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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第六章 集落の奪還っ!、VS盗賊団っ!
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finding of a nation 37話

 「一体なんのつもり……、マイ……」

 「それはこっちのセリフよ。あんたこそ勝手に盗賊達の処分を決めて……。ヴァルハラ国の兵士になって随分態度が偉くなったじゃないの、リア」



 リアは盗賊達を引き渡すためヴァルハラ国へと連絡を取ろうとしていた。だがその時突如先程盗賊達を次々と薙ぎ払っていた光の矢が光弾となってリアに向かって放たれてきた。ナギが咄嗟に放った言葉のおかげもあり、リアはなんとか反応して剣で光弾を振り払うことができた。光弾を放ったのは当然リアの知り合いと思われるオレンジ色の髪の少女である。旧友からの突然に攻撃にリアは動揺を隠せなかった。いきなり知り合いから攻撃を受けたのだから当然のことだが、一体何故その知り合いの少女はリアに攻撃を仕掛けたのだろうか。


 「なるほど……。どうやらあんたも私の盗賊達に対する処分に文句があるようね」

 「当たり前でしょ。その子の父親には私も良くしてもらってたの……。まさか私がいない間にここが盗賊に襲われるなんて思ってなかったわ。その盗賊達を許せないは当然だけど、何より許せないのはあんたのその態度よ」

 「なんですって……」


 リアとその少女は睨みあったままどんどん険悪なムードになっていった。


 「えっ……、なんであの二人急に険悪な雰囲気になってんの。確か知り合いって言ってたはずでしょ」

 「う、うん……。分かんないけど多分さっきのリアの子供に対する言葉が気に入らなかったんじゃないのかな……。結構威圧的な態度取ってたし、リア」

 「にゃぁ……。理由を聞こうにもこの緊張した空気の中じゃあとても話し掛けらいにゃ。まさかこのまま戦闘になっちゃったりしないなよにゃ……」

 

 その張り詰めた空気の中でナギ達は一体どういう状況なのか理解できずにいた。二人の緊張がピリピリと伝わっていき、ナギ達はリアとその少女に理由を聞こうにも話掛けることができなかった。


 「ヴァルハラ国の兵士になったからって偉く高慢な態度取るようになったじゃないの。それどころか固有NPC兵士にまでなって……。まさか大のプレイヤー嫌いだったあんたがその仲間を引き連れてこの集落にやってくるなんて思いもしなかったわ」

 「別に偉そうな態度なんて取ったつもりはないわ。私はヴァルハラ国の兵士として忠実に任務をこなしてるだけよ」

 「それが偉そうだって言ってんのよっ!。それじゃあなにっ!、私達は皆そのあんた達のいるヴァルハラ国の決定に従わないといけないわけ。冗談じゃないわっ!。言っとくけど私はヴァルハラ国なんかに移住するつもりはないから。あんたの指示にも従うつもりはないわ。分かったら今すぐそこを退きなさい。その頭の男を始末して残りの盗賊達も全滅させてもわうわ」


 オレンジ髪の少女はリアに向かって弓を構え、そこを退くように言った。リアの後ろに隠れている盗賊の頭を倒し、リスポーン・ホストを失った下っ端の盗賊達も全滅させてしまうつもりのようだ。


 「ひぃぃぃぃぃっ!。た、助けてくださいよ、姉さん」

 「誰が姉さんよ。分かってるからあんたは私の後ろに隠れてなさい」

 「……あくまでそいつを庇うつもりのようね。全く見損なったわ。前のあんたならこんな盗賊達になんて容赦なくやっつけてたはずなのに」

 「当然でしょ。今の私はヴァルハラ国の兵士。悪人とはいえ私情で抵抗の意志のない相手を殺すことはできないわ。今の私は悪人を懲らしめるために戦ってるのではなく、ヴァルハラ国の統治を広める為に戦っていることを分かってちょうだい」

 「ふんっ……。悪人を情けを掛けるような統治なんて私達は必要としてないわ。どうやらもう話しても無駄のようね。今すぐそこを退いて盗賊達の身柄を引き渡しなさい」

 

 あくまで盗賊の頭を庇おうとするリアを見て、オレンジ髪の少女は本来なら矢を構えているはずの右手に魔力を溜め始めた。するとすぐさま少女の右手が輝きだし、再びリアに向かって閃光のような速さの光弾が放たれようとしていた。

 挿絵(By みてみん)


 「ちょ、ちょっと待ってっ!」

 「……っ!。ナ、ナギっ!」


 だがその時リアへと放たれようとしている光の矢の射線上にナギが突っ込んできて、リアと盗賊の頭を庇うようにオレンジ髪の少女の前に立ち塞がったのだった。


 「何よ……、あんた。そんなところに突っ立てるとあんたの頭から吹っ飛ばすことになるわよ。私の矢を受けた盗賊達がどうなったかちゃんと見てたでしょう」

 「い、いや……。ちゃんと見てたよ。僕だってそんな強烈な矢を顔面に食らいたくなんてないよ。ただちょっと僕達話し合いが足りないんじゃないって思って……」

 「話し合いならさっき終わったわ。あんた達はこの盗賊達を倒さずに連行するつもりなんでしょ。私は今すぐにでもこいつらをこの場から消し去りたい気持ちで一杯なの。さっきも言ったけど私はそこの全身真っ赤かのアレルギー野郎みたいにヴァルハラ国のいいなりになるつもりはないわよ」

 「だ、誰がアレルギー野郎ですってぇ……っ!」


 少女の前へと立ちはだかったナギは話し合いの場を持ち掛けた。だが少女はあっさりと断ってしまい、更に全身を真っ赤に染め上げたリアの格好をアレルギーの症状に例えて挑発した。自分の好みの色に染め上げたお気に入りの格好を馬鹿にされたリアは歯を喰いしばりながら怒りの症状を浮かべていた。


 「なんでそんな酷いこと言うんだよっ!。僕達は味方じゃないかもしれないけど敵じゃないのは確かだし、そんなにムキにならなくてもいいじゃないか。それに無事集落を解放するって目的は果たせたんだし、ここはもう少し落ち着いて話し合おうよ」

 「ナギの言う通りよ。あんた達元々は仲の良い友達だったんでしょ。こんな事でその関係が壊れちゃってもいいのっ!」

 「………」


 ナギの必死の説得に二人の少女は沈黙して考え込んでいた。ナミの言う通り二人は昔からの幼馴染で、幼少時代から共に魔法を学んでいた学友のようだ。そのようなこと当然ナミは知らなかったが、二人の会話から本来は仲の良い友人だと察したようだ。


 「私は……」

 「私はもうこんな奴友達だなんて思ってないわ」

 「……っ!」


 リアは何かを言おうとしたが、オレンジ髪の少女が割り込んできてリアの言葉を遮ってしまった。先程までは気丈に振る舞っていたが、信頼していた友人から出て来た冷たい言葉に流石のリアも動揺してしまった。どうやらリアが言おうとしていたことと正反対の言葉を少女は言い放ったようだ。


 「そ、そんな……。盗賊を庇ったからってどうしてそんなに怒るんだよっ!。別にこのまま見逃そうって言ってるわけじゃないじゃないかっ!」

 「ナギの言う通りにゃっ!。こいつらはヴァルハラ国で責任を持って罪の償いをさせるにゃ。悪人を懲らしめるだけじゃなく、ちゃんと反省させて世の中の役に立つよう更生させるのが僕達の仕事なのにゃ」

 「確かにリアの態度も横暴じゃったけど、あれは本心から出た言葉じゃないと思うよ。ここに来るまでもリアは私達に厳しい言葉を掛けることもあったけど、それとは裏腹にヴァルハラ国の固有NPC兵士として私達をしっかり導いてくれたよ。きっとヴァルハラ国の兵士になった責任感からきつい態度を取ってしまうんじゃよ。それはリアの知り合いじゃったあんたの方が余計分かってるんと違う?」

 「あ、あなた達……」

 「(……この人達、まだこのゲームが始まって間もないはずなのにもうここまでリアのことを信頼してるなんて。プレイヤーがNPCに対してここまで感情移入してくるなんて思っても見なかったわ。少なくとも彼らは私達のことをNPCだからって下に見てはいない。ちゃんと自分達の対等の存在として認めているようだわ。これならあのリアが行動を共にしているのにも納得がいくかも……)」


 ナギ達の言葉を聞いてリアは自分への信頼と理解と深さに驚いていた。まだ出会って二日程しか経っていないというのに、まるで長年一緒にゲームをプレイしてきたプレイヤーと同じような扱いに、リアの心の中にはナギ達への親しみの感情が芽生え始めていた。オレンジ髪の少女もリアとナギ達との信頼関係には驚かされていた。だが少女にとってはリアをやはりリアを庇っているように感じられ、ナギ達の説得には応じてもらえなかった。


 「なるほど……。少しはマシなプレイヤー達を連れてきたようね。本当はリアがこの短期間でプレイヤー達に心を許してることにも腹が立ってたんだけど、少しは納得がいったわ。でもそれとこれとは話は別よ。私はまだヴァルハラ国もそこに所属しているプレイヤーのことも信頼してないわ。この盗賊達はここで始末させて貰う。これが最後の忠告よ。今すぐそこを退きなさい」


 どうやら少女はリアが短期間にナギ達と打ち解けてしまっていることが気に食わなかったようだ。少女自身は特にプレイヤー嫌いというわけではなかったが、突如この世界に現れたプレイヤー達、そして誕生した強大な力を持った国々を警戒していたようだ。にも関わらずあからさまにプレイヤー嫌いを明言してはずのリアが、いとも簡単にヴァルハラ国の支配を受け入れていることに納得がいかなかったようだ。少女自身はまヴァルハラ国のことを信用しておらず、ヴァルハラ国の法や統治のやり方を押し付けられることに我慢ができなかった。ナギ達の言動を見て少しはヴァルハラ国に対する見方が変わっていたようだが、盗賊達の身柄をヴァルハラ国の預けることを受け入れられず、少し迷いながらもすぐに気を引き締め、再び手に光輝く魔力を溜め始めた。そして真っ直ぐにナギの顔を見つめ、自分が本気だということを真剣な表情で伝えていた。だがナギも真剣な表情で少女の方を見つめ返し、決して少女の目の前から退こうとはしなかった。


 「い、嫌だっ!。僕は退かないよっ!」

 「ちょ……っ!。一体何言ってるのよナギっ!。そいつの目は本気よ。あんたもさっきの弓矢の攻撃を見てたでしょう。あんなの食らったら今の私達のステータスじゃひとたまりもないわ。早くこっちに戻ってきなさいっ!」

 「ナミの言う通りよ、ナギ。こいつとこうなったのは私の責任……。この盗賊達は私がなんとしても殺させないからあなたはもう下がってなさい。ナミの言う通り今のあなた達じゃ私やあいつのステータスに歯が立たないわ」

 「……駄目だっ!。僕は絶対ここを退かないよ」


 相手の少女だけでなくナミやリアにまで少女の前にから下がるようナギは諭されてしまった。リアの言う通りだとすると少女の現在の職業は魔弓術士。光の矢を放つ攻撃からもまず間違いないと見ていいだろう。総合レベルは恐らくリアと同じく300以上はある。プレイヤーとNPCの違いはあれどナギが太刀打ちできる相手ではない。だがそれでもナギはそこから退こうとはしなかった。


 「……豪く強情なのね。でもあまりムキになって突っ張らない方がいいわ。あなたの仲間の言う通り私は本気よ。どうしてあんな盗賊達のことをそこまでして庇うのよ。リアが生かして連行するって言ったから?。それともゲームの中だから死んでも味方がすぐに復活させてくれるとでも思ってるのかしら」

 「違うよっ!。確かに蘇生アイテムはちゃんと買って来てるけど、盗賊達を庇ってるのはあくまでゲームに勝つためだよっ!」

 「ふざけないでっ!。あなたがゲームに勝つためにこの集落で一緒に暮らしてた仲間の仇を見逃せっていうのっ!。そんなことで私達の感情を踏みにじらないでほしいわ。私達はこの世界で生きているあなた達と同じ生命体なの。そのことをちゃんと分かってるっ!」


 少女はナギのNPCに対する侮辱とも思えるような発言に激怒した。プレイヤーからしてみればゲームに勝つというのは当然の目的だが、その為に自分達の感情を抑えろと言うのはNPCからしてみれば暴論でしかない。場合によってはNPCを奴隷のように見ているとも取れるが、なんともナギらしくない発言である。一体どういうつもりでこのようなことを口にしたのだろうか。


 「分かってるよっ!。それにふざけてるつもりもない。僕達プレイヤーがゲームに勝つために行動するのは当然のことじゃないか。だからなによりこの盗賊達を生かすことがゲームの勝利になるってことをまず理解して欲しいんだ。リアもきっとそう思って盗賊達に止めを刺さなかったんだろうし……」

 「なによ、それ……。まぁいいわ、だったら聞かせてもらおうじゃない。こいつら生かして連れていくことがあんた達ヴァルハラ国のプレイヤーの勝利に繋がる理由ってやつを」

 「………」


 少女は初めナギの意見を暴論のように捕えていたが、その後の言葉を聞いて少しは話を聞いてみる気になったようだ。多少強引な意見ではあったが、これでなんとか少女を説得するための第一関門を突破できたようだ。ナギの真剣な表情を見た周囲の者達は固唾を飲んでその光景を見守っていた。先程まで馬子の腕の中で暴れていた子供も一言も発しなくなり、今は父親の仇を取ることよりもナギの言葉により興味が沸いているようだ。

 そしてナギ達が盗賊に捕まっていた子供だけでなく、リアの知り合いと思える少女ともトラブルに陥っている頃、残りのメンバーを呼びに行ったレイチェルはちょうど住民達を避難し終えたところであったセイナ達と合流しようとしていた。







 「あっ、レイチェルの奴が戻って来たわよ、アイナ。でもリアやナギ達は一緒じゃないみたい。もう盗賊達を討伐し終えちゃったのかしら」


 セイナ達は集落から少し離れたなだらな丘となっている所に住民達を避難させていた。草木は少なかったが起伏になっていたため身を屈めれば周囲からは発見しずらいと判断したようだ。更に見晴らしも良かったため敵の接近に逸早く気付くこともできる。そして辺りの監視を任されていたシルフィーがこちらに向かってくるレイチェルの姿に気が付いたのだった。シルフィーもどうやらトイレに行っていた女性の住民とともにセイナ達と合流で来たようだ。


 「あっ、本当です。お〜い〜、レイチェルさ〜ん。私達はここで〜す」


 レイチェルの姿を確認したアイナは手を振って自分達の居場所を知らせた。レイチェルはマップに表示されている位置情報を頼りにここまで来たようだ。セイナ達の元に辿り着くとレイチェルは早速集落で起こったことを皆に伝えた。


 「なるほど……。では盗賊達はこちらに投降し集落は解放されたというわけだな。相手の命を奪わずに戦意を喪失させてしまうとは流石はリアだな。上手くいけばその盗賊達もヴァルハラ国の戦力として取り込めるかもしれんな」


 どうやらセイナもリアの盗賊達に対する処分に賛成のようだ。っというよりほとんどのプレイヤーはリアの意見に賛成だろう。子の手のシミュレーションゲームでは例え悪人であろうと戦力として取り込むのがセオリーである。特に序盤は兵数が限られているため悪人といえども貴重な戦力となってくれる。三国志などでも元は山賊や海賊であった武将が数多くいる。知力や内政能力は低いが高い武力を活かして戦闘要員として大いに役立ってくれるだろう。


 「へぇ、やっぱり悪人でも仲間に引き込むのがこの手のゲームのセオリーなのか。なら無法者だからって人型の相手はなるべく倒しちまわない方がいいな」

 「うむ。戦力として取り込めなくとも貴重な情報を持っているかもしれんしな。命を奪うのはその者を最大限に利用してからの方がいいだろう」

 「ほほっ、まぁわしはゲームのことは良く分からんが命が無事な者はなるべく多い方がええ」

 「ボンじぃさんの言う通りですっ!。そういうことなら私達も早く集落へと向かいましょう」

 「い、いや……。別にそんなに急がなくていいと思うぞ……」

 

 レイチェルの話を聞いてセイナ達は急いで集落へと向かうとしたが、何故か呼びに来たレイチェルの方が集落行くことに乗り気ではないようだった。


 「うん?、何故だレイチェル。お前が私達を呼びに来たのだろう。早くリアの元へ向かってこの後のことについて話し合うべきだと思うのだが……」

 「えっ……、あ、ああ……そうだっ!。あれだよあれ。集落に戻るなら当然住民達も一緒に連れていかなきゃならないだろう。その時に私達が急いでいって万が一にも住民達の身に何かあったら元子もない。モンスターが襲ってくるかもしれないしな。だからなるべく慎重に行った方がいいって意味だよ。リアもそんなに急いでないみたいだしな」

 「むっ……、確かにその通りだな、。集落の方はもう心配ないようだし、ここで態々住民達を危険に晒すこともあるまい。ここはしっかりと護衛を固めながら慎重に集落へと向かうか」

 「そ、そうだな。私もそれがいいと思うよ……。(あんまり早く戻ってまだあのガキとのいざこざが続いてたら面倒くせぇしな。もう集落は解放し終わって盗賊達も抵抗の意志はないみたいだし、ゆっくり行っても大丈夫だろ。ナミやリアはともかくナギや馬子、それにデビにゃんがいればガキのことは心配ねぇよな……)」


 どうやらレイチェルは例の子供とのいざこざに巻き込まれるのが嫌で集落へと向かうのを遅らせたかったようだ。不純な動機ではあるが、住民達の警護を固めるのも重要なことなので結果的にこの判断は正解と言えるだろう。だがレイチェルは子供だけでなくオレンジ髪の少女ともトラブルが起きていることを知らなかった。そのことを考えるとなるべく早く集落に戻った方が良かったのかもしれない。


 


 

 

 「それじゃあ聞かせてもらおうかしら。この盗賊達を生かすことがあなた達のゲームへの勝利が近づく理由ってやつを」


 一方その頃ナギはオレンジ髪の少女に盗賊を生かすことがゲームの勝利に繋がる理由を問いただされていた。理由と言うのは先程セイナが言っていたこととほぼ同じだろうが、果たしてナギがどのようにして少女に説明するのだろうか。


 「そ、それはヴァルハラ国のプレイヤー達が皆中庸的だからだよ」

 「中庸的……?。それって偏りがなく調和のとれた状態って意味よね」

 「そうだよ。まだこのゲーム内で2、3日しか行動を共にしてないけど、なんとなくヴァルハラ国に参加しているプレイヤー達は極端なプレイを好まない人達が多いように感じたんだ」

 「確かにあなた達を見てるとそんな気がしないでもないわね。でもそれとこいつらの命を庇うことと何が関係があるっていうの」

 「こういうゲームには大体3通りぐらいのプレイスタイルがあると思うんだ。それで僕達には中庸的って思われるようなプレイスタイルが一番あってると思ったんだよ」

 「ふーん……っで、その3つのプレイスタイルにはどんな違いがあるのかしら」


 ナギが言うにはこの手のシミュレーションゲームには大まかに分けて3つのプレイスタイルがあるらしい。ナギ達は中庸的なプレイを好むらしいが、一体どういういったプレイの仕方なのだろうか。少女に問いただされたナギは説明を続けた。

 

 「まず一つは善政プレイ、あくまで善人である人々を優先して自分達もなるべく悪行には手を染めないやり方だね。程度にもよるんだけど、問答無用で悪人を処刑するってやり方はこれに入るかな。次は悪政プレイ、これは逆にこの盗賊達のような無法者や、金銭や権力への欲求が強い人物を高い地位に就けるやり方だね。力や権力で無理やり住民達を支配して、自分達自身もどんどん悪行に手を染めていくよ。まぁ、つまりは悪い奴が得をする世界ってことだね。……っで最後に今僕が言った中庸プレイ、これは善人や悪人を問わずに有能な人材を起用するやり方だよ。普段は善行を心掛けてるけど、状況次第ではプレイヤー自身も悪行に手を染めることもある。実は日本でゲームをプレイしてる人口で一番多いのはこの人達なんだ」


 ナギはシミュレーションゲームにおける3つのプレイスタイル、すなわち自国の取るべき政策の方針について説明した。先程セイナは悪人も人材として起用するのがセオリーと話ていたが、それはナギ達の世界の住民、正確には日本に住む人々が今ナギの話した中庸的なプレイ方針を取るものが多いからだ。善悪の区別とは違うが、中庸と同じ意味で中道という言葉がある。昔から日本では中道政治という言葉が有名で、かつて民主中道という政策方針を掲げている政党もあった。保守や革新のどちらにも偏らずに中正の政策を行う政治という意味で、ナギはそれを善人と悪人に例えて話していたようだ。つまりナギは、善人のみでなく例え悪人であっても優秀な人材ならば重要な役職に就けて起用する、と言っているのだろう。

 

 「つまり私達が望んでいるのは一番最初に言った善政プレイによる統治で、あなた達は最後の中庸プレイによる統治をもたらそうとしてるってわけね」

 「そういうことっ!。だからこの盗賊達も出来るならヴァルハラ国の戦力として取り込みたいんだよ。まだブリュンヒルデさんがどういった政策を取るか分からないけど、多分悪人であっても更生してヴァルハラ国に忠誠を誓うって言うなら受け入れると思うんだ」

 「なるほど……。一応ちゃんと筋は通ってるわね。思ったより分かりやすい説明で助かったわ」

 「本当っ!。言いたいことがちゃんと伝わったみたいで僕も良かったよっ!」


 ナギの説明は中々分かりやすく少女も何が言いたいのか大体理解したようで、まずは互いの主張を確かめ合うというナギの作戦は成功したように見えた。ナミ達もナギの論理的に少女を説き伏せようとする姿勢に感心させされていた。ヴァルハラ国の建国案にナギの考えたものが選ばれた時も大変分かりやすい内容に文章が纏められていた。ナギは他人に説明したり状況を伝えたりするのが上手なようだ。論理的に説明できる上に真剣になって話すためかなりの説得力がある。


 「うっわ〜、案外やるわね、ナギの奴。なんかナギの話し方ってつい聞き入っちゃうのよね。なんとかしてこっちに伝えようとしてるって言うか、必死になってるのが分かるからこっちも真剣に話を聞いてみようって気になっちゃうのよ」

 「そこがナギの良いところなのにゃっ!。きっとあの少女もナギの誠実さに感心して武器を下ろしてくれるのにゃ」

 「……でもこれで納得したと思ったら大間違いよ」

 「えっ……」

 「確かにあなたのおかげで互いの主張は明確になったかもしれないわ。でもだからといって私は別にあなた達の主張を受け入れたわけじゃない。言っとくけど私は別にあなた達に善政プレイをするよう求めてるわけじゃないわ。ただ自分の手で集落の仲間の仇を取りたいだけ。悪いけどやっぱりあなた達の指示には従えないわ」

 「うぅ……」


 確かに少女の言う通り今のナギの説明は自らの立場を明確にしただけで相手を納得させるものではなかった。少女は再び矢を構えるとナギ達に盗賊達の身柄を引き渡すよう要求した。だがその表情は先程までより緩やかなものに変わっていた。どうやらナギの言葉に冷静さを取り戻し、少しは怒りを抑えることができたようだ。


 「さぁ、今度こそそこを退きなさい。もう私を説得するのは無理だって分かったでしょ」

 「そ、そんなことないよっ!。僕の勘では君も中庸的な考えの持ち主だと思うんだ。本当に悪人を許せないと思ってるならそれに加担した僕達にとっくに攻撃を仕掛けて来てるはずだよっ!」

 「何言ってるのっ!。悪人を許せないのは当然のことでしょう。それにそこまで言うなら本当にあなたの顔面を吹き飛ばすわよ」

 「……っ!。もういいわ、ナギっ!。あなたの気持ちはもう十分に伝わったからもう下がりなさい。元々こうなったのは私の責任……。本当は望んでなんかいないけどこうなったら私がマイの相手をするわ」

 「そ、そんな……、駄目だよリアっ!。二人は昔からの友達だったんでしょ。それにこのクエストだってこの子のことが気になって僕達に付いてきてくれたんだろ。それなのにここで仲間割れなんかしちゃったら元も子もないじゃないかっ!」

 「こうなってしまったらもう仕方ないのよ。私達は昔から一度喧嘩を始めるとどっちが参るまでやり合うしかなかったのよ。話し合いで解決したことなんて一度もないわ。それに心配しなくても命まで奪うつもりはないわ。向こうはどういうつもりか知らないけど私はもう固有NPC兵士になって何度でもリスポーン出来るし……。もし万が一私があいつのHPをゼロにしちゃった時はすぐに蘇生アイテムを使ってあげてちょうだい。固有NPC兵士になってなくても数十分ぐらいなら蘇生を受け付けてるはずよ。あいつはNPCとしてもランクも元々高いしね」

 「あら、随分余裕がある発言してくれるじゃない。命を気遣った戦い方をして果たして私の相手になるのかしら。言っとくけど私は殺すつもりでやるからね。リスポーンできるかどうかなんて関係ないわ」

 

 ナギはなんとか食い下がろうとしたが逆に再び少女の怒りを刺激してしまったようだ。少女は再び弓矢を構え、今度こそナギの頭を吹き飛ばそうとあの閃光の矢を放とうと右手に魔力を集中し始めた。その様子を見ていたリアはこれ以上は限界と思い自ら剣を構え少女の相手をしようとナギの前へと向かって行った。ナギは必死で二人の戦闘を止めようとしていた。だがその時突如としてナギの後ろの方から何者かの声が聞こえてくるのだった。

 

 「も、もうやめてよっ!」

 「……っ!」


 その声は今にも泣き出しそうなか細い声だった。だが必死に思いを伝えようとしているのか力が篭っているのを感じられ、その場にいたナギ達は一斉にその声がした方を振り向いた。その声の主は正しく馬子に腕を抱きかかえられている先程盗賊達に人質に取られていた子供だった。


 「も、もうやめてってどういうことよ……、コルン。……まさかあなたまでこの盗賊達を見逃せって言うの。こいつらはあなたの父親の仇なんでしょっ!」


 子供からの突然の言葉に少女は戸惑いを隠せず、焦った表情で子供の名前を呼び今の発言について問いただしていた。どうやらこの子供の名前はコルンと言うようだ。身長は140センチ程度で年齢は10歳前後といったところだろうか。子供らしく髪の毛は短くカットしており、まさに坊ちゃん刈りといった感じだった。かなり気の強いやんちゃ坊主のようで、この盗賊達だけでなく普段から集落の外にいる自分より強いモンスター達に立ち向かっていったようだ。ザエムの父親は戦闘こそそこまで強くなかったが、昔は世界を旅する冒険者だったようで、コルンの父親に憧れていつか自分も旅に出ようと日々腕を磨いていたようだ。


 「そ、そうだけどこれ以上マイが昔の仲間と争い合うところなんて見たくないよ……。こいつらもそんなに悪い奴じゃないみたいだし、それに父さんが昔言ってたんだ。この世界に平穏に導いてくれるとしたらそれは善人や悪人、そして金持ちや貧乏人まであらゆる人を分け隔てなく愛せる人達だって。父さんが殺されちゃったことは悔しいけど、でも僕なんだかこいつらの言ってることが正しいように感じて来ちゃったんだ。きっと父さんならこの人達のような考えをも持った人を指導者として迎え入れると思うんだ」

 「コルン……」


 コルンの言葉に少女は完全に今までの勢いをそがれてしまった。ナギの必死の訴えは少女よりむしろコルンに影響を与えたようだ。子供にまで制止されれば流石の少女も振り上げた手を下ろすしかないだろう。


 「ふぅ……、意外なところから援軍が現れたわね。これならあの女の子も武器を収めるしかないでしょうね」

 「亡くなった父親の実の息子がああ言ってるんじゃしね。良かったね、リア。これであの子と戦わんで済みそうじゃよ」

 「だといいけどね……」


 その光景を見たナミ達もこれで少女も盗賊達から手を引いて一件落着だろうと思っていた。だがリアはこれで少女が引き下がるとは思えず、不穏な表情で少女とコルンの方を見ていた。


 「コルン……。あなたの気持ちは分かったわ。でもごめんなさい。それでも私は引くことはできないの。ここで曖昧な態度を取ったらあっという間にこの辺りはヴァルハラ国に飲み込まれてしまうわ。そしたらずっとヴァルハラ国の法や文化を押し付けられて生活することになるのよ。ここにいる人達を見てヴァルハラ国に良い印象を抱いてしまったんでしょうけど、この人達だけがヴァルハラ国のプレイヤーってわけじゃないのよ」

 「で、でも……」

 「それに私達と同じNPCだって善人ばかりとは限らないわ。ヴァルハラ国のような大国ともなれば貧富の差は確実に生まれてくる。そうなったら最初に入植できなかった私達は差別を受けて暮らすことになるかもしれないのよ」


 リアの予想通り少女はまだ手を引くつもりはないようだ。どうやら勿論仲間の仇を討ちたいという気持ちもあるが、突然この地域に現れたヴァルハラ国に自分達の暮らして集落がどんどん飲み込まれていくことに抵抗があったようだ。この地域一帯にヴァルハラ国のよる統治が行き渡った時、小規模の集落の出身である自分達が差別されまいかとすら心配していた。


 「そんなことにはならいよっ!。まだほとんどのプレイヤー達と知り合えていないけど、皆マナーを守って真剣にゲームをプレイしてる良質なプレイヤーばかりだよ。中にはちょっとモラルの悪い人もいたけど……。それにNPCの人達だって親切な人ばかりだったんだから。レイコさんにハールンさん、ガドスさんにアリルダさん、そしてここにいるリアやデビにゃんだって僕達の為に色々尽くしてくれたんだよ」

 「そんなの分かってるわよっ!。レイコさんやハールンさんなら私も小さい時に世話になったしね。でもそれはあくまでヴァルハラ国の一部の住民達ってわけでしょ。都市の中心部に住んでるのは皆建国時にランダムに生成されるNPCで、この辺りに住んでたNPCってわけじゃないのよ。最初からあんな大きな国の裕福層として生まれた住民なんて何考えてるか分かったもんじゃないわ。それにレイコさんだってすでに街の中心部から遠く離れた所に住まわされてるんじゃないの。あんなできた人でも入植する時期が少し遅かっただけでずっと裕福層から疎外されて生きていくことになるのよ。優秀な人材が埋もれて、凡庸で国の統治に従う者達に高い地位が与えられる。それが大国による統治のあり方なのよ。そこに今までの私達にあった自由気儘な生活はどこにもないわ。支配を受け入れたが最後、ずっと制度や階級、それに貧富によって窮屈極まり生活を送ることになるのよ」

 「(うぅ……、確かにレイコさんも凄い豪邸には住んでたけど城の中心部からはかなり離れてたっけ。デビにゃんの仲間の猫魔族達だって不満を言うどころか満足してたみたいだけど、今開発の進んでる範囲では一番外側の辺りに住んでたっけ。あの子の言う通り入植の時期だけでかなり待遇に差が出ちゃったりするのかなぁ……“ブルブルッ”。ってこんな弱気なこと言ってられない。あの子言ってることにも一理あるけど、ここで言い任されちゃったらヴァルハラ国の悪い噂が辺りに広まっちゃうよ。ここはなんとかして踏んばらないと……)」

 

 ナギは少女の正論に押され気味になってしまっていた。だが弱気になった心を奮い立たせようと首を横に振り、なんとか少女のヴァルハラ国への不安を取り除こうと再び少女に言葉を投げかけていった。


 「君の言う通り確かにレイコさんは街の中心部から外の方に居住させられてたよ。でもこれも君の言う通りレイコさんは優秀な人材だからちゃんと牧場の管理者の地位を与えられていたし、家だって3階建てで凄っごい大きな書庫のある大豪邸だったんだから。それにブリュンヒルデさんなら優秀な人材がより良い地域に住めるよう人の流動性の高い政策も取ってくれるはずだよ。僕達の世界でもこのことは問題になってるし、難しいことなのかもしれないけどちゃんと優秀な人達が評価されるのように頑張って行くよ」

 「口だけではなんとでも言えるわ。大国による統治がどれだけ難しいか知らないからそんな軽口が叩けるのよ。この集落を纏めるのだって酋長しゅうちょうがどれだけ苦労してたか……。これで分かったでしょ、コルン。確かにあなたの父さんの言う通りこの世界には大国を収める指導者が必要なのかもしれない。でもだったら尚のことその指導者となる人物の国を見誤ってはいけないわ。ちょっと調子のいいこと言ったからって簡単にこいつらのこと信用しちゃ駄目よ。理想だけでなく、ちゃんと世界を纏め上げるための構想と実力を持った人を見定めるようにしなさい」

 「う、うん……。確かにマイの言う通りだと思うけど……。(でもどうしてだろう……、さっきからあの赤い髪のお兄ちゃんのことが気になって仕方がない。僕にはあのお兄ちゃんこそが父さんの言ってた人物のように思えるんだ……、マイ)」


 ナギは懸命に反論したが、論戦では少女の方が一枚上手の方でこちらに傾きかけていたコルンを再び少女の側へと揺り戻されてしまった。だがコルンは表面では少女の意見に従っていたが心の中ではナギのことが気になって仕方がないようだった。


 「(どうやらこの子は仲間の仇を討ちたいっていうのやリアのことが気に食わないってことは建前で、本当はこの辺りがヴァルハラ国の領地になることを物凄い警戒してるみたいだ。急にほとんど未開拓の地だったこの辺りにあんな大きな国が建ったんだから当然と言えば当然か……。凄く賢い子みたいだし、なんとか説得してヴァルハラ国に参加してもらいたいなぁ)。……ってんん?」

 “トゥルルルル〜……”


 少女とコルンのやり取りを聞いてナギは少女の内面を考察していた。どうやら少女はかなり賢い性格をしているようで、盗賊の身柄を引き渡すようリアに突っかかったのもヴァルハラ国のプレイヤーであるナギ達を牽制するつもりだったようだ。ナギはどうやって少女を説得する方法を考えなおしていたが、その時突如ナギの体から着信音のようなものが聞こえてきたのだった。


 「な、なんだぁっ!。こんな時に電話なんて一体誰だろう。えーっと、発信者の名前はと……レ、レイコさんっ!」

 「なんですってっ!」

 「か、母さん……。一体こんな時にどういうつもりよ。でもこれはかえってチャンスかも……。母さんならマイを説得できるかもしれないわ」


 少女を説得しようと何度も論争を仕掛けているナギの元に、なんとリアの母親であるレイコから電話が掛かって来た。どうやら幼少期をリアと共に過ごした少女もレイコとは知り合いのようだったが、果たしてこのタイミングでのレイコからの電話がどのような影響をもたらすのだろうか。そしてレイコの電話を掛けてきた用件は一体……。



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