finding of a nation 33話
「う、う〜ん……むにゃむにゃ……。あ、危ないよデビにゃん。ここは僕に任せて後ろに下がってて……むにゃむにゃ……」
「にゃむにゃむ……。にゃ、にゃに言ってるにゃ……。ナギの方こそ後ろに下がってるにゃ……。僕はナギの仲間モンスターにゃよ……にゃむにゃむ……」
ゲームが始まって2日目の朝、っと言っても現実世界ではまだ2時間程しか経っていたいが。昨日をレイアに頼まれたクエストこなすため城を出たナギ達は、途中で大規模なモンスターとの戦闘に遭遇してしまったため途中で進行を中断し川の近くでキャンプを張っていた。ナギ達はその時出会った塵童という男性プレイヤーと共に野外で初めての食事を済まし、男性と女性に分かれてテントの中で眠りに就いていた。就寝中に魔物に襲われたら困るため皆で一時間ごとに交代して見張りをすることにしたようだ。現在の時刻は朝の6時、深夜の2時頃に見張りに就いたナギとデビにゃんは再び眠りに就き今も寝言をで会話をしながらぐっすりと眠っていた。昨日の疲れが溜まっていたのかまだ暫く起きそうになかったが、急に誰かが男性陣のテントを開き差し込んで来る朝の陽ざしと共に大声でナギ達のことを起こそうとするのだった。
“バシャーーッ!”
「こらぁっ!。男共はいつまで寝てんのよっ!。もうとっくに朝日は昇ってるわよ。女性陣は皆もう起きて朝の支度を整えてるんだからあんた達もさっさと目を覚ましなさいっ!」
「う、うぬぅ〜、リアちゃん……。そんなに強くされたらわし……、も、もう少し優しく……あはぁんっ!」
「なっ……、なに変な夢見てんのよっ!。いいからさっさと起きなさ〜いっ!」
「だはぁ〜っ!」
ボンじぃの気持ち悪い寝言を聞くとリアは布団ごひっくり返して叩き起こした。ボンじぃはナギ達の上へと吹っ飛ばされその衝撃でナギとデビにゃんも目を覚ましたようだった。
「な、なんだっ!。……ってボンじぃ、一体何してるんだよ。いくらなんでも寝相が悪すぎるよ〜」
「ふにゃぁ〜……。僕まだちょっと眠たいにゃ……。もうちょっと眠りたいから早くどいてほしいにゃ」
「ちょっと何言ってるのよっ!。二度寝なんてしてる暇ないわよ。これから朝食取ったらすぐ集落に向けて出発するんだから」
「リ、リア……」
「食事の準備はナミ達がしてくれてるからあんた達は川で顔でも洗って来なさい。昨日の夜と同じようにちゃんと歯も磨いておくのよ」
「は〜い」
ナギ達はまだ寝たそうだったがリアが許してくれそうもなかった。牧場の仕事を手伝っているため朝には強いはずのナギだったが、まだゲームに慣れていないのか目が半開きの状態で体も怠そうだった。ボンじぃとデビにゃんもまだウトウトしていて意識がはっきりするにはまだ時間が掛かりそうだったが、3人は取り敢えずリアに言われた通り顔を洗うことにして川へと向かって行った。
“ガラガラガラガラガラ……、バシャっ!”
「ふぅ〜、ゲームの中でまで歯を磨くって変な気分だね。まさか虫歯の異常状態になったりするのかなぁ〜」
“ゴシゴシ……”
「ふぃ〜、やっぱりこの川の水は気持ちいいの〜。そう言えばこのゲームで経験したこは現実にも反映されると言うとったが、ゲームの中で歯磨きを疎かにすると現実世界のわしらも虫歯になってしまうのかのぅ」
ナギ達は顔を洗うついでに昨日買っておいた歯ブラシとコップ、歯磨き粉を使って歯磨きをしていた。口をすすいだ後の水はそのまま川に吐き出していたが川には全く歯磨き粉の汚れは染み渡っていなかった。ナギ達の口を出た時点で通常の状態の水にリセットされるようだ。
「勿論なるにゃよ。でも逆にこの世界ではどんなに歯を磨かなくても虫歯になることはないにゃ。ただしこういった朝の洗顔が歯磨きを怠ると集中力が落ちてプレイに影響がでるにゃ。それ以外にも生活習慣はしっかり整えて置かないとナギ達の世界と同じように体が重くなったり意識がハッキリせず頭の働きが弱くなったりするにゃ。コンディションのステータスに影響して、その度合によって他のステータスが増減するにゃ」
デビにゃんが言うにはこのゲーム内での生活習慣はそのままコンディションのステータスに影響してくるようだ。日頃から体調を整えて置けばより自分の力を発揮できると言うことだろう。その影響は恐らくナギ達の世界以上である。この世界では無暗に夜更かしをせず食事も3食規則正しく取った方が良いだろう。顔を洗い歯も磨き終わったナギ達は朝食の準備をしてくれているナミ達の元へと向かって行った。
「ふわぁ〜……。リアったらこんなに朝早くに起こさなくていいのに。昨日は朝早くに目が覚めちゃったけどやっぱり本格的に戦闘をこなした後だと身体の疲れもハンパないわね。ちゃんとコンディションの表示を確認して体調を整えて置かないと」
「うむ、そうしなければ折角鍛えたステータスも十分に発揮できず相手に遅れを取ってしまうだろう。自分よりレベルやステータスの低い相手に負けることもあり得るかもしれん」
「そういうことよ。だからあなた達も早寝早起きを心掛けなさいね。コンディションの数値が80%以上ならほぼ最大限に自分のステータスを発揮できてるはずだわ。逆に50%を下回ってからは急激にステータスの減少値が大きくなるからね。ちゃんと気を配っておくのよ」
ナギ達より先に起きていた女性陣だったが皆目を擦ったりあくびをしたりでナギ達と同じくまだ眠たそうだった。どうやらリアに無理やり起こされたらしい。ナミは湯を沸かしているところで、他の者もそれぞれ朝食を作る作業をしていた。レイチェルと馬子は鉄板を用意し、昨日のヴォルケーノ・レックスの肉のあまりを焼いてバーガ用のパンに焦げ目をつけていた。肉の上にはスライスしたチーズが乗せられていた。セイナはレタスをむしってトマトを切っており、アイナはコップにインスタントコーヒーの粉を入れていた。朝食はヴァルケーノ・レックスのステーキバーガーとコーヒのようだ。
“ジュワ〜……”
「よ〜し、良い感じに肉が焼けてきたぜ〜。相変わらずすっげぇ脂の量だな。チーズもとろけてきたし、こりゃ昨日以上に美味く焼き上がったかもな」
「こっちもパンに焦げ目がついてきとるよ。もう皿に移すけんね」
「OK。それじゃあセイナ、先にレタスを敷いてくれよ」
「うむ、了解だ」
肉も焼き上がりパンに焦げ目がついたようでレイチェル達は更にバーガを盛り付けていった。まず下の部分のパンの上にレタスを敷き、その上にトロトロに溶けたチーズの乗ったヴァルケーノ・レックスの肉を置き、更にその上にトマトを乗せ、上の部分のパンで挟んでバーガーが完成した。ボリューム満点のとてもジューシーなバーガが出来上がっていた。
“ブクブクブクブク……、ピュー……っ!”
「あっ、もうお湯も沸いたわ。アイナ、もう入れていって大丈夫?」
「はい、私がスプーンで混ぜていきますから順番に入れていってください」
ナミの湯も沸いたようでアイナの用意したインスタントコーヒーに次々と湯を入れていった。それをアイナがスプーンで混ぜていき、ミルクと砂糖を添えて朝食は完成した。ちょうどナギ達もナミ達のところに戻って来たところだった。
「わぁ〜、美味しそうなバーガーだね。このジューしな匂いを嗅いだら一気に目が覚めちゃったよ」
「だろ〜。私もリアに叩き起こされた時は眠くて仕方なかったんだが、ヴァルケーノ・レックスの肉を焼いてたら体に火が点いたみたいにテンション上がっちゃってよ〜。こりゃ今日も大活躍だな私」
「もうっ、あんたはリアに行動ポイントを抑えるように注意されてたでしょう。今日も私達の後ろをゆっくりついて来てなさいよ。それよりコーヒーのお湯入れ終わったわよ。早く朝食食べちゃいましょ」
朝食ができたところにナギ達帰って来て、皆は昨日の夕食の時と同じように食卓を囲んでいった。だがここでナギがあることに気が付くのだった……。
「あれ……。そういえば塵童さんはどうしたの。僕達と同じテントで寝てたはずなのに朝起きた時から見てないよ」
「……それなんだけど、塵童の奴今朝早くにもう一人で出発しちゃったみたいなのよ。朝の4時ぐらいだったらしいんだけどその時見張りについてた馬子に伝言だけ残して行っちゃったみたいの」
「えっ!、そうだったのっ!」
皆それぞれ食卓の席へと着いて行ったのだが、そこには昨日であった塵童の姿はなかった。リアが言うにはすでに一人でキャンプを出てしまったようだ。塵童はナギやボンじぃと同じテントで寝ていたのだが、ナギ達が寝ている間にひっそりと出て行ったのだろうか。
「そうなんじゃけぇ。私が4時頃リアから見張りを交代してすぐだったと思うんじゃけど、急にナギ君達のテントから出て来てそのまま東の方へ行ってしもたんよ。勿論止めたんじゃけど私の言うことなんか聞く耳持たんくて。代わりにナギ君に“あくまで今回は一人で行くが次城の外に出る時はパーティを組んでくれ”って伝言を頼まれたんよ」
どうやら塵童は今朝早くに一人で旅立ってしまったらしい。その時見張りについていた馬子がキャンプを出て行く姿を見ていたのだが、馬子には塵童を説得することはできなかったようだ。塵童の固い性格からいって恐らくナギでもこの旅立ちは止めることはできなかっただろう。
「そっか……。塵童さんらしいって言えばらしいけど、できれば一緒に行動してほしかったな……」
「まぁ、あいつも私達の進行方向と同じ方角に向かって行ったみたいだし、また昨日みたいにモンスターに襲われてるところに鉢合わせるかもしれないわよ。だから早く朝食済ませて私達も出発しましょう」
塵童のことが気になっていたナギだったが、リアに促されて皆朝食を取り始めた。ヴォルケーノ・レックスのステーキバーガーのジューシさは皆の食欲をかなり刺激したようで、ナギ達はあっという間に完食してしまった。そして食後のコーヒーを飲みながらリアが今後の行動の予定について話していた。どうやらこの後すぐに集落向けて出発するようだ。隊列は昨日と同じ、朝早くに起こしたのは朝方のモンスターは比較的大人しくまだ眠っているものも多いかららしい。コーヒーの飲み終わったナギ達は設置したテントや道具をしまい昨日に続き集落を目指して行った。
“ダダダダダダッ……”
「……流石に疲れて来たわね。もうキャンプを出てから3時間近く走りっぱなしじゃない。ねぇ〜、リア〜、まだ集落には着かないの〜」
キャンプを後にしたナギ達は集落を目指し黙々と隊列を組んだまま草原を進行していた。現在の時刻は10時過ぎ、ナギ達がキャンプを出たのが7時頃であったからすでに3時間近く走っていることになる。スピードは昨日と同じく時速20キロ程度。リアの言った通り早朝のモンスター達はまだ眠気が覚めておらず周囲への感覚が鈍くなっており近くを通ってもほとんど気付くものはいなかった。気付いたとしても睡眠を優先し全く襲い掛かってくる気配のないものまでいた。そのおかげでナギ達は順調に進行で来ていたようだが、あまりにモンスターと遭遇しないためにナミやレイチェルは退屈してしまっていた。他の者達も流石に精神が疲れてきたのか早く集落に着かないかとウズウズしてしまっていた。ナミは隊列の右側の方から大きな声でリアに問いただしていた。
「そんなに焦らなくてももう着くわよ。あと10キロもないんじゃないかしら。だから皆気を緩めず集落まで走り切ってね。精神が乱れると集中力が切れて行動ポイントの消費も多くなっちゃうから。皆のステータスなら150キロぐらいまでは走り続けても平気な筈だから」
ナミに聞かれてリアも大きな声で返事を返してきた。ついでに他のメンバー達にも気を引き締めるよう喚起を促していた。ゲーム内のステータスの設定的にこの程度の距離なら走り続けても体力的には問題ないが、精神が乱れた状態で走っていると行動ポイントの消費が大きくなってしまう。特にモンスターと遭遇せず走り続けるというのはプレイヤーの精神にとっては一番きついことなのかもしれない。大抵のゲームには要所ごとに瞬間移動できるポイントが設置されており、これだけの移動時間を要するゲームをプレイするのはナギ達も初めてだろう。こういう趣向が好きなプレイヤーもいるが、せっかちなプレイヤーに取ってはこの仕様は苦痛だろう。
「いや〜、わしはこうやって大自然の中を駆け巡るというはスケールの大きさを感じられて嬉しいがのぅ。現実世界の老体では碌に登山もできやせんし。若からし頃の肉体より更に元気なこの体でこれだけの自然を満喫できるとは……。ゲームの世界とは何とも素晴らしいものじゃのぅ。昔は外に出ず家に引きこもる者が増える一方で敬遠しとったんじゃがの」
「全くじじぃは呑気でいいぜ。言っとくけどこんなに退屈な時間なんてゲームにはほとんどないぜ。まさか丸一日掛けて草原の中を移動することになるとは夢に思わなかったぜ。リアルさを追及するのはいいけど、ゲームなんだから面倒くさい作業は省いてもらいよな」
ボンじぃは先程言った前者のプレイヤー、レイチェルは後者のプレイヤーのようだ。RPGとは元々広大な世界を旅する雰囲気が好きな者がプレイすることが多かったため、大抵のプレイヤーはこういった趣向が好みなのだが、ここまで来ると逆にモヤモヤが溜まってしまうようだ。皆早く次のイベントに進みたいのだろう。
「……集落まであと2キロを切ったか。OK。皆〜、この辺りで一度止まって集まってちょうだい。集落がどうなってるのか分からないからまずは身を隠して様子を探るわよ」
「は〜い」
そうこうしている内にナギ達は後少しで集落に着くというところまで来ていた。だが集落に着く前にリアの指示で一度移動を中断し集まることになった。レイコの依頼の内容では集落からの連絡が途絶えているとのことだった。迂闊に近づくのは危険ということでまずは身を潜めて集落の偵察を行うようだ。
「それじゃあこのまま集落を視認できる距離まで歩いて移動するわよ。魔物除けの魔法も使ってあるし、集落の近くならモンスターもほとんどいないと思うから目立つ行動は避けるようにしてね」
ナギ達はそのままゆっくりと歩いて集落が視認できる位置まで移動した。リアの言う通り集落の近くということで周辺にはほとんどモンスターの姿は見当たらなかった。ナギ達はなるべく長けの高い草が生い茂っているところを移動し、集落の見えるところまで来ると身を屈めて草の中に蹲るようにして監視していた。集落からは大体500メートルくらい離れていた。
「……あったっ!。あれがレイコさんの言ってた集落だね。でもここからじゃ中の様子は分からないなぁ。動物を飼っているのは分かるけど、集落の人の姿までは確認できないや。よく社会の強化書なんかで見る放牧民の野営地みたいだね」
ナギ達の確認した集落はヴァルハラ国の建物に比べるとかなり見劣りする建物の集まりだった。住宅は全て木製で出来ていて、中井はナギ達が先程のまで泊まっていたテントのような住宅まであった。ナギの言う通り放牧民なのか、周囲には多数の動物と動物達を囲うための柵が設置されていた。
「ナギの言う通りだぜ。これじゃあ偵察もくそもねぇよ。集落の周りは開けた野原になってるし、これ以上近づいてもし集落に敵がいたら気付かれちまうぜ」
「そうね。ここからじゃ集落に人がいるのかどうかすら分からないわ。どうするの、リア」
ナギ達は身を潜めて集落の様子を探っていたはいいがここからでは集落の人影さえ確認できなかった。集落の周りは開けた土地になっていたためこれ以上近づくこともできずにいた。
「慌てないで。こういう時の為にこのゲームには遠視の能力が設定されているわ。これを使えば誰でもある程度離れた場所の光景まで確認できるようになるけど、武闘家や精霊術師なんかが得意に設定されているわ」
「遠視か……。本当は目の悪い症状の一つじゃけど、ゲームだとよく遠くを見る能力として設定されとるね。このゲームでも偵察の基本となる能力みたいじゃね」
「前者は目に気を集中させて、後者は魔力を集中させれば自身の視力が大幅に強化されて遠くの位置の様子まで確認できるようになるの。この中だったら……、ナミとアイナね。悪いけどちょっとやってみてくれない。アイナの場合は周囲の精霊に様子を聞く感覚でやると上手くいくわ。結構疲れるから気を付けてね」
リアに促されてナミとアイナは目に意識を集中させて様子を探ろうとした。遠視とは本来目の焦点がずれている症状のことを意味するが、ゲームの中ではよく遠くの光景を見る力として設定されているようだ。目を細めて見えやするのを数段強化した状態のようなものだろうか。急激に視力を強化するため目にかなりの負担が掛かってしまうようだ。行動ポイントの消費量もそれなりに多いだろう。ナミとアイナは目のピントの合わせ方に苦戦していたが無事集落の様子を確認できるまでに至ったようだ。
「うぅ……。これなかなか目のピントが合わなくてずっとぼやけて見えるわね。目もすっごく疲れるしこのままじゃあ集落の様子を確認でいるまでに集中力が切れちゃ……って待ってっ!。今ピントがピッタリ一致したわ。集落の中の様子がハッキリ見える」
「本当かにゃっ!。一体集落の様子はどうなってるにゃ、ナミっ!」
「私も今焦点が合いました。これは……建物の外に人が大勢いますね。この集落の住人でしょうか。皆村の牧草地の広場に集まってるみたいですけど何だか様子が変ですね、ナミさん」
「ええ……。なんだかここの住人とは思えない奴も数人混じってるわ。皮の鎧みたいなのを着てて、他の住人達の行動を仕切っているみたい。もしかして集落が盗賊にでも占領されちゃったんじゃないかしら」
「な、なんだってっ!」
「………」
ナミとアイナの遠視により集落の中の様子を確認できたのだが、どうやら少し様子がおかしいようだった。ナミが言うには集落の住人とは思えない鎧を着た男達にこの集落の住人と思われる人々が取り仕切られているようだ。余所の人間に占領されたということだろうか。ナミ達の話を聞いたナギ達は皆驚いていたが、リアはそのこと自体はゲームのNPCとしてある程度予想していたようだ。だがその割には深刻な表情をして集落の方を見つめていた。
「むっ、どうしたのだ、リア。あの集落が占領されていると聞いてから何やら浮かない顔をしているぞ。やはりヴァルハラ国のNPCとして近辺の族は許せないというわけか」
「別に……。そういうことが起こるように設定されているゲームだし、仕方ないわ。特に私はほとんどプレイヤーに近い意識の状態でこのゲームに参加してるからあなた達と同じように単なる一つのイベントしか見ていないわ。ただ周囲の賊は対峙しておかないとヴァルハラ国の治安と名誉に関わるわ。当然見掛けたのなら討伐するべきね」
「あれ?、でもリアあの集落に知り合いがいるって言ってなかったけ。てっきりそのことを気にしてると思ってたんだけど……」
「………」
リアの表情を見てナギはパーティへの同行を頼む時に言っていたことを思い出していた。どうやらリアはあの集落に知り合いがいるようだ。セイナには気丈に振る舞っていたがやはりその知り合いのことが気になるのだろう。とはいえ盗賊についてはリアと同じくこのゲームに登場するNPCキャラクター、悪人といえど特別嫌悪するような感情はないらい。ランクの低いNPCキャラについてはナギ達の世界の人々と同じく犯罪者を憎悪するよう設定されているようだが。
「なるほど、どうやらその知り合いのことが気になっていたようだな。盗賊達に酷いことをされていなければいいのだが……」
「別にゲームの中の盗賊だから設定されてる行動しかしないわよ。特別相手を痛めつけるようなことはしないはずよ」
「犯罪者って言ってもゲームのキャラクターだからな。私達の世界の悪人とは違うってわけか。……っで、その知り合いってのはどんな奴なんだよ」
「私と同い年のNPCで、魔弓術師の職に就いてる女の子よ。オレンジ色の長髪をしていて、それなりに背の高い女の子よ。多分ナミと同じくらいあるんじゃないかしら。服装は狩人みたいに露出の高い鎧を着ていると思うわ」
集落にいるリアの知り合いというのは魔弓術師の職に就いてる女性キャラクターのようだ。魔弓術師とはその名の通り魔力の篭った矢を放つ弓術士のことで、転職には弓術士のレベルを120、魔術師のレベルが80以上必要な上級職のようだ。この時点ですでにレベルが200を越えているわけだが、リアと同じく固有NPC兵士になれるレベルのNPCなのだろうか。だとすれば是非ヴァルハラ国の固有NPC兵士として参加してもらいたいものだが……。
「……見たところリアの知り合いって言う特徴を持った女の子はいないわね。牧草地にいるのは皆男だわ」
「だって。良かったね、リア」
「にゃ……。でももしかするともう盗賊に殺されちゃったってこともあるかもしれないにゃ……」
「ええっ!。そしたらその子どうなっちゃうのっ!。リアみたいにまたリスポーンできるんでしょ」
「それは無理ね……。ステータスとレベルはかなり高いけど、まだヴァルハラ国に入植しているわけじゃないし、特別な役割も与えられていないわ。もしもう盗賊に殺されてしまってたら二度とリスポーンすることはできないわ」
「そ、そんな……。どうして……」
リアに知り合いの特徴を聞いたナミは建物の外にいる人影を確認してみたがリアの知り合いと思われる女性の姿はなかった。ナギは安心していたようだが、もう盗賊に殺害されてしまった可能性も否定できないようだ。そのリアの知り合いはNPCとしてはかなり高い能力を保持しているようだがリアやレイコのように死亡時にリスポーンできる設定はされていないようだ。
「私や母さんはヴァルハラ国で特別な役割を与えられてるでしょう。母さんは牧場の管理者だし、私は初期の固有NPC兵士として志願するように設定されて登場しているわ。その子はまだヴァルハラ国に入植すらしてないし、リスポーンできるようになるには私と同じく固有NPC兵士になるしかないわね」
「でもリアと同じようにそんなにレベルが高う設定されとるNPCじゃったら盗賊なんかにはやられんのと違う。それなら救出してリアと同じように固有NPC兵士になって貰ったらええんじゃないの」
「そうね……。でも集落の住人が人質に取られてるみたいだし、抵抗できずにやられちゃったって可能性も否定できないわ。頭のいい子だから多分今は大人しく人質になって脱出の機会を伺ってると思うけど……」
「ならばなんとしても救出すべきじゃ。リアちゃんの知り合いとあってはその美貌も確かなはず……。それで一気に好感度を上げて結婚イベントまでレッツ・ゴーじゃっ!」
リアの話を聞いてナギ達は是非その女性NPC兵士を助けたくなったようだ、ボンじぃの意見は論外だが無事救出できればヴァルハラ国に取って貴重な戦力となってくれるはずだ。だが住人を人質に取られている以上迂闊に集落に踏み込むことはできず、ナギ達は暫くその場で様子を見るしかなかった。
「はぁ……。でも住民が人質に取られてるなんなら迂闊に手は出せねぇよな。私はこういうシチュエーションのゲームは苦手だぜ。いっつも人質の人間を死亡させちまってゲームオーバーになっちまうからな」
「そうよね……。戦争もののシューティングゲームなんかではありがちの展開よね。私もよくやっちゃうけどVRゲームになってから余計後味が悪く感じられるようになったわ。今回もできれば一人も人質を殺したくないわね……」
「そうですね……。ゲームのキャラクターとはいえ死亡するところは見たくないです。リアさんの友人みたいに中には重要なキャラクターもいるかもしれませんし……ってちょっと待ってください。あの住民達なんか変な行動取ってないですか、ナミさん」
どうすれば人質を一人も死亡させずに救出できるか考えていたナギ達だったが、あまり名案は浮かばなかったようだ。それどころか人質を死亡させてしまった時のことを考えて心が暗くなってしまっていた。だがその時アイナが牧草地に集まっている住民達の様子がおかしいことに気が付いたのだった。
「……本当だわ。牧草地に集まって何してるのかと思ってたけど、どうやら剣を持たされて素振りをしているみたいね」
「まるで訓練でもしてるみたいですね……。一人偉そうに地面に剣を突き立てて立っているのが盗賊のメンバーでしょうか。あんなに剣を持たされたのに抵抗しないってことは、やはりどこかの建物に人質が捕えられているみたいですね」
「でもなんで剣で素振りなんてしてるのにゃ。訓練させて盗賊の仲間にでも引き入れるつもりなのかにゃ」
「どうかしらね。適当に他の集落を襲わせて使い捨てにでもする気なんじゃないかしら。ゲームって言っても一応悪人NPCだからね。それぐらいのことはすると思うわよ」
盗賊達はどうやら集落の若い男性を集めて訓練をさせているようだった。リアが言うには自分達の捨て駒として利用するつもりだろうということだが、果たしてその通りなのだろうか。やはり悪人キャラとしてある程度の残忍さは設定されているようだ。剣を持った住人達が大人しくしているのは人質を取られているからであろうが、一体どの建物に人質が捕えられているのだろうか。
「ふぅ〜……、なんだか複雑な状況みたいだね。これがレイコさんの依頼してきたクエストの本格的な内容か〜。ただでは済まないとは思ってたけどいきなりこんな難易度の高そうな依頼だったなんて……。多分あんまり住民を死なせすぎちゃうとヴァルハラ国の評判が悪くなっちゃうよね。僕達も功績ポイントが差し引かれちゃうかもしれないよ」
「ナギの言う通りにゃ。ここははやる気持ちを抑えて慎重に行くにゃ。逆に全ての人質を救出できればヴァルハラ国の名声は辺りの町や集落に響き渡ることになるにゃ。いろんな恩恵を受けられて僕達も功績ポイントも多大に貰えるにゃ」
ナギ達はこのクエストの成功時のメリットと失敗時のデメリットについて考えていた。大抵のゲームは例え失敗しても何度でもやり直しがきくがこのゲームではそうはいかないだろう。一発勝負のゲームでも例え失敗してもプレイへの影響は少なく設定されている。だがナギの言う通りこのゲームでの人質救出失敗のデメリットはかなり大きいだろう。例え盗賊を全滅し集落を奪還しても人質の被害によっては逆にヴァルハラ国の評判が落ちナギ達の功績ポイントも差し引かれてしまうだろう。この程度の規模の集落ではヴァルハラ国の評判への影響はそれ程ないかもしれないが、ナギ達にとっては他のプレイヤーからの信頼も失ってしまうことになるので非常に重要なクエストと言えるだろう。プレイヤーによっては他の者達に任せてクエストを放置してしまうかもしれない。
「そうは言ってもねぇ……。私達の経験からするとこういうのは一回だと必ず失敗しちゃう。何度もやり直してパターンを覚えて初めて犠牲なしでクリアできるようになるのよ。このゲームだとやり直しはきかなそうだからますます緊張しちゃ……って待ってっ!。今度は集落に誰か近づいて来てるわ。真っ直ぐ住民達のいる放牧場の方に向かっている。あれは……ってあいつ塵童じゃないのっ!」
「な、なんだってぇぇぇぇぇぇっ!」
ナギ達がクエストについて話し合っているとナミが集落へと近づいてくる一つの人影を見つけた。ナミはなんとその人影の人物が塵童だと言いだし皆声を上げて驚いていた。塵童もナギ達と同じ方向に向かっていたためありえない話ではないのだが……。
「ほ、本当です……。あれは塵童さんに間違いないです。ゆっくり歩いてあの放牧場に向かって行ってます」
「あいつもしかして集落が盗賊に占領されていることに気付いてないんじゃねぇのか。これは不味いぜ。あいつの性格からいって相手が盗賊だと分かったら問答無用で手を出しちまう。そしたら人質も殺されちまってこのクエストもおじゃんじゃねぇかっ!」
「レイチェルの言う通りみたいね……。なんの警戒もせず普通に歩いて行ってるから多分たまたま集落を見つけて立ち寄ってみようとでも思ったんじゃないのかしら。昨日のナギの説得が仇になったみたいね。それまでのあいつなら集落なんて無視して先へ行ってもおかしくなかったのに」
「そ、そんなぁ〜。塵童さんは悪くないよ。それよりどうしようか、リア。……リア?」
「……くぅ〜、一体なんなのよあいつは……」
何も知らずに集落へと向かう塵童のことを知ってリアは頭を抱えて項垂れていた。予想外の展開にリアの頭がついていけなくなってしまったようだ。っと言っても何も事情を知らない塵童が集落へと足を運んでしまうのも仕方のないことだろう。普通集落とはプレイヤーに取って友好的な態度を取ってくれることが多く、数多くのイベントも発生するため見掛けたらまず立ち寄るのが鉄則だ。塵童は放牧場で訓練をしている住民のところへ向かっているようだがどうなるのだろうか。盗賊と対面した時にどういう対応を取るかが問題だが果たして塵童は冷静に対応することができるのだろうか……。




