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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第一章 ゲームの説明……そしてモンスター討伐大会っ!
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finding of a nation 1話

 finding of a nation のログイン画面へと移動した愛流は、いつも通りメールで送られていたパスワードを入力し、伊邪那岐命というIDとキャラ名でゲームを開始した。そして愛流は闇の中に吸い込まれるようにfinding of a nation のロビールームへと転送されていった。


 「……ふぅ〜…何とか無事にロビールームに着けたぞ。……うわぁ〜、凄い人の数だなぁ…、ここにいる全部同じサーバーでプレイするのかな。……サーバーパンクしちゃわないかな…」


 ロビールームへと来ると愛流は一面に広がるプレイヤーの海に驚いていた。ロビールームはかなり簡素なつくりになっており、地面に真っ白の床が張っているだけで、後は果てのない空間のようになっていた。どうやらここはゲームを開始する前に一度プレイヤーを集めて説明をするためだけに作られた仮のロビールームのようだ。


 「あっ…そうだ、早くカイルを探さないと…。えーっと、まずは端末パネルを開いて…」


 愛流はゲーム内で開ける操作用の端末パネルを開いてカイルがどこにいるか検索しようとした。だが愛流が名前を入力する前にカイルの方からこちらを検索して来てくれた。


 「よっ、ナギ。やっぱり今回もその名前でログインしたんだね。一人だけ漢字だったからすぐに見つけることができたよ」


 カイルは漢字の伊を入力しただけで愛流…、いやナギのことを検索できたらしい。こういうゲームは大体皆カタカナを使うことが多いので、愛流の名前は目立っていたようだ。他にも伊藤なんちゃらとかいう名前もあったのだが、十件ほどしかヒットしなかった上にナギの名前が特徴的だったのですぐに見つけることができたのだった。


 「やぁ、カイル。そっちも相変わらず自分の本名を少しもじっただけで使ってるみたいだね。カイル・コートレットだっけ。苗字は適当みたいだけど、よく実際の名前なんて使えるよな〜」

 「別に下の名前だけなら平気だよ。漢字も珍しいし、それにゲーム内のアバターは現実世界のものと一緒になるんだから違う名前で呼ばれるのも違和感あるし」


 この世界のVRMMOは基本的に現実世界の人体と全く同じ姿のアバターに設定されるらしい。服装も今は現実世界と同じようだった。装備などは変更できるが髪型は変えられないようだ。髪の長さや色は変えられないが、ゲーム内で髪を束ねたり下ろしたりなどはできるらしい。といってもこの時代は美容技術も発達しており、現実世界でも奇抜な髪型を作ることができ、髪型や服装などによる規制や偏見などもほとんどなかったため皆現実世界でゲーム用に髪型などを整えて来ているようだ。現実世界とゲーム内のアバターが同じ設定なのは、ヴァーチャル・リアリティ空間と現実世界の自分に違いがありすぎると、現実世界の自分に違和感を感じ、精神に極度の負担を掛けてしまう人がいるかららしい。同じアバターに設定していても違和感を感じる者はいるそうだが、仮想のアバターを使うよりずっと負担が減るらしい。

因みにナギの姿は身長170センチほどで、髪の毛は赤色、男性にしては長めの髪で、全体的に少し髪を逆立てている。カイルの身長は175センチ程度で、ナギより少し大きい。少し長めの黄色い髪の毛で、前髪を少し横に流していた。


 「あっ、いたいた…、あれが伊邪那岐命ね。お〜い〜…」

 「うんっ?」


 ナギとカイルが話しているところに後ろからナギ達と同い年ぐらいの女の子が声を掛けてきた。ナギと同じく綺麗な赤色をした髪の毛で、サラッと腰の辺りまで伸びた長髪を後ろで束ねてポニーテールにしていた。身長はナギより少し高くカイルよりは低い程度で、女性にしては背が高めだった。


 「えーっと…、こっちの赤い髪の奴が伊邪那岐命ね。私はナミ、よろしくね」

 「う、うん…、よろしく…。……って誰、カイルの知り合い?」

 「い、いや…、僕も初めて会う子だよ…」


 元気よく話し掛けられたナギ達だったが、全く面識がない相手にいきなり親しげに話し掛けられたため少し戸惑っていた。どうやら彼女はナギの名前を検索して声を掛けてきたらしい。


 「あっ、いきなりこんな調子で話し掛けれたらそうなるか。ごめんなさい、私、さっきはナミって言ったけど、実はそれは略称で本当は伊邪那美命(いざなみのみこと)ってキャラネーム何だ。それでもしかしらって思って伊邪那岐命って検索したらヒットしたらしくて嬉しくてつい声掛けちゃったんだ」


 伊邪那美命とは愛流がキャラネームにしている伊邪那岐命の妻のことで、どちらも日本神話に出てくる神々のことである。神話の中では夫婦で協力して日本を作ったとされているが、途中で離縁してしまい、伊邪那岐は伊邪那美に殺されかけている。


 「なんだぁ〜、そういうことだったのか。いきなり可愛い子に話し掛けられたからつい驚いちゃった」

 「えっ……もうっ、初対面でそんな事言わないでよっ!。恥ずかしくなっちゃうじゃない…」


 自分は初対面で馴れ馴れしく話し掛けてきたくせにナミは顔を赤めて恥ずかしがっていた。どうやらナギは明るく元気な性格であるが少し照れ屋のようだ。


 「ごめんごめん、じゃあこっちも自己紹介するね。僕は伊邪那岐命。ナミと同じように皆からナギって呼ばれてるよ」

 「僕はカイル、カイル・コートレットだ。ナギとはオンラインゲーム仲間で、VRMMOをやる時はいつもナギと一緒に遊んでるよ。よろしくね」


 ナミが話し掛けてきた理由が分かってナギ達は正式に自己紹介をした。ナギ達は無事に仲間同士共に抽選に受かったようだが、ナミのゲーム仲間は揃って落選してしまい、今回は一人も知り合いがいないようだった。


 「いいなぁ〜、私の友達は皆抽選に落ちちゃって、今回は誰も知り合いがいないのよねぇ…」

 「だったら僕達と一緒に行動する?。初めてのゲームだし、序盤は出来るだけ固まって行動した方がいいだろうし」

 「いいのっ!。私も何だかこのゲーム考えることが多そうで不安だったの。どの職業選ぶか一緒に考えてくれると嬉しいわ。…って何だか周りが騒がしいわね」


 ナギ達は折角なのでナミと一緒に行動を共にすることにした。MMOPRGは大体8人パーティが基本だったので、固定メンバーは出来るだけ多い方がいい。だが今回のfinding of a nation は建国シミュレーションということなので、固定メンバーだけでなく同じ国に所属している全てのプレイヤーたちと連携を取らなければならないだろう。


 “ガヤガヤッ…”

 「おい…、あれって女優の美城聖南みしろせいなじゃないのか…。オンラインゲーマーだって噂は本当だったのか…」

 「ああ…、かなりガチの廃人プレイヤーらしいぜ。まさかこのゲームに当選していたとはな…」


 周りが騒がしかったようだがそれはあるプレイヤーの影響だった。そのプレイヤーは美城聖南、可憐で上品な容姿と完全に役に入り込んだ演技力で今を時めく人気女優である。年齢はナギ達より少し上程度で、身長は164センチほど、お尻に届くほど綺麗にまっすぐ伸びた黒髪と、大きな黒い瞳が印象的である。睡眠学習システムの影響で最近は仕事の忙しい芸能人でもVRMMOをプレイしていることも多いらしい。因みにプレイヤーネームは自分の苗字をもじってセイナ・ミ・キャッスルにしている。


 「へぇ〜、あれが美城聖南かぁ。やっぱり美人だなぁ、でもまさか一緒にプレイできるなんて夢にも思わなかったな」

 「私、この前まで同じVRMMOでプレイしてたわよ。確か全ステータスカンストで、ゲーム内のランキングで上位10以内に入ってたわ。ガッチガチの廃人プレイヤーね」


 どうやらセイナはかなり凄腕のMMOプレイヤーらしく、前のゲームでは全ステータスがカンストするまでやり込んでいたらしい。ロビーのプレイヤー達は皆セイナに注目して騒がしくしていたが、セイナは全く見向きもせず端末パネルで説明書を読んでいた。そして他のプレイヤー達も落ち着き始めたころ、ロビー内にアナウンスが流れ始め、どうやら本格的なゲームの説明が始まるようだった。


 「大変お待たせいたせました。只今より建国シミュレーションバトル型MMORPG、finding of a nation の説明を開始したいと思います。ロビー内の皆様は端末パネルを開いて、映像と共にこのゲームのシステムを把握してください。ではまずこの建国ナンバー3のトップを務めるプレイヤー、そして与えられた国家を紹介したいと思います。正面に現れる舞台にご注目ください」


 アナウンスが終わると真っ白だった空間が黒く変わり、正面と思われる方向にライトが当たるとそこに突如として舞台が出現した。ロビーのプレイヤー達はざわつきながら舞台に注目した。


 「何っ、建国ナンバー3って…、ここにいるプレイヤーってゲームに参加してる全員じゃないってことっ!。私達の国だけで一体何人のプレイヤーが参加してるのよ…」


 ナミはここにいるプレイヤーが参加者全員ではなく、自分達の国のプレイヤーだけだと聞いて驚いていた。ここにいるプレイヤーだけで数万人はいたため、他の国があといくつあるか分からないが参加者全員で数十万人は下らないだろう。


 「皆様、ではこれからこの国の王となるプレイヤーを紹介いたします。国名はそのプレイヤーから発表していただきます。ゲームの説明なども全てそのプレイヤーにお任せしておりますので、私はここで失礼いたします。では皆様、finding of a nation をごゆっくりお楽しみください」


 その言葉を気にゲーム内に表示されたアナウンスのマークは消えてしまった。どうやら本当に王に選ばれたプレイヤーにゲームの説明をさせるようだが、果たして大丈夫なのだろうか。ロビー内のプレイヤー達に不安が立ち込めはじめていた。そんな中舞台の奥から王に選ばれたと思われるプレイヤーがゆっくり歩いてきた。


 「え〜皆さんっ、私が抽選の結果、この建国ナンバー3の国の王、もとい女王を務めさせていただくことになりましたブリュンヒルデですっ。……そして、私達に与えられた国家の名前は……ヴァルハラですっ!」

 「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 ロビー内のプレイヤー達は王を務めるというプレイヤーの姿を見て一斉に驚いた。王ではなく女王ということもあったが、何よりとてつもない美人だということだった。綺麗に後ろに下ろされた金色の髪が神々しいまでのオーラを放っており、まさにブリュンヒルデの名に相応しい人物だった。その美しさに先程騒がれていた美城聖南の存在も霞んでしまっていた。本人は全く気にしていない様子だったが。


 「ま、まさか俺達の女王がこんなにも美人だったとは…。これには不安も吹っ飛んだしまった。これはもう男しては全力をつくしかねぇっ!」

 「本当…女の私でも思わず見とれてしまうぐらいの美しさだわ…。しかも性格もしっかりしてそうで、頼りになる女王様になりそうね。それにしても本当に抽選で選んだのかしら…」


 どうやらブリュンヒルデの姿を見て皆の不安は吹っ飛んだようだ。女王の名前はブリュンヒルデで固定らしく、自分で決めることは出来なかったようだ。


 「うわぁ…本当に美人…。なんか本当に女神様みたいね…。ねっ、ナギ」

 「う、うん…。あの人が女王だったら皆納得なんじゃないかな。それにしても、国名がヴァルハラってことは今回は神話を舞台にしているのかな」

 「そうだね、どうやら神話や中世の時代を元に作られてるみたいだよ。多分剣と魔法で戦うファンタジー的な世界なんじゃないかな。建国って言っても現代に使われてる科学技術なんかは出てこないみたいだね」


 ブリュンヒルデの美しい姿にナギ達も見惚れてしまっていた。ヴァルハラやブリュンヒルデの名前の通りどうやらナギ達の国は北欧神話の一部をモチーフにして作られた国のようだ。基本的に剣や槍、弓などの中世までによく使われていた武器や、神話などで登場する魔法などが登場する典型的なファンタジー世界のようだ。建造物や、農業や漁業などの技術、産業の仕組みなども16世紀ごろまでのものに設定されているだろう。それ以上先の時代の技術や武器を取り入れるとゲームのバランスの調整がかなり難しくなってしまう。火器については火縄銃などの比較的初期の物であれば登場するかもしれない。


 「えーっと、これからまず私に与えられた国、ヴァルハラ国の特性などについて説明していきたいと思いますが…、実はこのゲームの製作者兼プロデューサーの方から皆様にお伝えするように言われていることがございますので、まずはそちらを聞いてください。私もにわかには信じられないことでしたので、皆さんも驚かれるかと思いますが…」

 “ザワザワッ…”

 「何だ…、何だか急に深刻な表情になったぞ…。一体何が発表されるんだ」

 「本当…、まさかゲームをクリアするまでログアウト出来ないとかじゃないわよね。アニメや漫画の世界じゃあるまいし…」


 ブリュンヒルデの言葉を聞きてロビー内のプレイヤー達がまたざわつき始めた。ブリュンヒルデの深刻な表情がそれがかなり重大なことであることを物語っていた。


 「……この第1回のfinding of a nation にて優勝国になった場合…、その優勝国のプレイヤー達にはこのサーバへとの半永久的なアクセス権が与えられるのですっ…」

 「へっ…」


 ブリュンヒルデの発表を聞いてロビー内の一同は呆気に取られていた。その内容は確かにプレイヤー達にとって嬉しいことではあったが、別段驚くべき内容ではなかった。いくら半永久的にアクセスできるといっても所詮はゲーム…、飽きればログインなどすることはないし、そもそもこのゲームにおいてクリアをするということは目的をほとんど達成してしまうということである。自由に国造りが出来ると思えば嬉しいが、肝心の敵国がいないのであれば楽しさ半減である。それても優勝したプレイヤー達が主催として何度もこのゲームをプレイ出来るということなのだろうか…。


 「な、なんか緊張して損しちゃったわね…。別に一回クリアしたらもうやらないわよ。それだったら他のサーバに移動して他の国家を使ったり、別のプレイヤー達と遊んだ方が楽しそうじゃない」

 「う、うん…、優勝することが目的のゲームだし、その後にやり込み要素とかあってもほとんど意味ないし…。何度も最初からプレイできるなら話は別だけど…。他の国家に所属してみたり、職業を変えたりとかね」


 どうやらナギとナミもこの発表にはがっかりだったようだ。普通のMMOならまだしもと言いたいところだが、そもそも大体のVRMMOはサービスが終了しない限り半永久的にログインできる。よってこの賞品はプレイヤー達に全く価値のないものだった。


 「待ってっ、まだ何かあるみたいだよ…」


 ナギやナミ、他のプレイヤー達がすっかり意気消沈している中、カイルはブリュンヒルデの発表には続きがあることを察していた。そして少し間を置いてからブリュンヒルデの重い口が開き始めた。どうやらここからが本題のようだ…。


 「……今言ったことだけでは熟練のプレイヤーの皆さんにとってそれほど驚くべきことではないかもしれませんが、実はこの話には続きがあって、そこからが私達、いや、世界中の人々にとって重要なことなのです」

 “ガヤガヤガヤッ…!”


 ブリュンヒルデの世界中という言葉を聞いて再びプレイヤー達が騒ぎ始めた。今度は先程より騒動となっているようだった。ゲームに参加しているプレイヤーだけでなく、世界中の人々にとっても重要とは一体どういうことなのだろうか…。


 「……大変信じがたい話ですが…、今我々がいるこの世界は普通のヴァーチャル・リアリティ空間ではなく、ネットワークの中に実在する電子によって作られた本物の世界…、いうなれば電子による現実世界、エレクトロ・リアリティ・ワールドなのですっ!」

 「えっ…」

 「はあっ!」

 「あぁんっ!」

 「何だってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 ブリュンヒルデの発表を聞いてプレイヤー一同は大声を上げて驚いた。この世界が仮想ではなく電子によって作られた現実に存在する世界だというのだから当然だろう。だが本当にそのようなことがあるのだろうか。


 「で、電子世界って、どういうこと…。一体ヴァーチャル・リアリティ空間と何が違うって言うの…っ!」

 「そ、そうだよね…。電子かヴァーチャルか知らないけど、どちらもデーター上に作られた架空の世界ってことは同じじゃないの…。って言うかむしろ名前を言い換えただけなんじゃ…」


 ナギとナミはブリュンヒルデの言っていることを理解できていないようだった。だがそれはロビー内のプレイヤー達全てが同じで、皆普通のヴァーチャル・リアリティ空間と何が違うのか疑問に思っていた。


 「急にこのようなことを言われても理解できないと思うので、順を追って説明していきます。まずはゲーム操作用の端末パネルを開いて、そこのトップページからこのゲームの容量の項目を見てみてください」


 ブリュンヒルデの指示に従って皆容量の書かれた項目を見てみた。そこにはとんでもない数字と、更に他のゲームにはない項目が書かれており、プレイヤー達はまたしても驚かせることになるのだった。


 「えーっと…、なになに……なっ!、げ、ゲーム容量2,378ゼタバイトぉぉぉぉぉっ!。せ、生命エネルギー量8,467,332,589,624オルゴンですってぇぇぇぇぇぇぇっ!。っていうか生命エネルギー量って何よっ、まさか本当にデータがエネルギーを持ってるって言うのっ!」

 「ぜ、ゼタバイトなんて単位聞いたことないよね…。生命エネルギーって最近測定可能になった生命体の持つ総エネルギーのことだよね…。体重や筋力、体温みたいな物質的なエネルギーだけじゃなくて、知識量や精神力、集中力や技術力までその生命体の持つ全エネルギーを合わせて測定したものって聞いたことあるけど…」


 ナギとナミ、そして他のプレイヤー達はゲームの容量とゲームが持つエネルギー量の表示を見てその桁違いの数字に驚かされていた。2,378ゼタバイトとはこの時代のネットワークに存在している全情報量に等しい数値である。生命エネルギーとは生命体の持つ総エネルギー、身長や体重、筋力や柔軟性、知識量や精神力、治癒力までありとあらゆるエネルギーを合わせた測定したエネルギーのことである。因みに人一人の持つ生命エネルギー量は平均すると10オルゴンで、日本の総生命エネルギー量は約5000兆オルゴンである。地球全体の生命エネルギー量は未だ測定しきれていない。


 「こ、こんなのただ出鱈目書いてるだけじゃ…。第一そんな容量のゲーム一体どこに保存してるって言うんだよ…。世界中のコンピュータを使ったって入りきらないんじゃないの…」

 「そうだよっ、こんなに嘘に決まってるよっ!。会社名は忘れちゃったけど、あんまり変なこと書いてると訴えちゃうぞ。まぁ…ゲーム自体は面白そうだからそんなことしないけど…」


 ゲームの容量とエネルギーの数値を見たプレイヤー達は誰もその数値が本当だとは信じなかった。それどころか虚偽の記載で訴えると言い出す者まで出てきた。ブリュンヒルデは信じられないのも無理はないといった表情で説明を続けた。


 「この数字が意味するように、この世界は物凄い容量のデータで出来ていて、更に現実世界と同じように生命エネルギーを持っているのです。私も話を製作者の方から話を聞いただけなので、にわかには信じられませんが、どうやらこのゲームの製作者はコンピューターのネットワーク上にこの物凄い容量とエネルギーを含んだデータを見つけ、東京の地下3000メートルに作られた秘密の研究施設にダウンロードすることに成功したらしいのです。そのデータを使いこのゲームを制作したらしいのですが、私はその基地もデータも見てはいないので、これ以上は何も言うことは出来ません」


 ブリュンヒルデはこのゲームの製作者は複数のコンピューターを接続することによって出来るネットワークの中にこの大量のエネルギーを含んだデータがあることを見つけ、それをある研究所にダウンロードすることによってこのゲームの製作に成功したらしい。実際この世界では人間であれば社会的繋がり、鉄道であれば線路、電気機器であれば回路というように、ネットワークをより繋げればその総生命エネルギー量が上がることは実証されていたため、世界中のコンピューターが繋がっているこの世界のネットワークの中ならば、そのようなデータがあっても不思議ではなかった。プレイヤー達も100%嘘だと思いながらも心の奥底でもしかしたらあり得るかもと考えていた。


 「それで…、実際に何が違うというんだ、通常のVRMMOと。今ログインしてみた感じだと、別に普通のヴァーチャル・リアリティ空間と同じのように思えるが、それを優勝商品にするぐらいだから何か特別な効果でもあるんだろうな」


 他のプレイヤーがブリュンヒルデの現実味を帯びた説明を聞いて静まり返っている中、有名女優プレイヤーであるセイナが冷静に口を開いて質問した。するとブリュンヒルデの口からは更に信じられない説明が飛び出してきた。


 「それが…、これも信じられない話なのですが、このゲーム内で経験したことは現実世界にも反映されるようなのです。例えばこの世界で食事をすれば現実世界の空腹も満たされますし、更に汚い例ですが用を足せば当然現実世界でも糞尿が排出されたことになります。この時現実世界では排泄物は出ず、あくまでこの電子世界で排泄されたことになります」

 「………」


 プレイヤー達はもはやブリュンヒルデから出てくる説明の数々に最早言葉を失っていた。そしてその静まり返っているプレイヤー達を他所にブリュンヒルデは更に説明を続けていった。


 「そしてここからが我々プレイヤーにとってとても重要なことで、この世界で筋力が上がれば当然現実世界でも筋力が上がります。ですがこの世界ではその上昇幅が現実世界とでは比べ物にならず、ゲームをクリアする頃には現実世界では超人的な人物となってしまっているだろうと言うことです。更に今まで仮想世界だけの物であった魔法も、この世界で極めれば現実世界でも使用できるようになるとの説明を受けています」

 「……な、何を言ってるんだ…一体…。もしかして本当に現実世界で魔法を使えるようになるって言うのか…っ」


 ブリュンヒルデの説明はかなり説得力のあるものでプレイヤー達は皆信じ込み始めていた。説明しているブリュンヒルデ自身も製作者から話を聞いただけのようだが、この説明の口振りからすると本当であると信じているらしい。一体ブリュンヒルデが会ったこのゲームの製作者とは一体どのような人物なのだろうか。


 「そしてこれが製作者からの最後の伝言で、“今言ったことをプレイヤーの皆は信じられないだろう。だからここからは実際にこのゲームをプレイすることで本当かどうか確かめていってほしい。私も全てを把握しているだけではないが、用を足した時の話は本当だ。実際にこの世界にログインして試してみた。もし怖くなってこのゲームをやめるならば今決めてほしい。だがその場合は睡眠学習システムによってここで聞いた話は全て記憶から消させていただくことになる。そしてこのことは当然このゲームのプレイヤー以外の人物には他言無用で、もし外部に漏れるような行動した者はこちらで身柄を預からせてもらい、当然ゲームにもログインできなくさせてもらう。ゲームが終わったら無事に解放するからその点は安心してほしい。では出来る限りこのゲームを楽しんでくれ。私が今持ちうる最高の技術で作った最高に面白いゲームだ。きっとご満足いただけることを約束する。では失礼。”……以上が製作者からの伝言です。ではこれからその指示に従いゲーム開始前にゲームを辞退するかどうか決めていただきます。辞退を希望するもの端末パネルの“辞退する”のボタンを押してください。その場合は先程言った通り記憶が消されることになるようです。では今から10分が時間が与えられますのでその間に考えてください」


 “ガヤガヤガヤッ…っ!”

 「ど、どうする…、ちょっと怖いけど、もし本当だったら凄いことだし…やってみようかな…」

 「そうだね…。もし嘘だったとしても説明書を見る限りやる価値はあると思うよ。僕は今の話はどうでもいいから、純粋にこのゲームを楽しもうと思う」

 「俺もやるぜっ、あんな話を聞いて逃げ出してるようじゃあ男が廃るってもんよっ!」


 ゲームを辞退するか考える時間を与えられたプレイヤー達だったが、どうやら誰も辞退する者はいないようだ。このゲームの参加者は抽選で選ばれていたが、応募時の条件である程度MMOのプレイ経験のある者に絞られており、あの程度のことで逃げ出すのようなプレイヤーはここにはいなかった。制限時間の十分というのもそれを想定して短く設定していたようだ。


 「辞退者は…いないようですね。ではお待たせしました。私達の国家の特性、そしてゲームの本格的な説明をしていきたいと思います。複雑な内容のゲームですので皆さんしっかり私の話を聞いてくださいね」


 製作者からの事前の伝言も終わり、いよいよ本格的なゲームの説明が始まるようだった。衝撃的な話を聞かされたゲームだが、果たして一体どのようなゲームなのだろうか。そしてナギ達の所属するヴァルハラとはどんな国なのだろうか。ナギ達も当然辞退することなく、ブリュンヒルデの説明に胸をワクワクさせていた。

 

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