finding of a nation 25話
ライノレックス、そしてドラゴンラプターの群れに完全に包囲されたナギ達はリアの迎撃の指示を待ちながらそのままの陣形を維持して進んでいた。セイナは前方のドラゴンラプター達のボスであるウィザードラゴンラプターに仕掛けるタイミングを悟られぬよう武器を出現させずにドラゴンラプター達を見据えて進んでいた。そしてデビにゃんはというと向かってくるライノレックスを前にして自分自身にある決断を迫っていた。
「(にゃ、にゃぁ…。いざあのライノレックスと戦うとなると緊張してきたにゃ…。こうなったらセイナに獲得してもらった金色鶏のローストチキンのバーサクミートを食べちゃおうかにゃ…。でも流石に勿体無い気もするしにゃぁ…)」
「あっ、そうだ…。デビにゃ〜ん、言われた通りデビにゃんようのバーサクミートを作っておいたよ〜。脂の乗ったグリーシー・バッファローのお肉だからきっと美味しいよ〜」
「にゃあっ!。それは本当かにゃ〜、ナギ〜っ!」
「う〜ん、今投げるからちゃんと受け取ってね〜。……て〜いっ!」」
“ポーーーーイっ…”
どうやらデビにゃんはセイナのおかげで金色鶏のバーサクミートを手に入れていたようだ。…っということはセイナはあのガルガルダ・ウィングの巨大なローストチキンを全て食べきったということだろうか。それも30分以内に…。その後も飲食店巡りをしていたようだし一体どういう胃袋をしているのだろうか。金色鶏のバーサクミートはモンスターにとって美味なだけでなく当然効果もかなり高かった。恐らくSTR、VIT、AGI、更にRESの数値までもが5倍以上には上昇するのではないだろうか。バーサク状態になっても混乱しないデビにゃんにとってはうってつけのアイテムと言えるが流石にここで使うの勿体ない。だがデビにゃんがそう思っているとタイミングよくナギが加工しておいたバーサクミートを投げ渡してくれた。
“パスッ…”
「うぉぉぉぉっ、これは確かに美味しそうな肉にゃぁ〜。この脂の乗り具合が堪らなくてもうよだれが止まらないにゃ。ナギ〜、ありがとうにゃぁ〜。もう我慢できないから早速食べちゃうにゃ〜」
「う〜ん、まだいくつかあるから遠慮しなくていいよ〜」
「それじゃあ……、いっただきま〜すにゃっ!“ムシャムシャムシャムシャ…”」
デビにゃんはナギからグリーシー・バッファローの肉を加工して作ったバーサクミートを受け取るとその肉に乗った脂を見てよだれが止まらなくなってしまっていた。そしてナギから許可を得ると夢中になってそのバーサクミートを頬張りだした。
「“モグモグッ…、ゴックンッ…”……んにゃぁ〜、これはまさに絶品の一言に尽きるにゃ〜。もう口の中がとろけちゃいそうにゃぁ…」
「ちょっとデビにゃん。満足そうな顔しとるけど本当にバーサクミートなんて食べて大丈夫なんけぇっ!。もし私に襲ってきたら遠慮なくぶっ飛ばすけぇ覚悟しといてよ」
「大丈夫にゃっ!。僕はバーサク状態になっても絶対混乱しないのにゃっ!。それに流石ナギの作ったバーサクミートだけあって効果も絶大なのにゃ。これなら馬子でもそう簡単に僕をぶっ飛ばすなんてできないのにゃ」
「あっそ。それは頼もしいね。それじゃあ私は回復に専念するから先陣は頼むよ」
「任せとくにゃっ!」
こうしてデビにゃんもバーサクミートを食べて完全に戦闘態勢が整った。そしていよいよ先頭を走るセイナとウィザードラゴンラプター達との距離が100メートルを切っていた。
「よし、それじゃあカウントを始めるわよ。30になったら戦闘開始だからね。……90、……80、……70、………」
リアのカウントが始まると皆いよいよ臨戦態勢に入った。セイナもショールブレイドを構え前屈みだった体勢を更に低くしてまるで二足歩行の恐竜のように走っていた。その姿勢は周りを走っているドラゴンラプター達より美しく風の抵抗をほとんど受けていなかった。そして50メートルを切りセイナがその体勢となった瞬間走るスピードが加速的に上昇し、突風のような勢いで正面にいるドラゴンラプター達に向かって行った。セイナが急激にスピードが上げたことによりあっという間にリア達との距離は開いていき、一気に20メートル程の差がついたと思うとセイナはすでにウィザードラゴンラプター達から30メートルのところまで到達していた。それを見たリアはしめたと思いセイナに合わせて迎撃の指示を出した。
「……60、……50っ!、……今よっ!。皆、迎撃開始っ!」
「了解っ!」
“……ガウっ!”
セイナがスピードを上げたことはリアにとっても好都合だったようだ。迎撃の指示が早まったことにより他のメンバーも若干戸惑っていたがそれ以上に敵のドラゴンラプター達の方が不意を突かれて臨戦態勢に移れていなかった。恐らくセイナは自ら加速することにより意図的にリアの迎撃指示を早めたのだろう。セイナが陣形を崩してまで突進したことによりドラゴンラプター達の迎撃の目算が完全に狂ってしまい対応が追いつかず走っているドラゴンラプター達はナギ達の方を向くので精一杯だった。そのことに気付いたリアはセイナのバトルセンスの高さに驚愕してしまっていた。
「悪いが速攻でボスを片付けさせてもらうぞ。はぁぁぁぁぁっ…、ブレイズストラァァァイクっ!」
リアの迎撃の指示を受けると同時にセイナはウィザードラゴンラプターに向かって天だくとの模擬戦の時にも見せたブレイズストライクを放った。セイナの殺人的なスピードは更に加速し、ウィザードラゴンラプターに向かいその黒く輝く剣先を突き立てられたショールブレイド共に音速と呼べるような速さで突進していった。30メートルの距離など3秒もしない間に縮まって行き、その剣先は敵のウィザードラゴンラプターを貫いてしまうかに思えた。
「これで終わりだぁぁぁっ!」
“ガウゥ…”
セイナの奇襲は成功し確実に敵のボスであるウィザードラゴンラプターを仕留めることができるかと思えた。だがそう上手く事が運ぶはずもなく、ショールブレイドの剣先は瞬く間にウィザードラゴンラプターへと迫っていったが残り3メートルという距離まで迫った瞬間ウィザードラゴンラプターの頭部に埋め込まれている青い宝石が急に光出したのだった。
「な、なんだ…っ!」
あと少しでウィザードラゴンラプターを貫けるとセイナが思った瞬間ウィザードラゴンラプターの宝石が光出したと思うと突如としてセイナの目の前に直径3メートル程の大きな水泡が出現したのだった。セイナは構わず水泡ごと貫こうとしたが、その水泡の表面はまるでスライムのような弾力性と柔らかさを併せ持ちセイナの突きの勢いを吸収するかのように押し込まれていった。だが決して破れることはなく、ある程度押し込まれるとバネのように弾んで元の水泡の形へと戻って行った。だがセイナ自身は弾かれておらずブレイズストライクの体勢を保ったままその水泡の中に閉じ込まれてしまっていた。どうやらウィザードラゴンラプターの水属性魔法のようだ。
「くっ…、こんなものぉぉぉぉぉっ!」
水泡の中に体を取り込まれてしまったセイナだったがそれでも突きの勢いは止まることなく反対側の水泡の表面を再び貫こうとしていた。だが当然反対側の表面も先程の同じでその弾力性と柔らかさで中々突き破ることは出来なかった。それでもセイナの突きの勢いは凄まじくあと少しその表面を引き破りそうなところまで来ていた。
「うぉぉぉぉぉぉ……、よしっ!」
“パァーーーーーーーン”
“ガルンっ!”
「何ぃっ!」
水泡に勢いを殺されてブレイズストライクを止められてしまうかと思われたセイナだったが、突きの勢いはほとんど衰えておらず水泡を突き破るとそのままウィザードラゴンラプターの喉元目掛けて剣先を突き立てていった。セイナが水泡を突き破るまでに掛かった時間は約2秒…、だがこの2秒の時間がウィザードラゴンラプターが体を反応させるには十分な時間だったようだ。ウィザードラゴンラプターはセイナが水泡を突き破ると同時に地面を強く蹴り空中へと飛び上がってしまった。
「くっ…」
“ザザザザザーーーっ!”
当然空中に飛びあがったことによりセイナのブレイズストライクは見事に躱されてしまった。どうやら反応時間を稼ぐために水泡を出現させたようだ。魔法は意識を集中させるだけで発動できるため下級の魔法ならば体を反応させるよりも早く放つことができる。ブレイズストライクを躱されてしまったセイナは流石に不意を突かれたうえ水泡の影響を受けてはポーズリセットを発動させることはできずそのまま地面を擦りながら20メートル程突き進んでしまった。
「くそっ…、ならば次の攻撃だっ!」
セイナは地面を擦ることで何とか勢いを殺しきりすぐにウィザードラゴンラプター達に向かって体を反転させた。するとそこには最高点にまで飛び上がったウィザードラゴンラプターがちょうど落下し始めようとしていた。地面にはボスであるウィザードラゴンラプターを守ろうとドラゴンラプター達が着地点に集まりセイナの攻撃を防ごうとしていた。そして防ぐだけではなく群れの中の2体のドラゴンラプターはセイナに攻撃を仕掛けるべく体勢を低くし大きく口を開けながら襲い掛かって来た。
「……はあぁぁぁぁ…」
襲い掛かってくる二体のドラゴンラプターを前にしてセイナは全く迎撃する様子はなく剣を後ろ斜めに下げ力を蓄えていた。そしてその剣身にはセイナの凄まじい闘気が渦巻いていた。
“ガウガウッ…、ガウゥゥゥっ!”
ドラゴンラプターが今にも飛び掛って来そうな距離まで近づいてもセイナは微動だにしなかった。どうやらタイミングを見計らっているようだがこのままでは二体のドラゴンラプターに飛びつかれてその鋭利な牙で体を噛み千切られてしまう。ゲームの中なのでエフェクトが掛かった後すぐ元の健全な状態の体に戻るだろうがHPはかなり削られてしまうだろう。武器こそショールブレイドこそ装備しているがセイナの防具は初期装備のままだ。一体どういうつもりなのだろうか。
“ガッ……、ガルゥゥゥゥっ!”
「……今だっ!」
2体のドラゴンラプターはセイナとの距離を詰めていき4メートル程の距離まで来ると地面を強く蹴り勢いよくセイナに向かい飛び掛って行った。それでもセイナは動く気配はなく、このままドラゴンラプターに噛み殺されてしまうかと思われた。だが飛び掛ったドラゴンラプターの一体がセイナの首筋に噛みつこうとしたその時、セイナの剣に蓄えていた闘気が一気に解き放たれたのだった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ…、ブレイズスラッシュっ!」
“ガウッ……、ガウゥ〜〜〜〜っ!”
闘気が解き放たれると同時にセイナはブレイズスラッシュと叫びながらほぼ水平に斬撃を放った。その太刀筋はまさに目にも止まらぬ速さというもので、牙が首筋に届くのがあと少しというところまできて2体のドラゴンラプターはセイナの剣によって上半身と下半身を真っ二つに斬り裂かれてしまった。そしてセイナの放ったブレイズスラッシュは単に素早い太刀筋と言うだけでなく、剣から解き放たれた闘気が斬撃となって更に後ろにいるドラゴンラプターに襲い掛かって行った。最初にドラゴンラプター達と戦った時にリアが放った炎の斬撃と似ているが、元々フレイムスラッシュはこのブレイズスラッシュに火の魔力を応用したものである。リアは剣を切り上げて縦に斬撃を放っていたが、セイナはより多くのドラゴンラプターを巻き込むために横にして斬撃を放ったようだ。そしてなかなか技を繰り出さなかったのは単に力を溜めていただけでなかったようだ。ウィザードラゴンラプターはすでに地面から2メートル程の高さまで落下してきており、このままいけば着地の瞬間にセイナのブレイズスラッシュが直撃する。どうやらセイナは着地のタイミングを見計らってブレイズスラッシュを放ったようだ。
「よしっ、これで防御の態勢は取れまいっ!。一撃では仕留めきれないだろうが先手は貰ったぞっ!」
“ガウゥ…”
「な、何っ!」
地面へと着地し、そのままブレイズスラッシュが直撃すると思われた瞬間またしてもウィザードラゴンラプターの額に埋め込まれた宝石が光だした。すると今度は水泡が空中に出現しウィザードラゴンラプターはその中に包みこまれてしまった。水泡が地面から1メートル程の高さに出現したため水泡の中にいるウィザードラゴンラプターも当然地面には着地せず、セイナのブレイズスラッシュは水泡の下を通り過ぎていってしまった。どうやらこの水泡を作り出す技は相手を閉じ込めるだけでなく自分自身の身を守るためにも使用できるようだ。バブルテリトリーという技名のようで、どうやら魔法に分類されるようだ。リアも言っていたがこのウィザードラゴンラプターは恐竜型にしては珍しく魔法を多用するようで、特に水属性の魔法が得意のようだ。恐らく所持属性も水属性に設定されているだろう。セイナの装備しているショールブレイドには0から30%の闇と雷の属性変換率が付与されている。当然セイナもウィザードラゴンラプターの肌の色から水属性だと見抜きダメージ一部を雷属性に変換していたのだが、相手もそのことを察知していたようで何としてもセイナの攻撃を食らわないようにしていたようだ。因みにブレイズストライクやブレイズスラッシュなど特技に属性変換率が設定されていないものはそのまま武器の属性変換を適用できる。セイナがあの水泡を比較的楽に突き破ることができたのも属性を変換していたおかげだろう。
“ガッ…、ガウゥ〜〜〜〜〜ン…”
だがいくらウィザードラゴンラプターがセイナの攻撃を躱せても地上にいるドラゴンラプター達にはセイナの攻撃に反応できるステータスもプレイランクもなく、セイナのブレイズスラッシュの射線上にいた者達は次々と薙ぎ倒されていった。通常のドラゴンラプターの所持属性は風属性、ブレイズスラッシュが雷属性に設定されていても特に減少補正を受けることもなくHPも低かったため皆一撃で倒されてしまったようだ。
“パァンッ……、バタッ…”
「ふっ…、どうやら初撃は見事に躱されてしまったようだな。だが通常のドラゴンラプター達はほとんど片付けることができた。すぐにその貴様の長い首も刎ねてくれようぞ」
“ガウゥゥゥゥゥ…”
自らの意志で水泡を破裂させウィザードラゴンラプターは地上へと下りてきた。そして残りのドラゴンラプター達が周囲を囲うように集まっていきセイナと睨みあったまま暫く膠着状態が続いていた。恐らくセイナのショールブレイドに付与された雷属性を警戒しているのだろうが、所持属性が風属性で弱点ではないとはいえセイナの水属性への耐性はかなり低いものだった。こちらも不用意に敵の魔法攻撃に当たる訳にはいかないだろう。リアもそのことは承知していたが馬子とデビにゃんのところにライノレックスが迫っている以上そちらのフォローに回るしかなかった。ナミが出来るだけ早くフォローに来てくれることに期待するしかない。
「でぃえぇぇぇぇぇい…、いっくわよ〜っ!」
“ガウッ!”
一方リアの迎撃指示をを受けたナミは瞬時にほぼ直角に向きを切り替え右側を並走しているドラゴンラプター達に突っ込んで行った。その駆ける速さはセイナに負けず劣らずのスピードで、90度近く向きを切り替えほぼ横向きに走って行ったにも関わらず並走しているドラゴンラプター達と前へと進んだ距離は全く変わらなかった。つまりドラゴンラプター達の群れの完全に横っ腹へと奇襲に成功したわけで、セイナと対峙しているドラゴンラプター達に比べ遥かに動揺してしまっていた。
「てぇぇぇいっ!」
凄いスピードでドラゴンラプター達の群れの横側へと迫って行っていたナミは、群れまであと10メートル程の距離まで来ると強く地面を蹴って群れの中の一体のドラゴンラプターに向かって得意の飛び蹴りを放って突っ込んで行った。ナミの飛び蹴りは飛んだ言うわりには頭の位置は変わっておらず、まるで足を蹴り上げて宙を進んでいるだけといった感じだった。ナミの体は地面から1メートルも浮いておらず、まるでライナーのように足を前にして進んでいった。この飛び蹴りはすでに武闘家の特技としても習得していて、当然特技としての補正により威力も上昇していた。正拳突きや飛び蹴りなどと言った通常の動作でも可能な特技はその技を放ったプレイヤーの意識次第で切り替えることができる。ただ体勢が万全でなかったり集中力が足りてない場合は特技として繰り出すことはできない。当然EPが足りない場合も同じでいくら正拳突きや飛び蹴りを放っても特技としての威力補正が適用されることはない。
“ガウゥ〜〜〜〜〜ン…”
“ガウっ!、……ガウウウウウっ!”
ナミの飛び蹴りはそのままドラゴンラプターの一体に直撃し攻撃を食らったドラゴンラプターは凄い勢いで吹っ飛ばされてしまった。肩の辺りに直撃したようで腕が骨ごと体にめり込んでしまったようで白目をむきながらこれまた地面を這うように垂直に吹っ飛んで行った。そして吹っ飛んだ先にもドラゴンラプターがいたようでそいつにぶつかると2体で地面を転がり込んでいき飛び蹴りを食らった個体はそのまま消滅してしまった。ぶつかった方のドラゴンラプターもダメージを負ったようで暫く地面に倒れたままだった。
「へっ、へぇ〜〜〜ん!、見事に決まったわね。この調子で残りの奴らも片付け……どうやらそう上手くはいきそうにないわね」
気持ち良く飛び蹴りを放ってドラゴンラプターの一体を片付けて意気揚々となっていたナミだったが、周囲のドラゴンラプター達の行動を見て瞬時に表情が険しいものへと変わっていた。完全に不意を突かれ慌てふためいていたと思われたドラゴンラプター達だったが、2体のドラゴンラプターがやられたと思うと瞬時に臨戦態勢へと移行し鋭い目付きでナミの周囲を完全に包囲していた。序盤のモンスターにしてはかなり意識の高い行動パターンである。ボスであるウィザードラゴンラプターがいることが影響しているのだろうか。恐らくウィザードラゴンラプターは天の魂質に設定されているのだろう。周囲を囲われたナミは自分から仕掛けることができずじっとドラゴンラプター達と睨みあっていた。
「だあぁりゃぁぁぁぁぁっ!、必殺大風起こし斬りぃぃぃぃぃっ!」
隊列の後方を務めていたレイチェルはリアの迎撃指示と同時に自慢の大剣ごと体を振り返らせて後ろから追いかけて来ているドラゴンラプター達に大声で叫びながら何やら技を繰り出していた。その技は大風起こし斬りと叫ばれていたが本来の名称は大風起斬という戦士の特技のようで、刃の部分ではなく剣身の平面部分を前にしてまるで団扇で扇ぐように大きく剣を振り突風を巻き起こす技のことである。風を起こす技ではあるが風属性の変換率は設定されていない。レイチェルは自分の歯切れのいいように技名を変えて叫んでいたようだ。
“ガッ……ガウォ〜〜〜〜ン…”
レイチェルの放った大風起斬は強烈な風となって後方から追いかけて来ていたドラゴンラプター達に襲い掛かった。このドラゴンラプター達もレイチェルが振り返るタイミングが完全に予想外だったようで、突風に全く対応できず範囲にいたドラゴンラプター達は皆大きく吹っ飛ばされてしまった。距離が離れていたため流石に一撃で倒せた個体はいなかったが、十数体のドラゴンラプターにはかなりのダメージを与えることができた上後方へと退かせることだできたようだ。だが当然残りのドラゴンラプター達は臨戦態勢へと移行し、レイチェルに向かって大勢で囲い込むように襲い掛かってくるのだった。
「へへ…、こりゃ楽しくなって来たな。皆纏めて叩っ斬ってやるぜっ!」
大勢のドラゴンラプターが向かってくるのを前にレイチェルは楽しそうな表情を浮かべていた。先程までずっとパーティの後ろを走っていて鬱憤が溜まっていたのだろう。そして思う存分ヴァイオレット・ウィンドを振えると思い嬉しさがこみ上げてくるのもあったのだろう。だがセイナと同じく皆のサポートがないこの状況では先程の見せたヴァイオレット・ストームを放つのは無理だろう。仮に放つことができたとしても大量の行動ポイントの消費を消費してしまう。ここは通常攻撃を主体として戦うのが得策だろう。果たしてレイチェルは後ろから迫りくるドラゴンラプター達を防ぎ切ることができるのだろうか。
セイナ、ナミ、レイチェルはそれぞれ前衛職として順調にドラゴンラプター達を撃退していたようだが、恐らく最も強敵であるライノレックスを迎え撃つことなった馬子とデビにゃんはどうなったのだろうか。二人はセイナ達のように自分から仕掛けることはなくフォローに来たリアと共に迫りくるライノレックスを待ち受けていた。
“ドスドスドスドスドスッ……ドスンッ!”
“ガウゥ〜〜〜〜ン…”
「にゃぁぁぁぁぁっ!、ドラゴンラプターをあっさり踏みつぶしちゃったにゃぁぁぁぁぁっ!」
“ガオォォォォォォォンッ……ムシャムシャムシャ…”
「にゃぁぁぁぁぁっ!、今度は一口で飲み込んじゃったにゃぁぁぁぁぁっ!」
左前方から迫ってくるライノレックスは挑発して先導してきたと思われる2体のドラゴンラプターをあっさりと倒してしまった。一体はその大きな足に踏みつぶされ、もう一体は背中の辺りを噛みつかれるとそのまま持ち上げられて一飲みにされてしまった。自分を挑発したドラゴンラプターを倒してもライノレックスの怒りは止まることを知らず、続いて前方に目に入ったデビにゃん達に狙いを定めた。
「やぁぁぁぁっ、やっぱり次はこっちを狙ってきとるけんっ!。私達は何もしとらんのにもう見境ないみたいやね…」
「まぁ他のドラゴンラプター達を狙ってセイナ達のところに向かわれるよりマシよ。なんとかあいつを他のメンバーが戦っているところに近づけないようにするわよ」
「分かったにゃっ!」
ライノレックスの狙いが他のドラゴンラプター達に行かなかったのはリア達に取って幸いであったようだ。下手に陣形を崩されて混戦状態になった方が被ダメージのリスクは増える。ライノレックスとドラゴンラプター達を争わせてその隙に逃げると言うのも手であったがドラゴンラプター達はそうやすやすと逃がしてはくれないだろう。それにナギやボンじぃはともかく気の強いナミやレイチェル、そしてセイナは逃げるという指示には従わなかっただろう。リア達はライノレックスを他のメンバーのところに向かわないようここで足止めして戦うつもりのようだ。
“ドスドスドスドスドスッ……”
「くっ…、あのまま突っ込んで来られたら陣形もくそもないわね。そろそろあいつの足を止めたいんだけど…」
「にゃぁっ!。それならここは僕に任せとくにゃっ!」
「あっ、ちょっとデビにゃんっ!。……いっちゃったけぇ…」
「しょうがないわ。どのみちこのままじゃあ陣形の奥深くまで押し込まれちゃう。そうなる前にこっちから仕掛けていくしかないわ。私達も続くわよ、馬子っ!」
「了解じゃけぇっ!」
迫りくるライノレックスに対しデビにゃんは勇敢にも自分が先陣を切って攻撃を仕掛けていった。ナギのバーサクミートを食べたことで余程自分に自信があったようだ。後ろにレベル300を越えるリアがついていてくれるのもあったのかもしれない。デビにゃんに続き馬子とリアもこれ以上ライノレックスをパーティに近づけるわけにはいかないと判断し攻撃を仕掛けていった。
「にゃぁぁぁぁぁっ、必殺真空突きにゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
“ビュオォーーーーーン……”
「ちょっとデビにゃん……、確かに凄い風は巻き起こっとるけど肝心の突きが全然届いてないけぇ…」
勢いよくライノレックスに向かって先程も見せた真空突きの特技を放って行ったデビにゃんだが、突きがライノレックスに届く遥か手前で急停止してしまった。だが馬子の言う通り真空突きの特性である凄まじい突風がライノレックスに向かって吹き抜けていったため、なんとか足止めにはなるかと思われた。
“ガォっ……、ガウォォォォォォンっ!”
“ドスドスドスドスドスッ……”
だがそんなデビにゃんの楽観的な予測を裏切りライノレックスは突風を物ともせず少し目をしかめて嫌そうな顔をしただけで更にスピードを上げて迫って来た。やはり直接突きを体に当てなければ突風の効果も半減してしまうようだ。そんなことすればデビにゃんは今頃踏みつぶされていただろうが…。
「にゃぁぁぁぁぁっ、全然効いてないにゃぁぁぁぁぁっ!。やっぱりこんなの止められるわけないにゃぁぁぁぁぁっ!」
「私に任せるけぇ、デビにゃんっ!。はあぁぁ……祈祷弾っ!」
デビにゃんの真空突きに続き今度は馬子が祈祷弾と呼ばれる特技を放っていった。祈祷弾とは属性のついていないエネルギー弾を敵に向かってぶつける特技である。馬子が目を瞑り錫杖の上の先端に祈りを送ると中央についている球体にエネルギーが集めっていこ光を発していた。そしてその馬子がその先端をライノレックスに向けて技名を叫ぶと白く輝く3つのエネルギー弾がライノレックスの岩面目掛けて飛んでいった。
“バンっ、バンっ、バァンっ!”
「どおっ、少しはダメージ……って全然効いてないんじゃが〜っ!」
“ドスドスドスドスドスッ……”
馬子の放ったエネルギー弾は全てヒットしたようだがライノレックスにダメージは全くと言っていいほど効果はなく、怯むことすらせずそのままリア達に迫って来ていた。
「ひぇぇぇぇぇっ!。どうしたらええけんっ、リアっ!。……ってリア?」
「……我に眠りし強固なる意志の力よ…」
「ど、どうしたのにゃ…」
ライノレックスにまるでダメージを与えられず動きも止めることが出来ない馬子とデビにゃんは、すっかり慌てふためいてしまいすがるような目でリアの方を見て助けを求めた。だがリアは目を瞑り小さな声で何やら呟いておりまるで馬子たちのことは気にしていなかった。どうやら魔力を蓄えていたようだが呟きにはなにか意味があったのだろうか。
「我が心底より燃え広がりて火の力とならんっ!。……その灼熱の意志で全てを隔てよっ!、ウォール・オブ・ファイヤっ!」
“ガォっ!、……ガオォォォォ…”
「な、なんにゃっ!。いきなりライノレックスの進行ルートに巨大な炎の壁が出現したにゃっ!。もしかしてこれリアの魔法なのにゃっ!」
「うわぁ…、高さが10メートル、幅が30メートルくらいあるけぇっ!。さっきの呟きは魔法の詠唱やったんじゃね…」
リアが小さな声で呟いた後急に声を張り上げて呪文のようなものを唱えたと思うと、最後に叫んだ技名と共に突如として巨大な炎の壁が出現した。やはり先程のリアの呟きは魔法を発動させるために詠唱だったようだ。このゲームにおいて魔法を発動させるために特別な言葉を喋る必要はなく必要な魔力を蓄えるだけでいいが、詠唱することで集中力が増しより素早く魔力を蓄えることができる者もいる。因みにこのゲームでの詠唱時間短縮の特性は魔法に必要な魔力量を軽減するという意味である。目の前に炎の壁が出現したライノレックスは炎に怖気づいたのか壁の前で立ち止まってしまった。
「よしっ…、やっぱり父さんの書庫で見た図鑑の記憶通り火属性の耐性が低いみたいね。怖気づいて止まっちゃったわ」
「そ、そうだったん…。じゃけぇダメージを食らうのを恐れて壁には突っ込んでこんかったんやね」
「ええ…、確か所持属性は土だったはずだけど火属性の耐性率は−57%だったはず…。でも壁の前で止まったってことは自身の耐性率を理解しているってことでそれだけプレイランクも高いってことだから注意してね」
「OKにゃ。でもこれでなんとか突進を止めることができたにゃっ!」
リアのウォール・オブ・ファイヤの魔法のおかげでどうにかライノレックスの動きを止めることが出来た。どうやらライノレックスは火属性の耐性率が低いらしく突っ切ることも出来たがダメージ量を考慮して立ち止まったようだ。だがリアの魔法の効果時間はそう長くはない。間もなくして炎の壁は地面の中へと引いていくようにして消滅してしまった。そして近くで見るとより禍々しく凶暴な目付きをしたライノレックスがリア達の前に姿を現すのだった。
“……ガオォォォォォォォンっ!”
「くっ…、もの凄い雄たけびじゃけぇ…。周囲に風圧まで飛ばして来て体が自由に動けんよ…」
「どうやら爆音と衝撃…、それに風圧で相手に硬直効果を与えるみたいね。でもこの手の物理的な硬直効果は自身のSTRを最大限に引き出せば簡単に解くことができるわ。これから一時も全身の力を抜かないようにしてねっ!」
「い、一時もって…。気を休める暇もない相手ってことかにゃ。全く序盤からこんな奴を相手にすることになるなんてついてないにゃ…」
炎の壁から姿を現したライノレックスは突如として咆哮をリア達に対して放ってきた。威嚇のつもりだったのだろうが、どうやら対象に多少の硬直効果も与えるものようだ。だが確定的なものでなくあくまで爆音や衝撃などによって生じる負荷のようなもので、対応を間違わなけらばそれ程効果は受けないもののようだ。咆哮が鳴りやんだ後ライノレックスは改めてリア達の方を見下すような目付きで睨み付けてきた。どうやら完全にリア達に標的を定めたようだ。リア、馬子、そしてデビにゃん達のライノレックスとの戦いが今始まろうとしていた…。
 




