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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十五章 リベンジっ!、川底の遺跡の探索
128/144

finding of a nation 125話

 “ヴィーン……バッ!”


 「……っ!、ああっ!、良かったっ!。どうやら無事不仲さん設置してくれた拠点の魔法陣に転移できたみたいね。もし転移できなかったらまた丸一日掛けてここまで移動して来なきゃいけないしどうしようかと思ってたわ。いくらなんでもそんなに皆を待たせるわけにはいかないし……」

 「そうだね。他の皆もちゃんと転移して来れてるのかなぁ」


 サニールの屋敷で一晩を過ごしたナギ達はその翌日の朝転移用の魔法陣を用いて遺跡のある川岸のすぐ近くに設置された拠点へと来ていた。どうやらこのダンジョン攻略の総指揮を務める者として不仲が事前に何人かのメンバー達と共に設置しに来ていたらしい。張ったテントの周りを木の柵で囲っただけの簡易的なものであったが出陣前に態勢を整えるには十分だろう。すでにナギ達の他にダンジョン攻略に参加するメンバーも到着しているようで、折角なのでナギ達は作戦開始時刻まで軽く雑談でもしよう皆の元へと駆け寄って行った。


 「お〜い、爆ちゃ〜ん、聖ちゃ〜ん、シホちゃ〜ん、皆ぁ〜っ!」

 「……っ!、おおっ!、ナミにナギ達じゃねぇかっ!。この前のダンジョンの攻略じゃ大活躍だったみたいだな、お前達。私と聖のパーティは途中で脱落しちまったってのによ……」

 「そんなの偶々私等のパーティの運が良かっただけよ、爆ちゃん。私達だって罠に掛かってあの敵のボスの拷問紳士のところに飛ばされちゃって……おまけに最初は皆捕らわれた状態でそのままあいつの拷問の餌食になっちゃうところだったんだから。それに爆ちゃん達だってダンジョンの攻略は途中で断念したものの、皆ちゃんと無事脱出することができたんでしょ」

 「まぁな……。だけどあそこといい今から行くこの川底の遺跡といいこれまでに比べて格段と出てくる敵の強さが上がってやがるからな……。この前の時より大分レベルが上がってるとは気を気を引き締めて掛からねぇと今度こそやられちまうかもしれねぇ……」

 「そうね……。この前臨んだ時は私達全員成す術なく逃げ帰って来ちゃったわけだし……ってあっ!。そういえば今回鷹狩さんやあの天丼頭達が来れないみたいだけど大丈夫なの。一応私達も何人か助っ人を連れてくるって不仲さんに連絡したらそれで何とかなりそうって話だったけど……」

 「ああ……あの野郎私等のリーダーだってのちょっとゲイルドリヴルの奴に煽てられたらあっさりろ私等のこと見捨てやがってよぉ……。頭くるぜ、本当。まぁ、ブリュンヒルデ様直々の命令だってのもあって断りずらかったのもあるのかもしれねぇけどよ……」

 「そうよね〜。私も鷹狩さんから話を聞いた時はなんて情けない奴なのって思っちゃったわ。でもこの川の向こう岸の探索なんて一体どうやって行くのかしら……。こんな広い川の向こう岸なんてそう簡単に渡ることはできないと思うんだけど……」

 「んなもん泳いで渡るわけにもいかねぇし船で行くに決まってるだろ。橋が掛かってるわけでもねぇんだからよ。……ほら、あそこにドでかい船がまってるのが見えるだろ。皆あれに乗って向こう岸まで行くんだとよ」

 「ドでかい船……ってああっ!、本当だわっ!。あんなところに凄く大きくて豪華な船泊まってるぅっ!」


 久々に会った爆裂少女やシホ達と会話を楽しむナギ達であったが、その最中爆裂少女に促された方を見ると川岸に停泊している巨大な木造の船の姿が目に入って来た。その船はまるで軍艦のように大きく豪勢な造りとなっており、乗船できる者の数は数千人にも及びそうであった。更にはその付近の川沿いの陸地には船が停まる為の港まで設置されており、その船の大きさには及ばないものの他にも何百人の者達が乗船できそうな船がいくつか停泊していた。一体いつの間にこのようなものが建造されていたのだろうか。レイチェルやアクスマンもその光景に驚いたようでそれぞれ感想や考察を述べていたのだが……。


 「マジで凄いじゃねぇか……。一体いつの間にあんな船や港を造りやがったんだ……」

 「この前に私等がこの遺跡に来た時にはすでに建造が始まってたらしいぜ。その時はまだ全然完成に行き届いてなかったみたいで私等も気付かなったみたいだが……。それにしても数か月であれだけの物が完成するってのはあくまでここがゲームの中の世界だからってことだろうけどな」

 「ふむぅ……。しかしあの船や港の規模を見る限りどうやらブリュンヒルデさんは本格的に川の向こう側の探索に乗り出す気のようだな。こちら側の地域の探索はこの前のモンスター達の大量発生を止めたおかげでほぼ完了したということか……」

 「そりゃいつまでもこんなこじんまりした場所で篭って内政ばかりしてるしてるわけにはいかないもの。ゲームに勝利したいならもっと積極的に領土を広げていかないと……。やっぱりブリュンヒルデさんもその辺のことはちゃ〜んと分かってて最初から手を打っておいてくれたんだわ。……ねぇ、ちょっとぐらいなら私達もあの船と港の見学に行っても構わないかしら」

 「ああ、こっちの作戦が始まるまでまだ時間があるみたいだし構わないだろ。他の連中も何人か気になって見に行ってるみたいだしな。私等は万が一にもあの天丼頭の顔を見たくないんでここに残ってるが……。あとあの港のちょっと向こうに行ったところで向こう岸に渡る為の橋の建造も始まってるみたいだぜ。そっちの方はまだまだ完成まで時間が掛かりそうだけどな」

 「……っ!、橋の建造だってっ!。なら僕達はそっちを見にってみようか、デビにゃん、シャインっ!」

 「にゃっ!、きっとこの広い川を渡る為のものならその橋も滅茶苦茶大きいものに決まってるにゃっ!」


 “グオグオッ♪”


 港に停泊している船の壮大な光景に魅入られたナギとナミ達はこちらの作戦が開始されるまでの時間を利用して少し見学して行くことにした。どうやら港の向こう側では向こう岸に渡る為の橋の建造も始まっているようで、ナギやデビにゃん、それにセイレイン達はそちらに向かうことにしたようだ。船に橋……どちらもこれからヴァルハラ国の領土を拡大していく上で非常に重要なものとなるだろうが……。


 「うわぁ〜っ!、やっぱり近くで見ると余計凄っごい迫力ねぇ〜っ!。それにヴァルハラ国の兵士達が船員になって船の警備に当たったり荷物を運搬してたりするのを見るとまさにこれから海の戦いに出る戦艦って感じもするわね。ゲイルドリヴルさんや鷹狩さん達はこんな格好いい船に乗って海の旅ができるなんて羨ましいなぁ〜」

 「ならお前も我々についてこの船に乗って行くか、ナミ」

 「えっ……」

 「……っ!、あ、あんたは……ゲイルドリヴルさんじゃねかっ!」

 

港から船を眺め大そうな感想を浮かべるナミであったが、突然後ろから何者かが呼び掛ける声が聞こえて来た。その声に反応してレイチェルと共にナミが後ろを振り向くと、そこにはこの前のダンジョン攻略、恐らく今回のこの船に乗って行く作戦もそうだろうがその総司令のゲイルドリヴルの姿、そして隣には既にゲイルドリヴルのコンビとして名高い鷹狩の姿のあった。どうやら鷹狩もこの前のダンジョン攻略を終えてから正式にゲイルドリヴルも参謀として抜擢されたようだ。船の出向までまだ時間があるようで、偶然見かけたナミ達と少しばかり雑談でもして行こうと思い声を掛けてきたのだろう。


 「ひ、久しぶりね……ゲイルドリヴルさん。鷹狩さんは今日の朝まで一緒だったけど……。いきなり声を掛けられてビックリしちゃった。二人共これからこの船に乗って向こう岸のエリアの探索に行くのよね。NPCの兵士達は随分と慌ただしくしてるけどあなた達は船に乗り込まなくて大丈夫なの?」

 「ああ、出航の時刻まではまだ時間がある。お前達の方こそ今日はどこかの遺跡のダンジョンに行くと聞いていたが……」

 「ええ、この辺りの川底にある遺跡のダンジョンの攻略にね。ほら、小さいけどあそこに私達の拠点あるでしょ。皆と一緒にあそこに集まってたんだけど、そしたら川岸にこんな目立つ船が泊まってるんだもの。私達も作戦開始まではまだ時間があるし気になってちょっとこの船と港を見学に来たってわけ」

 「そうか……。しかしお前達には悪いことをしたな。確かこちらの任務に参加している鷹狩や他のメンバー達も何人かお前達と共にそのダンジョンの攻略に向かうはずだったのだろう」

 「大丈夫よ。もう代わりのメンバーは見つかったし、ブリュンヒルデさん直々の命令をこなさなきゃいけないゲイルドリヴルさんの方が大変だって皆分かってるから気にしないで。爆ちゃん達だけは天丼頭に裏切られたってさっきも怒ってたけど……」

 「それは爆裂少女達には後で私からきちんと説明しておかないといけないな。天だくには私が無理を行ってこちらの任務に就いて貰ったのだと……」

 「ふーん……私は普段偉そうにしてる天丼頭の方が悪いと思うからそんなことしなくていいと思うけど……。でも人手に困ってる感じの割には私やナギ達には声を掛けてこなかったのね。別に拗ねてるわけじゃないけどなんどかちょっと寂しいな……」

 「いや……別にお前達の実力を信用していないわけではないのだが鷹狩からダンジョン攻略のことを聞いてあまりこちらに戦力を横取りするわけにもいかんと思ってな。そちらからこちらに呼び寄せたのは必要最低限な者達のみに絞ってある」

 「必要最低限か……。でもそんな遠慮するぐらいだったらそっちの作戦をちょっと延期してくれれば良かったのに……。ダンジョンの攻略なんて上手くいけば今日一日で終わるんだし、そしたら私達皆ゲイルドリヴルさんの方について行けたのに……」

 「そういうわけにはいかない。なにせこの作戦はブリュンヒルデ様本人も参加される非常に重要なものだからな。それにお前達も一日や二日遅らせたところでダンジョン攻略に費やした体力や行動ポイントを回復するしきれないだろう」

 「……っ!。え、ええぇぇーーーっ!、ブリュンヒルデさんもこの作戦に参加するって……もしかしてゲイルドリヴルさん達と一緒に船に乗って向こうのエリアを探索しに行くってことぉーーーっ!」

 

 互いの近況や今後の予定など何気ない会話を交わすナミ達であったが、そんな中突如ゲイルドリヴルの口から皆が驚くべき内容の言葉が飛び出して来た。なんとヴァルハラ国の女王であるブリュンヒルデも自らこの作戦に参加し川の向こう岸のエリアの探索に乗り出すということらしい。通常では国のトップが探索程度の任務に自らおもむくなど考えられないことではあるが……。それだけブリュンヒルデが向こう岸のエリアの探索と領土の拡大を重要視しているということなのだろうか。


 「そうだ。……っとほら、ちょうど今船の甲板かんぱんへとお出になられて来た。こちらに気付いて手を振ってくれているぞ、ナミ」

 「えっ!、どこどこどこどこどこぉっ!」


 ゲイルドリヴルの言葉を聞いたナミは慌てて船の甲板の方を見上げてブリュンヒルデの姿を探した。するとちょうど船の甲板の中腹辺りからブリュンヒルデがこちらを見下ろして手を振っており、まさかの女王からの厚意こういに溢れる振舞いを受けてナミ達も少し戸惑いながらもまた更に慌てた様子で手を振り返した。船は桟橋に沿って停泊しており、作業中の兵士達の邪魔にならないよう桟橋の手前から船を眺めていたナミ達からは小さくしか姿を確認できず、恐らく呼び掛けても声を聞き取ることはできないだろうが。


 「お〜い〜っ!、ブリュンヒルデさぁ〜んっ!。どうして女王であるあなたがわざわざこんな任務に自ら同行するんですかぁ〜っ!。外には危険が一杯なんですから向こう岸の探索なんてゲイルドリヴルさん達に任せてブリュンヒルデさんはヴァルハラ城に戻ってゆっくりお茶でも飲んでいてくださぁーいっ!」

 「………」

 「……っ!、行っちゃった……。やっぱりここからじゃ私が何を言ってるのか聞き取れなかったみたいね……」


 やはり距離があった為懸命にナミが呼び掛けるもその声はブリュンヒルデには届かず、後ろから現れたカムネスから何かの報告のようなものを受けると甲板の内側へと入ってしまい姿が見えなくなってしまった。どうやら出航前ということで船の上の作業もかなり慌ただしいものになっているらしく、兵士達に女王としての指示を煽られてしまったのだろう。


 「しかし確かにナミの言う通りなんでブリュンヒルデさんが自らこんな作戦に参加してるのか気になるな……。今回も司令官に任命して貰ってるあんたなら理由ぐらい知ってるんじゃないのか、ゲイルドリヴルさん」

 「ああ……実は向こう岸のエリアの探索に向かうのは今回の我々が初めてというわけではない。すでにブリュンヒルデ様の命を受け数か月前に任務に出た別の先遣隊がある程度の調査を済ませているのだ」

 「……っ!、数か月前ですって……っ!。それって私達が拷問紳士のいたあの館のダンジョンを攻略に向かうより前の話じゃないっ!。確かあいつのせいで来たの森からモンスター達が大量に押し寄せて来て大変だったはずなのにその時からブリュンヒルデさんは向こう岸のエリアへの領土の拡大のことを考えてたのね……」

 「そうだ。我々の最初の領土となったこの巨大な川と山岳に囲われた地域は確かに敵国の侵攻を防ぐには打って付けかもしれないが、他の地域へと出る為の方法がこの川を越える以外にない。その為万が一先に川の向かい側の地域を敵国に占領されてしまった場合我々はこの地域に完全に閉じ込められてしまうことになる。それを防ぐ為にブリュンヒルデ様は逸早くこの川の先のエリアを押さえたいとお考えなのだ」

 「なるほど……それでそんなに早くから偵察の為の部隊を送り出してたのね」

 「あくまで偵察が目的の為この本隊に比べてかなり小規模の部隊だがな。そしてその偵察に出た部隊からの報告を元に我々が本格的な探索と調査を行うというわけだ」

 「おおっ!、なんだかそう言われると私も向こうのエリアにはどんな光景が広がっているのか楽しみになって来たわねっ!。まぁ、今回は私はそっちに同行はしないんだけど……」

 「でもよ。確かに向こうのエリアを早く確保することが重要だってことは分かったけど、それでもブリュンヒルデさん自らが作戦に参加する必要まではねぇんじゃねぇか。探索と調査なんてわざわざ女王様がやる必要なんてないしモンスターの討伐だってゲイルドリヴルさん達がいれば大丈夫だろ。大体そういうのって先に兵士達でエリアを占拠して安全を確保してから女王を迎えるっていうのが普通なんじゃねぇの」


 レイチェルにブリュンヒルデが自ら作戦に参加する事情を問い質され皆に説明するゲイルドリヴルであったが、確かに向こう岸の地域を早期に確保する為というだけでは皆が十分納得する理由にはなっていなかった。わざわざ女王が出向くということはそれ相応の理由がこの作戦にはあるはずなのだが……。


 「ああ、確かに通常ならばこの作戦に女王であるブリュンヒルデ様が自ら参加するようなことはない。お前の言う通りエリアの探索や確保などは我々兵士の務めとして最たるものだからな。だが今回先に偵察に出た部隊からの報告によると、向こう岸の地域にかなりの規模の……、こちら側の地域にポツポツとあったような小さな集落ではなく都市と呼べる程の巨大なNPC達の住む街があるというのだ」

 「と、都市と呼べる程巨大なNPCの街……」

 「NPC達しか住んでないのにそんなにでけぇ街があるってのかよ。……ってでも待てよ。確か前にアイアンメイル・バッファローと戦った時に現れたあいつ……。ド笑いするなんとかってのがナギ達にこのゲームのどこかに自分達の国があるとかぬかしてやがったんだっけな」

 「ドラワイズ・ソルジャーね。あんたいい加減その変な名前の間違え方する癖直しなさいよ」

 「ああっ!、そうだったそうだったっ!、ドラワイズ・ソルジャーだっ!。けどってことはもしかしてその巨大な都市ってのはドラワイズ・ソルジャー達の……そうじゃなくても他のNPC達が集まってできた国って可能性もあるってわけか」

 「いや……一応自分達で政府に代わるような機関を作ってはいるようだが、正式に国として成立しているわけではないらしい。最も正式に成立してるかどうかなど関係なくそれ程の規模の街が自治体のようなものを組織している時点で我々からしてみれば国と同等なものとして対応しなければならないが……。それに軍隊というわけではないが市民の中から腕利き者達を集めて自警団のようなものの組織しているようだ。都市の名前は確かプレーンズと言ったかな……」


 ゲイルドリヴルによるとこの川を越えた先にはプレーンズというこれまでとは比較にならない規模を誇るNPC達の街があるらしい。どうやらその街の存在がブリュンヒルデが直々にこの作戦に参加する理由となっているようだが……。


 「プレーンズ……でもそうか。国と同等なものして対応しなければならないってことでこっちも女王であるブリュンヒルデさんがわざわざこの任務に繰り出して来てるってことね。もしその国の人達と対立するようなことにでもなったら私達だけじゃどう対応していいか分からないもの……」

 「そういうことだ。我々としては当然対立は避けたいもので、その為には女王であるブリュンヒルデ様が自ら交渉に臨むのが一番だからな。それに最初の接触の計る際にも我々配下の者が行くより国のトップが出向いた方が向こうの態度も友好的になるというものだ。ブリュンヒルデ様はできればそのプレーンズの都市もこれまでのNPC達の集落と同じようにヴァルハラ国へと併合したいとお考えのようだが、少なくとも我々の他の地域への進出の弊害にならない程度の関係を築くことは必須といえるだろう」

 「そうね……。プレイヤーの敵国が相手ならともかく私もNPC達の国を力尽くで占領するなんて気が引けるわ……。だけど話し合いだけそう上手く事が運ぶものなのかしら……」

 「偵察に行った者達の報告では戦闘可能な戦力を保持してはいるもののそれはあくまで自衛じえいの為で、こちらから侵略するような真似をしなければまず我々を街へと受け入れてくれるそうだ。そこから交易を結ぶなどして友好を深めていけば向こうの方からヴァルハラ国の傘下に入ることを希望してくる可能性もある。自警団を組織する程の脅威を感じているのならば当然我々のプレイヤーの国加護を得たいとも考えているはずだからな」

 

 ブリュンヒルデがこの作戦に参加するのはやはりプレーンズというNPC達の都市との交渉を円滑に進める為だったようだ。すでにヴァルハラ国の偵察に出た何名かはその都市へと侵入しているようだが、まだ正式にヴァルハラ国の代表としてその都市の責任者達との接触は行っておらず、ブリュンヒルデからも自分が到着するまではそういった行動は取らないようにとの指示が出ているようだ。変に部下を通して接触を計るより自らその都市の責任者の元へと出向いた方が向こうに与える印象が良いと判断したのだろう。


 「交易か……。それって私達の国から物を買ったり逆に売ったりするってことよね。多分私達の世界の貿易と一緒で関税やら取引する商品の規制やら色々ルールを決めたりしなきゃいけないんだろうけど……そんな難しい話じゃますます私達の出番はなさそうね……」

 「そうでもないわよ、ナミ」

 「えっ……リア」

 「その都市の人達との友好を深めるのは何もブリュンヒルデさんだけの力によるものだけじゃない。その都市であなた達プレイヤーの一人がどのような行動を取るかでも私達ヴァルハラ国への印象が大きく変わってくるわ。私の母さんに頼まれてマイの集落に向かったように、その都市の人々に対して様々な手助けを行えばそれだけ私へ友好的な感情を抱くようになる。そしてそういった街の人達の一人一人の小さな感情の変化が都市全体の意思へと反映されるわけだからブリュンヒルデさんの交渉も上手く進み易くなるはずよ」

 「ああ……ブリュンヒルデ様にできるのはあくまでその相手の国や都市に対して最適な条件での対応を提示することのみだ。相手がその条件に応じるかどうかはリアの言う通りむしろその都市においての我々の行動に掛かっていると言っていいだろう」

 「なるほど……分かったわっ!。ようはその都市の人達にもヴァルハラ国の一員になって貰いたかったらそこでその人達の為に誠心誠意働けってことねっ!。そういうことならこの私に任せといてっ!。そのプレーンズの街を駆け回って困ってる人達の依頼を片っ端から片付けて回るからっ!」

 「なんだ……自分にも活躍の機会があると分かったら急に威勢よくなりやがってよ、ナミ。まぁ、そういうことなら私もその街に着いたらお前に付き合ってやるか。だけどその前にまずあの遺跡のダンジョンの攻略を終わらせなきゃならないことを忘れるなよ」

 「分かってるって。……っというわけでゲイルドリヴルさん。私がダンジョンを攻略している間そのプレーンズの街の人達と対立しないようよろしくね。街にさえ入らせてくれれば絶対そこに住む人達と打ち解けてみせるから、私」

 「ああ、私もお前達が来るまでにできる限り街の人々の依頼を受けて回ろう。私一人では大した成果は出せないだろうが皆で協力すれば短期間の内に街の人々の心情を大きく動かすこともできるはずだ」

 「ゲイル……そろそろ……」

 「ああ……では我々もそろそろ船へと乗り込むことにする。船旅の中でお前達もダンジョンの攻略が上手く行くことを祈っているぞ」

 「うん、ありがとう。それじゃあね、ゲイルドリヴルさん、鷹狩さん」


 こうしてゲイルドリヴル達はナミ達に別れを告げこれから対岸の地域へと向かう船へと乗船していった。ゲイルドリヴルからプレーンズの都市とその街の人々との友好を深める方法を聞いてナミは自分達も早くその都市へと向かうと遺跡のダンジョン攻略に向けて俄然やる気を出したようだ。一方ナミ達がゲイルドリヴルと港で出会った頃その少し北で建造されている橋の様子を見に行ったナギ達はというと……。


 「うっわぁ〜っ!、まだ建造中だって聞いてたけどもうここからじゃあどこまで橋の道が続いてるのか分からないぐらいできあがっちゃってるよ〜。この調子ならあっという間に向こう岸まで橋が掛かっちゃうんじゃないのかなぁ〜」


 建造中の橋の前まで来たナギ達であったが、すでにそこからでは橋の端を視認することができない程続いておりまるでもう対岸まで道が行き届いているのではないかと思える程であった。だがそれはこの川が対岸を見渡すことができない程とてつもない広さの為であり、実際には対岸までまだ100分の1の距離も橋は完成していなかった。それでも橋の建造にあたっている作業員達は決して滅入めいることなる一生懸命に働いており、完成までに掛かる膨大な作業の量をナギ達にまるで感じさせなかった。ゲームの中とはいえこの川を渡る為の橋の建造となると恐らくこの序盤では最大級の労力を必要とする作業のはずなのだが……。


 「何言ってるのにゃ、ナギ。僕達がこの広い川のここから見通せる部分なんてたかが知れてるのにゃよ。向こうまで繋がってるように見えて実際はまだほんの少しこっちの岸を出たところまでしかできていないはずにゃ。橋の上を歩いて行けばどこまで完成してるか分かるかもしれないけど……流石にそんなことまでしてる時間は今の僕達にはないしにゃ」

 「うん……それに一生懸命作業してる人達の邪魔になっちゃうかもしれないしね」

 「それにしても思ってたよりとても広くて大きい……そして豪華な造りの橋ですね。もしこれが完成すれば日にかなり大勢の人達がこちらと向こう岸の地域を行き来することができそうです」

 「そりゃ国の発展にとって人の流動性程大切なものはないもの〜、セイレインちゃ〜ん。向こうの地域の人達との交流が活発になればヴァルハラ国も新たな人材を獲得できるかもしれないし、こっちの地域じゃ入手できない貴重な物品なんかも流通するようになるかもしれない。そういったことを見越してブリュンヒルデ様は逸早く向こう側の地域への進出を計ってこの橋の建設にも力を入れているのよ」


 予想以上の橋の規模に驚きを露わにするナギ達であったが、ハイレインはこの橋や船に対するブリュンヒルデの考えについて意見を述べていた。どうやら先程船の停泊している港で話ていたゲイルドリヴルや鷹狩達と同じ意見のようだったが、普段のおとぼけた態度とは裏腹の鋭い考察を聞かされナギ達は意外に感じていたようだ。


 「なるほど……。確かに山岳と崖、そしてこの川に囲われた場所にある我々のヴァルハラ国にとってこの橋と船は序盤に外界との交流を繋ぐ為の数少ない手段……。そのことを考えればあの大規模な艦船とそれの停泊している港といい優先して力を注ぐのは言われてみれば当然のことかもしれませんが……普段おとぼけた態度ばかり取っているお母様にしては中々鋭い考察ですね」

 「ちょっとぉ〜、セイレインちゃ〜んっ!。普段おとぼけているってそれは一体どういう意味なのかなぁ〜。言っときますけど私のこの間の抜けた態度はあくまで表面上だけで実際に頭の中では常に鋭い思考を働かせているんですからねぇ〜」

 「それはそれで普段は猫を被って皆を欺いてるってことでしょ……。そっちの方がよっぽどたちが悪いと私は思いますけど……」

 「ふふっ、そういう風に思っちゃうのはまだまだセイレインちゃんが女として未熟だからよぉ〜。女はそう簡単に自分の本心を明かしたりしたらいけないのぉ〜。だって男の人はそういう女性のミステリアスな雰囲気に惹かれて寄ってくるんだからぁ〜。そうよねぇ〜、ナギく〜ん」

 「え、ええぇ……そ、それはちょっと僕には分からないよ……ハイレインさん。僕の周りにはあんまりそんな感じの女の人はいないし……」


 ナギと娘のセイレインに女性の魅力について語るハイレインであったが、どうやら二人にはあまりピンとこない内容であったようだ。セイレインはかなり魅力的な女性ではあるのだが、真面目な性格であった為普段から自身や他人の性別を意識することはなく、ナギに至ってはまだ女性との交際の経験もなかった為仕方のないことかもしれないが……。


 「そうね〜。確かに今ナギ君の一番身近にいる女の子のナミちゃんはあんな感じだし〜、セイナちゃんやレイチェルちゃん達もド直球な性格な性格してるものね〜」

 「べ、別にナミだけが特別身近にいるわけじゃないよ……。でも僕には分からないけどもしかしらたらサニールさんはハイレインさんのそんなところに惹かれて結婚したのかもしれないね」

 「かもしれないじゃなくてそうなのぉ〜。だってあの人の私へのプロポーズの言葉は“あどけない態度の裏で研ぎ澄まされた思考……。それはまるで可憐な風貌に見惚みとれて近づいて来た者の命を奪う毒花(どくばなのよう……。しかし私は敢えてその毒に侵されたいと思う……”だったんだからぁ〜っ!」

 「へ、へぇ〜……あのサニールさんがそんなことを……。でもプロポーズの相手のことを毒花だなんてちょっと失礼な気もするけどなぁ……」

 「確かに私もあの堅物のお父様がそのような言葉を口にするとはちょっと想像がつきませんね。私はお父様とお母様の若い頃のことをあまり知りませんから仕方ないのかもしれませんけど……。でもそういえば何故お母様はナミさん方と一緒に向こうの船を見学しに行かなかったのです。向こうに行けば船の出航前に鷹狩さんと共にいるはずのお父様に会えたかもしれないのに……」

 「嫌よぉ〜、折角これから皆と楽しいダンジョン探索に出掛けるっていうのにあの人のうるさい小言なんて聞きたくないわ〜。どうせ“危険なことはナギ君達のに任せてお前はなるべく後ろに後ろに身を隠していろ”とか“危なくなったらすぐ脱出用のアイテムを使うんだぞ”とか出発までネチネチとしつこく言われるに決まってるもの〜。私のことを心配してくれるのは嬉しいけどサニールはちょっと私に対して過保護過ぎなのよねぇ〜。そのくせセイレインちゃんには自分からナギ達について行くよう勧めたりするし……。妻の私より娘の方頼りになるとでも思ってるのかしら、ぷんぷんっ!」

 「は、はぁ……そういうことだったんですか……」


 どうやらハイレインは建造中の橋のことが気になるというよりゲイルドリヴルや鷹狩達と共に港で出航前の準備をしているサニールと会うのが嫌でこちらについて来たようだ。先程サニールからのプロポーズの言葉について嬉しそうに話ていた

様子を見るに夫婦関係が悪いというわけではないようだが、関係が上手くいっているからこその悩みもあるということなのだろうか。そんなハイレインの言葉を若干呆れ気味にナギ達は聞き流していたのだったが、そんな時突如ナギ達の立っている川岸のすぐ近くの水面みなもから突如として水飛沫みずしぶきが立ち上がり、そこからナギ達も見知った仲の者が姿を現すのだった。


 “バシャァーンっ!”


 「ふぅ〜……流石の僕もこれ以上は息が続かないにゃん。ちょうど作業も切りのいいところだったしちょっと岸に上がって休憩しようかにゃん」

 「……っ!、あ、あれは……もしかしてアットじゃないかっ!」

 「んん?、この声はもしかして……ああぁぁぁーーーっ!、やっぱりナギじゃないかにゃんっ!」

 

 突如水面からナギ達の前に姿を現したのはナギがセイナと共に猫魔族達の居住区を訪れた時以来に顔を合わすアクアキャットのアットだった。アットは猫魔族達の中でもリディとトララと共にヴァルハラ国が建国されたその日からナギ達と内政の仕事を共にした以来からの仲であり、ナギの顔を見るなり岸へと上がって体をブルブルと震わせ、全身の水気を飛ばすと嬉しそうな表情を浮かべて皆のところへと駆け寄って来た。


 「ナギぃぃーーっ!、久しぶりだにゃぁーーーんっ!」

 「やっぱりアットだっ!。こっちこそ久しぶりだね。でもどうしてこんなところに……っ!。もしかしてアットもこの橋の建造を手伝ってるのっ!」

 「その通りだにゃん。アクアキャットの僕なら水中での作業も得意だってことで駆り出されて来たんだけど……、これが結構の重労働で僕も疲れちゃってちょっと岸に上がって休憩しようと川から出て来たところだったのにゃん」

 「そうだったんだ。それはお仕事お疲れ様だったね、アット。だけど今もハイレインさん達と話してたんだけど、どうやらヴァルハラ国の発展にとってこの橋の建造は凄く重要なことみたいなのにアットや他の皆達に任せっきりでなんだか申し訳ないな……。完成までまだまだ先も長いみたいだし僕達も何か手伝いをした方がいいのかなぁ……」

 「何言ってるのにゃんっ!。ナギ達の方こそこの前の北の森の大量のモンスター発生を止めたみたいにヴァルハラ国の為に危険な任務をもっとこなしていかなきゃならないんだからこういう裏方の仕事は僕達に任せておいて欲しいにゃんっ!。……ところで今日はヴィンスやカイル達……その上ナミまで一緒じゃないのにゃんね。代わりになんだか見られない人達と一緒みたいだけどにゃん……。それに今思えばナギ達の方こそどうしてこんなところにいるのにゃん?」

 「それは……」

 

 アットに聞かれナギはこれから向かう川底の遺跡のダンジョン攻略とここに来るまでの経緯いきさつを大まかに説明した。どうやらアットもその遺跡について噂程度は耳にしていたようでナギの話を聞いてすぐに合点がいったようだ。アットと仲の良いヴィンスがこの場にいなかったのは少し残念なようだったが……。


 「おおーーっ!、そういえば一緒に作業してた誰かもこの辺りの川底にそんな遺跡があるみたいな話をいていたにゃんっ!。てっきり僕はナギ達もあそこに見える大きな船に乗ってこの川の向こう岸へと旅立つものと思ってたけど、その遺跡の攻略も同じぐらい重要な任務だにゃんっ!」

 「そうかな……。正直僕は遺跡の攻略は後回しにして僕達も向こう岸の地域の探索やこの橋の建造に協力した方がいいんじゃないかと思ってるんだけど……」

 「いやいやっ!、確かに向こうの地域への進出は今のヴァルハラ国にとってとても大事なことかもしれないけど、その遺跡からだってどんな凄い報酬が得られるかも分からないし早めに攻略しておくに越したことはないのにゃん。さっきも言ったけどこっちの橋の建造は僕達に任せておけばいいし、向こうの地域の探索はあのゲイルドリヴルさんって人達に任せておけば大丈夫だろうしにゃん。それに実はさっき川の中に潜って作業してる時に偶然通り掛かったマーメイド達に少しその遺跡についての噂話みたいのを聞いたんだけどにゃん……」

 「マ……マーメイドちゃん達じゃとぉぉーーっ!。どうしてそれをもっと早く言わんのじゃっ!、アットっ!。そのマーメイド達と会ったのは一体この川のどの辺りなんじゃっ!」

 「えっ……ちょうど僕がさっき川から顔を出した辺りだけどにゃん……」

 「なるほど……あそこじゃな。ならばこんなところでグズグズはしておられん。愛しのマーメイドちゃん達に会う為にも急がねば……とうぉっ!」


 “バッシャァァァァァーーンっ!”


 「きゅ、急に話に割って入って来たと思ったら今度は慌てて川の中に飛び込んで行っちゃったにゃん……。あのお爺ちゃんも久しぶりに会ったけど相変わらずの性格してるみたいにゃんね……」

 「うん……そうだね……」


 アットからマーメイドがいたという話を聞くや否やボンじぃはまるで手品とも思えるような早業で上着を脱ぎ捨ててパンツ一丁になるとアットの指差した辺りの水面目掛けて勢いよく飛び込んで行ってしまった。ボンじぃの容貌が美しいと思われる女性に対する反応はいつものことだったのだが、流石に今からこの広い川の中を探してマーメイドに会えるとは思えずナギ達も呆れた表情でボンじぃが飛び込んで行った後の水面の波紋を見つめていた。仮に会えたところで何の補助魔法も使用していない今のボンじぃの状態では水中で呼吸ができず碌に会話もできずにすぐ水面に上がってくることになるだろうに……。

 

 「ボンじぃが話の腰を折っちゃってごめんね、アット。それでできればさっきのマーメイドさん達の話の続きを聞かせて欲しいんだけど……」

 「勿論にゃんっ!。そのマーメイドちゃん達の話によるとなんとその遺跡には太古の昔この川に巣食っていた獰猛な怪物達をことごとく払いのけそれ以降ずっとこの川を守護して来たという聖獣が眠りについているらしいのにゃん」

 「こ、この川をずっと守護していた聖獣だって……っ!」

 「そうにゃ……。もうこの川に怪物達が再び現れることがなかった為自身の役目を終えたと判断して自らの手で自身を封印したらしいのだけど……、ナギ達プレイヤー達の国が現れてこの世界に再び動乱が訪れた今、その封印を解いてお願いをすればどの動乱を収める為にネイションズ・モンスターとして力を貸してくれるかもしれないということなのにゃんっ!」

 「ネ、ネイションズ・モンスター……。それって一体何のことなの……」

 「ネイションズ・モンスターっていうのはねぇ〜、ナギ君〜。そこにいるデビにゃんちゃんやシャインちゃんのようにプレイヤー個人に仕えてくれるモンスター達と違ってあなた達の国であるヴァルハラ国そのものに仕えてくれるモンスター達のことよ〜。言うなれば国家の仲間モンスターって感じかしらね〜」

 「こ、国家の仲間モンスターっ!」

 「そうよ〜。その子達は個人が従えるにはとても御しきれない程の巨大な体と強大なパワーを持っていて、今回のダンジョン攻略みたいな小規模の任務にはあまりついて来てくれることはないだろうけど国と国とが戦う大規模な戦闘なんかでは大活躍してくれるはずよ〜。きっとその巨体で相手の国のプレイヤー達をみ〜んな踏み潰していってくれるんじゃないかしら〜」

 

 アットがマーメイド達から聞いた話ではこれからナギ達が向かおうとしている川底の遺跡にはネイション・モンスターというプレイヤーであるナギの仲間モンスターであるデビにゃん達と違いそのプレイヤー達が所属している国そのものの仲間モンスターとなってくれるモンスターが封印されているらしい。つまりはその遺跡を攻略すればナギ達の所属国であるヴァルハラ国にその太古にこの川を守護していたというネイションズ・モンスターが加わってくれるかもしれないということだろうが、もしそれが事実ならば確かにその遺跡の攻略は向こう岸の地域の探索以上に重要性があるかもしれない。


 「そ、そっか……。確かにそれが本当ならアットの言う通り早めにあの遺跡を攻略しておいた方がいいかもね。ネイションズ・モンスターっていうのについてまだよく分かってないけど一体でも仲間にすることができればそれがどういったものなのかもちゃんと理解できるだろうし……」

 「それだけじゃなくて他に手に入るお宝も豪勢なものばかりに決まってるにゃん。この前ナギ達が攻略した北の森の館のダンジョンからも貴重なアイテムが数多く見つかったみたいだしにゃん。ただ効果や価値が高くても一般の人達はあまり手にしたくないと思えるような悪趣味なものも結構混じってみたいだけどにゃん……」

 「うん……元々はサニールさん達のお屋敷だったとはいえ僕達が向かった際には悪霊の棲み処になってた上に人を拷問に掛けるのが趣味の変質者のボスに占領されちゃってたからね。もしかしたら呪われたアイテムとかあるかもしれないし探索作業をしている人達には気を付けて貰わないと……。でも今回行くのは内部こそ暗い雰囲気だったけど外観は凄く立派な遺跡だったから普通の財宝が山ほど眠ってそうだけどね」

 「にゃんっ!。……でもナギ。どうやらヴィンスやカイル達もちゃんと同行するみたいだけどそのダンジョンの方はちゃんと攻略できそうなのにゃん。勿論ナギ達のことを信用してないわけじゃないけど他に参加してるメンバーのことを僕はよく知らないし……。それにここにいる女の人二人はどうやら霊体みたいだけどそんな人達まで作戦に参加させて大丈夫なのにゃん?。どうせならちゃんと肉体を持った人達を連れて行った方が僕はいいとは思うんだけどにゃん……」

 「まぁ〜っ!、この猫ちゃんったら言うに事を欠いてこの私の力を信用しないなんて失礼にも程があるわ〜っ!。ちょっとナギ君っ!」

 「は、はい……っ!」

 「私達の実力がいかほどのものかあなたの口からちゃんとこの猫ちゃんに説明してあげてぇ〜っ!。私が自分で言うのもなんだか悔しいし……。それにこれから共に戦う仲間の力を疑われて不快なのはあなただって一緒のはずでしょ〜っ!」

 「わ、分かりました……」


 自分の力を疑われてることに憤りを感じたハイレインに強い口調で促されたナギは、アットにハイレイン達が十分な実力を持っていることと、あのサニールの屋敷の住民、それもハイレインはそのサニールの妻でセイレインは娘であることを説明した。それを聞いてアットも二人が遺跡のダンジョン攻略のメンバーとなることに納得がいくと思われたのだが……。


 「にゃ……にゃにゃんっ!。そ、それじゃあ二人はあの最近新しくできた幽霊屋敷の住民だったのにゃんっ!っ!。い、いや……、霊体であることからなんとなくそのことは分かってたけどまさか奥さんと娘さんだったとはにゃん。幽霊屋敷と呼ばれてるとはあそこはかなり立派なお屋敷だしこれは随分なお偉いさんに失礼な口を聞いちゃったかもしれないにゃん……」

 「そうよ〜。私はあなた達猫魔族の長老さんとも親しいし〜、今度会う機会があったらあなたのとこの青い猫ちゃんが私と娘に対して失礼な口を聞いてたからよ〜く注意しておいてってお願いしちゃおっかなぁ〜」

 「ま、待ってくれにゃんっ!。さっきのはナギ達を心配するあまりつい口走っちゃっただけだにゃんっ!。自分の思い込みで勝手に今日会ったばかりのあんた達の実力を疑ったりして悪かったと思ってるのにゃんっ!。だからお爺にこのことをチクらないでくれよにゃぁ〜〜んっ!」

 「ええ〜、どうしようかなぁ〜」

 「そ、そんにゃぁ〜ん……」

 「ふふふっ、冗談よぉ〜。いくらなんでもこの程度のことでそこまで怒ったりはしないわ〜。急に畏まったあなたの態度が可愛かったからちょっと揶揄からかっただけ〜。毎度私達の屋敷に潜入してくるあなたのお仲間さん達には私達の方も毎回楽しい追い掛けっこをして遊ばせて貰ってるしねぇ〜」

 「お、追い掛けっこ……。ああ……そういえば僕の友達達もなんかあんたの屋敷の秘密を暴いてやるって息巻いてたにゃんね……。だけどその内の一人は毎回そこの住民である幽霊達に自分達が怯えて逃げ帰るまで散々追い回されて……、そのあまりの恐怖に耐え兼ねて他の仲間には悪いけど自分はもうその件から下ろさせて貰ったってこの前言ってたにゃん。その友達はあんた達のことをあれはもう只の幽霊じゃなくて完全な物の怪と化してるって随分と恐れおののいていたけど……、でももしそんなおっかない幽霊達がナギ達の味方になってくれてるんだとしたら反対にとても頼もしく感じるにゃん」

 「ふふっ、そうよぉ〜。物の怪だとかおっかないって言われるのは心外だけど、どうやら私達にナギ君達と一緒にパーティを組むのに相応しい実力があるってことも分かって貰えたみたいで良かったわぁ〜。だけど今の話に出たあなたのお友達さんには随分と恐い思いをさせちゃったみたいでなんだか申し訳なく感じるわ……。お遊びのつもりだったとはいえちょっと調子に乗って私達の方もあなたのお仲間さん達を脅かしすぎちゃったみたいね……」

 「にゃん……」

 

 どうやらアットの友達の猫魔族にもハイレイン達の屋敷の秘密を暴こうと毎回侵入を試みている者がいたようだ。今はもうハイレイン達の恐ろしさに断念してしまったようだが……。しかし仲間に知り合いがいると知って少しはアットもハイレインに対して親しみを感じ始めていたようであった。


 「だけど別に私達は屋敷に潜入してくるような真似をしたことを本気で怒ってるわけじゃないのよぉ〜。ただあなたのお仲間さん達の方も天井や壁裏に隠れたり、隠密や探査の魔法まで使って侵入して来てから私達の方もつい追いかけ回す演技に力が入っちゃって……。本当は唯一私達の屋敷を訪れてくれるお客さんだし一緒にお茶でも飲みながらお話してみたいと思ってるんだけどぉ〜……そうだわぁっ!」

 「にゃ……にゃんっ!」

 「できたら今度あなたの方からその私達の屋敷に侵入してくるお仲間さん達に一度玄関からちゃぁ〜んとお客さんとして私達の屋敷に訪ねてくるよう説得してみて貰えないかしらぁ〜。そしたら私達の方も今一緒にお茶を飲みながらって言ったように会食の場を用意したりしてきちんとしたおもてなしをできると思うんだけどぉ……。あっ、勿論あなた自身も一緒に来てくれていいからねぇ〜、アットちゃぁ〜ん」

 「えっ……確かにそれは嬉しい申し出だけど……元々皆玄関から訪ねた方が良いと分かった上でわざとあんた達との追い掛けっこを楽しむ為に侵入まがいの真似をしているようだったしにゃん……。それに屋敷の秘密とやらを暴くことにも執着しているみたいだったし……。もしかしたら今更そんな互いの仲を深めるような真似できないって皆断るかもしれないにゃん」

 「あら〜、それなら大丈夫よ〜。別に一回一緒にお茶したくらいで屋敷の秘密を暴く者とそれを守る者……、そのライバル関係が終わるわけじゃないし、ちゃんとしたお客さんとして招かれた後も望むならいくらでも私達の屋敷に潜入して来て構わないわ〜。その時は私達の方もこれまでと同じように本気であなた達のことを侵入者として追い払うけど……、それはあなたのお仲間さん達も望むところってことでしょ〜」

 「う〜ん……確かにそれなら皆も“うん”っと言ってくれるかもしれないけどにゃん……」

 「それに私達も早く自分達がヴァルハラ国の一員になったんだって自覚する為にも友人と呼べる人達を増やしていきたいの……。私達がヴァルハラ国に移住して来てまだ本の数か月しか経ってないとはいえ正式なお客様として屋敷を訪れてくれたのはナギ君とレイコちゃん達だけ……。さっきはあなたに大きな家の妻だって偉そうに振る舞っていたけど……、本当はずっとヴァルハラ国で私だけじゃなくて屋敷の皆まで浮いた存在のままにさせちゃったらどうしようって不安に感じてるの……。このままヴァルハラ国の一員として皆と打ち解けられないままじゃあヴァルハラ国に貢献できないどころか逆に私達の存在が発展の障害になってしまうかもしれないし……それじゃあ私達を快くヴァルハラ国やナギ君達にその恩を返すこともできないと思ったら本当に申し訳ないって思うととても心苦しくて……グスンッ……」

 「ハイレインさん……」


 少しはアットと打ち解けることができたと感じたハイレインはこれを気にアットや他の屋敷に侵入を試みに来ている猫魔族達を自身の屋敷へと正式な客人として迎えたいという提案をした。らしくない涙を流した表情まで浮かべていたがそれ程まで未だにヴァルハラ国で他の住民達との人間関係の構築が上手くいっていないことを気にしていたということなのだろうか……。

 

 「にゃん……そういうことなら僕に任せてくれにゃんっ!。今度ヴァルハラ国に帰ったら絶対皆をハイレインさんのうちに連れて行ってみせるからハイレインさん達は美味しいお菓子とお茶を用意して待っててくれにゃんっ!」

 「グスンッ……アットちゃん……」

 「それになんなら猫魔族以外で僕の普通の人間の友達も何人か連れて行ってもいいにゃんっ!。そしたらその人達をつてにどんどんと他の住民達とも交流の輪も広がるはずにゃんっ!。心配しなくても一度顔を合わせさえすれば皆もハイレインさん達への誤解に気付いてちゃんとヴァルハラ国の一員として認めてくれるはずにゃんっ!。だからもうそんなもうな顔しないで早くさっきまでのちょっと傲慢だけど愉快で優しいハイレインさんに戻ってくれにゃんっ!」

 「本当〜っ♪、ありがとうねぇ〜、アットちゃ〜んっ♪」

 「にゃんっ!、任せといてくれにゃんっ!」

 「(お母様……。まさかアットさんの善意を利用する為にわざとそのような演技を……)」

 「(自分の母に対してそんな疑惑の目を向けないの〜、セイレインちゃ〜ん。あなたの言いたいことは分かるけどこのまま幽霊として皆に疎まれたままじゃあ最悪ヴァルハラ国から追い出されるか……、良くても周りに誰も住んでいないような街から遠く疎外された地域へと追いやられることになるかもしれないわよ〜。そんなことになったら私達を救ってくれたナギ君や快くヴァルハラ国へと受け入れてくれたブリュンヒルデさんやレイコちゃん達にも申し訳ないしその恩に報いることもできなくなっちゃうでしょ〜。それにサニールの妻としてヴァルハラ国でのあなたも含めた屋敷の住民達皆の行く末の命運を担ってる私の重荷も少しは理解してぇぇ〜〜っ!)」

 

 どうやら涙を流してまでヴァルハラ国での友人が少ないことを嘆いていたのはアット達猫魔族に訪問の約束を取り付ける為のハイレインの演技だったらしい。だがそれもヴァルハラ国においての自分達の立場を少しでも良くし、自身だけでなく当主の妻として娘であるセイレインや屋敷の住民達の行く末を本気で案じてのことだろうが……。ハイレインの演技に気付いていた様子のセイレインも母親のそんな思いを察したのか皆の前でそのことを口に出すことはなかった。


 “ピポンッ♪”


 「あっ!、不仲さんからメッセージが送られてきたよ、皆。どうやらそろそろダンジョンの攻略を開始するから設置した拠点に集合してくれって」


 仲間の猫魔族達を連れて屋敷へと訪問するという約束を交わし、ハイレインとアットの会話が一区切りした頃突如として皆の元にメッセージの着信音と思われるとものが鳴り響き、それに反応したナギ逸早く端末パネルを開いてメッセージの内容を確認した。その内容はダンジョン攻略開始の為一度ナギ達が最初に訪れた拠点へと集合して欲しいとのことだったが、どうやら他の者達に送られて来たメッセージの内容も同様のものだったようで参加しているメンバー全員に向けて一斉に送信されたようだ。そしてそのメッセージを確認したナギ達は当然ダンジョン攻略に参加しているメンバーとしてアットに別れを告げた後急いで拠点に向けて移動を開始した。作戦開始前に何気なく見て回った向こう岸へと向かう為の船の停泊する港と建造中の橋であったが、ナギやナミ達はそれぞれダンジョンの攻略、更にはその後の行動の方針に向けての有意義な情報を得ることができたようだ。しかしその中でもナギ達がアットから聞かされた川底の遺跡に封印されているというネイションズ・モンスターの存在についての情報が最も気になるところではあるのだが……、果たしてナギ達はその情報を元に無事ダンジョンの攻略を達成することができのであろうか。




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