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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第四章 初めての出陣っ!、VSウィザードラゴンラプター&ライノレックス
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finding of a nation 28話

 ナミ達がライノレックスの相手をして時間を稼いでいる間にリアは自身の魔力を最大限まで高めることができた。そして自身の使える中で最大の威力を誇る火属性上級魔法ヴォルケニック・ラヴァ・コラムをライノレックスに向けて放ったのだった。溶岩の柱を作り出すその魔法は完全にライノレックスを飲みこんでしまった。ナミ達は無事ライノレックスを倒せることを願ってヴォルケニック・ラヴァ・コラムを見守っていた。


 “ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ……”

 「ふぅ…、まだ燃え上がってるわね、このリアの魔法。この溶岩に包まれている間はずっとダメージを受けてるのかな」

 「どうだろうな。リアに直接聞いてみたらどうだ。ちょうどこちらに来たようだし」


 ナミ達がヴォルケニック・ラヴァ・コラムとその中に飲み込まれたライノレックスを見守っていると魔法を放ち終えたリアが少し疲れたような表情でこちらに向かってきた。剣を振るったことの疲れもあるのか左手に右肩を揉みながら首を回して筋肉を伸ばしていた。ヴォルケニック・ラヴァ・コラムの魔法について気になっていたナミはすぐさまリアに駆け寄って行きこの魔法の効果について問いただした。ナミに続いて他の皆ももう大丈夫だと思い溶岩から目を放してリアのところに向かって行った。ただセイナだけは溶岩から

目を放すことなく真剣な表情で端末パネルを開き中にいるであろうライノレックスを見据えていた。もしやまだHPが残っているということなのだろうか…。

 

 「リア〜、おつかれっ!。凄かったわね、さっきの魔法。…ってまだ続いてるみたいだけど、あれってまだダメージが発生してるの?」

 「ええ…、あの柱が消えるまではずっと継続ダメージが入ってるはずよ。最初に燃え上がった時に特大のダメージを叩きだして、後は威力の小さい継続ダメージが発生するの。まぁ継続ダメージの中でも威力は高い方で、ダメージの発生感覚もかなり短いはずよ。今の私の魔力なら後30秒ほどは消えないんじゃないかしら」

 「すごいにゃっ!。それならどんなモンスターも一発で倒せちゃうにゃ」

 「本当じゃけぇ。こんな強い魔法が使えるなんてこのゲームの魔術師は凄い優良職じゃね」


 ヴォルケニック・ラヴァ・コラムは最初に地面から炎が燃え上がった時に中程度のダメージ、その後の炎が溶岩に変わり上空へと吹きだした瞬間に大規模のダメージが発生する。その後は範囲内で効果が消えるまで小規模の継続ダメージが発生する。属性変換率は最初の炎は火属性100%、炎が溶岩に変わってからは火属性が80%、土属性が20%に設定されている。魔術師の職業レベルが100に到達した時に覚える魔法で、魔術師が習得できる中で2番目に強力な魔法だ。更に高威力の魔法はレベルが200を越えれば習得できるが、当然レベルアップに必要な経験値は爆発的に増加する。総合レベルを上げるためにも一先ず別の職に転職するのが無難な選択だろう。


 「そうでもないわ。さっき端末パネルで確認してみたけど今の魔法で詠唱時間が7分23秒も掛かってる。どんなにステータスやスキルレベルを上げても4分ぐらいまで縮めるのが限界でしょうし、今見たと思うけど高威力な魔法ほどダメージが発生するまでに時間が掛かるわ。そういう意味でアイナには随分助けられたわね。バインドがなければ範囲外に逃げられてたかもしれないし」

 「そんなに大したことじゃないです。リアさんの魔法にだって相手の動きに負荷を掛ける効果もあったみたいですし、私のバインドがなくてもきっと命中してましたよ」

 「確かに一度範囲に入ってしまえば対象の体に強烈な負荷が掛かるから大抵の奴なら動けなくなっちゃうんだけど、あいつの抵抗力なら多分突破して来てたわ。今もあの中からいつあいつが出てこないか心の中でヒヤヒヤしてるもの」

 「まさかっ!。いくらなんでもあの攻撃を受けて生きてるわけないわよ。だってあいつ火属性に弱いし今もあの中でダメージは発生してるんでしょう。魔法の効果が切れた時にはもう跡形もなく消し炭になってるわよ」

 「どうかしらね…。セイナが端末パネルでデータを確認してくれてるようだけど、私達も見に来ましょう。そろそろ柱も消え去る頃だと思うわ」


 ヴォルケニック・ラヴァ・コラムの中のライノレックスのことが気になるリアはナミ達ともに端末パネルでライノレックスのデータを確認しているセイナの元に向かった。ヴォルケニック・ラヴァ・コラムには重力を発生させ範囲内の敵の動きを封じる効果もあるようだ。リアはライノレックスがその重力を振り切って柱の中から出てくるのではと警戒していたが、流石に両足をバインドで封じられた状態であの溶岩の中を突き破ってくるのは不可能だろう。


 「どう、セイナ。もうライノレックスのHPなんて0になっちゃってるんでしょ。さっさとリアに画面見せて安心してあげなさい」

 「あ、ああ…、それが…」

 「えっ…、何よその反応は…。もしかしてあいつまだ生きてるの…」

 「…っ!。ちょっとどいてっ!。……これは…っ!」


 セイナの反応を見たリアはもしやと思い咄嗟の勢いで周りのメンバーを掻き分けてセイナの端末パネルを覗き込んだ。そこにはライノレックスの極僅かに残されたHPバーの表示が拡大されて映されていた。どうやらライノレックスはまだ生きているというもののすでにHPは1%程度しか残されておらずまさに瀕死の状態だった。


 「なんだ、豪く深刻な表情だったからこっちも心配しちゃったけど、まだ生きてるって言ってもHPのゲームはもう虫の息って感じじゃない。これなら魔法の効果が切れる前にあいつも力尽きちゃうわよ」

 「いや…、私もそう思っていたのだが実はHPのゲージが先程からずっとこの状態のまま減らないのだ。何やら特殊な効果が発動しているようなのだが…」

 「えっ…、それってどういうこと?」

 「つまりはライノレックスがこのHPのまま魔法の効果が切れても生きているかもしれんということだ」

 「そんな…っ!。リア、一体中でどうなっているのか分かんないのっ!」

 「ちょっと待って………っ!。この表示アイコンってまさか…」

 「な、なんにゃ…、どうしたのにゃ、リアっ!」


 ライノレックスのHP表示を見てナミは安心していたがセイナが言うのはどうも様子がおかしいらしい。ヴォルケニック・ラヴァ・コラムの継続ダメージによりライノレックスのHPは徐々に減少していたのだがここに来てピタリと止まってしまったらしい。つまりはHPが1%の辺りになってから全くダメージを受けなくなってしまったということだがどういうことなのだろうか。


 「これは突然変異のアイコンっ!。不味いわっ!。このアイコンが出たってことはライノレックスは更なる上位のモンスターに変異しているはず…。モンスターによっては何か特別な条件を満たした時に稀にこの突然変異が起こるんだけど、まさかこのタイミングで発生するなんて…」

 「えっ、何々っ!。じゃあライノレックスがもっと強力なモンスターに変化するってことっ!。一体どんなモンスターに姿を変えるっていうのっ!」

 「セイナ、ちょっとその突然変異のアイコンを押してみて。恐らく変異先のモンスターの情報が表示されるはずよ」

 「分かった」


 なんとリアが言うにはライノレックスは溶岩の中で別のモンスターへと変異しているらしい。モンスターの変異は特別な条件を満たすことで発生するようだ。セイナが端末パネルのアイコンを開くと変異先のモンスターの詳細とその原因が表示されていた。


 「変異先のモンスターは……、ヴォルケーノ・レックスっ!。火属性の超強力モンスターだわ。こいつの火属性の耐性率は80%を超えているはず…。魔法防御力も上昇してそれで継続ダメージが途絶えちゃったんだわ。まさかライノレックスがこんな奴に変異するなんて…。父さんの図鑑にはそんなの載ってなかったのに…」

 「ど、そうしてそんな奴に変異しちゃったのにゃ」

 「変異条件は強力な火属性ダメージを受けること…、そう画面には書いてあるわ。ごめんなさい…、私が調子に乗ってあんな魔法撃っちゃったせいだわ…」

 「そんな…、リアさんのせいじゃないですよっ!。誰もモンスターが変異するなんて予想できませんよ」

 「そうそう。リアの指示と行動は的確じゃったよ。おかげでドラゴンラプター達も全滅できたし、このライノレックスだって変異したとはいえここまでHPを削れたのもリアのおかげじゃろうし」

 「馬子の言う通りよ。いくらヴォルケーノなんちゃらに変異にしたって言ってもHPはもう1%以下なんでしょ。それなら火属性以外の攻撃でパパッと倒しちゃえばいいのよ。何だったらもうあの溶岩越しに攻撃しちゃっていいんじゃない」


 ライノレックスの変異先のモンスターはヴォルケーノ・レックスというそうで、火属性の耐性率が80%もあり、そのせいでリアのヴォルケニック・ラヴァ・コラムの継続ダメージが入らなくなってしまったようだ。変異条件は一度に一定以上の火属性ダメージを受けることのようで、リアのヴォルケニック・ラヴァ・コラムの中で最も威力の高い炎が溶岩へと変わる2回目の被ダメージの時に変異条件を満たしたようだ。そのまま継続ダメージを受けている間に変異を完了してしまったようだが、どうやらHPの割合に変化はなく

残りのHP量は1%のままだった。ナミはこのまま攻撃を加えて倒してしまうよう提案していたがそう簡単にいくのだろうか。


 「確かにそれしかないんだけどヴォルケーノ・レックスはとても今の私達のレベルで太刀打ちできる相手じゃないわ。恐らく並大抵の攻撃じゃ全くダメージは入らない。ヴォルケニック・ラヴァ・コラムと同程度の魔法かセイナのサンダー・オブシディアンブレードでないとまともにダメージを与えることは出来ないと思うわ」

 「そ、そんなに防御力が上がっちゃうの…。それじゃあ仕方ないけどまたセイナに頼むしかないわね」

 「うむ、任せておくのだ」

 「それじゃあ溶岩が消えない内にさっさと倒しちゃ……ってもう溶岩が消えていくにゃぁぁぁぁぁっ!」

 「なんですってぇぇぇぇっ!」


 リアの話ではヴォルケーノ・レックスのステータスはとてつもない高さで今のナミ達ではまともにダメージすら負わせることができないということだった。今この場にいる中でなんとかヴォルケーノ・レックスにダメージを与えることが出来そうなのはセイナのサンダー・オブシディアンブレードのみのようだ。サンダー・オブシディアンブレードの発動には多少力を蓄える時間を必要とするのでナミ達はヴォルケーノ・レックスが溶岩から出てくる前に止めを刺してしまおうとした。だがタイミング悪くヴォルケニック・ラヴァ・コラムの効果が切れ溶岩の中からヴォルケーノ・レックスが激しい咆哮と共にその姿を現すのだった…。


 “……ガウゥ………、ギャオォォォォォォォォンっ!”

 “ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……”


 ヴォルケーノ・レックスの咆哮はライノレックスの時よりも更に凄まじく、その空気の振動でまるで周囲に地震が発生しているようだった。溶岩の中から現れたヴォルケーノ・レックスの姿は、まるで溶岩で出来ているような赤く光沢のある体をしていた。何百…、いや何千度という熱を常に全身に帯びているようで体の周囲の景色が揺れて見えていた。体の形は基本的に変わっていなかったが、ライノレックスの特徴であった鼻の上の角はなくなっていた。肩の辺りには岩できた大きく横に突き出た肩当のようなもの付いており、その表面は火山岩のように斑晶が散りばめられていた。中には貴重な宝石なようなものの含まれていたが…。この火山岩による鎧の一部のようなものは他の部位にも装着されており、首には周囲に鋭い突起物の付いた首輪、足の膝、手の肘にはそれぞれその部分を守る鎧の一部、そして背中の上部にはまるで火山の噴火口のような形の突起物がいくつも付いた火山岩のプレートのようなものをしていた。ナミ達はその禍々しい姿に恐怖でおののいてしまい、身動きが取れずにいた。だがセイナだけは勇敢にも恐怖を振り切って体を反応させ、咆哮の振動による負荷をも気合でねじ伏せてすぐさま自身の剣に雷の魔力を溜め始めた。


 「くっ…、皆早く体を動かせっ!。このままではプレッシャーに押されてあいつの攻撃に何も反応できなくなってしまうぞ。私は早くあいつを仕留めねば。はぁぁぁぁっ…」

 “ガオ?、……ガオォンっ!”

 「何っ!。くっ……ぐぅぅぅぅっ……くはぁぁぁぁぁっ!」

 「せ、セイナっ!」


 ヴォルケーノ・レックスはセイナがサンダー・オブシディアンブレードを放とうと気を集中していくの見ると、すぐさまセイナに向かって攻撃を放ってきた。まるで息を吐くようにいとも簡単に口から直径60センチ程の火球を吐き出すと、それはかなりの速さにセイナに向かって行った。セイナは剣を正面に出して火球を受け止めようとしたが勢いに押され吹っ飛ばされてしまった。ダメージもかなりの量で、一撃でセイナHPの7割近く削ってしまった。この攻撃は特技というわけではなくヴォルケーノ・レックスにとって通常攻撃と等しいものであった。僅かな動作でこれ程の攻撃を放ちセイナと吹き飛ばしたヴォルケーノ・レックスにナミ達は完全に度肝を抜かれていた。


 「そんな…、一瞬であんな高威力の火球を吐き出してくるなんて…。こんなの勝てるわけないじゃない…」

 「にゃぁぁぁぁっ、それよりあいつの口を見るにゃぁぁぁぁぁぁっ。もう次の攻撃に入るために物凄いエネルギーを口の中に溜めていってるにゃぁぁぁぁっ!」

 「本当じゃけぇっ!。これは今の火球とは比べ物にならないくらいの攻撃が来るよ。ど、どうするけん、リアっ!」


 セイナを火球で吹き飛ばしたヴォルケーノ・レックスは続けて更に強烈なブレス攻撃を放とうと巨大な口を広げて口内にエネルギーを蓄えていた。凄まじい熱エネルギーが集まって行くヴォルケーノ・レックスの口内からは光熱が発生しており高熱を帯びた光がナミ達を照らしていた。ヴォルケーノ・レックスが放とうとしている技はイラプション・ラース・ブレスというモンスターの中でも使える個体の少ない特技で、口から火山の噴火のように溶岩が吹き出してくる技である。イラプションとは噴火、ラースとは憤怒という意味でまるでヴォルケーノ・レックスの凄まじい怒りを表すように火山の噴火のような爆発音と共にブレス攻撃が吐き出されてくる。威力、範囲ともにとてつもない大きさで、この攻撃が放たれればナミ達は間違いなく一瞬で全滅してしまうだろう。


 「……もうどうしようもないわ…。あいつの技が放たれれば間違いなく私達は全滅だし、それまでにあいつにまともなダメージを与えられる攻撃を放つのは今の私達には不可能だわ…。油断した私の責任よ…。ごめんなさいね、すぐにあいつのHPゲージを確認して溶岩から出てくる前にセイナに攻撃を指示していればこんなことにはならなかったのに…」

 「リアがそんな弱気なこというなんて…。これはもう本当にどうしようもないってことね。……まっ、仕方ないか。このゲーム始めたばっかりだし初めの内はこんなもんよね」

 「えっ…」

 「そうそう。初日でここまで進軍できただけでも大したもんじゃけぇ」

 「城を出てすぐに全滅した人達もいたみたいですね。次は集落までたどり着けるよう頑張りましょう」

 「にゃぁ…、僕はこれからあいつの攻撃を受けると思うと怖くて仕方ないにゃ…。そしてナギを残して死んでいってしまうのが仲間モンスターとして申し訳ないのにゃ。ナギ達だけでも無事に逃げてくれればいいんだけどにゃ」

 「あなた達…」


 ヴォルケーノ・レックスのイラプション・ラース・ブレスを前にしてナミ達はまるで自分達が戦闘不能になることを恐れていはいなかった。折角ここまで進軍してきたのにここで死んではまた城からのスタートになる上現実世界で24時間、ゲーム内で30日間のログイン不可のペナルティを受けてしまう。だがナミ達はまるでそのことを気にしていないようで、誰もヴォルケーノ・レックスに倒されてしまうことに対して文句を言わなかった。それどこら明るく前向きな発言ばかりしているナミ達にライノレックスをヴォルケーノ・レックスに変異させる直接の原因を作ってしまったリアは心の中で深く感謝していた。リアの中でプレイヤーに対する印象が変わり始めた瞬間でもあったのだ。


 「皆…、私のせいでここまでの苦労が無駄になるっていうのに明るい言葉ばかり言ってくれてありがとう…。私もあなた達と同じで戦闘不能になればこの世界で一か月の間リスポーン出来ないんだけど、その時はもう一度パーティ組んでちょうだいね。もしかしたらこのクエストは他の誰かが完了させちゃってるかもしれないけど…」

 「もちろんOKよ。私達こそごめんなさいね。リアの足引っ張っちゃって。どんどんモンスター倒してリアのレベルに追い付くから狩りにも付き合ってよ」

 「私もリアさんともっと一緒にプレイしたいです。また色々お話も聞かせてくださいね」

 「私もじゃけぇ。今日はアイテムのこととか色々教えてくれてありがとうね」

 「僕もナギ達に色々教えてくれてありがとうにゃ。僕でも知らないこと色々知っててとっても頼もしかったにゃ」

 「うむ、今度一緒にパーティを組むときは是非こいつにリベンジを果たそう」

 「セイナ…、無事だったのね」


 自分達の死を悟ったナミ達は皆リアに対して別れとお礼の言葉を掛けていた。NPCであるにも関わらず自分達にここまで良くしてくれたことに感謝していたのだろう。ヴォルケーノ・レックスに吹き飛ばされたセイナもなんとか起き上がってナミ達の元に向かってきた。皆は深い絆に結ばれるようにその表情は微笑みに満ちていた。だがヴォルケーノ・レックスの攻撃は止まることはなく今にもナミ達に向かって撃ち放たれようとしていた。


 “ギャオォォォォォォォォっ!”

 挿絵(By みてみん)

 「くっ…、これまでね…」

 「にゃぁ…、さよならにゃ、ナギ。なんとか無事で逃げてくれにゃよ…」

 「別れの言葉を言うにはまだ早いぜ、デビにゃん」

 「にゃあっ!」


 ナミ達が死を覚悟してヴォルケーノ・レックスの攻撃を受けようとしたその時、突如として左側の方からもうすっかりパーティになじんでいた威勢のいい声が聞こえてきた。ナギに別れの言葉を言っていたデビにゃんがもしやと思いそちらを振り向くとそこにはすでに凄まじい風の魔力を纏ったレイチェルとの姿があった。その隣にはナギとボンじぃもいたのだった。


 「れ、レイチェル…っ!」

 「いっくぜぇぇぇぇっ、ヴァイオレットォォォォォ……」

 “ギャオォォ……”

 「ストォォォォォォォムっ!」

 “ビュオォォォォォォォォンっ!”

 “ギャ…、ギャオォ〜〜〜〜〜〜〜ン……”


 突如ナミ達の左側から現れたレイチェルはすでに力を溜め終えていたのかそのまま最大限の威力を引き出してヴァイオレット・ストームを放った。レイチェルの姿を横目で確認したヴォルケーノ・レックスはすぐさまイラプション・ラース・ブレスの目標に変更しようとしたが顔がレイチェルに向いた瞬間ヴァイオレット・ストームによって叩き斬られてしまった。レイチェルの放ったヴァイオレット・ストームは先程のよりも更に威力を増していてその風圧の剣の全身は優に40メートルを超えていた。幅も5メートル近くありそのままヴォルケーノ・レックスの巨大な体を背中の辺りを押しつぶしていった。体の背中の部分がどんどん風圧と共にめり込んでいく痛みにヴォルケーノ・レックスは凄まじい悲鳴を上げていた。ヴォルケーノ・レックスはそのまま体を奇形な状態に変化させながら背中の辺りから前後に真っ二つにされてしまった。HPが残り1%しかなかったヴォルケーノ・レックスは体が溶岩のように溶け出しながら消滅していった。絶体絶命のピンチから目の前でヴォルケーノ・レックスが消滅していく様子を見てナミ達は放心してしまっていた。その服や髪の毛はヴァイオレット・ストーム作り出した爆風の余波によって静かに揺らめいていた…。


 「………や、やったの……本当にやっつけちゃったの…。きゃあぁぁぁっ、本当に助かっちゃったぁぁぁぁぁっ!。素敵よ〜、とっとも格好良かったわ〜、ありがとう〜、レイチェル♪」

 「にゃぁぁぁぁっ!、ナギもボンじぃも無事だったにゃぁぁぁぁっ!。まさに間一髪だったにゃぁぁぁっ!」

 「本当です〜。もう完全に駄目だと思ってました〜。本当にありがとうございま〜す」

 「私もじゃけぇ〜っ!。まさかあのタイミングで駆け付けてくれるとは思わんかったよ〜」


 ヴォルケーノ・レックスが消滅したのを見てナミ達は喜びの声を上げてレイチェル、そしてナギ達の元へと駆け寄って行った。だがリアは未だに放心状態から立ち戻っておらず、それを察したセイナがリアにもナギ達のところに向かうよう声を掛けるのだった。


 「リア、いつまでそうしているつもりだ。早くナギ達の所に行くぞ。そしてレイチェルにお礼を言わねばな」

 「え、ええ…」

 

 声を掛けられて放心状態から覚めたリアはセイナと共にナギ達のところに向かって行った。


 「へへっ、皆無事だったみたいだな」

 「何言ってんのよ。みんなあんたのおかげじゃない。まさかあのタイミングでヴァイオレット・ストームを撃ってくるとは思わなかったわ」

 「私も驚いたけん。よくあいつが攻撃してくる前に倒すことができたね。あの技って結構発動するまでに時間が掛かるじゃなかったけぇ」

 「それがレイチェルの奴溶岩の中にいるライノレックスに私も一発叩き込むって聞かなくてさぁ。僕は行動ポイントが勿体ないからやめるように言ったんだけどそんなの無視して溶岩が消える前から力を蓄え始めてたんだよ」

 「それであいつが出てきてすぐにヴァイオレット・ストームを放つことができたんですね。私達もライノレックスがあんなモンスターに変異するなんて思ってませんでしたからレイチェルさんの無茶っぷりに助けられましたね」

 「アイナの言う通りよ。もしあのままライノレックスが死んでいたなら1000ポイント以上も無駄になっていたのよ。全く馬鹿としか言いようがないわ」

 「リアっ!」


 どうやらレイチェルは何故か溶岩が消えてヴォルケーノ・レックスが出てくる前からヴァイオレット・ストームを放つための力を蓄え始めていたらしい。もしリアのヴォルケニック・ラヴァ・コラムで無事ライノレックスを倒すことが出来ていたのならレイチェルの攻撃は全くの無駄に終わっていたため通常なら考えられない行動だが今回はレイチェルの無鉄砲さに助けられたようだ。そしてリアもレイチェルの無茶ぶりに皮肉を言いながらゆっくりと近づいて来た。


 「なんだよリア。確かに無駄だったかもしれないけど今回はおかげで助かったんだからいいだろ。私だって溶岩からあのヴォルケーノ・レックスって奴が出て来た時には驚いたんだからな。その瞬間から慌てて力を蓄えるスピードを上げてヴァイオレット・ストームを放ったんだぜ。少しはお礼を言ってもらってもいいんじゃないかなぁ〜」

 「全くたまたまタイミングが良かっただけなのに図々しい奴じゃわい。まぁわしもまさかあんな化け物が出てくるとは思わなんだから偶然とはいえ大したもんじゃがのぅ」

 「分かってるわよ。ちゃんとお礼は言っとくわ。ありがとうね、レイチェル。でも今度そんな意味もなく行動ポイントを無駄にするような真似したらリーダーとしてタダじゃおかないからね」


 レイチェルのおかげで絶体絶命の危機を脱したのだがリアの言う通り本来ならレイチェルのとった行動は決して褒められるものではなかった。このゲームにおいて無駄に行動ポイントを消費することはそのままそのプレイヤーの死に直結する。他のパーティメンバーからすれば例えHPが残っていてもその場に置き去りにするしかないからそのままパーティが一人欠けてしまうことになる。ヴァイオレット・ストームのような尚更行動ポイントを消費するような大技を使ってはリアが怒るのも無理はないだろう。

 

 「ちぇっ、相変わらずリアは厳しいなぁ。今回ばかりは私の事認めてくれると思ったんだけどな」

 「それがそうでもないわよ、レイチェル。リアったらさっきヴォルケーノ・レックスに倒されるかもしれないって思った時なんて言ったと思う〜。なんとあのリアが死んでもまたパーティ組んでって言ってきたのよ〜。だから口では刺々しいこと言ってるけど内心ではもう私達のこと仲間って認めてくれてるわよ。あんたの行動が無茶苦茶だってのは本当だしね」

 「えっ、それほんとうかっ!。本当にリアがそんなこと言ってたのかっ!」

 「ちょっとっ、余計なこと言わないでよっ!。あれは私のせいであんなことになっちゃった責任感から出た言葉よ。一度引き受けた以上このクエストの完了までは協力してあげないとって思っただけ。別にずっとあなた達とパーティを組みたいなんて思った覚えはないわ」

 「(にゃ…、確かにナミの言う通り口ではあんなこと言ってるけどリアのプレイヤーに対する意識は確実に変わりつつあるにゃ。それもかなりいい方向ににゃ。このままいけばリアはナギ、そしてヴァルハラ国にとって貴重な戦力になることは間違いないにゃ)」


 ナミやデビにゃんの言う通りリアは表面には出さなかったが確実にプレイヤーに対する印象は良いものに変わっていっているようだった。固有NPC兵士となったNPCキャラはそれぞれに特別な条件を満たすことによって能力が上昇していくことがある。リアにとってそれはプレイヤーとの信頼を強めることですでにリアのステータスに影響を与え始めていた。なんとリアのSTRとMAGの基礎値が10%程上昇していたのだ。当然リアは自身でそのことに気付いていたが決してナギ達に打ち明けることはなかった。恐らくまだ自分自身でプレイヤーに好印象を抱いてきていることを認めたくなかったのだろう。


 「それより皆、これからどうするつもりなのだ。このままクエストをクリアするために集落を目指すのもいいが皆先程の戦闘でかなりの行動ポイントを消費してしまったのではないか。かく言う私もすでに行動ポイントの残量は8000ポイントを切ってしまっている。つい先ほど大量の経験値を入手したおかげレベルが上昇し、その上昇分はそのまま回復しているようで、思ったより消費は抑えられているが果たしてこれで無事集落までたどり着けるのだろうか」


 皆がワイワイと窮地を脱した後の会話を楽しんでいる中セイナだけは冷静にこれからの行動について考えていた。リーダーをナギに譲ったとはいえやはりMMOに関しては超上級プレイヤーである。あれ程の戦闘をこなした後だというのに心には全く乱れがなかった。普通あの状況から無事生き残ることが出来れば喜びと感動で心が舞い上がってしまい嫌でもはしゃぎたくなるものだが、戦いが終わればセイナにとってはどのような激しい死闘も単なる1戦闘というわけなのだろうか。


 「全くあんたは少しは喜んだり悲しんだりすることを覚えた方がいいわ。あれだけの戦闘をこなした後でもう次のことを考えてるなんてあんたターミネーターかなんかなんじゃないの。……でも確かに私も結構な行動ポイントを消費してしまっているわ。こりゃ確かに今後の行動をもう一度練り直したほうがいいかもね」

 「ナミとセイナの言う通りよ。このゲームの行動ポイントの消費は自身の集中力によって大きく変化するわ。これだけの戦闘をこなした後だと皆集中力が途切れて移動するだけでもかなりの行動ポイントを消費することになるわ。ここは一度どこかでゆっくり休んでそれから移動を再開した方がいいわね。集落向かうか城に戻るから休みながら考えましょう」


 セイナの発言は正しくナギ達は皆先程の戦闘でかなりの行動ポイントを消費していた。特にウィザードラゴンラプターを相手にしたセイナ、ヴァイオレット・ストームを再び放ったレイチェル、そしてヴォルケニック・ラヴァ・コラムを放ったリアの三人はより多く行動ポイントを消費してしまっていた。そのことを考慮してリアは一度休息を取ることに決めたようだが、果たしてどこで休息を取るべきなのだろうか。


 「今の時間は……午後3時過ぎってとこか。城を出て大体2時間弱ってところね。ちょっと早いけどもうどこかでテントを張って宿泊準備をしましょう。一度ぐっすり休んでからでないと行動するのは危険だわ。皆端末パネルを開いてこの辺りのマップを見てちょうだい」

 「は〜い」


 どうやらリアは今日は移動を中断してもう野宿するための準備に入るようだ。皆の先程の戦闘の疲労度合から考えてこのまま集落への移動を続行するとかなりの行動ポイントを消費してしまうと判断したのだろう。このゲームはいくらHPや体の疲労度は魔法やアイテムで回復できてもゲーム対する集中力までは回復できない。どんなゲームでもそうだがプレイする時間が長くなり内容が濃くなるほどより集中力を消費してしまう。普通ならば一度ゲームを中断して精神を休ませるところだがこのゲームの場合ゲームそのものの世界の中で休憩することにより集中力も回復する。


 「開いたよ。テントを張るってつまりは野宿するってことだよね。そんなことして大丈夫なのかなぁ。休んでいる間にモンスターが襲ってきたりすることもあるんじゃないの」

 「その為にちゃんと魔物除けのアイテムを買っておいたでしょ。いいからマップを見なさい。ここから5キロ程北東に行った所に川が流れているマークがあるでしょ。今日はそこまで行って宿を張ることにするわ」

 「なんで川の近くなのにゃ。別にここで野宿してもいいと思うんだけどにゃ」

 「水辺の近くの方がモンスターの出現率が低いからよ。それに水も確保できるしね。店で買った分と違ってアイテム化できないから今持ってる水はできるだけ節約して飲むのよ」

 「了解じゃけぇ。なんか野宿って聞くとワクワクしてきたね。キャンプなんてしたの小学生の頃に行ったボーイスカウト以来じゃけぇ。家は牧場じゃけぇ自然にはいつも囲まれ取るけど」

 「それじゃあここから隊列を崩してゆっくり歩いて行くわよ。これ以上行動ポイントを消費するのは避けたいからね。モンスターとの戦闘も出来るだけ避けるようにするのよ。どうしてもって時はナミに撃退をお願いするわ。前衛の中じゃあ一番行動ポイントが残ってるしね」

 「了解よ」


 こうしてリアの指示でナギ達はキャンプを張る場所を確保するために水辺を目指して行った。余計な体力の消費を抑えるためにここからは隊列を組まずに皆で固まって歩いて行くことにしたようだ。集落に向かう途中で思わぬ足止めを食ってしまったが万全の態勢で集落に乗り込むためにも最善の選択だろう。もし集落に先程のライノレックスのような強敵がいた場合今度こそ全滅してしまう恐れがある。ナギ達は先程の緊張からホッと胸を撫で下ろす気持ちでキャンプ先へと向かって行くのだった。



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