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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第六章 集落の奪還っ!、VS盗賊団っ!
42/144

finding of a nation 39話

「ええ〜〜〜っ!、ガキだけじゃなくてあの女ともそんないざこざになってたのかよ〜。まぁ、強い奴ほど仲間になりにくいのがRPGのセオリーだけどな。(……いや〜、それにしてもセイナ達を迎えに言ってて良かったぜ。私がいたらあの女とまた喧嘩になって話を余計ややこしくしてただろうしな。まだ話も纏まってないみたいだし、私は大人しくしとこうっと)」

 「酋長っ!」

 「おお〜〜っ!、マイや。戻って来てくれたようじゃな。お主が狩りに出てくれていて良かった。ヴァルハラ国のプレイヤー達と一緒に盗賊達と戦ってくれたようじゃな。じゃが……、なにやら複雑な状況に陥っているようじゃのぅ……」

 「はい、酋長。ヴァルハラ国の兵士達、そして女王であるブリュンヒルデは盗賊達を生かして自国の戦力として取り込もうとしています。私達はこの集落を襲い、コルンの父親の命を奪った盗賊達を決して許すべきではありません。この場で処刑することをヴァルハラ国に対して要求すべきです」


 ナギ達から状況を聞いた住民達の元に少女は駆け寄って行った。そしてこの集落の酋長であると思われる年配の女性に話し掛けると必死に自身の盗賊達へ対処に賛同を求めようとした。だが残念ながら酋長から出て来た言葉は少女の望んでいるものではなかった……。


 「マイ……、お主の気持ちは分かる。だがこの場は怒りを抑えてくれんか……」

 「なっ……、それはどういうことですか酋長っ!」

 「今避難先で話してたのじゃが、この集落の者はほぼ意見一致で皆ヴァルハラ国へ移住を申請することで決まったのじゃ」

 「なんですってっ!」

 「お前も気付いてるだろうがこの世界にプレイヤーを擁する12の大国ができて以来辺りのモンスター達が活性化しておる。今はヴァルハラ国の統治が広まるまで本城に身を寄せるのが得策じゃろう。なのでわしらとしてはヴァルハラ国に無理な要求をするわけにはいかんのじゃ」

 「何言ってるんですかっ!。モンスターなら私がこの集落へ近づけさせないようにします。こちらから大国に擦り寄るような真似をすることはありません。酋長もあろうお方が何弱気なことを言ってるんですかっ!」


 無情にも他に住民達は盗賊達の死刑に賛同するどころか自らヴァルハラ国に移住すると言い出した。少女もコルンが死刑に反対した時からなんとなく予想はしていただろうが、住民達の考えを受け入れることができず取り乱したように酋長の女性に異議を唱えていた。


 「これも皆の安全の為じゃ……。分かってくれ、マイ」

 「くっ……」

 「やっと観念したようね、マイ。あなたの言ってることも分からなくはないけど、今はヴァルハラ国に身を寄せた方がいいわ。何も私みたいに固有NPC兵士になんてなる必要ないし、ヴァルハラ国が気に入らないなら状況が落ち着いてから好きなところに移り住めばいいわ。今はまだ他の国の情報も何も入って来てないでしょ……、マイ……」


 住民達の意見を聞いたマイはガクッと肩を落としてしまった。流石にこうなっては無理に自分の意見を押し通すことなどできす、少女も盗賊達からは手を引くかに思われた。だがリアが少女を元気付けようと近づいて行ったとき、少女はまたもやリアに対して弓矢を構えたのだった……。


 「マイ、いい加減にして。あなた一人でこの集落を守り切れるほど今の世界は甘くはないわ。モンスターが強力になってるだけでなくこの盗賊達のような無法者も次々と出てくるのよ。住民達の為にも今は手を引きなさい」

 「その子の言う通りじゃ。わしらはお前のようにステータスもNPCとしてのランクは高くはない。このままでは強力になったモンスターに食われるか今回のように無法者たちに蹂躙されるかのどちらかじゃ。わしらの為にも今は盗賊達への怒りを鎮めてくれんか……」

 「嫌ですっ!。酋長も皆もヴァルハラ国に騙されています。最近誕生した大国は全てプレイヤーによって支配された国です。決して私達NPCのことなど考えた政治は行いません。そうやって仕方ないと言って弱者である私達NPCを虐げていくつもりなんです。私は例えこの場で死ぬことになろうと決してヴァルハラ国には服従しません」

 「マイ、これ以上は私も限界よ。そこまで覚悟ができてるならあなたには早々にこのゲームから退場してしまうことになるわ」

 「待ってください、リアっ!」


 再び弓矢を構えてきた少女に対しリアもスラッシュ・レイピアを取り出し臨戦態勢を取った。だがその時リアの後方に設置された端末パネルからブリュンヒルデの声が聞こえてきた。リアの端末パネルは自身から5メートル以上離れた場所にあった。自身から10メートル以内の範囲ならば好きな場所に固定できるようだ。ブリュンヒルデの制止に応じリアはスッと剣を下ろした。


 「ありがとうございます、リア。もう少しだけ私に彼女と話させてくれませんか」

 「……はい」


 リアが剣を下ろしたのを確認し、ブリュンヒルデは優しい口調で再び少女に話掛け始めた。


 「マイ、どうしてそこまでこの盗賊達の命を奪うことにこだわるのですか。少し嫌味な言い方ですが、私にはヴァルハラ国に対して嫌がらせをしているように思えるのです」

 「ええ、そうよ。そうやって言葉巧みに私達の自由を奪って行く……。そんな国に嫌がらせをするのは当然じゃない」

 「私にはあなたがそのようなことをする人物には思えません。一体何の為に私達に抵抗を続けているのですか。これ以上はもう不毛と分かっているでしょう」

 「この世界に住むNPC達の為よっ!。あなた達も知っての通りゲームに登場するほとんどのNPCのステータスはプレイヤーに遠く及ばないわ。皆心の底ではそのことに怯えてるのよ。そんないくら上辺だけプレイヤー達と対等に見せているだけで、実際は力で抑えつけてると同じじゃないっ!」

 「それは違うわっ、マイちゃんっ!」

 「レ、レイコさん……」

 「ごめんなさい、ナギ。私もマイちゃんと話がしたいから少し近づいてもらえないかしら」

 「う、うん……。分かったよ……」


 ブリュンヒルデとの会話に熱くなっている少女の元に今度はレイコが大きな声で叫び掛けてきた。ナギの端末パネル越しであったがレイコの声は集落中に響き渡り、少女やナギ達も突然の大声に驚いていた。どうやら端末パネル越しにこちらの会話もある程度レイコに聞こえていたようだ。レイコに指示されてナギも少女の元へ近寄って行った。


 「母さん……」

 「ごめんなさいね、リア。もう少し母さんにもマイちゃんと話をさせてくれる?。ブリュンヒルデさんも急に話に割り込んで申し訳ありません」

 「いえ、あなたもマイとは親しい間柄の様子。私の事は気にせずゆっくり話してください」

 「分かりました。じゃあマイちゃん、まずさっきあなたが言ってたことだけど、私達は別に力で抑えつけられてるなんて思ってないわ。さっきも言ったけど、私もリアも自分の意志でヴァルハラ国へ協力しているの。プレイヤー達のいる大国に身を寄せるしかないっていうのは確かよ。でもヴァルハラ国のプレイヤー達はNPCの弱みにつけ込んで支配するような真似はしないわ。大国に屈したからと言って、あなたが思ってるほど自由が奪われるわけじゃないのよ」

 「でも実際に今この集落の人達の自由が奪われてるじゃないですか。本当は皆この盗賊達を許せないはずです。だけど大国に擦り寄るしかない人達はヴァルハラ国の顔色を窺って自分の意見を言えないでいます。だったら皆のその気持ちを代弁するのがNPCとして力を持っている私の役目です。本来ならリアだって私のように……」

 「マイ……」

 「……いえ、リアのことはもういいんです。私は自分の信じる役目を全うするだけです。私は断固としてこの盗賊達の死刑を要求します。聞き入れられない場合は力尽くでも始末させて貰います……」

 「例え死ぬことになろうと……ですか」

 「ブ、ブリュンヒルデさん……」

 「……はい」

 「分かりました……、リア」

 「はい……」


 再び少女の説得を試みたレイコだったがその思いは届くことはなかった。少女は決してヴァルハラ国の決定に従うつもりはなく、例えリア達と戦うことになっても盗賊達の命を奪うつもりのようだ。少女の覚悟を理解したブリュンヒルデは真剣な面持ちでリアに声を掛けた。ブリュンヒルデの少女に投げかけた言葉にレイコが動揺している中、ブリュンヒルデの意志を理解したリアはそっと剣を少女に向けて構えた。それに答えるように少女も弓矢をリアに向かって構え、接近戦は不利だと判断したのか重心を後ろに寄せ戦闘が始めると同時に距離を取る算段を取っていた。もうリアと少女の戦闘は避けられないように思えた。


 「あわわわわわ……、とうとうこうなっちゃったよ。これって僕達はどうすればいいのかな……」

 「そんなのリアに加勢するしかないに決まってるでしょ。私達は同じヴァルハラ国の兵士なんだから」

 「そ、そんな……」

 「覚悟を決めるにゃ、ナギ。こうなったら最後、もうあの子を仲間にすることは諦めるにゃ。それより今は決してあの子の攻撃に当たらないよう意識を集中するのにゃ。あんなの食らったら僕達皆一撃で倒されちゃうのにゃ」


 リアと少女が互いに武器を構えたのを見てナミとデビにゃんもすぐに臨戦態勢に入った。ナギも動揺していたがデビにゃんに注意を促され戸惑いながらも戦闘に入る態勢を整えた。セイナとレイチェル、馬子と塵童もすぐに武器を構え、アイナとボンじぃ、そしてアイナに召喚されたシルフィーは距離を取って魔法を詠唱する準備に入っていた。そしてブリュンヒルデの口から少女への攻撃命令が下されようとしていた……。


 「リア、そして他のヴァルハラ国の兵士達に命じます……。速やかにこの盗賊達の頭を倒し、他の盗賊達も全滅させてしまいなさい」

 「よっしゃぁぁぁぁぁっ!。私は相手が強いほど燃えてくるんだぜ〜。リアの友達だろうと容赦しねぇから覚悟しろ……ってええぇぇぇぇぇっ!。い、今ブリュンヒルデさんなんて言ったっ!」

 「な、なんだ……。今確かに少女ではなく盗賊達を攻撃しろと聞こえたが……」

 「ど、どうなってるんです……一体」


 ブリュンヒルデの言葉が放たれると同時にレイチェルは少女へと斬り掛かろうとした。だがブリュンヒルデの言葉の対象が良そうと違うことに気付き、その場に大剣を地面に下ろし戸惑っていた。驚いたのはレイチェルだけでなくナギ達全員で、皆ブリュンヒルデの言葉の意図が理解できず困惑してしまい身動きが取れなくなってしまっていた。


 「ブ、ブリュンヒルデさんっ!、今の指示は一体……」

 「言葉の通りです、リア。今すぐその盗賊達を全滅させるのです」

 「ちょ、ちょっと待てよおい……。俺達を全滅させるだって……。さっきまで散々俺達の命は保証するってほざいてたじゃねぇかよっ!」

 「そ、そうだそうだっ!。それに俺達はもうヴァルハラ国に投降してるんだぜ。すでにNPCの評判ネットワークシステムを通してこの事実は世界中のNPCの潜在意識に伝わっている。いくら誤魔化そうともNPC達への悪影響は防げないぜ」

 「あいつらの言う通りです。これは一体どういうことですか……、姉さん……」

 「わ、私が知る分けないでしょ。それにいい加減姉さんって呼ぶのやめなさいよ。……それより一体どういうつもりですか、ブリュンヒルデさん。こいつらの味方をするつもりはありません。ですがこいつらの言う通りこの場で始末してしまえば確実にNPCへの評判に悪影……」

 「ちょっとどういうつもりよぉっ!、あんたっ!」

 「マ、マイ……」


 リアと盗賊達は必死にブリュンヒルデの指示に異議を申し立ていた。だがその時ナギ達との戦闘を覚悟をしていた少女もブリュンヒルデの突然の指示に納得できず怒りを露わにして迫って来た。そして端末パネル越しにブリュンヒルデに対し大声で怒鳴り散らしていた。


 「さっきまで散々私の意見を無視しといてこれは一体どういうことよっ!。あなた達はこの盗賊達を連行するつもりなんじゃなかったのっ!。さっき言ってた盗賊達を殺すことへの悪影響はどうなったのよっ!」

 「どうしたもこうしたもありません。私はあなたの要求を呑むことに決めました」

 「そ、そんな……どうして急に……」

 「この盗賊達をこの場で始末する代わりにマイ、あなたにヴァルハラ国の固有NPC兵士として参加してほしいのです」

 「なっ……!」

 

 なんとブリュンヒルデは突然先程までの発言を覆しただけでなく、この場で盗賊達を始末することを条件に少女にヴァルハラ国の固有NPCとして参加するよう要求してきた。当然少女は驚いていたが、リアはそれ以上に取り乱してしまいブリュンヒルデへと食って掛かっていった。


 「何言ってるですかっ!、ブリュンヒルデさんっ!。マイ以外の住民達は皆死刑に反対してるんですよ。それに何度も言いますが投降している相手の命を奪ってもヴァルハラ国の悪評が広がるだけです。もう一度考え直してくださいっ!」

 「私は考え直すつもりはありません、リア。もう一度言います。速やかにその盗賊達を排除してください」

 「くっ……」

 「ちょ、ちょっと待ってよ……。確かに私は盗賊達を始末するよう要求したけど、それを条件に固有NPC兵士になれだなんて……。一体どうしてそういう考えになったのか説明してよ」

 「私も納得がいきません。是非理由をお聞かせ下さい」


 突然のブリュンヒルデの発言に少女もリアも理由を問いただした。二人の真剣な表情を目の当たりにしたブリュンヒルデはゆっくりと口を開き、自身の発言の意図を話し出した。


 「理由も何もありません。私はただマイにヴァルハラ国の固有NPCになってほしいと思っただけなのです」

 「な、何を言って……」

 「つまりマイ一人の為に盗賊達の命を奪えってことですかっ!。その為にヴァルハラ国の悪評が広まっても構わないと……」

 「その通りです」

 「どうしてですかっ!。何故そこまでマイのことを……。お言葉ですがこの世界はあなた方の住む世界とは違いゲームの中です。悪人と思われるキャラクターの中にも優秀なNPCは数多くいます。ここで盗賊達を始末するとこれからそれらのNPCを引き入れることが非常に難しくなりますよ。逆に生かして連行したとしても労働や兵役の懲罰を与えれば一般のNPCからの評価もほとんど下がることありません」

 「分かっています。ですが私はマイのこれまでの態度を見て本気でこの世界のNPCのことを考えているのだと感じました。確かにヴァルハラ国の悪評が広まってしまうことや、この盗賊達を戦力として取り込むことが出来なくなってしまうことは残念ですが、マイを仲間に引き入れることにはそれらのデメリットを払拭ふっしょくする以上の価値があると私は判断しました。そのことはリア、幼い頃からマイと友人であったあなたには良く分かっているはずです」

 「そ、それは……」

 「………」


 ブリュンヒルデからの思い掛けない言葉に少女は声を失っていた。まさか自分の為に盗賊達の命を奪うことを選択するなど夢にも思っていなかったからだ。ブリュンヒルデはそれ程少女のことを評価したということだろうか。


 「マイ、私はあなたの強い意志を見て是非ヴァルハラ国の為に働いてほしいと感じました。あなたが臣下になってくれるのであればこの盗賊達が死のうとヴァルハラ国の悪評が広まろうと構いません。あなたならばきっとそれ以上の成果をヴァルハラ国にもたらしてくれると信じています。……もう一度言います、リア。これは命令です。今すぐその盗賊達を始末しなさい」

 「ひっ……」

 「くっ……。(一体どういつもりなのよ、ブリュンヒルデさんは……。本当にこのまま盗賊達を倒しちゃっていいの)」


 少し強い口調で言い放たれたブリュンヒルデの命令に盗賊達は顔を引きつらせて怯んでいた。だが命令を受けたリアは未だに動揺を抑えることができずその場で立ち竦んでいることしかできなかった。そんな時今度は要求を聞き入れられた少女の方がブリュンヒルデに異議を唱え出しすのだった。


 「ま、待ってください。私の事をそこまで評価してくれたことには感謝します。ですが私はまだヴァルハラ国を信用したわけではありません。盗賊達を始末したからと言って固有NPCになれというのは……」

 「そうですか……。でもこのまま盗賊達を生かしていてはあなたはリア達と戦うことになってしまうでしょう。……それならば固有NPC兵士になることもありません。ヴァルハラ国へも気に入らなければ無理に移住する必要もありません。ですが私はそれでもこの場であなたという人材を死なせることはしたくありません。この盗賊達はこの場で始末いたしますのでどうかあなたは無事この世界で生き延びてください」

 「そ、そんな……」

 

 自身の要求を聞き入れると言われた少女だったがいきなり固有NPC兵士になれというのは納得できなかった。だがそのことを抗議するとブリュンヒルデはすんなりとその条件も取り下げたのだ。そしてそれでもこの場で盗賊達の死刑は執行すると言いだしたのだった。


 「さぁ、リア。いつまでそうしているつもりですか。早く盗賊達の死刑を執行してください」

 「……分かりました」

 「マ、マジかよ……っ!。ま、不味いぞお前等っ!。こいつらは本気だ。本気であの女の為に俺達を皆殺しにするつもりだ」

 「ふ、ふざけやがってっ!。皆ぁっ!。急いでこの場から立ち去るぞっ!。ちょうど良く住民達も帰って来てる。人質でもなんでも取って構わないからなんとしても逃げ切るんだっ!。ただしお頭の命だけは守りきるんだぞ」


 ブリュンヒルデの強い意志に押されリアは躊躇しながらも下ろしていた剣を再び構えた。だがその剣の矛先を向けられた先は今度は少女ではなく盗賊達の頭である男だった。頭の男と下っ端の盗賊達は事態の急変に豪く動揺し、取り乱しながらも慌ててこの場から逃げようとした。


 「ふんっ、もうそんなことさせないんだから。こんな事もあろうかとすでに魔法の詠唱は完了しているわ。食らいなさいっ!。ウインドプレス・バインドぉぉぉぉっ!」

 「な、なんだぁっ!」

 “ビュオォーーーーーンっ!”

 「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


 ブリュンヒルデ、そしてリアの自分達に対する殺意が分かり盗賊達は一斉に逃げ出そうとした。だがその時念の為に魔法を発動させるための魔力を蓄えていたシルフィーがウィンドプレス・バインドという束縛系魔法を発動させたのだった。シルフィーがその魔法を発動させた瞬間盗賊達は急に地面に押しつぶされるように倒れ込んでしまった。まるで盗賊達の周りだけ強力な重力が発生しているようだった。


 「く、くそ……。急に上から凄っげぇ風が吹いてきたと思ったら一瞬にして押し潰されちまった。今も風が吹きつけてる感じがして全く立ち上がれねぇ……」

 「へへっ、どう、私のウィンドプレス・バインドの威力は。この魔法は範囲内に上空から地面に向かって物凄い突風を起こしてその風圧によって動きを封じる技なの。当然敵ユニットにしか効果はないわ。アイナの買ってくれた風の下級精霊強化書1のおかげなのよ。ちょっと強い相手だと風圧を物ともせず立ち上がっちゃうけどね」


 どうやらシルフィーの放った魔法は範囲型の風属性束縛魔法のようだ。範囲が広い分対象が一体だけであるウィンド・バインドより効果は低いが、複数の相手の動きを同時に止めることができるのが魅力的だ。この盗賊達はステータスが低いため頭を含め誰一人としてその風圧から立ち上がることはできなかった。


 「ナイスよ、シルフィー。それじゃあ残念だけど盗賊達には観念してもらいましょうか……」

 「凄いですシルフィーっ!。そんな魔法が使えるなんて……。古本屋で強化書を買っておいて正解でした」

 「本当、良い買い物をしてくれたわね、アイナ。強化書にはまだ色々種類があるから、お金に余裕ができたら買っておいてね」

 

 ナギ達は皆シルフィーの魔法に驚かされていた。なんせこの集落いた全ての盗賊達の動きを一気に封じてしまったのだ。盗賊達が抵抗を試みようとしていたためナギ達からしてみればかなり助かっただろう。また住民達を人質に取られては元も子もなかったはずだ。


 「あら、私としたことがごめんなさい。まだちゃんと盗賊達の動きを封じていなかったのですね。投降の意志を示したようですし仕方ないことでしょう。急に命令を変更してしまい申し訳ありません」

 「いえ、投降したからといって油断していた私達が悪いのです。念のため拘束しておくべきでした。では盗賊達の動きも封じた所で今から止めを刺してきます。……本当にこれでいいんですね?」

 「ええ、一思いにやってあげてください。確かに悪影響は避けられませんが、悪人に対して断固たる態度を取ることにはいい側面もあるはずです。今後はそれを活かした政策を執り行っていきましょう」

 「分かりました。……じゃあ皆、私が盗賊の頭に止めを刺すからあなた達は下っ端共を一人ずつ片付けていってちょうだい。言っとくけどこれはブリュンヒルデさんからの命令だからね。無抵抗の相手だからって躊躇しちゃ駄目よ」

 「わ、分かったよ……」


 ナギ達はシルフィーの魔法で地面に這いつくばっている盗賊達のところに向かって行った。そして盗賊の頭である男のところへと向かったリアは、男の首を串刺しにするように剣を突き立て、今にも止めを刺そうとしていたのだった……。


 「そ、そんな……。これは何かの間違いだろ……、姉さん……」

 「ええ、私もこんなことになるなんて思ってもなかったわ。でもごめんなさいね、これも命令なの。これだとヴァルハラ国は善政プレイに専念することになるかもね。もうあんた達悪人キャラと縁があることもないでしょう。……それじゃあ悪いけどこれでさよならよっ!」

 「ひぃぃぃぃぃっ!」

 「ちょ、ちょっと待ってリアっ!」

 “ピタッ……”

 「分かった、分かったわよっ!。もうあなた達に歯向かうのも止めるし、ちゃんとヴァルハラ国にも参加するからもう止めてよっ!」

 

 だがリアが盗賊の息の根を止めようとしたその時、後ろからこの盗賊達の死刑を要求した張本人である少女の叫び声が聞こえてきた。その叫び声に反応したリアは瞬時に振り下ろした剣を止め、剣先が盗賊の首に触れるギリギリのところでピタリと止めていた。


 「えっ……、どうしたんだろう急に……。これじゃあもう何がどうなってるのか分からないよ」

 「にゃ……。一体どうなるんだにゃ……」


 急激な事態の変化にナギとデビにゃんは理解が追いついていなかった。ナミやセイナ達、そして塵童もどうすればいいのか分からず、地面にうつ伏せになっている盗賊達の前に立ったまま身動きが取れなかった。ナギ達はただリアと少女、そしてブリュンヒルデの会話の行く末を見守るしかなかったのだった。


 「もう止めてってどういうこと、マイ……。盗賊達を処刑しろって言ってきた張本人はあなたなんじゃないの」

 「そ、そうだけど……、あなた達はこの盗賊を死刑にしたら凄いデメリットがあるし、盗賊達を生かした方が世界の為になると思ってるんでしょ。それなのに私の為に盗賊達の命を奪うなんてやめてよっ!」

 「マイ……」

 「それは違います、マイ。私はあなたの為に盗賊達の処刑を命じたのではありません」

 「……じゃあなんで始末しろなんて命令出したのよっ!。こいつら殺しちゃったらあなた達の国にデメリットがあるんじゃなかったのっ!。私の為じゃなかったら一体何の為なのよっ!」

 「それは……、このゲームに勝利する為です」

 「なっ……」


 会話の中でブリュンヒルデは先程ナギが少女に言ったのと同じ言葉を口にした。少女はナギが言い放った時と同じく怒りを露わにするのだった。


 「あなたもさっきの赤い髪の子と同じことを言うのね。その発言はNPCを見下してるってことに気付かないのっ!」

 「ですがマイ、我々プレイヤーに取ってゲームとは勝利を掴むためにプレイするものです。例え善良と思える判断をしていてもそれがゲームの勝利する為のものでないのならば、それはプレイヤーとして失格と言えるのではないでしょうか……」

 「な、なにが言いたいのよ……」

 「ゲームに勝利する為に渾然たる態度を取ること……、それこそがNPCに対して最も信頼を得ることに繋がるのではないでしょうか。そしてそれはこの世界を統一し、あなた方NPCに平穏な暮らしをもたらすことであると私は信じています」

 「うぅ……」

 「私はあなたの存在はこのゲームにおいてかなり大きな影響力をもたらすものと判断しました。ですからマイ、ゲームに勝利し、この世界に平和をもたらす為に力を貸してください。あなたにはこの盗賊達を犠牲にするだけの価値があるはずです」

 「そ、そんなこと言われたって……」


 ブリュンヒルデの真剣な表情と思いの篭った言葉に少女の心は揺れ動かされていた。あくまでゲームの勝利、この世界の統一の為に行動しているナギやブリュンヒルデ達に如何に自分が瑣末さまつなことに拘っていたが思い知らされていたのだ。そしてそんな自分を引き入れる為に盗賊達の命を犠牲にし、ヴァルハラ国への悪影響をも受け入れようとしていることに引け目を感じ、少女はどうしていいか分からず言葉をつまらせてしまっていた。


 「ふふっ、無理に答え出さなくていいのです。先程も言いましたがこの盗賊達の命を奪うことにあなたに何の条件も突きつけるつもりはありません。まだゲームは始まったばかりです。これから自分の成すべきことをゆっくりと考え、自分の思うままにこの世界の為に行動を起こしてください。その時に我々と共に歩めることになることを心から願っています」

 「そ、そんな……、私なんかのことをそこまで……」

 「そんなに気にする必要はありません。これは私が一人のプレイヤーとしてゲームに勝利する為に判断したことです。リア、これであなたも私の気持ちを分かってくれましたね」

 「はい、では今度こそこの盗賊達に止めを刺します……」

 「ち、ちくしょーーーーっ!」

 「ま、待ってっ!」


 ブリュンヒルデの考えを理解したリアは今度こそ盗賊達に止めを刺そうと再び剣を突き立てた。だがそれを見た少女に再び制止させられるのであった。


 「なによ、マイ……。まだ何か言いたいことがあるの……」

 「もういい、私が間違っていたわ。どうせならなんの犠牲もなしに目的を果たしたほうがあなた達もいいでしょう。だからその盗賊達を生かしてあげて」

 「えっ……、それじゃあ……」

 「ええ、もう盗賊達を殺せなんて言わないし、ちゃんとヴァルハラ国にも参加するわ。ナギって言ったけ……。さっきはごめんなさいね。私のこと必死に止めようとしてくれたのに酷いこと言って……」

 「ううん、僕達の方こそ無神経だったよ。マイさんの気持ちを全然理解できてなかった。それで……、固有NPC兵士にはなってくれるの?」

 「勿論そのつもりよ。でも……、本当にいいんですか、さっきまであんなに反抗的な態度を取っていた私が固有NPC兵士になって……」

 「勿論です、マイっ!。あなたが仲間になってくれることを非常に心強く思います。……ですが、こちらこそ本当にいいのですか。盗賊達を殺さずに連行して……」

 「はい、私はヴァルハラ国、何よりブリュンヒルデさんのことを誤解してました。あなたのゲームの勝利への信念、そしてこの世界の人々を思う気持ちが本当だと分かりました。それに比べて私ときたら小さなことばかりに拘ってしまって……、この世界に真の平和をもたらすにはあなたのような人物が必要だとやっと気付くことができました」

 「マイ……」


 リアが盗賊達に止め刺す寸前、ようやく少女にナギ達やブリュンヒルデの気持ちが通じたらしい。少女のナギ達する敵意は完全に消え、自らヴァルハラ国への傘下を要請してきた。勿論リアと同じく固有NPC兵士として……。少女は自分の今までの過ちを素直に謝罪し始めた。


 「先程までは失礼な態度を取って本当に申し訳ありませんでした。私ったら少し他のNPC達よりステータスが高いことに己惚れてしまって、自分一人で世界を守れる気になっていました。本当に世界のことを考えているなら逸早く自分が尽くすべき国を探すことに専念すべきでした。そうすればリアのようにすぐにヴァルハラ国がその国であることに気付けていたのに……。きっとプレイヤー達が自分達より優遇されていることに嫉妬してたんですね」

 「それは私も同じよ、マイ。でもこれはゲームなんだもの。プレイヤー達が優遇されるのは当然でしょ。なら私達は信頼できるプレイヤー達の為に全力で尽くす、それしかないって私も思ったの。まぁまだヴァルハラ国の全てのプレイヤー達を信用しているわけじゃないけどね」

 「ふふっ、でも今ここ来てるプレイヤーのことは信頼してるんでしょ」

 「えっ……、ま、まぁね。私達をただのプログラム扱いしないところは褒めてあげようかしら」

 「そうね。私もそう思うわ」

 「お〜い、お前等〜」

 「あっ、レイチェル達もこっちに来たみたいよ。折角だからちゃんと挨拶しときなさい、マイ」

 「ええ、これから共に戦う仲間だもんね」


 リアと少女が親しげに話している様子を見て残りのメンバーも駆け寄って来た。どうやらもう少女に敵意がないことに気付いたらしい。ナギ達もすでに少女、いやマイに対する敵意はなく、互いに自己紹介をしてナギ達とマイはすぐに打ち解けたようだった。その光景を端末パネル越しに見ていたブリュンヒルデ、そしてレイコは優しげな微笑みを浮かべてナギ達のことを見守っていた……。

挿絵(By みてみん)



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