finding of a nation 14話
「美っ味しい〜、このお寿司。とても川魚で作ったものとは思えないわ〜」
レイコが頼んだ大量の出前を食卓へと運んだナギ達は、最初見た時にはこれだけの量を頼んだレイコに呆れてしまっていたが、やはり高級な出前だけあってかなり美味しかったのか、結局に食べるのに夢中になってしまっていた。特に霊力の流れる川で取れた霊水魚を使った寿司は絶品で、寿司に目がないナミは一人で寿司ばかりを食べていた。
「それは今日漁業の仕事をした僕達が獲ったウーグイスって霊水魚にゃん。この辺りの川は微量だけど霊力が混じってるのにゃん。他にも天淨鮎や聖鱒、ホーリーバスなんかも取れたにゃん。僕とヴィンスは一杯獲ったご褒美に仕事の後に少し食べさせて貰ったけどすっごく美味しかったのにゃん」
「ああ、俺達は焼き魚にして食べさせて貰ったんだが、空腹を満たす以外にも色んな恩恵が受けられるみたいだったぜ。食べた直後は身体が活性化して、僅かだがステータスが上昇し、HPの自動回復の量も上がってるみたいだった。更に大抵の状態異常に陥っていた場合も瞬時に解除してくれるみたいだぜ。店で買うとかなり高額な品らしいが旅に出る前にはいくつか持っていきたいものだな。ただその場合はしっかりアイテム用に調理されたものでないと効果はかなり薄いらしい」
どうやら料理には2種類あり、今ナギ達が食べている空腹を満たすためのものと、回復アイテムなどと同じようにプレイヤーの能力に様々な恩恵を与えるものがあるらしい。正確には後者の料理は前者の効果も含まれているため、アイテムの効果をもたらすと同時にプレイヤーの空腹も満たすこともできる。料理アイテムの効果はプレイヤーの幸福度に依存し、お腹が空いている時ほど効果が上昇する。必要以上に空腹に満たされている時は現実世界と同じように食欲がわかず、食べられたとしても効果は極めて薄いものとなってしまう。旅に出る前には腹八分というより腹六分ぐらいにしておくのがいいかもしれない。薬品のカテゴリの回復アイテムは空腹に関係なく使えるが一度に大量に使いすぎると中毒症状に陥ってしまいステータスが大きくダウンして動けなくなってしまう。
「ってかナミっ!、てめぇ寿司ばっか食ってないで他のも食えよっ!。私の分の寿司がなくなっちまうだろうがっ!」
「何よっ、こんなにあるんだから少しぐらいいいでしょっ!。あっ、ちゃんとレイコさんの作ってくれたものも食べてますから安心してくださいね」
「別にいいわよ、好きなもの食べて。ただしちゃんと他の人の分は残しておいてあげてね。それより遅いわね…、あの子…」
皆が食事に夢中になっている中、自分の娘のことが気になっているレイコはあまり食事に手が出ていなかった。先程の様子だとあまりプレイヤーキャラのことを良く思っていないNPCのようだが、もしかしたら下りてこないかもしれないと不安に思っていたのかもしれない。
「“ムシャムシャ…”そう言えばレイコさんの娘さんってどんなお子さん何ですか。きっとレイコさん似て明るく元気で可愛らしい子なんでしょっ!」
「それが内気な性格で少し人見知りなところがあるのよ。それにもう可愛らしいって言える年でもないし…。確かに顔は私に似て美人だとは思うんだけどね…」
「えっ…、そんな事言える年じゃないって一体いくつなんですか…」
ナミが娘のことについて聞くと、レイコは少し不安な面持ちで解答を返してきた。やはり少し人見知りなところがあり、レイコに比べるとかなり暗いというか冷めた性格をしているようだ。そして年齢もナミ達が予想していたものはかなり違うようで、そのことを察したレイチェルが娘の年齢について聞くととんでもない答えが返って来た。
「えーっと、確か今年で16歳だったかな」
「じゅっ…、16歳ぃぃぃぃっ!」
「可愛いって言える行動を取ってくれたのは8歳ぐらいまでだったかしらね。成長が早いの嬉しいだけど、どんどん性格が大人びて来て母としては少し寂しいのよね…」
「……ってちょっと待ってください。レイコさんて今いくつなんですかっ!。どう見ても20代に見えるんですけど…」
「うん…、今年で26だけど…、それがどうかしたの」
「に、26ぅぅぅぅぅぅっ!。私と同じじゃねぇかっ!」
「ってちょっと待ってください。それじゃあ10歳でその娘さんを産んだってことですかっ!」
レイコの年齢聞いたナミとレイチェル、そしてナギ達他のプレイヤーもレイコとレイコの娘の年齢を聞いて酷く驚いていた。だがゲーム内のキャラクターであるデビにゃん達猫魔族は全く驚いていなかった。そしてセイナも全く話題に反応せず一人で黙々とテーブルの上の料理を食べていた…。
「何よ、そんなに驚いて…。確かに少し早すぎるかもしれないけどこの時代の設定じゃあ別におかしなことじゃないでしょ。中世の平均出産年齢は確か12〜15歳ぐらいだったかしら」
「えっ…、でも10歳で子供産むなんて大変だったんじゃないですか…。っていうかそんな年端もいかない少女に手を出すなんて…。ハールンさん…、そんな風には見えなかったのに…」
「“…っ!、ゴホッ…、ケホケホッ…”な、なにを言ってるんだ、ナミちゃん…。私はレイコに何も手出しなんてしてないよ…」
「へっ…、でも今10歳で娘さんを産んだって…。それってその…、ハールンさんがレイコさんにその…、そういうことしたってことでしょ…」
レイコが10歳で子供を産んだと聞いて驚いたナミはハールンの方を少し軽蔑の視線を送っていた。レイコが10歳で娘を産んだということは当然ハールンがレイコに迫ったということであり、ナミ達の世界の感覚でいえばもうそれは完全に犯罪と言える段階だったので当然のことだった。事実ナミだけでなくレイチェルやアイナもハールンの方をジトーッとした目で見ていた。男性陣は少し複雑な気持ちだったのか顔を下げて黙々と料理を食べていた。またこの話を聞いても猫魔族達とセイナも何の反応もせず食事に集中していた。だがハールンはレイコにそのようなことはしていないと言っていた。ナミがハールンの矛盾した言い訳に戸惑いを隠せないでいるとデビにゃんがナミに言葉を掛けはじめた。
「ナミ…、ここはゲームの世界。ナミが考えてるようなことしなくても子供は5歳になるまで登場せず、設定上5歳になったら勝手にNPCとして登場しているのにゃ。だからハールンはレイコに何もしてないし、子供産む痛みや苦しさもなく子育ての苦労もないのにゃ。因みに5歳になった時点でNPCは立派な労働力として働いてくれるにゃ。まぁ国が発展してくると平均12歳くらいまでは学校に通うようになると思うけどにゃ」
「えっ…」
「そういうこと。だから僕はレイコには何もしてないよ。そんなことする必要ないし、キスだってしたことないからね。君達の世界と違ってゲーム内で夫婦と設定されている以上愛情表現なんてしなくても絶対別れることなんてないし、相手を嫌だと感じることもないからね」
「ええぇ〜っ!」
デビにゃんとハールンの言葉を聞いてナミは自分の発言に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして小さく蹲ってしまった。流石にいくら現実に近い方がいいと言っても出産や子育てまで表現するとプレイヤーの精神的に重くなってしまうからだろう。電子現実世界では死の概念がなければ生の概念も薄く、NPCの行動がかなり現実に近いからといって必要以上に命を重く考えてしまうことを防ぐように設定されていたのかもしれない。それとも現実世界の生命体と比べると極めて命の重みの軽い電子生命体をどこまで現実世界の生命体と同じように扱えるかを試されているのかもしれない。
「あら、ナミちゃん。もしかして厭らしい想像してたの〜。もう〜、顔真っ赤にしちゃって〜、若いうちからそんな事ばかり考えてちゃ駄目よ」
「そうだぞナミ。私も若い時はやんちゃだったけどそういうことには堅かったからな。あんまり羽目をはずしすぎるんじゃねぇぞ」
「なっ、私は今まで羽目をはずしたことなんてないわよっ!。そういうレイチェルだってさっき軽蔑した目でハールンさんの方見て他じゃない。っていうかそんな事も気にならないなんてあんたの方こそ本当は学生の頃から援助交際とかしてたんじゃないのっ!」
「何だとっ!。私はこう見えても健全なヤンキーって近所のおばちゃんからからも評判だったんぞ。先生にだって怒られたこともないし、高校の時なんて皆勤賞まで取ったんだから」
「二人とも喧嘩はやめるにゃ…」
「………」
レイチェルにからかわれたナミはムキになってしまい喧嘩になってしまった。リディに止められてすぐに収まったのだが、その横ではアイナもナミと同じく顔を赤くして下を向いてしまっていた。どうやらアイナもナミと同じ想像をしてしまっていたようだ。
「もうっ、レイチェルのせいでつい熱くなっちゃったわ…。ちょっと水でも飲もうっと…“ズズズッ…”」
レイチェルと言い争ったことで体が熱くなってしまったナミは気持ちを落ち着けようと水を飲んでいた。その時ナミの向かい側の席に座っていたナギはちょうどスープを飲んでいるところだった。その時レイコが不意にナギとナミに対して衝撃の言葉を発するのだった…。
「あっ、そう言えばこういう話にかこつけるわけじゃないけど、ナギとナミちゃんの仲はどこまでいってるの」
“ブゥゥゥゥゥッ…!”
レイコの何気ない言葉にナギとナミは互いに飲んでいた水とスープを吹きだしてしまった。吹きだされた水とスープは空中でぶつかって周囲に跳ね飛んでしまった。
「わっ!、きったねぇな〜、てめぇら…。いきなりなんだよ、てか飯にもかかっちゃたじゃねぇか…」
「むっ…、ナギにナミ。これには流石の私も怒っているぞ。食べ物は粗末にするものではない」
「大丈夫よ、皆。こんなの監視プログラムを作ればすぐ綺麗にできるから。皆のこの料理への嫌悪感も全部リセットされるから安心して」
“プワァ〜〜ン…”
レイコがそう言うとナギとナミの吹きだした水とスープで汚れてしまった料理は一瞬にして綺麗になり、他の者達の汚れていた料理に対する感覚も全く感じられなくなっていた。これにより皆何も気にせず食事を続けることができた。
「お〜、本当だ。料理も綺麗になってるし、汚れたことへの違和感も完全になくなってるぞ。これなら再び食事を続けることができる。どれ、次は寿司でも頂こう。“ムシャムシャ…”むっ、これは確かに絶品ではないか」
「俺も全然に気にならないぞ。ここまで感覚を制御できるなんて凄いな。…っというかゲームの中で料理が汚れるなんてのも変な話だけどな」
「ちょ、ちょっとあんた達っ!。そんなことよりレイコさんの今言ったことを否定しなさいよっ!」
「そ、そうだよ。僕達はゲームで偶然会っただけだって自己紹介の時言ったじゃないか」
レイコにどの程度恋人関係が進んでいるのか聞かれて、ナギとナミは水とスープを吹きだしてしまうほど慌てていたのだが、他のプレイヤー達は全く関心を示さず料理が綺麗になったことで食事を再開していた。ナギとナミはレイコに対して必死に自分達の関係を否定しようとしたが、他のプレイヤー達は誰もレイコの言葉を否定しようとはしなかった。
「偶然会ったってお前…、そんなキャラ名付けておいて信じてるとでも思ってたのかよ。私達も初めから恋人同士だと思ってたけど、なんかはぐらかそうとしてたから別に気にせずにいたんだよ。皆もそうだよな」
「あ、ああ…。カップルでゲームをプレイしてるプレイヤーなんて大勢いるし、俺もそういう関係なんだと思っていたよ。でも隠したかったならどうしてそんな名前にしたんだ。それに一々恥ずかしがることでもないだろう。俺だって彼女がいる時は一緒にプレイしてたぜ。わざわざ恋人同士って分かるような名前は付けなかったけどな…」
どうやらカイルを除く他のプレイヤー達はナギとナミのことを恋人同士だと勘違いしていたようだ。ブリュンヒルデの時もそうだったが、普通この名前の男女のプレイヤー同士が一緒にプレイしていたら恋人同士だと思ってしまうだろう。自己紹介の時に偶然出会ったと言ったきり誰にも突っ込まれなかったからナギとナミも特に変な勘違いはされていないと思っていたのだろう。
「そうそう、レイチェルとヴィンスの言う通りよ。むしろ堂々としてて清々(すがすが)しいと思うわ。それにあなた達の年齢ならもう結婚しててもおかしくないんだからそんなに恥ずかしがることもないしょう。…っで、実際どこまでいってるの。まっ、もう20歳を超えてるだし、やることは全部済ませちゃってるか」
「な、何言ってるんですかぁぁぁぁぁっ!。そんな事全然済ませてないし、私とナギは全っ然そんな関係じゃありません。それに私は今まで恋人を作ったことなんて……あっ…!」
「ぼ、僕だってナミとはゲーム開始の時のロビーで偶然声を掛けられただけで、本当に今日初めて会っただけなんだよ。それに僕は今まで彼女ができたことなんか……って…あっ…!」
「………」
レイコの発言についムキになって言いかえしていたナギとナミだったが、何故か急に口を噤んで黙り込んでしまった。そして急に食卓の雰囲気が凍り付いてしまい、ナギとナミだけでなく他のプレイヤーやレイコ達NPCも沈黙してしまった。
「……あっ…、一応言っとくけどナギとナミが恋人同士じゃないっていうのは本当だよ。僕はナギと一緒にこのゲームを始めたし、その時ナミが話し掛けてきたのも見てるからね。それにナギはそんなことで嘘をついたりしないよ…」
「“モグモグッ…”。もっ、ぼぉのボデドぼべぇっこういげるな…“ゴクッ…”。表面はさくっと揚がってて中はホクホクだぞ。一本一本の太さも普通にファーストフードの倍ぐらいあるしな」
食卓の雰囲気が暗いムードに包まれるなか、カイルが恐る恐る先程のナギとナミの言葉を肯定する発言をした。だがそれはむしろ更に食卓の雰囲気を重いものしてしまい、ナギとナミの真っ赤になっていた顔をは一転して暗いものとなり、二人とも無表情で俯いてしまっていた。そんな中セイナだけはまだ気にせず食事を続けており、ピザ屋が運んできたポテトを一袋分丸々口に頬張って飲み込んでしまっていた。猫魔族やハールン達でさえ気まずさのあまり食事を取る手が止まっていたというのに…。
「カイル…、気付いてると思うけどそれはもうフォローにはなってないにゃ…。それにしても情けないないにゃ。ナミと恋愛関係出ないことは知ってたけど、僕のご主人様がこんなにも甲斐性なしだったとは思わなかったにゃ」
「ちょっと待ってよデビにゃんっ!。恋人がいないってことと甲斐性がないってことは関係ないじゃないかっ!。こう見えても僕は牧場の跡取り息子なんだよ。ちゃんと毎日父さんの仕事を手伝ってるし、そろそろ牧場の経営についても教えてくれるって言ってるんだから」
「へぇ〜、ナギの家って牧場経営してたのかよ。でもこの歳になって彼女の一人もできないなんて、経営者にしては肝っ玉が足りてないよな。一応社長ってことにもなるんだから逆に女をはべらしてるぐらいでないと器が小さいって思われるぜ。それにしてもナミも案外モテないんだな。元気良く振る舞うのもいいけど、女らしさを失っちゃいけないぜ。少しは私を見習うんだな」
「なっ…」
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇっ!。ちょっとそれどういう意味よ、レイチェルっ!」
レイチェルに馬鹿にされたナギは言い返そうとしたが、その瞬間ナミもレイチェルに怒りを露わにして怒鳴り散らし、後から割り込まれたにも関わらず勢いに押されてナギの言葉は遮られてしまった。
「どうって…、明るくしてるだけじゃ男は寄って来ないってことだよ。たまに女性らしくしおらしいところとか見せたりしとかないとな。お前、誰に対してもそんな大雑把な態度取ってるだろ」
「な、何よ…、それが私なんだから別にいいじゃない…。じゃああんたは彼氏もいるし、その彼氏の前では女らしいとこ見せてるわけ。例えばレイコさんみたいに料理作ったりとかさ」
「当たり前だろ、私を甘く見ちゃいけないぜ。ちゃんとめぼしい男は見つけて、もう結婚間近ってとこまでいってるしな。最近じゃあその人の家に入り浸りで、ほぼ毎日夕飯作りに行ってるしな。ハールンさん程じゃないけどお金持ちで優しい人で、私の為に家に高級VRダイビングベットだって買ってくれたんだぜ。今日は自分家のマンションからインしてるけどよ。まっ、もうすぐそのマンションとも職場の嫌味な上司ともおさらばできるってわけだ」
「そ、そうなんだ…。私も料理くらいしてみようかな。大学には実家から通ってて掃除も洗濯も全部親任せだし…」
威勢よくレイチェルに突っ込んでいったナミだったが、レイチェルにはもう結婚間近の恋人がいて、実家暮らしで親に頼りっきりのナミと違い自炊や掃除、洗濯なども全部自分でできると聞いて女として差を感じてしまい、逆に言い負かされたようになってすっかり落ち込んでしまった。それにしてもレイチェルにそのような一面があるとは驚きである。ヤンキーは誰に対しても好戦的な態度を取っていると思いがちだが、家族思いで自分の好きな人に対しては必死で尽くす人も多いようだ。暴力団ものの漫画でもよくヤクザの一員のそういった側面が描かれているが、一般人と違い常に戦いの場に身を置いているため仲間意識が人一倍強いのかもしれない。ナミ達が家族と喧嘩などしてもすぐに仲直りして終わりだが、不良グループや暴力団にとって仲間割れは自分達の組織を壊滅させる恐れがあるため命とりである。
「なんかごめんなさいね、ナミちゃん…。私が余計なこと聞いたせいで…」
「いえ…、いいんです…。落ち込んでる理由のほとんどは家で親に甘えてばかりの自分が情けなくなっちゃっただけなんで。レイコさんやレイチェルに言われたことは全然気にしてません」
「そうだよ。ナミのことより僕に言ったこと謝ってよ。僕達の世代の男は草食系が主流で、一人で黙々と自分の趣味に没頭する暮らしをしてる人が多いんだよ。僕の友達だってほとんど彼女なんていたことないし、カイルだってそうじゃないか」
「ちょっと、ナミのことなんかってどういうことよ。大体私はモテないわけじゃなくて相手を選んでるだけ。これまでだって5人くらいは告白されたことあるんだから。全部断っちゃったけど…」
「そのことなんだけど……、ごめん、ナギ。実はまだ話してなかったけどつい2週間程前に僕にも彼女出来たばかりなんだ」
「えっ…」
「ゲームとかほとんどしない子だからなかなかナギに紹介するタイミングがなくて…。僕達VRMMOの中で知り合ったから現実世界じゃほとんど会わないだろ。でも僕も付き合い始めたばっかりでキスもしてないからナギとほとんど変わらないから安心して」
「う、うん……」
カイルにも彼女がいると聞いてナミに続いて今度はナギが落ち込んでしまった。その落ち込みようは先程のナミよりも酷く、その様子を見たナミは態度を一変させてナギのことを嘲笑っていた。自分が言われたことへの腹いせの気持ちもあったのかもしれない。
「あ〜はっはっはっはっはっはっ!。何が草食系男子で趣味に没頭して暮らすのが好きよ。単に女子にモテないだけでしょ。その証拠にカイルにはちゃんと彼女ができてるじゃない。どうぜ告白もしたことなければされたこともないんでしょう。ふふふっ」
「ぐぅ…」
「どうやら図星みたいだな。お前本当に情けねぇなぁ。モテねぇならこっちから行きゃあいいのに」
「そうじゃぞ、ナギ。女の子は案外押しに弱いんじゃ。わしも若いころは女子口説くに夢中になった時期があってのぅ…。皆別れることになってしもうたが今ではいい思い出じゃ」
ナミだけでなくレイチェルにボンじぃにまでいいように言われてしまいナギはますます自信を無くしてしまった。ナギ達の世代は小食系男子が主流となっており、ナギのように20歳を超えても彼女がいないものがほとんどだった。彼氏がいない女性も増えていたのだが、それは男性がアプローチしてこなくなったためだと言われ世間から特に何も言われてなかった。ナギ達の世界ではもう大分前から男女平等という言葉が謳われているのだが、もしかしたらそのせいで逆に女性からのアプローチを待つ男性が増えてしまったのかもしれない。ナギとナミについてもナミの方からアプローチを掛けていった方が上手くいきそうな気もする。実際カイルも女性の方から声を掛けられたようだ。
「もうっ…、皆して僕のこと馬鹿にして。でもまさかカイルにまで彼女がいたなんて思わなかったな…。ボンじぃでさえ女性の扱いには慣れてるみたいだし、もしかしたら他の友達も実は彼女がいるけど隠してるだけなのかなぁ。なんか僕自分に自信が無くなってきちゃった…」
ボンじぃの言葉はむしろナギを励まそうとしたものだったが、ナギの気を更に落ち込ませることになってしまった。だが次の瞬間突如としてセイナが口を開き、その言葉によって皆は完全に言葉を失いまるで南極にでも放り出されたように凍り付いてしまうのだった…。
「“ムシャムシャ…、ゴックンッ…”ふぅ〜、そんなに気にすることはないぞ、ナギ。私も今年で25歳だが今まで彼氏などできたこともないし、ナギと同じように告白されたこともないぞ。いっそ私と付き合ってみるか」
「………っ!」
“カッチィーーーーーン…っ!”
セイナの言葉に体の底まで凍り付いてしまいそうになったナギ達だったが、レイコがこの話を振ってしまった責任を感じ何とか体を振るい立てて話題を変えようと言葉を発した。
「さぁ皆っ!。余計なこと話してないで食事を続けましょう。このままじゃあセイナちゃんに全部食べられちゃうわよ」
「お…おおっ…そうだな。レイコさんの言う通りだ。ったくセイナの奴食べすぎなんだよ。私の好きなもちピザがもう一枚しか残ってねぇじゃねぇか」
「本当にゃ。折角レイコさんが作ってくれた私の大好物の玉ねぎ抜きのナポリタンがもうこんなに減ってるにゃ。こんなこと話してないで早く食べないとにゃ」
レイコの言葉を切っ掛けに皆食事を再開し何とかこの話題の話を終わらせようとした。だがセイナは急に話題を変えられたことに違和感を感じ皆を問いただし始めた。
「うん?、皆どうしたのだ、急に話を逸らしはじめて。ナギも食べてばかりいないで先程の私の言葉に返事を返したらどうなのだ」
「え、ええっ…。返事って何のことだっけ。よく聞こえなかったから覚えてないや」
「私と付き合ってみないかということだ」
「そ、そんな…、セイナさんと突き合うっ!。ちょっと待ってよ、僕は魔物使いだよ。職業が剣士でプレイ技術もずば抜けてるセイナさんとじゃ相手にならないよ。そう言えばセイナさんは剣術は突きの方が得意なの。討伐の時はもの凄い斬撃を放っていたけど…」
ナギはセイナに先程の返事を迫られ咄嗟に聞き間違えた振りをして返事を誤魔化した。セイナほどの美少女に告白されれば普通は嬉しいはずだが、芸能人だけあってかなり特殊な感性の持ち主であったため皆近寄りがたさを感じてしまっていたようだ。セイナにアプローチを試みようとした芸能人の男もいたようだが、告白する前にセイナの感性についていけず挫折してしまったらしい。それにセイナの話し方はどんな時も変わりがないためナギにはこの告白が本気かどうなのかも分からなかった。
「むっ、むぅ…。今のははぐらされてしまったよりむしろ断られたように感じる…。つまりは私は振られてしまったということか。どうだナミ、レイチェル、私もナギと同じく今まで恋人がいなかった上そのナギに振られてしまったぞ。先程のように私を嘲笑ったりはしないのか」
「な、なに言ってるのよ。告白ってこんな大勢の前でするものじゃないでしょう。こんなの振られたうちに入んないんわよ」
「そうそう。それにお前は芸能人なんだから彼氏がいなくて当然なんだよ。ほらっ、よくテレビお前と同じ芸能人が恋人とのスキャンダルを撮られてバッシングされてるだろう。それにお前のファンの皆も悲しんじまう。だからお前は彼氏なんていない方がいいんだよ」
「そうよ、セイナちゃん。セイナちゃん程凄いオーラを持った人は私達みたいに一々恋愛なんて俗なこと気にしなくていいの。セイナちゃんは仕事で忙しいんだから、結婚する時以外は恋愛なんてしなくていいのよ。一般人は恋愛は楽しいなんて言ってるけど、結婚までいかなければ悲しい思い出になっちゃうことの方が多いしね」
レイコはゲームの中のキャラクターな上、自分は十歳の時に結婚して恋愛の経験などなかったはずなのにまるで現実世界の恋愛経験豊富な美しい熟女のようなアドバイスをセイナにしていた。だが折角のアドバイスがセイナの特殊な感性によってまたしてもとんでもない言葉が出て来てしまうのだった。
「おおっ、そうだったのか。ならば今すぐ結婚しようではないか、ナギ」
「“ブゥゥゥゥーーーーーっ!”……ケホッ、ケホッ…」
なんと今度はセイナがナギに対してプロポーズをしてしまった。驚いたナギは食べていたパスタをむせて吹き出し鼻からパスタが突き出てしまっていた。
「わ、私がまた余計なこと言ったのが悪かったわ。セイナちゃん、もうこの話はいいから食事に集中しましょう。セイナちゃん程の美少女は自分から告白しちゃいけなくて告白されるのを待ってなきゃいけないの。だからもう誰にもプロポーズなんてしちゃ駄目よ」
「むっ…、なるほど。ではナギ、私はいつでも待っているからいつでもプロポーズしてきてくれ」
「“ブフッ!”」
セイナの更なる追い討ちの言葉にナギはまたしても吹きだしてしまった。だがそのおかげで鼻に詰まっていたパスタも無事外に出てくれたようで、鼻からも息ができるようになり息苦しさもすっきりしたようだ。
「むむっ、セイナや。ナギばかりえこひいきしてずるいぞい。わしだってプロポーズしたいわい。じじぃじゃからって差別しちゃいかんぞ」
「当然だ。ボンじぃだけでなくヴィンスにカイル、それにデビにゃんやトララにアット、ハールンさんもいつでもプロポーズしてくれて構わないぞ」
「おいおい、それじゃあ僕が不倫してることになっちゃうだろ。こういうのは一々告白なんてしないで自然と互いが引かれ合うのを待ってればいいんだ。だからセイナちゃんもそんなにがっついたこといってないで心に余裕を持って構えてなさい。でないと折角相性のいい人と巡り合えても手放すことになっちゃうよ」
「なるほど…、ハールンさんの言う通りだな。では私も彼氏がいないことなど気にせずにのびのびと生きていこう」
「ナイスよ、あなた」
「ほっ…」
ボンじぃが上手くセイナの気をナギから逸らし、更にハールンが上手くセイナを諭して何とかこの話題から脱出することができた。ナギもセイナの気持ちが本気でないことを悟り、安堵感からか小さくため息をつき落ち着きを取り戻していた。他の者達も重圧から解放されるように肩の荷をおろすようにそっと全身の力を抜いてため息をついていた。
“バタンッ…、ダ、ダ、ダ、ダ、ダッ…”
「あっ、ちょうど良かったわ。どうやら娘が下りてきたみたい。さっきも言ったけど少し人見知りなところがあるけど皆仲良くしてあげてね」
無事セイナの気を逸らし皆が落ち着きを取り戻した頃、扉の向こうからドアが閉まる音と誰かが階段を下りてくる音が聞こえてきた。恐らくレイコの娘だろうが、これは一気に場の空気を変えるチャンスだと思いレイコは皆の注目を自分の娘に合わせようとした。
“コンコンッ…”
「あっ、リアでしょ。いいわよ、遠慮せず入ってらっしゃい」
“ガチャ…”
「失礼します…」
「おお〜…」
レイコの娘のリアは自分の家だというのにわざわざノックをして入ってきた。客人が来ているの当然と言えば当然かもしれないが割とできない者も多いはずだ。貴族の住むような豪邸に住んでいるだけあってマナーもしっかりしているようだ。そしてリアの姿を見たナギ達はその可憐な容姿に驚きの声を上げていた。
「紹介するわ。私の娘のリアよ。さっ、リア、あなたの方からも皆に自己紹介しなさい」
今食卓へと入って来たのがレイコの娘のリア・コールマンである。ナギ達の反応を見て分かるようにかなりの別嬪と言える女性だった。別品とは元々普通とは違う品物や、特別上等な品物など本来品物に対して使う言葉だったが、時代が進むともに女性の容姿を表すようにもなり、それに伴って高貴な女性を意味する“嬪”という漢字が当てられ、別嬪と言われることとなった。リアはまさにその“嬪”という字が表すような気品ある女性であり、レイコとは違い本当に貴族であるかのような風格を具えていた。髪の毛はナギやナミと同じく赤色をしていたが、少し色が濃く紅色と言えるような真っ赤な赤色だった。髪の長さはレイコと同じくショート呼べるぐらいの短さだったが、レイコのように逆立ってはおらず綺麗に整えられている感じだった。服装もレイコと同じく貴族の女性のようで、髪の色と同じく綺麗な赤色をしていてまるで全身がバラの花びらに包まれている印象を与えていた。親子と言うだけあって、姿はどことなく似ていたのだが、眼光の鋭さが決定的に違い親しみやすいレイコとは正反対に、周りを拒絶するような関わりずらい威圧感を醸し出していた。
「レイコの娘のリア・コールマンです。よろしく……っで母さん、私はその母さんの隣の席に着けばいいの」
「えっ…ええっ!。そ、そうだけど、自己紹介ってそれだけ…。もっと他に話すことあるでしょう。ほら、あなた父さんと同じで本書いてるでしょう。この前書いた魔術書なんか見せてあげたらどう。プレイヤーの人達だったらきっと興味を持ってくれるわよ。何だったら一冊差し上げたらどう」
“ガガッ…”
「いいわよ、別に。今見せたところで使いこなせるプレイヤーなんていないだろうし。それに私はただのNPC。別にプレイヤーの人と仲良くする必要なんてないでしょう」
リアは自分の名前を話しただけで自己紹介を終わらせるとさっさと自分の席に着こうとした。レイコが他にも紹介できることがあるだろうと促していたが、あっさりと退けてしまい自分の席の椅子を引くと全く周囲に興味を示さずに席に着いてしまった。更にはあからさまにプレイヤーを拒否るような言葉を発しナギ達を騒然とさせていた。
「おいおい…、人見知りとは聞いてたけどちょっと酷すぎるんじゃねぇか」
「レ、レイチェル…、NPCからしたらプレイヤーは完全な部外者何だから毛嫌いされて当然だよ。それよりリアさんだっけ、今度はこっちが自己紹介するね。まず僕から…」
「そんなのしなくていいわよ。私と母さんは記憶の共有範囲がかなり近いからもう全員の名前と職業も知ってるし、そもそもプレイヤーの人のことなんて興味ないから聞く価値ないわ」
「なっ…、何なんだこのガキっ…。ズバズバと失礼なことばっか言いやがって。今すぐ叩き斬ってやりたいぐらいだぜ…」
「本当よ。ちょっと可愛らしいって思ったけど、性格がこれじゃあ最悪よ。とてもレイコさんの娘さんだなんて思えないわ」
リアのプレイヤーに対する態度は更に悪くなっていき、自ら自己紹介をしようとしたナギの言葉を途中で遮ってしまい、まるでプレイヤーのことを見下したような発言をしてしまった。
「ご、ごめんなさいね、レイチェル。ちょっとリア、いくらなんでも失礼なんじゃない。いつものあなたらしくないわよ。普段ならどんな人が相手でも決して礼儀だけは失わないはずなのに…」
「ふんっ…、プレイヤーになんて礼儀を気にする必要ないわ。どうせ向こうだってNPCのことなんて単なるプログラムとしか思ってないだろうし、こっちだってプレイヤーのことなんて下品でモラルのない生命体としか思ってないから……“パクッ…、モグモグッ…っ!”このお寿司美味しいわね。この近くの川で霊水魚なんて獲れたんだ」
「おいっ!、てめぇその寿司は私達の無料券で買った寿司だぞ。その出前を食うんだったら私達にそんな口聞いてないでお礼の一つでも言ったらどうなんだ」
「そうにゃんっ!。その魚は今日僕とヴィンスが一生懸命働いて獲ったものにゃん。いくら同じNPCでもヴィンス達のこと悪く言うのは許さないのにゃんっ!」
「おい、アット…、俺は別に構わないよ。それに今までNPCが俺達に都合のいいように接してくれてたのがおかしかったんだ。見ず知らずの相手と急に食事をすることになって毛嫌いするなって言うほうが無理だよ」
リアのあまりに横暴な態度にレイチェル達プレイヤーだけでなく、同じNPCであるアット達猫魔族も怒りを露わにし始めた。食卓の雰囲気は一気に一触即発のムードへと一転してしまったが、それにもかかわらずリアのプレイヤーに対する横暴な態度は止まらなかった。
「そう…、じゃあこのこと関してはお礼を言っておくわ。“美味しいお寿司を食べさせてくれてありがとうございます、プレイヤー様。これからも私達NPCの為にどうかお恵みを下さるようお願い致します”。はい、これでいいんでしょ」
「てめぇ…、いい加減にしとけよ。言っとくが私はNPCだろうが容赦なく叩っ斬るぜ…っ!」
「別に構わないけど…、一応気を付けた方がいいわよ。私のレベルはもう300を超えてるから」
「さっ、300だとぉぉぉぉっ!」
「気にしないで、レイチェル。大抵のNPCは初期の内はプレイヤーのレベルより大分高く設定されてるわ。でも成長速度はプレイヤー達の方が段違いだからすぐに追いつけると思うわ。だから安心して」
「私はあんたなんかに追いつかれるつもりはないけどね」
リアの挑戦的な態度に頭に血が上てしまっているレイチェルをレイコが必死になだめようとしたが、そんな事まるで関係ないかのようにリアはレイチェルを挑発し続けた。だが流石のレイコも我慢の限界が来たのかリアに対して高圧的な態度を取り始めた。
「ちょっとリア、いい加減にして。いくらなんでも言い過ぎよ。これ以上悪態をつくと母さん本気で怒るわよ」
「……分かったわよ…。確かに言い過ぎだったわ。ごめんなさい、レイチェルさん、それに他のプレイヤーの方々」
母であるレイコにはあまり反抗できないのかリアは急に大人しくなりレイチェルやナギ達に対して謝罪した。どうやら自分で少し言い過ぎてる自覚があったようだが、余程プレイヤーのことが嫌いだったのか自分を抑えることができなかったようだ。
「ごめんなさいね、皆。本人も反省してるみたいだから許してもらえないかしら」
「い、いや、私も少し言い過ぎたよ。NPCだからって少し下に見てたのも本当だしよ…」
「私も…。プレイヤーのことが嫌いなNPCがいても不思議じゃないもんね。NPCと仲良くなるのもゲームの一環だけど、このゲームは電子現実世界って言われてるし私達と同じ命のある人間だと思って接して見せるわ。そしたらリアちゃんで仲良くなってくれるでしょう」
「………」
「良かったわね、リア。皆許してくれるって。それにナミちゃんも仲良くしてくれるって言ってるんだから、いつまでも意地張ってないでプレイヤーの人と仲良くしなきゃ駄目よ。本当はプレイヤーの人が羨ましいだけなんでしょ」
「うるさいわねっ!。謝ったんだからもういいでしょ。早く食事を再開しましょう」
明らかに自分の方に非があったのに、ナミとレイチェルの方もリアに対して謝ってきた。リアは自分ばかりが悪ぶっていたように感じ口を噤んでしまった。ナギ達が自分の思っているようなプレイヤー達と違うかったことに戸惑ってしまったようだ。普通のプレイヤーならばもうNPCに攻撃を仕掛けて来ていても不思議ではないだろう。プレイヤーから自国NPCへの攻撃は禁止されているのでダメージを与えることもできず、無理やり抑えつけようとしてもセキュリティによってリアの能力が上昇して返り討ちにあうのが関の山だろうが。何にせよリアの悪態も収まったようで、皆食事を再開することができた。
「“モグモグッ…”ふぅ〜、流石に頼みすぎちゃったわね〜。もうお腹いっぱいだわ」
「僕ももうお腹一杯。デビにゃんはどう?、もう満足した」
「ぼ、僕は食べ過ぎて少ししんどくなっちゃたにゃ…。あっ、そう言えばナギ。僕があげた卵レイコさんに見せてみたらどうにゃ。この世界の牧場主は魔物の世話もすることもあるから何か知ってるかもしれないにゃ」
「あっ、そうだね。ちょっと見てもらおうか」
「うん?、どうしたの、ナギ」
食事も一段落して皆少し落ち着ている時に、ナギはデビにゃんに貰った魔物の卵についてレイコに聞いてみようと思い、アイテム袋から卵を取り出すてレイコに渡した。
「……これは、ごめんなさい。ちょっと見たことない卵だわ。形状や色合いを見るに多分鳥類やドラゴンなんかの空を飛ぶ魔物の卵であることは間違いないと思うんだけど…。はい」
「そっか〜…、じゃあ卵が孵化するの待つしかないか〜。ありがとう、レイアさん」
結局レイコにも何の魔物の卵かは分からずそのままナギに返し、卵は再びアイテム袋へとしまわれようとしていた。
「……ちょっと待って。私…、その卵なら父さんの書庫で見たことあるかも…。確か魔物の卵大百科って本だったと思うんだけど、父さんなら分かるんじゃないの」
「えっ…、私は本を集めてるだけでほとんど読まないからちょっと分からないな…」
「もうっ、頼りないんだから…。ちょっと待ってて、私ちょっと探してくる」
「えっ…。あっ、じゃあ僕も着いて行くよ」
ナギが卵をしまおうとした時急にリアが声を上げ、本で見たことがあると言うと部屋を飛び出して書庫の方へと走って行ってしまった。それを見たナギも自分の卵もあった方が見つけやすいと思い卵を抱えてリアの後を追って行った。
「……おい、二人とも行っちまったぞ。いいのかよ、ナミ」
「な、なんで私にそんなこと聞くのよ」
「何って…、男と女が書庫で本探しって、またとないシチュエーションじゃねぇか。ナギの奴NPCにはモテるみたいだし、案外リアみたいにプレイヤーのこと毛嫌いしてる奴に限ってナギのこと好きになっちゃったりするんじゃねぇか」
「そ、そんなの私には関係ないわよ。さっきも言ったけど、私とナギは別に何でもないんだから…」
「ナミちゃん、一応言っとくけどこのゲームの世界でもNPCと結婚できるイベントもあるからね。あくまでゲームの中での話だけど、もしかしたらナギのこと取られちゃうかもよ。まっ、私としてはナギが息子になるんだったら大歓迎なんだけどね」
「わ、私…、やっぱりちょっと見てくる。勘違いしないでよ、私はナギがリアちゃんに変なことしないか心配で見に行くんだから」
“バタンッ…、ダダダダダダッ…”
「行っちまったな…」
「本当…、でも残念ね。ナギだったらリアの気も引けるかと思ってたんだけど…、流石にナミちゃんがいたんじゃ無理か…」
「(ど、どうしよう…、私も見に行きたいけどそんな勇気ないよ。今はナミさんに頑張ってもらおうっと…)」
レイコに意味深な言葉を言われるとナミもナギ達の後を追い部屋を出ていってしまった。このゲームにはNPCにセキュリティーが施されているので、ナギがリアに手を出すことは不可能なのだが、やはりナミはナギのことが気になるらしい。そして密かにアイナもナギのことが気になっているようだった。レイコはできればナギとリアに結ばれてほしいようだが一体どうなるのだろうか…。




