finding of a nation 138話
「うぉりゃぁぁぁーーーっ!、グレープ・フルーツだかなんだか知らないけどそんな果物の名前をしたサメの分際で私達の行く手を阻んでないでとっとそこをどきなさぁーーいっ!。てりゃぁぁーーーっ!」
「グ……グレープ・フルーツじゃなくてグレート・ホワイトです……ナミさん」
ラディアケトゥスの元へと向かうのを阻止しようと立ちはだかる3体のホオジロザメの魚人達へとナミと聖君少女、セイナとブラマ、エドワナとセイレインの3組がそれぞれの相手に対し立ち向かって行た。まずは右側にいるグレート・ホワイト・シャークノイドへと向かって行ったナミと聖君少女ではあるが、ナギ達の突破する為の隙を作り出すどころかナミは相変わらずの威勢でそのまま相手を倒すつもりで上空へと高く飛び上がり、高高度から落下する勢いで凄まじい威力の飛び蹴りを相手に食らわせる飛翔空蹴撃の特技をグレート・ホワイト・シャークノイドへと撃ち放った。何やら変に名前を間違えて呼んでいたが完全にワザとだろう。真面目な性格の聖君少女は健気にナミの間違いを訂正していたが……。
「てりゃぁぁーーっ!」
“バアァァァァァンッ!”
「……っ!、か、躱されたっ!」
“グオォォォォッ!”
勢いよく放たれたナミの飛翔空蹴撃だったが、咄嗟に後ろに身を引いたグレート・ホワイト・シャークノイドに見事に躱されてしまいそのまま地面へと直撃してしまった。地面に伝わるその衝撃の大きさから凄まじい威力を誇っていたことが見て取れるが、折角の大技も躱されてしまっては意味がない。更に攻撃を放った反動で隙のできてしまったナミにグレート・ホワイト・シャークノイドの反撃の手が襲い掛かり……」
「危ないっ!、ナミさんっ!」
「……っ!」
“グオォォォォッ!”
「くっ……クラージアブル・シールドっ!」
“パアァァ〜〜ンッ!”
“……っ!、グオォッ!”
ナミの隙を突いて自身の鋭利な爪で敵を斬り裂くシャーク・クローを放ったグレート・ホワイト・シャークノイドだったが、ナミを守る為聖君少女が発動させた聖職者の魔法、対象を守る為に一時的に聖なる壁を作り出すクラージアブル・シールドによって攻撃を防がれてしまった。咄嗟に発動させたこともあってそこまでの強度はなく一撃でシールドは破壊され多少の攻撃がナミへと通ってしまったようだがおかげでかすり傷程度のダメージで済んだようだ。わざわざ回復する程度でもなくナミと聖君少女は身を寄せ合って態勢を立て直し相手の次なる攻撃に備えていた。
「助かったわ、聖ちゃんっ!。正面からの攻撃とはいえあんなにあっさりと避けられるなんて思いもよらなかった……。一人で突っ走って行っちゃってごめん。やっぱりパンナさんの言う通りこれまでより大分手強い相手のようね」
「はい。私の魔法でナミさんを援護しますからしっかり連携取って戦いましょう」
「ええっ!」
今の攻防でこれまでの相手のように楽に勝てる相手ではないと認識したナミは相方である聖君少女の言葉に従いしっかりと連携を取って戦うよう考えを改めていた。普通なら今のナミの先走った行動に不満を感じ強く咎めるところだろうが、普段からナミと似た性格で同じような行動を取りがちな姉の爆裂少女とパーティを組んでいる聖君少女は特に気にすることもなく上手くナミの調子に合わせて連携を取っていた。他の魚人達に当たっているエドワナとセイレインも同じサニールの屋敷の住人、それも主従関係にある者同士として当然緊密な連携を取れており、セイナも特にブラマと緊密な連携が取れているというわけではなかったが元々のポテンシャルの高さでまるで戦力の低下を感じさせなかった。しかしやはりどの相手も一筋縄でいく相手ではなく、特にセイナ達の相手となっているグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドはパワー、スピード、どれを取っても凄まじいスペックを誇っておりナミ達は皆敵を撃破するどころかナギ達を先を進ませる為に敵を通路から引き離すことすら中々できずにいた。
「はあぁぁぁぁっ!、シバルリー・キャリバァァァーーーッ!」
“グオォォォォッ!”
「……っ!、何っ!」
「危ないっ!、セイナっ!」
立ちはだかるグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドにシバルリー・キャリバーを放つセイナだったが、その斬撃は相手の振り上げた手の甲によっていとも簡単に防がれてしまった。セイナのシバルリー・キャリバーであれば通常の相手の防御など物ともせずに斬り伏せることができるはずだが、グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドは攻撃に怯むどころかむしろ余裕で受け切り、先程もナミが受けたシャーク・クローを放ち反撃を行って来た。その様子を見たブラマは咄嗟に声を上げてセイナを援護しようとしたのだがとても間に合いそうになかった。
「くっ……クラウっ!」
「任せてくださいっ!。……シーロストラタス」
“パアァァ〜〜ンッ!”
“……っ!、グオォッ!”
グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドのシャーク・クローがセイナへと襲い掛かろうとした時、突如としてセイナの前に白いベール状の薄い膜のようなものが出現しセイナを攻撃から守った。どうやら巻層雲を意味するシーロストラタスという魔法をクラウが発動させたようだ。巻層雲はその特徴的な薄さで太陽光によるさまざまな大気光学現象を引き起こすが、クラウの発動させたその魔法もここに太陽などはなくとも神秘的な輝きを発しまるで聖なる力で邪悪な存在を払いのけたようにそれに触れたグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドをよろめかせていた。またこの巻層雲を意味するシーロストラタスの魔法を使用している辺りクラウディアの名前も“曇り”を意味する“クラウディ”からきているようだ。
「助かった……、クラウ。私としたことが敵の力を見誤った。強敵だろうと分かっていたがまさかこれほどとは……」
「本当ね……。まさかセイナの攻撃を受け切って反撃までしてくるなんて……。ナギ達だけでも先に進める為に気を引き締めて掛からないと……」
「ああ……ブラマ。だが奴等もこちらの狙いに気が付いているのか通路の入り口から離れる気配がない……。意地でもこの場で我々を足止めするつもりだ。こうなれば多少無茶をしてでも強引に道を切り開くしかない」
「無茶って……一体どうするつもりなの……セイナ」
「先程は敵にこちらの攻撃を防がれその隙を突かれてしまったが今度は私が受け身に回り隙を見てその懐へと飛び込み確実にシバルリー・キャリバーを叩き込む」
「そんなっ!。向こうはあなたのシバルリー・キャリバーを正面から受け止める程のパワーとそこから反撃に移る程の鋭敏さを兼ね揃えているのよっ!。そんな奴の懐に飛び込もうなんてこっちから死地に赴くようなものよっ!」
「危険は承知の上だ。だが敵が通路の防衛に専念している以上こちらがリスクを冒すしかない。地上で戦っているリア達の為にも我々は逸早くラディアケトゥスの元にナギ達を送り届けなければならないのだからな」
「くっ……分かったわ。なら私が魔法で援護するから懐に飛び込むからその隙を突いて。何もあなたがあいつの攻撃を正面から受けることないわ」
「いや……相手のステータスの高さを考えると例え私の攻撃が直撃したとしてもHPを削り切ることは難しい。お前は事前に魔力を溜め敵が私の攻撃に怯んでる隙に最大威力の魔法を叩き込み止めを刺してくれ」
「なっ!、……はぁ……もう分かったわよ。これ以上止めたところで時間の無駄のようだしこうなったら私もあなたの無茶に付き合ってあげるわよ」
「私も全力でサポートさせて頂きますっ!。例え相手がどれだけ強力な攻撃を仕掛けてこようと私の魔法で必ず阻止しますのでどうか恐れず立ち向かって行ってください、セイナさんっ!」
「ああ、済まないな、ブラマ、クラウ」
ナギ達の進軍の阻止を優先し決して通路から離れようとする気配のないグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイド達にセイナは決死の覚悟で突破を試みることを決意した。ブラマも言っている通りかなりリスクのある試みではあるがそれだけセイナも自分達が切羽詰まった状況に置かれていると感じているということだろう。
「よし……では行くぞ、クラウっ!」
「はいっ!」
“バッ……ダダダダダダッ!”
クラウに声を掛けると同時にセイナはグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドに向けて勢いよく飛び出して行った。まずは先程のように正面から斬り掛かるつもりのようだったが……。
「はあぁっ!」
“グオォォォォッ!”
やはり正面から攻撃では通じるわけもなくセイナの斬撃はまたしても容易く防がれてしまったのだが、それはセイナ自身も予測していたことで今度は敵の反撃を受ける前にすぐさま身を引いた。どうやら今回の斬撃は元から手を抜いて放っておりわざと攻撃を防がれたふりをして相手の攻撃を誘う算段のようだ。そんなセイナの策にのってグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドは後退したセイナに対しシャーク・クローを放ち一気に攻勢に打って出て来るのだった。
“グオォォォォッ!”
「ぐっ……」
襲い来るグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドのシャーク・クローをなんとか剣で防ぐセイナだったが明らかに敵のパワーに押し込まれていた。敵もこのまま押し切れると思い手を休めることなくシャーク・クローを放ち続け次第にセイナを追い詰めていくのだったが、果たしてこの状況から反撃に打って出ることなどできるのだろうか。
「……っ!、セイナさんっ!」
「くっ……大丈夫だ、クラウ。このまま相手の攻撃を誘い反撃のタイミングを図る……。その時までお前も余計な援護は無用だ」
「……はい」
グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドの猛攻を受けながらもセイナは反撃の機会を得る為まだクラウに対して援護を求めなかった。恐らくブラマの魔力を蓄える為の時間を稼ぐ為でもあったのだろうが一方的に攻められるセイナを黙って見ているしかないとはクラウもやりきれない思いだっただろう。しかしそれもより敵に効果的な反撃を行う為……、辛い気持ちを抑えクラウはジッとセイナから合図が送られるのを待っていた。
“グオォォォォッ!”
「……っ!、ぐうぅっ!」
「……っ!、セイナさんっ!」
「セイナっ!」
グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドのシャーク・クローを何度も受け続ける最中とうとうセイナはその猛攻に耐え兼ねて足元がふらつきバランスを崩してしまった。当然その隙を突いてグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイド渾身の力を込めてシャーク・クローを放ちセイナに止めを刺そうとしたのだが……。
“グオォォォォッ!”
「……今だっ!、クラウっ!」
「はいっ!。……はあっ!」
“パアァァ〜〜ンッ!”
“……っ!、グオォォッ!”
足を止め大きく息を吸うと共に力を溜め込み、まさに全身で腕を振りかぶるように全力の力でセイナに向けてシャーク・クローを撃ち放ったグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドだったが、それを見計らったかのようにセイナの合図を受けクラウがシーロストラタスの魔法を発動させ再び相手の攻撃を防ごうとするのだった。先程は見事防ぎ切ることができてはいたが今度は敵も攻撃により力を込め数段威力が上がっているが果たして……。
“グオォォォォッ!”
「くっ……はあぁぁぁぁぁっ!」
やはり今度は攻撃に相当なパワーが込められていたのかクラウは中々攻撃を弾き返すことができず押し切られそうになっていた。そうはさせまいとクラウも自身の魔力を最大限に高め対抗するのだが……。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
“……っ!、グオォォッ!”
「よしっ!。よくやった、クラウっ!。はあぁぁぁぁぁっ!、シバルリーッ!・キャリバァァァーーーッ!」
“ズバァーーーーンッ”
“グオォォォォッ……”
グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドのシャーク・クローとクラウのシーロストラタス、まさに拮抗する矛と盾のようだったが最後には相手のパワーにクラウの忍耐力と精神が打ち勝ち見事攻撃を弾き返した。そしてその反動でよろめくグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイド目掛けてセイナは容赦なくシバルリー・キャリバーを撃ち放った。流石にセイナの渾身の力を込めた一撃の直撃を受ければ如何にグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドでもタダでは済まないはずだが……。
「今だっ!、ブラマっ!」
「ええっ!、分かってるわっ!。風よ……鉄鉱となった我が不屈の意志を地表を眠る億兆京垓の粒子に混ざえて吹き上げろっ!」
やはりセイナの予想していた通り渾身の力を込めたシバルリー・キャリバーの一撃でもグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドHPを削り切ることはできなかった。しかしHPへのダメージこそ低かったもののその凄まじい衝撃波大きく敵をよろめかせ、その隙にブラマが追撃の魔法を撃ち放つべくこれまで溜めた魔力を一気に解き放った。ブラマがその指先を天に向けて突き立てる共に凄まじい風塵が周囲に巻き起こり、塵となって地表を覆うありとあらゆるものを吹き上がらせた。更にはブラマの詠唱が進むにつれ小石程度の大きさではあるが固く重たく、解き放たれたブラマの魔力が本来の質量を超えて詰まった鉄鉱へと形を変えその風塵へと混ざっていった。そして天へと突き立てた指先を魔法の詠唱の完了と共に敵であるグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドへと向けて振り下ろすと……。
「我が敵を撃ち貫けっ!、アイアン・ダスト・スマッシャーッ!」
“バアァァーーーーンッ!”
“グオォォォォッ……”
詠唱を終えると共にブラマは地上の塵と自身の魔力によって作り出された鉄鉱を凄まじい暴風に乗せてまるで弾丸のように敵に向けて撃ち放つアイアン・ダスト・スマッシャーという魔法を放ち、よろめくグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドの腹部を撃ち貫いた。このアイアン・ダスト・スマッシャーは土と風の属性を合わせ持つ高威力の魔法でセイナのシバルリー・キャリバーに続き更に相当なダメージがグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドに入ったようだったが……。
“グオォォッ……”
「くっ……これでもまだ倒し切れないのか……ならばっ!」
“……っ!、グオォォォォッ!”
「……っ!、何っ!」
「……っ!、きゃあぁぁぁーーーっ!」
ブラマのアイアン・ダスト・スマッシャーの直撃で今度こそ倒し切れると思われたのだが、まだグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドのHPを0にするには至らなかった。そんな相手に対しセイナは更なる追撃を試みようとしたのだが、グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドは体を奮起させて無理矢理攻撃の衝撃の振り払ったと思うと大きく咆哮し周囲に凄まじい水流の衝撃波を放ちセイナとサポートに付いていたクラウを吹き飛ばした。どうやらストリーム・ウェーブという技のようだが、吹き飛ばれ体勢を崩してしまったセイナ達はあと少しというところでグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドに止めを刺し損ねてしまった。それどころかセイナ達の攻撃を受けて怒りの頂点に達したグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドが反撃に打って出セイナへと襲い掛かり……。
「くっ……」
「大丈夫っ!、セイナっ!、クラウっ!」
「ああ……大丈夫だ、ブラマ。だが奴に止めを刺す折角の好機を逃し……」
「……っ!、危ないっ!、セイナっ!」
「……っ!」
“グオォォォォッ!”
ブラマに身を案じられながら止めを刺し損なったことを悔いるセイナであったが、なんとか体勢を整え立ち上がったところに容赦なくグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドが襲い掛かって来た。その迫り来る速度は凄まじく、体を前屈みにして軽く浮き上がったと思うとその後一度も足を地面につけることなくまるで魚人から元のホオジロザメへと戻ったかのようにほとんど水の抵抗を感じさせず滑らかに水中を遊泳して移動し、ブラマの掛け声を聞いた時にはもうセイナのすぐ目の前まで迫って来ていた。そしてまるで反応の追い付いていないセイナの体を両腕ごと抑え付けて鷲掴みにしたと思うと、今度はその悍ましい口を大きく開きセイナの左肩へとかぶりついた。グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドの強靭な顎の力でその鋭利な歯を深く食い込まされたセイナの左肩は大きく血が噴き出し、辺りには激痛に耐え兼ねたセイナの悲鳴の叫びが大きく響き渡った。
「ぐあぁぁぁーーーーっ!」
「セッ……セイナァァァーーーっ!」
「セイナさんっ!」
グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドに食い付かれたセイナはほぼ瀕死の状態までHPを失い、更には重度の出血と血液不足の異常状態により完全に体の力が抜け切ってしまい手を放されると共に地面へと落とされそのまま倒れ込んでしまった。まさかのセイナの敗北に動揺を隠せないブラマとクラウだったのだが、それはセイナ達がラディアケトゥスの元へと送り届けてくれると信じて後方で見守っていたナギ達も同じだった。
「あわわわわわっ……ど、どうしようっ!。まさかセイナさんがやられちゃうなんて……。ナミとエドワナさん達も苦戦してるみたいだしこ……」
「このままじゃあ私達までやられちゃうじゃないですかぁーーっ!。こんなことになるならラディアケトゥスを仲間に引き入れるなんて役目引き受けるんじゃなかったっ!。大体あの馬鹿デカイ鮫に勝てないって分かってたなら初めからこんな遺跡の攻略なんて諦めて引き返していればよかったんですっ!。それをこんな死んじゃった女の人の幽霊なんかの口車に乗せられて……」
「ちょっとアメリーちゃ〜ん。同じ女の人の幽霊の立場の私として今の発言は聞き捨てならないんだけどぉ〜。まぁ、百歩譲って頑固で融通が利かず女性は男性に守られるべきとか言ってずぅ〜っと私の心配をしてるサニールみたいな鬱陶しい男の幽霊のことを悪く言うんだったら別に構わないけど~」
「だって本当のことじゃないですかっ!。あのデカイ鮫のボスが私が絶対に敵わないぐらい強いって分かってたならその配下の奴等も物凄い強敵だって予想できたはずでしょっ!。今さっきセイナさんを食い殺した奴みたいにねっ!。だったらこんなところに連れて来ないで最初に出会った時に引き返すよう助言してくれるのが本当の親切ってもんなんじゃないですかっ!。結局この人は自分が私達にラディアケトゥスを復活させて貰いたかっただけなんですっ!」
「……済みません」
グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドにやられてしまったセイナを見て取り乱してしまったアメリーはラディアケトゥスを復活させる為自分達をこの場へと誘ったパンナに対して酷い中傷を繰り返した。元々のこのダンジョンの攻略を目指していたナギ達に協力しただけのパンナにそこまでの非があるようには思えなかったのだが、実際にナギ達をラディアケトゥスを復活させる提案をしたことに間違いなくパンナは強く責任を感じてしまっていた。
「ちょ、ちょっと言い過ぎだよ、アメリーっ!。結果がどうかはおいといてパンナさんが僕達のことを思って協力してくれたのは事実なんだからっ!。ここのボスのシャドー・シャークドラゴンのこともラディアケトゥスの封印されているこの場所のことも全部パンナさんの言う通りだったし自分達の思い通りにいかなかったからってそんな手の平を返したようにパンナさんを責めるのは間違ってるよっ!。僕はここまで助言してくれたことを本当に感謝してるからね、パンナさん。こうなったのは僕達の責任でもあるんだしだからそんなに気を落とさないでっ!」
「ありがとうございます……ナギさん。ですがアメリーさんの言う通りこのような事態を招いてしまったのは全て私の責任です。私の浅はかな考えで皆さんに身勝手なお願いをしたことを一体どうお詫びすればいいか……」
「いや、だからそんなのパンナさんが謝る必要なんてないって……」
「何言ってるんですかっ!、ナギさんっ!。必要がないどころか謝って済まされるどころの問題じゃないですよっ!。例えモンスターが相手でもHPが0になって完全に力尽きてしまったらペナルティとして私達は一日……、ゲームの世界で30日間の間このゲームにログインすることができなくなっちゃうんですよっ!。もし地上で戦ってる他のメンバーまで全滅しちゃったらヴァルハラ国にとって相当な痛手になってしまいますっ!」
「本当に申し訳ありません……」
「だから謝って済む問題じゃ……」
「はいは〜いっ!、3人とも今はそんなことで言い争ってる場合じゃないでしょ〜。確かにピンチだとは思うけどこの場にいる皆が全滅しちゃったわけじゃないのよ。セイナちゃんだってまだHPが0になったわけじゃないしどうにか打開策を考えましょ〜」
「そんなこと言ったってセイナさんがやられた相手を私達なんかでどうにかできるわけないじゃないですかっ!。ブラマさんとクラウもセイナさんがいない状況で頑張ってくれてますけどあいつが相手じゃそう長くは持ち堪えられませんっ!。ナミさんもエドワナさんも援護には向かえない状態ですしそしたら次はいよいよ私達が食い殺される番ですよっ!」
パンナを中傷するアメリーと責任を感じ気を病むパンナ、そしてナギはそのパンナを庇い、窮地に陥ったこの状況で余計な言い争いをしてしまう3人を諫めようとするハイレインだったがアメリーはますます悲観的な考えに陥ってしまっていた。それもそのはずアメリーの言う通り前衛のセイナを失ったブラマとクラウはグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドを相手に完全に防戦一方な状況になってしまっておりとても致命傷を負い倒れているセイナを回復する余裕などなかった。頼みとナミとエドワナ達もそれぞれ自分達の相手であるグレート・ホワイト・シャークノイドの相手をするのに手一杯でとても援護に来れるとは思えなかった……。
「食らいなさいっ!。……ストーン・ブラストっ!」
“グオォォォォッ!”
「くっ……全然効いてない……」
「下がって、ブラマさんっ!、シーロストラタスっ!」
“パアァァ〜〜ンッ!”
“グオォォォォッ!”
「……っ!、くっ……さっきのダメージで上手く魔法を維持で……きゃあぁぁぁーーーっ!」
「クラウっ!」
HPが残っているとはいえもう動ける様子のないセイナを放置し、グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドは先に残った相手を仕留めようとブラマとクラウに向けて襲い掛かった。ブラマは咄嗟にストーン・ブラストの魔法を放ちいくつもの石つぶてをグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドに向けて撃ち放ったがまるで効果がなく、敵は怯むことなくシャーク・クローを放ちながらブラマへと迫った。その攻撃からブラマを守ろうとクラウは再びシーロストラタスの魔法を発動させるのだったが、先程のストリーム・ウェーブにより受けたダメージの影響からか今度は敵の攻撃を弾き返すことができずバリアを破られてしまい、ブラマに代わってグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドシャーク・クローによりその身を斬り裂かれてしまった。バリアの効果で多少はダメージを軽減できた為一撃でHPが0となることはなかったがそれでもセイナと同じく重度の出血状態に陥ってしまい全身に力が入らず地面へその身を地面へと落下させ倒れ込んでしまった。これで残るはブラマだけとなってしまいいよいよアメリーの言う通りナギ達の全滅の危機が差し迫って来たが……。
「ああっ!、セイナちゃんに続いてクラウちゃんまで……。何ボーっと突っ立てるの〜っ!、皆ぁ〜っ!。早く助けにいかないとこのままじゃあブラマちゃんまでやられちゃうわよ〜っ!」
「そんなこと言われても私じゃあいつに太刀打ちできないって何度言えば分かるんですかっ!。それに私達が戦いに出てやられちゃったらラディアケトゥスを仲間にできなくなって元も子もなくなっちゃうじゃないですかっ!」
「それを言うなら私達を守ってくれる人が皆いなくなっちゃう方が元も子もなくなっちゃうでしょっ!。ここでブラマちゃんがやられたらセイナちゃんもクラウちゃんもあいつに止め刺されちゃう。そうなったら最後、あいつに援護に回られてナミちゃんとエドワナちゃん達もやられて今度こそ万事休すよ。最後まで望みを捨てない為には今ここで私達が援護に向かうしかないのっ!。分かったっ!、アメリーちゃんっ!」
「うっ……わ、分かりましたよ……」
「よし……それじゃあナギ君も準備いいわね」
「う、うん……僕もデビにゃんとシャインを地上に置いてきちゃって戦力としては頼りないと思うけど頑張ってみるよ……」
「そうだったわね……。私もまだ仲間モンスターはウィルちゃん一人だけでちょっと心許ないけど……。どうにかデビにゃんちゃんやシャインちゃん達の分まで頑張ってあげてね、ウィルちゃんっ!」
“ウィルゥッ!、……っ!、ウィルゥゥ……”
「んん?、どうかしたの、ウィルちゃん」
“ウィルルゥ……っ!、ウィルルルルルッ!”
「……っ!、な、なんですってぇ〜っ!」
「ど、どうしたんですか……ハイレインさん……」
「それが……ウィルちゃんが言うにはどうやら後ろの通路から多分追手のサメ達がもうすぐそこまで迫って来てるみたいなのよ……」
「ええっ!、それじゃあ私達ここで挟み撃ちにされちゃうってことじゃないですかぁっ!。この状況で追手がここに到着したらもうどうしようもないですよっ!。一体どうするんですかっ!」
「ううぅ〜、こうなったらもう追手が来る前に私達でここ突破するしかないわ〜っ!。やられちゃったとはいえあの真ん中の奴にはセイナちゃん達が相当なダメージを与えてくれているはずよ〜。あとちょっとで倒せることを信じて私達で総攻撃を掛けましょ〜」
「で、でも僕達の攻撃であいつにまともなダメージを与えることなんてできるのかな……。さっきもブラマさんがストーン・ブラストで応戦してたけどまるで効いてないみたいだったし……」
“ウィルルゥッ……”
「えっ……ウィルちゃん……」
“ウィルルルルルッ!”
“パッ!”
「ウィ、ウィルちゃんっ!」
「き、消えちゃったっ!。一体ウィルはどこ行ったのっ!、ハイレインさんっ!」
「あ、あいつぅ〜っ!、私達がやられそうだからって自分だけ助かろうと逃げ出したんじゃ……」
「ち、違うわ……ウィルちゃんは……」
ウィルから後方から追手が迫って来ていると聞き、最後の望みをかけてこの場の突破を試みようとするナギだったが、ウィルが神妙な面持ちで声を発したと思うとその場から姿を消してしまった。アメリーは霊体の能力を使ってこの場から逃げ出したと考えたようだが、主人であるハイレインにはウィルが何をするつもりか分かっているようで、その表情と声はどこか切なさを感じさせるものであった。一体ウィルはどこへと消え何をするともりなのだろうか……。
“バッ!”
「……っ!、ウィ、ウィルちゃんっ!」
「あ、あれは……あんなところに現れてウィルは一体何をするつもりなのっ!」
“ウィルルゥ……”
“……っ!、グオォッ!”
“バチッ……バチバチッ!”
ナギ達の前から姿を消したウィルだがすぐにまたちょうどこの空間の中央の上空辺りに姿を現した。その真下にはちょうどグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドもいたようで、突然姿を現したウィルのことを見上げていた。恐らく敵も何後かと思っていただろうが、その場に姿を現したウィルはまるでマッサージ機のような振動する機械のように体を小刻みに震わせ始めたと思うと全身に凄まじいエネルギーを蓄えている様子でプラズマのようにバチバチと弾けるオーラをその身から発していた。明らかに何か攻撃を仕掛けるつもりの様子でそれを見た敵のグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドも達もすぐに警戒態勢を取っていたのだが……。
「皆ぁっ!、ウィルちゃんはこれから自身の持つ最大の必殺技を放つつもりよっ!。巻き込まれように少しでもその場から離れて防御体勢を取ってっ!」
「えっ……それって一体どういうこと……ハイレインさん……」
「いいから早く言う通りにしなさいっ!、ナミちゃんっ!」
「わ、分かりました……っ!」
「それからもしなんとかできたら誰か倒れてるセイナちゃんとクラウちゃんを助けてあげてっ!。あの状態でウィルちゃんの攻撃に巻き込まれたら流石に二人共助からないわっ!」
“グオォォォォッ!”
「くっ……グランド・シャッターっ!」
“バアァァーーーーンッ!”
“……っ!、グオォッ!”
ハイレインに言われなんとか近くで倒れるセイナとクラウの元に向かおうとするブラマであったが襲い来るグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドに阻まれどうにもできずにいた。どうにかグランド・シャッターによる魔法で地面より出現した土の壁で攻撃を防いでいたが、このままではセイナ達はウィルの攻撃に巻き添えとなるを避けられそうにない。ウィルもセイナ達のことが気掛かりとなり攻撃を放つべきかどうか躊躇しているようだったが……。
「ぐっ……し、心配しないでください、皆さん……。セイナさんならこの私が……」
「……っ!、クラウちゃんっ!」
皆がセイナとクラウのことを心配する中、グレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドのシャーク・クローを受けて相当なダメージを負っているはずのクラウがどうにか最後の力を振り絞って起き上がり、満身創痍の状態で体をふらつかせながらもセイナの元へと辿り着き、ウィルの攻撃の巻き添えから守る防御魔法を発動させた。そしてセイナの身の安全を確保すると共にクラウがウィルに合図を送り……。
「……今ですっ!、ウィルさんっ!」
“ウィルッ!、……ウィルルルルルッ!”
“ビリビリビリビリビリィィーーーッ!”
“グッ……グオォォォォッ!”
クラウの合図と共にウィルは自身の体を弾けさせ周囲に凄まじい電撃を発生させた。その電撃はまるで発電所の超高電圧の電流が漏れだしたかのように恐ろしい威力で周囲の者達へと襲い掛かり、水属性で雷属性の攻撃に弱いグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイド達を焼き焦がす共に一撃で葬り去ってしまった。しかしその後電撃を放った本人であるウィルは常に体から放出されていた青白いオーラが消えウィルの本体であると思われる黒く丸い物体だけとなってしまったと思うと
、まるで全ての力を使い果たしたかのように意識を失い地上へと落下していってしまった。そんなウィルを受け止めようとハイレインは慌ててウィルの落下してくる元へと駆けて行くのだった。
「ウィルちゃんっ!」
“……バサッ!”
“ウィルゥ……”
「もうぉ……どうしてこんな無茶しちゃったの……ウィルちゃん」
“ウィルルゥ……”
「ふふっ……そう。誠実で心優しいあなたらしい理由ね」
「ハイレインさ〜んっ!。い、今の物凄い電撃の技は一体……。それにウィルはどうしちゃったのっ!」
力を使い果たしたウィルを抱きとめたハイレインの周りにナギや他の皆がウィルの心配して駆け寄って来た。ハイレインの娘でありウィルの身に起きたことが何なのかある程度予想がついていたセイレインはセイナと自身の呼び寄せた精霊であるクラウ達を回復すべく向かったようだが……。
「今のは自身の生命エネルギーを消費しては放つウィルちゃんの必殺技・ウィル・スパーク……。さっき見た通り物凄い威力を誇るけどその代わり技を使用したウィルちゃんはこの後エネルギーが戻るまで休眠状態になってしまうの。追手のサメ達が迫って来ていることを察知してこのままじゃあ皆全滅しちゃうと思ってこの技を使ったみたい……」
「そんな……。誰かに命令されたわけでもないのに今日会ったばかりの私達にどうしてそこまで……」
「ふふっ、それは今日初めてばかりの自分に宝箱を開けさせてくれたからですって、ナミちゃん」
「宝箱……それも何のことだか私さっぱり分からないんだけど……」
「大丈夫、ここにいる他の皆も分からないだろうけどきっとトレジャー君達と同じようにウィルちゃんに宝箱を開けさせてあげただろうから。……それじゃあもう後のことは私達に任せてあなたはゆっくり休みなさい、ウィルちゃん」
“ウィルゥゥ……”
“スゥー……”
ハイレインに暖かい労いの言葉を掛けられると共にウィルは眠るように目を閉じその腕の中へと姿を消して行った。ハイレインの話では今のウィル・スパークの技を放った影響でこれから三日の間完全に休眠状態となってしまい皆の前に霊体を現すこともできなくなってしまったようだ。強力な技ではあるがそのデメリットを考えるとウィルが如何にナギ達のことを信頼してその技を放ったかが分かる。ナギ達もウィルやハイレイン、それから他のサニールの屋敷の住民の霊体がもうこれ程までに自分達に対し信頼を寄せてくれていることを嬉しく思っていた。これでこそ拷問紳士から苦労してサニール達を救い出した甲斐があるものだ。この遺跡のダンジョンでの彼等の活躍を知ればヴァルハラ国の住民達もきっと幽霊であることへの誤解解き親交を深めてくれることになるだろう。
「……ハイレイン」
「あっ、セイナちゃんにクラウちゃんっ!。どうやらあなた達も無事だったみたいね〜。良かったわ〜」
「ああ……ウィルとセイレインのおかげでなんとかな……。それより今の追手が迫っているという話だが……」
「ええ、ウィルちゃんが言うには間違いないみたいだわ。それにもうすぐそこまで迫って来てるみたいよ〜」
「そうか……。ならばお前やナギ達は今の内にラディアケトゥスの元に向かってくれ。追手はここで私達が食い止める」
「分かったわ。あんな強敵と戦ったばかりだっていうのにごめんなさいね、セイナちゃん、皆」
「大丈夫よ、ハイレインさん。ウィルがあいつ等をやっつけてくれた分今度は私達の方が頑張らないと。……あっ、そうだ。ウィルにお礼がしたいって元気になったら言っておいて。私のお給料で買える範囲でウィルの欲しいものなんでもプレゼントしてあげるから楽しみにしておいてって」
「ええ、必ず伝えておくわ。ありがとうね、ナミちゃん。さぁ、それじゃあ私達は先を急ぎましょう、ナギ君、アメリーちゃん、パンナさん」
「うんっ!」
「はいっ!」
「私も了解です……。それからあの……さっきはウィルちゃんのこと疑ってごめんなさい。パンナさんにもつい酷いこと
言っちゃって……」
「いえっ!、そのことに関して私はなんと思っておりませんからどうかお気になさらないでください、アメリーさん。それにアメリーさんの言う通り皆さんを危険な目に合わせてしまったのは間違いなく私に非があることですから」
「ウィルちゃんは許してくれないかもしれないかもねぇ〜。元気になったらナミちゃんより先にまずアメリーちゃんに何かお詫びをして貰わないと」
「そ、そんな……とにかくウィルちゃんが元気になったらまた謝りに行きますから今はセイナさんの言う通り先を急ぎましょう。……さぁ、行くわよ、ドラリスちゃん」
“ドケドケッ!”
「えっ……自分もこの場に残ってセイナさん達と一緒に追手を食い止めるですって……。べ、別に構わないけどあんな奴等を相手にして大丈夫なの……ドラリスちゃん」
“ドケドケッ!”
“ラッコッ!”
「ふふっ、ウィルちゃんといいデビにゃん達といい本当に仲間モンスターの皆は勇敢で忠誠心に溢れてるわねぇ〜。主人である私達の方があなた達のことを見習わないといけないぐらいだわ〜」
「無駄話はそれぐらいにして早く行け、ハイレインっ!。もう追手はすぐそこまで来ている。水から伝わる振動で私にも察知できる程だ」
「はいは〜い。それじゃあ行くわよ〜、皆〜」
こうしてウィルのおかげでグレート・ホワイト・ドラゴシャークノイドを打ち破ることのできたナギ達はハイレインの先導の元再びラディアケトゥスの封印されている最下層を目指して進軍を開始した。ナミやセイナ達はここに残って追手のサメ達を食い止めるつもりのようだ。今度は先程と相手との立場が逆になったが通常のサメ達が相手であるならば早々ナミ達が突破されることはないだろう。後は最下層へと着いたナギ達が無事ラディアケトゥスを仲間にできることを祈るだけだが……。




