finding of a nation 127話
「……あら?」
「……っ!。どうした、リリス」
「いえ……どうやらまたこのダンジョンに住まう霊からメッセージが届いたみたいなんですけど〜……」
リーダーであるセイナを先頭に順当にダンジョンを進軍していたナギ達であったが、そんな時リリスが突如これまでも同じみな霊からメッセージが届いたと言い出し皆その場に立ち止まっていた。しかしこちら側からスピリット・メッセージの魔法を使用していないというのに霊からのメッセージを受信できることのなどそうあることではない。この前の館のダンジョンでのベンからのメッセージ以来だが果たしてその内容は……。
「ええぇぇーーっ!。また霊からメッセージですかぁっ!。そんなのもう見ないでいいですよっ!。どうせこの前の時にみたいに私達を危険な目に合わせる為の罠に決まってるんですからっ!」
「まぁまぁ、アメリー。この前の館のダンジョンの時はベンさんからのメッセージが送られて来て攻略の手助けをして貰ったみたいだし内容ぐらい確認してみようよ。それで罠だと思えばメッセージを無視すればいいわけだし」
「そうそう。それにあんな陳腐な嘘に私等が騙されるわけないだろう」
「うっ……それは勿論私もそう思いますけどこの前の時はそのメッセージを受け取った本人が思いっ切り騙されそうになってたじゃないですかぁ〜。ついでのそこの禿げ斧も……」
「は、禿げ斧だと……っ!。いくらまだ子供と言ってもその呼び方だけは許さーんっ!。ちゃんと大人には敬意を持ってアクスマンさんと呼びなさいっ!。全くこいつの親や学校の先生は一体どんな教育をしてやがるんだ……」
「あの……アクスマンさん」
「んん……あ、ああっ!、すまんすまんっ!。俺ももうあんな嘘に騙されたりしないから早くメッセージを確認してくれ。その後で皆でメッセージの内容が信じられるか判断しよう」
「ああ、では頼む、リリス」
皆の許可を得てリリスは霊からのメッセージの内容を話し始めた。アメリーはどうせ罠だと決めつけていたがナギ達の言う通りそれは内容を把握してから判断した方がいいだろう。
「“こんにちは、ヴァルハラ国のプレイヤーの皆さん。私の名はパンナ、生前はこの現在は遺跡となった神殿で神獣使いの職を務めさせて頂いていた者です。この度はこの遺跡のダンジョンについて皆さん方にお伝えしたいことがあるからです。それでもしよろしければスピリット・チャンネルの魔法で私と通信を繋いで頂けませんしょうか。チャンネルIDは“パンナちゃんは神の忠実なる僕ですっ♪”です」
「ふむっ……流石にこれでは罠かどうかの真偽がつかんな。確認するには通信を繋いでみるしかなさそうだが……」
「僕はいいと思うよ。メッセージだけで判断するより実際に話してみた方が真偽もハッキリするだろうし」
「私も異論はありません。私もこの世ではすでに亡くなった身ですが、通信が繋がったところでこのパンナさんの霊が霊体を持たない以上我々に直接害を及ぼすようなことはできないはずですし……」
「そうか……ではリリスっ!」
「は〜いっ♪、スピリット・チャネリング〜っ♪」
メッセージの内容だけでは罠かどうかの真偽がつかなかったナギ達は送り主と直接会話をして確かめることにした。ベンの時と同様リリスがスピリット・チャネリングの魔法を使用するとすぐに通信は繋がったのだったが……。
「“……っ!、良かったっ!。どうやら無事通信を繋げて頂いたようですっ!。……ゴホンっ!。え〜……ではヴァルハラ国のプレイヤーの皆さん。改めましてこんにちは、私が生前この遺跡で神獣使いの職を担っていたパンナというものです。本日は皆さんにこの遺跡に封印されているネイションズ・モンスターについて伝えたいことがあってこのような形で連絡させて頂きました”」
「ネイションズ・モンスターだと……っ!。それは確かナギが言っていた……」
「うんっ!、僕もアットから聞いたんだけど国家単位で仲間にすることができる凄く強力な力を持ったモンスターのことだって……。それがこの遺跡に封印されているっていうのもアットの話通りだよっ!」
「なるほど……こちらが事前に得た情報をそこまで一致しているということはどうやらこの話は罠ということはなさそうだな。……よければこのまま話を続けて貰えないか、パンナ」
「“はい。そのネイションズ・モンスターの名は“ラディアケトゥス”といいこの遺跡の最深部に封印されているのですが、皆さん方には是非その封印を解いて貰いラディアケトゥスを再びこの世に解き放って貰いたいのです”」
「えっ……言われるまでもなく本当にそのモンスターがいるなら勿論そうするつもりだよ。僕達だって自分達の国の戦力アップの為にできればそのラディアケトゥスっていうネイションズ・モンスターを仲間にしたいし……」
「“ええ……ですが例え封印を解いたとしてもそれだけではラディアケトゥスをあなた方の国のネイションズ・モンスターとして仲間にすることはできません。仲間にしていない状態でむやみに封印を解いてしまってはあなた達まで敵とみなし襲い掛かってきてしまうことになるでしょう”」
「ええっ!、仲間にできなかったら僕達にまで襲い掛かって来ちゃうのっ!。それは確かに迂闊に封印を解いちゃうわけにはいかないね」
「ああ……そうだな。それでそのラディアケトゥを仲間にするには一体どうすればいいんだ。仲間にしてから封印を解けば別に問題はないんだろう」
リリスのスピリット・チャネリングにより通信の繋がったパンナの話によるとこの遺跡にはラディアケトゥスというネイションズ・モンスターが封印されているらしい。その話がナギが事前にアットから聞かされていた情報と一致していた為皆一先ずパンナことを信じることにしたようだ。そしてそのラディアケトゥスだがただ封印を解くだけでは仲間にすることができずこちらに襲い掛かって来てしまうと言う。その話を聞いたアクスマンが恐らく話の肝となるであろうラディアケトゥスを仲間にする方法についてパンナに問い質したのだが……。
「“それに関してなのですが詳しい説明は一度私の元に来て頂いてからしたいと思います。どのみちラディアケトゥスをあなた方の国の仲間モンスターとする為には私と合流する必要がありますし……”」
「えっ……でもパンナさんはすでに亡くなってて、セイレインさんみたいに霊体の体も持ってないからこうして僕達にメッセージを送って来たんじゃないの?。いくら霊としてこの世に存在していても霊体がないなら合流しようがなくない?」
「“はい……確かに今の私は皆さんに直接干渉する為の“この世の器”となるものを持っておりません。ですが皆さんにその器となるものを貸し与えて頂けば協力することも可能となります”」
「器となるものを貸し与える……それってもしかして……」
「霊能士であるリリスの体にパンナの霊を憑依させるということか……」
「まぁっ♪、パンナさんの霊が私の体にっ!。それは凄く素敵で楽しそうなことですわ、うふふっ♪」
「うふふって……一体なに嬉しそうに笑ってやがるっ!。まだこいつが完全に味方と分かったわけじゃないのに俺達の大事な仲間であるお前の体をそう簡単に明け渡すことができるかっ!。こいつを憑依させた瞬間お前の体が乗っ取られて俺達の敵になっちまったらどうするんだよっ!」
なんとこの世界に直接干渉する術を持たないパンナはリリスに対しにその体を器として自身に貸し出すよう要求してきた。確かに霊能士であるリリスならパンナの魂を自身の体に憑依させることも可能だろうが、アクスマンの言う通り絶対にパンナが自分達の味方であるという確証がない限りそのような要求を承知することなどできない。しかしもしパンナの話が本当であるならネイションズ・モンスターを仲間にする為に是非その協力を得たいナギ達でもあったのだが一体どういった選択をするのだろうか。
「アクスマンの言う通りだ。それに我々の第一の目的はこのダンジョンを攻略することであってネイションズ・モンスターを仲間にすることでもはない。ネイションズ・モンスターを仲間にできずともこの遺跡からは多くの財宝や情報を得られるだろうし、悪いが君の望みの為にそれだけのリスクは冒せない。一度このダンジョンの攻略を終えて我々の態勢を整えてた後でよければ君の望みを叶えよう」
「“……っ!、待ってくださいっ!。皆さんがこのダンジョンの攻略……いえ、ダンジョンの最深部に到達してからでは手遅れになってしまうのですっ!”」
「手遅れ……?。一度ダンジョンを攻略した後だともうネイションズ・モンスターを仲間にできなくなっちゃうってこと?」
「“そうではありませんっ!。現在この遺跡は邪悪で強大な力を持つモンスターに支配されており、ラディアケトゥスの力を得ないまま最深部に乗り込んではそこで待ち受けるボス・モンスターにあなた方は間違いなく全滅させられてしまうのですっ!。遺跡を支配する邪悪なモンスター達を追い払いたいというのもありますが、こうしてメッセージを送ったのは善良な心を持つ者達が集うヴァルハラ国のプレイヤーであるあなた方の助けになりたかったからなのですっ!”」
「ま、間違いなく全滅……このダンジョンの最後に待つボスはそんな強力なモンスターなの……っ!」
「ふむぅ……しかしその話も本当だったとしてもリリスの体を渡すわけには……」
「“リリスさんに憑依させて頂くのが無理ならば他の器となるものを用意して頂くのでも構いません。最低限私がこの世に干渉できるだけの力を与えてくれるものならば何でも結構ですっ!”」
「他の器となるものって……霊能士のリリスの肉体以外に何があるってんだよ……。大体他にも霊術士系統の能力を持つ奴がいたとしても私等の仲間にお前を憑依をさせるわけにはいかないことに変わりはないだろ」
リリスに憑依することを断れたパンナは他の器でも言い出した。それに対し爆裂少女は他の仲間であっても憑依させるわけにはいかないと反論していた。だがどうやらパンナの言う他の器とは最早ナギ達プレイヤーの誰かの肉体というわけではなく……。
「いえ……パンナさんの言う他の器とは恐らく私達の体というわけではありません、爆裂少女さん。私達の中に霊術士系統のプレイヤーがリリスさんしかいないことはパンナさんも既に承知のはずですから」
「じゃあ他の器って一体何のことなんだよ、セイレインさん」
「それは……恐らくこういったもののことです……」
爆裂少女の疑問に応えセイレインは所持しているアイテムの中からちょうど手の平で全体を掴めるような大きさの一つの人形のようなものを取り出した。ただその人形には目や鼻といった顔のパーツとなるものがなく服も着せられてはいなかった。胸部の真ん中に何かの紋章ような図形が描かれていたが、一体そんなマネキンのような人形がこの件とどのように関係しているというのだろうか。
「な、なんだよ……その小さいマネキンみたいな人形は……」
「ふむぅ……なんだか絵師さんなどがよく使っているデッサン人形のようみたいですわね〜」
「これは“霊媒人形”と言ってその名の通り我々に代わって霊媒の役割を果たしてくれる人形です。最も我々の肉体を霊媒とするよりは大幅にその効果の程は及ばず、憑依させた霊の力を10分の1程度しか発揮させることができません。それでも一応は器となる身体を得てこの世界に干渉できるようにはなるはずです」
「“それで構いませんっ!。例え10分の1でもこの世界に干渉できる力を得られればラディアケトゥスを皆さん方の仲間にすることができるはずですっ!”」
「うむ……確かにそれならば我々のリスクは最小限に抑えることはできるが……」
「それならパンナの頼みを聞いてあげようよ、セイナさんっ!。僕もできることならラディアケトゥスを仲間にしたいって思ってたし……それに僕にはパンナさんがとても嘘を言っているようには思えないんだっ!」
「同じ霊となった身として擁護したいわけではありませんが、私もこの方は本気で我々の力になりたくてこうしてコンタクトを取って来たように思えます」
「俺も皆がそこまで言うならもう異論はないぜ。リリスの体に憑依もさせないでいいみたいだし、見返りも考えると信用してみる価値はあると思う」
「よし……っ!、ならば話しは決まりだ。それでパンナ、先程の話の続きだがどこで君と合流する。この霊媒人形さえあれば今すぐにでも君をこの場に呼び出すことができるのか」
「“いえ……その前に私の遺体が埋葬されている棺の元へと来ていただかねばなりません。その棺にも特殊な封印が施されており私の魂の本体はそこから抜け出すことができないのです”」
「なるほど……つまりは我々がその棺を開ければ君の魂が解放され我々の持つ人形に憑依できるようになるということだな。それでは急いでそこへ向かおう」
「“はい。私の棺に辿り着くまでの道をあなた方のマップへと転送しておきました。では私は再び棺の中へと戻りますのでどうか皆さんもご無事で……”」
“ピッ……”
「通信が切れちまったか……。でもこれで取り敢えずの目的は決まったな。それにしても霊媒人形なんて都合の良い物をよく持ち歩いてたな、セイレインさん」
「このようなこともあろうかと屋敷の倉庫から使えそうなものをアイテム蘭に入るだけ持ち出してきました。可愛い娘の私を固有NPCとして送り出している以上お父様も文句は言えないでしょう、ふふっ」
「余計な話はそこまでにして逸早くパンナの元へと向かおうぞ、お前達。もしさっきの我々ではこのダンジョンのボスに太刀打ちできないという話が本当ならばなんとしても他のパーティ達より我々が先に辿り着かねば……」
「皆そのボスにやられちゃうってことだね……」
「ちっ……なんてこった……。正直俺はこの話にそこまで乗り気じゃなかったがこれじゃあもう四の五の言ってられねぇな」
「ああ……そういうことだ。では急ぐぞ、皆っ!」
こうしてナギ達はパンナの棺がある場所を目指して再び進軍を開始した。まだ確証はなかったが皆パンナが真実を言っていると確信を得ていたようだ。そしてパンナの話が真実ということはこのダンジョンの最深部を目指して進んでいる他の作戦に参加してるメンバー達全員の身が危ない。ナギ達は真っ先に自分達が最深部に辿り着くべく全力で進軍していたが果たしてパンナの霊を呼び出す為の回り道をしながらで間に合うのだろうか……。ナミとエドワナのダブル前衛で進むレミィ達のパーティ、そしてハイレインの仲間モンスターのウィルの道案内を得た不仲達のパーティは最深部へと最速の道を進んでいるというのに……。
「てやぁぁぁーーーっ!」
“グオォォッ……”
一方仲間のことを思って先を急ぐナギ達を余所にナミ達のパーティは順調にダンジョン内を進んでいた。今も再び魚人のモンスターをナミが殴り倒し皆で更に勢いを増して進軍していたがこのままではいとも簡単にダンジョンの最深部へと辿り着いてしまいそうだ。とはいえナギや不仲達のパーティと違い道標となるものは手に入れていない為正解のルートを見つけるのに手間取ってくれさえすれば良いのだが……。
“……っ!、ウィルゥゥ……”
「あら……どうしたの、ウィルちゃん。急に立ち止まったりして……。ここはまだ分かれ道じゃなくてただの一本道の通路よ」
ナミ達が立ち塞がる敵を次々と打倒しながら進軍をしている頃、不仲達のパーティもウィルの道案内に従い順調にダンジョン内を進んでいたのだが、その案内役のウィルが別れ道があるというわけでもないのに突如として通路の途中で立ち止まってしまった。当然不仲達もウィルを無視して先に進むわけにはいかず理由を問い質すのだったが……。
「……っ!、もしかして前方から敵が接近してきるとかっ!。もしそうなら早くウィルを下がらせて迎撃の準備をしないと……っ!」
「待って、マイちゃんっ!。本当に敵が近づいて来てるならもっとちゃんと私達に警告してくれるはずよ。どうやらウィルちゃんはこの通路の周辺に何か違和感を感じてるみたい……」
「違和感って……一体どんな?。私にはただこれまでと同じ通路が続いてるだけのようにしか思えないけど……」
“……ウィルゥっ!”
「えっ……」
“スゥ〜……”
「ウィ、ウィルちゃんが……っ!」
「か、壁の中に消えてしまいましたわっ!」
通路の途中で立ち止まったウィルは何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回していた。そしてその何かを探り当てたのか急に歓喜の込もった声を上げたと思うと通路の右側の壁に向かって突っ込んで行きそのまま壁の中へと入り込むようにして姿を消してしまった。ウィルは霊体のモンスターであった為壁を通り抜けられること自体は特におかしなことではなかったのだが、突然のことだったので不仲達も思わず驚きの声を上げてしまっていた。しかしこれまでの進軍でウィルもその主人であるハイレインも壁を通り抜けるようなことは一切していなかったというのにウィルは何故このタイミングで壁の中へと向かって行ってしまったのだろうか……。
「そうことだったのね……。どうやらウィルちゃんは霊体の者でしか通り抜けられない壁を見つけたみたいよ〜、皆〜」
「えっ……あ、ああ……。そういえばウィルさんとハイレインさんは我々と違って肉体を持たず霊体のみの存在でいらっしゃいましたわね。ですが今通り抜けられない壁と仰いましたが良く考えてみればあなた方ならばここでなくとも他のどの壁も通り抜けられるのでは……」
「それがそういうわけでもなくて私達幽霊にも通り抜けられる場所とそうでない場所があるのよ〜。特にこういったダンジョンでは今のそこの壁みたいに特定の場所しか通り抜けることができないわ〜。いくら幽霊だからだってどこでもそんなことができたらゲームバランスが滅茶苦茶になっちゃうでしょ〜」
「それは確かにその通りだと思いますが……。それよりもウィルさんは一体どこへ……っ!」
「う〜ん……ちょっと心配だから私も追い掛けて確かめてくるわ〜。臆病者のウィルちゃんのことだから自ら危険なところに飛び込んで行くような真似はしてないと思うんだけど……。悪いんだけど少しの間ここで待ってて〜」
“スゥ〜……”
「ハ……、ハイレイン様……っ!。待って下さいっ!、それならば私もついて行きますっ!」
“スゥ〜……”
「ウィ、ウィルさんに続いてハイレインさん……そしてグラナさんまでもが壁の中へと消えて行ってしまいましたわ……。私達は壁の向こうに行く術を持ちませんし、心配ですがここで3人の帰りを待つしかないですわね……」
どうやらハイレイン達霊体の存在といえでもどこでも自由にすり抜けることができるわけではないようで、ウィルが急にこの場に立ち止まったのはその自分達のみが通れる壁を発見したからのようだ。危険だけでなくこういった特殊なギミックも察知できるとは中々便利な能力ではあるが他の者達の来ることのできない壁の中へ単独で向かってしまって大丈夫なのだろうか。そしてウィルのことを心配した主人のハイレイン、同じく彼女の屋敷に傭兵として仕えているグラナまでもが皆をこの場に残しウィルの後を追って壁の中へと姿を消してしまったのだが……。
「よいしょっと……ってあら。やっぱり壁の先にも進めそうな通路が続いているわ。ウィルちゃんはもう奥まで進んじゃったのかしら……。普段は臆病者のくせに急にこんな大胆な行動を取って本当に困った子だわ〜」
「それはハイレイン様も同じですっ!。こちら側に敵が待ち受けている可能性もあったのですから一人で無茶な行動を取らないで下さいっ!。私もハイレイン様も今は同じヴァルハラ国の兵士としての立場であるとはいえ、後衛の職に就いているあなたを護衛するのが前衛である私の務めであることは変わっていないのですからねっ!」
「はいは〜い、だったら早くその務めを果たす為に優秀な前衛であるグラナちゃんから先へ進んでちょうだ〜い。後衛の私はちゃ〜んとあなたに守って貰う為にその後ろに隠れてついて行くから〜」
「ぐっ……分かりました」
ハイレイン達が壁を抜けるとその先には真っ直ぐ先に……ちょうど壁を抜ける前の通路から右折する形で更に通路が続いていた。どうやらウィルはすでに奥へと進んで行ってしまったようで、ウィルと合流する為にはハイレイン達も奥へと進まざるを得なかった。こんな状況でもおどけた態度を続けるハイレインへの苛立ちを堪えるグラナだったが、口では前衛としての務めと言いながらもやはり自身の仕えている屋敷の主人の妻であるハイレインを危険な目に合わせたくないという思いが強いようで細心の注意を払いながら先へと進んでいた。
“ウィルゥ……”
「あっ!、ウィルちゃ〜ん。もうぉ〜、こんなところにいたのねぇ〜。早く皆のところに帰るわよ〜」
“ウィルウィルッ!”
「んんっ……どうしたの。そんなに興奮して何かいいものでも見つけた……ってあら?。そんなところにレバーがあるじゃない」
“ウィルゥッ!”
ハイレイン達が通路を少し進むとすぐにウィルを見つけることができた。だがそのウィルは何やら上を見上げウキウキした様子でハイレイン達にこちらへ来るよう促していた。疑問に思ったハイレインがウィルの視線の先を見るとそこには壁には上下で切り替える大きめレバーが設置されていたのだが……。
「ふむぅ……見るからに怪しいレバーね……。これを引いたらもしかしてあの壁が開いて皆と合流できるようになったりするのかしら……。でも罠の可能性もあるしそう簡単に引くわけには……」
“ウィルゥ……”
「だけどこういうのって見つけちゃったら最後……例え罠の可能性があるとは分かっていてもどうなるか確かめずにはいられなくなっちゃうのよねぇ〜。なんてたって今の私はお淑やかなだけの屋敷の夫人じゃなくて危険なダンジョンの攻略に挑む勇敢な冒険者なんだからこういう時に度胸を見せなくてどうするのっ!」
“ウィルウィルッ!”
「ふふっ、流石は私の仲間モンスターだけあってウィルちゃんにも私と同じ冒険者の魂がしっかりと宿っているようね〜。よ〜しっ!、そうと決まれば早くこのレバーを引いちゃうわよ〜。……用意はいい、ウィルちゃん」
“ウィルゥッ!”
「ま……待ってください、ハイレイン様っ!。いくらなんでもその行動は軽率過ぎますっ!。もし我々に対する罠を発動させる為の仕掛けだったらどうするのですかっ!」
「でもどのみち皆はこっち側にこれないんだから私達だけで確かめるしかないじゃない。それにもしこれが本当に壁を開く為の仕掛けだったらどうするの。いいから罠だった時の為に全力で皆の元に逃げる準備をしておいてっ!」
「ぐっ……分かりました」
「OK……ならいくわよ〜……え〜いっ!」
“ガチャンッ!、ゴゴゴゴゴゴォッ……”
「あらっ♪、これってもしかしてビンゴだったってことなのかしらっ♪」
「ま、まさか本当にそんなに都合いいことが……」
ハイレインがレバーを引くと何かの仕掛けが作動しどこからかする地響きの音と震動がハイレイン達の元に伝わって来た。どうやら地響きは先程潜り抜けた壁の方からしているようだが本当にハイレインの言った通り不仲達と合流できるよう扉のように壁が開いたりしているのだろうか。もしそれだけならばレバーを引いて正解だったというわけだが……。
「ふふっ、もし本当に壁が開いていたなら皆もこっち側の通路に来れるようになるわね。それでこっちの道が最深部への近道だったりしたら大変なお手柄よ、ウィルちゃん」
「だ、だからそんなに都合よくいくわけが……」
“ウィルルぅっ♪”
「さ〜て、それじゃあ一旦抜けて来た壁のところに戻りましょう。別に壁が開いてなかったとしてもその時はまた皆と元の通路を進めばい……」
“ヴィーン……ババババババッ!”
“グオォォォォッ!”
「えっ……!」
レバーの仕掛けにより壁が開いたかどうかを確認する為来た道を戻ろうとしたハイレイン達だったが、その時突如としてモンスター達の群れが出現し周囲を囲まれてしまった。どうやらレバーを引いたことにより作動した仕掛けは先程の地響きだけではなかったようだ……。
“グオォォォォッ!”
「あわわわわわっ……。やっぱりこのレバーの仕掛けは罠だったのねぇ〜っ!」
“ウィ……、ウィルゥ〜っ!”
「くっ……だから言ったではありませんかっ!。いいから早く二人は私の後ろに隠れてくださいっ!」
「ううぅ……助けてぇぇ〜〜っ!、不仲さぁぁ〜〜んっ!、皆ぁぁ〜〜っ!」
もし罠であった時は一目散にこの場から逃げる算段をしていたハイレイン達だったが、前後に挟み込まれる形で敵が出現した為どこにも逃げ道がなく皆で中央に固まって守りを固めるしかなかった。しかしそうしたところで通路の前後に2体ずつ現れたモンスター達に挟撃されてはいくらグラナといえどハイレインとウィルの二人を守り切ることは難しいそうであったが……。
“ゴゴゴゴゴゴォッ……”
「……っ!、こ、これは……先程ハイレインさん方が通り抜けた壁が急に開き始めましたわっ!」
「きっと向こうで誰かがこの壁を開く為の仕掛けを作動させてくれたのよ。それより通れるようになったら私達も早くハイレインさん達に合……」
「助けてぇぇ〜〜っ!、不仲ぁぁ〜〜んっ!、皆ぁぁ〜〜っ!」
「……っ!、どうやらマイの言う通り急いだ方がいいみたいだなっ!。俺が先行して突っ込む。構わないな、リーダーっ!」
「ええ、お願いしますわ、私のアンチのさんっ!」
どうやらハイレインの引いたレバーはモンスターを出現させるだけでなく本当に不仲達のいる場所の壁を開く為の仕掛けでもあったようだ。そしてハイレインの悲鳴を聞いた不仲達は前衛のアンチ奈央子の先行の元急いで救助へと向かったのだったが……。
「ファントムっ!・キャリバァァーーッ!」
“グオォォォォッ……!”
「凄っごぉ〜いっ!、グラナちゃ〜んっ!。あっという間にモンスターを2体も叩き斬って倒しちゃったわ〜。流石私達の頼れる傭兵さん……もとい、ヴァルハラ国の優秀な前衛の一人ねぇ〜。その調子で早く他の2体もやっつけちゃって〜」
“ウィルウィルッ!”
狭い通路内で前後を合計4体の魚人のモンスター達に囲まれ窮地に陥ったと思われたハイレイン達だったが、主人を守る為か、ヴァルハラ国に加入してからは出稼ぎに出ている他の者達に代わって屋敷内の雑務をこなしその格好までメイドの姿となった傭兵グラナが予想以上の活躍を見せ通路の奥、不仲達が向かって来ているのとは反対側に出現した2体のモンスターを叩き斬りあっという間に撃破してしまった。その2体のモンスター達はどちらもマコ・シャークノイドというアオザメをモチーフとした魚人型のモンスターで、手には三日月型の刃を持つ斧槍を武器として持ち構えていたのだが、グラナが先にこのマコ・シャークノイド達に攻撃を仕掛けたのは直感でこちらの方が戦闘能力が低いと判断したからであった。恐らくこの場は一体でも敵の数を減らすのが先決だと考えたのだろう。グラナの活躍に歓喜するハイレインとウィルだったが、しかしそれは裏を返せばまだマコ・シャークノイドより強力な敵が2体残っているということで到底まだ油断できるよな状況ではなかった。更にマコ・シャークノイドは手持ちの武器に魔力を込めていたのか斧槍の刃がまさに三日月であるといわんばかりに黄色の光を発していた。どうやら元々武器に光属性の魔法攻撃に変換する能力が付与されていたようだが、この能力を発動させていたということは霊体であるグラナには物理攻撃が無効であるとの認識もあったということだ。人型ということで的確な状況判断ができるだけの高い知能も持ち合わせていたということだろう。この分だと恐らく残りの2体もグラナ達に有効なダメージを与える為魔法攻撃を仕掛けてくるだろうが果たしてそのマコ・シャークノイドより強力な2体の敵から無事ハイレイン達を守り切ることができるんだろうか……。
「喜んでいる場合ではありません、二人共っ!。まだモンスターは残っているのですから早く私の後ろに隠れてっ!」
「は〜いっ♪」
“ウィ〜ルッ♪”
“グオォォォォッ!”
“ギュイィィィィィィンッ!”
「な、なんだ……っ!」
瞬く間に敵を両断したグラナの強さを見て強気になったのかハイレインはいつものおどけた態度にもどり、更には仲間モンスターのウィルまでそれが伝染してしまったようで二人共かなりお気楽な様子でグラナの後ろへと隠れていった。しかしグラナの言う通りまだマコ・シャークノイドより強力な力を持っている思われるモンスターが2体こちらへと差し迫って来ている。そのモンスターの名はソー・シャークノイド、先程のマコ・シャークノイドのアオザメに続いて今度はノコギリザメをモチーフにした魚人型のモンスターだ。当然そのサメの顔の口先からはノコギリザメも一番の特徴のノコギリ状の……まぁ言ってみれば長い鼻のようなものが伸び出ており、更にはそれだけでなく魚人となったことで得た両手の先まで素手の指がない代わりに顔のものと同じ形のノコギリが生えていた。恐らくはそのノコギリとなった手で斬りつけるのが主な攻撃手段だろうが、なんとグラナ達に襲い掛かる直前、そのソー・シャークノイドの手のノコギリの刃がまるでチェーンソーのように勢いよく回転し始めたのだった。そしてそれだけなくその回転する刃に沿う形で水流の渦が纏わりついており、どうやら水属性の魔法攻撃になっているようだ。
「くっ……やはりこいつらの方がさっきの奴等より厄介そうだ……だがっ!」
“グオォォォォッ”
「ファントムっ!・キャリバァァーーッ!」
“ガッキィィーーンッ!”
「な、なに……っ!」
回転するノコギリの刃とそれに付与された水属性の魔力に動揺しながらもグラナは臆することなく全力で得意のファントム・キャリバーを放ちソー・シャークノイドの1体へと斬り掛かった。しかしソー・シャークノイドは両手のノコギリを×印となるように体の前で交差させて構え、その2本の刃の交差部でグラナの斬撃をガッチリと受け止めてしまった。斬撃を止められたグラナはそれでも力を込め無理矢理押し切ろうとしたがソー・シャークノイドはビクともせず、自身の渾身の力を込めた斬撃を自身の斬撃を受け止め続ける相手にグラナは驚きを隠せなかった。そして悠々と攻撃を受け止めているということは当然反撃に転じる為の余力もあるということで……。
“グオォォォォッ!”
“ギュイィィィィィィンッ……ゴゴゴゴゴゴォッ!”
「……っ!、ぐ、ぐあぁぁぁーーーっ!」
「グ……、グラナちゃんっ!」
腕力ではこちらに分があると判断したソー・シャークノイドは斬撃を防がれたまま剣を引くこともできずに攻めあぐねているグラナの様子を見て一気に反撃に転じて来た。グラナの剣を受け止めている両手のノコギリの刃の回転を更に加速させたと思うと凄まじい力でグラナの剣を押し戻していき、その勢いのままノコギリを振り抜くと同時にグラナをその体ごと大きく前方へと弾き飛ばしてしまった。そしてどうやらただノコギリを振り抜いただけでなく×印を描いた水流の斬撃をまるでスクリューのように激しく回転しては放つ“スクリュー・クロス・スラッシュ”という技を使用していたようだ。そのスクリュー・クロス・スラッシュの回転する水流の斬撃に巻き込まれてしまった為グラナは受け身を取ることすらできずに完全に体勢を崩した状態で地面へと叩き付けられてしまったのだろう。
「あわわわわわっ……グ……グラナちゃんがやられちゃった……。っていうことは次は当然……」
“ギュイィィィィィィンッ!”
“グオォォォォッ!”
「ひ、ひえぇぇ〜〜っ!、やっぱり私達のこともそのおっかないノコギリで斬り刻むつもりなのねぇぇ〜〜っ!」
“ウィルゥゥーーっ!”
グラナと引き離されてしまい慌てふためくハイレインとウィルに対し、両手の強靭且つ鋭利なノコギリの刃の残酷で無慈悲な回転音を鳴らしながら2体のソー・シャークノイドが差し迫って来た。しかし敵と直接戦闘を行う力の乏しい二人に成す術はなく、ハイレインの言う通りこのままでは瞬く間に体を斬り刻まれて殺されるのを待つしかなかったが……。
“ギュイィィィィィィンッ!”
“グオォォォォッ!”
「きゃあぁぁぁーーーっ!、やられちゃうぅぅーーっ!」
“ウィルルゥゥーーっ!”
“ヒュイィィィィィィンッ……バアァァァンッ!”
“グ……グオオッ!”
「えっ……」
このままソー・シャークノイドに殺されてしまうとハイレインとウィルが絶望の叫びを上げたその時、ソー・シャークノイドの背後から眩い……正しくマイのものと思われる光の矢が撃ち放たれそのままソー・シャークノイドの背中に直撃した。一撃では倒れなかったもののその攻撃の衝撃でソー・シャークノイドの動きを止め、もう1体も矢の放たれた来た背後へと注意がいき寸でのところではあったがどうにかハイレイン達は斬り刻まれずにすんだ。そしてマイの矢が放たれて来たということは当然他の者達も援護に駆け付けて来たということで……。
「どりゃぁぁぁーーーっ!、インサニティッ……ザンバーァァァーーーッ!」
“ズバァーーーーンッ!”
“グオォォォォッ!”
「なっ……、奈央君っ!」
“グ……グオッ!”
「次はてめぇだっ!。てぇーりゃぁぁぁぁーーーっ!」
“ズバァーーーーンッ!”
“グオォォォォッ!”
マイの光の矢を不意に受けて動きの止まっているソー・シャークノイドに対し、アンチ奈央子はインサニティ・ザンバーという新たに就いた狂戦士の技を使用して全力を剣を振り下ろし真っ二つに両断してしまった。更にはすぐ隣で断末魔を上げながらやられてしまった仲間を見て戸惑うもう1体のソー・シャークノイドまで今度は振り下ろした剣を斬り上げてインサニティ・ザンバーを放ち斬り伏せてしまった。流石のソー・シャークノイドも不意を突かれ防御体勢も取れないまま狂戦士であるアンチ奈央子の強力な斬撃を受けては一たまりもなかったらしい。
「きゃあぁぁーーーっ!、ありがとぉーーーっ!、奈央くーんっ!。おかげで助かったわ〜。勇敢な古代の戦士みたいでとぉ〜っても格好良かったわよ〜っ!」
“ギュッ!”
“ウィルウィルッ!”
「えっ……あ、ああ……。そっちも無事みたいで良かったが別にそんなに強く抱き付かなくても……」
ソー・シャークノイドで殺される寸でのところで助けられたハイレインはアンチ奈央子のその勇敢な姿に感激し思わず抱き付いてギュッと体を寄せ付けた。霊体であるにも関わらずしっかりと感じられる女性の体の感触に思わずたじろいでしまうアンチ奈央子であったが、そこへ他の仲間達も遅れて駆け付けて来たのだった。
“ダダダダダダッ!”
「ご無事ですかっ!、ハイレインさんっ!」
「ええ〜、この通り奈央君のおかげでね〜っ!」
“ギュッ!”
「だ、だからそんなに強く抱き付くなってさっきから……」
「おっ、普段女と縁のないお前が随分といい思いしてるじゃねぇか、奈央子。俺達がまるで追い付けない程の全力で駆け抜けて行ったのはこの為だったってわけか」
「おかげでハイレインさんもウィルも無事だったけどね。だけどそのいい思いは私の矢の援護もあったおかげだってことを忘れないでほしいわ」
「うるせぇっ!、トレジャーっ!、マイっ!。俺は仲間の為を思って全力で行動しただけなのに茶化してんじゃねぇぞっ!。ふざけたことばかり言ってるともうお前達のピンチの時には助けに言ってやらねぇからなっ!」
遅れて来た不仲達であったがハイレイン達の無事が確認できて一安心したようで、皆茶化しながらもハイレイン達を見事救ったアンチ奈央子のことを褒め称えていた。アンチ奈央子と親しげにしていたトレジャーという人物は魔術師と盗賊の職を経て就くことのできる“魔法盗賊”の職に就いているプレイヤーで、魔法を用いて窃盗が行えたり、ダンジョン等に設置されている特殊な仕掛けを作動させることができる。容貌や雰囲気はアンチ奈央子に似ていて健全な若者の男性といったところだが実際二人も気が合っているような様子だった。そんな感じで暫く互いの再開を喜び合っていた不仲達だったが、いつまでもそうして留まっているわけにもいかずこの後の方針を決める為まずは突然壁をすり抜けてこちらの通路へと皆を誘ったウィルにその真意を問い質すのであったのだが……。
“ウィルウィルッ!”
「ふむぅ……どうやらウィルちゃんが言うにはこっちの通路の奥に何かのお宝の匂いを感じているみたい……。ダンジョンの攻略的には遠回りになっちゃうみたいだけど、そのお宝が凄っごく重要なものである感じがして思わずこっちに来ちゃったって……」
「お宝ですか……。それは確かに有難い情報ですけれども、どのみちこのダンジョンを攻略してしまえさえすればブリュンヒルデ様が派遣する探索隊の方々が全てのお宝を持ち出してヴァルハラ国へと送り届けて下さいますわ。勿論貴重なアイテムであるならば個人的に入手しておきたい気持ちもありますがこのゲームにおいて個人の利益に執着することは禁物……。自国全体の利益を優先すべきであることを考えるとここはダンジョンの攻略に専念した方が良いのではないでしょうか」
「ええぇぇ〜〜っ!、でも折角ウィルちゃんが情報をくれたのにぃ〜っ!。別にそこまで国の為に謙虚にならなくてもいいじゃなぁ〜い。直接ダンジョンを攻略してるのは私達なんだから一つぐらいお宝を頂いて文句は言われないはずよ〜」
“ウィルウィルッ!”
「ですが……」
「私もハイレインさんの意見に賛成よ、不仲さん。目先のアイテムの誘惑に負けずに自分達の国に貢献することを第一に考えるなんて以前のあなたからは考えられないぐらい立派なことだとは思うけど、もうちょっと肩の力を抜いて気楽になっても構わないと思うわ。それにウィルがそこまで重要に感じているならそのアイテム自体がこのダンジョンの攻略に大きく関わるものだったりするかもしれないしね。この前の館のダンジョンでもそうだったでしょ」
「ベンさんからのメッセージを受け取って手に入れることのできたオルタウラースのゴーストミートのことですわね。前回のダンジョンではそのおかげで敵のボスである拷問紳士に囚われたサニールさんの魂を救い出すことができました。では今回も事前にそのアイテムを入手しておくことによってダンジョンの最後に潜むボスとの戦いを優位にすることができるということなのでしょうか」
「それは……正直言って私も分からないわ。でも行って確かめてみるだけの価値はあると思う。前回はベンさん、そして今回はウィルのお墨付きがあることだしね」
“ウィルウィルッ!”
「分かりました。皆さんがそこまで仰るのならばそのアイテムを取りに向かうことに致しましょう。マイさんの言う通りダンジョン攻略に必要不可欠なアイテムの可能性もありますし、何より我々をここまで道案内して下さったウィルさんの意見を尊重するのが礼儀というものでしょう」
「やったぁ〜〜っ♪。やっぱりダンジョン攻略の一番の楽しみといったらアイテム探索よね〜。早くあの宝箱を開ける時のドキドキ感を味わいたいわ〜」
“ウィルゥッ♪”
こうして不仲達は一先ずダンジョンの最深部を目指すのを止めてウィルの言うお宝を取りに行くこととなった。一体どのようなアイテムが入手できるのかはまだ分からないがマイの言う通りダンジョン攻略に役立つものであると良いのだが……。回り道をする以上当然リスクが増えることになるが不仲達はそれに見合うリターンを求めて再びウィルの案内の元開いた壁の通路の先へと慎重に進んで行った。




