finding of a nation 36話
「一体どういうつもり……塵童……。返答によっちゃ例えあんたでも私は容赦しないわよ。こんな行動を取った以上自動的にあんたは私達の攻撃対象になるように判定されてるはず……。すでにさっきの攻撃で少しはダメージ受けちゃったんじゃない」
「………」
リアの攻撃から盗賊の頭を庇った塵童は確かに微弱ながらダメージを受けていた。リアの言う通り盗賊の頭を庇いフレイム・スラッシュの前に立ちはだかった瞬間からリアの攻撃対象として判定されているようだ。ただしこの場合塵童から見てリアは攻撃対象になっておらず、塵童はいくら攻撃してもリアにダメージを与えることはできない。ダメージが微弱だったのは塵童が上手く攻撃を防いだためだろう。リアと塵童は睨みあった状態が続いたが、暫くして塵童が口を開き始めた。
「……まぁ落ち着け。こいつを庇ったのには訳がある。こっちからお前に攻撃を仕掛ける気はねぇ」
塵童は両手を上げてリアに敵意がないことを示した。確かにいくら塵童に攻撃の意志があってもリアにダメージを与えることは出来ない。だが塵童の後ろには盗賊の頭、周囲には下っ端の盗賊達が数人いたためリアは警戒を解かなかった。
「私もあんたの攻撃なんてまるで気にしてないわよ。どうせダメージなんて入らないしね。でも周りの盗賊からの攻撃は当然ダメージを受けるわ。もし罠だったら承知しないからね。……まぁいいわ。取り敢えず話は聞いてあげる」
「ああ、実は……」
「ちょっと待てや兄ちゃん。ここからは俺の方から話そう。それより今俺を庇ったってことは兄ちゃんはさっきの話を了承したってことだよな」
「……ああ」
「(……話?。この盗賊達から新たにクエストが派生したってことかしら……)」
塵童がリアに話し掛けようとすると盗賊の頭が会話に入り込んできた。どうやらここからは盗賊の頭の方から話したほうが分かりやすいようだ。塵童は了承したと言っていたが、リアにも同じ用件を持ち掛けるつもりなのだろうか。盗賊の頭は真剣な面持ちでリアに話し始めた。
「はぁ…はぁ…、急がないとあの女の人の言ってた子供が盗賊達に捕えられちゃうよ。そしたらレイチェル達も盗賊達に手が出せな……ってレイチェル達が見えてきたぞ。どうやらまだ普通に戦ってるみたいだけど……」
その頃ナギは避難していた住民達の中からいなくなった子供を探すべく集落へと戻って来ていた。盗賊達と戦っているレイチェル達が、再び子供を人質に取られ動きを封じられていないかと心配していたようだが、レイチェル達はの戦いぶりを見る限りそんなことはなさそうだった。そしてよく見るとナギが探していると思われる子供がレイチェルの片手に抱きかかえられているのであった。
「あれっ!。レイチェルに抱きかかえられてる子供ってもしかして……。お〜い、レイチェル〜、馬子さ〜ん、デビにゃ〜ん」
ナギはレイチェル達の姿を確認すると声を掛けながら駆け寄って行った。
「おっ、ナギじゃねぇか。どうしたんだよ、もう住民達の非難は終わったのか」
「いや、実は住民の中の女性が子供が一人見当たらないって言うから急いで探しに来たんだ。それで……、今レイチェルが抱えてる子供なんだけど……」
「ああっ!、こいつのこと探しに来てたのか。このガキならさっき盗賊共に人質にされちまってな。デビにゃんの奴が危うくやられちまうとこだったぜ。ほい、じゃあこいつはナギに渡しとくからしっかり抱えてろよ」
「ええっ!。やっぱり人質に取られてたのっ!。……それで皆大丈夫だったの」
子供が人質に取られていたと聞いて、子供を受け取りながらナギは驚いていた。ナギは皆の身を案じていたが、目の前にレイチェル達の無事な姿が確認できているのでそれ程不安は感じていなかった。
「見ての通り僕達は皆大丈夫にゃ、ナギ。切られた髭ももう元に戻っちゃったにゃ」
「私も大丈夫じゃけん。正直デビにゃんに向かって剣が振り下ろされた時はもう駄目かと思ったんじゃけどね。その瞬間謎の女の子が凄っごい光の矢で盗賊を瞬殺してくれたんよ。ついでに人質を捕まえてた盗賊もやっつけてくれて、それでその子供を取り返すこともできて私も無事だったんよ」
「謎の女の子……?」
「そうなんだよ。ほら、あれ見てみろよ」
「えっ……」
レイチェルに促されナギは先程デビにゃんの窮地を救ったオレンジ色の髪の少女の方を見た。するとそこには謎の形をした弓から光の矢を放ち次々と盗賊達を薙ぎ倒していく少女の姿があった。
“ヒュイィィィィィンっ!”
「うわぁぁぁぁぁっ!」
“ヒュイィィィィィンっ!”
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
少女の放つ矢は百発百中で、次々とリスポーンしてくる盗賊達を全て一撃で仕留めていた。折角屋根の上に上った盗賊達も全滅してしまい、下っ端の盗賊達は不毛と分かっていながら地上から襲い掛かるしかなかった。盗賊達のリスポーンする位置はこの集落内のランダムな場所で、プレイヤー達とは最低でも20メートル以上離れた位置にリスポーンするようだった。
「……本当だ。物凄く強いね、あの子。でもあの格好に髪の色、あの子ってリアの言ってた知り合いの女の子なんじゃないの」
「多分な。盗賊達がこっちに来る前に弓矢でバシバシ薙ぎ倒しちまうから私達の出番がほとんどないぜ」
「ふ〜ん……ってそういえばリアはどうしたの。あとナミも見当たらないけど……」
「ああ、そうじゃった。リアはこの盗賊達は頭を倒さないと何度でもリスポーンくるって言って、そいつのいる建物に向かって行ったよ。ナミちゃんはそこらで適当に暴れてるんじゃないじゃろか」
「ええっ!、そうだったのっ!。そういえばさっきから一向に盗賊達の数が減ってないような……」
「そうなのにゃっ!。これもここの盗賊の頭がリスポーン・ホストって特殊能力を持ってるからなのにゃ。ボス級の敵なら大抵の奴が持ってるってリアが言ってたからナギも気を付けるのにゃ」
「う、うん……、分かったよ」
「それにしてもリアの奴遅ぇな……。いくらそのリスポーンなんとかって特殊能力を持ってるって言ってもこの盗賊達の親玉だろ。リアなら一瞬で片付けてしまいそうな気がするんだけどな〜」
リアが盗賊の頭の元へ向かって行ってすでに5分程が経過していた。レイチェル達はリアの実力ならば一分も掛からず頭を仕留めて帰ってくるだろうと思っていたが、何かトラブルが発生したのかリアは集落の中央の建物に入ったきり姿を現すことはなかった。
「よ〜し、こうなったら私等も親玉のいる建物へ乗り込んでいくか。あのリアの知り合いの女がいれば盗賊共にここを突破されることもなさそうだし」
「そうじゃね。もしかしたら塵童の奴を人質に取られたのかもしれらんし。……まぁ、リアが塵童の命を気にするとは思えんのじゃけど」
「ああっ!、そうだったっ!。あの中には塵童さんも捕えられてるんだった。こうしちゃいられない。僕達も早く乗り込もうよ、レイチェルっ!」
塵童のことを思い出したナギはすぐさま自分達も乗り込もうと皆を促していた。リアの性格からいって、塵童が人質に取られても容赦なく盗賊に攻撃を仕掛けるであろうからナギは余計心配していた。
「なんだよ。やけに塵童の奴に入れ込んでるじゃねぇか、ナギ。全くあんな奴のどこが気に入ったんだか……」
「塵童さんは少し無作法に見えるけど根はいい人だよ。さっきも住民が人質に取られてるのを知ったら決して手を出さなかったじゃない」
「はいはい、分かってるよ。それじゃあそのガキは馬子に預けとけよ。馬子とデビにゃんにここは任せといて私と一緒に突入しようぜ」
「うんっ!。じゃあここは任せていい、馬子さん、デビにゃん」
「OKじゃけぇ。あのオレンジ髪の子がいるけぇ私達だけでも大丈夫じゃろ。じゃあこの子供は私が預かっておくね」
「僕も大丈夫にゃ。そうと決まればグズグズしてないでさっさと乗り込んで来るにゃ、ナギ」
「分かったっ!。じゃあ行こうか、レイチェル」
「あいよ」
塵童のことが気になって仕方のないナギは、子供を馬子へと預けレイチェルと共に盗賊の頭のいる建物へと向かって行った。その場に残った馬子とデビにゃんは光の矢を放つ少女が撃ち漏らした敵を集落から出ないように食い止めていた。もうセイナ達も住民を安全な場所まで避難させているだろうから、そこまで気にする必要はなかったのだが。盗賊達ももう人質の奪還は諦めてなんとかオレンジ色の少女達に一泡吹かせようと躍起になって向かって来ているだけだった。
「おらおらっ!、どけどけどけどけぇぇぇぇっ!。今すぐ道を開けない奴は皆叩っ斬っちまうぞぉっ!」
頭のいる建物へと向かったレイチェルは進路上にいる盗賊達を薙ぎ払いながら先へ進んでいた。だが盗賊達もレイチェル達が頭のいる建物へと向かっていることを察知し、自分達の頭を守るためなんとか進行を食い止めようと皆標的をナギとレイチェルに変えて襲い掛かって来た。だがオレンジ色の髪の少女からの攻撃も当然続いていたため、ナギ達に襲い掛かる前に盗賊達の多くは頭を吹っ飛ばされてしまっていた。そして何度蘇っても相変わらず圧倒されている盗賊達に更なるナギ達の更なる増援が襲い掛かってくるのであった。
「くっそぉぉぉぉぉっ!。もしお頭がやられちまったら俺達も二度と蘇れなくなっちまうぜ。そしたら一生このゲームの世界とはおさらばだ。野郎共、なんとしてもあの二人の進軍を食い止めるんだぁぁぁぁっ!」
「よっしゃぁぁぁぁっ!。俺にはこのゲーム中に心が狂っちまいそうなくらい惚れちまっている超絶可愛い運命の相手の少女がいるんだ。その子と出会って結婚するまでなんとしてもこの世界で生き延びなきゃならねぇんだっ!」
「俺はもう死んじまってもいいかなぁ……。大体盗賊なんて俺に向いてないんだよ。もっとこの集落の住民みたいにあんまりゲームに関係ないキャラに生まれてのほほんと暮らしたかったなぁ……」
迫りくるナギとレイチェルを前に下っ端の盗賊達の中でもリーダー格の男が喝の入った言葉を叫び皆の士気を高めていた。だがそれに乗っかって威勢よくレイチェルに向かっている者もいれば、何度も倒されたことにより自分に自信を無くし、すっかり意気消沈してしまって情けない言葉を吐いている者もいた。
「へへっ。そんなにお望みなら願い通り頭から叩っ斬ってやるぜ。……っつってもお前等は何度倒しても死なねぇんだっけ。まぁ、それもお前等の親玉をやっつけるま……っ!」
「ちえぇぇぇぇぇいっ!」
「な、なんだぁっ!」
「ナ、ナミ……っ!」
向かってくる盗賊をレイチェルが迎え撃とうとした時、右の方から威勢のいい女性の叫び声が聞こえてきた。その声の主は正しくナミで、得意の飛び蹴りを放ちながら突っ込んで来ると横一列に並んで襲い掛かっていた盗賊達を横から串刺しにするようにして纏めて吹っ飛ばしてしまった。盗賊達は皆すぐ近くの建物まで吹っ飛ばされると、壁にぶつかった衝撃でHPが尽き消滅してしまった。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
“バッコォォォォォンっ!”
「ふぅ……、一丁上がりっ!」
「なんだ、いきなり誰か突っ込んできたと思ったらナミじゃねぇか。お前今まで何してたんだよ」
「何って……。放牧場で住民達を解放したからそのままその辺りで片っ端から盗賊達を片付けてたのよ。少しでもナギ達のところに向かう盗賊を引き付けらればと思って。でもこいつら倒しても倒しても一向に数が減らないから親玉のいるあの建物を目指してここに来たってわけ。あんた達こそもうここの住民達は大丈夫なの」
どうやらナミもこの盗賊達の異変に気付き、盗賊達の頭のいる建物を目指してここまで来たようだった。盗賊達はナミにも何回もやられていたようだ。
「うん、住民達はもう大分遠くまで避難してるはずだよ。ナミ達が解放してくれた男の住民達とも合流したし、セイナさん達も一緒にいるはずだしね」
「なるほど、それは良かったわ。ところで……、肝心のリアはどこ行ったの?」
ナギ達と合流したナミは辺りを見回してこの場にいないリアの姿を探していた。どうやらリアはすでにナギ達のパーティの支柱として大きな役割を担っていたようだ。本来ならプレイヤーがなるべき役割だがまだプレイ時間が少ないナギ達には少し荷が重い。どうしてもこのゲームの関して知識の豊富なリアに頼りきりになってしまうだろう。
「リアならもう盗賊の頭のいる建物を入ってるはずだぜ。リアにしては時間が掛かってるんで心配になった私達も様子を見に来たんだ。お前の言う通り頭を倒さないと何度でも蘇ってくるってよ、この盗賊共」
「そうそう、塵童さんもあの中にいるはずだしね」
「ああ……、そういえばあいつも捕まってたわね。すっかり忘れてたわ」
「ナミまでそんなこと言うなんて……。塵童さんだって僕達と同じヴァルハラ国のプレイヤーなんだよ。住民達のことも大事だけど仲間のことも大事にしないとこのゲームには勝てないよ」
「そうね……。ごめん、悪かったわ。だったらさっさとあの建物に乗り込んで塵童の奴を助けてやりましょう。ついでに盗賊の頭もブッ飛ばしてあげないとね。それじゃあ一気に突っ込むわよ」
「おおーー……ってええっ!」
“バァァァァァァァァンっ!”
ナミと合流したナギ達はこのまま一気に盗賊の頭のいる建物へと突入しようとした。だがナギ達が一気に盗賊達の集団を突っ切ろうとした瞬間、そのナギ達が目指している建物の扉が勢いよく開いた。外側の壁に大きな音と共に叩き付けられて開かれた扉の中には、なんと扉を開いた右手を押し付けたまま足を大きく開いて仁王立ちの格好で立ち塞がっているリアの姿があった……。
「ストォォォォォップっ!。あんた達ぃっ、今すぐ戦闘を中止っ!。もうこれ以上こいつらと戦う必要はないわ」
「リ、リア……。戦う必要がないってどういうこと……」
建物から突如として現れたリアはいきなりナギ達に戦闘を中止するよう言い放った。突然のリアの発言にナギ達は戸惑ってしまい、否が応でも攻撃の手が止まってしまっていた。
「な、なんだぁっ!。急に動きが止まりやがったぞ、あいつら。それに今出て来た女は奴らの仲間のはずだろ。戦闘を止めろってのはどういうことだ」
「へへっ、忘れたのかよ。俺達にはもう一人人質がいたってことを。きっとお頭がそいつを盾に取ってあの女の脅したに違いねぇ。つまり、あいつらはまた俺達に手出しができなくなっちまったってわけだ」
「なるほどな……。流石お頭だぜ。よっしゃぁぁぁぁっ!、こうなったらとっと俺達であいつらを始末してしまおうぜぇぇぇぇっ!」
「おおぉぉぉぉっ!」
だが盗賊達はそんなことは気にせず、これ幸いと動きが止まっているナギ達に襲い掛かって行った。事態を把握できないナギ達は襲い掛かってくる盗賊達を迎撃すべきかどうか迷っていた。
「嘘だろ……。まさかリアの奴が塵童の身を気配って攻撃できなかったってのかっ!」
「リアに限ってそんなことあるわけないわよ。もしかして他にも住民の人質がいたとかじゃない」
「そんなのこと言ってる場合じゃないよっ!。早く盗賊達を迎撃するかどうか決めないと……」
「へへっ、やっぱり奴らこっちに仕掛けてこれないみたいだな。さっきまでの礼だっ!。一思いにその首を刎ねてやるぜ。てやぁぁぁぁぁぁっ!」
「くっ……。っつってもリアがああ言ってる以上こっちから攻撃するわけにはいかねぇ……」
盗賊達が迫ってくるにも関わらずナギ達は決して手を出さなかった。どうやらナギ達のリアへの信頼は絶対的なものに変わっているようだ。これには何か深い事情があると考えたのだろう。
「今楽にしてやるぜぇぇぇぇぇっ!。うおぉりゃぁぁぁぁっ!」
「くっ……これまでか……」
「ストォォォォォップっ!。ちょっと待てお前等ぁっ。攻撃を止めるのは向こうだけじゃねぇ。今すぐお前等も武器を下ろして戦闘を中止しなっ!」
「えっ……、お、お頭ぁっ!」
差し迫ってくる盗賊のシミターの刃を前にレイチェルは自らの死を覚悟していた。いくらこの盗賊達のステータスが低いと言っても無抵抗のところを攻撃されればナギ達でも致命傷を受けてしまう。恐らく4、5回切りつけられればHPが尽きてしまうのではないだろうか。だがナギ達がもう駄目かと思った時リアの後ろから盗賊の頭と思われる男が出て来て、今度は盗賊達の方も攻撃を止めるように指示を出してきたのだった。下っ端の盗賊達も頭の命令に従うしかなく攻撃を止めてしまった。
「な、なんだぁ……。どうなってるんだ、一体……」
「わ、分かんないよ。もしかして盗賊達と和解でもできたのかなぁ……」
「ありえるわね。リアって結構威圧感あるし、ビビった盗賊達を言い包めちゃったんじゃないの。……あっ、それにほら、後ろから塵童も出て来たわよ」
「本当だっ!。良かった、やっぱり無事だったんだね。お〜い、リア、塵童さ〜ん」
盗賊達の攻撃が止み、塵童の無事な姿も確認したナギ達はリア達のところへ駆け寄って行った。
「ちょっと待ちなさいよっ!。一体これはどういうことなのっ!。ちゃんと説明してもらえるんでしょうね……、リア」
ナギ達がリア達の元へ駆け寄ろうとすると後ろから先程のオレンジ色の髪の少女が大きな声で叫び掛けてきた。当然のことではあるが、どうやらこの急な戦闘の停止に納得がいっていないようだ。それはナギ達も同じだったため、少女に便乗するわけではないが、ナギ達もその場で足を止めて問い掛けるような目でリアの方を見つめた。
「マ、マイ……。良かった、あんたも無事だったのね。どこにも姿が見えないから心配してたのよ」
「私はここが襲われる前に偶然モンスターの狩りに出掛けてたのよ。帰ってきたら集落が盗賊に占領されてて、一体どうしようか遠くから様子を窺ってたらあんた達が突入しているのが見えたら私も駆けつけて来たってわけ。そんなことより早くこの状況について説明してくれない」
「分かったわ。それじゃあ今からちゃんと説明するから皆よく聞いていおいてね」
やはりオレンジ色の髪の少女はリアの知り合いで、リアにはマイと呼ばれていた。マイに状況の説明を求められたリアは自分が建物に突入してからのことを話し出した……。
「住処にしていた鉱山の周辺に突如強力なモンスターが現れたですって……」
「ああ、でっけぇ牛みたいなモンスターで、全身に専用の鎧のようなものを装着してるんだ。そいつの影響なのか辺りには物凄い頻度でモンスターが出現するようになって、とうとう俺達のアジトになってた鉱山の中までモンスターが沸くようになっちまったんだ。それで仕方なくこの集落まで追われて来たってわけだ。
リアが突入して来て塵童に守られた後、盗賊の頭の男はリアにこの集落を占領するまでに至った経緯を説明していた。どうやら元々は近くの鉱山を根城にしていたらしいが、そこに巨大な猛牛型のモンスターが現れてここまで追われてきたらしい。盗賊と言っても普段はその鉱山から採れる鉱物を売って生計を立てていたため、滅多に村や集落を襲うことはなかったようだ。
「なるほどね。でもそれならなんでこの集落を襲ったの」
「俺達みたいな柄の悪い連中そう易々と受け入れてくれるわけないだろ。仕方ないから取り敢えず占領することにしたんだよ。なんたって俺達盗賊だしな」
「そうね。聞いた私が馬鹿だったわ。それで、これからどうしようとしてたの。見たところ集落の若い男性達を訓練させてたようだけど、もしかしてそのアジトになっていた鉱山を奪い返すつもりだったのかしら」
「察しの通りっ!。いや〜、勘が鋭いねぇ、姉ちゃん」
「ふぅ……、これで事態は大体飲み込めたわ。私達にそのモンスターを倒してアジトを取り戻してほしいってことでしょ。そうよね、塵童」
「ああ、そいつをアジトを取り戻したら大人しく帰ってこの集落は解放するって言ってから倒しちゃまずいと思ったんだよ。こういうのってゲームだとありきたりのクエストだろ」
どうやら盗賊の頭の要求と言うのはその猛牛型のモンスターを倒してアジトを取り戻すのに強力することのようだ。最初は集落の若者の男性を使ってモンスターを倒そうとしていたようだが、塵童の実力を見てヴァルハラ国のプレイヤーに頼んだ方が倒せる可能性は高いと判断したのだろう。
「いや〜、二人とも実に物分かりが良くて助かる。流石精鋭のMMOプレイヤー達だね〜。どうだい、この話受けてくれるかい。当然礼は弾むぜ。なんたって俺達のアジトの鉱山からは超貴重な鉱山が採れるんだからな」
「要らないわよ、そんなの」
「へっ……?」
盗賊のアジトとなっていた鉱山からは貴重な鉱物が採れるらしく、頭の男はその鉱物と集落の解放を条件にしてアジト奪還の協力を仰いできた。だがリアはその盗賊の条件をあっさりと断ってしまった。
「そのモンスターを倒しても鉱山をあんた達に返すわけないでしょ。折角貴重な鉱物が出るんだから私達ヴァルハラ国のものにするに決まってるじゃない。まぁ、くれるって言うならいくつか貰ってあげてもいいけどね」
「ふざけるなっ!。あの鉱山は俺達のもんだっ!。ヴァルハラ国なんかに渡すわけにはいかねぇ」
「あら、そう。だったらこの場であんたを始末させてもらうわ。その後でゆっくりと鉱山のモンスターは攻略させてもらうから、あんた達はさっさとゲームから退場しなさい。私がここに突入してきた時点で気付いてると思うけど、もう人質になってた住民達は全て解放させて貰ったわ」
「うぅ……」
塵童に対しては人質の解放を条件にアジトの奪還を依頼することができたのだが、その人質が解放された以上もはや盗賊達にリア達と対等に交渉できる立場にはなかった。リア達からすればその貴重な鉱物の採取できる鉱山というのは確かに魅力的だが、態々盗賊達に返す必要はなく、ここで始末してしまっても全く問題はなかった。追い詰められた盗賊は急に怖気づいてしまい身がすくんでしまっていた。どうやらすでに自分達を生かしておく理由がないことに気付いたようだ。
「そういうことよ、塵童。人質がいなくなった以上もうこいつらと取引なんてする必要ないわ。鉱山の話は魅力的だったから、後で私達で奪還させてもらいましょう」
「ちょ、ちょっと待てよ、じゃあこいつらはどうするんだ」
「そうね……。もう倒しちゃってもいいんだけど、取り敢えずここでひっ捕らえといて後でヴァルハラ国に連行するわ」
「えっ……、殺さないでおいでくれるのかいっ!」
「これ以上こちらに抵抗しなければね。一度ヴァルハラ国に連絡してみてあんた達の処遇についてどうするか聞いてみるわ。どんな処罰を受けることになるかはゲームの監視プログラムであるARIAの出す選択肢と、私達の女王であるブリュンヒルデさんの決定次第ね。精々命だけは助けて貰うよう祈っときなさい。言っとくけど私達に逆らっても無駄よ。あんた達のステータスじゃあ絶対倒すことはできないからね」
「わ、分かった……。あんたの指示に従うよ」
「そう。それならまずは外にいる下っ端の盗賊達に戦闘を中止するよう命令してちょうだい。私達ももうあんた達に手を出さないよう皆に指示を出しとくから」
「了解です……」
こうして盗賊の頭はリアに逆らうことはできず下っ端の盗賊達に戦闘中止の指示を出しに外へと出ていったのだった……。
「……っと言うわけよ。盗賊達の処遇はヴァルハラ国に任せることになったからもう戦う必要はないわ」
リアの説明は終わりナギ達も大体の事情は把握したようだった。捕えて済むならその方がいいとナギ達も判断し、リアの指示に従い構えていた武器を消して臨戦態勢を解いた。
「ふざけんじゃねぇぞぉごらぁぁぁっ!。なんで俺達がヴァルハラ国に連行なんてされなきゃなんねぇんだよっ!。構うこたねぇお前達。さっさとこのヴァルハラ国のプレイヤー共を倒して俺達のアジトを取り戻すぞおらぁぁぁっ!」
「おおぉぉぉぉっ!」
「お、お前等……、ちょっと待つんだっ!」
だが下っ端の盗賊達はそのような決定には納得せず再びナギ達に襲い掛かって来た。指示に従わない盗賊達を見て頭の男は慌てて止めようとしたが下っ端達は聞く耳を持たなかった。
「あら……、だったらこの場であんた達のお頭は始末させて貰うわね。そしたらあんた達ももう復活できないでしょうし、ナギ達も遠慮なく止めを刺しちゃっていいわよ」
「うっ……、お、お頭……」
リアは自身の武器であるスラッシュ・レイピアを出現させると盗賊の頭の首に突き付け、頭の命を盾に下っ端の盗賊達を脅した。自分達がリスポーンするための宿主でもある頭を倒されることは下っ端の盗賊達にとってももう二度とリスポーン出来ないことを意味する。そのことを恐れた盗賊達はリアの指示に従うしかなく皆肩を落としながら武器を下ろしていった。
「よろしい。それじゃあ今からヴァルハラ国に連絡を取ってみるからちょっと待ってて」
「す、凄いわね……、リア。今度はこっちが人質を取って盗賊達を脅してるわよ。でもこれでこの盗賊の件は一件落着ってところね」
「でも今度は巨大な猛牛型のモンスターを倒して鉱山を奪還しないといけないみたいだよ……。もしかしてこれから向かうとか言わないよね、リア。そんな強そうなモンスターが相手なら一度城に帰ってもっと沢山仲間を引き連れてから挑んだ方がいいよ」
「何言ってんだ、ナギ。リアのことだから行くに決まってるだろ。それに貴重な鉱物が採れるって聞いて私も行く気満々だしな」
「私もっ!。今度こそ綺麗な玉石の採れる鉱山だといいな。まぁ、昨日ヴォルケニック・ジュエル・ロックを皆から貰ったから別にいいんだけどね」
盗賊達の殺気が静まったのを見るとリアは端末パネルを開いてヴァルハラ国に連絡を取ろうとした。ナギ達は事態の収拾にホッと肩を撫で下ろしていたが、リアの言っていた巨大な猛牛型のモンスターのことが気になっていた。リアの性格からいって、これからそのモンスターの元に向かうであろうことを考えるとナギ達は気が重くなってしまっていた。レイチェルとナミは貴重な鉱物が採れる鉱山が採れると聞いて向かう気満々のようだったが……。だがその前にナギ達にはまだ一つの問題が残されていたのであった。
「……ふざけんなっ!」
「えっ……」
ナギ達がリアがヴァルハラ国に連絡を取るのを待っていると、突然背後から怒りの篭った叫び声が聞こえてきた。ナギ達が振り向くとそこには馬子とデビにゃん、そして怒り狂ったような表情で馬子達の前に立っている子供の姿があった。その子供は正しく先程盗賊捕えられ、奪還した後にナギが馬子へと預けていた男の子だった。
「馬子さん、それにデビにゃんも。あと……、その子はさっき気絶してた男の子だよね……」
「う、うん……。そうなんじゃけど目を覚ました瞬間から父親の仇を取っちゃるって言うて……。止めようとしたんじゃけど結局振り切られてここまで来てしもたんじゃよ。そしたらちょうどリアが今の話をしてて……」
「にゃぁ……。僕もこんな事になってるなんて思わなかったにゃ……。あの子のことを考えるととても複雑なイベントになりそうにゃ……」
ナギ達はその子供の表情を見て複雑な表情を浮かべていた。恐らく父親の命を奪った盗賊達のことが許せないのだろう。そして子供はリアの盗賊への対応に不満を露わにしていくのだった……。
「捕えて連行するってどういうことだよ……。こいつらは父さんの命を奪ったんだぞっ!まさかこのまま生かしておく気じゃねぇだろうなっ!」
「残念だけど多分そうなるでしょうね」
「なっ……」
「どうなるかはヴァルハラ国の女王であるブリュンヒルデさん次第だけど、恐らく命まで奪うことはないでしょうね。ヴァルハラ国への忠誠を誓えば2、3年の禁固刑で済むんじゃないかしら。場合によって重労働を課せられることもあるわ」
子供の質問にリアは淡々と答えていた。そんなリアの平然とした態度に少年の怒りは爆発した。
「だからふざけるなよっ!。僕はそんなの絶対に認めないぞっ!。ヴァルハラ国の決定なんて知るもんか。こうなったら僕の自身の手で父さんの仇を取ってやるっ!。てやぁぁぁぁぁっ!」
「あっ!、ちょっと待つんじゃけぇっ、僕っ!」
「放せっ!、放せよっ!。何がヴァルハラ国のプレイヤーだよっ!。横からしゃしゃり出て来て余計なことすんじゃねぇよっ!」
自分の父親の仇である盗賊達を許すことができず子供は盗賊から奪ったシミターを手に盗賊達の頭に襲い掛かって行った。だが馬子に両肩に肘を掛けられて止められてしまい、そのまま持ちあげられてしまった。子供は必死に馬子を振りほどこうと暴れていた。
「ああぁ……、やっぱりあの子が父親を殺された子供だったんだ。仇を取ろうとして集落に残ってたんだね。なんとかして説得しないと……」
馬子に捕まれて暴れている少年を見てナギ、そしてそれにつられてナミとレイチェルもすぐさま馬子達の元へ駆け寄って行った。
「駄目だよ、復讐なんて。お父さんが殺されて悔しいのは分かるけど、そんな事しちゃったら君まで人殺しになっちゃうよ」
「ナギの言う通りにゃっ!。そしたら君も盗賊達と同じ犯罪者ってことになっちゃって、僕達は君までもヴァルハラ国に連行しないといけなくなっちゃうのにゃっ!」
「そんなこと知るかっ!。俺達はヴァルハラ国の住民じゃねぇ。いきなり現れて勝手なルール押し付けてくるんじゃねぇ」
「たくっ、聞き分けのねぇガキだなぁ。こんな面倒くさいイベント起きなくていいっての」
「ちょっとレイチェル。この子はまだこんな小さいのに父親を亡くしちゃったのよ。そりゃ許せないのも無理ないわよ。それより私達はヴァルハラ国のプレイヤーとしてこの子を納得させないといけないんじゃない」
怒り狂う子供の様子見てレイチェルはあからさまに面倒くさそうな態度を取っていた。だがそんなレイチェルとは裏腹にナギ達は必死に少年の怒りを収めようと説得を試みていた。
「あんた、さっきもデビにゃんが言ってたけど復讐なんて止めといた方がいいわよ。そんなことしたらあんたは殺人鬼になっちゃって、集落のお友達も皆怖くて近寄らなくなっちゃうわ。そしたらあんたずっと一人で生きることになるのよ。死んじゃったお父さんもそんなこと望んでないと思うな〜」
「流石ナミっ!。良いこと言うね。そうだよ、僕。お父さんを殺されて悔しいのは分かるけど、復讐よりこれからの君の人生の方が大切でしょ。この盗賊達の処罰は僕達に任せて、君も新しい生き方を考えなよ。なんだったらヴァルハラ国に来てもいいよ」
「うるせぇっ!、誰かヴァルハラ国なんかに行くもんかっ!。友達だっていなくたって平気だ。俺は平気で生きていける。だからさっさと放せっ!。今すぐ俺の手で盗賊達を皆殺しにしてやるっ!」
「だ、駄目だこりゃ……」
意外にもナミの子供への説得の言葉はしっかりしたものだった。だが内容こそ良かったものの、最後の方の言葉が棒読みのように伸ばしてしまい、まるで心が篭っていないことを子供に感づかれてしまったようだ。子供は再び馬子の腕の中で暴れ出してしまった……。
「どうしよう……。普段子供と関わることなんてないからなんて言っていいか分からないよ〜」
「もうそんな子供放っておきなさい。それより誰か残りのメンバーと住民達を呼んで来てくれない。セイナ達にもさっきの説明をしておかないとね」
「わ、分かった。それじゃあ私が呼びに行ってくるぜ。後はよろしくな、お前等」
「あっ、ずる〜い。自分だけこの状況から逃げ出すつもりね。もうっ、レイコさんの家でもうすぐ結婚するとか言ってたくせに。そんなんじゃ子供が出来た時に苦労するわね、あいつ」
リアに仲間を呼び行くように指示されると、レイチェルは真っ先に手を上げてこの場から走り去って行った。どうやらこの息がつまるような状況からさっさと逃げ出したかったようだ。
「……行っちゃったね、レイチェル。僕達はどうしようか……」
「どうしようかじゃねぇっ!。さっさと俺のことを放しやがれっ!。このっ、このぉっ!」
残されたナギ達はどうやって子供を説得しようが途方に暮れていた。そうしてる間にも子供の暴れ方は激しくなっていき、腕を捕まえて抑えつけている馬子も振り払われそうだった。
「ちょ、ちょっと……。これ以上は私も抑えてられへんよ。誰か早くこの子を大人しくさせて……」
「そ、そんなこと言われても……」
「ううぅぅぅぅっ!、放せぇぇぇぇぇっ!」
「ふぅ……、さっきからうるさいわね。ちょっとあんた、いい加減にしたらどうなの」
「リ、リア……」
ナギ達が子供の説得に手間取っていると、後ろからリアがかなり喧嘩腰の口調で話し掛けてきた。当然子供は反発し、暴れ方は更に激しくなっていった。ナギ達はリアの子供の怒りに油を売るような発言に戸惑っていた。
「なんだとっ!。そっちこそいい加減にしやがれっ!。大体てめぇさっきから偉そうに指示しやがって。ヴァルハラ国のプレイヤーだからって調子に乗ってんじゃねぇぞっ!」
「残念ね、確かに私はヴァルハラ国に所属しているけど、プレイヤーじゃないわ。あんた達と同じNPCよ。それと調子に乗ってるのはあなたの方でしょ。この盗賊達を捕えたのは私達なの。だからこいつらをどう処分するかは私達に決定権があるのは当然でしょ。あんたはただ盗賊に捕まってただけなんじゃないの」
「そ、それは……」
リアの高圧的な言葉に押されて子供は急に大人しくなってしまった。どうやら図星を疲れて言い返すことができないようだ。
「うわぁ……。リアの奴容赦ないわね。相手はまだ小さい子供だっていうのに……。普通あんなこと言う?」
「う、うん……。もしかしてリアも子供の扱いは苦手なのかな。さっきまで住民達のヴァルハラ国の評判をあんなに気にしてたのに……。子供相手にあんな威圧するような態度取ったら他の住民達からも反感を買うことになるんじゃないのかなぁ……」
ナギ達の言う通り実はリアが子供嫌いだった。イメージ通りと言えばその通りだが、ナギの言う通りいくら子供と言えども対応には気を付けないとヴァルハラ国の評判に大きく関わってしまう。むしろ子供の印象の方がより強い影響を与えるのではないだろうか。そういう意味ではリアらしくないと言えるが、設定された人格や習性にあらがえないのがNPCの弱みなのかもしれない。
「これで分かったでしょ。悪人にも更生する機会を与えないとヴァルハラ国の統治に関わるの。あんたの気持ちは分からなくもないけど復讐なんて認めるよりもよっぽどいい判断のはずよ。ナギの言う通りヴァルハラ国で新しい生き方でも見つけるのね。それじゃあもう連絡させて貰うわよ」
「………」
「くっ……。ふざけてんのかしら、あいつ……」
何も言い返すことができず、馬子の腕の中で地面に俯いて気を落としてる子供の姿を見て、リアはヴァルハラ国へと連絡を取り始めた。一応少年の説得が終わるまで待っていたようだ。だがリアが連絡を取ろうと端末パネルのボタンを操作しようとした時、ナギ達の後ろで蓄えられた魔力が輝き始めていた……。
「えっ……、なんだこの光は……ってリアっ!、危ないっ!」
「……っ!」
“ヒュイィィィィィンっ!、……バッ!”
リアがナギの言葉に咄嗟に反応すると、そのナギの背後の光から突然閃光が放たれて来た。リアの目の前は一瞬にして光に包まれていったが、瞬時に反応して剣を振り、その閃光を薙ぎ払った。それは正しく先程下っ端の盗賊達の首を次々に吹き飛ばしていた光の矢だった。そしてナギ達の後ろには矢を放ち終わった体勢でリアの方を睨めつけるオレンジ色の髪の少女の姿があったのだった……。




