finding of a nation 20話
「では最後に行動ポイントについて説明させていただきます。HP、MP、各基礎ステータス以上に重要なポイントとなるので気を引き締めて聞いてください」
ナギ達のチュートリアルはいよいよ最後の行動ポイントの説明に入った。アリアが言うにはこのゲームにおいてかなり重要な要素となるようだが果たしてどのようなものなのだろうか。
「行動ポイントとはその名の通りゲーム内で行動するためのポイントです。このチュートリアルが終わるまではまだ実装されませんのでご安心ください。このポイントはゲーム内でのありとあらゆる行動においてポイントを消費します。このゲームの基本となる戦闘、内政、副業については勿論、歩くだけでも距離によってはポイントを消費してしまいます」
「歩くだけでもっ!。そんな事でもポイントを消費するなんて…」
「恐らくシミュレーションゲームによくある行動を制限するためのポイントだろうね。HPやMPだけなら戦闘にしか影響しないしアイテムや魔法で簡単に回復で来てしまう。このゲームの世界はログアウトしている間でも常に時間が進行するみたいだからそれだと時間のあるプレイヤーがプレイし放題になってしまうからね。多分このポイントは自分では回復不可能で、現実世界での一日の間のプレイを制限するためにあるんだろう。でないと一日中、このゲームだともしかしたら一年中プレイする人も出て来てしまうかもしれないからね」
「カイル様の推測通りです。このゲーム内での行動はこの行動ポイントがなければ例えHPが全快の状態でも指一本動くことができません。初期に近い状態のポイントでは大体現実世界で12時間、ゲームの世界で15日程度しか行動できないでしょう。その場でじっとしているだけなら別ですが…」
「つまりはプレイヤーのプレイ時間を公平にするためのものってことか。睡眠学習装置が取り入れられてるとはいえ皆仕事や学校があるしもし一日中ゲームをしていられる人がいたら一気に差がついちゃうもんね」
行動ポイントはこのゲームにおいて全ての行動に必要となるポイントのようだ。シミュレーションゲームでは大抵ターンや時間、そしてこの行動ポイントのようなポイントで行動回数が制限されているが似たようなものだろう。シミュレーションゲームにおいてはゲームの戦略性に関わる重要な要素であるが、このゲームにおいてもプレイヤーの行動を制限するだけでなく戦略、そして戦術においても大きな影響を及ぼすようだ。
「ですがこの行動ポイントはプレイ環境を公平にするためのものではありません。他のシミュレーションゲーム同様戦略や戦術に大きな影響を与えることになります」
「ど、どういうこと…」
「どのような行動を取るかによって消費するポイントが大きく変化するということです。例えば戦闘においては使用する特技や魔法によって大きく消費ポイントが変動します。MPやEPと同じように強力な技程消費ポイントが増えていきますが、こちらはアイテムや魔法によって回復することはできず、時間の経過の回復を待つよりありません」
「そうか…、最近のゲームは回復アイテムが豊富用意されていたりボス戦前に回復ポイントがあったりするから好きな特技や魔法をバンバン使っていけるけど、このゲームの場合常に行動ポイントに余力を残して戦わないといけないってことだね。ダンジョンなんかを攻略する場合ボス戦でフルに戦おうと思ったらHPやMPよりむしろ行動ポイントに注意を払わないと…」
「それだけではありません。行動ポイントの消費はリアルキネステジーシステムの影響も受けます。つまりただモンスターに攻撃するだけでもリアルキネステジーシステムによるプレイ技術によって大きく変化します。当然より使いこなせている方が消費が少なくて済むでしょう」
行動ポイントの消費はその行動、更にプレイ技術によって大きく変化する。どこでどの特技を使うか、更には一つの攻撃にどれ程の力を込めるか、ただ走るだけでもプレイ技術によって大きく消費ポイントが変化してくる。そして行動ポイントが0になった場合その場から指一本動けない状態となってしまう。モンスターの出現するフィールドや敵国の領土の中でそうなった場合ほぼ確実に死亡してしまうことになるだろう。更には回復手段が制限されていることでより注意を払わねばならなくなる。
「そして今言ったような戦術だけでなく戦略においても大きな影響を及ぼしてきます」
「戦略…」
「はい。例えば敵国を侵攻しようとした時に行動ポイントの少ないプレイヤー達では途中で攻めきれずに行動ポイントが0になってしまうかもしれません。敵国の拠点を攻略するには兵の質、量の他にこの行動ポイントが足りているかも考えねばなりません。ただこの戦略における行動ポイントについてはむしろ国の王や女王のものが重要になります」
「ブリュンヒルデさんのポイントがっ!。一体僕達のポイントとどう違うの」
行動ポイントは一般のプレイヤーだけでなく自国のトップを務めるプレイヤー、ヴァルハラ国ならばブリュンヒルデにも設定されているようだった。一体プレイヤーの行動ポイントと何が違うのだろうか。
「まず行動ポイントに最大値の概念がありません。時間の経過に伴って限りなく増えていくことになります。この行動ポイントの増加量は自国の内政値、そして女王であるブリュンヒルデ様のレベルによって変動します。内政値については農業や畜産、商業や軍事に至るまで全ての値が影響します。そして女王であるブリュンヒルデ様のレベルは自国のプレイヤーの平均レベルによって決まります」
自国のトップのプレイヤーの行動ポイントはどうやら制限なく増加していくらしい。当然何かしらの行動をすればポイントは消費されるが大抵の場合増加するポイントの方が多いためポイントの貯蔵はどんどん増えていくことになるだろう。
「それだとブリュンヒルデさんのポイントって私達と比べ物にならないんじゃないの。そんなにポイントを貯めてどうするのよ。確かにポイントがあるに越したことはないと思うけど使いきれなければ意味ないんじゃない」
「ナミ様の言う通りこのままではブリュンヒルデ様のポイントは現時点でも10万ポイント以上貯まっていることになります。ですがヴァルハラ国の女王であるブリュンヒルデ様はプレイヤーの皆さんと違い大量にポイントを消費する機会が多いのです。例えば農業や商業のプレイヤーの内政職の効率上げる政策を実施したり、ポイントを消費することでしか建てられない施設もあります。その他にもプレイヤー同士の闘技大会や、特別な訓練を実施したり、このポイントを消費することでプレイヤーの覚えられる特技や魔法の種類を増やすこともできます」
「なるほど…、つまりブリュンヒルデさんのポイントが増えれば増えるほど自国に有利な政策が実施できたり施設が作れたりするのか。しかも闘技大会や訓練もできるってことは僕達プレイヤーにも大きな影響を与えるってことだね。ブリュンヒルデさんのポイントって言うよりもこのヴァルハラ国の行動ポイントって感じだね」
「はい。国のトップは別名内政ポイントも呼ばれますが、その方がイメージが掴みやすいかもしれませんね。そしてこの内政ポイントには更に重要な要素があるのです」
「更に重要な要素…」
「実はこの内政ポイントはプレイヤーの方々の行動ポイントとして最大値を越えて付与することができるです」
「な、なんだってっ!」
「プレイヤーの役職によって変化する場合もありますが、初期の状態では大体プレイヤーの行動ポイントの最大値の10倍の値まで付与することができます」
国のトップのプレイヤーの行動ポイントは別名内政ポイントとも呼ばれ自国を成長させていくための重大なポイントであった。ナギの言う通りこのポイントはヴァルハラ国、そしてヴァルハラ国のプレイヤー達、この国に住む全てのNPC達にとって重要なポイントである。そしてそれだけでなくなんとこの内政ポイントはプレイヤーに行動ポイントとして付与できるというのだ。
「ってことは今の私達の行動ポイントの最大値は大体12000ぐらいだから12万ポイントまで増やせるってことっ!。何の為にそんなことするのよ」
「多分何か特別な作戦をプレイヤーに任せるためのものにゃ。例えば遠くに遺跡や資源のある情報があったとして、そこに向かうプレイヤーを選別した時なんかポイントを付与すれば遺跡を攻略できたり他国に先駆けて資源を確保したりすることができるにゃ」
「なるほど…。それに戦略的に重要な拠点を確保する時や敵国との戦争になった時も内政ポイントに余裕があれば助かりますね。っと言うより他国との戦争はプレイヤーの戦闘能力よりこの内政ポイントの方が勝敗に左右しそうです。いくら強力なプレイヤーが沢山いても行動ポイントがなければ動けませんから敵国の内政ポイントが多ければそのまま押し切られてしまうかもしれませんね。逆に敵国の行動ポイントが少なくなっている時に攻撃を仕掛ければ少ない損失で拠点を攻略できそうです。内政ポイントはなるべく確保しておくようにして他国にポイントの量を知られないようにしないといけませんね」
「流石はアイナ様。説明を聞いただけで完全に内政ポイントの本質を理解したようですね。アイナ様の言う通りこのゲームの戦争は兵士の質、量だけでなくこの内政ポイントも確保しておかなければなりません。もし内政ポイントを消費している時に攻め入られては反撃もままならずに制圧されてしまうでしょう」
プレイヤーへの行動ポイントの付与は基本的にその国トップのプレイヤーが特別な作戦をプレイヤーに任せる時に行う。他国との戦争時には優秀なプレイヤーには優先的に行動ポイントが割り当てられ戦場での活躍が期待されるだろう。
「そしてこの行動ポイントの付与なのですかブリュンヒルデ様によって選ばれた何人かのプレイヤーにもその権利が与えられるようになります。その場合選ばれたプレイヤーは行動ポイントの制限がなくなりブリュンヒルデ様と同じように無限に増えていくことになります。ただし時間によるポイントの増減はブリュンヒルデ様に比べるとかなり少ないものになります。更にその権利が与えられたプレイヤーはブリュンヒルデ様からポイントを付与してもらうことができなくなりますが、それ以上のポイントは常時確保できるようにはなるでしょう」
「他の戦略シミュレーションゲームでいう軍団長、三国志だと太守とか都督、軍師とかが有名だね。ってことはその役職にブリュンヒルデさんから選ばれれば僕達でも政策の実行や施設の建設ができるのかな」
「はい、やはりカイル様も察しがいいですね。一応ブリュンヒルデ様の許可が必要となりますが、ほぼ自由に活用できると言っていいでしょう。場合によっては一つの支城を任される時もあります。この役職に優秀なプレイヤーが就けるかどうかもゲームを勝ち抜いていく上で重要と言えるでしょう。選別はブリュンヒルデ様によって行われますが、我こそは思うプレイヤー自分から積極的に功績ポイントを取得してアピールしていくことが必要でしょう。ただしもし役職に就けたとしても他のプレイヤーから罷免されてしまいますと剥奪されてしまいますのでお気を付けください」
なんと行動ポイントの付与の権利はナギ達一般のプレイヤーにも与えられることもあるようだ。その場合その選ばれたプレイヤーは軍団長となり多くの行動ポイントを得ることができるようになる。この行動ポイントを他のプレイヤーに付与することを条件に他のプレイヤーに指令を出せたり、支城を任された場合にはその周囲の拡張を自由に行うこともできる。当然選ばれるのは優秀かつ他のプレイヤーからの信頼が厚い者でなければならない。もし不適格者が選ばれた場合にはすぐに他のプレイヤー達から罷免の要請がなされすぐに地位を剥奪されてしまうだろう。
「以上で行動ポイントの説明を終わります。これで最後と言いましたがあともう一つだけこのゲームにおいて最も重要な要素があります。問題出すようで悪いですが、一体それは何でしょう」
「えっ…、いきなりそんなこと言われても分かんないよ。デビにゃんは分かる?」
「当然にゃっ!。言われてみれば当たり前のことだけどナギにはちょっと難しいかにゃぁ…」
「えっ、何々。私も分かんないわよ。皆は分かってるの」
「私も分かんねぇに決まってるだろ。勿体ぶらずに教えろよ、デビにゃん」
「時間……ですね」
「…っ!」
答えが分からずナギ達が考え込んでいると小さな声でアイナが答えを呟いた。その答えを聞いた瞬間皆ハッとしたようにアイナの答えの意味に気が付いていた。
「うむ…、このゲームはログアウトしている間もゲームの内の時間は進行し、しかも他国ともその経過時間は並行しているからな。行動ポイントだけでなく限られた時間をどう使っていくかも重要になってくるだろう。これは私も自分のレベル上げなど考えていられないな」
「戦略上においてなるべく有利な地形を抑えておきたいからね。行動ポイント以上に如何に早く行動するかが大事になってくる。まずは周囲の地形を把握するためにもどんどんマップを探索していかないとね」
アリアの質問の答えが分かっていたのはアイナだけではなかった。セイナとカイルもこのことに気付いていたようで的確に時間の重要性を指摘していた。
「その通りです。皆さんなかなか優秀ですね。常に時間が進行しているこのゲームにおいてプレイ時間の多さ、そしてその内容が大変重要になってきます。ハッキリ申し上げてこのゲームを進行している間は皆さん他のゲームをしている余裕はまるでないでしょう。行動ポイントによる制限があるとはいえ一日プレイしないだけで他のプレイヤーとかなりの差がついてしまいます。更にその時間を如何に効率よく使えるかによっても差が生じてきます。もうすでにこのヴァルハラ国のプレイヤー方の間でもレベルや功績に大きな差がついています。中には未だに内政のチュートリアルを終了していない者もいます。他のVRMMOでは自分の好きなペースでプレイすることができますが、このゲームではそうはいきません。プレイ時間、プレイ内容がそのまま他国との勝敗に影響してきます。ですから皆さんこのゲームに勝利するか敗退するまでは常に気を引き締めておいてくださいね」
アリアの言う通りこのゲームの性質上終了するまで一日欠かさずプレイする必要がある。一日プレイしないだけでもゲームの中で1か月経過してしまうため自国で高い地位に就きたければ病気の状態でもプレイしなければならないだろう。幸い睡眠学習装置のハイテク機能により例え病気であってもゲームの中では健康そのものの状態でプレイ出来る。ゲーム中で状態異常に陥れば別だが。そして当然睡眠の効果もあるので特別な用事でもない限り毎日プレイすること自体は難しくないのかもしれない。しかし他のMMOと違い自国のプレイヤー、更には他国のプレイヤーを常に意識し続けなければならないので精神的にはかなりきついかもしれない。PvP要素のないプレイ時間やプレイ内容を他人と比較しなくてもよいゲームでも人間とは他人を意識してしまうものだ。もう一日中このゲームのことで頭が一杯になってしまうだろう。仕事や勉強にも身が入らなくなってしまうかもしれない。
「以上で私からのチュートリアルを終わります。それでは皆さん城の近くの場所にランダムに転移させますので身構えておいてください。あっ、それから転移が終わったら皆様に初任給として20万円を支給させていただきます。回復アイテムもいくつか支給されていると思いますのでご確認ください。昇給については次回の給料日、現実世界で0時回った時に説明させていただきます。それでは皆さん心行くまでゲームをお楽しみください。ではまた…」
「えっ…、もう説明終わりなのっ!。なんかまだ色々抜けてるような気がするんだけど……わあっ!」
“ウィ〜〜〜ン…”
こうしてナギ達はアリアのいるチュートリアルの空間から転送されていった。アリアの説明は不十分なもののように感じられるがやはりゲームというのは実際にプレイして覚えていくのが一番かもしれない。大体のルールは把握できたようだしもうこのゲームに戸惑うこともないだろう。いよいよナギ達は本格的にこのゲームをプレイし、この城から外へと踏み出してゆくのだった…。
“ウィ〜〜〜ン…、パッ…”
「……っ!。こ、ここは……」
アリアのチュートリアルが終わったナギ達が気が付くと城から20キロ程離れた街中にいた。城の近くなためか昨日飛ばされた地点に比べるとかなり街が賑わっておりそこら中人の姿で一杯だった。どうやらこの辺りは商店街のようで道の脇には多くの出店が並んでいた。建物を構えている店もいくつかあったが昨日ナギが行ったアルケミーブラックスミス店に比べると規模の小さい店ばかりだった。どうやら人口が密集している分スペースの確保が難しいらしい。出店を出している商人たちはこの辺りの住民ではなく外郭の外の方から来た貧困層の者達だろう。城の近くに住む裕福層の住民達に者を売りに来たようだ。
「うっわぁ〜、なんだか昨日行ったレイコさんの家の近くの辺りとは全然違う雰囲気ね〜。これぞ西洋の街並みって感じ」
「どうやらこの辺りは商業地区みたいですね。国の商売人達が裕福層目当てに店を出しに来てるって感じでしょうか。この辺りは野菜や果物、それに雑貨品なんかが多いからプレイヤーのためというより住民のための商店街なんでしょう」
「そうだね。いくつかこの辺りに店を構えている商売人もいるみたいだけど、お金の巡りが良い分確保するのも大変だろうね。それにどうやらこの国の裕福層と貧困層の関係はどうやら良好みたいだよ。裕福層の人達も必要以上に偉そうにしてないし羽振りもいいみたいだよ。上手く国民達にお金が回ってる証拠だね」
アイナとカイルは付近の街の様子を見てすぐにこの国の現在の内政の様子を見抜いていた。当然まだ始まったばかりなので特に問題はないようだが、レイコに言われた通りカイル達はもう街の様子から城の内政の状態を見抜く術を身につけたようだった。国全体にお金が行き渡っていない場合必ず国のどこかにスラムような極貧層が出来てしまう。そうなると国の治安は悪くなり辺りで犯罪が多発するようになる。プレイヤー自身も犯罪の被害にあい場合によって金銭や貴重なアイテムを盗まれてしまう。その場合二度とその金銭やアイテムは戻ってこない。だが中には極貧層がなければ起きないイベントや建築できない施設もある。特に闇市場や違法賭博などは使いようによってはプレイヤーにとって凄まじい効果をもたらすこともあるだろう。極貧層の中には特殊な能力を持ったNPCも数多く存在しているためそれらを固有NPC兵士として登用するためにも一定の割合で極貧層を抱えるのも内政のテクニックかもしれない。
「流石カイルとアイナだにゃ。一目でそこまで見抜くなんて素晴らしい洞察力にゃ。ナギやナミにも少しは頭を使うことを覚えてほしいにゃ。レイチェルには絶対無理だから気にしなくていいにゃ」
「なんだとデビにゃんっ!。てめぇ私に何か恨みでもあるのかよ」
「当然にゃっ!。僕とナギのおかげでヴァイオレット・ウィンドが出来たのにちっとも感謝してないにゃ。特に僕なんて一度も礼を言われてないにゃっ!」
“ガルルルルルゥ…”
“ニャニャニャニャニャニャァ…”
レイチェルとデビにゃんは何気ない会話で急に喧嘩になってしまい互いに睨みあって相手を威圧していた。レイチェルは声を低くしてまるで野獣のような声を出しておりまるで狼と猫が睨みあっているようだった。
「ま、まぁまぁ二人とも…。そんな喧嘩腰になんないでよ。それよりこの後例のレイコさんのクエストに行こうと思ってるんだけど皆どうする。僕は少し街で買い物して肉を加工してアイテムも買い揃えておきたいんだけど…」
「悪い、俺とカイルはこの後他のメンバーと別の場所で待ち合わせしてるからそっちに向かわないとダメなんだ。買い物もそっちで済ませるよ」
どうやらヴィンスとカイルもナギと同じく依頼されたクエストに向かうようでこれから他のメンバーと合流するようだった。一気に男性陣が二人もいなくなってボンじぃと二人きりになってしまうことにナギは多少の不安を覚えていた…。
「そっか…、じゃあ一先ずここでお別れだね。あっ、そういえば忘れてたけど皆フレンド交換しておいてよ。その方が連絡取り易いしこのメンバーとは長い付き合いになる気がするんだ」
「OK。私も何だかそんな気がしてたのよね。街の外に出かける時は是非誘ってちょうだい」
「うむっ、私も普段は固定パーティなど組まないのだがそんなこと言ってる場合ではないようなのでな。他国に先を越されないためにもなるべく連携を取っていくようにしよう」
「まさかお前の口から連携って言葉が出てくるとは思えなかったぜ…。まっ、私もナギには大剣作ってもらったし恩を返す為にもパーティできっちりナギとデビにゃんの護衛を務めないとな。モンスターが出てきてもナギ達に触れる前にこのヴァイオレット・ウィンドで叩っ斬ってやるぜっ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁっ!。僕はレイチェルなんかに守って貰わなくても平気なのにゃぁぁぁぁっ!。逆に僕達の足を引っ張らないように気を付けるのにゃ」
「今回は別れちまうが俺もナギとは不思議な縁感じているから城の外に出る時は是非誘ってくれ。セイナやナミには前衛として力が及ばないかもしれないが必ず役に立って見せるぜ」
「うんっ!。カイルも久しぶりに別行動取ることになるけど頑張ってね」
「ああっ!。ナギがいないと思うとなんだか寂しくなるけどこのゲームだとそうも言ってられないからね。どんな人とパーティを組んでも冷静に戦えるように精神を鍛えてくるよ。それじゃあね」
「うん…、それじゃあ…」
こうしてフレンド交換を済ましヴィンスとカイルは他のメンバーとの待ち合わせ場所と向かって行った。自分から言い出したことだがカイルはナギと離れ離れになるのが少し寂しいようだった。ナギと一緒でないとゲームをプレイ出来なくなっていた自分を修正したかったのかもしれない。そしてそれはナギにとっても言えることであった。
「行っちゃったわね…。それじゃあ私達はどうする。ナギは支度がしたいって言ってたけど折角だからこの辺りで買い物する?」
「それなんだけどちょっと待って。実は昨日内政の仕事で知り合った子も一緒にクエストに行きたいって言ってるんだ。ちょっとメールしてみるね」
「確かにメンバーが二人抜けて戦力的に心細くなってたところにゃ。それは是非連れていった方がいいにゃ、ナギ。ところでその人はどんな職に就いてるんだにゃ」
「送信完了っと…。えっと、名前は天淨馬子さんって言って、職業は祈祷師だったかな。アイナと同じで攻撃と回復両方できるみたいだけどアイナと違って特技が主体になるみたい」
「へぇ〜、そいつは助かるぜ。なんせこっちの回復職の方はてんで役に立たねぇからな。おまけにスケベだし」
「な、なにをぅっ!。わしだって数々のVRMMOで回復職をこなしてきたんじゃ。皆の足手まといになるような真似はせんわい。……ところで…、名前を聞く限りにその子は女の子のようじゃがわしの感だとかなりの美人と見た。これは会うのが楽しみじゃわい」
「やっぱりスケベじゃねぇか…」
カイル達と別れたナギは昨日の馬子と約束を思い出しメールを送ってみることにした。馬子も内政のチュートリアルは終わっているので恐らく先程のチュートリアルも受けに来ていたはずだろう。もし終了していれば返事が来るはずだが…。
“ピコ〜ン…”
「あっ、返事が返って来た。……どうやらもうチュートリアルが終わってこの近くにいるから今からこっちに来るって。なんかフレンド交換しておけばマップで位置が確認できるみたい」
「そうなんだ。私もちょっと見てみようっと。……本当だわ。マップに今ここにいる皆の反応が映ってる。さっき別れたカイルとヴィンスの反応もあるわ。どうやらもう魔法陣で転送したみたいで10キロ以上離れてる」
「僕の方には馬子さんの反応もあるよ。大体5,6百メートル離れた所にいるみたいだから5分ぐらいでこっちに来るんじゃないかな」
どうやら馬子もすでにチュートリアルが終了しこの近くにいるようだった。ナギ達は端末パネルのマップを使えばパーティメンバーとフレンドの位置を知ることができると知りマップを見ながら馬子が来るのを待ち構えていた。その頃馬子はナギ達のいる所を目指し人だかりの多い街の中を走っていた。
「もう〜、人だかりが多すぎじゃけぇ…。それに街並みも複雑でマップに表示されとる位置と自分のいる位置がいまいち分からんのよ。もうナギ君達のすぐ近くまで来とるはずなんじゃけど…。ちょっとマップを拡大してみよ」
マップを見ながらナギ達のいる所を目指していた馬子だったがどうやらマップの範囲が大きすぎて正確な位置が掴めないようだった。だがマップを拡大したことですぐに正確な位置が分かったようで急いでナギ達の元へ向かって行った。
「あっ…、分かった分かった。えーっと…、ここの路地を潜って出た通りを真っ直ぐ行った先の広場におるみたいやね。それじゃあ急いで向かうとするか」
馬子のことを待っていたナギ達はどうやら見つけやすいように視界の開けた広場へと移動したようだった。だがナギ達が向かった先の広場も人だかりで一杯で馬子が来たとしても探すのに苦労しそうだった。
「う〜ん…、これじゃあ馬子さんが来ても見つけるのが大変そうだな〜。こんなにNPCがいるゲームなんて今まで初めてだよね」
「そうね〜。やっぱり電子現実世界っていうだけあって他のゲームと使える容量が桁違いみたいよね。普通のゲームだったらどんなに頑張ってもこのマップの一マス分ぐらいが限界だもんね」
「あっ…、いたいた。お〜い、ナギ君〜、遅れてごめ〜ん、来たよ〜」
「あっ、馬子さんだ」
広場に移動したナギ達にどこからともなく馬子の声が聞こえてきた。声の方を見てみると人混みの中から手を振っている馬子の姿が確認できた。馬子は人混みを潜り抜けてナギ達の元へ向かってきた。
「ふぅ…、全く凄い人の数やね。おかげでナギ君達を探すのに豪い時間が掛かってもうてね。この街の人達みんなNPCなんじゃろ。やっぱり最新のゲーム技術は凄いんじゃねぇ…。それより後ろにいるのがナギ君の昨日のパーティメンバー?」
「そうよ。私はナミ。職業は武闘家。本当は伊邪那美命ってキャラ名なんだけどナギとは何の関係もないからね」
「あっ、こっちこそ自己紹介せんとね。私は天淨馬子。職業は祈祷師。よろしくね」
「じゃあ私達も自己紹介するか。私の名前は…」
ナミが自己紹介をすると残りのメンバーも続けて自己紹介をした。
「うっわ〜、あんたが芸能廃人プレイヤーで有名な美城聖南なんっ!表彰式の時も見たけどやっぱり普通の人とは違うオーラ放っとるね。それにしてもナギ君…、私も含めて君のパーティ女の子ばっかりやんか。案外女子にモテるんじゃね、ナギ君」
「な、何言ってるんだよ。これは討伐の時にたまたま一緒になっただけで…、それに今はボンじぃしかいないけど本当はあと二人男のプレイヤーがいたんだよ。今はちょっと用事があって別れちゃったけど…」
「そういえばナギ君も含めて6人しかおらんねぇ……うん?。この小さな黒い猫がナギ君の仲間モンスター。確かヴァルハラ国に住むことになった猫魔族と同じ種族っていう…」
「デビルキャットのデビにゃんにゃ。昨日はナギが内政の仕事でお世話になったみたいにゃ。これからもナギのことよろしく頼むにゃ」
「こちらこそよろしく。ふふっ…、礼儀の正しい猫ちゃんじゃね」
「いや〜、それにしても馬子ちゃんこそ礼儀正しくて可愛い女の子じゃのぅ。このパーティの女子達も容姿は可愛らしいんじゃが如何せんマナーがなってなくてのぅ。馬子ちゃんの慎ましさを少しは見習ってほしいもんじゃ」
「(馬子さんも意外と強引な性格してると思うけどな…)」
「ありがとうお爺ちゃん。でもあんまり他の人の悪口を言うのは感心せんね」
「ほほっ…、やっぱりええ子じゃ。わしことはボンじぃと呼び捨てで構わんぞい」
馬子の礼儀正しい性格のおかげで他のパーティメンバーはすぐに打ち解けることができたようだ。特にボンじぃは自分をじじぃ呼ばわりされなかったことが余程嬉しかったらしい。アイナもボンじぃを貶すことはなかったがボンじぃからしてみれば女生徒しての魅力が乏しかったようだ。セイナについてはボンじぃですら手が出しずらいオーラを醸し出していたらしい。
「それで…、早速昨日レイコさんに頼まれた依頼に出かけるん。私はいつでも準備はできとるんじゃけど…」
「それがちょっと街で買い物してから行こうかと思ってたんだよ。ほら、僕魔物使いだから皆をサポートできるように特殊な効果を付与した肉を加工しておきたくてさ」
「あっ、今思えば折角お給料もろたんじゃけぇ買い物行ってみた方がいいかもしれんね。確かここに来る途中で大きなお店が並んでる通りがあったよ。プレイヤーの人達も一杯おったけぇこの辺りとは違ってプレイヤー用の道具を取り扱ってるのかもしれんよ」
「へぇ〜、じゃあそこに行ってみましょうよ。別に買う物なくてもお店の中を見て回ってるだけで楽しいもんね」
「そうだな。一緒に武器屋見に行こうぜ、ナミ」
「あんな武器を作ってもらっといてまた武器屋にいくのにゃ。僕はナギに付いて行ってお肉加工を手伝うにゃ。できれば僕もちょっと食べさせてほしいにゃ…」
「わしはハーブの種でも買いに行こうかのぅ。副業は庭師を選択しとるしプレイヤーが自由に使える栽培場もあるみたいだしの」
「私は本屋に行ってみたいです。著述家の仕事をする時に役立つかもしれませんから」
「ふむぅ…、私は飯屋でも回ってみるか。どこか美味い店が見つかるといいのだが」
「飯って…、芸能人は行動も普通の人とは違うんやね。私は念の為に回復アイテムでも買い足しこうかな。最初に支給されたアイテムだけじゃ不安じゃけん」
「よ〜し、それじゃあまずは馬子さんの言ってた商店街に向かおうか。その後は暫く皆自由行動にしようよ」
「賛成〜」
最初に支給されたお金は20万円しかないがナギ達は一体何を買うのだろうか。ガドスの店で見た武器の値段などを見るとできるだけ残しておきたいところだがいざという時の為に回復アイテムは買い足しておいた方が良いだろう。このゲームはお金のやりくりを考えるのも大変かもしれない。レイチェルなんかはあっという間に使いきってしまうのではないだろうか。ナギ達何を買おうか楽しみにしながらプレイヤー用のアイテムを多く取り扱っている店へと向かって行った。




