finding of a nation 17話
レイチェルが店を出た後はナギとデビにゃんはガドスとアリルダに任される仕事を受けていた。デビにゃんはその前に錬金術の指導をしてもらうようだ。ナギはきっちり仕事をこなせるようガドスの仕事内容についての説明を真剣に聞いていた。
「いいか、今はこの店がヴァルハラ国から発注を受けている大剣のカテゴリに属する武器で、お前が何とか作成できそうなのはこの3種類だ。まずはさっき作ったグレートソード、これはもう楽勝でできるだろう。作業量自体も少ないしな。そして次はバスタード・ソードだ。さっきのグレートソードを更に大きくし、重量も重くなったような武器で攻撃力もかなり高い。ここから作業の工程が複雑になっていくからよく聞いておくんだぞ」
「う、うん…」
先程のグレートソードの作業の工程は溶鉱炉で火の魔力を注入するだけで済んだがそれ以上のランクの武器はグッと工程が増えるらしい。バスタード・ソードならばまずは溶鉱炉で火の魔力を供給して槌で叩く。その後水場で水の魔力を供給してもう一度槌で叩く。まずはこの作業を3回繰り返す。3回繰り返すと次は土流装置で土の魔力を供給した後今度は槌で叩かずにもう一度溶鉱炉で火の魔力を供給してから槌打ちをする。それを2回繰り返した後凍結装置に入れて氷の魔力を供給する。凍結装置から取り出した後槌打ちせずに暫く時間をおいた後気流発生装置で風の魔力を供給する。最後に少しずつ力を入れていく感じで3回連続槌で叩く。これだけの作業をこなしてインゴットはようやくバスタード・ソードへと姿を変える。少し武器のランクが上がっただけでかなりの作業量の増加だが、初期装備であったグレートソードが簡単だっただけだろう。
「うわぁ…、グレートソードの時は凄く簡単だと思ってたけどちょっと武器のランクが上がるだけでこんな作業の工程が増えちゃうんだね」
「ああ、言っておくがクレイモアはこれより更に難しいしヴァイオレット・ウィンドなんて工程を覚えるだけでも一苦労だぞ。一々確認しながら作業してたんじゃ質のいい装備はできねぇから流れをきっちり頭に叩き込んどかないといけねぇ。鍛冶の工程はその武器にあった鉱物を持ってくれば鍛冶屋の人間が勝手に教えてくれる。つまりはレシピはなくても鍛冶自体はできるってことだが一部の武器についてはNPCでも工程を知らねぇからどっかでレシピを入手しないと作ることはできねぇからな。それじゃあ次はクレイモアの説明に入るぞ」
「よしっ!」
ナギは気合を入れてクレイモアの作業の工程も教えてもらった。武器の鍛造はレシピがなくてもできるようだが中にはレシピ自体を入手しないと作成できない装備もあるらしい。クレイモアの工程はバスタード・ソードより更に複雑だった。まず火の魔力を2回、次に雷と氷を続けて供給して叩く作業を3回、更に火、水、水、火、火の順でそれぞれ1、3、5、3、1の回数ずつ槌で叩く。最後に火、雷、氷の魔力を続けて供給し槌打ちをして作業完了である。
「依頼されている数はグレートソードが50本、バスタード・ソードが10本、クレイモアが5本だ。グレートソードはすぐに終わるだろうが他のはかなり時間が掛かるだろう。失敗してもいいしできるところまででいいからとにかく朝までやるんだ。インゴットは横にある保管箱から自由に取り出せる。だが取り出せる数は今言った数と同じだけにしておくからな。あんまり失敗されると流石に店の経営に響くかもしれないからな。俺は部屋の隅で座ってウトウトしてる。何か聞きたいことがあったりトラブルが発生したら遠慮なく起こせ。それじゃあ頑張るだぞ」
「うんっ!、よ〜し、頑張るぞ〜っ!」
こうしてナギはガドスに頼まれた仕事をこなしていくのだった。その頃デビにゃんはアリルダからの錬金術の指導をちょうど終えようとしているところだった。
「え〜っと…、ちょっと火の威力を弱めて…、その後かき混ぜながら軽い放電を起こしてっとにゃ。最後に冷却装置で一気に氷の魔力を注ぎ込めば完成にゃっ!」
“ポンッ…!”
アリルダの指導を受けていたデビにゃんはナギやレイチェルや同じようにアリルダに作り方を見せてもらったものと同じアイテムを錬金術によって作っていた。どうやら最後の調整をしているところだったようで火の魔力を供給する竈の火を弱めて蒸気発生装置で錬金釜の上で小さな放電を起こしていた。そして竈の中の素材の混ざった液体を錬金術用に作られた大きなマドラーを使ってゆっくりかき混ぜていた。そして頃合いを見て冷却装置で一気に氷の魔力を供給すると錬金釜の中でワインボトルのコルクを抜いたときに聞こえる空気が一瞬にして抜けたような音が聞こえた思うと錬金釜の液体が消えデビにゃんの作っていた錬金アイテムへと姿を変えていた。
「にゃぁーーーっ!、無事成功にゃーーーっ!。これが使用したキャラの特技のスキルレベルを一時的に上昇させるアタックテクニックエキスにゃ。アリルダばぁちゃん、どうやら僕も無事成功したみたいだにゃ」
「それは当然だよ。こんなの初期中の初期の錬金アイテムなんだから。それより完成したアイテムの品質を見てみな」
「にゃ、にゃぁ…、そうかにゃ。完成したアイテムの品質によってスキルレベルの上昇度が決まるんだったにゃ」
デビにゃんは端末パネルを開いて自分の作ったアタックテクニックエキスの品質を確認した。ナギの時と同じように作成したアイテムの品質によって指導の効果が決まるようだ。
「えーっと、アイテムの品質は…82%。やっぱりナギ達に比べると見劣りするにゃぁ…」
「まぁ、あいつらはプレイヤーだからね。しかもVRMMOの経験も豊富そうじゃないか。私達NPCは安定した力が出せる分ゲームの設定以上の能力はなかなか出せないからね」
「そうだったにゃ。この世界の主人公はあくまでナギ達プレイヤーだったにゃ。これぐらいで落ち込んでいるようじゃナギの仲間モンスターとして失格なのにゃ。スキルレベルも7上がってるみたいだし、今度は張り切ってアリルダばぁちゃんの仕事を手伝うにゃ。さっ、まずは何をすればいいにゃ」
「そうだねぇ…」
アリルダの指導が終わったデビにゃんは続いて今日任されれる仕事内容の説明を受けた。デビにゃんの引き受けた仕事は今作ったアタックテクニックエキスと、攻撃系の特技と魔法の消費MPを下げる代わりに威力も大幅に下げてしまうネガティブエキス、農耕の内政スキルを一時的に上昇させるベジタブルエキスを作ることだった。数はそれぞれ30、10、5個ずつだった。全て作り終わればデビにゃんのスキル変化系の錬金術のスキルも上昇し、朝になるころには品質の高いフォーギンブレイドエキスを作れるようになっているだろう。こうしてデビにゃんもアリルダの監督のもと錬金術の仕事をこなしていったのだった。
“ガチャ…”
「ただいま〜」
ナギとデビにゃんがそれぞれ鍛冶と錬金術の仕事を始めていた頃店を出ていったレイチェルはちょうどレイコの家と着いたところだったようだ。どうやら帰りは転送用の魔法陣を使いゆっくり歩いてきたようだ。
「あら、お帰りレイチェル。あれっ…、ナギとデビにゃんがいないけどどうしたの。っていうかちゃんと武器はできた」
「あ、ああ…、それがややこしいことになって……ってなんなんだその格好っ!」
レイチェルが玄関から入ってくるとちょうどナミが通りがかったところだった。だがナミの格好は先程までとはまるで違うものになってしまっていた。
「何って…、レイコさんがお風呂沸かしてくれたから入ってきたのよ。そしたらレイコさんが寝間着の服装グラフィックをいくつか送ってくれたから着替えてみたのよ。どうっ、私ネグリジェなんか始めて着ちゃったっ♪」
「どうって…、服装より髪型の方に驚いてたぜ。お前髪を束ねる時は男っぽく見えるけど下ろすと案外女っぽく見えるんだな。ナギにもその姿見せてやりたかったぜ」
どうやらナミはレイコがお風呂貸してくれたようでちょうど今上がったところだったようだ。レイコが寝間着用のグラフィックを皆に用意してくれたようでその中のネグリジェに着替えていたようだ。だがレイチェルはそれよりもナミの髪の毛を下ろした姿に驚いていたようだった。
「な、なによ…、いきなりそんなこと言われると恥ずかしくなっちゃうじゃない。それよりナギ達はどうなったの」
「それが…」
レイチェルはナミにアルケミーブラックスミス店での出来事を説明した。ナミはその説明を聞いて一人で帰って来たレイチェルに呆れてしまっていた。
「あんた…、本当に図々しい性格してるわよね…。自分の装備作ってもらうためにそこまでさせておいて自分はのこのこ帰ってくるなんて…」
「だって私がいたってできることないんだから仕方ないだろう。店の夫婦のじぃさんばぁさんはナギ達の監督で忙しいし、私がいたって邪魔になるだけだろ」
「まぁ…、そう言われればそうね…」
「だろっ!、それより私も風呂入っていいのかよ」
「いいに決まってるでしょ。けど一応レイコさんに断っておきなさいよ。あんたが帰って来たことまだ知らないんだし。お風呂場もかなり広かったから今私とアイナ、あとリディも一緒に入ったからあんたはセイナと一緒に入りなさい」
「えっ…、お前アイナと一緒に入ったのかよ。なんか気まずい雰囲気にならなかったか…」
「何で?、別に楽しく会話してただけだけど。アイナって高校生だと思ってたけど実は今年の春に卒業したばかりで今は大学に通ってるんだって。その大学ってのが六帝大学だって聞いて私感心させられちゃった。日本でも一番の大学で、世界でもベスト5に常に入ってる超有名校でしょ。真面目そうな子だとは思ってたけどそこまで頭が良かったとは思わなかったわ」
六帝大学とはこの世界の東京にある日本で一番の大学のことで、かつて東京にあった6つの有名大学を一つに統合してできた大学である。統合された6つの大学は全て廃校となり今は全超大規模な国営図書館となっている。そして6つの大学が統合された六帝大学は東京の中心部に統合元となったかつての6大学の敷地面積を合わせたものより更に倍近く大きい面積で作られた世界一の面積を誇る大学でもある。当然日本でトップを誇る大学で、世界でも有数の大学であるためそこに入ることのできたアイナはかなりの秀才であるということである。因みにナギ達の現実世界の日付はゲームを始めた時点で5月2日で、現在は3日の午前0時30分ほどだった。ゲーム内の時間は討伐の後で一度リセットされ、表彰式にマップに移った時の時間がゲーム内の4月1日の朝の7時だったようだ。つまり現実世界の5月3日の0時にゲーム内時間4月1日の午前7時で本格的にゲームがスタートしたことになる。
「へぇ〜…、私は大学のことはよく分らないけどアイナは元々真面目そうだったからそんなに驚かないな。それにリディも一緒じゃ気まずい雰囲気なんてなることないか…。ってちょっと待て、私はセイナと二人っきりで入るのかよっ!。駄目だ、そんなの堪えられねねぇ。頼む…、誰か変わってくれ…」
「そんなこと言われても私はもう入っちゃったし…、レイコさんは一番最後にリアと一緒に入るって言ってからリアに代わってもらうか先に一緒に入ってくれるよう言ってくれば」
「ぐっ…、私にリアにものを頼むのは無理だ…。仕方ねぇ…、観念してセイナと一緒に入るか…。っで、セイナは何してるんだ」
「それがまだ残った料理を食べてるんじゃないのかしら。もしかしたら一人で完食しちゃうかもしれないわよ」
「なにぃぃぃぃぃっ!」
レイチェルは観念してセイナと一緒に風呂に入ることにした。だがセイナはまだ先程の料理を食べているようで一人で完食してしまうほどの勢いだった。胃袋の設定は現実世界のものが反映されているようで、プレイヤーによって差があるようだった。セイナのような強靭な胃袋の持ち主ならば料理のアイテムの効果をいつでも最大限発揮できるかもしれない。
「ふぅぃ〜…、スッキリした…」
「うむっ、いい湯加減でした。レイコさん」
玄関でナミと会話した後すぐレイチェルとセイナは風呂へと入ったようだ。そして30分程して二人とも上がって来た。レイチェルはタンクトップに短パンととても寝間着とは思えない格好をしていた。そして意外にもセイナもレイチェルと同じ格好で出てきたのだった。
「ちょっとあんた達、なんて品のない格好してんのよ。それじゃあ今日私達が鉱山で働いてた時の作業着みたいじゃない」
「うるせぇな、私はいつもこれに近い格好で寝てんの。長袖のやつで寝ると袖がめくれてきて気持ち悪くなっちまうんだよ。それよりこいつなんて初め裸のまま風呂場を出ようとしたんだぜ」
「“ブゥっ!”ケホッ、ケホッ…」
「だ、大丈夫ヴィンス…。驚くのも無理ないよ、セイナの感覚は僕達じゃとても理解しきれないから」
レイチェルのの話しを聞いたヴィンスは飲んでいた飲料を途中で吹きだしてしまい咽て咳き込んでしまった。他のプレイヤー達もセイナのことを聞いて驚いていたが、特に男性陣のプレイヤー達は皆動揺を隠しきれず嫌でも卑猥な想像が頭に浮かんでしまっていた。
「セ、セイナよっ…、今の話は本当かっ!。本当に裸でこの部屋まで来ようとしとったのかっ!」
「ああ、私はいつも睡眠を取る時は裸だからな。風呂に入った後は大抵朝まで裸のままだ。だが今日はレイチェルに服を着るようきつく言われてしまってな。なるべく裸に近いレイチェルと同じ服装にしたのだ」
「うっ、うおぉぉぉぉぉっ!、レイチェルめっ!。なんと余計なことを…。本人が裸で出たいと言っとるのだからその意思を尊重してやればよかろうにっ!」
「なにふざけたこと言ってやがんだこのくそじじぃっ!。いい加減ゲームの中でまで色気づくのはやめろ。それに裸のまま出ようとして最初に忠告したの私じゃなくてゲームの監視プログラムだろ。急に風呂場に声が聞こえてきたときはビックリしたぜ。男性であれ女性であれ異性の前で裸体を晒すことは禁じられているってよ。一応不可抗力で見られそうになった時はゲームのプログラムが自動的に何か服を着せてくれるみたいだが故意に見せようとしたらきついペナルティがあるってよ」
「なんじゃ…。ゲームの監視プログラムにそんなこと言われたんなら仕方ないのぅ」
セイナの裸を見損ねたことでレイチェルのことを責めたてていたボンじぃだったが、監視プログラムによって異性に裸体を晒すことを禁止されていることをしると仕方なく諦めたようだ。実際どのような場合であれ異性のプレイヤーに裸を見られようとした場合ゲームの監視プログラムが瞬時にその場に適切な服装グラフィックをかけてくれるようだ。
「たくっ、しょうがねぇじぃさんだな、全く…。ところで今ヴィンスが飲んでるのってビールじゃねぇのかっ!」
「ああ、お風呂上がりにいいと思って私が出してあげたのよ。レイチェルもセイナちゃんも飲む?」
「飲む飲むっ!、いやぁ〜…やっぱり風呂上りはビールだよな〜」
「うむっ、私も頂こう」
「あれ…、ナミ、お前は飲まねぇのかよ」
「私はお酒は飲めないのっ!、もうさっきオレンジジュース貰って飲んじゃったわよ」
どうやらヴィンスが飲んでいたいのはビールだったようで、レイコが出してあげたものようだ。それを見たレイチェルとセイナもビールを貰うことにした。ナミはオレンジジュースを貰ったようで、カイルもアルコールではなく何かのジュースにしたようだ。二人ともお酒は苦手らしい。アイナはまだ未成年であったためアイスコーヒーにしたようだ。ボンジィはあったか〜いお茶、猫魔族のメンバーは牛乳を貰ったようだった。そしてレイコがビールの待ちわびているレイチェル達に冷えた缶ビールを一本ずつ持ってきた。
「はい、言っとくけどゲームの中でもちゃんと酔っぱらうようになってるからね。あんまり飲みすぎちゃだめよ。それに体内のアルコール濃度が一定以下でないと現実世界にログアウトできないからね」
「えっ…、そんなのあるのかよ…。ログインする時にアルコールの濃度検査があるのは当たり前だけどまさかログアウトする時にまであるとはな…。まぁいいや、それじゃあ風呂上がりの一杯を頂くとしますか」
「“ゴクッ、ゴクッ…”ぷっはぁ〜…っ!、上手いっ!、もう一本っ!」
「ええっ!、お前もう飲んじまったのかよ…。可愛い容姿して中身はおっさんだな…」
「レイチェルは容姿も中身もおっさんだけどね」
「なんだと〜、ナミ〜っ!」
VRMMOをプレイする時はダイビングベットによってアルコールの濃度検査がなされ、それによってログインが制限されているのだが、なんとこのゲームにはゲーム内の世界にもアルコールの設定がありログアウトする時も濃度検査が実施されるようだった。このゲームの1日は現実世界の48分などでゲーム内で酔いを覚ます時間は十分あると言えるが…。
「それじゃあ私はリアとお風呂に入ってくるわね…。あっ、そうだ。その台所の奥の部屋に雀卓が置いてあるから皆で麻雀でもして遊んでれば。3卓あるから皆で遊べるはずよ」
「えっ、マジマジっ!、やるやるっ!、いや〜、風呂上がりにビールが飲めるうえ麻雀までできるとはこのゲームは最高だなっ!」
「私もやるやるっ!、こう見えてもVR麻雀オンラインもやり込んでたんだから。リアルでは一度もやったことないけど…」
「では私もやるとするか。麻雀はドラマのプロデューサーや現場のスタッフに誘われてよく朝までやっていたからな。本当は帰ってゲームがしたかったのだが麻雀には誘われると断れない魅力があるのだ」
「お風呂から上がったら私も参戦するからよろしくね。たぶんリアは来ないと思うわ…。でもお金やアイテムなんかを賭けちゃだめよ。まぁ今はお金もアイテムもほとんど持ってないでしょうけど…。ゲーム内でギャンブルがしたい時はちゃんと賭博場に行くのよ」
こうしてナミ達は台所の奥にある雀卓のある部屋へと向かって行った。ハールンは仕事があると言って自分の書斎へと戻って行った。残りのメンバーは皆麻雀をしに言ったようで食卓のある部屋はもぬけの殻になっていた。
“カッキ〜ンッ…!”
「ふぅ〜…、なんとかグレートソードは作り終わったぞ。うん…、ちょっと待って、これってもしかして…」
ナミやレイチェル達がお風呂に入り終わり麻雀をしに向かって行った頃ナギはガドスに頼まれた仕事の内グレートソード50本の生産が完了したところだった。そしてその最後に作成した一本のグレートソードがガドスの作った時のように周囲を光のエフェクトが包み込んでいるのだった。
「やっぱりっ!、最後の一本にしてようやく品質100%のグレートソードができたぞっ!。よ〜し、この調子で次はバスタード・ソードの作成だ」
なんと最後にナギが作ったグレートソードの品質が100%だったようだ。100%の品質の鍛冶に成功したため通常より大量にスキル経験値が増えナギの大剣の鍛冶スキルは18にまで上がっていた。ナギが作成したグレートソードは全て品質が90%を越えておりガドスの予想よりかなり大幅にスキルレベルが上昇しているようだった。グレートソードの鍛冶の工程はかなり短かったため50本とはいえ1時間とちょっとで完了したようだった。時刻は23時半を回った所でナギは更にバスタード・ソードの鍛冶へと取り掛かっていった。
「えーっと…、まずは火の魔力を供給して、その後水場に入れて水の魔力を供給する…。よしっ、ここまでは上手くできたぞ。でもやっぱりグレートソードの時より供給量は槌打ちの力の感覚を掴むのが難しいな…。作業自体はほとんど変わらなく見えるのに武器によってこんなに作業をする感覚が違うなんて次の工程は…」
バスタード・ソードの鍛冶を始めたナギは順調に作業をこなし最初の工程はなんとかクリアしていた。だがこの時点ですでに先程のグレートソードの時よりも適切な供給量や力加減の掴みにくさを実感していた。それだけではなく何やら体を伝う神経の伝達速度も鈍くなっているようで、先程よりも体が重く感じられ思うように動かせず、更に身体に掛かる負担もかなり大きくすでに相当な体力を消耗していた。ナギはそれでもなんとか作業をこなしていき最後の風の魔力を供給する工程まで来ることができた。後は槌で3回叩くだけだったが…。
「ふぅ〜…。よ〜し、後は槌で3回叩くだけだ。意識を集中してやるぞ〜。……せいっ!」
“カンッ…、カァンッ…、……っ!”
“シュイ〜ン…”
「あ、あれ…」
最後の工程で風の魔力の供給されたインゴットを3回連続で叩こうとしたナギだったが、なんと2回叩いたところで突如インゴットに変化のエフェクトが入ってしまい、そのままバスタード・ソードへと変化してしまった。不思議に思っていたナギだったが出来あったバスタード・ソードの姿を見てなんとなく理由を察することだできた。出来上がったバスタード・ソードは刃先がボロボロで全体が焼き焦げてしまいまるで炭のように黒ずんでしまっていた。恐らく失敗してしまったのだろう…。
「う〜ん…、これって多分失敗したってことだよね…。念のため品質を確認してみるか」
黒ずんだボロボロのバスタード・ソードを見たナギは失敗したことを悟りながらも念のために端末パネルを開いて品質を確認してみた。すると案の城バスタード・ソードの品質は30%未満だった。
「やっぱり…、品質28%…。攻撃力も4ポイントしかないや…。さっきのグレートソードだと50ポイントぐらいあったのに…」
品質が30%未満のバスタード・ソードはまるで攻撃力を持っておらずこれでは重量がない分素手で戦った方が強いぐらいだった。品質が30%未満の武器は装備しても特技を発動することもできず文字通りガラクタと化してしまうのだった。
「でもなんで2回しか叩いてない段階で変化してしまったんだろう…。2回目の槌の叩き方が強すぎたのかな…」
「正確には違うな…。今のは槌の叩き方が強かったというより2回目槌打ちの時点で今までの作業の誤差の合計が一定値に達してしまったことで変化したんだ」
「…っ!、ガ、ガドスさん…。起きてたの…」
「ああ、お前が100%の鍛冶を成功させた時からな。その時の金属音の音色を聞いてもしやと思い目が覚めちまったんだ。元々半睡の状態だったしな」
ナギがバスタード・ソードの鍛冶の結果を不思議に思っていると急にガドスが後ろから話掛けてきた。ナギはガドスは寝てしまっているものと思っていたためガドスの姿を見て驚いていた。
「な、なるほど…、それでさっき言ったことってどういう意味なの」
「この世界の鍛冶は完成までに生じていい誤差に一定の値が設定されていて、その値に達した時作業の途中でもこのバスタード・ソードみたいに失敗作として変化しちまうのさ。つまり鍛冶の最後の工程が完了するまでにインゴットが変化しちまった場合は確実に失敗作ってことだ。ただ同じ失敗作でも作業の工程が進んでいるほど品質は30%に近くなる。もし最初の工程で失敗してしまったときには品質0%だってあり得るぜ」
「そうか〜…、じゃあこのバスタード・ソードの鍛冶は最後の槌打ちだけが悪かったというよりそれまでの魔力の供給量や槌打ちの力加減にも結構な誤差があったってことだよね。それにガドスさんの言う通りならもしこの鍛冶が最後まで成功してても品質は30%を少し越えたぐらいにしかならないってことだよね」
「そうだな、仮に最後の槌打ちが完璧だったとしても35%が限界だったと思うぜ。だがそんなに気を落とすことはない。本当なら最初の火と水の魔力を供給するところで失敗すると思ってたんだ。それが成功までいかなかったとはいえ品質が28%までいくなんて大した集中力だぜ」
「本当っ!」
「ああ、グレートソードの品質も全て90%を越えてたようだしこの分だと朝までに自力でスキルレベルが20を越えちまうんじゃないのか。それに失敗したといえあそこまでの集中して作業をしたんだ。そのバスタード・ソードの分の経験値もかなり入ってるんじゃないのか。だから途中で少しミスったと思っても諦めずに最後までやりきるんだぞ。ちゃんとその頑張りの分も経験値として加算されるからな」
「うん、分かったよっ!」
こうしてナギはバスタード・ソードの鍛冶を続けていった。ガドスが言うにはナギはかなり筋がいいらしく失敗したとはいえ一本目の鍛冶で品質28%とというのは上出来の数字らしい。この分だとすぐにバスタード・ソードの鍛冶は成功するのではないだろうか。だがナギにはこの後クレイモアの鍛冶の仕事の控えている。バスタード・ソードより更に難しい鍛冶となるが果たしてナギはいくつ成功させられるのだろうか。その頃デビにゃんもアリルダの監督の元アタックテクニックエキスを錬金術によって調合していた。アリルダはガドスと違いデビにゃんに付きっきりで作業を見守っていた。
「え〜っと…、まずは技々草の葉と、レッドアーモンドツリーの実を乳鉢に入れて乳棒で細かく磨り潰すにゃ」
「………」
「次にアクアベリーの実を抽出器に入れて水の魔力を、ウィンドホークの羽から風の魔力を取り出すにゃ」
デビにゃんはまず調合始める下準備として、乳鉢と乳棒で素材を加工し、抽出器で錬金釜に直接入れる魔力の篭った液体を作り出していた。抽出器によって取り出される魔力の濃度は素材によって変わり、調合には適切な濃度の魔力液が必要である。取り出せる濃度が近いものなら別に他の素材でも構わない。基本的に貴重な素材ほど濃度の高い魔力液が抽出できる。また特定の素材からしか抽出できない特別な魔力液も存在するらしい。素材の加工が終わったデビにゃんはパイプの蛇口を捻り錬金術のベースとなる水の魔力の篭った液体を錬金釜へと注ぎ始めた。錬金術は鍛冶とは違いどのアイテムを調合する場合においても6つの属性を利用した全ての設備を使用することになる。
「ストップっ!、そこ辺で水を止めな。さっきは水が多すぎたから駄目だったんだ。アタックテクニックエキスを作るのに最適な水の量は錬金釜のちょうど半分くらいだからね」
「わ、分かったにゃ…。じゃあ次は竈に火を入れて加熱していくにゃ」
水を入れ終わったデビにゃんは錬金釜の下に設置してある竈の火を入れた。火の魔力を供給すると同時に当然中の液体を温める効果もあるのだが…。
「…っ!、ほら、ボサっとしてないでさっさと素材をお入れっ!。このアイテムの調合は釜の中に液体が沸騰しきる前に素材を入れるのが秘訣だよっ!」
「わ、分かったにゃ…」
見た目とは裏腹にアリルダの方がガドスより仕事に対して厳しいようだった。っと言うより男性と女性による指導する際の考え方の違いなのかもしれない。男性は結果はどうこうより指導する相手がどれだけ真剣に取り組んでいるのかを注視する。積極的に相手に口を出さずに見守る姿勢を取ることが多い。女性の場合はまず結果を優先することが多い。女性の方が考え方が現実的なのか確実に相手がその仕事をできるようになるまで積極的に口を出してくる。何かに挑戦する姿勢や精神より技術や知識の方が役に立つと考えているからだろう。つまりは過保護になり易いということで指導を受けた者は自分で考えることをあまりやらなくなってしまうことが多い。デビにゃんはアリルダの指示を聞き逃さないように必死に作業を続けていった。
「ロンッ!、タンヤオイーペーコドラドラ。8000点ね、レイチェル」
「かぁ〜っ。そんなカンチャン待ちありかよ、レイコさん。はい…、1万点棒。お釣りくれよな」
その頃ナミ達は風呂から上がって来たレイコと一緒に麻雀を楽しんでいた。レイチェルはレイコのカンチャン待ちやシャボ街を使った巧みなダマ待ち戦術に翻弄され苦戦を強いられていた。他に卓を囲んでいたのはナミとヴィンス。今はレイコが4万点を越えてトップで、ナミとヴィンスが原点の25000点付近で並んでおり、レイチェルが1万点を切っており最下位だった。
「よ〜し、次は私が親ね。レイチェルが2回続けてレイコさんに振り込んでくれて助かったわ。もしかしたら私が振り込んでいたかもしれないし」
「全くだぜ…。それにしてもレイコさんの麻雀の腕はかなりのもんだな。その捨て牌であの待ちとは予想もつかなかったぜ」
「ふふふっ、ありがとうヴィンス君。さっ、早く牌を洗牌して次にいきましょう。ナミちゃんの親も軽く流しちゃうんだから」
“ガラガラガラッ…、ウィーン…”
レイコの家に設置してある麻雀卓は全自動麻雀卓のようで真ん中にある投入口へと牌を入れると自動で洗牌を行ってくれるようだった。麻雀卓の下部へと放り込まれた牌は機械の中でかき混ぜられて綺麗に山積みされた牌山が卓の上に出てきた。ナミ達は牌山からそれぞれ最初の配牌を取っていった。
「よ〜し、この親番で一気にレイコさんに追いついちゃうぞ〜。……あっ!、来た来た、リーチッ!」
「うっそ〜、まだ7巡目よ、ナミちゃん。自摸も全部手配に入ってたし、配牌も良かったみたいね…」
「ちぇっ、相変わらず私の手牌はバラバラだし、こりゃ今回も駄目だな…」
「へへへっ。……あっ!、やったぁ〜、一発自摸だわっ!。リーチ一発自摸タンピン三色…えーっと裏ドラが……一つっ!。これで親倍満ね。8000点オールっ!」
「なんだとぉ〜〜〜っ!。8巡目で倍満自摸なんてそんなのアリかよっ!。くわぁ…、もう私の点棒1200点しかねぇよ…」
「大丈夫よ、レイチェル。1000点あればまだリーチはできるでしょ。でも凄いわね、ナミちゃん。追いつかれるどころか一気に追い抜かれちゃったわ」
「俺も一気に放されちまったぜ…」
「えへへ〜、ごめんなさいね〜」
「だぁーーっ、くそっ!。次だっ、次っ!」
ナミは親番で倍満を上がり一気に24000点の点棒を手に入れたようだ。残りのメンバーは一人頭8000点を取られてしまい、レイチェルの点棒はすでに1200点しかなかった。そして親番で上がったことにより再びナミの親番で半荘が再開されるのだった。
「よしっ、さっき上がったからもう一回私が親ね。……ダブルリーチっ!」
「ええぇぇぇぇぇっ!、何だよそれ。もうどうしようもねぇじゃん、くそっ!」
なんとナミは先程のに続きまたもや先制リーチのようだ。しかも今度は一巡目から聴牌していたようで只のリーチではなくダブルリーチだった。そしてあっという間に一巡回ってナミの自摸番へと回ってきたのだが…。
「自摸っ!、やっり〜、また一発自摸ね。ダブリー一発自摸ドラ、4000オールで終了ね。ようやく乗って来たわ」
「だはぁぁぁぁぁっ!、なんだよ、それ。まだ南1局だってのに私の点棒がマイナスになっちまったじゃねぇか…」
「このルールだと誰か一人の点数がマイナスになった時点で終了だからナミちゃんの勝ちで決まりね。私も麻雀には自信があったんだけどああも簡単に自模られちゃあどうしようもないわ」
「実は私一時VRオンライン麻雀をやり込んでる時期があってその時からずっと自分の自摸を信じて麻雀打ってるのよね。だからこれまで一度も鳴いたことなんてないの。そうしてると半荘を続けている内にだんだん自摸が良くなってきてバカヅキみたいにどんどん上がれるようになるのよね。こう見えても大学時代に総額100万円以上は稼いだんだから」
「マジかよっ!。あれってかなりレートが制限されてて他の奴全員とばしても1000円ぐらいしか稼げないだろ。それで100万円って相当なんじゃねぇのか…」
「それが総合ランキングで3000位にも入れなかったのよ。あのゲーム初心者も多いから玄人の人もその分勝ちやすいのよ。上位勢の人なんか皆収支が1000万円を越えてたわよ。1位の人なんて3000万くらい稼いでたかしら」
どうやらナミの麻雀は自摸に頼った運任せのようだった。だがナミは自分の運を高める方法を知っているのかその打ち方で麻雀のオンラインゲームでかなり額を稼いでいたようだ。この世界のネット麻雀は少額ではあるがネットマネーを使ってお金を賭けてプレイすることができる。しかもランキングの順位などもお金の収支によって決められていたようだ。
「それは凄い人達がいたものね…。でもナミちゃん、さっきの話を聞くともしかしてこの後もこの豪運が続くってことかしら…」
「へっへぇ〜、悪いけどその通りよレイコさん。この状態に入った私はもう負けることはないわ」
「なに調子に乗ってやがんだ。そんなのこと言ってないで次やるぞ、次っ!。今度こそ私が1着取ってやるからな」
こうしてナミ達は夜遅くまでゲームの中で麻雀に耽てしまうのだった。レイチェルは躍起になっていたが結局この後はナミの一人勝ちだったらしい。そして夜の1時を回ったころようやく皆それぞれの部屋に戻り床に就くのだった。ゲーム内の一日目はかなり充実したものだったようだがこれからどんな冒険が待ち受けているのだろうか。そしてアルケミーブラックスミス店で黙々仕事をこなしているナギとデビにゃんは見事ヴァイオレット・ウィンドを作成できるのだろうか。こうしてナギ達の“finding of a nation”一日目が終了したのだった…。




