finding of a nation 126話
“ヴィーン……バッ!”
「……よし、どうやら無事ダンジョン内に転移できたようだな。皆も揃って来ているか?」
「うん、ちゃんと皆転移して来れているよ、セイナさんっ!」
「にゃっ!」
“グオグオッ!”
不仲からのメッセージに従い港と橋と見学を終えて拠点へと戻ったナギ達はそのまま不仲の指示に従って予定通り2度目の挑戦となる川底の遺跡のダンジョンの攻略を開始していた。すでに皆それぞれのパーティへと分かれ、最早ダンジョン攻略においてはお馴染みとなった魔法陣を潜ってその転移先へと来ていたようだったが、2度目の挑戦とはいえ前回は皆転移先からほとんど進行していない状態断念しており、攻略に参加しているメンバー達にも若干の変更があった為ほとんどのパーティは皆それぞれのリーダーに従って情報の整理を行い、効率よくダンジョンの攻略を進められるよう各々のパーティの方針を決めていたようだ。っと言っても肝心のダンジョン内部の情報がほとんどない以上大抵のパーティはとにかく身を固めて慎重に進軍していくという方針となっていたようだが……。そして今自身の仲間モンスターであるデビにゃんとシャインと共に元気よく点呼に応じていたナギもリーダーとなったセイナの指示に従って他のメンバー達と共に攻略に当たっての作戦会議を行っていたのだった。
「ここへ来るのも久しぶりだな……。確か前に来た時はここからちょっと進んだ先のところでクラゲのモンスターにやられてすぐ逃げ帰る羽目になっちまったんだったよな。まぁ、あれから私等も相当パワーアップしてるし流石にもうそんな道中の雑魚モンスターに苦戦することはないとは思いたいけどよ……」
「それはまだ分かんないよ、爆裂少女さん。あの時戦ったのはそのクラゲのモンスター一匹だけだったし、もし複数の敵に囲まれでもしたら苦戦どころか全滅させられてしまうこともあるかもしれない……。前にここでアナライズの魔法で得たホオジロザメのモンスターの情報をナミに教えて貰ったんだけどそいつのレベルはなんと300以上だったって……。この前の拷問紳士さんのいた館のダンジョンの敵の平均レベルが大体230前後ぐらいだったから、きっとその時と同じかそれ以上に苦戦させられることも僕はあると思う」
「マジか……。まぁ、それなら前の館のダンジョンで全滅しちまってる私はあんまり偉そうなことは言えねぇな……。ならやっぱりレベルが上がったからってあんまり調子に乗らず身を固めて慎重に進んで行った方がいいか……。なぁ、セイナ」
「ああ……その為にもまずはパーティの基本的な陣形と連携の取り方について決めておかないとな。ここにいるほとんどのメンバーはこれまでに何度も行動を共にして職業やレベル、そして各々の力量に関して大体把握できてはいるが……セイレイン。君とは今回初めてパーティを組むことになるができれば先に自己紹介も兼ねて君の職業や戦闘スタイル等を教えて貰いたいのだが……」
「分かりました、セイナさん」
今回のダンジョン攻略のパーティは基本的に前回と同じ編成となっていたのだが、ブリュンヒルデの命により例の向こう岸の地域の探索の任務へと回ったメンバーがいた。その穴を埋める為に何人か前回のメンバーとは違う者達が参加していたのだが、ナギ達のパーティも昨日サニールの館で言っていた通りあちらの任務へと就かなければならなくなった鷹狩の代わりにセイレインがパーティメンバーへと加わっていた。他のメンバー達は以前とは変わっていたなかったものの前回よりレベルやステータスは格段と上がっていたようだ。各メンバーの現在の職業とレベルは次のようになっている。
※ナギのパーティメンバー
☆・セイナ 現在の職業 騎士 総合レベル・267(騎士・61 剣士・ 弓術士・106 槍術士・100)
・ナギ 現在の職業 魔獣術師 総合レベル・232(魔獣術師・44 魔物使い・103 魔術師・80 弓術士・5)
・アクスマン 現在の職業 傭兵 総合レベル・230(傭兵・46 戦斧士・104 弓術士・80)
・爆裂少女 現在の職業 モンク 総合レベル・233(モンク・26 武闘家・107 信仰者・100)
・ボンじぃ 現在の職業 神官 総合レベル・209(神官・9 治癒術士・100 信仰者・100)
・アメリー 現在の職業 聖獣使い 総合レベル・218(聖獣使い・36 魔物使い・102 聖術士・80)
・リリス 現在の職業 気功術士 総合レベル・228(霊能士・44 霊術師・104 霊媒師・80)
・セイレイン 現在の職業 治癒術士 総合レベル・351(精霊術士・300 治癒術士・51)
・デビにゃん 現在の職業 斧槍術士 総合レベル・222(斧槍術士・39 槍術士・103 戦斧士・80)
・シャイン 職業取得不可 総合レベル 82
・ドラリス 職業取得不可 総合レベル 192
「ほぅ……君は総合レベルが300を超えているというのにまだ上級職には就いていないというのか、セイレイン。そしてどうやらその総合レベルのほとんどを精霊術士の職が占めているようだが……これはなんらか意図があってのことなのか?」
「はい。昨日私の屋敷にいらっしゃった方々はすでにご存知でしょうが、私は代々のホーリースピリット家をずっとその聖なる力で守護してきた守護精霊と精霊術士として直接契約をしています。ですがその守護精霊と契約をするには最低でも精霊術士としてのレベルが300以上必要であり、その為にこれまで他の職に関して修練を積む時間がなかったのです。一応今は目標としていたレベルに到達することができた為白魔導士の職を目指して今度は治癒術士として修練を積んでいるところなのですが……」
「なるほど……そのような特殊な精霊と契約を交わすことができているとは味方としてかなり頼もしいな。できればその守護精霊もこの場で呼び出しておいて貰いたいのだが……」
「分かりました」
「頼む……」
「天より遣わされし我がホーリースピリット家を守護する精霊よ……。我らの日々の善行と信仰に応えその聖なる姿を今ここに現したまへ……。ホーリースピリットの守護精霊・クラウディアっ!」
“パアァァ〜〜ンッ!”
セイナから指示を受けるとセイレインはそっと目を閉じて意識を集中し、精霊を召喚する為の詠唱を開始した。するとその詠唱の最中セイレインの体から白く輝く無数のオーブのようなものが湧き出ていき、それらはナギ達の前の空中で一つに纏まっていくと更に強い輝きを放ち始めた。そして詠唱の最後にセイレインがその守護精霊の名を叫ぶと、その光はまるで閃光のように一瞬の眩い煌めきを放つと共に消え去ってしまった。しかしナギ達がその閃光に眩んだ目をゆっくりと開いていくと、そこにはまさにセイレインの呼び出した守護精霊と思われる女性が姿を現していたのだった。
「………」
「……っ!、うっ……うおぉ……君が唯一セイレインさんだけが契約することができたっていうホーリースピリット家の守護精霊なの……」
「はい。私の名はクラウディア、主であるセイレインや近しい間柄の方々から“クラウ”と呼ばれています。ホーリースピリット家の守護精霊としてセイレインやサニール、ホーリースピリット家の一族とそれに付き従う者達を快く受け入れて下さった皆様のことを全力でサポートさせて頂きたいと思いますのでどうかよろしくお願い致します」
「こ、こちらこそどうぞよろしくお願い致します……。やっぱり守護精霊というだけあってこれまでに会った通常の精霊達よりちょっと高貴な感じがするね。シルフィーや他の皆が頼りないって言うわけじゃないけどなんだが凄い力を持ってそう……」
「まぁ、アイナのシルフィー、それからシホのウンディなんかと違って特別な契約を交わさないと呼び出せないってことらしいからな。そりゃただ精霊術士の職に就いただけの奴等が召喚する奴よりは高い性能を持ってるだろうぜ。他にはそいつにしか使えない特別な技や能力とかな。……それで実際には他の精霊達とお前はどう違うんだ、クラウ」
セイレインの呼び出したホーリースピリット家の守護精霊は名をクラウディアといい、皆からはクラウと呼ばれているようだ。白みを帯びた美しい金髪が特徴的で、前髪を上げて晒したまるで人形のように整った顔立ちとその堂々とした表情からはとても高貴な雰囲気が感じとれた。また少々露出が激しかったものの純白の衣装に身を包んだ姿は清楚さだけでなくまるで聖なる存在であるかのように見て取れた。守護精霊だというのだから本当にそうなのかもしれないが、所持属性や使用する技や魔法などもそういったものに由来したものだろうか。爆裂少女に問い質されたのもあるだろうが、クラウディアはダンジョン攻略を進める前にそれらの点について事前にナギ達に説明しようとしたのだが……。
「戦闘における役割は今皆さんが仰られたシルフィールやウンディーネ達他の基本のタイプの精霊達とそう変わりありません。このサイズの小ささを生かして皆さん方の内の誰か一人の肩に付きその者を集中的にサポートさせて頂くのが基本的な役目となるでしょう。大抵は最も前に出て敵の注意を引く前衛の方の一人に付くことになるでしょうが……」
「確かにその辺りはシルフィー達と一緒だね。だけど同じサポートの役割だとしてもそのやり方にはそれぞれの精霊達によって色々と違いがあるんじゃないの。例えばシルフィーだったら風属性の魔法で味方を一瞬にして違う場所に移動させることができたり、ウンディだったら水属性の魔法で味方にHPの自動回復の効果を付与したりとかさ」
「そうですね。ナギさんの仰る通り一括りにサポートといっても私達精霊もその種族や所持属性等によってそれぞれ得手不得手とするものがあります。すでに見た目からも想像されている方もいるかもしれませんが、私の場合は所持属性である光の属性の魔法を用いて対象者の周囲に光の障壁を作り出し敵の攻撃を防ぐのが主なサポートの手段となっています」
「敵の攻撃を防ぐ光の障壁だってっ!。それって言うなればバリアみたいなものだよねっ!。そんなのを作り出せるなんてそれじゃあクラウさんに援護して貰った人は敵の攻撃に対して無敵になるってことぉっ!」
「い、いえ……流石に無敵とまでとは……。確かにバリアの強度より威力の低い攻撃ならば完全に遮断することもできますし、バリアの強度を超える攻撃を受けた場合でもその威力を大幅に軽減することができます。ですがそれ以上にバリアの強度を超える攻撃を受けた場合はその場でバリアは破壊され、攻撃の威力を軽減することもできなくなってしまいます。またバリアを維持する為には術者である私自身への負担も大きく、そういった点を考慮するとステータスの上昇や耐性の上昇等対象者に直接効果を付与する所謂バフ系統の魔法が使い勝手が良いといえるかもしれません」
「そ、そうなの……」
「術者の負担が大きいということはそのバリアを維持している間クラウは他の行動が制限されてしまうということだろうからな。例え効果の程が及ばずとも同時に他の援護も行える方が事態に柔軟に対応できるとは言えるかもしれない」
「ア、アクスマンさん……」
「だがそれでもやはり強敵の戦いではより効果の高いバリアの方が重宝されるのは間違いない。上手く敵の攻撃を防ぐことができれば一気に戦局をこちらのものにできるやもしれん。勿論そう上手く使いこなすのは容易なことではないだろうが……」
「でもホーリースピリット家の守護精霊として私達の先祖の代からこれまで数々の脅威を打ち払ってきたあなたならその力を最大限に活かすことができる……そうよね、クラウ」
「はい。必ずや皆さんのお役に立ってみせるのでどうか私のことを信頼してサポートを任せて下さい」
「勿論だ。これまでの会話だけでも君達の誠意は十分に伝わっているし私達も信頼に値する仲間であると確信している。クラウには私に付いて共にパーティの先頭に立って貰うことにしよう。アクスマンには最後尾で後方の警戒に当たったもらい他の者達はその間に入って私の後を付いて来てくれ。爆裂とデビにゃんはそれぞれ回復役であるセイレインとボンじぃの警護を任せる。狭い通路とはいえ皆左右の警戒も怠らないようにっ!」
「了解っ!」
「よしっ!、それでは進軍を開始するぞっ!」
新たな仲間であるセイレインとクラウからその能力と実力の程を聞いた後ナギ達はセイナの号令に従ってこのダンジョンの攻略の為進軍を開始した。前回の時はナギ、鷹狩、アメリーの魔物使いが3人もいる、回復役がボンじぃしかいないなどの理由で不仲のパーティの編成に対し散々批判があり実際そうだったのだが、クラウとセイレインの加入でその悪かったバランスも一気に引き締まった。憂い事もなくなりこれでナギ達もダンジョンの攻略により集中して臨めるようになったはずだろう。そして他のパーティ達もナギ達と同じように進軍を開始していたのだが……。
「フレイムっ!・ブラスタァァーーーっ!」
“バアァァァァァァァンッ!”
“グオォォォォッ……”
ナギ達が進軍を開始した頃ナミのいるパーティではすでに最初の敵の遭遇し、たった今その魚人型のモンスターをエドワナがフレイム・ブラスターの魔法により焼き殺したところであった。エドワナはセイレインやハイレインと同じくサニールの屋敷の住民の霊であるが、この作戦に参加しているということは彼女も固有NPC兵士になったということだろう。拷問紳士との戦いの時にも彼女はかなりの活躍を見せていた為、固有NPC兵士として十分な実力を保持していることはすでに周知のとおりだ。ナミ達のパーティへはゲイルドリヴル達について行った天だくの代わりに加わったようだが……。
「凄っごーいっ!、エドワナさんっ!。今の敵って多分水属性のはずなのにそれを火属性の魔法で一撃で葬っちゃうなんて……。属性の相性なんてものともしないくらいエドワナさんの攻撃が強力だったってことねっ!」
「驚いてくれるのは嬉しいけどそんな大袈裟にリアクションされるとこっちが恥ずかしいわ、ナミさん。確かに水属性の敵に対して火属性の攻撃は相性が悪いけど、私の所持属性も火属性だからその分こっちの攻撃の威力も上がってるから今のはそのおかげよ」
「それでも普通の相性の攻撃よりダメージの効率は悪いはずでしょ。なのに一撃で倒せちゃうのはやっぱりエドワナさんの実力が凄いからよ。それに今のフレイム・ブラスターっていう魔法だっけ。あの変態拷問野郎と戦った時にも使ってたけど滅茶苦茶格好いい技よね。一体どうやったら使えるようになるの。一応私も魔術師の職の経験はあるんだけどまだレベルが足りないのかなぁ……」
「これは魔術師じゃなくて魔闘家の職で習得できる魔法よ。術技じゃないから魔闘家の特性を活かして物理技として繰り出すことができないから使いこなすにはそれなりの魔法攻撃力が必要になるけど……習得レベルは確か60ぐらいだったかしら」
「魔闘家のレベルが60っ!。それなら私ももうすぐ習得できるじゃないっ!。あんな格好いい魔法や技が使えるようになんてやっぱり魔闘家の職を選んで良かった」
どうやらナミもすでに上級職である魔闘家へと転職を済ましすでにそのレベルも50目前というところまで上がっているようだ。やはり北の森の館のダンジョンの攻略と拷問紳士との激闘によりかなりの経験値を得ることができていたようだ。今の二人の会話からエドワナも魔闘家の職に就いているようだが、他のメンバー達はどのようになっているのだろうか。
※ナミのパーティメンバー
☆・レミィ 現在の職業 重機工術士 総合レベル・224(重機工術士・42 機工術士・102 弓術士・80)
・ナミ 現在の職業 魔闘家 総合レベル・244(魔闘家・58 武闘家・106 魔術師・80)
・ロザヴィ 現在の職業 黒魔導師 総合レベル・220(黒魔導師・36 魔術師・104 祈祷師・80)
・聖君少女 現在の職業 聖職者 総合レベル・233(聖職者・26 聖術士・107 信仰者・100)
・ターシャ 現在の職業 神官 総合レベル・214(神官・30 信仰者・104 治癒術士・80)
・ハンマン 現在の職業 闘槌士 総合レベル・225(闘槌士・43 戦槌士・102 武闘家・80)
・オーケス 現在の職業 吟遊詩人 総合レベル・218(吟遊詩人・34 奏術士・94 語り部・90)
・エドワナ 現在の職業 魔闘家 総合レベル・341(魔闘家・77 魔術師・152 武闘家・112)
「物理と魔法の両方の属性の攻撃手段を持っていた方が色んな敵にも対応し易そうだしね。そういった意味でもナミちゃんとエドワナさんの魔闘家二人が前衛にいてくれてリーダーの私のしても頼もしい限りだよ、ナミちゃん。その調子でどんどん敵を蹴散らして私達がダンジョンの奥に一番乗りちゃおーっ!」
「OKっ!、レミィっ!。私もエドワナさんに負けないよう頑張るから皆もちゃんと後ろを付いて来てよねっ!」
「ちょ……ちょっと待ってください、レミィさんっ!。確かに私もナミさんとエドワナさんが先頭に立ってくれるのは頼もしく感じますが流石にもう少し慎重に進軍した方がいいのでは……」
「分かってる、聖ちゃん。心配しなくても私も本気で一番乗りを目指すつもりなんてないから安心して。ただ今回はアプカルルの魔法の効果が切れるまでに攻略しないといけないっていう制限あるわけだし、一応いつもより速めに進軍するよう心掛けておいた方がいいと思うの」
「なるほど……確かにそれはレミィさんの言う通りかもしれませんね。実際私は達はまだこのダンジョンの構造をまるで分かっていないわけですし最深部の攻略までにどれだけの時間が掛かるのかまるで見当が付いていません」
「まぁ、アプカルルの魔法の効果時間は十分にあるみたいだしそんな心配しなくてもいいかもしれないけどね。まぁ、とにかくそういうわけで私達は慎重且つ大胆にこのダンジョンの攻略を進めて行こう。それじゃあ進軍再かーいっ!」
こうしてナミ達はリーダーのレミィの指示の元再びダンジョンの最深部を目指して進軍を開始した。先程のナギ達とは違いに前衛にナミとエドワナの二人を配置した攻撃的な陣形でかなり進軍の速度は速そうだ。これは冗談ではなく本気でナミ達のパーティがダンジョンの最深部へと一番最初に辿り着くことになるかもしれない。そうなった場合ナミ達は恐らく最深部にいるであろうダンジョンのボスと他のパーティが到着するまで自分達のみで戦うことになってしまうのだが……。
「まぁ、それではハイレインさんはご自身も霊体であるにも関わらず霊獣使いとして霊体モンスターを従えていらっしゃるのですか」
「そうよ〜、私の仲間モンスターの子は恥ずかしがり屋さんで用がある時以外はあんまり姿を現してくれないんだけどねぇ〜」
一方このダンジョン攻略の総指揮を務める不仲のパーティにもサニールの屋敷の住民からの新戦力としてハイレイン、そして北の森の館のダンジョンでもナイトやレナ達と激闘を繰り広げたグラナの二名が参戦していた。グラナはパーティのバランスを考慮してのようだが、恐らくハイレインに関しては霊体であるとはいえ高貴な家柄の夫人であるということに惹かれお近づきになろうと不仲が無理やり自身のパーティへと組み込んだのだろう。もしくは高慢な不仲のことであるから高い地位を持つハイレインこそ自身のパーティに相応しいとでも考えたのか。どうやら今はそのハイレインの戦力分析の意味も込めて彼女の自己紹介と職業等について話しを聞いていたようだったが……。
「恥ずかしがり屋ですか……。私も学生時代は引っ込み思案で一時不登校にまでなってしまった時期もあったので気持ちは分かりますが、パーティの戦力を正確に把握する為にも一度どのようなモンスターなのか確認させて頂いた方がいいのではありませんか、不仲様。…」
「ふむ……確かに賢機さんの言う通りですわね。……っというわけでハイレインさん。できればそのあなたの仲間モンスターさんにこの場に姿を現すよう命じて頂けないでしょうか」
「ふふっ、いいわよ〜。それじゃあ出ておいで〜、ウィルちゃ〜んっ♪」
“パアァァ〜〜ンッ……”
“ウィルゥ……”
ハイレインが仲間モンスターの名を呼ぶと突如として不仲達の前に淡く揺らめく青白い炎のようなものが出現した。その炎の中には白く光る二つの目を持った黒い塊のようなものがあり、どうやらそれが炎を纏っているようだが目を持っているということはこの物体がハイレインの仲間モンスターということなのだろうか。
「こ、これがハイレインさんの仲間モンスターさんなのですか……。確か先程はウィル……さんと呼んでいらっしゃいましたよね」
「そうよ〜。この子が私の仲間モンスター、“ウィル・オ・ウィスプ”のウィルちゃん。火の玉の幽霊であなた達の世界でも有名な存在よね〜」
「ええ……まぁ、姿形も私達の世界のイメージ通りですわね。ですが他のゲーム等でもよく見かけましたが仲間モンスターとして接するのは今回が初めてですわ。私の名は不仲奈央子、あなたのご主人であるハイレインさんも参加してくれていらっしゃるこのパーティのリーダーを務めさせて頂いております。これからよろしくお願い致しますね、ウィルさん」
“ウィル……”
どうやらハイレインの仲間モンスターであるこの炎を纏った黒い物体は火の玉の伝承として有名なウィル・オ・ウィスプのようだ。これまで数々のゲームをプレイしてきた不仲達にとってはお馴染みのモンスターであったようだがステータスや能力もこれまでと似ているのだろうか。そしてこのウィル・オ・ウィスプも含めた不仲達のパーティメンバーの現在の職業やレベルは次の通りだ。
※不仲のパーティメンバー
☆・不仲 現在の職業 狩人 総合レベル・248(狩人・66 弓術士・102 魔物使い・80)
・アンチ奈央子 狂戦士 総合レベル・234(狂戦士・58 戦士・106 戦斧士・80)
・貧島 現在の職業 神官 総合レベル・212(神官・28 治癒術士・104 信仰者・80)
・賢機 現在の職業 白魔術師 総合レベル・214(白魔術師・30 精霊術士・91 治癒術士・93)
・トレジャー 現在の職業 魔法盗賊 総合レベル・224(魔法盗賊・30 盗賊・104 魔術師・80)
・マイ 現在の職業 魔弓術士 総合レベル・359(魔弓術士・76 弓術士・148 魔術師・92 信仰者・43)
・ハイレイン 現在の職業 霊獣使い 総合レベル・387(霊獣使い・94 魔物使い・132 霊術士・90 信仰者・71)
・グラナ 現在の職業 魔剣士 総合レベル・349(魔剣士・81 剣士・151 魔術師・117)
・ウィル 職業取得不可 総合レベル 244
「それでこいつの能力は一体どういったものなんだ。まさか本当の火の玉みたいに俺達をわざと危険な場所に誘導したりなんかしないだろうな」
「ふふっ、大丈夫よ〜、奈央子ちゃん。確かに敵として現れた時はそういう意地悪をしてくるけど味方になってくれた今は反対にあらゆる危険を逸早く察知して私達に知らせてくれるわ〜。こういったダンジョンみたいに入り組んだ構造になってる場所だったら安全に奥に進む為のルートなんかを教えてくれるんじゃないかしら〜」
「へぇ〜、それは中々親切なモンスターさんじゃない。火の明かりで辺りも照らしてくれるしまさにダンジョン攻略にうってつけの能力って感じね。でもそれなら早速この子にダンジョンの道案内をして貰った方がいいんじゃないかしら。恥ずかしがり屋さんって言ってたけどお願いして大丈夫かな、ハイレインさん」
「う〜ん、ちょっと聞いてみるから待ってて〜、マイちゃ〜ん。……ねぇねぇ、ウィルちゃん。そういうわけで悪いんだけどこのままこのダンジョンの道案内をして貰えないかしら〜。あなたのことだろうからずっと皆の前で姿を現したままなのは辛いだろうけど……」
“ウィル……”
「えっ!。“本当は嫌だけどご主人様の頼みのなら仕方ない”って〜。ふふっ、あなたが主人思いのいい子で本当に良かったわ〜。無事このダンジョンを攻略できたらちゃ〜んとご褒美あげるからね〜。……っというわけでウィルちゃんが皆の道案内を引き受けてくれるみたいよ〜、不仲さ〜ん」
「分かりました。では前衛のグラナさんと共にパーティの先頭に立って進んで貰いましょう。ですが敵と遭遇した時は迷わず下がって私達の後ろに隠れてくださいね」
“ウィルっ!”
「“分かったっ!”ですってぇ〜。まぁ、ウィルちゃんはあんまり戦闘が得意がじゃないしHPも高くないからそれが得策かもしれないわね〜。だけどあなただって多少の魔法は使えるだから隠れてばかりいないでちゃ〜んと私達のサポートもしてちょうだいよ〜」
“ウィル……”
こうして不仲達のパーティはウィルの案内の元ダンジョンを進んでいくことになった。どうやらなるべく危険なルートを避けてダンジョンの最深部へと誘導してくれるようだが、例え回り道をしたとしても順当に正解といえるルートを進めるなら攻略の速度をかなり速めることができるだろう。もしかしたらナミ達のパーティよりも早く最深部に辿り着くことも可能かもしれない。しかしこの前の北の森のダンジョンを攻略した時より皆それなりにレベルが上昇しているとはいえ一体どれだけのパーティがこのダンジョンの最深部へと辿り着くことができるのだろうか……。
 




