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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十五章 リベンジっ!、川底の遺跡の探索
131/144

finding of a nation 128話

 「着いたぞ……どうやらここがパンナの棺がある部屋のようだ」

 「えっ……あっ!、本当だっ!。あの部屋の中央にあるのがパンナさんの棺だね。他に棺らしきものは見当たらないしそれで間違いないよね、パンナさん」


 スピリット・チャネリングによって繋いだ通信でパンナからの指示を受けたナギ達はちょうど今その目的地であるパンナの棺の置いてある部屋へと辿り着いたところだった。ここまでの道中は多少のモンスター達に出くわしたものの特に強敵というわけでなく難無なんなく進んでこれたようだ。ナギ達の辿り着いた部屋はこれまでの通路と変わらないレンガ造りで少し広めの空間となっており、部屋の中央にパンナの棺があること以外は特に他の部屋と変わったところはないように思われたのだが……。


 「“はい、あの棺の蓋を開けて頂ければ私の魂が解放されます。その後で例の‘霊媒人形’のアイテムをこの場で使用して頂ければ……”」

 「パンナさんの魂が人形に憑依して僕達の前に姿を現してくれるんだよね。だったら早く棺を開けてあげようよ。僕も早くパンナさんが実際にどんな人なのか見てみたいし……」

 「ナギの言う通りじゃっ!。ワシも早くパンナちゃんの姿を拝んでみたくてウズウズしとるっ!。神獣使いなどというからにはきっとセイレインちゃんにも負けんくらいしとやかで美しい姿をしとるはず……」

 「分かった。では私とナギで棺を開けるから他の者達は念の為周囲を警戒しておいてくれ」


 パンナの遺体が埋葬されている棺はナギ達の世界でもよく見る六角形で蓋の中央に十字架の紋章の施された西洋風のものであった。かなり整った形状であったが石材を使用して造られているようで、その点は材木を主な素材としているナギ達の世界のものと違いようだったがこれもゲームの世界においてのことであろう。また蓋の造りも開閉のできる扉ではなく上から乗せてはめ込む形のものとなっていた。その石でできた重い蓋をナギとセイナは二人で上下に分かれて持ち棺を開けようとしていたのだが……。


 「……せーのっ!」


 “ゴゴゴゴゴゴォッ……ドオォンッ!”


 「よし……開いたぞ」


 ナギとセイナが棺の蓋を横へスライドさせると石の擦れる重苦しい音がしてそのまま地面へと引きずり下ろされる共に大きな衝撃音が部屋中に鳴り響いた。ナギ達が開いた棺の中を覗き込むとそこには完全に白骨化したパンナのものと思われる遺体が胸に両手を合わせて祈る格好で埋葬されていた。遺体の周りには白いユリの花が敷き詰められており、生前のパンナは純粋で穢れのない淑女のようであったことを連想させた。パンナの遺体を確認したナギ達は早速その実際の姿を見てみようとセイレインの持って来た霊媒人形のアイテムをパンナの祈る手の上へと置いたのだったが……。


 「これがパンナさんの遺体……みたいだけど完全に白骨化しちゃってるよ。別にゲームの世界なんだからそこまでリアルな表現に拘らなくてもいいのに……」

 「普通にパンナさんの肉体を寝かせて置いておいてくれても何の変わりもないのにな。凄い技術を使ってるくせにそういうところは融通を利かせてくれねぇんだから、このゲームは。白骨化してるから大分マシだがちゃんと死体の匂いまでしやがるしよ……」

 「ふむぅ……これではこの遺体の生前の姿がまるで分からないが本当に君のもので間違いないのか、パンナ」

 「“はい、皆さんには見えないかもしれませんがすでに私の魂は解放され今もその遺体の上で皆さんに話掛けております。相変わらずスピリット・チャネリングの通信を通してでないと声を届けることもできませんが……”」

 「そうか。ではこの場で霊媒人形を使用しても大丈夫ということだな。……ではセイレイン」

 「はい、ではここに人形を置きますね、パンナさん。スピリット・チャネリングによって繋がった通信を通して人形にパンナさんの魂を登録しておいたので仮にこの場に他の魂があっても人形へは憑依できないはずです」

 「“ありがとうございます、セイレインさん。……では人形から少し離れていていください、皆さん”」


 “パアァァ〜〜ン……”


 白骨化した遺体に“ゲームの世界なのにここまで……”っとナギと爆裂少女は疑問を投げ掛けていたが、当の本人であるパンナはそれ程気にした様子はなく、セイナの指示に従って棺の前に置かれた人形への憑依を始めた。すると地面に置かれた人形が突如として立ち上がったと思うとそのまま宙へと浮かび上がり、ナギ達の視線の高さまで来たところで青白いオーラを発し始めた。そのオーラは人形の体から段々と膨れ上がっていき、ある程度の大きさ……ナギ達通常の人間の大人程のサイズになったところで今度は何かの形を作り始めた。最初は星形のように5つの出っ張りがある形となっていったのだが、出っ張りの先が完全なかどになる前にそれぞれ頭……そう、それはまさに人間の両手両足をかたどっていった。その頭となった箇所には顔のパーツ、目、鼻、口、耳、髪の毛、胴体と思われる部分には女性の胸、体に纏っていると思われる衣服まで形を成し始めていた。そしてナギ達の目には実際に人間の質感があるようにまで感じられるようになり、最終的に肌から衣服に至るまでそれぞれ相応しい色彩が染み渡っていったと思うとそこにはパンナと思われる女性の姿があったのだった。

挿絵(By みてみん)


 「う、うわぁ……本当に人形が女の人の姿になっちゃったよ……。あ、あなたがさっきまで僕達に話掛けて来ていたパンナさんなの……?」

 「はい、ナギさん。皆さんのおかげでこうして生前の姿を取り戻すができました。人形の効果が切れるまでの僅かな間となりますが皆さんのお役に立てるよう全力を尽くしますのでどうぞよろしくお願いします」

 「お、おお……こちらこそよろしく……。しかし思っとった通りなんと清楚で美しい女性じゃっ!。しかも霊体の姿になって現れると思いきやワシらと同じようちゃんと肉の付いた体を持っておるよう……それも豊満で超スタイルのいいっ!。どれ、ちょっとワシが実際にパンナちゃんの体を触ってちゃんと憑依できておるか確認……」

 「やめろっ!、エロ爺ぃっ!。折角俺達のことを助けようと出て来てくれた女性にいきなりセクハラしてんじゃねぇっ!。てめぇの淫らな行為このアクスマンが絶対に許さねぇから覚悟しとけっ!。パンナさんももしこの爺ぃにやらしい真似をされたら遠慮なく俺に言ってくださいっ!」

 「ぐっ……正義漢せいぎかんぶった若造が……。本当は自分だってパンナちゃんの姿に興奮しとるくせに自分だけえ格好しよってからに……。なんで正直者のワシがいつもこんな肩身の狭い思いをせなにゃらんのじゃいっ!」


 ナギ達の前に現れたパンナは純白の聖なるローブに身を包んだ清楚で美しい女性の姿をしていた。肩に先が掛かる程度の白く透き通った髪の毛をしており、ローブに施された黄金、恐らく純金でできたカフスが神の使いと呼べるような神々しさをもかもし出していた。勿論男性からしてみれば魅力的に思える女性だろうが、あまりボンじぃのように赤裸々な態度で好意を述べるのは気が引けてできないタイプの相手だろう。相手のオーラに押されてアクスマンのようになんとなく誠実さをアピールしてしまうのがほとんどではないだろうか。勿論その方が見栄を張った態度であったとしても健全ではある。とにかく無事パンナの魂を人形に憑依させることに成功したナギ達は早速この遺跡に封印されているネイションズ・モンスターについての話の続きを問い質そうとしたのだったが……。


 「はぁ……もう男共の戯言は聞き飽きたからちょっと黙ってろよ。そんなことよりパンナさんから話の続きを聞かせてもらうのが先決だろ」

 「爆裂の言う通りだ。肉体を得たばかりで済まないが先程までの話の続きを聞かせてくれ、パンナ。確かこの遺跡に封印されているラディアケトゥスというネイションズ・モンスターを仲間にするのに君の力が必要ということだったが……」

 「そうそうっ!。それにそのラディアケトゥスの力を得ないと僕達が全滅させられちゃうとも言ってたよね。そんなに強大な力を持つこの遺跡のボス・モンスターって一体どんな奴なの……」

 「ええ……それについてなのですが……」

 

 “ゴゴォッ……”


 「……っ!、パンナっ!、後ろだっ!」

 「えっ……!」


 “グオォォォォッ!”


 「こ、これは……っ!」


 パンナはナギ達に話の続きをしようとしたのだが、その時突然パンナの背後の地面に黒い円形の模様が出現し、その中から先程も不仲達の元に襲い掛かって来たソー・シャークノイドがゆっくりと浮かび上がってくるようにその姿を現した。セイナの掛け声に咄嗟に反応したパンナは直ちに向きを変え皆の側へと移動したのだが、その後も次々とその黒い円の模様が浮かび上がり中から様々種類のサメの魚人モンスター達が出現しあっという間にナギ達の周りを取り囲んでしまった。当初ナギ達がこの部屋に入っていた時はどこにもこのようなモンスター達が潜んでいる気配感じられなかった。どうやら黒い円の模様がモンスターをこの場に呼び出すポータルのような役割を担っているようだが、一体何が原因となってこの場に出現したのだろうか。


 「こ、こいつら……一体どこにこんな大量のモンスター共が潜んでやがったんだっ!」

 「いや……恐らく何かがきっかけで仕掛けが作動しこの場に現れたんだ。……そんなことよりアクスマンっ!」

 「ああっ!、俺は背後に出て来た奴等を迎え撃つっ!」

 「よしっ!、ならば爆裂少女は右側っ!、デビにゃんとシャインは左側の奴等を頼むっ!」

 「了解っ!」

 「了解にゃっ!」


 “グオグオッ!”


 突如出現したソー・シャークノイド達を前にセイナはすかさずパーティのメンバー達に指示を出し、まずは直接戦闘能力の高い者達をそれぞれ四方の敵の迎撃に向かわせ押し込まれないよう陣形を整えた。しかし敵のモンスター達もこの場に現れた者から次々と行動を開始し、まずは一番初めにパンナの背後から現れたソー・シャークノイドが不仲達の元に現れた者と同じように両手のノコギリの刃をチェーンソーのように回転させナギ達へと襲い掛かろうとしていたのだが……。


 “ギュイィィィィィィンッ!”

 “グオォォォォッ……!”


 「……っ!、早く私の後ろに下がれっ!、パンナっ!」

 「えっ……」

 

 “グオォォォォッ!”


 「くっ……」


 “ガキィーーーンッ!”


 一番初めに現れたソー・シャークノイドだが、目の前で対峙するセイナではなくその少し横に下がって立っていたパンナの方を目掛けて襲い掛かって来た。瞬時に反応してパンナの前に移動してソー・シャークノイドのノコギリの刃の斬撃を受け止めるセイナであったが、相手の左手にはまだもう一つのノコギリの刃が残っていた……。


 “ギュイィィィィィィンッ!”


 「くっ……」

 「……っ!、セイナさんっ!」


 “パアァァァァーーンッ!”


 「……っ!、今のは……っ!」

 「私のバリアで敵の攻撃を防ぎましたっ!。今の内に止めを、セイナさんっ!」

 「そうか。助かったぞ、クラウ。……シバルリー・キャリバァァーーッ!」

 

 “ズバァーーーーンッ!”

 “グオォォォォッ……!”


 自身の右手の刃を受け止めた状態で身動きの取れないセイナに対しソー・シャークノイドはすぐさま左手の刃を振り上げセイナの首元目掛けて斬りつけようとしたのだが、その時突如セイナの肩の前でバリアを作り出し相手の斬撃を弾き返したのだった。ソー・シャークノイドの斬撃は見かけ以上の威力を誇っていたはずだがそれを難無く弾き返すとはクラウのバリアの強度もかなりのもののようだ。それにより攻撃を仕掛けたはずが逆に体勢を崩し隙のできたソー・シャークノイドを見てセイナは直ちにシバルリー・キャリバーを放って一撃で相手を斬り伏せた。そして相手を倒しただけでなく今の敵の行動を見てセイナは何かに気付いたようで……。


 「気を付けろっ!、パンナっ!。恐らくこいつ等は君のことを狙って来ているっ!」

 「えっ……」

 「なんだってっ!。それは一体どういうことだセイ……」


 “グオォォォォッ!”


 「……っ!、危ねぇっ!、パンナっ!。……はあっ!」


 “ヒュイィィィィィィンッ……ズバァッ!”

 “グオォォォォッ……!”


 セイナの言葉の真意を問い質そうとするアクスマンだったが、そんな間もなく目の前にいたオナガザメの魚人モンスターであるスレッシャー・シャークノイドが先程のソー・シャークノイドと同じように自分を無視してパンナに襲い掛かって行った。それを見たアクスマンは慌てて自身の斧をスレッシャー・シャークノイド目掛けて投げ放ったのだが、その斧は見事相手の頭部に横から突き刺さり、スレッシャー・シャークノイドはピタリを動きを止めてしまいそのまま地面に倒れ込んでしまった。現在アクスマンは武器を両手持ち専用の大型の斧から片手でも容易に扱える小型の斧へと切り替えており、パワーが落ちた分武器の使い勝手が良くなった為敵の動きに素早く対処することができたのだろう。武器を切り替えたことで空いたもう一方の手には軽量の盾まで装備しており、どういった心境の変化かは分からないが最近はこれまでのように力で敵をねじ伏せるより相手によって臨機応変に対応できる戦い方を心掛けているようだ。


 「なんでか知らねぇがどうやらセイナの言ってることは本当みたいだな。確かパンナさんの憑依してる霊媒人形じゃ本来の力の10分の1も発揮できねぇって言ったしそれってかなりマズイ状況なんじゃねぇか……」

 「その通りだ、爆裂。恐らく今のパンナは我々に比べて紙切れ程の耐久力しか持ち合わせていないだろう。一撃どころか敵の攻撃に少しかする程度でもHPが0になってしまうだろう……」

 「ちっ……それでもしパンナさんが倒されちまったらどうなるんだ。蘇生魔法を使ったりすればまた人形に憑依した状態で復活させることができるのかよ」

 「“いえ……もし私が倒されてしまった場合憑依は解除されてしまい憑依に使用していた人形も消滅してしまいます。元論他の人形を使用して頂ければそれに憑依することはできますが……”」

 「ですが私ももうパンナの憑依に使えそうなアイテムは持っていませんっ!。ここでもしパンナさんが倒されてしまえばもうリリスさんの体に憑依して貰うしか方法がなくなってしまいますっ!」

 「マジか……。もうパンナさんのことは大分信用してるとはいえできればそうなることは避けた方が良いよな……。ってことはなんとしてもパンナさんが倒されないよう私達で守り切らねぇと……」

 「そういうことだ。今爆裂が言ったことを心して掛かってくれ、皆っ!」


 どうやら今のパンナのHPが0になってしまった場合人形への憑依は解除されてしまうようだ。もうナギ達の手元に霊媒人形の代わりになるアイテムはなく、仮にそうなってしまった場合後はリリスの体にパンナを憑依させるしか手がなくなってしまうがナギ達としてはできればその状況は避けたいところだ。その為にセイナも皆に気合の込もった号令を飛ばしていたのだったが……。


 「にゃあぁぁぁぁーーーっ!、そういうことならパワーアップした僕達がこいつ等を一掃してパンナさんを守って見せるにゃぁぁーーっ!。いくにゃぁぁーーっ!、シャインーーっ!」


 “グオグオッ!”


 「ちょっと待ってっ!、二人共っ!。戦う前に僕の魔法で強化を……。ここは水の中で水属性の敵にもシャインのブレス攻撃はあまり通らなそうだから……えーいっ!、メタル・フェイク・ネイルっ!」


 “パアァァ〜〜ンッ!”

 “……っ!、グオオッ!”


 「デビにゃんにはこれっ!。仲間モンスターにかつて野生だった頃の力と感覚を取り戻させるワイルド・パワーの魔法っ!。……え〜いっ!」


 “パアァァ〜〜ンッ!”


 「こ、これは……なんだかナギ達に出会う前この広い世界をたった一人で必死に生き抜いていたギラギラした感覚が戻って来たにゃっ!」


 セイナの号令に触発されパンナを守ろうと息巻くデビにゃんとシャインであったが、そんな二人をサポートする為ナギは新たに転職することのできた魔獣術士の職の魔法を使用した。シャインに使用したのはモンスターの攻撃に使用できる爪を金属化して強化するメタル・フェイク・ネイルの魔法、これでシャインもブレスによる攻撃を使わずとも近接戦闘で敵と対等に渡り合えるようになるはずだ。デビにゃんに使用したワイルド・パワーの魔法は近接戦闘に関わるステータスを強化する共により本能的な行動を取れるよう促すものであるが、本能に準ずることにより咄嗟の判断を素早く行動に起こすことができる。分かりやすくいうと迷いのない判断と行動ができるようになるということだが、近接戦闘を征する為にはかなり重要なこととなってくるはずだ。


 “グオォォォォッ!”

 “グオォォ〜〜ンッ!”

 “ズシャァァァァッ!”

 “グオォォォォッ……!”


 ナギのメタル・フェイク・ネイルで強化された自身の爪を嬉しそうに眺めていたシャインだったが、敵の一体である不仲達の前に現れたマコ・シャークノイドが大きな雄叫びを上げて三日月の刃の斧槍ふそうを振り上げながら立ちはだかると瞬時に戦闘態勢へと切り替わった。そして敵の懐目掛けて一気に飛び込んで行ったと思うと、ナギに強化して貰った爪を凄まじい勢いで振るいあっという間に相手の腹を斬り裂き一撃で倒してしまった。この様子ならシャインも十分敵との近接戦闘をこなしていけそうだ。


 「やるにゃっ!、シャインっ!。よ〜しっ!、僕もシャインに負けないようにナギに格好いいところを見せてあげるにゃっ!」


 “グオォォォォッ!”


 「相手は今シャインが倒した僕と同じ斧槍を持ってる奴だにゃ。互い同じ得物えものでの対決とは面白い……。どっちが本物の斧槍使いか今分からせてやるにゃっ!。……てにゃぁぁぁぁーーーっ!」


 “ガキィーーーンッ!”


 「う、うお……っ!。なかなかやるにゃ……こいつ……」


 シャインに続いてデビにゃんも目の前に現れたマコ・シャークノイドとの戦闘を開始した。どうやらナギ達のパメラを守る陣形にあまりに隙がなさ過ぎて敵もパメラを直接狙うのは諦めたようだ。三日月の刃の斧槍を振るうマコ・シャークノイドに対抗してデビにゃんも新たに装備できるようになったばかりのドラワイズ族のバルディッシュで斬り掛かり同じ斧槍対決となったのだが、息巻いていたわりにシャインのように敵を圧倒できず逆にデビにゃんは相手のパワーに押され劣勢に立たされてしまっていた。なんとか相手に押し切られないように懸命に武器を振るってはいたのだが……。


 「このままじゃ駄目だ……。一度そいつから離れて、デビにゃんっ!」

 「ナ……ナギ……」


 “グオォォォォッ!”


 「くっ……にゃぁっ!」


 “ガキィーーーンッ!”


 ナギの声に咄嗟に反応したデビにゃんは敵が強い斬撃を放とうと武器を少し大きめに振り上げた隙を見て素早く体を横に転がし相手との距離を取った。しかし既に攻撃体勢に入っていたマコ・シャークノイドの斬撃は止まらず、振り下ろされた武器の刃が甲高い金属音と共に地面へと突き刺さった。そして攻撃が空振りに終わったマコ・シャークノイドはその反動で一時的に動きが止まってしまい……。


 「今だっ!。“スゥゥゥゥッ……ビュオォォォーーーッ!”」

 

 “グ……グオオッ!”


 「にゃにゃっ!、ナギの口から凄まじい冷気の風が……っ!」

 「今だよっ!、デビにゃんっ!」

 「わ、分かったにゃ……っ!。にゃあぁぁーーーっ!、必殺ハルバート・スラッシャーにゃぁぁぁーーっ!」


 “ズバァーーーーンッ!”

 “グ……グオォォォォッ……!”


 デビにゃんが相手から離れたのを見たナギだが突然体を後ろに仰け反らせる体勢になる程大きく息を吸い込み、少し間を置いたと思うと今度は勢いよく顔を前方に突き出しそれと同時に溜め込んだ空気を全てようやく武器を引き抜いたところであったマコ・シャークノイドに向けて吹き放った。しかし如何に大きく息を吐いたところでどうやって敵にダメージを与えるのかと思われたのだが、ナギが吹き放ったのはただの呼吸による息の風ではなく、まるで南極にでも吹き荒れているような凄まじい冷気を帯びた息吹だった。どうやらナギが魔獣術士となったことで使えるようになった“コールド・ブレス”という技のようで、敵にダメージを与えるだけなく相手の体を凍結させて動きを封じる効果まで備わっていたようだ。その効果は水属性の相手に対しては特に絶大だったようで、マコ・シャークノイドの体の表面は薄く張った氷に覆われて来ており、折角武器を引き抜いたというのに寒さと凍り付いた体のせいで相当動きが鈍くなってしまっていた。それでもパリパリと表面に張り付いた氷を割りながら必死に臨戦態勢を取っていたのだが、こうなってしまってはもうデビにゃんとまともに刃を交えることもできず、デビにゃんの放ったアックス・クラッシャーの斧槍版とも呼べる“ハルバート・スラッシャー”により体を真っ二つに両断され倒されてしまった。


 「ふぅ……なかなかの強敵だったけど僕とナギの連携に敵う奴なんていないのにゃ……。さぁてっ!、そんなことより次の敵は……ってにゃぁ?」

 

 マコ・シャークノイドを倒したことで調子に乗ったデビにゃんは更なる敵を求めて辺りを見回したのだが、すでにどこにも立っている敵の姿はなく、床に倒れている者達も力尽きてその体を消滅させようとしているところだった。どうやらデビにゃんがマコ・シャークノイド一体を倒している間にセイナやアクスマン達が他の敵を全滅させてしまっていたようだ。


 「“にゃぁ?”……じゃねぇよ、デビ猫。お前がチンタラ戦っている間に他の奴等は皆俺達が倒しちまったぞ。シャインなんてお前のすぐ横であっという間に3匹も敵を薙ぎ払ってたじゃねぇか」

 「にゃにゃぁっ!、ほ、本当なのにゃ、シャインっ!」


 “グオグオッ♪”


 「純粋な戦闘力ならすでにシャインは俺やセイナ以上だな。子供とはいえ流石はドラゴンってだけのことはある。デビ猫もまぁまぁ前衛として一端に戦えるようにはなってきたがせめてこれぐらいの敵は一撃で倒せるぐらいにはならないとな」

 「禿げ斧野郎が偉そうに……。てめぇだってデビ猫と同じで一匹しか倒してねぇじゃねぇか。しかも適当にぶん投げた斧がまぐれで当たった奴だけな」

 「それはてめぇが俺の方の敵まで横取りしてきたからだろうがぁ、爆笑女ばくしょうおんなっ!。それにあの斧はまぐれじゃなくてちゃんと狙って当てたんだっ!。適用にぶん投げる奴がどこにいるっ!。それと俺のことを禿げ斧と呼ぶんじゃねぇっ!」

 「てめぇこそ私のことを爆笑女って呼ぶんじゃねぇっ!」

 「な、なんか勝手に喧嘩し始めてちゃったにゃ……。あの爆裂少女って女の人もナミ以上に気が強いみたいだにゃ。でもエックスワイゼットと倒した敵の数が同じだったみたいでちょっと安心したにゃ」

 「つまらぬ言い争いはやめろ、お前達。パンナが無事であれば倒した敵の数のことなどどうでもいいではないか。それでパンナ。安全も確保したしこれでようやく君の話を聞けると思うのだが……」

 「はい。まずはラディ……いえ、かつて我々と共にこの神殿と聖なる川を守護していたラディアケトゥスを皆さんの仲間モンスターとする具体的な方法を説明したいと思います」

 「………」


 周りに出現したモンスター達を掃討し安全が確保できたことでパンナはようやく先程の話の続きをナギ達に話始めた。ネイションズ・モンスターを自国へと加える以上にこのダンジョンのボスに打ち勝つ為にも今のナギ達にとってラディアケトゥスを仲間にすることは最も重要なことであるが果たしてその方法とは……。


 「ラディを仲間モンスターにするには、自国のネイションズ・モンスターになるよう勧誘する魔物使い……それも神獣使いの職に就いている者一人か、もしくはそれぞれ魔獣術士、聖獣使い、霊獣使いの職に就いている者3人、そして勧誘する際にラディに与えるフレンドミートとして“聖物せいぶつプランクトン”の2つが必要となります。神獣使いの場合はその者がフレンドミートを与えるだけで構いませんが、魔獣術士、聖獣使い、霊獣使いの3人で行う場合は内二人が残る相手にフレンドミートを与える一人に祈りによって自身の魔力を貸し与えなければなりません」

 「それだけ……?。魔物使いがフレンドミートを与えるだけなら方法自体はデビにゃん達を仲間にした時と同じように思えるけど……」

 「例え方法が同じでも普通のモンスターを仲間にするのとは訳が違いますよ、ナギさんっ!。大体その必要となるものの神獣使いだっていないし……、代わりになる三人も聖獣使いの私と魔獣術士のナギさんの二人しかいないじゃないですかっ!。聖物プランクトンとかっていうフレンド・ミートだって持ってないし仮に持ってたとしてそんな強力なモンスターにどうやって食べさせるっていうんですかっ!」

 「う〜ん……確かにアメリーの言う通りだね。拷問紳士に支配されたサニールさんを仲間にする時も物凄い苦労をしたし……。でも神獣使いの職に就いてる人が必要っていうなら確かパンナさんがそうなんじゃなかったっけ?」

 「いえ……。確かに私は神獣使いではありますが皆さんに協力しているというだけあなた方の国の正式な一員というわけではありません。ラディを仲間にする魔物使いはあくまで皆さん方の国のヴァルハラ国に所属している者でなければなりません」

 「そうか……。だがそれでは今この状況でラディアケトゥスを仲間にする必要となるものを揃えられないということになるのではないか……、パンナ」


 パンナからラディアケトゥスを仲間にする方法を聞いたナギ達ではあるが、セイナの言う通り現状では例え最深部へ到達できてもその方法を実行すること自体が不可能であった。まずは仲間にする為に必要となるフレンドミートと神獣使いか霊獣使いの職に就いてる者を探さねばならなかったのだが……。


 「フレンドミートとして使用する為の聖物プランクトンならばこのダンジョンのどこかに生前ラディに食事として与えていたものの残りが保管されています。ですがその保管場所が今我々のいるエリアにあるとは限りません。他のエリアにある場合そこに転移したプレイヤー達が入手して最深部まで持って来てくれることを願うしかありませんが……」

 「それは随分と望み薄な話だな……」

 「ですが霊獣使いの職に就いている者なら私の母がそうであったはずです、セイナさん。この作戦にも参加していますし母の実力ならば恐らく最深部まで辿り着くこともできると思います。母の配属されたパーティにはこの作戦の総指揮官である不仲さんもいたはずですし……」

 「あの偉そうなリーダーが一緒って聞いても私は逆に不安になるだけだけどな……」

 「そういうな、爆裂。多少傲慢なところは不仲はこの作戦の指揮官として立派に務めを果たしている。我々のパーティのバランスも以前とは見違える程良くなっているはずだ」

 「そりゃ前のが悪すぎたってだけの話だろうが……。お前等はどう思ってるかは知らねぇが私はまだあの性悪女を仲間として認めたわけじゃねぇからな。ただ同じ国に所属しちまったから仕方なく行動を共にしているだけだ」

 「もういい……こんな無駄話は止めて作戦に参加しているメンバーの中に他に霊獣使いの職に就いている者がいないか調べるぞ。神獣使いに関しては言うまでもなく現段階でそれだけ上位の職に就いている者などいないだろうからな。私の記憶ではセイレインの母の他にもう一人“れいモンド”というプレイヤーが参加していたはずだ。」

 

 セイナの指示を受けてナギ達は皆で端末パネルを開きこの作戦に参加しているメンバーのリストを調べ始めた。するとセイナの記憶していた通りハイレインの他に霊モンドという霊獣使いのプレイヤーがいたが、他に霊獣使い、また魔獣術士と聖獣使いの職に就いている者はいなかったようだ。つまりはこの場にいるナギとアメリー、そしてハイレインと霊モンドのいずれか一人が最深部まで辿り着かなければラディアケトゥスを仲間にすることは不可能ということだったのだが……。


 「ふむぅ……どうやら他にそれらの職に就いてる者はいなかったようだな。だがこれでラディアケトゥスを仲間へと勧誘する魔物使い関してはなんとか目処が立った。恐らくではあるがハイレインと霊モンドの内どちらか一人は最深部まで辿り着くことができるだろう。後はフレンドミートとなる聖物プランクトンがどこのエリアにあるかだが……」

 「それに関しては私と同じかつてこの神殿に仕えていた者達の霊に他にエリアにいる皆さん方のお仲間に連絡を取って貰おうと思います。パーティのメンバー内に霊術士系統の職に就いている者がいればリリスさんのように我々のメッセージを受け取ってくれるでしょう。運が良ければそのパーティの方々が聖物プランクトンの保管場所を見つけて最深部へと届けてくれるはずです」

 「そうか……霊獣使いの職についてるハイレインと霊モンドも当然霊術士系統のプレイヤーだ。聖物プランクトンの保管場所が二人のいるパーティのエリアのどちらかにあってくれれば好都合なのだが……」

 「だけどその聖物プランクトンが手に入ってもどうやってラディアケトゥスに食べさせるんですか。パンナの話だと封印を解いたら私達に襲い掛かって来ちゃうんでしょう」

 「いえ、確かに先程皆さんにそう言いましたが私が共にいればラディもこちらに襲い掛かるような真似はしないはずです。私が説得すれば聖物プランクトンもすんなりと食べてくれるでしょう。ラディの大好物ですしなにより皆さんが信頼できるプレイヤーであることはラディもしっかり感じ取ることができるはずです」

 「そ、そうかな……。まぁ、パンナさんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど……」

 「ですが魔獣術士、聖獣使い、霊獣使いの3人で行う場合その間祈りをしている2人は完全に無防備な状態となってしまうので気をつけてください。また途中で祈りを中断してしまった場合例えラディがフレンドミートを食べていたとしても仲間にならず失敗してしまうので周囲の安全を確保してから祈りを行ってください」

 「わ、分かったよ……」

 「よし……っ!、これでどうにかラディアケトゥスを仲間する算段がついたな。後は計画が上手くいくことを信じて突き進むだけだ。行くぞ、皆っ!」

 「了解っ!」

 

 話し合いの末どうにかナギ達はラディアケトゥスを仲間にする為の算段をつけることができた。後はダンジョンの最深部を目指して突き進むだけだ。セイナの力強い号令の元再びナギ達は進軍を開始した。





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