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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十五章 リベンジっ!、川底の遺跡の探索
143/144

finding of a nation 140話

 “ゴゴゴゴゴゴォッ”


 「……っ!、な、何なの……この揺れはっ!。まさかゲームの中だっていうのに地震っ!。……まぁ、このゲームだったら別に不思議じゃないことかもしれないけど……」

 「危ないっ!、ナミっ!」

 「……っ!」


 “グオォォォォッ!”

 “パアァァ〜〜ン”

 “……っ!、グオォォッ……”


 「な、何……っ!。今度は急に体が変な泡に包まれて……おまけにその泡が敵の攻撃を不正じゃったわ。もう一体何がどうなってるいうのっ!」


 ナギ達をラディの元へと送り届ける為にラディの壁画にある間に残ったナミやセイナ達であったが、以前として追手のサメ達を食い止めるべく奮闘していた。倒しても倒してもすぐ次の追手が増援に来るので切りがなかったようだ。しかしちょうどナギ達がラディをネイションズ・モンスターとして仲間にした頃ナミ達のいる間でも建物が大きく揺れそれと同時に崩壊が始まり驚いたナミ達は思わず交戦する手を止めてしまった。その時ホオジロザメのモンスターの一体が動きの止まったナミの隙を突いて襲い掛かって来たのだが、ナミへと噛み付こうとした瞬間ナミの体の周りにラディの元にいたナギ達と同じく泡のバリアが出現して攻撃を防ぎ、敵を弾き飛ばしてしまった。助かったとはいえ突然の出来事に困惑するナミであったがその泡のバリアはセイナ達他のメンバー全員の元にも発生しており……。


 “ゴゴゴゴゴゴォッ……ズドォォォーーーンッ!”


 「……っ!、な、何事だっ!」


 “ラディィィーーーッ!”


 「……っ!、な、何なのあの馬鹿デカイ生き物は……っ!。もしかしてあれが……」


 突然の建物の崩壊と自分達の元に発生した泡のバリアに困惑するナミ達であったが、その直後このフロアの床が崩れ始めたと思うとこの下の階の天井を突き破って進んで来たラディが姿を現した。急に現れた謎の巨大な生物に皆驚きを隠せずにいたが、ナミはその生物がラディであることを察したようであった。


 「うわぁぁぁぁーーーっ!」

 「きゃぁぁぁーーーっ!、だ、誰か助けてぇぇぇーーーっ!」

 「あららぁ〜、天井を突き破っちゃうなんてラディちゃんは豪快ねぇ〜。でもこれならあっという間に皆の元に辿り着けそうだわ〜」

 「ナ、ナギっ!、それにアメリーにハイレインさんもっ!。それじゃあやっぱりあれが……」

 「はいっ!、あの子がラディですっ!、ナミさんっ!。ナギさん達の思いに応えて無事ネイションズ・モンスターとなってくれましたっ!」

 「パンナさんっ!。そ……それは良かったけどちょっと今の状況がどうなってるのかよく分かんないだけど……」

 「このままラディと一緒に一気に地上まで出ますっ!。皆さんはそのバリアの中にいれば大丈夫ですので心配なさらないでくださいっ!」

 「い、一気に地上までそれって今みたいに建物を突き破っていくってことぉっ!。そんなの心配するなって言わ……」


 “ラディィィーーーッ!”

 “ゴゴゴゴゴゴォッ!”


 「きゃあぁぁぁーーーーっ!」


 こうしてナミ達もラディ達と合流し共に地上へと向かって行った。これで後は地上に出てシャドー・シャークドラゴンを倒すのみだが果たしてリア達はまだ無事でいるのだろうか。ゲームの中とはいえ崩れゆく建物の中を進むのは流石にスリリングな体験だったようでナギ達は皆悲鳴をあげずにはいられなかったようだったが……。






 

 “グオォォォォッ!”


 「にゃあぁぁぁーーーーっ!、もうこんな恐怖に耐えられないにゃぁぁぁーーーっ!。これならもういっそ食べられて楽になった方がいいぐらいだにゃぁぁぁーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ!”


 「もうぉーーっ!、またそんな泣き言ばかり言ってっ!。もうすぐナギ達がラディアケトゥスを連れて戻って来てるはずだからもうちょっとだけ頑張ってっ!、デビにゃんっ!、シャインっ!」

 「にゃあぁぁぁーーーーっ!、さっきからもうちょっとって一体何度目だにゃぁぁぁーーーっ!。ナギ達のことを信じてないわけじゃないけど流石にもうそろそろ僕達も限界にゃぁぁぁーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ!”


 「ぐっ……確かに私の魔力もそろそろ限界だわ……。これじゃあそう長くはサイクロン・ターボの魔法も維持できない……」

 「にゃあぁぁぁーーーーっ!。この状況でシルフィーの魔法が切れちたら絶対あいつに追い付かれちゃうにゃぁぁぁーーーーっ!。どうにか持ち堪えられないのかにゃぁぁぁーーーっ!」

 「無茶言わないでっ!。私だってあなた達の為にずっと魔力を振り絞って魔法を維持して来たのよっ!。……こうなったらもう覚悟を決めるしかないわね。だけどリアやアイナ達の為にできる限りあいつから逃げ回ってやりましょうっ!」

 「そ、それは勿論だけどやっぱり食べられるのは嫌にゃぁぁぁーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ!”


 ナミ達と合流したラディとナギ達が建物を突き破りながら進んでいる頃、地上ではデビにゃん達がリア達に危険が及ぶのを防ぐべく未だにシャドー・シャークドラゴンの囮となって逃げ回っていた。しかし今の話しぶりからするとどうやらこれ以上逃げ回っているにもそろそろ限界に来ていたようだ。リスポーン・ホストの相手をしているリア達ももう2割以上の戦力が戦闘不能の状態まで追いやられており、ここでシャドー・シャークドラゴンの魔の手を向かわせる為にはいかないことはデビにゃん達は重々承知の上で最後まで全力で逃げ切る覚悟ではあったのだが……。


 “グオォッ……”


 「……っ!、な、なんにゃ……。なんか急にシャインが遅くなったようにゃ……もう魔法の効果が切れちゃったのかにゃ、シルフィー」


 “グオグオッ!”


 「えっ……そ、そんなはずは……。あともうちょっとは持つはずだけどこれはシャインのスピードが落ちたというより何かに引き寄せられているような……っ!。あ、あれは……っ!」

 「にゃあぁ……?。……っ!、にゃあぁぁぁーーーーっ!、なんにゃぁぁーーーっ!、あれはぁーーっ!」


 懸命にシャドー・シャークドラゴンから逃げようとするデビにゃん達であったが突如デビにゃんを乗せて飛ぶシャインの速度が遅くなったように感じられた。デビにゃんはもうシルフィーの魔法の効果が切れたのではないかと思ったようだがそうではなく、驚いた表情のシルフィーにつられてデビにゃんが後ろを振り向くとそこにはまるでスクリューのように体を回転させ周囲に強烈な水流を巻き起こしながら追ってくるシャドー・シャークドラゴンの姿があった。どうやらその水流に巻き込まれシャインの飛ぶ速度が低下してしまっていたようだ。巨大な円を描いて回るシャドー・シャークドラゴンの翼はまるでスクリューの刃のようでこのまま水流に引き寄せられていけばデビにゃんが心配していたようにシャドー・シャークドラゴンの食事の餌となってしまう前に体を粉々に引き裂かされてしまいそうであった。どうやらこれはスクリュー・ダイブという技のようだが果たしてデビにゃん達はこの攻撃を凌ぎ切ることができるのだろうか。


 「にゃあぁぁぁーーーーっ!、このままじゃこっちからあいつのところまで引きずり込まれてしまうにゃぁぁーーっ!。もっと気合を入れて飛ぶのにゃぁぁぁーーっ!、シャインーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ!”

 

 「……駄目だわ。いくらシャインでもこのままじゃあいつを振り切ることは……」


 なんとか踏ん張るようデビにゃんに促され懸命に飛ぶシャインであったがその頑張りも虚しく段々とシャドー・シャークドラゴンの引き寄せられていってしまっていた。更にはシャドー・シャークドラゴンの側の速度も上昇していた為もう振り切ることは不可能と思えたのだが、シャドー・シャークドラゴンへと引きずり込まれていくデビにゃん達を見てシルフィーは神妙な面持ちで何か重大な決心をしようとしているようであった。


 「にゃあぁぁぁーーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ!”


 「くっ……こうなったら私の最後の魔力を使ってあなた達だけでもここから脱出させるわっ!。あなた達の戦いを最後まで見届けられないのは残念だけどアイナ達のこと頼んだわよ……。なんとしてもナギ達が戻ってくるまであいつから逃げ切ってよねっ!」

 「にゃあっ!、シ、シルフィー……っ!」

 

 “グ……グオッ!”


 「……ウィンド・リムーブっ!」


 “ヒュイィィィィィィンッ!”


 「にゃあぁぁぁーーーーっ!、シルフィィィーーーッ!」

 

 “グオォォ〜〜ンッ!”


 迫り来るシャドー・シャークドラゴンを前にシルフィーはデビにゃんとシャインだけでも逃がすべくウィンド・リムーブの魔法を発動させた。ウィンド・リムーブの風に乗りデビにゃん達はどうにか水流から脱出して敵のスクリュー・ダイブの軌道から逃れることができた。だが魔法を発動させたシルフィー自身はその場にとどまってしまうことになり……。


 “ズドォォォーーーンッ!”


 「シ……シルフィィィーーーッ!」


 敵を巻き込む水流を起こし自身の速度を更に上昇させて敵に強襲することのできるスクリュー・ダイブだが、一度使用してしまえば途中で動きを止めることができずまた軌道の変更も難しいという欠点があった。その為シャドー・シャークドラゴンはデビにゃん達が離脱したことに気が付きつつもそのままその先にあった壁と激突するしかなかった。その激突と共に周囲に凄まじい衝撃を巻き起こし下で戦っていたリア達も何事かと注意を向けたのだが……。


 「……っ!。な、何なの……っ!、今の衝撃はっ!」

 「な、なんかあのデカイ鮫が壁に激突したみたいだよ……リアちゃん。なんでそうなったのか私もよく分かんないけど……」

 「壁に激突っ!。それでデビにゃん達は無事なのっ!、レミィっ!」

 「ご、ごめん……それも私もちゃんと見てないからそれもどうなった分かんない……」

 「……っ!、シ、シルフィー……っ!」

 「……っ!、どうしたの、アイナ?」

 「そ、それが……どうやらシルフィーのHPが尽きてしまったようで……」

 「……っ!、なんですってっ!。それじゃあまさかデビにゃん達も……っ!」

 

 壁に激突したシャドー・シャークドラゴンを見てデビにゃん達の身を案じるリア達であったが、アイナが言うにはどうやら既にシルフィーのHPが0となってしまっていたようだ。恐らくシルフィーを召喚した本人である為知ることができたのだろうがシルフィーがやられたと聞きリア達は不安になりデビにゃん達の身がどうなったのか確認しようと必死に辺りを見回していた。直前でシルフィーのウィンド・リムーブによりダメージのある範囲からは離脱することができたはずだが……。


 「にゃ……にゃあ……大丈夫かにゃぁ……シャイン」


 “グオォッ……”


 「……っ!、デビにゃん、シャイン……良かった、無事だったのね」


 やはりデビにゃんとシャインは無事だったようだ。その姿を確認できたおかげでリア達もホッとしたようだが、やはりそこにシルフィーの姿はなく、アイナの言う通りすでに力尽き精霊である為蘇生を受け付ける時間も用意されておらずこの場から姿を消してしまったようだ。これでもうデビにゃんとシャインはシルフィーのサポートを受けることができず、そしてシャドー・シャークドラゴンも壁に激突した衝撃から復帰してくるのだった。


 “グオォォォォッ……”


 「にゃ……にゃあ……こうなったらシルフィー抜きで逃げられるだけ頑張るしかないにゃ、シャイン」


 “グ……グオォッ……”

 

 「よし……それじゃあ早くまた逃げ……ってにゃあ?」


 “グオォォォォッ……”


 「あ、あれ……なんかこっちに向かって来る気配がないにゃ……。さっきの激突で頭を打って脳震盪のうしんとうでも起こしちゃったのかにゃ……」


 “グオォッ……”

 “グオォォォォッ!”


 「……っ!、にゃ……にゃあっ!」


 “……っ!、グオォッ!”

 “グオォォォォッ!”


 「にゃあぁぁぁーーーーっ!、あいつもう僕達のこと追わずにリア達の方を狙ってるにゃぁぁぁーーーっ!」

 「……っ!、まずいわっ!。皆攻撃に備えてっ!」

 「えっ……」


 “グオォォォォッ!”

 “バアァァァァァァァンッ!”


 「きゃあぁぁーーーーっ!」


 激突の衝撃から立ち直ったシャドー・シャークドラゴンだが、なんとデビにゃん達を追うのを止め地上にいるリア達へと攻撃の標的を向けロア・ストリームを撃ち放ったのだった。確かに初めからデビにゃん達を追うメリットは全くなかったのだが、頭を打ったことで逆に冷静さを取り戻したとでもいうのだろうか。そしてシャドー・シャークドラゴンの巨大な口から放たれるロア・ストリームはグレートホワイト・シャークノイド達の放つものとは比べ物にならい程凄まじい威力と範囲で地上で戦っていた多くのプレイヤー達を巻き込み粉砕してしまった。辛うじて体力の残った者達も衝撃で体勢を崩してしまっている隙に周りのサメ達の襲撃を受けリア達はまさに壊滅的な打撃を受けてしまったと言っても過言ではなかったのだが、そこに追い打ちを掛けるようにシャドー・シャークドラゴンは再びリア達に向けてロア・ストリームを撃ち放とうとしていた。


 “グオォォォォッ……”


 「にゃぁぁぁーーーっ!、このままじゃあリア達が全滅してしまうにゃぁぁーーーっ!。折角シルフィーが僕達を逃がしてくれたのにこれじゃあ申し訳がなくなってしまうにゃぁぁーーーっ!。こうなったら僕達であいつを止めるしかないにゃぁぁーーっ!、シャインーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ!”

 

 再びリア達に攻撃を仕掛けようとするシャドー・シャークドラゴンを止めるべくデビにゃんとシャインは返り討ちに合うことを承知で立ち向かって行った。だがシャドー・シャークドラゴンとデビにゃん達の戦力差では攻撃を止めることすら容易ではなくこのままではほぼ間違いなくリア達に追撃のロア・ストリームが撃ち放たれることなるだろう。そうなると如何にリア達といえど全滅は必至の状況となってしまうが……。


 “ゴゴゴゴゴゴォッ……”


 「……っ!、な、なんにゃ……っ!」


 “グオォ……ッ!”

 

 「……っ!、な、何なの……この揺れは……っ!」


 “……っ!”


 シャドー・シャークドラゴンの追撃のロア・ストリームがリア達に迎えて撃ち放たれようとしている時、突如として今リア達のいるこの一面砂浜に覆われた空間全体が大きく揺れ始めた。突然の出来事に動揺して動きを止めるリア達であったがそれはシャドー・シャークドラゴンも同様だったようで寸でのところで撃ち放たれようとしていたロア・ストリームを止めることとなった。リア達にとっては幸いなことであるがこの揺れは一体……。


 “ゴゴゴゴゴゴォッ……”

 “ラディィィーーーンッ!”


 「……っ!、あ、あれは……っ!」

 

 空間が揺れ始めリア達が何事かと思った直後突如ナギ達が突入した中央のピラミッドの建物が崩れ落ち、なんとそこから全身を白い毛皮に覆われた巨大な生物と不思議な泡の中に身を包まれたナギ達が姿を現した。巨大な生物とはまさに建物の最下層からここまで天井を突き破って出て来たラディだったのだが、その衝撃的な登場にリア達は思わず言葉を失いその場に立ち尽くしてしまっていた。そしてそれはシャドー・シャークドラゴンや配下のモンスターも同じだったようで、この場にいる全員がラディへの注目を余儀なくされてしまっていた。建物の崩壊と共に突然姿を現したラディを見てリア達ももしやと思っていたようだが、共に出て来たナギ達の姿を見てそれは確信へと変わったようだ。


 「うわぁ〜……本当に地上まで建物を突き破って出て来ちゃったよ〜。やっぱりラディには凄いパワーがあるみたいだね」

 「そうね……。でもそれよりもリア達はっ!。皆はまだ無事でいるのっ!」

 「ナミっ!、皆ぁっ!」

 「……っ!、リアっ!。良かった、無事だったのねっ!」

 「いや……地上の様子をよく見てみろ、ナミ。リアは無事でも他の者達はそうではない」

 「……っ!、こ、これは……っ!」


 リアの無事を確認できて喜びを露わにするナミであったが、セイナに言われもう一度地上の様子をよく見回してみるとその表情は一変した。そこには先程のシャドー・シャークドラゴンのロア・ストリームを受け戦闘不能となり倒れてしまった数多の仲間達の姿があったのだ。自分達の到着が遅れたせいだと自分自身へ憤るナギ達であったが、これ以上の被害を食い止める為にも逸早くラディと共にシャドー・シャークドラゴンを打倒さなければならない。


 「う、嘘……っ!。カイルや不仲さんっ!、それに塵童さんやマーリスさんまで皆やられちゃってるよっ!。それじゃあもうやっぱりデビにゃんとシャインも……」

 「にゃぁぁぁーーーっ!、ナギぃぃーーーっ!」


 “グオォォ〜〜ンッ♪”


 自身の仲間モンスターで姿の見えないデビにゃんとシャインの身を案じるナギであったがすぐ後ろから二人の声が聞こえ元気な姿でこちらへと駆け寄って来た。二人の無事を喜びつつもナギ達は逸早く地上の状況を確認しようと二人に問い質すのだったが……。


 「……っ!、デビにゃんっ!、シャインっ!。良かったっ!、2人共無事だったんだねっ!」

 「うん……まぁ……シルフィーのおかげでなんとかにゃ……。それよりナギ、もしかしてあの白くて大きい奴が……」

 「うんっ!、あれがこの神殿に封印されていたネイションズ・モンスター……ラディアケトゥスのラディだよ。仲間になって貰えるか不安だったけどこうして僕達ヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとなって一気に僕達をここへ連れて出てくれたんだ」

 「うおぉぉーーーっ!、流石はナギ達にゃぁぁぁーーーっ!。あとちょっとで僕達皆あいつに全滅させられちゃうところだったにゃっ!」

 「皆頑張ってくれてたのに遅くなっちゃってごめんね……。僕達がもっと早くに戻って来ていれば他の皆もやられずに済んだかもしれないのに……。でも二人はよく無事だったね。僕達が建物に突入する為にあいつの囮を引き受けてくれた上に他の皆までやられてたからてっきり僕はもう……」

 「それが僕達もついさっきあいつにやられそうになったんだけど寸でのところでシルフィーが自分の身を犠牲にして僕達を救ってくれたのにゃ……。それでシルフィーの思いに報いる為にももっとあいつの囮になって逃げ回ってリア達に攻撃の手がいかないようにしようとしてたんだけどあいつが急に僕達を標的をするのを止めて……」

 「それでカイルや不仲さん達が……。それにシルフィーまで犠牲になっていたなんて……」

 「にゃぁ……」


 “グオォッ……”


 「だけどリア達が無事だったのはそれまでデビにゃんとシャインが囮になってくれてたからなんでしょ。二人がいなかったら他の皆まで全滅させられてたかもしれないんだからデビにゃん達がそんなに気に病む必要ないわよ。こうなったのは私達がラディを連れて来るのが遅かったせいなんだから……。私達があそこであのサメの魚人達に苦戦しなければ……」

 「ああ……だが今はそのことを後悔している場合ではない、ナミ。これ以上皆の被害を出さない為にも……パンナっ!」

 「分かっています、セイナさんっ!。ですがここから先はラディが一人で方を付けると言っています。ですので皆さんはなるべく安全なところに避難していてくださいっ!」

 「ええっ!。だけどあいつ以外にもリスポーン・ホストのモンスター達が沢山いるっていうのにそいつらの相手までラディ一人で……」


 “ラディィィーーーンッ!”

 “ゴゴォォォーーーーッ!” 

 “グッ……グオォォォォッ!”


 「……っ!」


 ラディが一人で戦うと聞いて無茶だと思い慌てるナミであったが、直後ラディが咆哮したと思うとこの空間全体に凄まじい衝撃波が放たれリスポーン・ホストのモンスター達を皆一撃で消滅させてしまった。今ラディが放ったのは“セイクリッド・ロア”という自身の咆哮と共に周囲に聖なる衝撃波を放つ技だが、それにより範囲内にいる邪悪な意志を持ちながらラディに比べ著しくレベルやステータスの低い敵は成す術なくその場から消滅させられてしまう。レベルやステータスの高い相手には効果がなくダメージも与えられないのだが、並のモンスターではラディに太刀打ちできるステータスなど有しているはずもなく今の一撃でシャドー・シャークドラゴン以外の敵は皆この場から姿を消してしまった。その一撃を受けこれ以上リスポーン・ホストのモンスターを出しても無駄だと悟ったシャドー・シャークドラゴンはリスポーン・ホストの能力の発動を止め、ラディとの戦いに備えこれまでリスポーン・ホストに回していた力を全て自身へと集中しラディに対して臨戦態勢を取っていた。そしてラディの凄まじさを感じ取ったのはナギやリア達も同様で、皆言葉を呑んでこれから始まろうとするラディとシャドー・シャークドラゴンの戦いをジッと見守っていた。


 「す……凄い……これがネイションズ・モンスターの力なのね……」

 「う、うん……これじゃあ本当にもう僕達の出る幕はないかも……」


 “ラディッ……”

 “グオォォォォッ……”


 1対1の状態となったラディとシャドー・シャークドラゴンだが暫く睨み合ったまま互いに牽制し合っていた。こういった場合大抵相手のプレッシャーに耐え兼ねて先に動きを見せた方が不利となってしまうが……。


 “ググッ……グオォォォォッ!”


 「……っ!、あいつの方が先に動いてきたわよっ!。ラディは大丈夫なのっ!」

 「大丈夫です。あの程度の相手にラディがやられることはありません、ナミさん」


 “………”


 どうやら先に行動を起こしてしまったのはシャドー・シャークドラゴンの方だったようだ。体を大きくうねらせて凄まじい勢いでラディへと向かって行ったのだが、ラディは余裕の表情で待ち構えていた。やはりラディも今の心理戦でこちらが優位に立ったことを確信してたのだろう。そして翼のように巨大な胸鰭むなびれを大きく扇いで凄まじい勢いの水流を

迫り来るシャドー・シャークドラゴンに対して巻き起こし……。


 “バアァァァァァァァンッ!”

 “グッ……グオォォォォッ!”

 

 ラディがシャドー・シャークドラゴンに向けて放ったのは水中を大きく扇げるラディの胸鰭や巨大な翼を持つモンスター達が使用できるファン・ストリームという技で、そのモンスターが技を発動させるのに使用した部位の大きさや特徴等によって威力が大幅に変わる。ラディの巨大な胸鰭と強大なパワーによって放たれるファン・ストリームの威力は恐らくこのゲームでも最大級のものでシャドー・シャークドラゴンは完全にその水流に巻き込まれてしまい凄まじい勢いで空間の壁にまで叩き付けられてしまった。なんとかその攻撃の衝撃から立ち直るシャドー・シャークドラゴンだが、まだ十分に体の動きが戻らない内に止めを刺すべくラディの必殺の一撃が撃ち放たれようとしていたのだった。


 “ラディィィッ……”

 “グッ……グオオォッ……”


 「……っ!、な、何あれ……っ!。ラディの口に物凄いエネルギーが渦巻いていってるわ……。一体今度はどんな凄い技を放つつもりなの……」

挿絵(By みてみん)

 ナミの言う通り大きくシャドー・シャークドラゴンに向けて開かれた口には煌めく粒子のようなものがどんどんと渦巻くように集まっていき巨大なエネルギーの塊を造りだしていた。恐らくその凄まじいエネルギーを一気にシャドー・シャークドラゴンに向けて撃ち放つつもりなのだろうが一体どれ程の威力を誇る技なのだろうか……。


 “ラディィィッ……ラディィィィーーーッ!”

 “バアァァァァァァァンッ!”

 “グッ……グオォッ……グオォォォォッ!”


 ラディの咆哮と共にその口から光輝く粒子の光線がシャドー・シャークドラゴン目掛けて撃ち放たれた。その威力は凄まじく直撃を受けたシャドー・シャークドラゴンを一気に壁へと押し付け壁にシャドー・シャークドラゴンの焼け跡を残して葬り去ってしまった。この粒子の光線は“ラディウス・ストリーム”といいラディの名前の元となった光線を意味する“ラディウス”の単語の含まれたパンナの言っていた通りまさにラディの必殺技と呼べる技だ。美しくもそのラディの圧倒的なパワーを見せつける壮絶な光景に思わず唖然としてしまうナギ達であったが、暫くして敵のボスを倒した喜びを実感し始めたようであった。


 「……や、やったっ!。ラディが一撃でシャドー・シャークドラゴンを倒しちゃったよっ!、皆っ!」

 「ええっ!、これもあなた達がラディを説得してくれたおかげよ。ありがとうね、ナギ、アメリー、ハイレインさん、パンナさん。それから勿論ラディもっ!」


 “ラディィィィーーーッ♪”


 「でも僕達がラディのところまで無事にいけたのはナミやセイナさん、それにリアやデビにゃん達皆の協力があったおかげだよ。だからそんなに僕達にだけ感謝する必要はないって」

 「そうね〜。だけど私はラディちゃんがネイションズ・モンスターになってくれたのはナギ君の存在が一番大きかったんじゃないかって気がしてるわ〜。私も色々とラディちゃんに思いを伝えようとしたけどなんとなくラディちゃんが困惑しちゃってるのを感じたし〜」

 「ちょっと待ってくださいっ!。それならきっとラディちゃんがネイションズ・モンスターになってくれたのは私の思いに応えてくれたからですよっ!。絶対私の思いが一番ラディちゃんに対する愛が詰まっていたはずですしっ!。だからラディちゃんを仲間にした功績も最も大きいはずですっ!」

 「何言ってんのっ!。そんなのラディ本人でないあんたに分かるわけないでしょっ!。説得の場にはいなかったけど私もハイレインさんと同じでラディがネイションズ・モンスターになってくれたのはナギのおかげだと思うわ。……あっ!、勿論ハイレインさんの思いもラディによく伝わってたと思います。正直言ってあんたは一番論外だったと思ってるわよ、私はっ!」

 「そんなぁっ!。自分がナギさんの彼女だからって勝手に都合の良いことばかり言わないでくださいよっ!。絶対私の思いの方がラディちゃんに伝わったはずですっ!」

 「わ、私は別にナギの彼女だから……じゃなくて自分の都合に関係なく客観的に見た意見を言ってるだけっ!。そんなに言うなら自分で端末パネルを開いて功績ポイントを確認してみればいいじゃない。あんたの言う通りならあんたの一番功績ポイントが一番多く入ってるはずでしょっ!。もし私の言う通りならその逆であんたのが一番少なくなってるはずよ」

 「分かりましたっ!。それじゃあナギさんとハイレインさんも端末パネルを開いて見せてくださいっ!」

 「えっ……でも僕はそんなのあんまり気にならないし仲間同士でそんなことを競い合っても……」

 「ナギさんが気にならなくても私が気になるんですっ!。いいから早くナギさんの功績ポイントを見せてくださいっ!」

 「わ、分かったよ……」

 「さぁっ!、ハイレインさんも早くっ!」

 「はいはいっと……。まぁ、私も自分の思いがどれだけラディちゃんに伝わってるか気になってたところだし〜。さっきはああ言ったけどもしかして私の功績ポイントが一番多かったりしてぇ〜、ふふふっ♪」

 「だからそれは私に間違いないですって。えーっと……それじゃあ3人のここ10分以内に取得した功績ポイントの数値を表示して……」


 “ラディ……”


 ラディのおかげでシャドー・シャークドラゴンを打倒すことができて喜びに浸るナギ達であったが、些細なことでちょっとした言い争いとなりナギ、アメリー、ハイレインの3人でラディを仲間にした際に得た功績ポイントを比べ合うこととなってしまった。ナギとハイレインはそこまで気にしていないだろうだがアメリーは自身の功績ポイントが1番であるという主張に大分固執していたようだ。ラディの説得前は自信なさげにしていたがどういった心境の変化なのだろうか。そして現在から10分以内に取得した功績ポイントだがナギが1023ポイント、ハイレインが627ポイント、アメリーが203ポイントとなっていた。


 「なっ……」

 「ほら見なさいよっ!。やっぱりナギが1番であんたがダントツのドベじゃない。こんなにポイントに差があるくせによくあんな偉そうな態度が取れたわね」

 「そ、そんな……私これまでにないくらいピュアな心でラディちゃんに思いを送ることできたと思って凄く自信があったのに……」

 「そうなの……。まぁ、都合の良い時だけ心を入れ替えてもそう簡単に自分の性根を変えることはできないってことよ。けどあんたなりに頑張ってラディに思いを伝えることはできたみたいだから良かったじゃない。功績ポイントは1番低かったけど……」

 「ぐっ……最後にそれを言ったらフォローになりませんよ……ナミさん」

 「ははっ、ごめんごめん。……でもこの功績ポイントから見るとやっぱりラディもナギのことが気に入ったみたいね。それならもういっそのことネイションズ・モンスターにならずデビにゃんやシャインのように直接ナギの仲間モンスターになれば良いのに」


 “ラディィィィーーーッ♪”


 「こらっ!。あなたはネイションズ・モンスターとしての役目を負ってこのゲームに参加したんだからそんな身勝手なこと言っちゃ駄目でしょうっ!。ネイションズ・モンスターは仲間モンスターと違い個々のプレイヤーでなくその国家全体のことを考えて行動しなければなりません。先程私はあなたに皆さんの力になってくれと言いましたが……、ネイションズ・モンスターとなった以上これからはあなた自身もヴァルハラ国に住む全ての人々によって支えられ生きていくことになるのですよ。ですからそのように自分の気に入ったプレイヤーを贔屓するような言動をしてはなりませんっ!」


 “ラディ……”


 「パンナの言う通りにゃっ!。それにもしラディみたいな凄いモンスターがナギの仲間モンスターになんてなったら……」


 “グオッ!”


 「にゃあぁぁぁーーーーっ!、もしそんなことになったら同じ仲間モンスターとしての僕とシャインの立場がなくなってしまうにゃぁぁーーーっ!。だから例えもしラディが普通の仲間モンスターになれたとしてもそんなの絶対却下にゃぁぁぁーーーっ!、ナミィィーーっ!」


 “グオグオッ!”


 予想通りではあったのだがやはり功績ポイントが最下位であったアメリーは酷く落ち込んだ様子で、先程は強く罵っていたナミも思わずフォローを入れる程であった。ポイントが1番が高ったナギとは5倍以上の差があったのだから無理もないことだろう。しかしポイントのことはともかく露骨にナギのことを気に入った態度を見せるラディをパンナはきつく叱って

みせた。恐らくネイションズ・モンスターとなったラディの今度のことを案じてのことだろう。あくまでラディが仕えるのはヴァルハラ国に対してであり如何に好意を寄せようとデビにゃんやシャインのように直接ナギの仲間モンスターとなることはできない。勿論デビにゃんとシャインの怒っているようにゲームのバランスを考えてもそのようなことはあってはならないことだ。



 「そ、そんなに大きな声で怒鳴らなくても私も冗談で言っただけよ……。そもそもこんなに強大な力を持つモンスターを個人のプレイヤーの仲間モンスターになんてできたらゲームのバランスがおかしくなっちゃうじゃない。デビにゃん達どころか武闘家の私や魔物使い以外の他のプレイヤー全員の立場がなくなっちゃうわよ。ねぇ、セイナ」

 「そうだな……。だがそんなことよりパンナ。無事ラディをネイションズ・モンスターとできたわけだが今後我々は一体どのように接して行けばいいのだ。今話していたようにヴァルハラ国に直接仕えることになったラディにこのまま我々が指示を出すわけにもいくまい。やはり女王であるブリュンヒルデさんに指示を仰ぐべきなのか」

 「そうですね……。セイナさんの仰る通り基本的にネイションズ・モンスターへの指示はその国家の統治者、またはその権限を委任された者が出すことになります。ですがその前にラディを正式にヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとする為に皆さんにして頂かなければならないことがあります」

 「ええっ!、それじゃあまだラディはちゃんと私達のネイションズ・モンスターになってくれたわけじゃなかったのっ!。それなら早くなんとかしないと……。その正式にネイションズ・モンスターになって貰う為にしないといけないことって一体何なのっ!、パンナさんっ!」

 「落ち着いてください、ナミさん。心配なさらずともラディが皆さんのネイションズ・モンスターになることに同意したことはもう間違いありません。ですが今度はナミさん達ヴァルハラ国側の方からラディがネイションズ・モンスターになることに承認して頂く必要があるのです」

 「私達の方が承認っ!。それって一体どういうこと……。ラディにネイションズ・モンスターになってってお願いしたのは私達の方でしょ?。よく分かんないけどそれなら勿論承認するに決まって……」

 「そうではない、ナミ。パンナが言ってるのは我々ではなくヴァルハラ国の意志を代表する者の承認が必要だということだ」

 「ヴァルハラ国を代表する……あっ!、ブリュンヒルデさんのことねっ!」

 「そういうことだ。個人のプレイヤーではなくヴァルハラ国という国家に対して仕えることとなるネイションズ・モンスターの処遇を我々が勝手に決めるわけにはいかないからな。今の我々はヴァルハラ国に対してラディをネイションズ・モンスターとして迎え入れることができるという選択肢を与えているだけに過ぎない。恐らくネイションズ・モンスターを迎え入れる当たって色々と制限もあるだろうしヴァルハラ国の女王であるブリュンヒルデさんの判断を仰ぐのは当然のことだ」

 「なら早くブリュンヒルデさんにラディをネイションズ・モンスターとして受け入れてくれるようお願いしに行かないとっ!。確かブリュンヒルデさんは私達がこのダンジョンに入る前に船でこの川の向こう岸に向かったはずだから今から行けばなんとか追い付けるはず……」


 無事ラディをネイションズ・モンスターとすることができたと思っていたナギ達であったが、パンナの話ではラディが正式にネイションズ・モンスターとなるには最後に女王であるブリュンヒルデの承認が必要となるらしい。その承認が得るまでラディは自身の行動ポイントを回復する術を持たずこのままの状態ではこのゲーム内での行動が何一つできなくなってしまうようだ。それを聞いてナミはすぐさま今からブリュンヒルデの元に向かおうと皆に提案するのだったが……。


 「焦らずともすぐに承認が必要というわけではありません、ナミさん。ですがネイションズ・モンスターとなったモンスターは自力で行動ポイントを回復することができずそのモンスターの仕える国から供給を受けなければなりません。ラディもこのまま正式にネイションズ・モンスターとして承認されてない状態が続けばいずれは行動ポイントが尽きこの世界での行動を何一つとして行うことができなくなってしまいます。勿論行動ポイントが尽きてからでも承認さえ受けることができれば回復することができますがなるべくそうなる前にあなた達の国の統治者に話を通して貰った方が良いでしょう」

 「折角ネイションズ・モンスターになってくれたラディを身動きを取れなくしたまま放置するなんて可哀想にも程があるものね。でもそういうことなら尚のこと今からブリュンヒルデさんの元に向かいましょう。早速ラディの背中に乗せて貰って川を渡って行けばすぐブリュンヒルデさん達の乗っている船に追い付けるはずよ」

 「そうだな。だがもし万が一ブリュンヒルデさんがラディをネイションズ・モンスターとすることを許可しなかった時は一体どうなるのだ、パンナ」

 「何言ってるのよ、セイナっ!。折角ヴァルハラ国に貴重な戦力が加わるのをブリュンヒルデさんが断るわけないじゃない。私達がラディを連れて行けばブリュンヒルデさんも喜んでネイションズ・モンスターとなることを承認してくれるわよ」

 「私もそうだとは思うがこれだけ強力なモンスターを仲間にするとなればヴァルハラ国側にも何かしらの制限があるはずだ。ブリュンヒルデさんはそれらも考慮しなければならないのだから確実に我々と同じ判断になるとは言えないだろう」

 「うっ……まぁ、それはそうかもしれないけど……」

 「仮にそうなった場合ラディはネイションズ・モンスターとなる権利を失い通常のモンスターとしてこの世界で生きていくことなります。ラディが生存さえしている限りまたネイションズ・モンスターになるよう誘いを掛けることもできますが……その時のラディの返事が今回と同じであるとは限りません。またラディがどの国のネイションズ・モンスターにならないまま死亡してしまった場合二度とこのゲームの世界に現れることはなくラディをネイションズ・モンスターとする機会は永遠に失われてしまうことになります」

 「そうなの……。ならもしブリュンヒルデさんがネイションズ・モンスターになることを許可して貰えなかったらラディには凄く申し訳ないことをしたことになるね……。僕達の方からネイションズ・モンスターになって貰えるようあんなに強くお願いしたっていうのに……」


 パンナの話を聞いて今すぐブリュンヒルデの元に向かおうと言うナミであったが、セイナの言うように承認が必要ということは当然ブリュンヒルデにラディがネイションズ・モンスターとなることを断れてしまう場合もあった。ラディを仲間にした際の有用性を考えるとまずないとは思うが、それでも個々のプレイヤーと国全体を統括する女王としての立場ではその判断の基準は大きく変わってくるだろう。万が一ブリュンヒルデに断れるようなことがあればと不安に思うナギ達であったのだが……。


 「そんな心配しなくてもきっと大丈夫よ、ナギ。仮に制限が厳しくてもブリュンヒルデさんならラディがどれだけ頼りになる存在かちゃんと理解してくれるわ。だからとにかく今は早くブリュンヒルデさんに会ってラディのことを話してみましょ」

 「うん……そうだね、ナミ」

 「例えそのブリュンヒルデさんの決断がどのようなものになろうとそれによってラディが皆さんのことを恨むのようなことはありませんからそう思い悩まないでください、ナギさん。ネイションズ・モンスターになれずともこの神殿をシャドー・シャークドラゴンから解放して頂いただけで私とラディも心の底から皆さんに感謝しています」

 「う〜ん……でも正直言ってシャドー・シャークドラゴンを倒せのはほとんどっていうか全部ラディのおかげだと思うんだけど……」

 「それも皆さん方が勇敢にこのダンジョンへと足を踏み入れラディの封印の解いてくれたおかげです。並のプレイヤーではとても現在の皆さんと同じレベルで最深部まで辿り着くことはできませんよ」

 「そ、そうかなぁ……」

 「さぁ、ですからナミさんの言う通り早くラディを連れてブリュンヒルデさんのところに向かって下さい。上に見える魔法陣ならばラディも皆さんと一緒にここの外に転移することができるはずです」

 「上に見える魔法陣……あっ!、いつの間にかあんなところにラディも通れるくらい巨大な魔法陣が出現してるっ!」


 自分達とブリュンヒルデの判断が違うものであるかもしれないと不安に思うナギ達であったが、ナミやパンナの言葉に勇気づけられとにかくブリュンヒルデの元へと向かうことにした。その為にはまずラディと共にこのダンジョンから出なければならないが、パンナに促され皆が水中の側から水面を見上げるとそこにはこのダンジョンに転移する際に自分達が使用したものより何倍も大きい転移用の魔法陣が出現していた。パンナの言う通りあの魔法陣を利用すればラディもこのダンジョンの外へと出られそうだ。


 「おおぉーーっ!、確かにあれならラディも通れそうね。なら早くここを出てブリュンヒルデさんのところに向かいましょう、皆」

 「……では私はここでお別れですね。短い間でしたが皆さんと行動を共にできてとても楽しかったです。今日あったばかりの私の信じてここまで戦ってくれて本当にありがとうございました」

 「……っ!。えっ……それじゃあパンナさんとはここで……」

 「ええ……、残念ですが役目を終えた私はもうこのゲームから退場せねばなりません。もうこのゲームの勝敗が決するまで皆さんに直接関わることができませんがゲームの外から皆さん方の勝利を願っています。これからこのダンジョン以上に厳しい戦いが待ち受けているでしょうかどうかラディと共に勝ち進んで行ってください」

 「そんな……折角だからパンナさんもラディと一緒にヴァルハラ国の一員になってくれればいいのに……」

 「そうよ〜、私やセイレイン達だって霊体の存在のままだけど特別にヴァルハラ国の一員となってこの後もゲームに参加させて貰えたんだからパンナちゃんだって“ARIA”にお願いすればきっと許してくれるはずよ〜。なんてったって私達の場合は元々ただの敵モンスターだったグラッジ・シャドウちゃん達までヴァルハラ国の一員にして貰えたのよ〜」

 「いえ……そう仰って頂いて本当に嬉しいですがそのような特例をARIAが何度も許すとは思えません。それにもし私が皆さんの国の所属となってはゲームのパワーバランスを大きく崩してしまい他の国のプレイヤーの方々から苦情が殺到することになるかもしれませんよ。本来の力を取り戻した私の実力はこのラディすらも恐れて従う程ですからね、ふふふっ」

 「えっ……なんか急にパンナさんが恐ろしい笑みを浮かべてるけど今の話って本当なの……ラディ」


 “ラディ……”


 パンナから突然驚きの発言を受けてナギ達であったが、そのことを問い質したラディの反応が今のパンナの言葉が事実であることを物語っていた。一体ラディも恐れるパンナの実力とはどれ程のものなのだろうか……。知りたいと思いつつもパンナの不敵な笑みのせいで恐怖にかられたナギ達にはそれ以上問いただすことができなかった。まぁ、そのようなキャラクターが仲間になったおかげでゲームに勝利することができたところでそれはナギ達の望むところではなかったであろうが……。


 「……っ!。どうやら皆さん方に使って頂いたアイテムの効果もそろそろ切れてしまいそうです……。そしたらこのゲームが終了するまで暫く間私とお別れよ、ラディ。まぁ、あなたの方がナギさんやヴァルハラ国の皆さん方が一緒だから寂しいなんてことはないでしょうね。私がいなくなってもこれからはヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとしてしっかり頑張っていくのよ」

 

 “ラディィッ……”


 「パンナさん……」

 「アイテムの効果時間……残り15秒……。そろそろ本当にお別れの時間です。皆さんもどうかラディのことをよろしくお願い致します。意外と我儘で頑固なところがあり扱いに苦労することもあるでしょうが……。ゲームが終わってまた皆さんとお会いできる時を楽しみにしています。その時にゲームに優勝した皆さんの姿を見ることができると更に嬉しいですね。それではお元気で……皆さん」


 “パアァァ〜〜ンッ……”


 そう言葉を残しながらアイテムの効果の切れたパンナはその場から姿を消して行った。パンナとの別れを残念に思いながら暫くその場で感傷に浸るナギ達であったが、今のパンナの言葉に応える為にも少々の悲しみでゲームの歩みを止めている暇はなかった。とにかく今はブリュンヒルデの元に向かいラディを正式なヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとして迎え入れなければならなかったのだが……。


 「よーしっ!。それじゃあパンナさんの期待に応える為にもさっさとブリュンヒルデさんのところに向かうわよっ!。ラディもブリュンヒルデさんに会ったら今パンナさんに言われた通りネイションズ・モンスターとして相応しい風格と態度で臨むようにっ!」


 “ラディッ!”


 こうしてナギ達はブリュンヒルデさんの乗った船に追い付く為ラディと共に魔法陣を潜りダンジョンの外へと転移して行った。果たしてナギ達はブリュンヒルデに無事ラディがネイションズ・モンスターとなることを承認して貰えるのだろうか。ラディに乗って行けば今なら1時間と掛からずにブリュンヒルデさんの乗った船に追い付くことができるだろうが……。


 





 「はぁ〜、天気が良くてそよ風が気持ち良いですね、ゲイル、鷹狩」

 「はい。私も任務とはいえこうしてゆっくりと船旅をすることができて心が安らぎます」


 一方ナギ達が川底の遺跡のダンジョンの攻略に向うのとほぼ同時に対岸へと向かう為船で港を出たブリュンヒルデ達は甲板に出て壮観で美しい川の景色を眺め心地よい風に吹かれながらゆっくりと船旅を楽しんでいた。港を出てからまだ3、4時間程度しか経過しておらず、ちょうど昼過ぎで外に出るには良い日和ひよりでもあったようだ。ゲームの中とはいえ大抵の時間をクエストや敵との戦闘に追われているMMOプレイヤー達にとってこうしてリラックスできる時間は貴重だ。実際は今もゲームに勝利する為の任務の最中でブリュンヒルデの頭の中はこの対岸へと渡った先もある都市との交渉と今後のヴァルハラ国の発展についてのことで一杯だった。


 “ダダダダダダッ”


 「ブリュンヒルデ様っ!、大変ですっ!」

 「……っ!、どうしたのですか、そんなに慌てて」


 甲板で安らぐブリュンヒルデ達の元に突然NPCの兵士の一人が何やら慌てた様子で駆け付けて来た。それに対しブリュンヒルデは冷静に何事が問い質していたのだが一体何があったのだろうか……。


 「それが船の後方に突如巨大なモンスターが出現しこちらへと迫って来ているようなのですっ!。このままではもう後数十秒程でこちらとの交戦距離にまで接近してしまいますっ!」

 「なんですってっ!、……分かりました。今すぐ皆に迎撃の準備をさせてください。私もすぐそちらに向かいます」

 「はっ!」


 “ダダダダダダッ”


 駆け付けて来たそのNPC兵士によるとなんと後方からこの船に巨大なモンスターが近づいて来ているということらしい。この川の穏やかな雰囲気に流されブリュンヒルデも警戒を緩めてしまっていたようで突然の報告に驚き自身もゲイル、鷹狩と共に慌ててそのモンスターの確認へと向かった。万が一水上でそのような敵と交戦するようなことになれば非常に厄介な事態となってしまうが……。


 “ダダダダダダッ”


 「こちらにモンスターが接近しているという報告を受けましたがどういった状況ですかっ!。こちらと交戦状態になるようなら今すぐに迎撃に当たってくださいっ!。それから1〜5班のメンバー達に招集を掛け直ちにこの場に呼び寄せるようにっ!」

 「はっ!。……で、ですがその……ブリュンヒルデ様。そのこちらに接近してくるモンスターですが少し様子が変なのです。恐らくですがそのモンスターの背中にヴァルハラ国に所属すると思われるプレイヤー達の姿が……」

 「……っ!、それは本当ですかっ!。ちょっとそれを貸してくださいっ!」

 「はっ……」


 NPCの兵士を聞いたブリュンヒルデはすぐさま差し出された双眼鏡を手に取りそのモンスターの様子を確認した。するとその背中には確かにヴァルハラ国のプレイヤー達と思われる者達の姿ありこちらに向けて手を振っていた。果たしてこちらに向かって来るモンスターの正体は……。


 「あ、あれはナギにナミ……それから他の者達まで……間違いありませんっ!。あのモンスターに乗っているのは我々の仲間達ですっ!。今すぐ船を止めてくださいっ!」

 「りょ、了解しましたっ!」


 なんとそのモンスターの背中に乗っていたのはナギにナミ、セイナや不仲達ブリュンヒルデ達がこの船に乗って港を出る前にこの川の底にある遺跡のダンジョンの攻略に向かったはずの者達だった。そして彼等を背中に背中に乗せる白い巨大なモンスターは間違いなくラディ……そして更にその背中にはくらと思えるものが装着され後ろには巨大ないかだを引き連れて来ておりその上には他のダンジョンの攻略に向かったメンバー達全員の姿があった。どうやらあのダンジョンを出た後すぐさまブリュンヒルデ達を追って来たようだ。鞍と筏については恐らくブリュンヒルデ達の乗る船の停泊していた港にいる職人NPC達が急ピッチで容易してくれたのだろう。ナギ達の姿を確認したブリュンヒルデはすぐに船の進行を止めさせてナギ達を乗せるラディと合流した。


 「お〜いっ!、ブリュンヒルデさ〜んっ!」


 “ラディィィィーーーンッ♪”


 「ナギっ!、それに他の皆さんも……っ!。しかしダンジョンの攻略に向かったはずのあなた達がどうしてここに……。それにあなた達を乗せているその白い巨大なモンスターは一体……」

 「えーっと……それはですね……」


 ブリュンヒルデに問い質されたナギ達は遺跡のダンジョンの攻略の際に起きたこととそこでネイションズ・モンスターとして仲間にすることにできたラディについての報告をした。ラディのこともそうだがこの短時間の内にナギ達がダンジョンを攻略してしまったことについてもブリュンヒルデは驚いていたようだ。そしてナギ達から提案された肝心のラディをヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとするかどうかだが……。


 「なる程……つまりその今あなた達の乗っているラディをヴァルハラ国の正式なネイションズ・モンスターとして迎え入れる為に私を追ってここまでやって来たということですね」

 「はいっ!。ラディを仲間にするのに協力してくれたパンナさんには急ぐ必要はないって言われたんですけど私達どうしても待ちきれなくて……。遺跡のダンジョンもラディの力がなかったら絶対攻略できなかったしヴァルハラ国にとっても貴重な戦力になると思うので是非ラディを正式にネイションズ・モンスターとして迎えてあげてくださいっ!」

 「ふむ……それは確かに有難い申し出に思えますがネイションズ・モンスターという存在については私もまだよく理解できていません。あなたはどうすべきだと思いますか、カムネス」


 ナミからラディを正式なネイションズ・モンスターとするよう強く要望を受けたブリュンヒルデだったが彼女もまだネイションズ・モンスターについて深くは理解できていないようだった。恐らくこれ程早い段階で自国に向か入れる機会を得るとは思ってもみなかったのだろう。少しでも判断に必要な情報を得ようと参謀のカムネスにも意見を求めたのだが……。


 「申し訳ありませんが私からもなんとも……。ただネイションズ・モンスターの行動ポイントがその国家のものと連動しているということはその分内政などに費やせるポイントが削られてしまうことになります。強力な力を得られる代償に国の発展が遅れてしまっては元も子もありません。まずは現在の我々の国家にネイションズ・モンスターを保持するだけの国力が得られているかをきちんと精査してから判断しても遅くはないでしょう。幸い返答までの時間の猶予は随分とあるようですし……」

 「そうですか……。それは確かにあなたの言う通りですね。ですが折角ナギ達がこうしてわざわざ私達のところに連れて来てくれたというのに……」


 “………”


 「大丈夫かな……。なんだか返事に悩んでるみたいだよ……ブリュンヒルデさん」

 「大丈夫よ。そりゃ確かに私達違って女王として色々と考えなければならないことがあるだろうけどブリュンヒルデさんならきっと私達の気持ちを理解してくれるわ」


 “ラディ……”


 ブリュンヒルデに意見を求められたカムネスは自分達の国がネイションズ・モンスターを保持できる国力を得られるまで返事を保留にしてはどうかと提案した。確かに強力な戦力だからといって無闇矢鱈むやみやたらに取り入れていてはコストが増大し国家の維持が困難なものとなってしまう。そのことを考慮するとカムネスの意見は全うなものに思えたのだが、船の甲板からこちらを見下ろすブリュンヒルデの表情からその不穏な空気を感じ取ったのかナギやラディ達も不安げな様子だった。果たしてブリュンヒルデは最終的にどのような決断を下すのだろうか。


 「……決めました。やはり今この場でラディをヴァルハラ国の正式なネイションズ・モンスターとして迎え入れることに致します」

 「えっ……ですがそれは……」

 「あなたの言いたいことも分かりますがここはナギ達とラディの気持ちを尊重しましょう。それにゲームはまだ序盤で私達の国はその国力の多くを使い余しています。ラディをネイションズ・モンスターとして迎え入れたからとっていって今すぐ国政が傾くようなことはないでしょう。またただ単に戦力としてではなく国の発展にもラディは大きく貢献してくれるはずです」

 「確かに国力を使って更なる国力を得るのがこの手のゲームの定石ではありますが……」

 「ええ、だからネイションズ・モンスターを得る為に失った国力はラディ自身がすぐに取り戻してくれるでしょう。……ゲイルっ!、鷹狩っ!」

 「はっ!」


 “バッ!”


 「……っ!、ブ……ブリュンヒルデ様っ!」

 

 カムネスの意見に反しラディをネイションズ・モンスターとして迎えると言い放ったブリュンヒルデはゲイル、鷹狩、それから鷹狩の仲間モンスターであるサニールとヴェニル達と共に船の甲板からラディの背中へと飛び降りて行った。まだ返事を聞かずして突然自分達の女王だるブリュンヒルデが間近に迫り動揺するナギ達とラディであったが……。


 「ブ……ブリュンヒルデさんっ!。わざわざこっちに降りて来てくれるなんて……。それであの……ラディのことについての返事は……」

 「勿論了承致しますよ。こちらに降りて来たのはラディと正式にネイションズ・モンスターとなる契約を結ぶ為です」

 「け、契約……」

 「そうです……はあっ!」


 “パアァァ〜〜ンッ”


 「……っ!、あ、あれは……」


 ナギ達の元に降りて来たブリュンヒルデだがちょうどラディの頭の辺りに手をかざすとそこから青い球体の形をした発光体が出現した。球体の外面には何やらプログラムの言語のようなものが輪のように張り巡らされてた。どうやらブリュンヒルデが女王として与えられ手ヴァルハラ国のデータを管理する為のコアのようなものであったようだが、それを出現させることで国外にいても一部の女王としての権限を行使できるようだ。そのコアを出現させた後でブリュンヒルデではラディに対しヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとなる契約の言葉のようなものを投げ掛け始めた。


 「ラディに問います……。これらの条件を受け入れ我らヴァルハラ国とネイションズ・モンスターとなる契約を結びますか。答えが“YES”ならばこの“ヴァルハラ・コア”にあなたの持つ“ネイションズ・コア”を差し出してください」


 “ラディィィィーーーンッ♪”

 “パアァァ〜〜ンッ”


 「……っ!、こ、今度はラディの方からも光の球が……」


 ブリュンヒルデの言葉に対しラディが大きく咆哮して返事をすると今度はラディの方からもその頭の上からブリュンヒルデのものより小さい青白い光の球体が出現し、ブリュンヒルデがヴァルハラ・コアと呼ぶものに吸収されるように同化していった。どうやら意識上でラディにヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとなる際の条件などを提示し契約の交渉を行ったようだが、ラディの喜びの込もった咆哮とその表情からして勿論返事は……。


 「……ありがとうございます。これであなたは現在よりヴァルハラ国の正式なネイションズ・モンスターとなりました。これからどうぞよろしくお願いしますね、ラディ」


 “ラディィィィーーーンッ♪”


 「……っ!。やっ、やったぁぁーーーっ!。これでラディが僕達の正式なネイションズ・モンスターになったぞっ!。やっぱりナミの言う通りだったねっ!」

 「まぁ、正直言うと私もちょっと不安だったんだけどね……。だけどブリュンヒルデさんと私達の気持ちが一緒で良かったわ。ラディみたいないい子で頼もしいネイションズ・モンスターを仲間にしない手なんてないものね」

 「にゃぁぁぁーーーっ!、そんな風にブリュンヒルデさんに直接契約を結んで貰えるなんて羨ましいにゃぁぁぁーーーっ!、ラディィーーーッ!。これもネイションズ・モンスターとしての特権なのかにゃぁぁーーっ!」


 当然ラディの返事もYESでありこれでラディは正式にヴァルハラ国のネイションズ・モンスターとなることができた。ナギ達とラディ自身も心の底から喜びを露わにしていたがまだこの選択が正しかったと言えるかどうかは分からない。正しいものにする為にはヴァルハラ国がこれからどのようにネイションズ・モンスターとしてのラディの力を活かしていけるかに限っているが……。


 「それではラディ。早速で申し訳ないのですがこのまま私とゲイルもナギ達と共にこの川の対岸へと運んでください。船で向かうよりもあなたならばよっぽど早く辿り着くことができるでしょう」


 “ラディィィィーーーッ!”


 「ええっ!、それじゃあ僕達もこのままブリュンヒルデさんと一緒にこの川の向こう岸まで向かっていいのぉーっ!」

 「勿論です。ラディをここまで連れて来てくれたのはあなた達の功績なのですから……カムネスっ!」

 「はっ!」

 「私とゲイルはこのままナギ達と共にラディに乗って対岸まで向かいますのであなた方は船で我々の後を追って来てください。我々の方が大分早く着くことになると思いますがのちにプレーンズの都市で合流致しましょう。そちらのことはあなたと天だくに任せます」

 「了解致しましたっ!」

 「よーしっ……それじゃあ……」


 “ラディッ!”


 「この川の向こう岸に向かって出発よぉぉーーっ!、ラディッ!。船に乗ってる連中に思いっ切り差をつけてプレーンズの都市との交渉も私達で終わらせちゃいましょうっ!」


 “ラディィィィーーーンッ♪”


 こうしてナミの号令とラディの咆哮と共に川の向こう岸に向かって進軍して行った。その速度はこれまでブリュンヒルデ達の乗っていた船とは比較にならずあっという間にこの場を離れて行ってしまったのだが、恐らく向こう岸に着く頃には2,3日分以上の差が付いてしまっているのではないだろうか。そして騒ぎを聞き付けてプレイヤー達も続々と甲板に姿を現し対岸へと向かうラディとナギ達を見送っていたのだが……。


 「おいっ!、カムネスっ!。ブリュンヒルデさんがナギ達の連れて来たネイションズ・モンスターとかいう奴に乗って先に他の奴等と向こう岸に向かったってのは本当かっ!」

 「はい。もうこの船から見えなくなってしまいそうですが……。あれなら我々より数日早く向こう岸に着くことになるでしょう」

 「なにぃ〜〜っ!。遺跡のダンジョンを攻略したばかりか向こう岸のエリアの功績までものにしてしまうつもりなのかぁ……。おいこら待てぇぇーーーっ!、貴様等ぁぁーーっ!。俺もそのラディというデカブツに乗せて連れて行けぇーーーっ!。貴様等ばっかり手柄を立てる機会を得やがって卑怯だぞっ!、こんちくしょぉぉーーーっ!」

 「仕方ないよ、天だく君。ゲームの運に恵まれるのもプレイヤーの実力なんだからそんな風に文句言うのはみっともないよ。……だけどこんなことなら私もナギ君やナミちゃん達と一緒にダンジョンの攻略の方に参加してれば良かったなぁ〜」

 「くっ……皆を裏切ってブリュンヒルデさんの方について行ってしまった俺が悪かったからどうか戻って来て俺もそいつに乗せてくれぇぇーーっ!、ナギィィーーっ!、皆ぁーーっ!。戻って来てくれたら俺の今持ってるアイテムの中で好きなもの取ってっていいからさぁ……。頼むぅーーーっ!」

 「………」


 ナギ達とラディの姿の消えていく中で静かに流れゆく川の景色の中に天だくの悲痛な叫びが寂しく響き渡っていた。熟練のプレイヤーであることを豪語するならばこの程度ことシッスのように軽く受け流せと思うのだが……。そんな天だくの姿を見て共に今後の指揮を任されたカムネスは不安でこれ以上天だく対して口を開くこともできなかった……。




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