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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第六章 集落の奪還っ!、VS盗賊団っ!
43/144

finding of a nation 40話

 無事マイと和解することができたナギ達は互いに自己紹介をしている最中だった。マイのような強力なキャラクターが仲間になった喜びから先程までほぼ敵対状態になっていたことは気にしていないようだった。


 「ふぅ……、なんとか仲直りできたみたいだな、お前等」

 「ええ、誰かさんがわざと仲間を連れてくるのを遅らせてくれたおかげでね。あなたがいないおかげで余計なトラブルが起きなくて助かったわ」

 「なんだ、気が付いてたのかよ。でも住民達をしっかりと護衛するのも重要だろ。まぁ確かに私がいたらもっと酷いいざこざになってただろうけど……。それよりマイって言ったっけ。なんか色々あったみたいだけど、これからよろしくね」

 「ええ、こちらこそよ……。あっ、まずはちゃんと自己紹介しようかしら。私の名前はグリマーイ・マロー、職業は魔弓術士よ。なんか長いし女の子っぽくない名前だから周りからはマイって呼んでもらってるわ。皆もそのままマイって呼んでね。さっきまでは変なことに拘っててごめんなさい。これからはあなた達と一緒にヴァルハラ国の為に全力戦って行こうと思ってるわ。自慢の弓で後方からどんどん援護するからよろしくね」


 どうやら少女の本名はグリマーイと言うらしいが、本人がその名前を気に入っていないこともあって周りからマイと呼ばれているようだ。職業はリアの言っていた通り魔弓術士で、総合レベルは312。レベルの内訳は弓術士が148、魔術師が92、魔弓術士が29、信仰者43となっているようだ。リアと共に幼い頃に習った魔術をマイは弓術に活かしていったようだ。因みに二人の魔法の先生はレイコで、自身はそれ程魔術師のレベルが高いわけではなかったがハールンの集めてきた魔術書を参考にリア達に独学で覚えさえていた。ヴァルハラ国に移住する前からハールンは作家を志しており、その過程で様々な本を集めるようになったようだ。そしてヴァルハラ国に移住すると同時に有名作家という設定に変わり、あの豪邸と膨大な本を貯蔵した書庫を手に入れたのだった。


 「うむっ、弓術士は詠唱が不要な分対応の早い援護が可能だ。これから頼りにさせてもらうぞ、マイ」

 「私も回復職の割には前衛で戦うことも多くなりそうじゃからマイちゃんにはお世話になりそうじゃね。あの光の矢なら敵がこっちに近づく前に全部仕留めてしまうと違うん」

 「にゃっ、そういえばあの矢のおかげで僕は危ないところを助けられたのにゃ。あの時はありがとうにゃ。気付いたら盗賊の頭が吹っ飛んでたからビックリしちゃったにゃ」

 「ふふっ、ごめんなさいね。狙える時はつい頭の狙っちゃう癖があるの。固有NPC兵士になったらヘッドショットボーナスなんかも入るからもっと癖になっちゃうかもね」

 「にゃ……。それは凄く怖い気がするにゃ……。マイが敵にならなくて本当に良かったにゃ」

 「本当ね。あんな風に頭を吹っ飛ばされたりなんかしたらたまんないわ。それより私達も自己紹介をしましょう。私は伊邪那美命。職業は武闘家よ。よろしくね」


 マイに続きナギ達も次々と自己紹介を済ませていった。マイは頭も良く働くようで、すぐにナギ達の職業について把握していった。リアと同じく生産性の高い行動を好むようで、その効率のいいプレイで的確にナギ達をサポートしてくれるだろう。


 「ふふっ。もうすっかりナギ達と打ち解けたみたいね、マイちゃん」

 「レ、レイコさん。はい、おかげさまでなんとか冷静さを取り戻すことができました。レイコさんにも大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 「いいのよ。私もマイちゃんの気持ちも考えずきついこと言っちゃったから。それにしてもやっぱりブリュンヒルデさんは凄いわね。あのマイちゃんをすんなり納得させちゃうんですもの」

 「はい……、私もブリュンヒルデさんの言葉には強い説得力を感じて色々考えさせられました。おかげでNPCとしての自分をより成長させることができました。本当にありがとうございます、ブリュンヒルデさん」

 「いえ、私に感謝する必要ありません。成長できたと感じたのならマイ自身の力によるものです。それより今は新たな仲間達との会話を楽しんでください」

 「はいっ!」


 マイがナギ達の仲間になれたことをブリュンヒルデとレイコも端末パネル越しに祝福していた。二人ともまだ用件が残っていたため通信は切っていないようだが、今はナギ達に気を遣って会話が終わるのを待っていた。


 「ほほっ、それにしてもマイちゃんもリアちゃんと負けず劣らずの別嬪さんじゃわい。こりゃわしも回復のしがいがあるのぅ」

 「ちょっと、言っとくけどマイにまで余計なちょっかい出したら私が許さないからね、このエロ爺ぃっ!。私はまだあんたのことだけは信用してないから。これならまだ塵童の方がマシよ、マシ。人質の姿を見たら盗賊達には手を出さなかったし、捕まった後も冷静に状況を判断して盗賊達から情報を引き出してたしね」

 「あっ、そういえば塵童さんも無事で良かったね。盗賊達に捕まった時はどうなるかと思ってたよ。でも捕まる前に盗賊達と戦闘になってた時はもの凄い戦いぶりだったね。僕ビックリしちゃった」

 「そうそうっ!、それで気になって調べてみたらあんた最初の討伐の時でも凄い成績残してたじゃない。討伐数が800近くあって順位も一桁台って相当なもんよ、あんた」

 「別に……。それくらい大したことねぇよ。序盤のモンスターなんて皆雑魚ばっかだったし、この盗賊達のステータスはお前等も知っての通りだろ。そういえばこいつらどうするんだ。このままずっと地面に這いつくばせとくのか」

 「塵童の言う通りよ。私のウインドプレス・バインドの効果もそろそろ切れちゃう頃だし……。あんなことになった以上こいつらまた私達に抵抗して住民を人質に取ろうとしてくるわよね。どうする、一応もう一回さっきの魔法こいつらに掛けとこうか?」

 「ま、待ってくれ。これだけ力の差を見せつけられたんだ。ちゃんと投降させてくれるんならもう抵抗はしねぇ。ちゃんとあんた達ヴァルハラ国の指示に従うからもうこの魔法を解いてくれ」

 「だって。どうするの、リア」


 シルフィーの束縛魔法で地面に這いつくばったままになっていた盗賊達だったが、どうやらその魔法の効果もそろそろ切れてしまうらしい。シルフィーはもう一度魔法を掛けなおそうか提案してきたが、盗賊達は必死に抵抗の意志がないことを訴えて魔法を解いてもらうとしていた。


 「どうするって……、こっちの都合で急に約束を覆そうとしたんだからもう私達のことなんて信用してないでしょう。全面的にこっちが悪いけど、流石にこうなっちゃうと拘束を解くわけにはいかないわよね。元々悪行を働いてこいつらも悪いんだし自業自得ってことでヴァルハラ国に連行するまできっちりと拘束させてもらいましょう」

 「そ、そんな……、本当にもう抵抗する気はねぇ。頼むから信じてくれ。こんな無様な格好をこれ以上続けてたらあまりの情けなさに気が参っちまう。せめて縄で縛るとかにしてくれ」

 「……そうね。シルフィーにずっと魔法を掛けさせておくわけにもいかないし、取り敢えず縄で縛っちゃいましょうか。あとは集落の人達に何処かこいつらを閉じ込められそうな建物を借りて……」

 「ちょっと待ってください、リア」

 「……へっ!。な、なんでしょう、ブリュンヒルデさん」


 ナギ達も盗賊達をこのまましておくわけにはいかず、リアは魔法ではなく縄で拘束し、集落の建物を借りて監禁しておくべきと判断した。だがその時リアは自身の端末パネルと通信が繋がっているブリュンヒルデに呼び止められてしまった。リアは少し驚いた表情でブリュンヒルデに返事を返していた。


 「この盗賊達についてですが、マイが仲間になったことによりもう命を奪う必要もなくなりました。なのでもうこちらで投降の承認を済ませてしまおうと思うのです。そうすればこの盗賊達は正式にヴァルハラ国の投降兵となり、ナギ達や住民達に対して攻撃ができなくなります。またゲームの仕様上彼らは一度ヴァルハラ国の本城へと帰還し一度正式な兵士にならなければ盗賊に戻ることはできません。その間彼らのヴァルハラ国のプレイヤーや善良なNPCへの攻撃は全て向こうになってしまうでしょう。ですから特に拘束する必要もありません」

 「なるほど、それなら逃げ出してもさして問題にはなりませんね。それにそういう条件があるなら彼らもヴァルハラ城に向かうしかないでしょう。でも投降の処理なんてこの場でできるんですか?」

 「ええ、女王である私と通信が繋がっている状態ならば可能です。後は特別な役職に就いたプレイヤーがその場にいても可能ですが、まだそれだけの役職を得るための功績を貯めたプレイヤーはいませんからね。それではその盗賊達のリーダーの方と話させてください」

 「はい」


 その後盗賊の頭と直接話すことで投降の意志を明確に確認し、ブリュンヒルデは盗賊達をヴァルハラ国の投降兵とする処理を完了した。ゲームのシステムによりNPCの行動はある程度制限できるようだ。そのおかげでナギ達に拘束される必要がなくなった盗賊達は地面に這いつくばった状態から自由に動けるようになり、腕を回すなりその場で飛び跳ねるなりして嬉しそうに自分の体の自由を確認していた。


 「どうやら逃げ出す心配もないみたいだね。思ったより根はいい盗賊達なのかも……」

 「まぁ、ここはゲームの世界だからね。あなた達の世界と違って本気で悪意や殺意を持った存在はいないわ。っというか電子世界のどこを探してもそんな感情を持った生命体はいないわ。もしそんな感情を持ってしまったらこの世界の本体の意志によってすぐに抹消されてしまうもの」

 「そ、それは怖いね……。(でもそれじゃあなんで僕達の世界にはそんな良くない意思や感情を持った生命体がいるんだろう。僕達の世界の神様はそういう存在も許してるってことなのかなぁ。デビにゃんはこのゲームが僕達が電子世界の仲間入りを果たすための試練だって言ってたけど、もしかして他の存在に良くない感情を持ったままじゃあ電子世界に移行できないってことなのかなぁ。だとしたらそれって結構大変なことな気が……)」

 「あっ、それよりさぁ。さっきリアが話してた鉱山へ向かうって話はどうなったの。確かその鉱山の周囲に強力な猛牛型のモンスターが現れてこの盗賊達はここに追われてきたんでしょ。もうこいつらもその鉱山をアジトにする必要はないでしょうし、早くそのモンスターを倒して私達のものにしちゃいましょうよ」

 「むっ……、そういえば先程レイチェルがそのようなこと言っていたな。あまり詳しく聞いていないのだが、一体どんなモンスターが相手なのだ」


 盗賊達に対する処置が終わるとナミが鉱山に現れたという猛牛型のモンスターについて話し出した。この盗賊達はそのモンスターのおかげでアジトにしていた鉱山を追われてしまい、その鉱山を取り戻す為にこの集落の若者達を訓練していたのだが、ヴァルハラ国の投降兵となった今その目的は失われた。ナギ達も無理にそのモンスターと戦う必要はなかったのだが、その鉱山から貴重な鉱物を取れると聞いたリアやナミ、レイチェルは鉱山を取り戻そうと挑む気が満々ようだった。詳細な話を聞かされていなかったセイナもそのモンスターのことは気になるようで、セイナのことだろうから経験値を稼ぐためにも是が非でも挑もうとするだろう。だがナミ達がその話で盛り上がろうとした頃ナギの端末パネルからレイコの怒りの篭った声が聞こえてくるのだった。


 「ちょっとあなた達っ!。その話は私もナギから聞かせてもらったわ。言っとくけどそんな無茶な真似私は許さないわよ。私の依頼は集落の無事を確認することだったんだからもう目的は達成してるでしょ。ちゃんと皆に報酬を上げるから早くヴァルハラ国まで帰ってらっしゃい」

 「でも母さん。そんな危険なモンスターなら早く討伐しておいた方がいいわ。城の外にもどんどん施設を作って領土を拡大していった方がいいし。それに私達なら心配要らないわよ。そんなモンスターなんて私の魔法でイチコロ……」

 「ふざけたこと言うんじゃないのっ、リアっ!」

 「ひっ……」


 盗賊達の話ていたモンスターを倒そうと意気揚々としていたナミ達だったが、レイコからは厳しい口調で無茶は避けるよう止められてしまった。そしてリアが反論しようとすると更に強い口調で怒鳴り散らしてきた。母からの厳しい言葉に以外にもリアは肩を竦めて怯んでしまっていた。NPCとしてのランクやステータスはリアの方が高いだろうが、やはりこの世界でも子供は中々親に歯向かうことができないらしい。レイコはそのままリアに向かって説教を続けた。


 「リア。あなた固有NPC兵士になったからって調子に乗りすぎよ。ナギ達をそんな危険な目に合わせるような真似母さんは許しませんからね。いいからあなたも一度家に帰っていらっしゃい」

 「で、でも母さん。もし野放しにしておいてヴァルハラ城の近くまで来たら……」

 「いくら強力なモンスターでも何万人ものプレイヤーが待ち受けてる城にまで来る奴はいないわよ。それにもうそのモンスターの討伐願いはヴァルハラ国に直接出してあるからブリュンヒルデさんが部隊を編成してくれるわ。あなた達もそいつを倒したいのなら討伐隊に志願しなさい。その方がいいですよね、ブリュンヒルデさん」

 「ええ……、その話ならすでに私の元にも伝わっています。ただまだほとんどプレイヤーがゲームに慣れていないため、本格的に討伐隊を編成するとなると1か月後ぐらいになると思います。下手に部隊を送って全滅してしまっても困りますし……」

 「1か月っていうとちょうど僕達の世界で1日分だよね。今日はもうヴァルハラ国に帰って一度ログアウトしてもいいんじゃないかな。次にログインする時にはもう1か月ぐらい経ってるだろうし……」

 「冗談言わないでよっ!。あんた達と違って私はずっとゲームの中にいるのよ。一々プレイヤー達に合わせててそんなに待たされるなんて真っ平御免よ。お願いします、ブリュンヒルデさん。私達をこのまま行かせてください。なんなら私一人でも構いません」

 

 レイコはヴァルハラ国に直接その猛牛型のモンスターの討伐依頼を出したようだが、まだゲームが始まって間もないためすぐに討伐隊を編成するのは難しいらしい。ブリュンヒルデとしても今は一体のモンスターの討伐より城の周囲の探索と城内の内政に力を注ぎたいのだろう。討伐隊を出すのは鍛冶や錬金術の内政が充実し各プレイヤー達に標準的な武器や消費アイテムを支給できるようになってからになるだろう。だがその話を聞いたリアは急に強い口調に代わりレイコどころかブリュンヒルデに対してすら反論しだした。自分一人でもそのモンスターのところに向かうつもりのようだが、冷静なリアにしてはかなり無謀と思える行動である。当然レイコは怒りを露わにして再びリアに怒鳴り散らしてきた。


 「ちょっとリアっ!。これ以上ブリュンヒルデさんを困らせるようなこと言うんじゃありません。あなた達だけで向かって行って全滅でもしたらどうするの。例え僅かなペナルティでもヴァルハラ国にとっては大きな損失なのよ。特にナギやナミちゃん達みたいな優秀なプレイヤーの躍進を妨げてどうするの。場合によって他のプレイヤー達に大きく遅れを取ってヴァルハラ国に取って重要な地位に就けなくなるかもしれないのよ」

 「それを言うなら母さん。ここで尻尾を撒いて逃げ帰った方がナギ達の躍進を妨げることになると思うわ。皆ができないことをやってのけてこそ優秀なプレイヤーでしょ。それに例え私達が敗北したとしてもそのモンスターについての詳しいデータは得られるはずでしょ。そうすればブリュンヒルデさんも討伐隊の編成もやり易くなるだろうし、より多くのプレイヤーの死亡を防げるようになるわ」

 「ぐっ……、やっぱり私の娘だけあって口は達者ね。でも何を言っても無駄よ。私は絶対許しませんからね。母さんはあなた達のことを心配して言ってるのよ」

 「あら、ナギ達のことを優秀なプレイヤーだと思ってるなら心配なんてする必要ないんじゃない。それに決めるのは母さんじゃなくてブリュンヒルデさんなんじゃないの」

 「そ、それは……、確かにその通りかもしれないけど。いくらなんでもこんな無謀なこと承認するはずないわ。ねぇ、ブリュンヒルデさん」


 なんとか鉱山周辺に巣食うモンスターを討伐しようと食い下がってくるリアに押され、レイコはブリュンヒルデに助けを求めた。だがブリュンヒルデから返って来た言葉はレイコが望んでいたこと正反対のものだった。


 「いえ……。実は私もリア達任せてみてもいいと思っているのです、レイコ」

 「ええっ!。そんな無茶ですよ。確かに家の娘のリアはNPCであるため最初からかなりの高レベルに設定されてますが、ナギ達プレイヤーはまだほとんど初期状態のステータスのままですよ。私もそのモンスターの正確なデータを持っているわけではありませんが、街に伝わってきた情報を聞く限り今のナギ達に勝ち目があるとは思えません。私から見てもナギ達は皆優秀なプレイヤーです。ここで余計なペナルティを与えてしまっては今後のナギ達の成長に関わります」

 「その点は私も同意見です、レイコ。特にナギとナミ、そしてセイナはヴァルハラ国に取って貴重な人材になるだろうと私も判断しています」

 「(うん?、セイナ……、それからナミはともかくとしてどうしてナギまでブリュンヒルデさんの注目を浴びてんだ。まぁ、私もヴァイオレット・ウィンドを作ってもらった時からナギはやる奴だと思ってたけど……。やっぱり人の上に立つ人物ってのは他の奴ら特別際立っていなくても優秀なプレイヤーっての分かるもんなのかな)」


 レイチェルは不思議に思っていたが何故かブリュンヒルデもナギのことを買っているようだった。ならば何故見す見すナギ達を危険なモンスターのところへと向かわせるのだろうか。続いてブリュンヒルデはその説明をした。


 「ですがだからこそ逸早く功績を得てこの国の重要なポジションに就いてほしいのです。もしこの場から城へと逃げ帰ってくるようでは普通のプレイヤーと変わりありません。その後で他のプレイヤー達とそのモンスターを倒してもです。ですからこの場はナギ達に懸けてみましょう」

 「そ、そんな……」

 「決まりね。心配しなくても危険と判断したらすぐ逃げ帰ってくるわ。本格的に戦闘が始まったらどうなるか分からないけどね」

 「お願いします、リア。そのモンスターについてのデータを持ち帰るだけでもかなりの功績になります。最悪敵に分析魔法掛けるだけでも構いません。それだけならば敵も深くは追撃してこないでしょう」

 「分かりました。それじゃあ母さんもそれでいいわね」

 「ブリュンヒルデさんにそう言われちゃあね。でもあんまり無茶しないようね。それとナギ達のステータスはまだまだあなたに及ばないことを忘れないでね。ゲームの知識もあなたの方が豊富な筈だし、ちゃんとナギ達を先導してあげるのよ」

 

 ブリュンヒルデに賛成の態度を取られては流石のレイコもリア達のモンスター討伐を認めるしかなかった。ブリュンヒルデはナギ達にゲーム内での功績を溜めて、逸早くヴァルハラ国の優良プレイヤーとして台頭してほしかったようだ。仮に討伐に失敗したとしてもそのモンスターのデータを持ちかえればそれなりの功績ポイントは得られるが、ブリュンヒルデの内心はできれば無事討伐を完了して帰ってほしいと願っていたようだ。


 「分かってるわよ。でもまずはHPや疲労が全快するまでこの集落で休ませてもらいましょう。討伐に向かうのはそれからね。それと一応確認するけど、私とパーティを組んでた皆は付いてくるわよね。それで……、塵童、あなたはどうするの。私達一緒にそのモンスターのところに向かう?それともまた一人で放浪でもする」

 「放浪ってお前……。まぁ、そう言われても仕方ねぇけど。今回は俺も付いて行くよ。お前等にはまた助けられちまったようなもんだしな。もう一回借りを返すとするか」

 「OK。ならパーティは5・4に分けることにしましょうか。まぁ、このゲームで一々パーティなんて考える必要なんてないんだけど。一応あなた達の世界だと8人を標準にして行動するゲームが多いみたいだからね。そのぐらいの人数で纏まってるのが行動しやすいのかしら」


 どうやら塵童もナギ達に付いてくるようで、リアは8人だったパーティを塵童も加えて5・4に分けることにした。ナギとデビにゃんは別れることができないので二人で一人という計算だ。一つのパーティの定員が8人に設定されているのは現在ナギ達の世界でメジャーとされているMMORPGに合わせてのことである。ナギ達もそれくらいの人数で纏まった方が行動しやすいようだ。


 「それじゃあナギとデビにゃんはセットだから4人の方に回ってもらうとして、前衛には優秀なセイナが就いてもらおうかしら。残りは回復役にアイナ、それにボンじぃに就いてもらいましょうか。残りのメンバーは私と一緒ね。当然こっちは私は指揮を取るけど、折角かだからそっちのパーティの指揮はセイナにとってもらいましょう。役割は敵の注意を引き付けたセイナをなんとしても死なせないこと。セイナに正面から敵を迎え撃ってもらうわ。こっちはモンスターの側面と背後を囲って攻撃を仕掛けるから、頼んだわよ、セイナ」

 「了解だ。私は敵を引き付けつつ防御に専念すればいいのだな。HPや行動ポイントを温存するため攻撃にはほぼ参加できないだろうが、敵へのダメージソースは任せたぞ、リア、ナミ、レイチェル、そして塵童。馬子も4人のHP管理をするのは大変だろうがよろしく頼む」

 

 折角パーティを2つに分けたのでリアはそれぞれに役割を分担した。まずはナギ、セイナ、アイナ、ボンじぃ、デビにゃんのパーティ。このパーティはセイナを除いて敵モンスターからは距離を取り、前衛で敵を引き付けているセイナが死亡してしまわないように残りのメンバーがサポートに回るようだ。ボンじぃはセイナを重点的に、アイナは一応他のメンバーのHPにも気を配りながら回復するようだ。ナギとデビにゃんは敵ボスモンスターの周りに現れる通常モンスターの撃退を担当する。そしてナミ、リア、レイチェル、馬子、塵童のパーティはセイナに気を取られているモンスターの側面や背後に周りとにかくダメージを稼ぐのが仕事のようだ。レイチェルと塵童は状況によって雑魚モンスターの撃退も担当する。周りの回復役はメインは馬子だが、一応リアもある程度は回復魔法が使えるため場合によってはそちらのサポートに回るようだ。


 「へぇ、即席にしてはいいパーティができたじゃねぇか。やっぱりリアはこういう時頼りになるな」

 「残念だけどそうでもないわ。攻撃役に前衛が多すぎて広い視野で全体を見渡せる中・遠距離型の攻撃役や不足しているわ。一応私が魔法で戦えるけど、魔法は詠唱に集中力を割いてしまうから状況判断がしずらいのよね」

 「うむ、確かに状況を的確に見極め臨機応変に対応してくれるプレイヤーが必要だな。だが我々のメンバーは皆直接敵と対峙しなければならないものばかりだ。弓術士などの遠距離型の物理アタッカーが入ればよいのだが……」

 「あら、弓術士ならここにいるじゃない。仲間になったばかりだからって私はパーティーに入れてくれないの」

 「えっ……」


 パーティを2つに分け、それぞれの役割も決めたはいいが、ナギ達は遠距離アタッカーの不在に頭を悩ませていた。できれば魔術師だけでなく弓やボウガンなどで戦う物理アタッカーの方が好ましいようだ。そんなナギ達の前に先程仲間になったばかりであるマイが弓術士ならここいると名乗り出て来た。だがそんなマイに対しリアは声を荒げて怒りだしたのだった。


 「ちょっとマイっ!。なにふざけたこと言ってんのよっ!。あんたは私と違ってまだ固有NPC兵士に登録してないでしょ。一度ヴァルハラ国に戻って何か重要な役職に就けてもらわないともし死亡してしまってもリスポーンできないのよ」

 「そ、そうだよ。確かにマイさんが付いて来てくれたら心強いけど流石にそんなリスク犯せないよ。盗賊達の話だと凄い強力なモンスターみたいだし今の僕達じゃ守り切る自信はないよ」

 「そうそう。昨日のライノレックスとドラゴンラプター達との戦闘もギリギリの勝利だったし、下手したら全滅しちゃうかもしれないわ。この場で固有NPC兵士に登録できたらいいんだけど……。そんなことできませんよね、ブリュンヒルデさん」

 「ええ……、確かにヴァルハラ国の住民としてはマイもその集落の住民達も、そして盗賊達もすでに登録されています。ですが皆さんをNPCとして特別な役職に就かせるには一度ヴァルハラ城の事務まで来ていただかなければいけません。ですから私としてもマイにはまず城に戻って来ていただきたいのですが……」


 どうやらマイはまだ固有NPCとして登録できていないためリアのように死亡時にリスポーンがまだできないようだ。固有NPC兵士への登録は一度ヴァルハラ城に帰還しなければ行えないため、ブリュンヒルデやナギ達はマイに一度城に戻るよう勧めたのだが……。


 「そこをなんとかお願いします。さっきはナギ達に大変な迷惑を掛けてしまいました。そのお詫びをする為にも今ナギ達の力になりたいんです。私にはこのモンスターの討伐の成功の是非が今後のナギ達の行く末を大きく左右すると思うんです。絶対そのモンスターを倒してナギ達もヴァルハラ国も一気に躍進させましょうっ!」

 「……分かりました。そこまで言うのならば許可しましょう」

 「本当ですかっ!。やったぁっ!」

 「ちょっとブリュンヒルデさんっ!。いくらなんでもその命令には従えません。マイは安全に城に帰還するためにもここで私達の帰り待つか他のプレイヤーの向かえを待たせるべきです。ましてや私達の討伐に参加させるなど考えられません。もう一度再考をお願いします」

 「いえ、確かにそうすべきなのは分かっていますがこのゲームではNPCとはいえ私の命令に強制させることはできません。先程もそうでしたがマイはなにかと頑固なところがあるようです。その性格を考えるとここで私が止めても無理やりナギ達について行ってしまうでしょう。ならばナギ達と協力して無事モンスターの討伐を果たしてくれることを願うしかありません」

 

 意外にもブリュンヒルデはマイのナギ達への同行を許可する意向を示した。マイの性格上同行を止めるのは難しいと言っていたが、やはり本心ではナギ達にモンスターの討伐を果たしてほしいのだろう。固有NPC兵士になっていないとはいえマイの弓矢による援護あれば大分戦闘が楽になるはずだ。


 「流石ブリュンヒルデさん。もう私のことを理解してくれています。ヴァルハラ国に参加すると決まった以上逸早く皆の為に働きたいんです。ブリュンヒルデさんがこう言ってるんだからリアもナギ達もいいわよね?」

 「ぼ、僕達は別に構わないけど……、本当にいいの?」

 「こうなったら仕方無いわよ。こいつのことを説得しようと思ったらまたさっきみたいな押し問答を繰り返すことになるわよ。まぁ、モンスターを見て危険だと判断すれば討伐を止めればいいだけだし、取り敢えずそのモンスターを確認できるところまで行ってみましょう」

 「ありがとう、リアっ!。それじゃあ皆、仲間になっていきなりだけど私と一緒に戦ってね。絶対皆の役に立って見せるわ」

 「はいっ!。よろしくお願いします、マイさんっ!」

 「ほほっ、わしも早速マイちゃんと一緒に戦えて嬉しいのぅ。マイちゃんのHPはわしの治癒魔法でなんとしても守り通してみせるわい」

 「ちょっとっ!、あんたの役割はセイナのHPを死守することでしょっ!。敵を攻撃を受け持ってくれてるセイナがやられちゃったらモンスターの攻撃の矛先は一気に私やあんた達のところに向かうんだからね。それにマイは弓術士よ。離れたところからダメージを受けないように戦うのが基本なの。ある程度の回復魔法ならマイ自身が使えるしね。あんたに複数のメンバーのHPに気を配るなんて無理なんだから、セイナ以外のメンバーのことはアイナに任せときなさい」

 「うぅ……。言われんでもそれくらい分かっとるわい。相変わらず厳しのぅ、リアちゃんは……」

 

 こうしてマイもナギ達と共に討伐に参加することになった。パーティはナギ達の方に入り、全体を見渡しながらも主にセイナを中心にサポートするようだ。弓による援護もあればセイナも雑魚モンスターからの不意の一撃を受けることもないだろう。状況によってボスモンスターを攻撃しダメージも稼ぐ。ナギ達はマイの同行に不安を抱きながらも同時に頼もしさも感じていた。そしてモンスター討伐への同行を希望するのはマイだけではなかった。


 「まぁ、頼りなる戦力が増えて良かったじゃねぇか。これででっかい牛って奴のモンスターだって倒せるぜ、きっと」

 「あんまり無責任なこと言わないでよ、レイチェル。昨日リアも言ってたけど、このゲームは通常でも百人規模の戦闘が起こるかもしれないのよ。またライノレックス、それどころかヴォルケーノ・レックスみたいな奴が出てきたらどうするのよ。私達のパーティって個々の能力は割と高い気はするけど、この少ない人数じゃあ全滅する可能性だって十分あるのよ。そんなところにマイを連れて行くんだからちょっとは責任感じなさいよ」

 「確かにそうだな……。昨日もドラゴンラプターの群れに割と苦戦してたし、誰か大量のプレイヤーが増援にでも来てくれねぇかなぁ」

 「プレイヤーじゃねぇが大量の人員ならここにるぜ、嬢ちゃん」

 「へっ……」


 ナミとレイチェルは昨日のライノレックスやドラゴンラプター、そしてヴォルケーノ・レックスとの戦いを思い出して少しばかり不安を感じていた。だがそんな時これまたついさっきヴァルハラ国に投降したばかりの盗賊達の頭が声を掛けてきた。


 「へっ、俺達だって一応もうヴァルハラ国の一員なんだ。盗賊やってた頃の汚名を返上するためにも早めに功績を立てとかないとな。でないと一生下っ端で終わっちまう。俺達はその嬢ちゃんみたいにそんな貴重なキャラクターでもないから惜しむ心配もないだろう」

 「確かにマイに比べれば死んでも全然惜しくはないけど、あなた達のリスポーンホストの能力は中々魅力的なのよね。お頭のあなたさえNPC兵士に登録することができればこの下っ端達もこのゲームから除外されることはないわけだし……。あなた達のステータスだともっとレベル上げないと志願することすらできないでしょうしね」

 「おいおい、本当に俺達ことなんて惜しくもなんともないみたいだな。その爺さんの言う通り性格のきつい姉さんだぜ」

 「あんた達のせいであんな面倒なことになってたんだから当然でしょ。それと姉さんって言うのはやめろって言ってるでしょ。呼び捨てで構わないからリアって呼びなさいよ」

 「はいはい……。ってことでブリュンヒルデさん。俺達も同行しても構わねぇですよね」

 「ええ……。ですが先程まで悪人であったとはいえあなた達も今はヴァルハラ国の大事な住民です。どうか無理をせず生きて帰って来てくださいね」

 「大丈夫ですよ。俺さえ生きてればこいつらは何度でもリスポーンできるんで俺は離れた所からナギ達の戦いを見守っています。万が一敵がこっちに向かって来たら俺はもうスピードで逃げ出します」

 「なっ……、お頭ぁっ!。それって俺達だけあの怪物モンスターと戦えってことですかっ!。俺は嫌ですよ。いくら何度でもリスポーンできるって言ってもやられる時はそれなりに痛いんだ。さっきもこいつらに散々やられたばかりだってのにまた死にまくらないといけないなんて……」

 「仕方ねぇよ。ヴァルハラ国の兵士になったとはいえ元は悪人なんだ。お頭の言う通り早く功績を立てないと一生下働きだぞ。いいから黙ってお頭について行くぞ」


 こうしてマイだけでなく盗賊達もナギ達に同行することになった。一人一人のステータスは低いが50人もの下っ端も付いてくるのは非常に心強い。しかもお頭である男が死なない限り物凄い間隔でリスポーンし続けることができる。モンスター討伐に向かうメンバーと役割が決まったナギ達はブリュンヒルデ、そしてレイコとの通信を終えた。そんな中通信を切った後のリアの顔を不服そうに睨みつけている一人の女性の姿があった。


 「さて……、それじゃあ1時間ぐらいまた自由行動にしましょうか。皆集落の適当なところで休ませてもらいなさい」

 「あの……、リアさん……」

 「んん?、どうしたの、アイナ」

 「私の召喚したシルフィーはどうすればいいんでしょうか。さっきから物凄い形相でリアさんの方睨んでるんですけど……」

 「えっ……」


 怖い表情でリアのことを睨む付けているのはアイナの召喚した精霊のシルフィーだった。どうやら盗賊達には役割を分担したのに自分には何の指示もなかったことが不服のようだ。


 「“えっ”じゃないわよ、リアっ!。マイはともかく私を差し置いてこの盗賊達の役割を先に決めるなんてどういうことよっ!。それとも私はもう精霊界へ帰れってことかしら」

 「そんなこと言ってないでしょ。でもそうね。アイナの召喚した精霊なんだからアイナの指示に従ってもらえばいいって思ってたけど、どうせならきちんと役割に就いてもらった方がいいわね」

 「そうよそうよ。私だってデビにゃんと同じように一人の戦力として扱ってもらいたいわ。私はアイナの付属じゃないんだからね。あっ、勿論アイナがそんな風に考えてるなんて思ってないわよ」

 「分かっています、シルフィー。私からもお願いします、リアさん。私も戦闘中にシルフィーに指示を出す余裕はありません。きちんと役割を分担して行動してもらった方が効率もいいです」

 「そうね……。ならちょっと難しいかもしれないけど、シルフィーには直接セイナのサポートについてもらいましょうか」

 「直接……、ですか……」


 リアはシルフィーもプレイヤー達と同等の戦力であると思い直し、ナギ達と同じように戦闘においての役割を分担した。だがその内容は直接セイナに付くというこれだけでは意味の理解しがたいものだった。自身の召喚した精霊であるシルフィーの身を案じるアイナは少し不安そうにリアの顔を見つめていた。


 「不安そうな顔してるわね、アイナ。あなたの予想通り少し危険な役割になるけど、小さい体と飛行能力を活かして文字通りセイナの横に貼り付いてもらおうと思ってるの。回復は勿論補助魔法を掛けたり攻撃魔法でセイナの周りに集まってくる雑魚モンスターを倒したり、セイナ専属の護衛って感じでお願いできるかしら」

 「OK。精霊の私にピッタリの仕事じゃない。アイナの本のおかげで風属性のバリアなんかも張れるようになってくるから必ずセイナを守って見せるわ」

 「うむ。よろしく頼むぞ、シルフィー」

 「ええ、任せといて」

 「でも大丈夫ですか……、シルフィー。セイナさんの護衛に付くと言うことはシルフィー自身もボスモンスターの攻撃を正面から受けることになるんですよ。もし一撃でも食らったら今のシルフィーのHPじゃ……」

 「大丈夫よ、アイナ。あんまり心配しないで。アイナの本のおかげで強くなってるって言ったでしょ。体が小さくてすばしっこい私なら敵の攻撃なんてそうそう当たらないわ。仮に食らってしまっても一発ぐらいなら耐えられるだろうし、その時は急いで私のことを回復してね、アイナ」

 「分かりました……。セイナさんのことよろしくお願いしますね、シルフィー」


 なんとシルフィーは文字通りセイナに貼り付いて戦うことなった。この場合シルフィー自身も敵のすぐ側まで接近し、攻撃も正面から受けることになるためかなり危険な役割だろう。だが体の小さく自由に宙を飛び回れるシルフィーならばモンスターと戦っているセイナの邪魔にもならず、精霊特有の補助魔法で的確にセイナをサポートできるだろう。アイナもシルフィーの身を心配していたが、リアの判断は適切だと判断しセイナの護衛に付くことを認めていた。こうして皆の役割を決め終わったナギ達は1時間ほどの自由行動に入り、皆集落の好きな場所へと散って行った。


 「ふぅ……、なんとか一息つけたね、デビにゃん」

 「本当にゃ。城を出てからというもの激戦続きで僕疲れちゃったにゃ。でもナギ達が頼もしいおかげで無事ここまで辿り着くことができたにゃ。ナミやセイナ達も物凄い強くて僕ビックリしちゃったにゃ」

 「何言ってるだよ。デビにゃんだって皆に負けないぐらい活躍してたじゃないか。こんな頼もしいモンスターを仲間をできても僕も嬉し……ってんん?。誰かこっちに近づいてくるぞ。あれは……、確かコルンだっけ」


 皆の別れた後ナギとデビにゃんは集落の建物のさんに座って休んでいた。ナギとデビにゃんは主人と仲間モンスター同士これまでの活躍を讃え合っていた。するとそこに先程盗賊達に人質に取られていた少年、コルンが近づいて来た。真っ直ぐにナギの方へと向かって来ていたが、一体何のようなのだろうか……。


 「あのぅ……、確かナギ兄ちゃんって言ったよね」

 「うん、そうだよ。本名は伊邪那岐命だけどね。そういう君はコルンだよね。さっきは僕達が酷いこと言ってごめんね。もう僕達や盗賊達のこと怒ってない?」

 「ナギ兄ちゃん達のことはもう怒ってないよ。あの盗賊達のことはまだ許せないし、ヴァルハラ国の兵士になるってことも納得できないけど、少なくともナギ兄ちゃん達のことは信用できるって思ったからもう文句を言うつもりはないよ。それより今はナギ兄ちゃんに渡したい物があって来たんだ」

 「渡したい物……?」

 「うん、それは昔父さんが使ってた倉庫にあるんだ。取り敢えず見てほしいからちょっと付いて来てよ」

 “ダダダダダダッ……”

 「あっ、ちょっと待ってよコルン。……渡したい物って一体なんだろう」

 「分かんないにゃ。でも取り敢えずついて行ってみるにゃ、ナギ」

 「そうだね……。じゃあ行ってみようか」


 ナギとデビにゃんの元に来たコルンは自らナギ達に話し掛けてきた。先程の盗賊達の件にはまだ納得出来ていないものの、ナギ達やヴァルハラ国については一定の理解を示していたようだ。コルンはナギ達に渡したい物があって話掛けてきたらしい。父親の使っていた倉庫にそれはあるそうで、ナギとデビにゃんはコルンに連れられてその倉庫へと向かって行った。一方その頃他のメンバーはというと、セイナは建物の日陰で端末パネルを開き、また自身のスキルとステータスについて念入りに確認していた。セイナの強さの裏側には才能だけでなく決して努力を怠らない生真面目さがあったようだ。ナミやレイチェルがセイナに及ばないのはこの辺りが影響しているのだろうか。そのレイチェルはというと馬子とアイナ、そしてシルフィーと共に集落にある小さな錬金術店に来ていた。ヴァルハラ城にある店と比べると品揃えはかなり悪かったが、それでも基本となる回復アイテムは全て揃っていた。心配性の馬子はここでも更にアイテムを買い足していた。ただでさえヴァルハラ城での買い物の時人一倍アイテムを買っていたにも関わらずにだ。ボンじぃは酋長の屋敷でお茶をご馳走になっていた。マイはというとその横で酋長と今後のことについて話ていた。酋長もマイの固有NPC兵士になることを喜んでいたが、リアと同じくこれから行くモンスターの討伐については心配しているようだった。そしてリアとナミは二人は集落にある食堂のようなところで軽い食事を取っていた。


 「う〜ん、美味しいわね、ここの肉料理」

 「恐らくマイが狩りで仕入れた物を提供してるんでしょう。強いモンスターの肉程美味しい物が多いからね。マイ以外じゃそんなの倒せないでしょうし、街との物流もまだないでしょうしね」

 

 食堂で食事を取っていると言ってもナミとリアは建物の外にいた。どうやらこの食堂は調理場こそしっかりと屋根のある建物の中にあるものの、客用のテーブルは全て屋外に設置されているようだ。一応テーブルには日除け雨避け用の傘のような物が付けられていて、よく遊園地やショッピングモールの広場などにある出店の密集地帯のようだった。かなり簡素な作りだったが、この小さな集落には食べ物屋はここにしかなく、集落の者達もよく利用していたようだ。誰かの店というわけではなく集落の者皆で運営しているようで、料金も集落の者からは取っていなかった。ナミとリアも盗賊達から集落を楽観したお礼として料金を払わずに済んだようだ。食事場だというのにセイナの姿がなかったが、どうやら敵モンスターが非常に強力だという情報を聞いてそれどころではなかったようだ。きっと自身のスキルを確認しながら戦闘のイメージトレーニングをしているのだろう。


 「そっか……。確か交易って言うんだっけ。シミュレーションゲームだと物の流通を繋ぐこと。それって凄い重要なことなんでしょ」

 「そうよ。その物流を繋ぐためのルートを交易路って言うんだけど、自国の経済の発展には発展には欠かせないわ。早くこの辺りにも兵を派遣して安全な拠点を作って道を繋がないとね。そうすればヴァルハラ国と物の流通が起こってどんどん国の収入が上がって行くわ。新たな物資が手に入ったことにより店の品揃えも増えるし、裕福層が増えることで住民一人一人の質も上がって行くわ。優秀な学者や技術者を生み出すのにも貢献してくれるわね」

 「うぅ……、話がややこし過ぎて途中から分け分かんなかったわ。やっぱり私って内政が不向きみたいね」


 ナミはリアからシミュレーションゲームにおける交易の話を聞いていた。交易とは物品と物品、またはお金と物品を交換したりすることで、交易路とは文字通りその交易を行うための手段やルートのことを意味する。ナギ達の世界では飛行機や貨物船、貨物列車や輸送車など様々な方法があるが、このゲームの世界では基本的には陸路のみとなるだろう。場合によっては飛行能力を持ったモンスターなどに空輸などもあるかも知れないが、かなり終盤になってからとなるだろう。魔法による物資の転送も可能になる場合もある。

 

 「心配しなくても内政の大まかな部分はブリュンヒルデさんが指示をだしてくれるわ。私達はただ住民達と一緒に働いてるだけで大丈夫よ。一昨日母さん達と働いたみたいにね」

 「そうなの。それなら私でも大丈夫そうね。指示に従ってさえいれば皆の迷惑にもならなそうだし。でもやっぱりリアって頼りになるわね。私昨日からリアのこと尊敬しっぱなしよ」

 「何よ……、急に。そんなこと言われると恥ずかしいでしょ。私はただゲームのキャラクターとしての役目を果たしてるだけよ」

 「それが凄いって思うのよ。私今まで結構な数のゲームをプレイしてきたけど、その中には親や学校の先生なんかよりよっぽど尊敬してるキャラクターが一杯いるんだ。父さんや母さんにはちょっと悪いんだけど……。それでリアはそのキャラクター達の中でも飛び切り尊敬できる存在ってわけ。レイコさんもそうだけどこのゲームに登場するキャラクターって本当に魅力的ね。私現実世界ではリアみたいに知的なクールな女性になろうって思ってるの」

 「あら、そう。私が知的でクールかどうかは知らないけど、ゲームのキャラクターに憧れてくれるのはNPCとしては嬉しいわ。なら次の戦いも協力して一緒に頑張りましょう」

 「うんっ!。でっかい牛のモンスターだかなんだか知らないけど絶対やっつけてやるわっ!」

 「ふふっ、その意気よ」


 意外にもリアはナミとの食事と会話が楽しいようだった。初めてレイコの家で会った時から比べると考えられないくらいである。ナミもナミでリアのことをNPCとして尊敬しているらしく、その純粋な好意にリアもプレイヤーへの嫌悪が薄れていったのかもしれない。ナミとリアはその後も好物であるクッキーバニラのソフトクリームを食べながら会話を楽しんでいた。その微笑ましい姿はまるで親友のようだった……。

挿絵(By みてみん)

 




 「ナギ兄ちゃ〜ん、こっちだよ〜」

 「う〜ん、今行くよ〜。……渡したい物って一体なんだろうね、デビにゃん。ところでなんで僕なんだろう」

 「それはきっとナギのNPCを思う純粋な思いがコルンにも伝わったのにゃ。マイを仲間にできたのは間違いなくナギの説得も影響しているのにゃ。そして貰えるアイテムもきっと凄いアイテムにゃ。これは期待できるにゃよ、ナギ」

 「本当っ!。それは楽しみだね」


 その頃コルンに呼び出されたナギはデビにゃんと共にコルンの父親が使っていた倉庫へと来ていた。デビにゃんは貴重なアイテムだと言っていたがコルンの渡したい物とは一体何なのだろうか。ナギ達は少し緊張した面持ちへコルンの待つ倉庫の中へと入って行った。これから向かう討伐に役立つアイテムだといいのだが……。

 

 

 

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