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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第二章 ヴァルハラ国建国っ!、そして初めての内政っ!
19/144

finding of a nation 16話

 「うわぁぁぁぁぁぁっ!、ちょっとレイチェルいい加減放してよ〜。こんなことしなくてもちゃんとついて行くよ〜」


 レイコの家を飛び出したレイチェルはまだナギの首根っこを掴んだまま物凄いスピードで走り続けていた。ナギの体は完全に宙に浮いてしまいナギはまるで逆走するジェットコースターに乗っているような気分だった。


 「このままの方が早く着きそうだろ。いいからそのまま猫みたいに大人しくしてろ。実は今日あのじじぃを追いかけ回したおかげでこの世界での走り方のコツを掴んだのさ。そのおかげAGIの値が100ぐらいの差なら多分私の方が早く走れるぜ」

 「そ、それは凄いね…って、ああっ!。後ろからデビにゃんが付いてきてる。でももうバテちゃいそうだ…」


 レイチェルが自身で言う通りナギを掴んでいるにも関わらずそのスピードはかなりのものだった。戦士のAGIの値はそんなに高くないはずだが本当に走るコツを掴んだのか通常のプレイヤーならばその倍のAGIの値がなければ出せないような速さだった。そんなレイチェルに対しデビにゃんも自身のAGIの値をフルに発揮して必死にレイチェルの後を追って来ていた。


 「にゃぁぁぁぁっ!、レイチェルの奴なんてスピードにゃぁ…。こんなスピードで走ってたら僕のVITの値じゃもう力尽きちゃうにゃ。にゃぁ…にゃぁ…、やっぱりもう駄目にゃ…」

 “バタッ…”


 戦士の職業はVITの値は誰よりも高かったためかなりのスピードを維持しているにも関わらずレイチェルはまるで疲れていないようだった。だがAGIの値は高くとも小さい体のためVITの値が低く設定されていたデビにゃんは途中で疲れ切ってしまい道端に倒れてしまった。


 「ああ〜、レイチェルっ!。デビにゃんが疲れて倒れちゃったよう。僕助けに行ってくるからちょっと降ろして」

 「ああんっ!、そんなもん魔物使いなら魔法で呼び寄せられるんじゃねぇのか」

 「ああっ、そうかっ!。よしっ…、こっちに来いデビにゃん、コールっ!」

 “ウィ〜〜〜〜〜ンッ…、パッ…”

 「よし、成功だ。今度はデビにゃんがこっちに出てくくるぞ。しっかり捕まえてあげなくちゃ…」

 “バッ…”

 「今だっ!」

 “ガシッ…”


 レイチェルのアドバイスでナギがコールの魔法を使うと道端で倒れているデビにゃんの姿が消え、すぐさまナギの懐の中に転移してきた。ナギはデビにゃんが出てくると落ちないように両手でしっかりと抱きしめていた。


 「にゃ、にゃぁ……にゃぁっ!。こ、ここは…、あっ、ナギっ!」

 「へへへっ、折角だからコールの魔法使ってみちゃった」

 「ってことは…、レイチェルもいるにゃっ!。それにしてもこれはジェットコースターが逆走してるみたいで楽しいにゃ」

 「僕もちょうどそう思ってたところだよ。初めは怖かったけど今は風が気持ちよく感じるね」


 レイチェルのスピードに慣れてきたのかナギとデビにゃんはまるでアトラクションのように楽しんでいた。だが次の瞬間はそれは恐怖のアトラクションへと変化してたのだった…。


 「楽しんでるところ悪いが今からちょっと飛ぶぞ。デビにゃん落とさないようにちゃんと捕まえてろよな、ナギ」

 「えっ…、と、飛ぶって一体どういう…ってうわぁぁぁぁぁっ!。か、川じゃないか〜っ!」

 “バッ…、ビュィィィィィィン…っ!”

挿絵(By みてみん)

 なんとレイチェルは突如として空中へと飛び上がったのだった。勢いよく宙へ舞い上がったレイチェルの体は10メートル近い高さまで浮いており、ナギ達が下を見るとそこには大きな川が広がっていた。向こう岸まで30メートル程はあっただろうか…。


 「にゃ、にゃぁぁぁぁぁぁっ!。どうしてちゃんと橋を通らないにゃぁぁぁぁっ!。この川高さも20メートル近くあるにゃ。下手したら死んじゃうにゃぁぁぁぁぁっ!」

 「この方が近道なんだよ。いいから黙って見てろ」

 “ヒュィ〜〜〜〜〜ン、パタッ…”

 「よし、着地成功っと。なっ、上手くいったろ。ここまで来たら後少しだからもう降ろしてやるよ」


 なんとレイチェルは30メートルもの川幅のあった川を軽く一っ飛びしてしまった。つまりレイチェルは走り幅跳びで30メートル以上の記録を出したことになる。因みに走り幅跳びの最高記録が男子で8メートル95センチ、この記録は1981年から塗り替えられていないため如何にゲーム内での人間のステータスが高く設定されているかが分かる。


 「はぁ…はぁ…。もうっ、死ぬかと思ったじゃないかっ!、レイチェルっ!。あんまり無茶しないでよっ!」

 「にゃぁ…にゃぁ…、全くその通りなのにゃ…。ちょっとぐらい遠回りでもちゃんと橋を渡ってほしかったにゃ…」

 「はははっ…、悪い悪い。けど私の走り幅跳び凄かったろ。現実世界じゃ絶対こんなことできないから超気持ち良かったぜ。もう私のプレイ技術もセイナやナミぐらいには追いついたんじゃねぇか」


 恐怖で乱れた呼吸を必死に整えようとしているナギ達に対してレイチェルは余裕の表情で自らのプレイ技術の上達を喜んでいた。実際あれだけの距離を飛び越えようと思ったら相当なAGIの数値とプレイ技術が必要となる。レイチェルは戦士であったためAGIの値が低かったのにも関わらずあの距離を飛び越えられたようだ。もうレイチェルのゲーム内における走り幅跳びの技術は世界一かもしれない。


 「もうぉ〜、一人で喜んじゃってぇ…。ところでレイコさんに教えてもらった鍛冶屋はどこにあるの」

 「ああ、確かここから川沿いに50メートルほど北に行った所かな。ここからは慌てずゆっくり行こうぜ」

 「各地に転移の魔法陣が設置されてるんだからそれを使えば始めっからゆっくり行けたのににゃ…」


 川を飛び越えたナギとレイチェル達はもう鍛冶屋まで距離がほとんどなかったので後はゆっくり歩いて行った。レイコの家から5キロ程あったのだが10分も経たずに着いてしまったようだ。


 「おっ、あったあった。ここだここ」

 「えーっと…、アルケミーブラックスミス店。レイコさんの言ってた店の名前と一緒だね」

 「でももう閉まってるみたいなのにゃ」


 ナギ達川から歩いて1分も経たずに目的の店へと辿り着いた。アルケミーブラックスミス店はレイコの言っていた通り鍛冶屋と錬金術屋が混同した店のようで、建物は繋がっていたが入り口と思われる扉が二つあり店内の区画も二つに分かれているようだった。鍛冶屋と思わせる入り口の上に看板には大きな大剣が描かれており、レイコの言う通りこの鍛冶屋の主人は大剣の鍛冶が得意なようだった。錬金術屋の方の看板にはこのゲームの属性である9つの属性の色の液体が入ったフラスコが木製のスタンドに立て掛けられている絵が描かれていた。中央には冥を表す濃い灰色、その正面から見て右に光を表す薄く光輝いた淡い黄色、そして水、土、風を表す薄い青色、焦げ茶色、黄緑色、そして冥の左側には闇を表す淡いほぼ黒色のような濃い紫色、そして火、雷、氷を表す赤、紫、白く滲んだ水色が描かれていた。どちらとももう閉店時間を過ぎているようで住居となっている3階からは明かりが見えたが店のスペースになっている一階二階部分の窓は真っ暗で扉にも鍵が掛かっているようだった。


 “ドンドンッ…”

 「すみませーーーん、誰かいませんかーーーっ!」

 「………」

 「やっぱり誰も出てこないよ、レイチェル。ゲームだと閉店時間を過ぎてると何があっても開かないように設定されてるんじゃないのかな。もう諦めて明日出直してこようよ」

 「それがいいにゃ。あんまり無茶してると折角上昇してる街の人からの評判が一気に落ちてしまうにゃ」


 やはり閉店してしまっているようでレイチェルがいくら扉を叩いて呼びかけても店の者は出て来てくれなかった。このゲームのNPCならば閉店していても反応してくれそうなものだがその場合は高いデメリットがありそうだ。


 「くそっ…、ここまで来て諦められるかよ…。こうなったら窓をぶち破って侵入してやる」

 「にゃぁぁぁぁぁっ!。何言ってるにゃ、レイチェル。このゲームでは自国の住民NPCへの違法な行為は禁止されてるにゃ。そんな泥棒みたいな真似したらすぐに監視プログラムに見つかってきっつ〜いペナルティが課せられてしまうにゃっ!」

 「じゃあどうしろって言うんだよっ!。いくら呼びかけても出てこないし…。こうなったらもっと大きな声で…」

 「それもやめるにゃぁぁぁぁっ!。もう夜の9時を回ってるにゃ。健康な生活習慣のNPCならもう眠ってるはずだし、近所迷惑になってこの国での評判があり得ないくらいに下がってしまうにゃ。そうなったら一生かかっても返しきれないぐらいの功績ポイントの借金を背負ってしまうことになるにゃ。転職も何もできなくなっちゃうにゃ」

 「そ、それは確かに困るな…」

 「あっ、そうだ。端末パネルを使えば中に直接連絡を取れるんじゃないのかな。僕レイコさんにメールで店の連絡先聞いてみるね」

 「おっ、それならいけそうじゃ〜ん。でかしたぞ、ナギっ!」

 「えへへ…、ちょっと待ってて」


 いくら呼びかけても出てくれない店に対してナギは店内に直接連絡とればいいのではないかと思いレイコにこの店の主人の連絡先を聞いたのだった。こちらからNPCに対して連絡を取るにはナギのようにNPCから直接連絡先を端末送ってもらうか他のNPCから端末に送ってもらうしか方法はない。お店などはフリーの連絡先を看板などに表示していてそこから自由に登録できるが開店時間の内しか対応しておらずメールを送っても返事は次の開店時間にならなければ帰って来ない。レイコはそのアルケミーブラックスミス店の錬金術師をしている奥さんの方と仲が良かったためそちらの連絡先をナギに送ってくれた。


 「来たよ、レイチェル。レイコさんが言うにはどれだけ心の篭ったメールが打てるかで出て来てくれるかどうかが決まるって。最初の一通で出て来てくれなかったらもう無理だからそれ以上メールを送っちゃいけないって。それをするとNPCの評価が著しく低下しちゃうみたい」

 「え〜、私そんな文章書いたことないよ〜。ナギ、頼む、お前が書いてくれ」

 「駄目だよ、ちゃんと用がある人が送ったかどうかも監視プログラムが見てるみたいだからレイチェルが送らないと断られちゃうよ。今レイコさんがレイチェルの方にも連絡先を送ってくれてるみたいだから自分で文を考えて送りなよ。変に畏まった文章を書くより頼みたいことを正直に書いた方がいいんじゃないのかな」

 「そ、そうだな…。それじゃあ一丁送ってみるか」


 レイチェルの元にもレイコから連絡先が届き、レイチェルは必死にメールの内容を考えていた。結局変に丁寧な文章を書くより自分の頼みたいことを分かり易く率直に書いた文を送ることにしたようだ。


 「“え〜アルケミーブラックスミス店て錬金術屋の店主をしているアリルダ様。夜分遅くに失礼します。私この度ヴァルハラ国に参加することになったプレイヤーのレイナルド・チェルシーと言います。実は鍛冶屋の店主であるあなたのご主人のガドス様にお願いしたいことがありこのような時間に訪ねてきました。実は今日鉱山での仕事中にサザンストーム鉱石を偶然入手してしまいそのことについていくつかご相談したいことがあるのです。現在店の入り口の前で待っているのでもし良かったら入店させてください。このような時間に押し入ってしまい誠に申し訳ございません”っと…。よし、これで大丈夫だろ。送信っと…」

 「へぇ〜、結構いい感じの文章だったじゃない。あんまり長くなりすぎてないところがいいね」

 「だろ、きっとこれで出て来てくれるぜ」

 「にゃんっ!」


 メールでメッセージを送ったレイチェル達はその場で暫く待つこととなった。果たしてメール送ったアリルダという女性店主は出て来てくれるのだろうか。


 「……出てこねぇな…」

 「本当だね…、やっぱりあのメールじゃ簡素すぎたのかなぁ…。ごめんよ、変なアドバイスして…」

 「いいよ、別に。元はといえば私が無理やり連れてきたんだし」

 「にゃぁ…、今日は星が綺麗だにゃぁ…」


 ナギ達はじぃ〜っと待っていたのだが一向にアリルダが出てくる様子はなかった。ナギとレイチェルは残念そうに店の扉の前で何度もため息をついていた。デビにゃんは川沿いに作られた小さな塀にもたれ掛って地面に座りながら、夜空を見上げて綺麗な星空に見とれていた。ゲーム初日だっけ快晴に設定されているようだが天候の変化はどのように設定されているのだろうか。


 「はぁ…、流石にもう帰るか…。悪いな、付き合わせちゃって。また今度機会があったら武器に加工してくれよ」

 「そうぉ、僕はまだ待ってもいいけど…。レイチェルにはお肉を貰った借りもあるし」

 「お前私があの後ボンジィ追っかけて行って独りにしたのもう忘れたのかっ!。……まぁ、いいや。もうこれで借りはチャラだから気にしなくていいぞ。それじゃあレイコさんに帰るか」

 “ガチャガチャ…”

 「にゃっ…ちょっと待つにゃっ!」

 「えっ…」


 ナギ達が諦めて帰ろうとした瞬間扉の向こうで少し物音がしたことにデビにゃんが気付いた。どうやら内側から鍵を開けようとしているようだが何故か上手くいかないようだった。


 “カチッ…!、ガチャ…”

 「ふぅ…やっと開いた。済まないね、最近この扉鍵の調子が悪かったんだ。さっ、お入んな」

 「にゃぁぁぁぁっ、出て来てくれたにゃぁぁぁぁっ!」

 「本当だっ!。さっ、レイチェル、店の中に入れてもらおう」

 「お、おう…」


 店の扉の鍵が開く音がすると同時に扉開き、中からアリルダと思われる老齢の女性NPCが出てきた。細長いスラッとした体格で女性の割に背が高く170センチ後半はありそうだった。姿勢も真っ直ぐ伸び切っていて背骨は全く曲がっていなかった。顔立ちは少し長細めで顎の輪郭がかなり尖っていた。鼻が高くて目付きが鋭くまるで高貴な魔女のようだった。だが流石に顔のしわはかなり多く、髪の毛も長かったが全て白髪で隠してはいないだろうが高齢であることは明らかだった。ナギ達はアリルダに促されるまま店の中へと入って行った。


 「あ、あの…、私はレイナルド・チェルシーっていうプレイヤーで、こっちがナ…違う伊邪那岐命…」

 「そんなのもう知ってるから一々言わなくていいよ。それより主人に用があるんだろ。もう起きて鍛冶屋の方に行ってるから付いてきな」

 「は、はい…、でも何で急に出て来てくれたんですか…」

 「あんたらがいつまで経っても店の外で待ってるから仕方なく出て来たんだよ。メールまで送ってくるしそこまでされたら出ていくように設定されてるから嫌でも出て来ちまうんだよ」

 「そ、そうなんですか…」


 どうやらレイチェルの送ったメールの影響プラス外で無駄口を叩かずじっと待っていたことでNPCに店を開ける条件を満たしたようだ。このゲームではいついかなる時でも監視プログラムによって見張られているので行動には常に注意を払っておいた方がいいのかもしれない。アリルダはレイコと記憶の共有範囲が近かったためナギ達のことはもう詳細に知っているようだった。


 「はい、着いたよ。主人はこの奥の鍛冶場にいるからちょっとここで待ってな」


 アリルダは鍛冶屋の建物内まで来ると一階の商品の展示場の奥にある鍛冶場へと入って行った。ナギ達はその場で少し待つことになったのだが鍛冶屋に並べられている武器や防具を見て感嘆の声を上げていた。


 「わぁ、凄い。凄そうな武器が一杯置いてあるよ、デビにゃん。これなんてデビにゃんに似合うんじゃない、ブラックウインド・スピア。黒い風の槍なんてデビにゃんにピッタリじゃない」

 「にゃぁ…、それは嬉しいけど値段をよく見てみるにゃ、ナギ」

 「えっ…うわっ、1287万3000イェンだってっ!。こんなのどうやって買えるんだよっ!」

 「こっちは2300万だぜ…。ツヴァイヘンダーって中世を舞台にしたゲームじゃ割と有名だよな」

 「まぁ序盤は店で武器を買えることなんてほとんどないのにゃ。明日チュートリアル終了の報告をしに行けば初任給が貰えるだろうけど多分20万円ぐらいなのにゃ。でも功績ポイントを貯めて使っていけば月の給料はどんどん上がって行くのにゃ。月給50万ぐらいまでだったら割とすぐいけるんじゃないのかにゃ」

 「げぇっ、このゲームって給料制なのかよ…。私お金貯めるのって苦手なんだよな〜…。現実世界でも貯金なんてできたことないし…」

 「ほら、お前達。何無駄話してんだい。主人が入って来ていいって言ってるからこっちへ来な」

 「おっ、いよいよ私の鉱石が加工できる時が来たか…」


 ナギ達は展示されている武器の値段を見て驚かされていた。店に置いてある武器のほとんどが1000万以上の価格に設定されていたようだ。全て序盤では強すぎる性能を持つ武器だったので仕方ないことだったが…。どうやらこの店は高級品の防具しか置いていないようだ。ナギ達が武器の値段や給料について話ているとアリルダが奥の部屋から出てきて鍛冶場に入ってくるよう言ってきた。レイチェルは少し緊張した面持ちでナギとデビにゃんと共に鍛冶場へと入って行った…。


 「失礼しまーす…」

 「僕も失礼しまーす…」

 「失礼するにゃっ!」

 「おうっ…、俺がこの鍛冶屋の店主のガドスだ。よろしくな」


 ナギ達が鍛冶場の中へと入って行くと鍛冶屋の主人であるガイルがいた。当然妻であるアリルダと同じく老齢で、すでに年齢は60を越えているようだった。だがアリルダと同じく高齢の割にかなりの健康体で、鍛冶屋の仕事で鍛え抜かれたと思われる筋肉質の肉体が若々しさを表していた。どうやら夫婦揃っていい歳の取り方をしたようだ。顔つきはかなり怖そうな感じで性格の厳しいオヤジと言った雰囲気だった。もし鍛冶職の弟子にでもなった日には物凄く厳しい修行をさせられるイメージがナギ達の脳内には浮かんでいた。髪の毛も短髪ではあったが全く禿げてはおらずフサフサだったがアリルダと同じく全て白髪だった。


 「確かサザンストーム鉱石を入手したって。それはすげぇことだが言っておくが武器に加工するだけでも数百万は掛かるぞ。その代り鍛冶屋に頼めば100%武器への加工は成功するがな。だがお前達今日ゲームを開始したばっかで金なんて持ってねぇだろう」

 「いえ…、それが鍛冶はここにいるナギにやらせようと思ってて…。一応初期の割振りは大剣みたい何ですけどヴァイオレット・ウィンドに加工ってできますかね…」

 「ヴァイオレット・ウィンドだってっ!。そりゃお前割り振られてるっていったってスキルレベル5ぐらいだろう。絶対無理だ。最低でも20以上なければ成功の判定がそもそもでねぇし、スキルレベルが50を越えるまでは成功補正は30%以下だぞ。そんなの折角の鉱石が無駄になるだけだからやめとけ」

 「そこをなんとかこいつが作れるようになるよう指導してくれませんかねぇ。私、今日他のNPCから鉱物の採掘スキルの指導をしてもらったんですけどその時に12レベルぐらい上がったんでちょっと頑張ればいけると思うんですよ」

 「駄目だ駄目っ!、12上がったところでまだ17じゃねぇか。50を越えてようやくまとも作れるようになるんだぞ。仮になんとか20を越えたとしてもリアルキネステジーシステムを使いこなして相当な集中力とプレイ技術がねぇと成功しねぇよ」


 ナギに大剣の鍛冶スキルの指導をしてもらえるよう頼み込んだレイチェルだったがそんなものは無理だと突き返されてしまった。ヴァイオレット・ウィンドの武器加工には相当なスキルレベルが必要であったため当然のことだろう。失敗すれば折角入手した貴重な鉱石が無駄になってしまう。とてもゲームを開始して一日目で作成できるものではなかった。


 「や、やっぱり無理だって…、レイチェル。僕もレイチェルの功績を無駄になんかしたくないし諦めて帰った方が…」

 「ああ、そうだそうだ。スキルの指導なら一回はいつでもしてやるから今日はもう帰れ。一か月ほど大剣の鍛冶を欠かさずやってれば作れるようになるだろう。いつでもここでバイトさせてやるから暇があったら来い。ちゃんとバイト代もでるからな」

 「ガドスの言う通りにゃ、レイチェル。一日目からそんな武器の加工なんてできるプレイヤーなんていないのにゃ」

 「……嫌だ…」

 「へっ…」


 ガドスだけでなくナギとデビにゃんにまで止めるよう諭されてしまったレイチェルだったが、顔を俯けたまま急に嫌だと駄々を捏ねるように口を開き始めた。


 「折角鉱石を入手したのにここで諦めるなんてできるかよっ!。私はそうやって何かを大事に置いておくってのが苦手なんだよ。貯金だって全然ねぇしな。だからおっさん、鉱石なんて無駄になってもいいから何とかナギのスキルを20以上まで上げてやってくれ。ナギも私は失敗しても絶対怒らないからなんとか挑戦だけでもしてくれっ!」

 「そ、そんな…、僕はスキルレベルが上がるだけだけどレイチェルにはリスクが大きすぎるじゃないか」

 「いいんだよっ!。私の性格からいってこういうのをいつまでも持ち歩いてプレイしていると気になって仕方ないのさ。だからいっそ武器に加工できないならなくなってしまった方がいいんだよ」

 「レ、レイチェル…、そこまで言うなら僕は別に構わないけど…」


 レイチェルに頼み込まれたナギはそっと視線をガドスの方に向けた。ガドスもナギと視線を合わせて仕方ないかと観念するように互いにため息を吐きレイチェルに返事を返した。


 「分かったよ…。そこまで言うなら取りあえずスキルの指導だけして見てやる。恐らく20を越えることはないだろうがその場合は絶対失敗することになるから諦めるんだぞ。鍛冶場も絶対に貸さないしな」

 「あ、ありがとう、おっさん。ナギ、お前も頼んだぞ。指導によるスキルの上昇はお前の飲み込みの良さに掛かってるんだからな」

 「う、うん…、やってみるよ…」

 「にゃぁ…、レイチェルの奴相変わらず無茶するにゃぁ。なんとか成功させてあげないけどにゃぁ…」

 「………」

 「よしっ、それじゃあ早速指導に入るからよく説明を聞いてるんだぞ」


 こうしてナギの大剣の鍛冶スキルの指導をすることになった。あまりに真剣な態度のレイチェルをアリルダはじっと黙って見守っていた。デビにゃんと同じようにできれば加工を成功させてあげたいと思っていたのかもしれない。


 「いいか、それじゃあまずこの世界の鍛冶場の設備について説明するが、この鍛冶場の設備も錬金術の設備と同じく6つの属性を使った設備が設置されている。現実世界の設備とはまるで違うからよく聞いとけよ。まず火の魔力を供給する溶鉱炉、水の魔力を供給する水場、雷の魔力を供給する放電装置、土の魔力を供給するための土を流す土流装置、氷の魔力を供給するための冷凍装置、風の魔力を供給するための気流発生装置、そして最後に鍛造物を叩くためのつちだ。これには特に魔力は付与されていないが鍛造物に供給された魔力を全体に行き渡らせるための重要な道具だ。一度やってみるからよく見とけよ」

 「は、はい…」


 この世界の鍛冶場の施設は錬金釜と同じく6つの属性を使った設備が設置されているようだ。まず火の魔力を供給する溶鉱炉、これは現実世界の鍛冶場でもよくあるもので、温度の調整とどの程度鍛造物を入れているかで火の魔力の質量と供給量が決まる。温度が質量、時間が供給量を決めるということである。また火の色によって魔力の濃度を調整することもできる。火の色とは赤い部分と青い部分の割合のことであり横に付いているレバーで随時調整することができる。次に水の魔力の篭った液体を入れてある水場、これも現実世界でもよくあるものだが水の温度によって魔力の質量、ここに鍛造物を浸けてある時間で供給量が決まる。また水の透明度によって濃度を調整することができる。これもボタンで随時調整できる。雷の魔量を供給するための放電装置、これは現実世界の放電加工機のようなもので機械の中央に鍛造物を置き、機械の上部に付いてる電極を鍛造物に密着させることによって雷の魔力を供給する。この時周囲に小規模のプラズマのようなものが発生する。装置の出力によって質量、時間によって供給量が変化する。電極に付いているダイヤルで濃度を調整することができる。土の魔力を供給するための土流装置、中央の部分が開けている砂時計のような形をしていて、その開けている中央に鍛造物を置き砂時計のように上から下に土流を流して土の魔力を供給する。この土流は鍛造物を透き通って下の容器へと流れていく。土の量によって質量、置いてある時間によって供給量が変化する。上から下へと言ったが容器は360度回転させることができ、どの角度にしても土は上部に設定されている容器から下部に設定されている容器まで真っ直ぐに落ちていく。その角度によって魔力の濃度を調整できる。冷凍装置、温度を氷点下以下まで下げた密室の中に鍛造物を入れて氷の魔力を供給する装置である。温度は絶対零度である−273,15度まで下げることができそれによって質量を調整できる。冷凍装置に置いてある時間によって供給量が決まり、装置の横のダイヤルによって濃度を調整できる。風の魔力を供給するための気流発生装置、長細い筒状の装置の中に鍛造物を入れて左右から気流を発生させて風の魔力を供給する。風の強さによって質量が決まり、装置に置いてある時間によって供給量が決まる。また風の向きを調整することによって濃度を調整できる。より上昇気流へと近づくほど濃くなり下降気流へと近づくほど薄くなる。これらの装置を使い鍛造物に適切な濃度、質量、供給量の魔力を注ぎ、適度な力加減で槌を使って叩くことによって武器や防具の加工ができる。魔法に例えると濃度は威力、質量は消費MP、供給量は実際に相手に放った回数とダメージといったところだろうか。


 「まず鉱石をインゴット、鋳塊ちゅうかいへと加工する。この時にそれぞれの武器に合わせたもの加工するからインゴットとなった時点でもうその武器や防具にしか加工できなくなる。インゴットへの加工は俺達鍛冶屋に頼めば無料で作成したいものに合わせて加工してくれるからあまり気にしなくていい。じゃあまずこのグレートソードっていう大剣用に加工された鉄のインゴットを武器に加工する。やり方は複雑だがシンプルだ。まずこのインゴットを今話した6つの装置に入れて適切な魔力を供給する。グレートソードなら火の魔力を適当に注ぐだけで上手くいくだろうから取りあえず溶鉱炉の中へと突っ込む。そして出てきたインゴットの中心を適度な力加減で叩くことにより勝手に武器へと変化してくれるってわけだ。どうだ分かったか」

 「えっ…、つまり魔力を供給する装置にインゴットを入れて、取り出したのを金槌で叩けば勝手に武器になるってこと。本当に単純だね…。なんか思ったより簡単そうなんだけど…」

 「まぁ、そういうことだな。ただし単純に見えるがさっき言ったように中身はかなり複雑だぞ。加工する武器によって適切な魔力の濃度、質量、供給量を調整しなくちゃいけないし、高性能な装備ほど調整も難しいし槌の力加減もシビアになってくる。またインゴットの元になった鉱物の種類によって魔力の浸透度も変わってくるからそれを掴むのがこれまた難しい。スキルレベルが上がるほどそれらの感覚がイメージで伝わり易くなってくる」


 鍛冶をする際のスキルレベルも特技などと同じくレベルが上がるほど成功するイメージの感覚が掴みやすくなっているようだ。このゲームの鍛冶はインゴットに魔力を込めてそれを数回槌で叩くだけという現実世界と比べるとかなり簡単な作業のようだった。


 「よしっ…、実際にやってみるぞ」

 「う、うん…」

 “ガチャ…、ジュゥ…”


 ガドスはナギに一通り説明すると用意した鉄のインゴットを火の魔力を供給する溶鉱炉の中へと入れた。そして溶鉱炉の中に入っているインゴットの様子を見ながら横にあるレバーで火の魔力の濃度を調節していた。溶鉱炉の中の火の色は青い部分が消え完全に真っ赤になっていた。これは濃度は濃いという方がいいということなのだろうか…。


 「いいか、溶鉱炉を使う場合まず適切な温度を設定するんだ。他の装置でもまず質量を調整するために温度や出力を調整することになる。この設定は装備のレシピがあれば正確な数値が分かるがない場合はイメージで掴むしかねぇ。インゴットに触れればスキルレベルに応じて適切な設定が頭に浮かんでくる。グレートソードの場合は初期装備でもあるから端末にレシピが載ってる。だが濃度や供給量は一応参考程度の文章はレシピ書いてあるがあくまで自分の感覚で掴むしかねぇ。このようにな…、ふんっ!」

 “ガチャァ〜…、ジュー…”


 ガドスはナギに説明をしながら自分が今だと思った感覚で溶鉱炉からインゴットを引き抜いた。引き抜かれたインゴットはまだ熱を帯びていてまるで高温で熱せられた鉄板のような音を出していた。


 「そしてインゴットの中心に適度な力加減で槌を打つ…。グレートソードの場合は以外にも力は軽めでいいからなるべく高い位置から素早く振り下ろす」

 “カッキ〜ンッ…!”

 「おお〜」

 “シュイィ〜〜〜ンっ!”


 ガドスがインゴットに向かい槌を振り下ろすと澄んだ金属音が鍛冶場に響き渡った。ナギ達がその綺麗な音とガドスの槌打ちの正確さに感心していると、インゴットが光のエフェクトに包まれていきパソコンを起動したときの風が吹くような音がしたと思うとインゴットは一瞬にして大きな大剣へと姿を変えていた。


 「すっげ〜、一瞬で武器へと変わっちまったぜ…。しかもこの大剣…、刃の部分がとても綺麗だ。私が初期に配布されたグレートソードとは偉い輝きの違いだぜ。っていうかなんとなく周囲にぼんやりと光のエフェクトが入っているような…」

 「そりゃそうだ。端末パネルを開いて品質の項目を見てみな」

 「えっ…、品質…」


 レイチェルはガドスに言われ端末パネルを開きガドスの作成したグレートソードのデータを見てみた。


 「なっ…、品質100%だってぇぇぇぇぇっ!。つまりは最大値マックスってことじゃねぇか。因みに私のグレートソードは…、品質74%…攻撃力も私の奴の方が10ぐら低いぜ…」


 なんとガドスの作ったグレートソードの品質は100%だった。品質とはそのアイテムの質のことで性能や効果の高さに大きく影響を及ぼすものである。ガドスのグレートソードは品質が最大値になったボーナスなのか剣の周りがぼんやりとした光のエフェクトに包まれていた。


 「まぁ初期装備の鍛造たんぞうならざっとこんなもんよ。俺ならお前さんの欲しがってるヴァイオレット・ウィンドも70%以上の品質を保証した上で作成できるぜ。まっ、その時は300万は頂くことになるだろうがな。品質は注入する魔力量と槌打ちの適正度によって決まる。さっ、じゃあ次お前やってみろ。もうこれが指導ってことになってるからな」

 「ええっ!、そんな…、一応やり方は分かったけど…」

 「頼んだぜ、ナギ。大丈夫だ、私でもなんとかなったんだから」

 「頑張るにゃ、ナギっ!」

 「わ、分かったよ…」

 「出来上がったグレートソードの品質によってスキルの上昇度が決まるからな。気合入れてやるんだぞ」


 こうしてナギの大剣の鍛冶スキルの指導イベントが発生した。レイチェルの時と同じように先程ガドスが作成したグレートソードをナギも作成し、今回は出来上がったグレートソードの品質によってスキルの上昇度が決まるようだ。そしてナギがガドスに変わって鍛冶場の椅子へと座り、グレートソード用の鉄のインゴットを手に取り大きく深呼吸して意識を集中させていた。


 「よしっ…、温度はさっきのガドスさんの時と同じく1800度でいいんだよね」

 「ああ…、レシピがなくても温度の設定なんかは鍛冶屋が教えてくれるがレシピがあると品質に補正が掛かるんだよ。因みに品質が30%未満の場合は失敗ってことでどんな高性能な武器でも全体が真っ黒焦げで攻撃力もほぼ0になっちまう。品質30%と100%の装備では性能に2倍ぐらいの差はあるかな」

 「それじゃあ温度を1800度にセットして…、ふぅ〜、それじゃあやってみるぞ」

 「なんだか緊張するにゃ…」

 「ああ…」

 「えいっ!」


 ナギはもう一度呼吸を整えると思い切って鍛造物を持つための鍛冶鋏かじばさみでインゴットを掴み溶鉱炉の中へと突っ込んだ。そしてすぐさま横に付いているレバーに手を掛け、なんと目を瞑って火の魔力の濃度を調節し始めた。実際に溶鉱炉の中やレバーの位置は確認せず完全に自身のイメージのみを頼りにレバーで濃度を調整していた。


 「おいっ…、あいつ目を瞑っちまったぞ。あれで大丈夫なのかよ…」

 「しっ…、いいから黙ってみてろ。変に目を使って確認するより脳内のイメージを頼りにする方がいいと判断したのさ。このゲームに限らずVRMMOってのはプレイヤーの意識と直接繋がってるからな。視覚や聴覚などの五感も感じるように設定されているがそれはあくまでプレイヤーの意識に働きかけている感覚を現実世界と同じように再現しただけだ。お前達がこの世界で実際に何かに触れた感覚なんかも全て皮膚の触覚を通してでなく、例えばこの冷たい水の中に手を突っ込んだとすればそれは手の触感が冷たいと感じたから冷たいと思ったのではなく、冷たい水の中に手を突っ込んだというデータがが意識に送られたことにより手が冷たいという感覚を作り出しているのだからな。つまり今あいつの意識の中には目で確認せずとも溶鉱炉の中のインゴットの様子やレバーの位置、火の色なんかがイメージとなって浮かんでいるはずだぜ。視覚に頼るなんかよりよっぽど正確にな」

 「そうにゃ、レイチェル。レイチェル達現実世界の生命体は自身の体を構成する物質やその感覚によって意識が作られてるけど、僕達電子生命体は意識が元になって自身の体、そして視覚や聴覚なんかの感覚を作りだしてるのにゃ。だからこの世界では自分の意識に従って生きるしかないのにゃ。今はナギ達の世界に合わせてるから少し違うけど、例えば本来ならこの水の中に手を突っ込んでも意識が冷たいって思いたくなければ冷たくは感じないのにゃ。入ろうと思えばあの溶鉱炉の中にだって入れるにゃ」

 「お、おう…、なんだかよく分らんが自分を信じろってことだな。そういうことなら得意だから任せとけ」


 デビにゃんやガドスの言う通り電子世界とは意識自体が生命力を持つ世界であり、周りにある肉体や世界、そして五感も全て意識によって再現されているものである。つまりこの世界でプレイヤー達が視覚や聴覚、触覚などを通して感じている思っているものは実際には意識が直接感じているものを五感で感じているように再現しているだけなのである。今ナギがしているように目を瞑って自分の意識に働きかけるほうがより周囲の状況を把握できてしまうのである。よく現実世界でも心の目を開く心眼という言葉などが漫画やアニメなどのフィクション、そして宗教や超能力セミナーなどで使われているが、それと似たようなものだろう。実際武道の達人にもなると目隠しをしたまま戦闘を行えるものもいるためナギ達の世界においても自身の意識に目を向けることは重要と言える。だがそれはあくまで視覚や聴覚など、場合によって瞬発力や判断力をより鋭敏にしているだけで意識自体で情報を感じ取っている電子世界とは根本的に違う。現実世界でいくら意識を集中しても五感、もしくは直感など意識の外から情報を得ていることに変わりはない。だがこの電子世界で意識に集中するということはむしろより正確な情報を意識から五感へと伝えていると言える。つまり真実を意識の外から感じ取るか意識の中から感じ取るかの違いということである。


 「今だっ!」

 “バッ…、ジュワァ…”


 インゴットを溶鉱炉へと入れて数分後…、ナギは大きな掛け声とともに溶鉱炉からインゴットを取り出した。取り出されたインゴットはガドスの時の同じように熱で真っ赤になっており焼けるような音を立てていた。


 「よしっ、じゃあ次は槌でインゴットを叩くんだ。言い忘れたが取り出してからあまり時間を掛け過ぎてもいけねぇぜ。なるべく10秒以内には槌打ちするようにするんだ」

 「分かってる…せやっ!」


 ガドスからアドバイスを受けたナギだったが、まだ説明を受けていなかったはずなのにまるで知っているかのように答えていた。恐らく意識を集中したことにより自然と取り出してから槌を打つ最適なタイミングを掴んでいたのだろう。インゴット取り出してから約5秒後…、ナギはガドスと同じように槌を高く振り上げて真っ直ぐ叩き下ろした。


 “カッキィーーーーーーンッ…”


 ナギが槌を振り下ろすと鍛冶場に金属音が鳴り響いた。だがガドスの時の音とは少し違いビブラートのような揺れる感じがなく真っ直ぐした音色だった。この違いが品質にどのような影響を及ぼすのだろうか…。


 「おおっ、ナギの出す金属音も中々いい音だぜ」

 「本当にゃっ!。これならナギのグレートソードの品質も100%にゃっ!」

 「いや…、駄目だな…」

 「えっ…」

 “シュィ〜〜〜〜〜ンッ!”


 ナギが叩いたインゴットもすぐにグレートソードへと変化した。だが刃の部分こそガドスに負けないぐらい綺麗に輝いていたが、品質が100%である証の光のエフェクトは入っていなかった。


 「な、なんで…、こ、これは100%じゃないってことか…。私にはナギの槌打ちは完璧に思えたのに…。やっぱり目を瞑っていたから魔力の注入をしくったんじゃ…」

 「いや…、インゴットへの魔力の供給量、濃度、質量全て完璧だったぜ。だが槌打ちの時に少し力が入りすぎたんだ。だから打った後の金属音の音色が揺れ動かずに真っ直ぐになってしまったんだ。ベストな力加減だと静かな波のように聞こえるからな。緊張して少し力で抑え過ぎようとしてしまったんだ。逆に力を抜きすぎると槌に振り回されて超音波みたいな振動の激しい音になっちまう。だがかなりいい線いってたと思うぜ。端末パネルで品質を見てみな」

 「う、うん…」

 「私達も見てみようぜ」

 「にゃっ!」


 ナギ達は皆端末パネルを開いて今作成したグレートソードの品質を確かめた。ガドスが言うには槌打ちの力が少し強すぎたようだが一体品質の値はいくらだったのだろうか。


 「え〜っと…、品質の値は……93%っ!。駄目だ〜、100%には遠く及ばないよ。ごめんよレイチェル…」

 「何言ってるんだよ。私が採掘の指導を受けた時だって適正率は97%だったんだ。この数字だって大したもんだよ。でも私の時スキルレベルが上昇したのが12だったから…」

 「ああ、今の鍛冶も素晴らしかったがスキルレベル11しか上がっていねぇよ。一応俺のスキルレベルと坊主のレベルの差を考えた場合100%だと15上がる設定にはなってたんだがな」

 「くっそ〜っ!、それじゃあスキルレベルは結局16止まりか…。流石に成功率補正が0%じゃやるわけにはいかねぇか…」


 どうやらナギの作成したグレートソードの品質は93%だった。スキルレベルは20まで到達せず16止まりだった。一応100%だった場合20まで到達していたようだがほぼ不可能なことだっただろう。流石のレイチェルも成功率0%ではやるわけにはいかないだろう。必要レベルに到達していない場合魔力の供給量も槌の力加減の感覚もまるで分からない。仮に偶然正しいやり方でできたとしても必ず品質は30%未満になってしまう。


 「はぁ…、しゃあねぇ、諦めて帰るか…」

 「ごめんね、レイチェル…」

 「にゃっ!、ちょっと待つにゃ、二人共っ!」

 「うん…、どうしたの、デビにゃん…」


 レイチェルが諦めて帰ろうと言い出した時突如としたデビにゃんが声を上げ二人を引き止めた。そしてデビにゃんはアリルダの目の前と向かって行ったのだった。


 「アリルダばぁちゃん。この店に銀剣草シルバーソード大切草おおぎりそうって植物、あと鉄ぼっくりっていうドングリは置いてないかにゃ」

 「はぁ…、鉄ぼっくり以外置いてるよ。どうやらお前さんも私と同じこと考えてみたいだね…」

 「そうにゃ。鉄ぼっくりなら僕がいくつか持ってるから何とかなるにゃ」

 「えっ…、何…、どういうこと、デビにゃん」

 「ナギ、僕の副業は錬金術師にゃ。今行った素材があればフォーギンブレイドエキスっていう一時的に剣装備の鍛冶スキルを上昇させる薬を作れるのにゃっ!」

 「な、なるほど…、それで一時的に鍛冶スキルを上げればレイチェルの鉱石を加工できるようになるってわけか…」

 「マジでっ!、それ本当かよ、デビにゃんっ!」


 デビにゃんが言うにはよく他のゲームでもありがちな一時的にスキルレベルを上昇させるアイテムを錬金術によって作れるらしい。だがデビにゃんもまだ錬金術のスキルレベルはそれ程高くないはず。それに素材を買うにもお金が必要になるはずだが…。


 「まぁ、完成した薬があれば一番良かったんだけどねぇ…。材料も揃ってないし私達は自国の内政値によって決められたアイテムしか販売できないからねぇ。武器と違って錬金アイテムは値段が安いから序盤が販売が制限されてるんだよ。今は効果の低い回復アイテムぐらいしか売ってないからねぇ…」

 「だから僕が作るのにゃ。鉄ぼっくりならナギ達と出会う前にいくつか拾ってあるから大丈夫なのにゃ。それでナギには残りのアイテムを買ってほしいんだけどにゃ…」

 「いいけど…、僕も今日報奨金で貰った3万円しかないよ」

 「それなら銀剣草と大切草をそれぞれ10個ずつぐらいしか買えないねぇ…。まぁ上手く出来てエキス5個分ってところだけど…、あんたそんなの錬金できんのかい」

 「にゃ、にゃぁ…、それはなんとか気合で頑張るのにゃ。確かに難しいかもしれないけどナギに比べたら遥かに簡単なはずなのにゃっ!」

 「それで失敗したら元も子もないだろう…。やれやれ…、どうやら指導が必要なのはそっちの子だけじゃないみたいだねぇ…」

 「えっ、それじゃあにゃ…」

 「錬金術の指導は私がしてやるよ。それと朝まで納品用のスキル変化系のアイテムを錬金してもらうよ。それで明日にはちっとはマシな薬が作れるようになってるだろう」

 「それは願ったりかなったりにゃっ!、よ〜しっ、僕頑張るにゃっ!」

 「ならさっさとついといで。私の錬金場へと行くよ」


 ナギに続きデビにゃんもアリルダに錬金術の指導をしてもらえることになった。それだけではなく朝まで店の錬金術の仕事を手伝うことで更にスキルレベルを上げてくれる手助けもしれくれるようだ。


 「ほら、あんたも同じこと考えてたんだろう。いつまでも黙ってないでその子に鍛冶の仕事を頼んだらどうなんだい」

 「えっ…、どういうことなの、ガドスさん…」

 「はぁ…しょうがねぇ。実はこっちにもヴァルハラ国から発注が来てる大剣があるんだよ。それをお前にやらせてやるから朝までやれるだけやってみな。徹夜でやればスキルレベルも3ぐらいは上がってるだろう」

 「ほ、本当…、ありがとうガドスさんっ!」


 こうしてナギとデビにゃんは朝までガドスとアリルダの仕事を手伝うこととなった。ガドス達はナギ達の真剣な態度を見せられてここまで協力する気になったようだ。プレイヤーの中でもNPCに自国にとって必要な存在だと思われた場合通常では考えられないほどの恩恵を受けられる。このゲームにおいて他のプレイヤーの表かよりNPCの評価の方が重要なのかもしれない。


 「うぅ…、すまねぇ、ナギ、デビにゃん。私の為にここまでしてくれるなんて…。それじゃあ私は邪魔になるだけだから先にレイコさんの家に帰ってるぞ。朝になったらまた来るからな。じゃっ…」

 “バタンッ…”

 「にゃぁぁぁぁっ!、なんて奴にゃぁぁぁぁっ!。自分から僕達に頼んどいて時間が掛かりそうと分かったらさっさと家に帰ちゃったにゃっ!」

 「放っておけ、あいつは自分が邪魔以外に何もならないと判断したから帰ったんだ。お前達を信頼してこそ行動だから許してやんな。なにしろあんな貴重な鉱石をお前達に預けたんだからな…」

 「そうだよ、デビにゃん。レイチェル達にこれから頼りになることは沢山あるんだからあんまり悪く言っちゃいけないよ。特にレイチェルみたいな前衛職は僕にとっては貴重だからね」

 「そ、そうかにゃ…。夜も遅いしさっき食べすぎちゃって眠くなっちゃっただけなんじゃないのかにゃぁ…」


 レイチェルは自分にできることがないと思うとナギとデビにゃんを残してレイコの家へと帰って行ってしまった。確かにレイチェルにはできること何もなかったのでいない方がナギ達からしれみれば集中しやすいかもしれないが…。店でたレイチェルは更に北へと歩き今度はちゃんと橋を渡って帰っていた。


 「ふわぁ〜…、なんだか眠くなっちまったなぁ〜。ナギ達には悪いが朝までなんて付き合ってられねぇぜ。私は家に帰ってレイコさんの家のふかふかベッドで横になるか…」


 レイチェルはやはりデビにゃんの言う通りただ眠たかっただけのようだ…。店へと残されたナギ達は一体いくつスキルレベルを上げられるのだろうが。少しお人好しすぎる気もするが序盤からスキルレベル大きく上げるチャンスでもあるだろう。ナギはレイチェルに感謝しながらガドスに任された仕事をこなしていくのだった…。

 

 



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