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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第四章 初めての出陣っ!、VSウィザードラゴンラプター&ライノレックス
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finding of a nation 22話

 「……遅い…」

 「あ、あれ…。皆まだ来ないのかな〜…」


 買い物の付き添いが終わったナギはリアをナミ達との集合場所へと案内した。だが集合時刻である12時を過ぎても他のメンバーは誰一人現れずすでに20分以上待たされていたリアは大変御立腹の状態だった。


 「ちょっとっ!、集合時間は確か12時のはずよね。もう12時15分だっていうのに誰一人来てないじゃない。私はあんたが集合時間に遅れないようにって言うから途中で買い物を切り上げて来たっていうのにっ!」

 「ご、ごめんよ…。皆多分買い物に夢中なっちゃてるんだと思うんだ。今メールを送ってみるからもうちょっと待って…」

 「たくっ…、あんたがこのパーティのリーダーなんでしょ。自分のパーティメンバーぐらいしっかり纏めておきなさいよね。まっ…、どうせ他のメンバーって昨日家に来てた人達なんでしょ。あの連中じゃ統率なんて碌に取れないのも当然でしょうけどね」

 「はははっ…。あっ、でも待って今マップを開いてみたら誰か一人近づいてきてるよ。この反応は……馬子さんだっ!」

 「馬子…」


 12時20分を回っても誰もパーティメンバーが現れないため皆にメールを送ろうとナギは端末パネルを開いた。だが端末パネルのデフォルト画面はマップに設定されているようで、メール送る前にマップに馬子が近づいてくる反応があったのだった。


 「ごめ〜ん、ナギ君〜。ちょっと色々街を見て回っとたらすっかり遅れてしもた。……んっ、なんか見慣れん子が隣いるけどその子誰やね。新しいパーティメンバー?」

 「あっ…うん。そうなんだけどちょっと僕達とは違うんだ。名前はリアって言ってパーティを組んでるだけど実はプレイヤーじゃなくてNPCなんだ」

 「へぇ〜、このゲームNPCともパーティ組めるんじゃね。私の名前は天淨馬子。よろしくね」

 「ああ…、確か母さんの牧場で働いてた人ね。私の記憶の中にも名前に聞き覚えがあるわ。それよりあなた…、遅刻してきたわりには態度が図々しいすぎるんじゃないの。もうちょっとちゃんと謝りなさいよ。特に私に対してね」

 「なっ…、ちょっと何じゃのこの子っ!。確かに遅刻したのはこっちが悪いけどちょっと態度が高圧的すぎるんじゃないん。NPCって言うとったけど一体どうなってるん、ナギ君っ!」

 「ま、まぁまぁ…。ちょっとプレイヤー嫌いな性格みたいなんだ。ほら、よく普通のRPGでもいるでしょ。主人公に対して険悪な態度を取るNPCキャラクター。最初は打ち解けるのが難しいかもしれないけど実力は折り紙付きだから期待してあげて」


 リアは馬子のことをレイコとの記憶の共有で知っているようだったが、プレイヤーに対する態度は変わらなかった。待ち合わせに遅れてきたこともあって更に高圧的な態度になり、馬子に対しても険悪な雰囲気になってしまいナギは必死にフォローしていた。


 「ナギ君がそう言うならこれ以上は追及せんけど…。取りあえず悪いのは私の方じゃけぇちゃんと謝っとくね。遅刻して来てごめんなさいっ!」

 「もういいわよ、別に…。それより他の連中は何やってるのよっ!」

 「そうじゃねぇ…、確かにもう集合時間はとっくに過ぎとるのに…。あっ、どうやら他の皆も集めってきたみたいよ。マップに反応が近づいてきてる」

 「あっ、本当だ」


 ナギの言葉とリアがNPCということもあってどうやら馬子も渋々納得したようだ。もしリアがプレイヤーだったら互いに引くことの出来ずにクエストに出かける前に喧嘩になっていたかもしれない。そんな中端末のパネルに表示されているマップに続々と他のメンバー達の反応が現れるのだった。


 「ごめ〜ん、ナギ〜。レイチェルの奴とヴァルデパの中のゲーセンに入ったらつい時間を忘れちゃって…」

 「ぜぇ…ぜぇ…。だからナミ…、少しはゆっくり走ってくれよ…。ぜぇ…ぜぇ…、も、もう駄目…」

 “バタッ…”


 続いて現れたのはナミとレイチェルだった。二人とも最初の時同様全力で走って来たのかレイチェルはすっかり息切れしてしまっておりナギのところに着くや否や地面に倒れ込んでしまった。


 「うぉ〜い、ナギや〜。遅くなってすまんのぅ」

 「ナギさんごめんなさい〜。気になる本があってつい立ち読みしてたらいつの間にかこんな時間になってて…」

 「ナギ〜、ごめんにゃ〜。セイナの食事に付き合わされてたら自分の買い物のこと忘れててつい遅くなってしまったにゃ〜。ちゃんと皆に役立つもの買ってきたから許してくれにゃ〜」

 「おお〜、ナギ〜。遅れてすまなかった〜。デビにゃんも遅れたのはほぼ私のせいみたいなものだから許してやってくれ〜」


 こうして予定より30分程遅れてようやくパーティが全員集合したのだった。ナギはほとんど怒っていないようだったが、どうやらリアの御立腹の程は全く収まってはいないようだった。


 「ちょっとあんた達…、30分も遅刻しておいて態度が軽すぎるんじゃないっ!」

 「何よっ!。いいじゃない別にちょっとくらい……ってリアじゃない。どうしてあんたがここにいるのよ。もしかして今日一緒にパーティ組んでくれるのっ!」

 「えっ…、本当だっ!。なんだ…、あんなこと言っておきながらちゃっかりリアのことナンパして来たのかよ、ナギ」

 「なっ、何言ってるんだよ…。偶然街で会ったらからパーティに入ってくれないか頼んだだけだよ」

 「それをナンパと言うんじゃよ。じゃがまさかリアちゃんを連れてくるとはナギも中々やるのぅ。こりゃわしも負けてられんわい」


 リアの姿を見たナミ達はパーティに入ってくると思い非常に喜んでいた。だが話を無視されてしまったリアの怒りは更に頂点を登って行ったのだった。


 「もうっ!。好き勝手なことばかり言ってないで私の話を聞きなさい。私はあんた達にちゃんと謝れって言ってんのっ!」

 「そんなに怒んなくてもいいじゃない…。私達も初めての買い物で浮かれちゃっただけだし…」

 「そうだよリア。ちゃんと皆来てくれたんだからいいじゃないか。他のゲームだと別行動したらそのまま他のパーティに入っちゃったりログアウトする人もいたんだよ」

 「良くないわよっ!。他の人達はどうか知らないけど私とパーティ組む以上ルールはちゃんと守ってもらうわ。大体リーダーのあんたがそんな甘いこと言っててどうするよ。このゲームにおいてプレイヤー同士の連携がどれだけ大事かあなた達程のプレイヤーなら分かるでしょうっ!」

 「あっ…」


 遅刻したことへの怒りが収まらないリアにパーティのメンバーは少し納得がいかないようだった。確かに他のMMOをプレイする時でも時間やルールを守らないプレイヤーは嫌悪されてしまいブラックリストに入れられてしまうこともあるが、そこまで気を張ってゲームをしていないプレイヤー達だと多少の遅刻でそこまで怒ったりはしない。昨日初めて会ったメンバー達とはいえかなり打ち解けていたためナミ達も許してくれると思ったのだろう。リーダーであるナギも特にメンバーの遅刻を咎める気はなかったようだ。だがリアの厳しい口調による指摘に皆自分達の考えの甘さを気付かされたようだった。


 「ごめん…、リアの言う通りだわ…。真剣にやってる人なら例え一分の遅刻でも許すことのできないことよね。ましてやこのゲームはPvPなんだし…」

 「私も悪かったよ。プレイヤーだからってゲスト気分で浮かれすぎちまった…。リア達にとってこのヴァルハラ国は祖国ってことになるんだし、の祖国のプレイヤー達がこんな楽天家じゃあ怒りたくもなるよな」

 「本当…。私達も現実世界に自分達の国があるとはいえこのゲーム中じゃあヴァルハラ国が祖国ってことになるんじゃけぇね。ちょっと無神経すぎたよ…」

 「わしも自分がゲームを楽しむことしか考えとらんかった…。こりゃ魔物を倒すのがかわいそうなどと言ってはおれんのぅ…」

 「私もゲームだからって少し気を抜いていました…。遊ぶことばかり考えてないでもっと真剣にプレイしないといけませんね…」

 「私もだ。プレイヤー同士の連携が大事ということは理解しているつもりだったのだが、どうやら頭で分かっていただけで心には全く留まっていなかったようだ。もう今までのように独りよがりなプレイはやめるようにしよう」

 「僕も皆に嫌がられないようにすることばっかり考えてリーダーの務めや責任について全く考えてなかったよ…。リアをパーティに誘ったのは僕なのにこんな軽い気持ちでプレイしててごめんよ…」

 「僕も悪かったにゃ…。(でもリアのおかげでナギ達のこのゲームに対する意識がぐんと高まったにゃ。ナギ達の世界の最近のゲームはどうやら楽しむことばかり考えて作られているようで完全に娯楽の一環になってしまってるにゃ。でも本当はサッカーや野球なんかのスポーツよりも真剣にプレイするに相応しい熱い勝負がゲームにはあるのにゃ。ナギ達には早くそのことを思い出してもらわないとにゃ…)」


 リアの言葉に自分達の行いや考えを反省したナギ達は皆真剣な態度でリアに対して謝った。特にナギとナミはデビにゃんが聞かされたことを思い出し、楽観的な考えを評価されていたとはいえ勝利するためにはそれ以上に真剣な気持ちが必要であることを悟り自分達の心を戒めていた。そして皆改めて自分の心の中にゲームに対して真剣な気持ちでプレイすることを思い出し始めたようだ。ゲームと聞けば娯楽というイメージがほとんど定着してしまっているがサッカーや野球、将棋や囲碁なんかも元々はゲームなのである。TVゲームが開発され更にVRMMOなどの技術が進歩するにつれてナギ達のプレイしているゲームはだんだん競技として扱われていくゲームと差別化されていってしまった。だが対戦型の格闘ゲームやFPSなどの戦争ゲームにはスポーツ選手以上に真剣な気持ちでプレイしている者達もいる。中にはプロゲーマーの誕生やゲーム自体の競技化を熱望する者もいる程だ。事実よく動画サイトなどにあげられている凄腕のゲーマーのプレイ動画にはスポーツ以上に視聴者を沸かせるものもある。もしかしたらプレイヤーの意識がより真剣なものに変わることによりゲームの中にこそ究極の熱いバトルが生み出されるのかもしれない。


 「まぁ私もプレイヤーに対して大見得を切ったとはいえ一人で頑張ってもこのゲームの勝ち目はないからね。一応あんた達は団体賞で2位に入賞したパーティでもあるし、少しは真剣にプレイしてもらわないとね。分かってくれればそれでいいの。それじゃあリーダー。次の行動の方針を決めてちょうだい」

 「う、うん…。それなんだけど今の話を聞いてやっぱり今の僕じゃリーダーは務まらないと思ったんだ。それでこのパーティで誰がリーダーに相応しいかって言ったらリアだと思うんだ。だからまずリーダーをリアに変更しようと思う」

 「ちょ、ちょっと何言ってるのよ…。いくらなんでもNPCがリーダーなんて…」

 「私賛成っ!。やっぱりリーダーは一番優れた人がやらないとね」

 「そうだな。勝負の世界にプレイヤーもNPCも関係ねぇ。勝つためならより強い奴をトップにしないとな」

 「うむ、私もそう思う。不甲斐ないと思われるかもしれないが今の私達にはリアの強いリーダーシップが必要だろう」


 皆が自分の考えを理解してくれたようで怒りも収まったリアはナギに次の行動の指示を出すよう促した。だがなんとナギはリーダーをリアに譲ると言いだしたのだ。そしてその意見に他のパーティメンバ達も真剣な面持ちで賛成するのだった。どうやら今の自分達は実力も意識の高さもリアに劣っていると判断したのだろう。自分より優れた者を立てる姿勢は生きていく上でも大事なことである。どうやらナギ達はこのゲームを現実世界と同じ気持ちで臨む準備ができたようだ。


 「……仕方ないわね。じゃあ取りあえずリーダー補佐ってことであんたがこのゲームの心得を覚えるまで私が纏め役をやってあげるわ。ただし一通りの説明が終わったらまたあんたに変わってもらうからね。NPCに指揮してもらって勝てる程このゲームは甘くないわよ」

 「うんっ、それは重々承知しているよ。引き受けてくれてありがとう、リア」

 皆の真剣な態度に押されリアは一時的にリーダーを引き受けることになった。完全に引き受けなかったのはあまりナギ達にNPC頼りにさせないためだろう。

 「それじゃあまずは一応皆の準備がちゃんと整ってるか確認しましょうか。まずはナミからアイテム欄を見せてみて……ってあなたそれサファイア・グローブじゃないのっ!。昨日はそんなの装備してなかったわよね…」

 「あっ、本当だっ!。いつの間にかナミの手に高そうな手袋が履いてある。そんなの買うお金なんて持ってたの」

 「へっへ〜、実はね…」


 リーダーとなったリアはまず皆の持ち物を確認しようとした。恐らく旅の準備がしっかりできているかを見るためだろうが、まずナミのアイテム欄を見ようと注意がそちらにいくと、先程のまでは素手であったナミの拳に何やら武器が装着されていることに気付いた。当然他のパーティメンバーも知らなかったので皆慌ててナミに問いただした。するとナミは自慢げに手の甲を皆に見えるように拳を構えてこの武器を手に入れた経緯を説明した。

 挿絵(By みてみん)

 「……っで、そのNPCのランクをあげた腕相撲の勝負に買ってこのサファイア・グローブを手に入れたわけ。どう、手の甲に付いてるサファイアがとっても綺麗でしょ。Dランクの武器だから性能もバッチリよ」


 どうやらナミはあの後プレイランクを上げたNPCにも腕相撲に勝利したようで僅か5万円でこのサファイア・グローブを手に入れたようだ。その名の通りグローブの甲の部分に青く光輝くサファイヤが埋め込まれており、ナミの好み通り指の部分が出ている指なしのバトルグローブだった。Dランクの武器らしくかなりの性能を誇っていた。

 

 ※サファイア・グローブの性能

   武器名サファイア・グローブ 武器ランクD 品質80%

    物理攻撃力 182 対応ステータス STR75% DEX25 AGI50%

    魔法攻撃力 56  対応ステータス MAG45% MND65%

    魔法防御力 28  対応ステータス VIT40% INT20% MND20%

    属性    水 属性変換率 20%

    重量    0,2キログラム

    その他効果 水属性を含む特技の消費EP10%減少


 「へぇ〜、そんなイベントやっとったんじゃね。私もヴァルデパに行けば良かった」

 「私もNPCのランクを上げるって言った時はヒヤヒヤしたんだけどよ。どうやらその前の試合もかなり手を抜いてたみたいで、この武器の懸った試合では開始から1秒経つか経たないかぐらいで相手のNPCの腕を机に叩きつけちまったのよ」

 「初めから賞品のランクを上げさせるつもりだったからね。最初はわざと互角の勝負を演じてたのよ。まっ、これで私もレイチェルとほぼ互角の性能の武器を手に入れたんだし、このパーティの前衛エースは私で決まりね」

 「なにぃぃぃぃ…。へっ、まぁ今の内にほざいてな。実は私このヴァイオレット・ウィンドに物凄い効果が秘められていることに気付いちゃんだよな〜」

 「…っ!、何よそれっ!。そんなの聞いてなかったわよ。勿体ぶらずに教えなさいよ」

 「そんなに慌てるなって。戦闘になったらしっかり見せてやるよ」


 サファイア・グローブを手に入れたことによりナミのスタータスはレイチェルとほぼ並んでいた。プレイスキルのことを考えると若干ナミの方が有利に思えるが何やらレイチェルには隠された秘策があるようだった。ナミは自分が前衛のエースだと言い張っていたが張り合う相手はレイチェルだけでなくセイナもいることを忘れているようだった。魔法剣士の職の就いているリアも恐らく前衛はこなせるであろう。ナミ、セイナ、レイチェル、リアとナギのパーティには頼もしい前衛が4人もいることになる。これだけいれば余程のことがない限りパーティの隊列が崩されることはないだろう。


 「まぁ装備が強化されるのはいいことよね。…っで他にはどんなアイテムを買ったの。私が確認したかったのは皆ちゃんと基本となる回復アイテムが準備できてるかどうかなのよね」

 「えっ…。私、他には何も買ってないんだけど…。ゲーセンでちょっとした回復効果のあるキャンディーとか飴を手に入れたぐらいかな…」

 「はあぁっ!」

 「私なんて有り金ほとんど使っちまったのに何も手に入らなかったんだぜ…。はぁ…、あの特殊な砥石欲しかったな。使用した武器の品質を10%も上昇させるんだぜ…」

 「あんたは大物ばっかり狙い過ぎなのよ。私みたいにちょっと遊ぶぐらいで止めておけば良かったのに」

 「ちょっと待ってっ!。それじゃあ他の必須となる消耗アイテムは何も買ってないのっ!。呆れた…。じゃあ他の皆も見せてみて」


 予想通りではあったがナミとレイチェルは回復アイテムなどほとんど買っておらずヴァルデパないのゲーセンでずっと遊んでいたようだった。レイチェルに至ってわゲーセンの大物アイテムに目がくらんでしまい初日から有り金のほとんどを使い切ってしまってしまい現在の所持金は7千円程しかなかった。そして他のメンバーのアイテム欄も確認したのだが馬子以外は先程配布された分の回復アイテムしか所持していなかった。あまりの杜撰ずさんな買い物の仕方にリアは再び激怒してしまうのだった。


 「ちょっと何なのよこれ…。誰一人として旅に出るのに必須のアイテムを揃えられていないじゃない。っていうか基本の回復アイテムすら購入してない奴がほとんじゃない。唯一まともにアイテムを揃えてるのがその黒猫だけって一体どういうことよっ!」

 「(く、黒猫…。どうやらリアには僕の可愛さも全く通用しないようにゃ…)」

 「わ、私はちゃんと回復アイテムを見て買って来とるよ。皆に使う分のことも考えて多めに購入もしとるし…」

 「あんたはEPの回復アイテムばっかり買いすぎよっ!。死んだ仲間を復活させるリヴァイヴ・ジュエルも野営用の道具一式も全く揃えてないじゃない。言っとくけどこのゲームはもし死亡して蘇生を受けられなかったらあなた達の世界で1日、ゲームの世界で30日はログイン不可のペナルティがあるんだからね。しかもペナルティの日数は死亡した原因によって変化して、敵プレイヤーの攻撃が主な原因で死亡した判断された場合には一週間、ゲーム内だと半年以上もログイン不可になるんだからね。っていうか蘇生用のアイテムは全員2つ以上は持っておくのが常識でしょ、常識」

 「そ、そうか…。最近のゲームだと死んでもすぐパーティに合流できるし大抵回復職の奴がなんとかしてくれるからそんなアイテム買ってなかったよ…。全然気が回らなかった。すまねぇ…」

 「うむ…、私も初期に配布されたアイテムのみで十分だと思い何も買ってなかった…。すまん…」

 「……っていうか今思えば食料もまともに購入してないじゃない。空腹でステータスがダウンしてしまうことだってあるし場合によっては餓死の判定がでることもあるのよ。もういいわ…、こうなったら一から買い物やり直しっ!。今度は全部私の指示通り買うのよ。まさか最初の指示がこんな馬鹿なものになるとは思わなかったわ…」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ、リア。私さっきゲーセンでお金使過ぎてもうほとんど残ってないんだけど…。これで足りると思うか…」

 「仕方ないわね…。じゃあ今回は私があなたの分を出してあげるわよ」

 「本当かっ!」

 「その代わり私を通して街中のNPCの評判を下げておくからね。もしそれならいいなんて断ろうものなら更に評判を下げることになるから素直に言うこと聞いといた方がいいわよ」

 「そ、そんな〜」


 ナギ達はリアの命令でもう一度アイテムの買い出しをしに商店街に戻ることとなった。今度はリアに言われた通りこのゲームをプレイする上で必須であるアイテムを重点的に補充していったようだ。どれも価格が安く設定されていたようで全て揃えても2万円程しか掛からなかった。こうして無事必要なアイテムを揃えることができたナギ達はいよいよクエストに向かうため北東の位置の城門へと向かって行くのであった…。



 

 「ふぅ〜…、リアのおかげでなんとかアイテムは揃えることが出来たわね。今思えば最近の低難易度のゲームに慣れ過ぎてて準備が杜撰になりすぎてたわね、私達。普通考えれば蘇生アイテムのストックぐらい常にキープしておくものなのにね」

 「そうですね…。私も自分が魔法を使えるからってアイテムのこと軽く扱ってしまってました。でもようやくこれで冒険に出られまずね。皆さんの足手まといにならないよう頑張ります、私」


 2度目のアイテムの買い出しが終わったナギ達はレイコに頼まれたクエストの目標である集落へと向かうべく街の北東にある城門から外の出たところだった。ヴァルハラ国は崖に面していたために南側にはほぼ城門が設置されていなかった。一番外側の城郭に設置されている城門数は27個。ヴァルハラ国の建国地となっている4つの六角形の城の外に面してる1辺につき3つの城門が用意されていた。その内の一つからナギ達は城の外へと出てきたのだが遠くに見える草原の辺りではすでに何人ものプレイヤーが出現したモンスター達と戦闘を繰り広げていた。


 「へぇ〜、結構城の近くまでモンスターが出現するようになってるんだな。でも流石に自分から城に向かってくるモンスターはいないか。私達も早速モンスターと対峙する辺りまで行ってみようぜ」


 レイチェルに先導されて皆城門を離れて草原をモンスターのいる辺りまで進んでいった。すると先程戦闘を繰り広げているプレイヤー達の様子がより確認できたのだが、どうやら討伐の時より敵モンスターのレベルが上昇しているようで多くのプレイヤーが苦戦を強いられていた。中には油断したあまり城から数百メートルしか離れていない地点で死亡してしまったプレイヤーもいるようだ。


 「なんか皆苦戦しとるみたいやね…。もしかして討伐の時よりモンスター強くなっとるんじゃろか」

 「そうみたいだね…。あっ、あの人達あのままじゃあの細い恐竜みたいなモンスターにやられちゃいそうだよ」


 ナギ達のいる位置から50メートル程離れたところで3名程プレイヤーが数体の恐竜型のモンスターにやれてしまいそうになっていた。その恐竜型のモンスターは名前をドラゴンラプターといい全長は3メートル程で全体的に細長い体格をしている。ドラゴンと名前に付いているが翼はなくあくまで恐竜型のモンスターのようだ。顔はドラゴンに近く、左右に別れた2つの角が特徴的だった。目もかなり食い込んでおり、普通の恐竜よりもかなり鋭い顔つきをしていた。動きが素早く攻撃力も高い。元々獰猛な性格のようでどの魂質の場合でも積極的に攻撃を仕掛けてくるようだ。3名のプレイヤー達は剣士と弓術士、それに治癒術師のようだったが、他のパーティメンバーはすでに倒されてしまったようだった。ドラゴンラプターの素早い動きに翻弄されて周りを完全に囲まれてしまいもう絶体絶命と言うところだった。


 「ど、どうしましょう…。今までのゲームだとあまり他のパーティには干渉しない方が良かったですけど、このゲームの場合手助けした方がいいんでしょうか」

 「ど、どうしようか…、リア…」

 「仕方ないわね…。あんた、魔物使いだったらあいつらをこっちにおびき寄せる特技くらいもう使えるんでしょう。ちょっとあいつらの注意をこっちに向けさせて。他のモンスターには影響を与えないようにするのよ」

 「わ、わかったよ…。確か他のゲームでもよくあるみたいに口笛を吹けばいいんだよね。指笛にしたほうがいいのかな…。よしっ…、“ピューーーーーッ”」


 リアは追い詰められてるプレイヤー達を助ける選択したようで、魔物使いであるナギにドラゴンラプターをこちらを呼び寄せるように指示を出した。ナギは魔物を呼びせる特技である“くちぶえ”を使った。口笛と言っても吹き方は自由でナギは指笛で音を出すことにしたようだ。因みにゲームの世界ではどのプレイヤーも口笛が吹けるようになる。もしかしたらこのゲームで何度も吹いていれば現実世界でも吹けるようになるかもしれない。ナギがプレイヤー達を囲んでいる4体のドラゴンラプターに向かって甲高い音で指笛を吹くとドラゴンラプター達は瞬く間に標的をナギ達へと変え凄いスピードでこちらに向かってくるのだった。


 「ちっ…、まぁあの程度なら楽勝でしょう。私が蹴散らして来るからちょっと待っ…っ!」


 こちらに向かってくるドラゴンラプターを見てリアが自ら迎え撃とうとした。だがリアを差し置いてすでに他のメンバーが迎撃に向かって行ったのだった。


 「へっ、リア。あいつらは私に任せときな。早くこのヴァイオレット・ウィンドを振るってみたかったんだよ」

 「あっ、せこいわよレイチェル。私だって新しく手に入れた武器を使ってみたいんだから」

 「私も新メンバーとして実力の程を披露しとかんとね。祈祷師も戦えるってことみせちゃるわ」

 「ふぅ…なら一人一匹ずつね。一応他の人達も一人ずつフォローに回って」

 「OK。じゃあ僕とデビにゃんはリアに付くね。セイナさんはナミ、アイナは馬子さん、ボンじぃはレイチェルにお願い」


 どうやらリアは一人で迎え撃つつもりだったが、他のメンバーもモンスターと戦いかったようでリア、ナミ、セイナ、レイチェルの4人で一体ずつ迎え撃つことになった。リアが残りのメンバーは一人ずつフォローに付くよう言われると、リアにリーダーを代わってもらっていたナギが気を利かせて皆に指示を出していた。


 “ガルルルルルルゥ〜”

 「よっしゃぁぁぁぁぁぁっ!。まずは私が相手をしてやるぜ。てりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 “ギャウン〜…”


 まず先頭で突っ込んでドラゴンラプターは同じくナギ達の先頭で突っ込んできたレイチェルの大剣に腹部を斬り裂かれ上半身と下半身を分断されて倒されてしまった。重量の思い大剣では動きの素早いドラゴンラプターに翻弄されるかと思われたがナギの作成したヴァイオレットウィンドの軽い重量とレイチェルのプレイ技術もあって見事捉えることができたのだった。


 「次は私ね。とうぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 「こっちは私が相手しちゃるけぇ。せいっ!」


 続いて左右から同時に仕掛けてきたドラゴンラプターはナミと馬子が迎え撃った。左のドラゴンラプターを相手にしたナミは素早い髪突き攻撃を巧みに躱しながら懐へと潜り込み、視界からナミを見失ってドラゴンラプターが戸惑っている間に体を屈めて右手に力を込めると相手の腹部に向かって正拳突きの特技を放った。正拳突きとは特に特技でなくても通常の攻撃としても放つこともできるが、ゲーム内で設定されている特技として放った方が威力は上昇する。腹部に凄まじい正拳を食らったドラゴンラプターはその場で悶え苦しむとHPが尽き消滅してしまった。

 右から攻撃してきたドラゴンラプターは目の前に馬子が立ち塞がるとそのまま突っ込んでいき馬子に飛び掛ろうとした。だが馬子の体に近づこうとした瞬間、馬子が祈祷師用の杖である錫杖しゃくじょうを地面へと力強く突き立てると凄まじい衝撃波が馬子の周囲に放たれドラゴンラプターは吹っ飛ばされしまった。どうやら祈爆祷きばくとうという特技のようだ。吹っ飛ばされたドラゴンラプターは地面に仰向けで叩きつけられてしまい、馬子はすぐさまドラゴンラプターへと飛び掛り再び錫杖で地面を突き立てるようにドラゴンラプターの腹部を突き刺した。するとこのドラゴンラプターも悶え苦しむと同時にHPが尽き消滅してしまった。


 「あと一匹ね…。はぁっ!」


 そして最後の一匹のドラゴンラプターを迎え撃ったリアは、相手に向かって行きながら右手を構えレイピアと思われる剣身の細い剣を出現させた。どうやらこのゲームは武器を装備していても普段はグラフィックを表示する必要はないようだ。リアもレイチェルもセイナも自身の剣を収める鞘となる物は装着していなかった。リアの取り出したレイピアはスラッシュ・レイピアと言い剣身部分が鋭い片刃になっており斬撃性能もかなり高いものだった。リアはドラゴンラプターへ向かって行きながらスラッシュ・レイピアに火の魔力を蓄え、5メートル程の距離まで近づいたところで鋭い切上げの動作とともにフレイムスラッシュという炎の刃のような斬撃を相手に向かって飛ばす特技を放った。リアの放ったフレイムスラッシュは剣身から離れると3メートル近くの炎の斬撃となってドラゴンラプターへと向かって行った。スピードも凄まじくドラゴンラプターは反応する間もなくフレイムスラッシュが直撃すると消し炭になるようなエフェクトともにHPが尽きて消滅してしまった。


 「ふぅ〜…、これで終わりね。あなた達も案外やるじゃない。もうちょっと苦戦すると思ってたわ」

 「へへ〜、まぁこれくらい当然だよな」

 「本当本当。馬子さんもかなり凄かったじゃない。祈祷師って言うから近接戦闘は苦手かと思ってたけど完全に圧倒してたわよね」

 「ありがとう、ナミちゃん。実は祈祷師のスキルのほとんどは特技に設定されとって元々物理攻撃力が高く設定されとるんよ。勿論回復系の特技も物理攻撃力の値が反映されるけぇちゃんと回復職としても役に立てると思うよ」


 リア達はそれぞれ4体のドラゴンラプターを瞬く間の内に倒してしまった。意外だったのは祈祷師の職に就いている馬子もナミ達に負けないくらいのスピードでドラゴンラプターを蹴散らしてしまったことだ。どうやら祈祷師のスキルは物理攻撃が主体となる特技に多くが設定されているようで、回復系のスキルも特技に属しているため物理攻撃力をベースとして放つことができるようだ。つまりは近接戦闘のできる回復職というわけだが、剣士や武闘家などと比べると防御力が劣るためナミやレイチェルから一歩引いた立ち回りをした方がいいだろう。


 「いや〜、それにしても皆凄かったな〜。僕達全く出番がなかったね、デビにゃん」

 「本当にゃ。特にリアの火属性の斬撃を放つ技が格好良かったにゃ。僕も早く色んな技が使えるようになりたい……ってさっきやられそうになってたプレイヤー達が近づいて来たにゃ」

 「お〜い、おかげで助かったよ〜、ありがとう〜」


 ドラゴンラプターを全滅させたことでなんとか危機を脱した3名にプレイヤー達がお礼を言いながらナギ達のところに駆け寄って来た。3人は助けて貰ったことでナギ達を質のいいプレイヤー達だと思いフレンド交換を申し込もうとしたのだがその前にリアから厳しい一言が浴びせられることになるのだった。


 「フレンド交換。別にいいよ、じゃあそっちからフレンド依頼送って来……」

 「ちょっと待って。危機から助かって随分浮かれてるみたいけど他のパーティメンバーはどうしたの。まさか3人で外に出てきたってことはないでしょうね…」

 「あ、ああ…、ちゃんと8人集めて外に出てきたんだけどあっという間に5人がやられちゃって…。ほら、あそこにまだ死体が転がってるでしょ。まだ城から出て10分も経ってないのにこんなことになるなんて思わなかったよ」


 どうやら彼らもしっかり8人パーティで出て来たようだが他の5人はやはり先程のモンスターにやられてしまったらしい。遠くだったので確認できなかったがよく見ると5人の死体のような物が草原に転がっていた。


 「だったら早くその5人のメンバーを蘇生させてあげなさいよ。早くしないと死亡の判定になっちゃうでしょっ!」

 「えっ…、だって僕達蘇生アイテムなんて持ってないしそんな魔法も使えないよ…」

 「もうっ、蘇生アイテムぐらいちゃんと用意してから外に出て来なさいよっ!。それなら今すぐ街へ戻ってリヴァイヴ・ストーンって蘇生アイテムを買って戻ってきなさい。言っとくけどHPがゼロになってから30分以内に蘇生を受けないと死体も消滅して死亡ペナルティが発生するからね。分かったらさっさと全力で街に戻りなさいっ!。このグズ共っ!」

 「は、はいぃぃぃぃぃぃっ!」

 “ダダダダダダッ…”


 3人のプレイヤー達はリアに凄まれるともの凄いスピードで再び城へと戻って行った。ヴァルハラ国の中ならば魔法陣が使えるため急げば5人のプレイヤーの蘇生には間に合うだろう。


 「う、うわぁ…。物凄い速さで戻って行ったよ…。でもリア、グズって言うのはちょっと言い過ぎだったんじゃないの…。それに蘇生アイテムなら僕達が使ってあげれば良かったんじゃ…」

 「プレイヤー同士でそんな甘いこと言ってるから皆付けあがって準備が疎かになっちゃうのよっ!。それにここで私達のアイテム使っちゃったら私達がまたアイテム買いに戻ることになっちゃうでしょ。あんまり多くのプレイヤーがペナルティを受けちゃうとこの国の運営に関わるから助けてあげたけど、アイテムまで施してたら全然準備する癖が身に付かないじゃない。いいからもう放っておいて私達は先に進むわよ」

 「うむ、リアの言う通りだ。もし彼らが間に合わなかったとしてもそれは仕方のないことだ。このゲームの厳しさが重々身に染みて次回からは準備を怠らないようになるだろう」

 「そうにゃ、ナギ。ナギの優しさは素晴らしいけど時には厳しくならないと皆の成長の妨げになってしまうのにゃ。ヴァルハラ国に優秀なプレイヤーを増やすためにもここは心を鬼にするのにゃっ!」

 「う、うん。分かったよ、デビにゃんっ!」


 こうしてナギ達はHPの尽きたプレイヤー達の死体を無視して先へと進み始めたのだった。プレイヤーの死体はここだけではなくナギ達の進む先でも更に何人かの死体が転がっていたが、ナギ達は決して蘇生アイテムを使うことはなかった。まだ蘇生魔法を使える者は誰もいなかったため一々蘇生アイテムを使っていたらナギ達の所持金がすぐに尽きてしまう。リアの言う通り彼らにはゲームの厳しさを思い出してもらいアイテムの準備を怠らないようになって貰う他ないだろう。ナギ達は先程のリアの怒っていた意味を更に深く理解して進んでいったのだった…。








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