finding of a nation 133話
“ダダダダダダッ……”
「くっ……外でサメ達の相手をしてくれているナミ達の為にも早くあの巨大なボスのサメを倒す為の何かを探し出さないといけないっていうのに随分と入り組んだ構造になってるみたいね……ここは」
「はい……至るところに別れ道や部屋に入る扉……おまけに下に続く階段まであってどこから回っていいのかまるで見当が付きません。これでは闇雲に探し回っても目的のものを見つけるまでかなりの時間を要してしまいます」
ナミ達がシャドー・シャークドラゴンのリスポーン・ホストの能力によって出現したサメのモンスター達の相手に苦戦している頃、遺跡の跡地へと侵入したハンマン達は早速内部の探索を始めていた。しかし今ロザヴィとターシャの言った通り内部はここに来るまでに通って来たダンジョンのエリアよりも複雑な構造になっており、このまま普通に探索を進めては相当な時間を労してしまいそうであった。しかし外で戦っているナミ達のことを考えるとハンマンやロザヴィ達にはそのように悠長に探索をしている余裕はなかったのだが……。
「そんな時間を掛けている余裕はないわ。こうなったら危険だけどこの中に敵のモンスターがいないことを期待して更に私とターシャさん、ハンマンさんとオーケスさんの二手に別れて探索しましょう。外のサメはナミ達ができる限り食い止めてくれるだろうから」
「分かった。だが二手に別れたとして互いにどの場所から探索していく?」
「私とターシャさんは階段を最下層まで降りて行くからハンマンさん達はこのままこの階から順番に探索して行って頂戴。それが一番探索の効率がいいだろうから」
「……っ!。それでは互いのペアの距離がかなり離れてしまうことになるぞ。いざという時に互いに援護に向かうことができなければどうするつもりだ」
「言ったでしょう、危険は承知の上だって。早く私達がここの探索を終えないとその分外で戦ってる皆の負担が大きくなるんだからっ!」
「自分達の身の安全を考えてる余裕はないということか……。そういうことなら仕方ないがとはいえなるべく細心の注意を払って進めよ。俺達がやられてしまったらそもそも探索自体できなくなってしまうんだからな」
「ええ。それも十分に承知しているから安心して。それじゃあこの階から探索……、それと万が一私達を追って来たサメのモンスター達がいたらそいつらの撃退も頼んだわよ、ハンマンさん」
「ああ、任せておけ」
「……じゃあね」
“ダダダダダダッ……”
探索に掛かる時間を少しでも短縮する為ハンマン達はロザヴィの提案で更にメンバーを二手に別けて探索をすることにした。追手のサメがここへ侵入してくるのを考え戦闘力の高いハンマンに上の階の探索を任せ、ロザヴィはターシャと共に近くにあった階段から降りれるところまで一気に駆け下りて行ったのだが果たして本当にこの場所にシャドー・シャークドラゴンを倒せるようなギミックがあるのだろうか。とはいえ今のナミやカイル達にあのシャドー・シャークドラゴンを正面からまとめに戦って倒す術はなく、ハンマンやロザヴィ達には少しでも戦況を有利にできる何かがあると信じて探索を進めるしかなかったのだが……。
“グオォォォォッ”
“スッ……”
“……っ!”
「ふっ、どうやらこのサメ達もこれまでのもの達と同様に霊体である我々に対して攻撃手段を持ち合わせてはいないようですな」
「そのようね、オルトーさん。こいつ等の自慢の歯も噛める肉体のない私達の前じゃ形無しよ。周りに魔法攻撃力を付与する奴がいないことにはどうしようもないわね、あんた等。……ライトニング・ボルトっ!」
“グオォォォォッ……”
ハンマンやロザヴィ達が決死の覚悟で探索を進めている頃、ナミ達は皆の元にサメのモンスター達を通さない為懸命に迎撃を続けていた。今回の作戦には前回の館のダンジョンの攻略でヴァルハラ国の一員となったサニールの屋敷の住民の霊達も多数参加しており、リア達のパーティにいる二人の黒魔導師オルトーとマジルもナミ達同様サメのモンスター達と戦っていたのだが、なんと敵は霊体である二人に対し攻撃手段を持ち合わせていないようであった。強靭な顎と歯による強烈な攻撃も物理攻撃の効かない彼等に対しては何の意味もない。二人はその特性と敵の苦手な雷属性の魔法を駆使して効率よくサメのモンスター達を撃退していっていた。そしてそれはナミ達のパーティにいるエドワナもどうようで……。
「大丈夫っ!、ナミさんっ!」
「……っ!、エドワナさんっ!」
「周りの敵の相手は私がするからナミさんはその隙にこの“スライムバンド”の包帯を傷口に巻いて出血を止めておきなさい。スライムの体を加工して作ったアイテムで血を止めるだけでなくひんやりとした感覚で傷口を冷やしてHPも回復してくれるわ」
「ありがとう、エドワナさん。なんかちょっとヌルヌルして気持ち悪いけどとにかく巻いてみるわ。……よいしょっと」
「じゃあなるべく早くね、ナミさん。……てやぁぁーーっ!」
先程のイタチザメのモンスターに噛まれた傷を抑えながら瓦礫の影で身動きを取れずにいたナミであったがすぐさまエドワナが救援に駆け付けてくれた。先程のオルトー達と同じようにサメの攻撃を受けない自身が優先して向かうべきだと判断してのことだろう。エドワナは特に回復役の職に就いているわけではなかったがナミにスライムバンドというゼリー状の包帯を手渡し自身はナミが安全に手当できるよう周囲のサメ達の撃退へと向かって行った。このスライムバンドは素材となったスライムの種類によって多少効果が変わるようだが基本的に止血と冷却によって“出血”と“打撲”等の異常状態を解消、または緩和することができ、更にはHPの回復まで行えるようだ。ナミは包帯の片方を口に噛んでしっかりと力強く出血している左の二の腕へと巻いて行った。
「……よしっ!、これでもう大丈夫ねっ!。エドワナさんの言った通り出血と怪我の痛みもすっかり解消してるしこれならまた普段通り暴れられそうだわ。……てりゃぁぁーーっ!」
“グオォォォォッ……”
「……っ!、もう大丈夫そうね、ナミさん。念の為に回復用のアイテムを持ち歩いてて良かったわ」
「ありがとう、エドワナさん。凄く便利なアイテムをくれたおかげでこの通りあの酷い怪我が一瞬にして治っちゃったわ。私も普通の回復アイテムなら持ってたんだけど出血や怪我を治すのまでは持ってなくて……」
「いざという時の為に必要最低限のアイテムは常に持ち歩くように心掛けないと駄目よ、ナミさん。あとこういった消費アイテムは便利だけど連続で使用すると一気に効果が低くなるから気を付けてね。次にさっきのような大怪我してももうアイテムじゃどうにもできないわよ」
「これまでのゲームにもあったアイテムの使用を制限する為のクールタイムみたいなものね。アイテムの効果が利かないなら聖ちゃんの回復魔法に頼るしかないしなるべく皆に迷惑を掛けない為にも不要なダメージは受けないよう気を付けないと……」
「その通り。今の私達の目的は敵を殲滅することじゃなくてハンマンさんやロザヴィさん達が探索を終えるまで耐え凌ぐことなんだからね」
「でも私と違ってエドワナさんはそんな心配しなくてよさそうね。あいつ等さっきから何度も噛み付こうとしてるけどエドワナさんの体を通り抜けちゃって困惑しちゃってるじゃない。やっぱり只のサメのモンスターっていうだけあってそんなに知能は高くないみたいね。……たあっ!」
“グオォォォォッ……”
「ええ……でもここのボスのあの巨大なサメに限ってはそんなことはないはず……。さっきもマーリス君を口に捉えるたと思うとすぐさま離脱して反撃を受けないようにしていたし、今のナミさんへの攻撃も失敗すると無理せず引いて行ったわ。それにさっきからずっと中央の辺りを旋回して私達をそこに近づけさせないようにしてるみたいだし……てやぁっ!」
“グオォォォォッ……”
「……っ!、私もそれは思ったわ。最初にあいつがいた場所の真下にあるあのピラミッドの形をした建物を守ってるみたいね。もしかしたらあそこにあいつを倒す方法が眠ってるんじゃないかって思ってさっきから遠視で建物を覗いてるんだけど入り口となりそうなものがどこにも見当たらないのよ。近づいて調べようにもあの辺りは瓦礫も何もなくて隠れる場所もないからあそこに辿り着く前にあいつの餌食になっちゃうわ」
「霊体である私が向かおうとも思ったけど恐らくあいつはこのサメ達と違って何らかの攻撃手段を持っているでしょうし……。それに配下のサメ達が私達への攻撃手段がなく手を焼いてることにも気付いてるはずよ。このまま黙って様子を見たままでいるとは思えないわ」
「でも向こうに何も打つ手がなかったらどうしようもないんじゃない。あいつ自身はともかくこの配下のサメ全員にまでエドワナさん達への攻撃手段を与えるなんていくらなんでも……」
“グオォォ〜〜ンッ!”
「……っ!、な、なに……っ!」
ナミはエドワナから貰ったスライムバンドを腕に巻き終えて再び共にサメのモンスター達を撃退していた。次々と襲い掛かるサメ達を物ともせず殴り倒しながらエドワナと敵の考察をしていたのだが、その時突然元いた空間の中央の位置に戻ってナミ達と配下のサメ達の戦いの様子を見ながら静観していたシャドー・シャークドラゴンの激しい咆哮が全体に響き渡った。何事かと思いシャドー・シャークドラゴンに視線を向けるナミとエドワナだったが、それよりも注意を向けるべきは周りにいるリスポーン・ホストの能力によって出現したサメのモンスター達の身に起こった変化だった。
“ヴィーン……バッ”
“グオォォォォッ!”
「ま……まさかこれは……」
「ちょっとっ!。なんか突然こいつ等の歯が青く光始めたんだけどどうなってんのっ!。まさか今のあいつの雄叫びのせいでこうなったのっ!」
「恐らくね……。これはあの巨大なサメが配下のリスポーン・ホストのモンスター達に様々に効果を付与するリスポーン・エンチャントの能力を発動したせいだわ。どうやら配下のサメ全員に水属性の魔法攻撃力を与えたみたい……」
「水属性の魔法攻撃ですってっ!。それじゃあまさかもうエドワナさん達にも……」
「ええ、もう私達の霊体をすり抜けることなく攻撃を仕掛けてくるでしょうね。これからはナミさん達と同じようにこいつ等の強靭な顎と歯とに気を付けながら戦わないといけなくなったわ」
「くっ……折角のこっちの有利な点がこんなにもあっさり破られちゃうなんて……。いくらなんでも配下のモンスター全員を強化する能力なんて強すぎよっ!」
「だけどリスポーン・エンチャントの能力を発動、更にその効果を維持するには莫大なEPとMPを消費するわ。それに能力を発動してる間あいつ自身のステータスにもかなりの減少効果が付与されるはず……」
「でもいくら能力が下がったところで今の私達はこのサメ達の相手で手一杯であいつに攻撃を仕掛けることなんてできないじゃないっ!。もっとこっちに戦力が揃っていればあいつに攻撃する役割を分担して戦うことができるかもしれないけど……」
「そうね……。最中敵な合流地点が同じなら他のエリアに転移したパーティもこの場所を目指して進軍しているはずだろうし今は彼等が援軍に来るを期待して耐え凌ぐしかないわ。もし全てのパーティがここに到着すればこっちの戦力は80人……。流石にそれだけいれば何かあいつに対抗する為の手立てを打てるはずよ」
「でも80人全員が辿り着けるかどうか分からないし私達がそれまで耐え凌げるかどうかも怪しいわ……。うぅ〜、ナギぃ〜、デビにゃぁ〜ん、皆ぁ〜。勿論皆も全力でここを目指してるだろうけどこのまま私達だけで戦ってたら全滅しちゃうからなるべく早く来てぇーーっ!」
エドワナ達の特性により多少は有利に戦えると思ったのも束の間、シャドー・シャークドラゴンのリスポーン・エンチャントの能力によってあっさりと打ち破られてしまった。とはいえ魔法攻撃力が付与されただけで配下のサメ達のステータス自体は変わっていない為エドワナ達であれば対等な条件で戦ってもこれまで通り圧倒できるだろうが、このままリスポーン・ホストのモンスター達の相手をさせられ続ければナミの嘆いていた通りこちらの方が先に力尽き全滅させられてしまう。とはいえ現状ではシャドー・シャークドラゴンに向かって行ったところで返り討ちに合うだけなのは目に見えており、ナミ達はナギや他のエリアから転移して来たパーティ達がなるべく早くここに辿り着いてくれることを願うしかなかった。




