備したナギならもう雑魚モンスターには引けを取らないだろう。


 「後はマイ達3人だけど……、例によってマイの最大射程である700メートル後方まで下がってもらうわ。マイはそこから援護してちょうだい。お頭は何もしなくて構わないわ。塵童はさっき頼んだ通り二人の警護をお願いね」

 「ああ、分かってるよ」

 「それとくどいようだけどマイとお頭さんは絶対死んじゃ駄目なんだからね。もし私達が全滅しそうだと判断したらすぐこの場を離れるのよ。細かく言うとセイナが戦闘不能になるか、他のメンバーが2人以上戦闘不能になったらもう無理だと判断してちょうだい。私達のことなんて放っておいて猛スピードで集落まで逃げ帰るのよ。仲間を置いて行くのは気が引けるかもしれないけど、私達は死んでも城からリスポーン出来るんだからね」

 「はいはい、分かってますって。さっき散々注意されたんだから肝に銘じてるわよ」

 「俺は言われるまでもなくあんたらを置いて逃げるぜ。なんだかんだでまだこのゲームの世界を楽しみてぇからな」

 「よしっ……。じゃあ皆あいつに気付かれないよう配置に就いてちょうだい。仕掛けるタイミングは端末パネルの通信で合図するから、まずはセイナがあいつの注意を引いて、それが確認できてから他は行動に移るのよ。それじゃあ各自配置に向かって散開っ!」


 こうしてナギ達はリアに指示されたポイントへと向かって行った。皆マップにマーカーを入れて場所を間違えないようにして、相手のモンスターに気付かれないよう慎重に草原を移動していった。無事ポイントへと辿り着いたナギ達は、なるべく息を潜めてリアの指示があるのを待っていた……。






 「こちらセイナだ……。今シルフィーと共にポイントに到着した。こちらはいつでも仕掛ける準備はできているぞ」

 「了解……。私ももう位置に就いたわ。他の皆はどう?」

 「僕とアイナは大丈夫だよ。敵も気付いてないみたいだし……、皆無事接近できたんじゃないかな」


 リアは端末パネルで通信を開き、皆が位置に就いたか確認した。どうやら皆すでに配置に就き、いつでも敵に仕掛ける準備はできているようだ。


 「OK……。それじゃあ仕掛けるタイミングはセイナに任せるわ。あいつの注意を引くために思いっ切り派手にぶちかましてあげてちょうだい」

 「了解だ。では行くぞ……」


 “……ゴクッ”


 セイナの号令を聞いてナギ達は静かに息を飲み込んだ。セイナは姿勢を低く保ち、地面を踏ん張っている足に力を込め今にも茂みの中から飛び出そうとしていた。そして一つ呼吸を整えたと思うと目に止まらぬ速さで草原を駆け抜けて行った。


 「スゥ……はっ!」


 “バッ……ダダダダダダッ!”


 茂みを飛び出したセイナはウィザードラゴンラプターに突撃した時と同じように前屈みでかなり姿勢を低く保っていた。その姿勢は背中が地面にほぼ水平になるほどで、まるで風の抵抗を受けていないよう……、それどころか風と一体になっていると感じられる程のスピードだった。セイナが飛び出した時点での相手との距離は300メートル、だがその距離は3秒も経たない間に200メートルにまで縮まっていた。セイナが通った後の草原はジェット機が通ったように掻き分けられてしまっていた。 

 

 「す、凄いスピードだわ……。風の精霊である私が全く追いつけないなんて……。もうっ、待ってよ〜、セイナ〜」


 セイナのサポートに就いていたシルフィーが必死に後で追っていたが全く追いつけない様子だった。風属性を持つ精霊は同じランクの精霊達の中でも最もスピードに優れているはずだが、それでもセイナの半分程のスピードしか出せていなかった。


 “モシャ、モシャ……、モオッ!”


 セイナが草原を駆ける音を聞いて草を食べていたアイアンメイルバッファローもすぐにその存在に気が付いた。瞬時に顔を上げてセイナの向かって来ている方を振り返ったが、すでにセイナは残り100メートルという距離にまで近づいてきていた。更にセイナはその距離から先手を取るべく攻撃を仕掛けようとしていた。


 「はあぁぁぁぁぁ……」


 “ザザァァァァァ……”


 アイアンメイル・バッファローのいる距離まで100メートルを切った時点でセイナは急に足を地面に踏ん張りスピードを殺した。それと同時に両手で剣を後ろ斜めに下げ、体を横に向けて地面を擦りながら進んでいた。先程までの凄まじいスピードを全力で殺していたため、セイナが足で踏ん張っている地面の土が抉られ後ろに大量の土砂が飛び散っていた。そしてセイナと同じく地面を擦りながら進んでいたショールブレイドには大量の闘気が込められ、剣身から放たれている剣気が風のようにセイナの後ろに向かって舞い広がっていた。

 挿絵(By みてみん)

 

 「はあぁぁぁぁぁ……、いくぞぉぉぉぉぉっ!」


 “モオォォォォォォッ!”


 地面を擦りながらセイナは気合の入った声で叫んでいた。その声に負けじと、アイアンメイル・バッファローも迫り来るセイナに

向かって強烈な咆哮を飛ばしていた。


 “ザァァァァァァァッ!” 


 「ブレイズゥゥゥゥゥ……スッラァァァァァシュッ!」


 “ズバァァァァァァァンっ!”

 “モモオォ〜〜〜〜ン……”


 セイナが地面を擦り進んでから約40メートル、ようやくそのスピードを殺しきり地面に踏み止まろうとしていた。そして更に10メートル程進み、相手との距離が残り50メートルとなった瞬間、セイナは踏み止まると同時に先程までのスピードの反動を利用して、下向きに構えていた剣を一気に振り上げた。蓄えられていた剣気も一気に解放し、剣を振り切ると同時に凄まじい剣気の塊が斬撃となってアイアンメイル・バッファローへと放たれていった。それは正しくセイナ得意の剣技の一つブレイズ・スラッシュであった。200メートルもの助走の反動を利用したそのブレイズ・スラッシュは、まるで大砲が放たれたような衝撃とスピードでアイアンメイル・バッファローの顔面に直撃した。アイアンメイル・バッファローが顔に装着していた鉄の面など物ともしないような威力で、数十メートルもある相手の巨体を完全に怯ませてしまっていた。


 「どうだっ!。どんなにデカイ図体をしていようが工夫次第でそれ以上のパワーなどいくらでも出せる。今から私が貴様の相手をしてやるが……、その巨体にかまけて足元をすくわれんよう気を付けるのだな」


 “モッ……、モオォォォォォォッ!”

 “ドドドドドドドッ!”


 セイナはブレイズ・スラッシュを放った後、大きな声でアイアンメイル・バッファローに向かって罵声を浴びせ挑発した。その効果があったのか、さっきの攻撃のダメージの影響かは分からないが、アイアンメイル・バッファローはかなり怒った様子で雄叫びを上げ、一目散にセイナに向かって突撃して行った。このゲーム全体が電子生命体というのだから、恐らく挑発の効果はあったのだろう。


 「……っ!。どうやら挑発は成功したようだな……。ならばまずこやつの一撃を軽くいなしてみるか。それくらいできねばこの戦闘で最早勝ち目はあるまい」


 向かい来るアイアンメイル・バッファローを前に、セイナはまるで退こうとする様子はなかった。どうやら相手の攻撃を正面から受け切るつもりらしい。確かにアイアンメイル・バッファローを引き付けるのがセイナの役割だが、わざわざ攻撃を食らう必要はない。だがセイナは自分達がこの戦闘を続ける価値があるかどうかを確かめる為に自ら相手の攻撃を受けるつもりだった。もし自分があっさりやられてしまうことがあれば討伐は諦めて逃げろということなのだろう。不動の構えを取るセイナを見てナギ達は驚いていたが、今この場から姿を表すわけにもいかずただ見守るしかなかった……。


 「ちょっとセイナ〜っ!、一体どういうつもりなのよ〜っ!。……もぉ〜っ!、本当に無茶ばかりするんだから、このパーティのメンバーわぁっ!」

 

 その様子を見て慌てたシルフィーは、なんとかセイナのサポートに就こうと限界だったスピードを更に加速させた。そのスピードについていけずシルフィーの半透明の美しい薄緑色の羽がはち切れそうに後ろに広がっていた。だがそんなシルフィーの頑張りも虚しくアイアンメイル・バッファローは一瞬にしてセイナとの距離を詰めていった。


 “モオォォォォォォッ!”

 “ドドドドドドドッ……”


 セイナへと迫り来るアイアンメイル・バッファローは、頭を地面擦れ擦れにまで低くし、左右に広がった二本の角を正面に向けてまるで闘牛に参加する牛のような迫力だった。50メートルしか距離がないにも関わらずかなりのスピードにまで加速していて、僅か3秒も掛からないままにセイナの目の前まで接近してきた。そしてその勢いのままセイナに突進攻撃……、アナライズの分析データにもあったバッフル・チャージを仕掛けるのだった。特技と言うだけあって普通の突進とは違いアイアンメイル・バッファローの体が力強い赤いオーラに包まれていた。


 「……来いっ!。貴様の実力がどの程度か確かめてやろう」


 “モオォォォォォォッ!”

 “ドバァァァァァァァンッ!”


 「ぐっ……、ぬおぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 “ザザザザザザァァァァ……”


 「セ、セイナぁぁぁぁぁっ!」


 アイアンメイル・バッファローは全く速度をを落とさないままセイナに突撃した。まるでセイナに接触する瞬間に自身のスピードが最高点に達するよう調整したようだった。そしてそれと同時に下げていた頭を勢いよく振り上げ、突進の勢いと共にセイナを遥か上空に吹き飛ばしてしまった。セイナのいた場所を通り過ぎた後、アイアンメイル・バッファローは先程のセイナと同じように地面を擦ることでスピードを殺し、そのまま30メートル程進んだところで止まっていた。


 「くっ……、なんという衝撃だ……。これは威力も馬鹿ではないな。だがなんとか一撃で倒されずには済んだようだ。後は体勢を整えて無事着地できれば……」


 アイアンメイル・バッファローのバッフル・チャージをもろに食らったと思われていたセイナだったが、実はそうではなかった。正面に剣を構えて受けたのは当然だが、アイアンメイル・バッファローの突進が直撃する直前軽く後ろに飛び、更に振り上げた頭に吹っ飛ばされると同時に重心を後ろに移動し、突進の衝撃を受け流しダメージを緩和していたのだった。それでもセイナのHPは20%程減少していたのだが、致命傷どころかほぼ通常のダメージといったところでセイナは空中に飛ばされながらこの討伐を続行することを決断していた。今は着地のダメージを少しでも減らす為に空中での体勢を整えることに集中していた。


 「ちょっとぉっ!。だから言わんこっちゃないじゃない。あんな高く吹っ飛ばされちゃって〜……って今は怒ってる場合じゃないわ。あのままじゃあ地面叩き付けられて確実に戦闘不能になっちゃうっ!。なんとかして助けないと……」


 上手くアイアンメイル・バッファローの攻撃を受け流したセイナだったが、シルフィーには見事に敵の攻撃に直撃し上空へ吹き飛ばされたように見えていた。体勢を立て直すことなど不可能で、このままでは地面に衝突して大ダメージを負ってしまうと思ったシルフィーは、ある魔法でセイナを窮地から救い出そうとするのだった。


 「セイナ〜、これで何とか体勢を整えて〜。……え〜いっ!、ウィンド・バッファリングっ!」

 

 “ヒュイィィィィィィン……”


 「な、なんだ……、急に体が風に包まれた感じがする……。これは……、もしやシルフィーのサポート魔法かっ!」


 空中に舞い上がっているセイナを見てシルフィーはウィンド・バッファリングという風属性の魔法を掛けた。するとセイナの体の周りを穏やかな風のようなものが包んでいった。どうやらサポート系の魔法のようだがどのような効果があるのだろうか。


 「この風に包まれてから急に体の制御がしやすくなった……。どうやらこの魔法には対象に掛かる衝撃を緩和し、肉体の制御能力を高める効果があるようだ。これならば楽に体勢も整えられよう」


 バッファリングとは緩衝効果のことで、ウィンド・バッファリングとは風による緩衝作用という意味である。衝撃を吸収する風を纏わせることにより、攻撃を受けた時等に対象に対して発生する衝撃や、動作によって肉体に掛かる負担を軽減する効果があるようだ。これにより敵の攻撃への対応力や、肉体の制御能力が上昇し戦闘がよりスムーズに行えるようになる。行動ポイントの消費も減少するだろう。バッファリングとはコンピューターの処理能力を高めるシステムのことでもあり、これがゲームの中であることを考えるとそちらの意味の方が強いのかもしれない。ウィンド・バッファリングの効果を得たことによりセイナはいとも簡単に空中で体勢を整えることができ、落下のダメージや衝撃をほぼ受けずに着地することができた。


 “パタッ……”


 「セイナ〜っ!、大丈夫なの〜っ!」

 「ああ、大丈夫だシルフィー。おかげで着地のダメージもほぼ0に抑えることができた。しかもこの魔法の効果はまだ継続しているようだ。これでかなり戦闘を有利に進めることができる」


 セイナが着地したのを見てシルフィーは慌てて駆け寄って行った。シルフィーの魔法の効果もあり、落下のダメージもなく無事のようだった。そしてセイナの体にはまだウィンド・バッファリングにより発生した穏やかな風が纏われていた。


 「そうね……。大体10分ぐらいは効果が継続すると思うわ。でも一度効果が切れると1時間は同じ対象にこの魔法を掛けること

ができないから気を付けてね……ってなんだか思ったよりピンピンしてるけど……、もしかして私の魔法って余計なお世話だった……?」

 「そんなことはないぞ。確かに攻撃を受け切れていたのは事実だが、この魔法のおかげでより着地の際の衝撃を和らげることができた。しかも暫く効果が続くというのだから前衛役としては願ったり叶ったりの魔法だ。これからもサポートの方をよろしく頼む」

 「……っ!。OK、任せといてっ!」


 どうやらウィンド・バッファリングの魔法の効果は後10分程続くらしい。セイナの戦闘能力と相まってアイアンメイル・バッファローとも互角以上に渡りあってくれるだろう。そしてセイナとサポートに就いたシルフィーはすぐにアイアンメイル・バッファローの方を振り返る臨戦態勢を取った。バッフル・チャージにも僅かながら反動が設定されているようで、アイアンメイル・バッファローも暫く動けないでいたようだが、硬直が解けるや否や再びセイナ達に突進攻撃を仕掛けてきた。今度はただの突進のようだがセイナを相手に下手に特技を放つのは危険と判断したのだろうか。


 「くるぞ……。なんとか注意を引くことには成功したようだな」

 「ええ、これでナギ達も戦闘に参加してくれるはずよ」


 “モオォォォォォォッ!”


 アイアンメイル・バッファローは完全にセイナに気が取られているようで、怒り狂ったよう雄叫びを上げながらセイナ達に向かっていた。そして注意がセイナにいったことを確認したことにより、茂みの中に隠れていたナギ達も攻撃を仕掛ける為に飛び出して行くのだった。


 「今よっ!。……我が心に燃え上がりし灼熱の意志よ。2対の炎となりて撃ち放たれよっ!、ダブル・バーン・フレイムっ!」


 “バアァァァァァァァンッ!”

 “モオォォォンッ!”


 アイアンメイル・バッファローがセイナへと向かいまずはリアが茂みの中から飛び出してきた。皆セイナが敵を引き付けている間に気付かれないよう敵から50メートル程の距離まで詰めていたようだ。リアは瞬時に魔力を集中し得意の火属性魔法をアイアンメイル・バッファローに向けて放った。ダブル・バーン・フレイムと叫ばれたその魔法は、リアの頭上の左右から青と赤の二つの炎を作り出し、そこから火柱のように形状が変化し蛇のようにうねりながら敵に向かって行った。二つの炎はアイアンメイル・バッファローの側面に直撃した。自身の耐性率がマイナスな上、リアの高いステータスと火の所持属性により威力の倍増した魔法を食らったアイアンメイル・バッファローだが、動きこそ止まったものの全く怯む様子を見せずリアの方を睨み返していた。ダメージは互角だろうが、敵に与える衝撃は物理攻撃であるセイナのブレイズ・スラッシュの方が高ったようだ。


 「次は僕にゃぁぁぁぁぁっ!。にゃぁぁぁぁぁ……、必殺猫フレイムにゃぁぁぁぁぁっ!」


 “バアァァァンッ!”

 “モオッ!”


 続いてデビにゃんが飛び出し得意の猫フレイムを放った。まだ大きさにさほど変化はないが、一応レベルが上がったことにより技に設定されている威力は上がっているようだ。だがアイアンメイル・バッファローにはほとんどダメージを与えられていないようで、すぐ火球の飛んできた方を振り返り今度はデビにゃんのことを睨みつけていた。だがそこまで熱くはなっておらず、リアとデビにゃんが続けて仕掛けてきたことで自分が複数の相手に狙われていることに気付き少し冷静さを取り戻したようだった。まだ隠れている相手がいるかもしれないと判断し、デビにゃんの方を見ながらも同時に周囲の気配を探っていた。


 “バッ!”


 「てぃえぇぇぇぇぇいっ!、今度は私よぉぉぉっ……、必殺、流星蹴りぃぃぃぃっ!」


 今度はアイアンメイル・バッファローの背後からナミが飛び出してきた。一気に十数メートル程飛び上がり、相手のお尻の辺りに向かって勢いよく飛び蹴りを放っていた。ナミは流星蹴りと叫んでいたが、どうやらただの飛び蹴りではなく、流星蹴撃りゅうせいしゅうげきというという流星のように高熱のオーラを纏って飛び蹴りを放つ特技のようだ。勢いよく敵へと向かって行ったナミだったが、流石に3人目の不意打ちは警戒されてしまっていた……。


 “モッ!、……モオォォンっ!”

 “ヒュン、ヒュン……、バチィィィィンっ!”


 「……っ!、きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 「ナ、ナミィィィィィッ!」


 背後から勢いよく飛び出してきたナミだったが、アイアンメイル・バッファローは鉄鋼に包まれた尻尾を振り回すとそれをぶつけて吹っ飛ばしてしまった。決して視線は背後にいっていなかったのだが、正確に尻尾を直撃させる辺りかなり感覚神経の能力が高いようだ。恐らくナミの多き声や茂みの揺れる音、更には空気の振動などを察知して正確な場所を捉えたのだろう。吹っ飛ばされてしまったナミは体勢を崩しそのまま地面に叩きつけられようとしていた。


 

 「くっ……、くっそぉぉぉぉぉっ!」


 “バッ……、ザザァァァァ……”


 地面に直撃する寸前ナミはなんとか体勢を整え両足で着地することができたが、攻撃の衝撃まで殺しきることができず、右腕を前に着き地面を擦りながら後ろへ後退させられていた。30メートル程後退させられたところで止まることができたが、ナミのHPは4割近く削られていた。セイナが更に威力高い攻撃であるバッフル・チャージのダメージを2割程で抑えていたことを考えると、このゲームのおける防御態勢の重要さが分かる。


 “バッ……”


 「ナ、ナミちゃんっ!。今回復したるけぇちょっと待っとって……。施与せよの祈祷・治癒の祈りっ!」


 “パァ〜〜〜〜ン……”


 「はぁ……はぁ……っ!。……ふぅ〜、助かったわ、馬子」


 ナミが攻撃を食らったのを見て、同じくアイアンメイル・バッファローの後方に待機していた馬子が慌てて飛び出しナミに回復用の祈祷を発動した。施与の祈祷とは自分以外の相手を対象にする特技のようだ。同じ治癒の祈りでも自分に使うか相手に使うで回復量や効果が変化するらしい。祈祷師の場合基本的に自分を対象にした方が効果が高くなる傾向がある。祈祷術の特技は自己啓発祈祷、施与の祈祷、そして祈祷弾などの攻撃系が分類される呪詛じゅその祈祷の3種類に分かれているようだ。


 “モオォォォ……”


 「……っ!。なによ……、急に私の方ばかり見て……。あんたの相手はセイナのはずでしょ……」

 「……っ!。まずい……、奴の気がリアの方へいっている……。先程の攻撃でもうリアが一番危険だと判断したのか。なんとかもう一度こちらに注意を引き付けなければ……」


 アイアンメイル・バッファローはナミを弾き飛ばした後急にリアの方に向きを変え再び睨み付けた。どうやら4人の攻撃を受けてリアが一番危険だと判断したようだ。攻撃の威力や精度もセイナも負けていなかったはずだが、レベルやステータスではリアが圧倒的であることに気付く辺りこのモンスターの知能はかなり高く設定されているようだ。


 “モオォ……、モオッ!”


 「くっ……、やっぱりこっちに来るか……。こうなったら私が引き付け役をするしか……って、セイナっ!」


 “モッ!”


 「はぁぁぁぁぁっ……、ブレイズッ・キャリバァァァァァッ!」


 “ズバァァァァァァァンっ!”

 “モオォ〜〜〜〜っ!”


 リアに攻撃対象を変えたアイアンメイル・バッファローはすぐに攻撃を仕掛けようと足で地面を蹴って飛び掛ろうとしていた。リアもこうなった以上自分が引き付け役になることを覚悟して臨戦態勢を取っていた。だがその瞬間セイナが自らの剣に闘気を込めアイアンメイル・バッファローの顔面目掛けて飛び掛って来た。セイナに対して横顔を向けていたアイアンメイル・バッファローはすぐに反応してセイナの方を振り返ったが、その直後にブレイズ・キャリバーを放たられて顔面を切りつけられてしまった。そして鉄の面を付けているにも関わらず、かなりの衝撃を受けたようで、再び怯んでしまい体をよろけさせてしまっていた。セイナの力の篭った剣技はダメージだけでなくかなりの衝撃もを発生させているようだ。


 “モオォォォ……”


 「そうだっ!。貴様の相手はこの私だぞ。余所見をするのは構わないがそれならば遠慮なく叩き斬らせてもらう」

 「セイナ……」


 セイナは顔面を切り付けた後、再び剣先を向けて突き立て挑発した。一度はリアの方へ注意が傾きかけたアイアンメイル・バッファローだったが、顔面切りつけられた上セイナの傲慢な態度を見せつけられては怒りを抑えることができず、また攻撃対象がセイナへと移ってしまった。リアの実力ならば引き付け役も十分に可能だったが、やはり火属性を持つリアが攻撃に専念する方がナギ達にとっては有利だろう。


 「助かったわ、セイナ……。あなたって敵のヘイトの取り方も一流ね。流石あなた達の世界で女優をやってるって言うだけあるわね。これであいつの気はもうセイナから傾くことはな……っ!」


 “モッ、モッ、モッ、モオォォォォォッ!”


 「こ、この雄叫びはさっきまでのとは少し違うわ……。一体どんな効果が……っ!」


 “ガルゥゥゥゥゥ……”


 「こ、こいつはドラゴンラプターっ!。こんな状況でいきなり沸いてでるなんて……、まさかっ!」


 “ザイィィィィィッ!”


 「こっちはシザーライナーよ。それも一体や二体じゃないわ。なんだかこの辺りだけ急にモンスターが出現しているみたい」


 敵の注意が再びセイナ向きリアは一安心していた。やはり現実世界で女優をやっているだけあって挑発の演技も上手かったのだろう。だがその直後アイアンメイル・バッファローはヘイトこそセイナに向かっているものの、すぐには攻撃を仕掛けずその場で奇妙な雄叫びを上げ始めた。するとリアのすぐ側に突如としてドラゴンラプターが姿を現した。それだけではなくナミの近くにはシザーライナー、それも一体ではなく数体が今ナギ達が戦闘を繰り広げている一体に現れ始めたのだ。これはアイアンメイル・バッファローの上げた雄叫びの影響なのだろうか。因みにヘイトとは憎しみや嫌悪の感情を意味する。MMOにおいては相手からの敵対心を表す言葉として使われている。つまりヘイトが向くとは攻撃対象がそちらにいくという意味である。


 「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。こっちにはスミドロンにテディベアラー、キャンプを張った川の近くで見たタートル・レックスまでいるにゃっ!」

 「他にはこの辺りの森や林に住むアドヒーション・スパイダーまでいるわ。アドヒーションが意味する通り木の影から粘着性のある糸を吐いてくる厄介な蜘蛛型モンスターよ。この開けた草原だとそこまで脅威ではないけどね。ただ確かに大量に沸いて出てるけど皆元々この辺りに生息しているモンスターよ。恐らくあいつの特殊能力のおかげでこれだけ沸いて出たんでしょうけど、他の地域に生息するモンスターや一定のランク以上のモンスターは出てこないみたい。だから落ち着いて対処すれば苦戦しないはずよ。皆慌てて取り乱さないようにね」

 

 どうやらこのモンスターの大量出現はアイアンメイル・バッファローが引き起こしているらしい。アナライズで得た分析データには載っていなかったが、集落での盗賊達の証言を考えるとまず間違いないだろう。実際アイアンメイル・バッファローはリスポーン・インターバル・アブリビエイションと言う周囲のモンスターの出現間隔を早める特殊能力を持っていた。発動条件は能力を保持しているモンスターの好戦度の上昇といったところだろうか。恐らく先程ライノレックスのように今までに何度か周囲の同じボス級のモンスターと戦っていたのだろう。その時に偶然盗賊達のアジトの中にまでモンスターが発生してしまったのだ。


 「なるほど……。やっぱり盗賊達が言ってたモンスターの数が増えたっていうのはこいつのせいだったのね。リスポーン・ホストの能力とはまた違うみたいけど……、こっちの場合はやっつけ回ってれば少しは出現頻度が落ちるのかしら。それなら片っ端から倒して回るし……ってリアぁっ!、そっちに物凄い数のモンスターが沸いてるけど大丈夫なのっ!」


 ナミの言う通りリスポーン・ホストの能力とは違い、モンスターを倒せば倒すほど出現頻度は通常状態へと戻って行く。もう一度アイアンメイル・バッファローがあの雄叫びを上げて能力を発動させれば別だが、日に何度も使えるものではない。ナミは取り敢えず周囲のモンスターを蹴散らそうとしたが、その時リアの周りには他の場所の倍以上のモンスター達が出現していた。先程言ったドラゴンラプターなどのモンスターは勿論、最初の討伐の時に見かけたゴブリン型やオーク型などの二足歩行のモンスターまでいた。更には一つ目の巨人として有名なサイクロプスをモチーフにしたモンスター、サイクロプス・クリーパーまでいた。クリーパーとは地面を這う者を意味し、サイクロプスでありながら両手を前に着いて獣のように四足歩行で行動していた。他にもカニやワニの姿をしたモンスター、どうやらこの能力により出現するモンスターは地形を選ばなくなるようだ。更には飛行能力を持つ鳥型のモンスターまで出現し、リアは完全に周囲を囲まれてしまっていた。


 「ちっ……、確かにちょっと数が多いわね。さっきあいつが私の事を警戒していたのがこの能力にも反映されたか……。けど大丈夫よ、ナミ。いくら数が多いって言っても所詮は雑魚モンスター。あんまり相手をしている余裕はないけどすぐに片付けられるわ。さあ、さっさと掛かって来なさいっ!」


 “ガッ……、ガウゥゥゥゥッ!”

 “ヌオォォォォォッ!”

 “ゴブリィィィィィンッ!”


 リアに挑発されてモンスター達は一斉に襲い掛かって行った。どうやらリアはなるべく時間を掛けずに処理する為にモンスター達を挑発したらしい。近づいて来たところを一気に仕留めるつもりだろう。リアは広範囲の特技で一掃すべく剣に魔力を蓄え始めていた。


 「(いいわ……、誘いに乗って来た。これで後は接近してきたところを一網打尽にするだけ……)。はあぁぁぁ……」


 リアが放とうとしている特技はフレイム・インパルス。武器を天に向かって突き立てながら蓄えた魔力を解放することで周囲に火属性の衝撃波を放つ魔法剣士の特技である。リアは敵を十分に引き付けたところでこの技を放つつもりだったが、その前に他のパーティのメンバーが順々と割って入ってくるのだった。


 “バッ……”


 「リアっ!、ここは僕達に任せてっ!」

 「はいっ!、リアさんはあいつの相手をする為に力を温存しておいてくださいっ!」

 「ナギ……、それにアイナも……」


 モンスターが襲い掛かろうとした時、同じくこの辺りに待機していたナギとアイナがリアの左右にそれぞれ飛び出してきた。二人はリアの代わりにモンスター達を返り討ちにするべく攻撃を仕掛けていった。


 「よしっ……、それじゃあ早速コルンに貰った武器の必殺技を使ってみるか。……でぃえぇぇぇぇぇぇいっ!、アースフロー・ビローイングっ!」


 “ドッシャァァァァァッ!”

 “ギャイィィィィ〜〜ンッ!”


 「私も行きます……。この荒波のように激しい大気に集いし風の精霊達よ……。今はその無邪気なる心を凍てつかせ、冷徹なる風を巻き起こしたまえ。北風神ほくふうしんの風、ボレアース・ウィンドっ!」


 “ヒュオォォォォォン……っ!”

 “ギャフゥゥゥゥ〜〜ンッ!”

 

 ナギとアイナはそれぞれ自分達が今使える中でも最強の威力を誇る技でモンスター達を蹴散らしていった。ナギの放ったアースフロー・ビローイングは、端末パネルで確認したデータ通り、武器を振り下ろした先から津波のような土流を撒き越してモンスター達を飲み込んでしまった。泥に埋もれてしまったモンスターはそのまま身動きが取れず、泥に同化していくように消滅してしまった。 対してアイナが放ったのはボレアース・ウィンドと言う風属性の魔法。ボレアースとはアネモイと呼ばれているギリシャ神話に登場する風の神の一人である。冬を運ぶ北風の神として登場しており、名前は北風、もしくはむさぼりつくす者を意味する。そのボレアースの名前を付与されたこの魔法は、凍てつくような寒さを風を巻き起こす風属性魔法である。冷気を含んでいることから氷属性のダメージ変換率も設定されていて、属性変換率は風70%、氷30%となっている。アイナのボレアース・ウィンドを受けたモンスター達は寒さで体を震わせながら体が凍り付くとともに消滅していった。


 「あら……、あれだけのモンスターを一瞬にして倒しちゃうなんて……。ここまで来る僅かな間に随分成長したわね、ナギ、アイナ」

 「へへっ、僕の場合はコルンに貰った武器のおかげだけどね。まさかこんな凄い技が封印されてるとは思わなかったよ」

 「私もレベルが40近くになってようやく威力のある攻撃魔法を覚えることができました。これで精霊術師らしく様々な状況に対応できるようになると思います。ただ器用貧乏にはならないよう気を付けたいですね」


 リアはナギ達が一撃でモンスター達を一掃したのを見て感心させられていた。例えナギ達の援護がなくともリアのフレイム・インパルスなら前後左右の全てのモンスターを一撃で粉砕できただろうが、これからアイアンメイル・バッファローを相手にしなければならないリアにとって少しでもHPやMP、体力や行動ポイントの消費を抑えられるのは大きい。更に後ろに頼もしい仲間がいることの認識により精神的な負担も減るだろう。そして残りの勇猛なメンバー達も続々と参戦してくるのだった。


 “バッ!”


 「セイナや〜、今わしが回復してやるぞい。あんまりダメージは受けておらんようじゃが出来るだけ体力は満タ……ってひえぇぇぇぇっ!。なんじゃこのモンスターの数は……。これが盗賊達が言うとったボスモンスターの持つ特殊能力というやつかっ!」


 “ガルルルルルルゥ〜っ!”


 「ぎゃぁぁぁぁぁっ!、早速ドラゴンラプターの奴が襲ってきおったっ!。わ、わしを食っても上手くはないぞ。あそこにおるセイナやシルフィーの方がよっぽど上手そうではないかっ!」

 「おいおい……。敵の親玉を引き付けてくれてるセイナ達に向かってそりゃねぇだろ、ジジィ。心配しなくても私がすぐに片付けてやるからとっと後ろに下がってな」

 「お、おおっ……、レイチェルっ!」


 “ズバァァァァンっ!”

 “ギャウゥ〜〜〜〜ン”


 続いて出てきたのはレイチェルとボンじぃ。セイナ達の後方に出て来た二人の役割はセイナのHP管理と雑魚モンスターの討伐である。先に出て来たボンじぃは周囲にいたドラゴンラプターに襲われそうになったが、次に出て来たレイチェルが一撃で斬り伏せてしまった。更にレイチェルは周囲のモンスターを一掃し、ボンじぃも少し削られていたセイナのHPを回復させることができた。


 「にゃっ……、レイチェルとボンじぃも出て来てなんとかリアの言ってた陣形が完成したにゃ。後はマイと塵童……、それに盗賊の頭がどうなっ……ってにゃぁぁぁぁぁっ!、いつの間にか僕の周りもモンスターで一杯になっちゃてるにゃっ!。僕は皆みたいに沢山のモンスターを一気に攻撃できる技を持ってないにゃ。このままじゃやられちゃうにゃっ!」


 “シャァァァァァ……!”


 「あ、あれは蛇型モンスターのギャング・スネークにゃっ!。その名の通り大量の群れで無慈悲に獲物を襲ってくるにゃ。あんな大群に襲われたら僕じゃあひとたまりもないにゃ……」


 “シャァァァァァァッ!”


 「にゃぁぁぁぁぁっ!、やっぱり襲ってきたにゃぁぁぁぁぁぁっ!」


 ギャング・スネークの群れは一斉にデビにゃん目掛けて襲い掛かって行った。ギャングというだけあって逆三角形の形をした据わった目をしていて、蛇だというのにまるで鮫のようなギザギザな歯の歯列が口内に敷き詰められていた。そしてその鋭利な歯で口を目一杯開いてデビにゃんを噛み殺そうとした。デビにゃん事前にナギに貰ったバーサクミートを食べていたこともあり、なんとかギャング・スネーク達に応戦していたが、その数の多さに押され気味になってしまっていた。


 「にゃぁ……、にゃぁ……。やっぱり僕一人でこの人数相手はきついにゃ……。リアには出来ればナギとアイナをこっちに回してほしかったにゃ……。リアなら一人でも雑魚モンスターぐらいどうにでもな……ってにゃぁっ!」


 “シャーーッ!”

 “パァンッ!、……カランッ……”


 「にゃぁぁぁぁぁぁっ!、油断してたら尻尾で手を弾かれちゃったにゃぁっ!。おかげで僕のネコノテヤリが飛んでにゃっ!。もうおしまいにゃぁぁぁぁぁっ!」


 “シャァァァァァァッ!”

 

 ギャング・スネークの猛攻にどんどん押され気味なってしまうデビにゃんだったが、とうとう数に圧倒されて自慢の武器のネコノテヤリを手放してしまった。一応武器を手放しても装備状態は解除されず、攻撃力などのステータスには影響はないが、やはり武器を使わなければまともな反撃を行うことはできない。リアルキネステジーシステムを使いこなしているセイナのようなプレイヤーならば、素手の状態でも武闘家なみの戦闘をこなすことも可能かもしれないが……。デビにゃんが武器を手放してしまったのを見たギャング・スネーク達は当然この機を逃すはずがなかった。群れの中でも一番大きいギャング・スネークが我こそが獲物を食らおうと

大口を開いて凄いスピードで地面を這いながら近づいて来た。武器を失ったデビにゃんは目を瞑ったままただ捕食されるのを待つしかなかった……。


 「(猫が蛇に食べられるなんて屈辱だにゃぁ……。もし今度あったらネコノテヤリで猫じゃらしにみたいに弄んでギタギタにしてやるから覚悟しておくにゃよ。……にゃぁぁぁぁぁぁっ!)」


 “ヒュイィィィィィィンッ!”

 “シャア?、……シャッ、シャイィィィィィッ……”


 「……にゃぁっ!。い、今の閃光は……マイの魔弓術にゃっ!」


 “ヒュィィンッ……!、ヒュィィンッ……!、ヒュイィィィィィンッ!”

 “シャアッ!、シャアッ!、シャアァァァァッ!”


 「す、凄いにゃ……。あんなに離れた距離から撃ってるのに全部命中させてるにゃ。ギャング・スネーク達が圧倒間に倒されていくにゃぁっ!」


 死を前にして心の中でギャング・スネークに対して負け惜しみを言っていたデビにゃんだったが、突如勢いよく風を切るような音と共に閉じていたまぶたの中に光が差し込んできた。何事かと思いデビにゃんが目を開いてみると、そこには消し炭にされたギャング・スネークの体宙に舞い上がりながら消滅していく光景が広がっていた。その光景を見たデビにゃんはすぐにマイの魔弓による攻撃だと気付いた。すると更に何本もの閃光の矢が次々と放たれ、その全てがギャング・スネーク達を貫いてしまった。マイの的確な援護にデビにゃんは驚かされていたが、そこへ更なる援軍が到着するのだった。


 “ドドドドドドドッ……”


 「おらおらおらぁぁぁぁぁぁっ!。雑魚モンスター共ぉぉぉっ!。てめぇらの相手はこの俺達だ。ナギさん達には指一本触れさせないから覚悟しろよっ!」

 「あ、あれは盗賊の下っ端達にゃ……。僕達が戦闘を開始したのを見て援軍に来てくれたのにゃ。でもどうして皆僕いる後ろの方向から来て……ってそういうことだったのにゃぁっ!」


 援軍に到着した総勢50人近くの盗賊の下っ端達は、ナギ達の周りに沸いた雑魚モンスター達を見るや否や自慢のシミターを取り出し斬りかかって行った。デビにゃんの周りにいた残りのギャング・スネーク達もあっさりと片付けてしまい、次々へと沸いて出る雑魚モンスター達を蹴散らしていった。どうやらヴァルハラ国の兵士となったことでステータスに上昇補正が掛かっているようだ。皆デビにゃんの後ろの方向から進軍して来ており、それを見たデビにゃんはあることに気が付いていたのだった。


 「僕の後ろの方角にはマイ、塵童、盗賊のお頭達が配置されていたのにゃ。つまり僕のいる位置がマイの援護を最も受けやすいし、何度もリスポーンできる盗賊達も逸早く僕の場所に駆け付けることができるのにゃ。これなら僕も雑魚モンスターにやられる心配はほとんどないにゃ。むしろアイアンメイル・バッファローの影に隠れているリアが一番マイの援護を受けにくいのにゃ……。そんなことも知らず文句言ったりしてごめんにゃよ……、リア」


 一見手薄に思われたデビにゃんの配置だが、マイの援護を受けるには絶好のポイントだった。マイの狙撃の腕は凄まじく、その援護を受けられることはナギやレイチェルなど近接戦闘キャラに護衛に就いてもらうよりよっぽど心強いものだった。逆にマイとの線上にアイアンメイル・バッファローの体を隔てているリアは、とてもではないが弓矢による援護を期待できる位置ではなかった。マイの腕ならばアイアンメイル・バッファローの足の隙間を縫って狙うことも可能だろうが、リアのことを信頼しているマイは決してそのような非効率な真似はしないだろう。そのことに気付いたデビにゃんは改めてリアの智謀の高さに関心させられていた。そしてマイ達もアイアンメイル・バッファローを相手に善戦をしているナギ達を頼もしく思いながら戦闘の様子を見守っていた。


 「ふぅ……、なんとかデビにゃんの周りは片付いたわね。でもまた次々と雑魚モンスター共が沸いて出ているわ。こりゃ私はアイアンメイル・バッファローを狙ってる余裕はなさそうね」

 「ああ……。だがそれにしてもあのセイナって奴とんでもないプレイヤーだな……。噂には聞いていたがまさかこれ程とは……。いくら俺でもあそこまで軽くあのアイアンメイル・バッファローの突進をいなすことはできないぜ……」

 「ちょっと塵童っ!。感心しているのは構わないけど……、いい加減遠視ばっかりしてないで私の護衛に集中してよね。離れてるって言ってもこの辺りにも雑魚モンスターが沸く可能性があるんだからね」

 「その嬢ちゃんの言う通りだ。お前達も敵のボスから離れてるからって気を抜くんじゃねぇぞ。念の為に部下の中でも選りすぐりの実力を持つお前等を残してるんだからな」

 「へい、お頭っ!。あいつらが何度でもリスポーン出来るようになんとしてもお頭の身を守って見せます。塵童さんも私達との協力の方、お願いしますよ」

 「分かってるよ……。俺はこの辺りを守ってるから、お前達はそっちの方を頼む。俺は一人で大丈夫だから、お前達はなるべく纏まって行動するんだぞ」


 マイと盗賊の頭には護衛として塵童が就いていた。更にリアの指示で盗賊の部下達の5人ほど護衛に残っており、塵同と共にマイ達の周辺を警戒していた。その中にはあのザムもいた。塵童は一人、盗賊の下っ端達はザムのいる組が二人、そして残りの三人が組になって3方向に分かれて守りに就いていた。マイは援護に集中するために常に遠視を発動している状態で、近場の状況はあまり視界に入らないようだ。遠視は視力強化と言うよりは双眼鏡を覗いている感じに似ているのかもしれない。塵童とマイ達はナギ達の戦いぶり……、特にセイナのバトルセンスには度肝を抜かれていた。そしてそのセイナはというと挑発に成功したことで再び自身に攻撃対象に移ったアイアンメイル・バッファローと睨み合っていた。お互い相手の実力を警戒してしまっている為に仕掛けることができずにいるようだ。


 「(……どうやら怒りは感じているはものの私のことをかなり警戒しているようだな。これはまだ冷静さを失っていない証拠……。こちらも決して気を緩めることは許されない。だが攻撃役ではなく引き付け役である私にとって今のこの状況は望みべきもの。すぐにリア達が態勢を立て直して攻撃を仕掛けてくれるはずだ)」


 “モオォォォ……”


 「さあ、待たせたわね。雑魚モンスターの相手はナギ達がしてくれてるし、私はどんどん攻撃を仕掛けていくわよ」

 「僕も猫フレイムを何発もぶち込んでやるにゃっ!」

 「私もっ!。さっきみたいに尻尾に弾かれたりしないから覚悟しなさいよ」


 リアの考えていた陣形は完全に整いすでに雑魚モンスターの対処は滞りなく進んでいた。フリーになったリア達が再び攻撃を仕掛けようとしたのだが、その直後セイナと睨みあっていたアイアンメイル・バッファローは痺れを切らしたように動きだすのだった……。


 “……モオォォォォォォッ!”

 “ドドドドドドドッ!”


 「……っ!。ついに動き出したが。どうやらリア達が自由になったのを見てこれ以上はジッとしていられないと判断したか……。だがやはり私からはターゲットを離すことができなかったようだな。NPCの嵯峨とはいえこちらも遠慮はしていられん。利用できるテクニックは全て利用させてもらうぞっ!」


 こうしてアイアンメイル・バッファロー対ナギ達の戦闘の幕が下りた。序盤はナギ達が完全に陣形を整えることに成功したこともあり、プレイヤー側が少し有利に見えるかもしれない。しかしアイアンメイル・バッファローのHPはまだ5%も削ることができておらず、これから始まる相手の猛攻を凌ぎ切れるかどうかは誰も確信できていなかった。再び猛烈な勢いで突進してくるアイアンメイル・バッファローを前にセイナも心の中は不安で一杯だった。セイナは溢れ出る不安を押し止めるように剣を握る両手に力を込め、精一杯の気迫を振り絞って迫りくるアイアンメイル・バッファローを迎え撃とうとするのだった……。


 


 

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