finding of a nation 131話
一方既に最深部へと辿り着いたナミ達であったがそこに出るや否や思いも掛けないような壮絶な光景が皆の目に飛び込んできた。ナミ達が通路を出た先はこれまでとは比べ物にならない程広大な空間となっており、そこには透き通った水の中に美しく煌めく砂浜の景色が広がっていた。しかしダンジョンの外に出たというわけではないようで、遠目であるが四方に空間を囲むように巨大な壁が聳え立っているの見えた。どうやらナミ達はその内の一方の壁側から出て来たようだ。他にもここへ通じる通路はあるようで、ナミ達が出て来た場所以外にもここへの出口と思われる暗がりとなった箇所が等間隔にいくつか並んでいた。恐らく他のエリアからここへと通じているのだろう。またこの空間に天井はないようで、差し込んで来る日差しによって波の模様の煌めく美しい水面を見上げることができた。他の場所と比べてこの空間がかなり明るくなっているのもそのおかげだろう。とはいえダンジョン内部である為水面が見えるといってもそのまま水の上へと出ることができるかどうか分からないが……。実際のこの空間の面積は500平方メートル以上はあり、水面までの高さも100メートル程はあった。ナミ達が出て来た通路の出口は水底から30メートル程の高さの位置にあっただろうか。また水底の砂浜には遺跡の残骸と思われるもののが数多く埋まっており、中には内部へと侵入できそうなものもあった。しかしナミ達が言葉を失う程の驚いているのはそのような景色に対してではなく、その中央で禍々しいオーラを纏って佇むある存在だった。
「い、一体何なのよ……あいつは……。もしかしてあいつがこのダンジョンのボスモンスターなの……っ!」
“グオォォォォッ……”
ナミの前に佇むある存在……それはもの凄く巨大なサメの姿をしたモンスターであった。但しサメと言ってもここに来るまでにナミ達が倒して来たような実物のサメやサメの魚人などではなく、刃のように鋭利な背鰭の両側からは巨大な翼が、胸鰭の下部からは手に鋭く尖った爪を備えた人間と同じ形状の腕が生えていた。胴体はサメにしてはかなり長細く、また胸鰭のある後ろの辺りから大きく折れ曲がり尾鰭の先が完全に下を向いていたその姿は“サメのドラゴン”と言い表せるようなもので、更にその元となったサメは最凶の人食いザメと称されるホオジロザメのようでもあった。そのサメのドラゴンの全長は優に20メートルを超えており、腹部を除いて通常のホオジロザメより更に黒い色の皮膚に覆われより凶悪で残虐なイメージをナミ達に感じさせていた。どうやらまだナミ達には気付いていないようで空間の中央で水中に浮きまるで眠ったように静かに佇んでいたのだが、それでもナミ達はその敵の姿だけで悍ましい
までの脅威を感じ取りその場から身動きが取れずにいた。
「わ……分かんないけど雰囲気からして多分ナミちゃんの言う通りあいつがここのボスモンスターだと思う……。だけど思ってたよりずっと強そうで正直言ってかなりビビっちゃってるよ……」
「あんな悍ましい姿を見せられたら無理もないわ、レミィ……。ボスって言うんだから当然通常のモンスターよりは全然強そうな奴なんだろうとは思ってたけどまさかあんな奴が出てくるなんてね……。エドワナさんはあのサメとドラゴンの姿をしたモンスターについて何か心当たりある?」
「いいえ……私も恐らくここのボスで相当凶悪なモンスターであろうということしか分かりません、ロザヴィさん。ですが幸いにも敵はまだこちらに気付いてないようです。今の内に奴と奴との戦いのフィールドとなるこの空間をよく観察しておきましょう」
「この空間……見たところ相当広い場所で地面は一面砂浜になってるみたいね。ところどころに小さい遺跡の跡地や瓦礫みたいなのが埋もれてるみたいだけど……それが奴との戦いに何か役に立つの?」
「まずこれだけ広い空間であれば如何に敵が巨大であるといえど我々もそれなりに距離を取って戦うことができるはずです。更に地上にある遺跡の跡地や瓦礫に身を隠すことも可能でしょう」
「……っ!、そっかっ!。地形を利用して戦うことも重要ってことね。あの遺跡の残骸みたいなのには内部に入れそうなものあるしそこに隠れてしまえさえすれば体のデカイあいつは入って来れないわ。最初はそうやって身を隠しながら戦って
あいつの攻略法を見出していけってことねっ!」
「そういうことよ、ナミさん。後は実際にどういう戦略で戦っていくか考えてから行動を開始しましょ」
「OKっ!、それじゃあ私は遠視で拡大して見てもう少しあいつの様子を観察してるわね。まぁ、いくら見ても凶悪な姿をしてることしか分からなさそうだけど……」
相手がまだこちらに気付いていない間にナミ達は相手の様子と戦場となるフィールドを観察しじっくりと戦略を練り始めた。敵の情報を得るにはアナライズ等の分析魔法を掛けるのが一番効率がいいがその場合当然敵に気付かれてしまいすぐさま戦闘が開始されることになる。ここから動きさえしなければ敵に気付かれることはなさそうではあったのだが、ナミ達が戦略を立てている間に他のパーティがこの場に到着してしまう可能性がある。その時そのパーティのメンバー達が敵に攻撃を仕掛けたりしてしまえばナミ達も強制的に戦闘に参加しなければならなくなってしまうが……。
“ダダダダダダッ……”
「よっしゃっ!。とうとう出口らしきものが見えて来たぜ。きっとあの光の先にこのダンジョンのボスの野郎がいるに違いないっ!」
「仮にそうだったとしてもさっきも言った通り勝手に相手に仕掛けていっちゃ駄目だよ、レイチェルっ!。もしかしたらもう先に辿り着いたパーティ達が戦闘を開始してるかもしれないけどその場合も無闇に戦闘に参加しないで状況を確認するのが先だからね」
「分かってるって。けどもし他の奴等がやられそうになってたら私は迷わず助けに行くぜ。勿論自分のパーティの方が大事なのは分かってるが他の奴等だって同じヴァルハラ国の仲間なんだからな」
「その時は僕はすぐに判断して指示を出すからあの光の先に着いたらとにかく一度止まってっ!。何も考えずに助けに行っても却って状況が悪くなるかもしれないからっ!」
「へいへいっと……。まぁ、リーダーの判断を待ってから行動するのは当然のことだわな。……てかそんなことよりそろそろ通路の先に着くぜ」
“バッ!”
「……っ!。ってな……何なんだ……あいつはっ!」
ナミ達に続いてカイル達もあのドラゴンの姿をしたサメのモンスターのいる最深部の空間へと辿り着いたようだ。ここに来る途中でカイルはすでにボスとの戦闘が開始されている状況も考慮していたようだが、先に辿り着いていたナミ達も状況の把握と戦略を立てている最中で特にまだ大きな行動は起こしていなかった。そして最深部に辿り着くや否やあのドラゴンの姿をしたサメのモンスターを確認したカイル達もナミ達と同じように動揺し……。
「あ、あいつがこのダンジョンのボスモンスターだってのか……。レイチェルの奴は俺達のパーティだけで倒してやるとかほざいてやがったが俺には到底無理としか思えないぜ……」
「落ち着いて、ヴィンスっ!。確かに見た目はかなり凶悪そうだけど実際のレベルやステータスはアナライズなんかでデータを得てからでないと分からない。それよりもさっきも言った通りまずは状況の確認をしないと……。もしかしたら何処かに先に到着したパーティがいるかもしれないし皆で辺りを見回してみよう」
「あ、ああ……そうだな」
ドラゴンの姿をしたサメのモンスターに驚きを隠せないカイル達であったがなんとか冷静さを取り戻しナミ達と同様に慎重に周囲の様子を観察し始めた。どうやら何処かに他のパーティがいるかもしれないと考えているようだが、そんな中同じく先程最深部まで後少しというとこまで来ていたリア達のパーティもここへ到着するのだった。
「な、何なんだ……あれは……」
“グオォォォォッ……”
「こ、ここに来るまでに出てきたサメなんかとは比べ物にならないくらいでけぇ……。しかも只のサメじゃなくてドラゴンみてぇに巨大な翼が生えてやがるし……。あんなのの相手俺達だけでできるわけねぇぜ……なぁ、塵童」
「ビビってるならとっとと逃げ帰りやがれ、マーリス。俺は相手がどんな奴だろうど関係ねぇ。今すぐこの手でぶっ倒してやる」
「待ちなさいっ!、塵童っ!。まだ向こうはこっちに気付いてないんだから下手に動くことないわ。一先ず様子を窺ってから戦略立てることにしましょう」
「ちっ……分かったよ」
リア達もナミやカイル達と同様ドラゴンの姿をしたサメのモンスターに動揺しつつも周囲の様子を確認しながら冷静に戦略を立てていった。3組のパーティの到着した場所はそれぞれ別方向の壁側でナミ達から見て正面にリア達、右側にカイル達となっていて、距離もかなりあった為肉眼では中々確認できなったのだが、このゲーム内では皆遠視の能力で望遠鏡のように周囲の様子を拡大して確認することができる為3組ともすぐ互いの存在には気付くことができるだろう。その後でどうにか連絡を取って3組のパーティで上手く連携を取ることができればいいのだが……。
「……っ!。ねぇっ!、私達の正面の壁の通路の一つに塵童とリア達がいるわっ!。向こうもまだあいつに気付かれてないみたいで通路を出たところで皆動かずにいるみたいよ」
「本当っ!、ナミちゃんっ!。それならどうにかしてあいつと戦う前に連絡を取って一緒に戦略を立てないところだけど……」
「それなら端末パネルで通信が繋がるか試してみればいいんじゃない。違うエリアにいる時は無理だったけど互いにここに到着したことで繋がるようになってるかもしれないわ」
「確かにそうかもしれないね。なら早速試してみるわ、ロザヴィちゃん」
遠視でドラゴンの姿をしたサメのモンスターの様子を窺っていたナミだったがその向こうの壁の入り口の一つにリア達のパーティがいるのを発見した。ロザヴィに促されたレミィが早速端末パネルを開いて連絡を取ろうと試みると予想通り合流地点に到着したおかげかすぐに通信が繋がって互いに通話ができるようになった。その後こちらの存在に気付いたカイル達からも通信が来て3組のパーティで戦略を立てることになったのだが……。
「う〜ん……なる程……。やっぱりリアもカイルもエドワナさんと同じでまずは地上の物陰に隠れながら戦って相手の情報を得ようって考えなわけね」
「そうよ。できればこのまま気付かれないように地上に下りて周囲の探索をしてから皆でベストと思える配置について戦闘を開始したいわ。地上の遺跡の残骸の中には内部へと入れそうなものもあるしもしかしたら何処かにあいつを攻略する為の鍵となるようなものを見つけられるかもしれないしね」
「あいつを攻略する為の鍵……」
「こういったダンジョンでは敵に対して有効なギミックが配置されてることが多いからね。身を隠すのに有効なあの遺跡の残骸もその一つだろうけど、ダメージを与えたり動きを止めたりあいつを倒すのに直接役立ちそうなものも設置されている可能性は高いよ」
「確かにそういったギミックを駆使して戦うのはボス戦の基本よね。だけど地上を探索してる間にあいつに気付かれて戦闘が始まっちゃったらどうするの?」
「その時は最初の予定通り地上の物陰に隠れるしかないわ。2〜4人くらいの組の分かれてなるべく広く散開するのが理想ね。かなり大型の敵が相手だからあまり大勢で纏って行動していると一度の攻撃で全滅させられる恐れがあるから」
「広く散開……なるほど。この広い空間を最大限に利用して常に相手を囲む形で戦うってことね。確かにそれが一番リスクが少なくて敵に対しても有効な戦術かも」
「だけど恐らくまたリスポーン・ホストのモンスター達も大量に出てくるだろうからそれにも気を付けてね、ナミ。あいつ自身は無理でもリスポーン・ホストのモンスター達なら僕達が隠れてる物陰に侵入して来れるかもしれないから」
「うっ……そうか。なんかまた数に押されて防戦一方になっちゃうことを考えると気が滅入っちゃうわね。まぁ、ボスモンスターが周りに配下を従えてるのはいつものことだから仕方無いけどこのゲームの場合は無限に沸き続けるっていうのが面倒なのよねぇ……」
3組のパーティで通信をしながらナミ達はドラゴンの姿をしたサメのモンスターに対抗する為の戦略を立て終えた。広い空間を最大限に活かす為に更に複数を組みに別れて幅広く展開する作戦のようだが、できれば気付かれないように地上に下りたいようでナミ達は慎重に断崖となった通路の先へと足を踏み入れていったのだったが……。




